ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F |
---|---|
管理番号 | 1185751 |
審判番号 | 不服2006-3623 |
総通号数 | 107 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-11-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-02-28 |
確定日 | 2008-10-10 |
事件の表示 | 平成10年特許願第152309号「インキ呼び出し分割ロール」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月24日出願公開、特開平11-320840〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成10年5月15日に出願したものであって、平成18年1月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正(発明の詳細な説明の項のみを補正するものであり、特許請求の範囲についての補正はない。)がなされたものである。 2.本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年8月2日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のものと認める。 「非円形断面の軸桿(11)に外嵌し、その軸芯に直交する方向に摺動可能に支持されて珠子繋ぎ状に軸桿(11)に配列された複数個のブロック(12)のそれぞれに外嵌し、その軸桿(11)の軸芯の回りに可回転に支持された複数個の筒体(13)の周面によってロール(14)の周面が構成されており、その軸桿(11)の軸芯に直交する方向に各ブロック(12)を個々に駆動する複数個のブロック駆動装置が軸桿(11)に組み込まれており、嵌合する筒体の内周面とブロックの外周面との間には円筒状を成す隙間が形成されており、その円筒状隙間にベアリングが介在しており、そのベアリングを介して複数個の各筒体が各ブロックの外周面に沿って可回転に支持されているインキ呼び出し分割ロール(14)において、ブロック駆動装置が、各ブロック1個に対し2個1組となるシリンダー(15A・15B)と、それらの各組のシリンダーに圧力を伝達する電磁弁(19)によって構成されており、その各組2個のシリンダーのピストン(16A・16B)の出没方向が互いに逆向きになっていることを特徴とするインキ呼び出し分割ロール。」 3.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平6-71863号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 ア.【請求項1】互いに平行になるようにフレームに支持されたインキ元ローラとインキ練りローラとの間にこれらのローラの軸方向に分割された複数のインキ呼出しローラが軸方向に間隔をあけて配置され、各インキ呼出しローラがインキ元ローラおよびインキ練りローラとの接触状態が変わるようにこれらのローラの間の2つの位置に個別に切替えられるようになされている印刷機のインキ供給装置において、 フレームに固定された角柱状の支持部材に、複数の短円柱状の可動部材に形成された角状の穴の部分が支持部材の一方の幅方向に隙間を有するようにはめ合わされ、各可動部材の外側にそれぞれインキ呼出しローラが回転自在に取付けられ、各可動部材と支持部材との間の部分に、可動部材を支持部材の上記幅方向に移動させてインキ呼出しローラの位置を個別に切替える切替え装置が設けられていることを特徴とする印刷機のインキ供給装置。 イ.【0012】呼出しローラ(5) は、元ローラ(3) および練りローラ(4) と平行になるようにフレーム(6) に固定された支持部材(7) の周囲に可動部材(8) および玉軸受(9)を介して取付けられている。支持部材(7) は上下幅より前後幅の大きい角柱状をなし、その両端部がフレーム(6) に固定されている。可動部材(8) は短円柱状をなし、可動部材(8) の中心部にはこれを軸方向に貫通する角状の穴(10)が形成されている。また、穴(10)の上面には、可動部材(8) の全長にわたるみぞ(11)が形成されている。フレーム(6) に固定された1対の円板状の位置決め部材(12)の間に複数の可動部材(8) が軸方向に隙間なく並べられ、これらの可動部材(8) の穴(10)に支持部材(7) が通されている。可動部材(8) の穴(10)の上下幅は支持部材(7) の上下幅とほぼ等しく、穴(10)の上下両面が支持部材(7) の上下両面に摺接している。