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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1185753
審判番号 不服2006-13571  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-28 
確定日 2008-10-10 
事件の表示 特願2002-372682「肌分析方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日出願公開、特開2004-201797〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年12月24日の出願であって、平成18年5月24日付で拒絶査定がなされ(発送日:同年5月30日)、これに対し、同年6月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月28日付で手続補正がなされたものである。

II.平成18年7月28日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月28日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由1]
1.本件補正
本件補正は、平成18年4月24日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 問診による肌分析と、肌のレプリカによる肌分析と、角質内部情報分析と、メラニン情報分析と、肌色分析とからなる肌解析手法に基づいて顧客の肌の解析データを入手する肌解析過程と、この肌解析過程で得られた肌解析データをもとに顧客の肌の状態を複数のカテゴリーごとに複数の区分に分類する分類過程と、前記分類過程で得られた分類に従って顧客の肌の状態を診断する肌状態診断過程とを経て肌分析診断を行うことを特徴とする肌分析方法。」

「【請求項1】 問診による肌分析と、肌のレプリカによる肌分析と、角質内部情報分析と、メラニン情報分析と、肌色分析とからなる肌解析手法に基づいて顧客の肌の解析データを入手する肌解析過程と、この肌解析過程で得られた肌解析データをもとに顧客の肌の状態を複数のカテゴリーごとに複数の区分に分類する分類過程と、前記分類過程で得られた分類に従って顧客の肌の状態を診断する肌状態診断過程とを経て肌分析診断を行い、
前記分類過程は、樹状分類区分に基づいて肌の状態を判断し、
肌にトラブルがない場合には、肌のキメの有無、キメの大きさ、肌のハリの有無、毛穴が目立つか否か、キメが一定方向に流れているか否かを判断して複数の段階に分類し、
肌にトラブルがある場合には、吹き出物・ニキビ・ソバカス・シミ・シワの有無及び活性力があるか否か、キメの幅、肌の乾燥度、荒れ肌か否か、角化が正常か異常かを判断して複数の段階に分類することを特徴とする肌分析方法。」(下線は補正箇所を示す。)
とする補正を含むものである。

2.新規事項の有無
(1) 補正後の請求項1に記載された「分類過程」という発明特定事項は、前提として、「問診による肌分析と、肌のレプリカによる肌分析と、角質内部情報分析と、メラニン情報分析と、肌色分析とからなる肌解析手法に基づいて顧客の肌の解析データを入手する肌解析過程」で得られた「肌解析データをもとに顧客の肌の状態を複数のカテゴリーごとに複数の区分に分類する」ものであり、「樹状分類区分に基づいて肌の状態を判断し、
肌にトラブルがない場合には、肌のキメの有無、キメの大きさ、肌のハリの有無、毛穴が目立つか否か、キメが一定方向に流れているか否かを判断して複数の段階に分類し、
肌にトラブルがある場合には、吹き出物・ニキビ・ソバカス・シミ・シワの有無及び活性力があるか否か、キメの幅、肌の乾燥度、荒れ肌か否か、角化が正常か異常かを判断して複数の段階に分類する」分類過程は、肌解析手法の内、肌のレプリカによる肌分析だけでなく、問診による肌分析と、角質内部情報分析と、メラニン情報分析と、肌色分析の肌解析手法に基づいて入手された顧客の肌の解析データをもとにしたものも含むものとなっている。