また、穴(10)の前後幅は支持部材(7) の前後幅より少し大きく、可動部材(8) は、穴(10)の後面が支持部材(7) の後面に接する前端位置と穴(10)の前面が支持部材(7) の前面に接する後端位置との間を前後方向に移動しうるようになっている。なお、可動部材(8) の端面は隣接する可動部材(8) の端面または位置決め部材(12)の端面と摺接しているだけであり、各可動部材(8) は個別に前後方向に移動しうる。各可動部材(8) の外周面に2個の軸受(9) の内輪が固定され、これらの軸受(9) の外輪に固定された金属製スリーブ(13)の周囲にゴム製厚肉円筒状の呼出しローラ(5) が固定されている。 ウ.【0013】各可動部材(8) と支持部材(7) の間の部分に、次のように、呼出しローラ(5)の切替え装置(14)が設けられている。すなわち、可動部材(8) の軸方向中央部に対応する支持部材(7) の部分に、後面から少し前方までのびたシリンダ部(15)と前面から少し後方までのびたがばね収容穴(16)が形成されている。シリンダ部(13)内に、ピストン(17)がOリング(18)を介して前後摺動自在に挿入されている。ばね収容穴(16)内に、付勢ピン(19)が前後摺動自在に挿入されるとともに、これを前向きに付勢する圧縮コイルばね(20)が挿入されている。支持部材(7) には軸方向にのびる給気穴(21)が形成され、この穴(21)の一端が図示しない圧縮空気源に接続されている。可動部材(8) のみぞ(11)に面している支持部材(7) の上面にソレノイド弁(22)が取付けられ、この弁(22)の2つのポートが支持部材(7) に形成された連通穴(23)(24)を介して給気穴(21)とシリンダ部(15)にそれぞれ連通させられている。また、弁(22)の電線(25)がみぞ(11)の部分を通して外部に引出され、制御回路(26)に接続されている。そして、弁(22)に通電された状態(オン状態)ではシリンダ部(15)が弁(22)を介して給気穴(21)に連通させられ、通電を停止した状態(オフ状態)ではシリンダ部(15)が弁(22)を介して大気と連通させられるようになっている。 エ.【0014】制御回路(26)で各切替え装置(14)の弁(22)の通電状態を切替えることにより、呼出しローラ(5) が元ローラ(3) に接触して練りローラ(4) から離れた第1位置と練りローラ(4) に接触して元ローラ(3) から離れた第2位置とに切替えられる。弁(22)がオフ状態に切替えられると、シリンダ部(15)が大気と連通させられるため、ピストン(17)はシリンダ部(15)内を自由に移動できる状態になる。このため、図3に実線で示すように、可動部材(8) はばね(20)とピン(19)によって前側に移動させられる。その結果、呼出しローラ(5) は第1位置に切替えられ、元ローラ(3) に圧接させられる。そして、呼出しローラ(5) は元ローラ(3) との摩擦力によって図3の矢印方向に回転させられる。弁(22)がオン状態に切替えられると、シリンダ部(15)が給気穴(21)と連通させられるため、シリンダ部(15)に圧縮空気が供給される。このため、図3に鎖線で示すように、ばね(20)の力に抗して、ピストン(17)が支持部材(7) から後方に突出し、これによって可動部材(8) が後側に移動させられる。その結果、呼出しローラ(5) は第2位置に切替えられ、練りローラ(4) に圧接させられる。そして、呼出しローラ(5) は練りローラ(4)との摩擦力によって図3の矢印方向に回転させられる。 オ.【0015】インキ壺(1) 内のインキは、調節板(2) との隙間を通って元ローラ(3) の表面に出る。このとき、元ローラ(3) と調節板(2) との隙間の大きさを調節することにより、元ローラ(3) の表面に出るインキの膜厚すなわちインキ量を調節することができる。元ローラ(3) の表面に出たインキは、呼出しローラ(5) が第1位置に切替えられている間に、その呼出しローラ(5) に移され、各呼出しローラ(5)に移されたインキは、呼出しローラ(5) が第2位置に切替えられている間に、練りローラ(4) に移される。そして、制御回路(26)で各呼出しローラ(5) ごとに第1位置と第2位置に切替えられている時間を制御することにより、印刷面に供給されるインキ量がその幅方向の位置によって調節される。 カ.【0018】インキ供給装置の各部の構成は、上記実施例のものに限らず、適宜変更可能である。上記実施例では、呼出しローラ(5) が元ローラ(3) に接触して練りローラ(4) から離れた位置と練りローラ(4) に接触して元ローラ(3) から離れた位置とに切替えられるようになっているが、この発明は、たとえば特開平2-301439号公報などに記載されているように、インキ呼出しローラがインキ練りローラに常に接触した状態でインキ元ローラに接触する位置とインキ元ローラから離れる位置とに切替えられるようになったインキ供給装置にも適用できる。 キ.【図2】、【図3】から、呼出しローラ(5)の内周面と可動部材(8)の外周面との間には円筒状を成す隙間が形成されており、その円筒状隙間に玉軸受(9)が介在していることが看取できる。 上記ウ.に「シリンダ部(15)」、「ピストン(17)」、「切替え装置(14)」、「ばね収容穴(16)」、「付勢ピン(19)」及び「圧縮コイルばね(20)」等の記載があり、それらを総称して「可動部材(8)の駆動装置」と称することができる。上記刊行物1は、印刷機のインキ供給装置に係るものであるが、支持部材(7) 、可動部材(8)、呼出しローラ(5)、玉軸受(9)及び可動部材(8)の駆動装置からなるインキ呼び出し装置を認識でき、呼出しローラ(5)がインキ呼び出し装置の最外部に面していることは明らかであるから、呼出しローラ(5)の周面によってインキ呼び出し装置の周面が構成されていると認められる。 よって、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。 「角柱状の支持部材(7)に外嵌し、その軸芯に直交する方向に摺動しうるように支持されて軸方向に隙間なく並べられ支持部材(7)に配列された複数個の可動部材(8)のそれぞれに外嵌し、その支持部材(7)の軸芯の回りに可回転に支持された複数個の呼出しローラ(5)の周面によってインキ呼び出し装置の周面が構成されており、その支持部材(7)の軸芯に直交する方向に各可動部材(8)を個々に駆動する複数個の可動部材(8)の駆動装置が支持部材(7)に組み込まれており、呼出しローラ(5)の内周面と可動部材(8)の外周面との間には円筒状を成す隙間が形成されており、その円筒状隙間に玉軸受(9)が介在しており、その玉軸受(9)を介して複数個の各呼出しローラ(5)が各可動部材(8)の外周面に沿って可回転に支持されているインキ呼び出し装置において、可動部材(8)の駆動装置が、各可動部材(8)に対し、シリンダ部(15)、シリンダ部(15)内のピストン(17)、支持部材(7)の上面のソレノイド弁(22)、ばね収容穴(16)、ばね収容穴(16)内の付勢ピン(19)及び圧縮コイルばね(20)によって構成されており、シリンダ部(15)内のピストン(17)の出没により可動部材(8)が軸芯に直交する方向に摺動するインキ呼び出し装置。」 4.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「支持部材(7)」、「軸方向に隙間なく並べられ支持部材(7)に配列された」、「可動部材(8)」、「呼出しローラ(5)」、「玉軸受(9)」、「インキ呼び出し装置」は、それぞれ本願発明の「軸桿(11)」、「珠子繋ぎ状に軸桿(11)に配列された」「ブロック(12)」、「筒体(13)」、「ベアリング」、「インキ呼び出し分割ロール(14)」に相当する。 刊行物1記載の発明の「角柱状」は、本願発明の「非円形断面」に包含される。 刊行物1記載の発明の「可動部材(8)の駆動装置」と、本願発明の「ブロック駆動装置」は、「ブロック駆動装置」を限度として一致し、刊行物1記載の発明の「各可動部材(8)に対し、シリンダ部(15)、シリンダ部(15)内のピストン(17)、支持部材(7)の上面のソレノイド弁(22)、ばね収容穴(16)、ばね収容穴(16)内の付勢ピン(19)及び圧縮コイルばね(20)によって構成されており、シリンダ部(15)内のピストン(17)の出没により可動部材(8)が軸芯に直交する方向に摺動する」ことと、本願発明の「各ブロック1個に対し2個1組となるシリンダー(15A・15B)と、それらの各組のシリンダーに圧力を伝達する電磁弁(19)によって構成されており、その各組2個のシリンダーのピストン(16A・16B)の出没方向が互いに逆向きになっている」ことは、いずれも「各ブロック1個に対し、シリンダーと、シリンダーに圧力を伝達する電磁弁を有し、シリンダーのピストンを出没させる」ことで共通する。 よって、両者は、 「非円形断面の軸桿に外嵌し、その軸芯に直交する方向に摺動可能に支持されて珠子繋ぎ状に軸桿に配列された複数個のブロックのそれぞれに外嵌し、その軸桿の軸芯の回りに可回転に支持された複数個の筒体の周面によってロールの周面が構成されており、その軸桿の軸芯に直交する方向に各ブロックを個々に駆動する複数個のブロック駆動装置が軸桿に組み込まれており、嵌合する筒体の内周面とブロックの外周面との間には円筒状を成す隙間が形成されており、その円筒状隙間にベアリングが介在しており、そのベアリングを介して複数個の各筒体が各ブロックの外周面に沿って可回転に支持されているインキ呼び出し分割ロールにおいて、ブロック駆動装置が、各ブロック1個に対し、シリンダーと、シリンダーに圧力を伝達する電磁弁を有し、シリンダーのピストンを出没させるインキ呼び出し分割ロール。