それに対して出願当初の明細書には、樹状分類区分について、「【0011】前記分類過程は、肌の状態、肌質、肌のキメ、肌のタルミ、毛穴、溝の流れ方向、トラブルの有無、健康状態、現在の化粧品の使用状況などのカテゴリーに基づく樹状分類区分によることを特徴とする。」、「【0031】また、本発明の請求項7の発明では、分類過程を、肌の状態、肌質、肌のキメ、肌のタルミ、毛穴、溝の流れ方向、トラブルの有無、健康状態、現在の化粧品の使用状況などのカテゴリーに基づいて樹状分類区分によって行うことを特徴とする。
これにより、カテゴリーに基づいた肌の分類を比較的短時間に容易に実行することができる。」と記載されている。
そして上記「分類過程」のさらなる限定事項である「肌にトラブルがない場合には、肌のキメの有無、キメの大きさ、肌のハリの有無、毛穴が目立つか否か、キメが一定方向に流れているか否かを判断して複数の段階に分類し、肌にトラブルがある場合には、吹き出物・ニキビ・ソバカス・シミ・シワの有無及び活性力があるか否か、キメの幅、肌の乾燥度、荒れ肌か否か、角化が正常か異常かを判断して複数の段階に分類する」ことに関しては、出願当初の明細書又は図面には、図9、10(平成15年2月5日付手続補正書で図面番号が補正)に「レプリカの判断基準」として、樹状分類的に示されており、図9、10に関する説明は、「【0017】
次に、肌解析手法の他の一つである印象剤によるレプリカ判定について説明する。ここでいう印象剤は肌の形を写し取る素材である。
この方法は、肌にシリコンラバーからなる印象剤を例えば頬の皮膚の上に張り付けて肌の表面の細い凹凸を写し取ってレプリカとし、このレプリカ上の凹凸の分布を観測して肌のキメの大きさ、キメの摩耗の度合い、肌の張り、毛穴の大きさ、肌の流れ(方向性)などのカテゴリー別に複数の段階に分類する。
さらにこれに加えて、吹き出物、しみ、しわ、乾燥、荒れ肌、角質の異常などの観点を含めて分類する。図9、図10に、レプリカの判断基準となる分類樹の一例を示す。この分類樹では、肌を71の小区分に分類する。」、「【0019】
画像処理で得られる数値データは
1、キメのピークの数
2、キメの粒子計測による数
・・・
16、明るい粒子の明るさの平均(粒子計測)
などである。
これらにより、例えばキメがあるかどうかの判定は「2.キメの粒子計測による数」で試料中に30以上あればキメがあると判定する。・・・
さらにこのコンピュータによる分析に加えて、目視による分析を加味して最終的な結論を出すようにする。この分類樹で図10のトラブル肌の部分が主として目視による分類部分である。これらの区分から、肌の基本的な特性や現在の健康状態、肌の疾患などが判定できる。」と記載されているのみであり、上記「分類過程」のさらなら限定事項については、肌解析手法の内、レプリカによる肌分析とトラブル肌の場合の目視による分析のみについて記載されており、問診による肌分析と、角質内部情報分析と、メラニン情報分析と、肌色分析いずれに関しても記載されていない。
さらに、肌解析手法の内、肌のレプリカによる肌分析以外の、問診による肌分析(図2?図7、【0015】?【0016】)と、角質内部情報分析(図12、【0020】)と、メラニン情報分析(図13、【0021】)と、肌色分析(【0022】)については、肌のレプリカによる肌分析と異なる分類がそれぞれ例示されているのであるから、肌解析手法の内、肌のレプリカによる肌分析以外の、問診による肌分析と、角質内部情報分析と、メラニン情報分析と、肌色分析についての、上記分類過程のさらなる限定事項が出願当初の明細書又は図面の記載から当業者にとって自明な事項ともいえない。

(2)補正後の請求項1に記載された上記「分類過程」のさらなる限定事項である「肌にトラブルがある場合には、吹き出物・ニキビ・ソバカス・シミ・シワの有無及び活性力があるか否かを判断して複数の段階に分類する」との記載は、吹き出物、ニキビ、ソバカス、シミ、シワが「・」で結ばれ同列に扱われており、それらの「有無及び活性力があるか否かを判断して」と記載されている。
しかし、請求人が補正の根拠とする図10(平成15年2月5日付手続補正書で図面番号が補正)には「レプリカの判断基準」が、樹状分類的に示されており、「ソバカス、シミ、シワ」については「活性力のある」、「活性力のない」との樹状的分類が記載されているが、「吹き出物、ニキビ」については「活性力のある」、「活性力のない」との樹状的分類は記載されていないし、吹き出物、ニキビについて、活性力のある・なしで分類することが出願当初の明細書又は図面の記載から当業者にとって自明な事項ともいえない。

3.むすび
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、平成18年改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由2]
1.補正後の本願発明
仮に、本件補正が新規事項を追加するものでないとした場合、本件補正は、請求項1に係る発明の「分類過程」について限定を付加するものであり、当該補正事項は平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

2.引用例記載の発明
ア.原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された特開2000-212037号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明はこの様な状況下為されたものであり、適切な化粧料を客観的且つ容易に選択する方法を提供することを課題とする。」
(2)「【0007】【課題の解決手段】本発明者らは、この様な状況に鑑みて、適切な化粧料を客観的且つ容易に選択する方法を求め、鋭意研究努力を重ねた結果、肌の色の不均一と皮膚形態とを指標にすることにより、この様な選択が為しうることを見出し、発明を完成させるに至った。以下、本発明について、実施の形態を中心に詳細に説明を加える。」
(3)「【0008】【発明の実施の形態】<1>本発明の選択法の指標である肌の色の不均一
本発明の選択法は、肌の色の不均一を指標とすることを特徴とする。肌の色の不均一は種々の捉え方があるが、本発明ではどの様な捉え方であっても肌の不均一を表すものであれば特段の限定なく使用することが出来るが、好ましいものとしては、ミクロ的な尺度に於けるメラニンの存在状態、マクロ的な尺度に於ける顔の色ムラなどが例示できる。これらは単独で指標とすることもできるが、好ましいのはミクローマクロを相補的に換算して指標とすることである。・・・」
【0009】(1)メラニンの角層に於ける存在状態
メラニンは表皮組織に存在する色素であるが、その存在形態は様々に異なっている。この種々の存在形態を有するメラニンの比較には、例えば、次のような基準をもって行うと、かなり生態学的に適合した分類が出来るので好ましい。即ち、メラニンの存在状態を分類するに際して、角質細胞に於けるその存在量と、存在のバラツキを指標とした不均一性の2軸を用いることである。この様なメラニンの存在状態の鑑別は手技的には既に多くの方法が知られており、それらを用いればよい。しかしながら、最も好ましい方法は、本発明者らが考案した、粘着ディスクに角質細胞を採取し、これを透明粘着テープ上に転写し、これを硝酸銀とゲンチアナバイオレットで染色する方法である。即ち、採集された標本は、0.5%の硝酸銀水溶液にアンモニア水を滴下しpHを10に調整した銀染色液を用い、45℃10分間処理し銀染色した後、3回水洗し0.15%ゲンチアナバイオレット液で10分処理した。この標本を水洗、乾燥させ、透明シリコーン剤を染色済みの部分を覆うように流し込みカバーグラスをのせてサンプルとし、顕微鏡観察する方法である。この様に測定された、メラニンの存在量とその存在の不均一性は、メラニンの存在状態の観察印象にともに大きな影響を有しており、その関係は独立している。即ち、メラニンの存在量が多く不均一性も大きいほど肌は、美しい肌から離れ、美白物質による多重の美白メカニズムを働かせることが必要になり、逆に、メラニンの存在量も少なく、不均一性が少ないほど美しい肌になり、美白化粧料による美白作用それほど必要でなくなる。つまり、メラニンの状態について、角層に於けるメラニンの存在量と不均一性を箱形モデルを用いて一軸化することにより、指標とすることが出来る。これを用いるのが判定が行いやすい為非常に好適であるが、他の方法によってメラニンの存在状態を一軸化し、指標とすることも本発明の技術範囲に属する。前記箱形モデル軸の一例を図1に示す。この例よりわかるように、この軸でメラニンの存在状態は明白に鑑別できる。
【0010】(2)色ムラ
本発明の化粧料の選択法では、上記メラニンの存在状態以外に肌の色ムラの程度を指標とすることができる。肌の色ムラもメラニンの存在状態の悪さと同様に、メラニンの産生異常を原因として起こるものであり、美白化粧料など化粧料によって補正されるべき肌トラブルであり、この両者が改善されて始めて本当に美しい白い肌の基礎となりうる。これらメラニンの存在状態と色ムラとは互いに独立の関係であり、これら単独でもそれぞれ適切な美白作用に対する因子となっている。これら両者を組み合わせることにより更に適切な美白化粧料の選択が為しうる。これは角層のメラニンは主としてミクロ的なものであり、バックグランド的な要素があるのに対して、色ムラはよりマクロ的なものである為、その適切な美白作用発揮への寄与は大きい。これを後記実施例に示す如く、テストにより多変量解析してみると、その加重比はメラニンの存在状態0.2?0.4に対して、色ムラ0.6?0.8となる。この加重を用いて、適切な美白作用に対する軸を設定すれば、優れた美白化粧料の選択基準となる。ここで、色ムラの評価であるが、その評価法としては、顔の様子を画像としてコンピューターに取り込み、二値化等の処理を加え、その分布を求めたり、コンピューターモーフィングの手法を用い、色ムラの標準顔をいくつか作成し、この標準顔と照らし合わせて、その程度を鑑別したりすることにより、数値として表すことが出来る。この数値は、肉眼による標準顔との比較によって算出されるものであっても、その再現性は極めて良好で、客観的な数値として使用することが出来る。この様な色ムラの標準顔の例を図2に示す。この標準顔を用いて、観察者3名で、無作為に選出したパネラー3名の顔の色ムラを判定した結果を、次の表1に示す。これより、この様な鑑別手段であっても再現性が高いことがわかる。従って、簡便性を考えると、この様な方法で色ムラを鑑別し、指標として用いることが好ましい。」
(4)「【0015】<2>本発明の選択法の指標である皮膚形態
本発明の化粧料の選択法では、皮膚形態を指標とする。皮膚形態を表すものとしては、ミクロ的な肌の肌理の乱れやマクロ的なシワの形成状態が例示でき、これらを単独で使用しても、又、組み合わせて使用しても良い。好ましいものは、ミクロ的な肌の肌理を波動関数として捉えた指標を使用することである。この様な指標は将来来るべきシワ形成を予測する値であり、予防的な措置が高じられる点で指標として含むことが好ましい。しかも、この値はレプリカより測定できるため、私感を含まずに皮膚形態を評価できる利点を有する。勿論、ミクローマクロを組み合わせて指標として使用することもでき、この様にすることによりより正確な判定ができる。総合的な指標としては、マクロ0.2?0.3に対してミクロ0.3?0.6の加重比で総合的に換算するのが好ましい。以下、皮膚形態の指標について実施の形態を説明する。」
(5)「【0016】1)シワ形成可能性の鑑別法
本発明の指標であるシワ形成可能性の鑑別法は、顔の皮膚の肌理の乱れを指標とすることを特徴とする。ここで、肌の肌理の乱れは、肉眼で大雑把に観察・判定することもできるが、より正確にはレプリカ標本や、実態顕微鏡或いはマイクロビデオ画像として画像処理装置などに取り込み、5?20倍の倍率で拡大して、標準の皮膚などと比較して判定するのが好ましい。これらの手段の中では、手軽に大がかりな機器を使わずに標本が作製できる点で、レプリカを使用するのが好ましい。・・・この用にして得られたレプリカ標本は、顕微鏡などで観察することにより、その元の皮膚の肌理を知ることが出来る。肌理の鑑別は、一様に縦横溝が分布している状態が、肌理の良い状態であり、一方向に深い溝が出来るのが肌理の悪い状態と鑑別される。この観点に立って鑑別を行えば、正確に、そして簡便に、容易にシワ形成可能性を鑑別することが出来る。この様な肌理の良し悪しを予め標準の標本を作成し、数値として判定することにより、連続的な数値へと変換することが出来る。ビデオ画像や実態顕微鏡観察に於いても同様に処置すればよい。かくして鑑別された、皮膚の肌理の乱れ具合は、後記実施例に示す如く、将来のシワ形成と深くかかわっており、適切な処置を行わなければ、この乱れはシワ形成へと移行する。この様な、シワ形成可能性は、皮膚の肌理に従って1(非常に肌理が乱れておりシワ形成可能性が高い)?5(非常に肌理が整っており、シワ形成可能性が低い)の5段階に分けるのが便宜上好ましい。この値を仮にハリ順調値という。」
(6)「【0017】(2)シワの形成状態の鑑別法
本発明の選択法の指標となる、皮膚形態を表す因子の一つであるシワの形成状態は、顔をマクロに観察することにより得られる。このシワの形成状態も、モーフィングにより、標準シワモデルを作成し、これと比較することにより、より客観的にその程度を観察・判定できる。この基準となる標準シワモデルの例を図4に示す。特にこの様な鑑別を行う位置としては、目尻について行うのが正確で好ましい。この値を仮に目尻順調値という。」
(7)「【0018】(3)皮膚形態に対する化粧料の選択法
皮膚形態に対する化粧料の選択法は、シワ形成過程を正確に鑑別し、そのステージに合った化粧料を選択し、シワの形成を改善し、防ぐものである。このシワの指標としては、下記に示す統計処理例2に示す如く、美肌値とこれらの値の関係は、(美肌値)=0.448×(ハリ順調値)+0.254×(目尻順調値)+1.124の式に重回帰係数0.832で回帰する。即ち、この式にハリ順調値と目尻順調値を代入して得られた値が、皮膚形態の代表値となる。上記シワ形成可能性の低いステージに於いてはヘパリン類似物質などの保湿成分の投与などの処置を行い、ステージがあがるに従って、保湿成分のみならず、ビタミンA酸類、フィトステサイド、フィトステロール、スフィンゴシンやステロイド等のターンオーバー促進成分、αーヒドロキシ酸等の角層脱離促進剤、バクガンコンエキス等のコラーゲン合成促進剤、ローズマリーエキスやウルソール酸誘導体などのコラーゲン線維束再構築剤等を投与し、処置しシワの改善や予防を行うことを特徴とする。上記シワ形成可能性の5段階に対する標準的な化粧料としては、例えば、次の表3に示すものが例示できる。」
(8)【表3】には、シワ形成可能性が1?5のステージに分類されている。
(9)【図4】には、シワ形成過程が1?3のステージに分類されている。
(10)【図2】には、色ムラが、1?3の状態に分類されている。
これらの記載によれば、引用例2には、
「肌のレプリカ標本を観察して、予め作成した標本と比較して、肌理の良い状態と悪い状態を判定してシワ形成可能性を複数のステージに分類し、さらに顔をマクロに観察して、予め作成した標準モデルと比較してシワ形成状態を複数のステージに分類し、これらの分類に基づいて皮膚形態の指標を求めること、及び、メラニンの角層に於ける存在状態を測定し、さらに顔のマクロ的な色ムラを標準顔と比較して複数の状態に分類し、これらの分類に基づいて肌の色の不均一の指標を求めることにより、肌を鑑別する方法。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