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点]ブロック駆動装置に関し、本願発明は、「各ブロック1個に対し2個1組となるシリンダー(15A・15B)と、それらの各組のシリンダーに圧力を伝達する電磁弁(19)によって構成されており、その各組2個のシリンダーのピストン(16A・16B)の出没方向が互いに逆向きになっている」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明は、各可動部材(8)に対し、シリンダ部(15)、シリンダ部(15)内のピストン(17)、支持部材(7)の上面のソレノイド弁(22)、ばね収容穴(16)、ばね収容穴(16)内の付勢ピン(19)及び圧縮コイルばね(20)によって構成されており、シリンダ部(15)内のピストン(17)の出没により可動部材(8)が軸芯に直交する方向に摺動するもの、即ち、シリンダ部(15)内の圧力と圧縮コイルばね(20)の圧力を利用して駆動するものであって、本願発明のような特定がなされていない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 原査定の拒絶の理由に引用された特表平6-500829号公報(以下、「刊行物2」という。)には、固定中心主軸12(本願発明の「軸桿(11)」に相当。)に外嵌された中空の円筒形ロールシェル18(本願発明の「ブロック(12)」と「被移動体」で共通する。)に対し2個1組となる開口部(本願発明の「シリンダー(15A・15B)」に相当。)と、2個のシュー22、24(同「ピストン(16A・16B)」に相当。)からなり、開口部に圧力を伝達し、2個のシュー22、24の出没方向が互いに逆向きになっている駆動装置が記載されている。 一方、刊行物1のカ.には、「インキ供給装置の各部の構成は、上記実施例のものに限らず、適宜変更可能である。」と記載され、各部の構成が変更可能であることが示唆されている。また、インキ呼び出しロールの駆動において、バネを用いず、弁の切替によって2つの圧力室のいずれかに圧力を伝達し、正逆双方向に駆動することが周知技術(例えば、特開平1-165440号公報、特開昭60-139451号公報参照。)であるから、刊行物1記載の発明のシリンダ部(15)内の圧力と圧縮コイルばね(20)の圧力を利用した駆動装置に代え、刊行物2記載の駆動装置を採用し、上記相違点に係る本願発明のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 そして、本願発明の作用効果も、刊行物1、2記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 なお、請求人は、平成18年2月28日付け審判請求書で、ブロックの移動速度のバラツキの解消、ブロックの緩慢な移動の解消、ブロックの応答即応性と安定性の欠如の解消、インキの転送量の細かいコントロールとの本発明の課題と効果は、従来技術において公知でも自明でもない旨主張しているが、周知技術として例示した特開平1-165440号公報第2頁右下欄第3?10行に「インキ移しロールがインキ出しロールとインキ練りロールに接触する接触時間を制御して、印刷すべき色ごとの刷版絵柄面積率に基づき、紙質、インキ質テーブル内のデータを補正値として、インキ移しロールの揺動動作を制御することにより最適なインキの供給を行ない、印刷品質の向上を計ることにある。」と記載されているように、そもそもインキ移しロール(本願発明の「インキ呼び出し分割ロール」と「インキ呼び出しロール」で共通する。)は正確なインキ量を移すために正確に制御されることが要求されるものであり、したがって、請求人の主張する課題と効果は、インキ呼び出しロールの一種であるインキ呼び出し分割ロールが自ずと有している自明の課題と効果であるといわざるを得ない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-18 |
結審通知日 | 2008-07-29 |
審決日 | 2008-08-22 |
出願番号 | 特願平10-152309 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41F)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 一、小松 徹三 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
大仲 雅人 七字 ひろみ |
発明の名称 | インキ呼び出し分割ロール |
代理人 | 千葉 茂雄 |