イ.原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された特開2002-102177号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)「【請求項1】 肌の水分量、皮脂量、弾力性、色調、血行状態又はメラニン色素沈着状態を測定する測定プローブ、問診、観察又は肌の触診の結果を入力する入力手段、測定プローブからの測定信号又は問診、観察もしくは触診の入力結果に基づいて肌状態の評価指数を算出する演算手段、肌の拡大画像を撮像するデジタルマイクロカメラ、及び前記評価指数及び拡大画像を表示するディスプレイを備えた肌状態測定装置であって、肌状態の評価指数として、(i)肌の潤いに影響する因子であって、セラミド産生量、表面セラミド存在量、ケラチンの状態度、及び表面水分量から選択される少なくとも3つの因子、(ii)肌のはりに影響する因子であって、表面水分量、内因性肌弾力、外因性肌弾力、及び肌のUVダメージレベルから選択される少なくとも3つの因子、(iii)肌の明るさに影響する因子であって、肌のUVダメージレベル、メラニン存在量、血色度、及び肌の代謝活度から選択される少なくとも3つの因子、(iv)皮脂状態に影響する因子であって、額部の皮脂量、頬部の皮脂量、額部の皮脂過剰度、頬部の皮脂過剰度から選択される少なくとも2つの因子が算出され、これらの因子を含むグラフを表示可能である肌状態測定装置。」
(2)「【0010】ここで、第1の測定プローブ2としては、例えば、(A)皮膚に接触させた電極間の電気伝導度を測定することにより皮膚の水分含量を求めるための電極と、(B)皮膚から転写させた皮脂の赤外線吸収スペクトルにより皮脂量を測定するための皮膚サンプリング板と、(C)振動子に設けた接触子の皮膚への接触時と非接触時との周波数変化から皮膚の弾力性を求めるための接触子、振動子、振動検出素子からなるプローブを設ける。」
(3)「【0013】一方、キーボード4又は他の端末機から入力される問診結果に係る事項としては、乾燥意識指数、こじわ又ははりの意識指数、シミ又はソバカスの意識指数、UV環境の意識指数、くすみ又はくまの意識指数、皮膚のトラブル指数等をあげることができ、観察もしくは触診結果に係る事項としては、皮脂のトラブル指数、かさつきの触診指数、肌弾力の触診指数等をあげることができる。」
(4)「【0021】ケラチンの状態度(KA)は、乾燥による角質細胞内のケラチン線維の凝集を抑制し、保水機能を向上させ、肌に柔軟性と透明性を付与する機能の指標である。ケラチンの状態度(KA)は、第1の測定プローブ2から得られる、角質層深部の水分量の推定値(WB)と角質層表層部の水分量の推定値(WS)との差の関数f(WB-WS)として得ることができる。」
これらの記載によれば、引用例1には、
「皮膚のトラブル指数等の問診結果や、測定プローブの結果等を入力し、角質層深部の水分量の推定値と角質層表層部の水分量との差の関数としてのケラチンの状態度等の肌状態の評価指数を算出する肌状態測定装置。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

ウ.原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された特開2000-201899号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の記載がある。
「【請求項1】(1)1-1.肌の水分量の測定値、
1-2.肌の水分蒸散量の測定値又は肌の水分の存在状態に関する測定値、
1-3.肌の表面観察による肌荒れ又はきめに関する解析値、
1-4.肌のうるおい、かさつき、つっぱり又は肌荒れに関する意識スコア、
又は
1-5.肌への物質浸透量に関する測定値
から算出される、角質層又は表皮に関する状態指数、
(2)2-1.肌の脂質存在量又は脂質分泌量の測定値、
2-2.肌の脂質種別の存在比率
2-3.肌の毛穴又はニキビの大きさに関する解析値、又は
2-4.脂っぽさ、べたつき、ニキビ又は吹き出物に関する意識スコア
から算出される、毛穴又は皮脂腺に関する状態指数、
(3)3-1.肌の色調の測定値
3-2.肌のメラニン強度の測定値
3-3.色ムラ、シミ又はソバカスに関する画像解析値、又は
3-4.シミ、ソバカス、クスミ又はクマに関する意識スコア
から算出される、肌色又はメラニンに関する状態指数、及び
(4)4-1.肌の弾力性の測定値
4-2.肌のたるみ係数の測定値
4-3.肌のしわ又はたるみに関する画像解析値、又は
4-4.しわ、はり又はたるみに関する意識スコア
から算出される、真皮又は老化に関する状態指数、の4つの状態指数から選ばれる2つ以上の状態指数を変数として肌状態をグラフ化することを特徴とする肌状態の表示方法。」

3.対比
本願補正発明と、引用発明2とを対比する。
引用発明2の(a)「肌のレプリカ標本を観察」、(b)「メラニンの角層に於ける存在状態を測定」、(c)「顔のマクロ的な色ムラ」、(d)「肌理」、「シワ」、「メラニンの角層に於ける存在状態」、及び「色ムラ」、(e)「複数のステージ」及び「複数の状態」は、それぞれ、本願補正発明の (a)「肌のレプリカによる肌分析」、(b)「メラニン情報分析」、(c)「肌色分析」、(d)肌の状態の「複数のカテゴリー」、(e)「複数の区分」に相当することが明らかである。

そして、引用発明2の「肌のレプリカ標本を観察して、予め作成した標本と比較して、肌理の良い状態と悪い状態を判定してシワ形成可能性を複数のステージに分類し、さらに顔をマクロに観察して、予め作成した標準モデルと比較してシワ形成状態を複数のステージに分類」する過程、及び「メラニンの角層に於ける存在状態を測定し、さらに顔のマクロ的な色ムラを標準顔と比較して複数の状態に分類」する過程と、本願補正発明の分類過程とは、肌のレプリカによる肌分析と、メラニン情報分析と、肌色分析とを含む肌解析手法に基づいて顧客の肌の解析データを入手する肌解析過程と、この肌解析過程で得られた肌解析データをもとに顧客の肌の状態を複数のカテゴリーごとに複数の区分に分類する分類過程である点で共通している。
また、引用発明2と本願補正発明は、肌の状態の分類に基づいて、肌の状態を判断する肌分析方法である点で共通している。
よって両者は、

(一致点)
「肌のレプリカによる肌分析と、メラニン情報分析と、肌色分析とを含む肌解析手法に基づいて顧客の肌の解析データを入手する肌解析過程と、この肌解析過程で得られた肌解析データをもとに顧客の肌の状態を複数のカテゴリーごとに複数の区分に分類する分類過程と、前記分類過程で得られた分類に従って顧客の肌の状態を判断する肌分析方法。」
の点で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
肌解析手法として、本願補正発明では、問診による肌分析、角質内部情報分析を有するのに対して、引用発明2ではこれらを有さない点、
(相違点2)
分類過程で得られた分類に従って顧客の肌分析診断を行うにあたり、本願補正発明では、肌の状態を診断する肌状態診断過程を経ているのに対して、引用発明2では、肌の状態を鑑別しているものの肌の状態を診断する肌状態診断過程を経るとはしていない点。
(相違点3)
分類過程について、本願補正発明では、樹状分類区分に基づいて肌の状態を判断し、
肌にトラブルがない場合には、肌のキメの有無、キメの大きさ、肌のハリの有無、毛穴が目立つか否か、キメが一定方向に流れているか否かを判断して複数の段階に分類し、
肌にトラブルがある場合には、吹き出物・ニキビ・ソバカス・シミ・シワの有無及び活性力があるか否か、キメの幅、肌の乾燥度、荒れ肌か否か、角化が正常か異常かを判断して複数の段階に分類するのに対して、引用発明2では、肌解析手法ごとに複数の段階に分類するもののこのように分類するものではない点。

4.判断
(1)相違点1について
引用発明1に記載されているように、皮膚のトラブル指数等の問診結果を入力することは、本願補正発明の問診による肌分析に相当し、また、同じく引用発明1に記載されている、角質層深部の水分量の推定値と角質層表層部の水分量の推定値との差の関数としてのケラチンの状態度は、角質層の内部に関する情報の推定に関するから本願補正発明の角質内部情報分析に相当する。
一般に、採用する解析手段は、目的に応じて適宜選択されるものであり、同じ目的のための解析手段は、解析結果を総合する場合には、利用する解析手法を増やした方が、より適切な結果が導けることは、解析技術において周知の技術事項であり、引用発明1は、引用発明2と同じ、肌状態の測定に関する発明であるから、引用発明2の肌解析手法において、引用発明1に記載されている問診による肌分析、角質内部情報分析を付加することは、当業者が容易に想到するものといえる。
(2)相違点2について
引用発明2は、顧客の肌状態を分析し鑑別しているから、実質的に肌状態を診断することと変わりがないので、肌の状態を診断する肌状態診断過程を経ているか、否かは、実質的な相違点ではない。
(3)相違点3について
一般に、多数の項目を分類する場合、樹状分類を用いて階層的に分類を行うことは、本願出願前の周知慣用手段であるから、肌状態の分析に適用することに何ら困難性はない。
そして、肌トラブルの有無を判定することは、例えば、引用例3にも記載されているとおり、肌診断では普通に行われることであるし、肌トラブルとして、吹き出物・ニキビ・ソバカス・シミ・シワの有無とその状態、キメの状態、肌の乾燥度、荒れ肌の状態、角化の状態の各項目は、例えば、引用例3にも記載されているとおり、肌診断で通常採用されるものである。また、肌のキメの有無、大きさ、流れ、肌のハリの有無、毛穴の目立ち具合の各項目も、引用例2、引用例3にも記載されるとおり、肌診断では通常採用されるものである。
そうすると、引用発明2において規定するキメやシワの分類に加え、肌トラブルの有無の判定及び上記各項目を追加して肌状態を分析することは、当業者が容易になし得たものといえる。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明1、2、引用例3記載の発明、および上記周知技術から当業者であれば予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1?3に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


III.本願発明について
1.本願発明
平成18年7月28日付の手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年4月24日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】 問診による肌分析と、肌のレプリカによる肌分析と、角質内部情報分析と、メラニン情報分析と、肌色分析とからなる肌解析手法に基づいて顧客の肌の解析データを入手する肌解析過程と、この肌解析過程で得られた肌解析データをもとに顧客の肌の状態を複数のカテゴリーごとに複数の区分に分類する分類過程と、前記分類過程で得られた分類に従って顧客の肌の状態を診断する肌状態診断過程とを経て肌分析診断を行うことを特徴とする肌分析方法。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「II.[理由2]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「II.[理由2]」で検討した本願補正発明から「分類過程」の限定事項である「前記分類過程は、樹状分類区分に基づいて肌の状態を判断し、
肌にトラブルがない場合には、肌のキメの有無、キメの大きさ、肌のハリの有無、毛穴が目立つか否か、キメが一定方向に流れているか否かを判断して複数の段階に分類し、
肌にトラブルがある場合には、吹き出物・ニキビ・ソバカス・シミ・シワの有無及び活性力があるか否か、キメの幅、肌の乾燥度、荒れ肌か否か、角化が正常か異常かを判断して複数の段階に分類する」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「II.[理由2]4.」に記載したとおり、引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2乃至8に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-05 
結審通知日 2008-08-12 
審決日 2008-08-27 
出願番号 特願2002-372682(P2002-372682)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本郷 徹  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 信田 昌男
門田 宏
発明の名称 肌分析方法  
代理人 橘 哲男  

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