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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20061033 審決 特許
不服20057335 審決 特許
不服200517013 審決 特許
不服200524083 審決 特許
不服200013562 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1185900
審判番号 不服2004-15404  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-23 
確定日 2008-07-16 
事件の表示 特願2000-577317「炎症性サイトカインのシグナル伝達を阻害する化合物をスクリーニングする方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月27日国際公開、WO00/23610〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年10月21日(優先権主張1998年10月21日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成16年6月17日付で拒絶査定がなされ、平成16年7月23日にこれを不服とする審判請求がなされるとともに、同年8月20日付で願書に添付した明細書について一部の請求項を削除する手続補正がなされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項13(補正前の請求項16)に係る発明は、平成16年8月20日付手続補正書の請求項13に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項13】炎症性サイトカインの産生を阻害する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)TAK1、TAB1及び被験試料を接触させる工程、
(b)TAK1によるリン酸化反応を検出する工程、および
(c)TAK1によるリン酸化反応を阻害する化合物を選択する工程、を含む方法。」
第3 引用例に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された「平成9年度 がん研究に係る重点領域研究(がん重点)研究報告集録,平成10年3月31日,編集・発行 文部省 がん研究に係る重点領域研究 総合がん 総括班,p.720-723」(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「昨年度、我々はTGF-βにより活性化されるTAK1キナーゼと、その活性化因子TAB1を分離し、TAB1/TAK1がTGF-βシグナル伝達経路を制御することを明らかにした。今年度は、TAB1とTGF-β受容体の間で作用する因子として、IAP3(inhibitor of apoptosis protein)を同定した。他のIAPが、TRAF2と相互作用することから、TAB1/TAK1とTRAFファミリーとの関係を解析した結果、TAB1/TAK1がTRAF2、TRAF6と結合し、NIK-IKKカスケードの上流で、NFκBの活性化に関与することが明らかとなった。このようにTAB1/TAK1は、IAP3、TRAF2、TRAF6などのアダプター蛋白質と相互作用することにより、それぞれTGF-β、TNF、IL-1のシグナル伝達経路を制御しているものと考えられる。」(第720頁「A.要約」の項 第3?17行)
(1-2)「TAB1は504アミノ酸からなるが、C末端の68アミノ酸のみでTAK1の結合及び活性化に十分である。・・・TAB1のC末端側TAK1との結合領域を欠失したTAB1(1-418)を多量発現させると、TGF-β刺激によるPAI-Iの発現誘導が抑制された。また、TAB1(1-418)は、TGF-β刺激によるTAK1キナーゼの活性化も阻害した。従って、TAB1(1-418)はTGF-βによるシグナル伝達系でDominant negativeに働き、TAB1のN末端側は制御領域として機能していると考えられる。」(第720頁「D.方法と結果」の項 第13?24行)
(1-3)「TAB1/TAK1はIL-1シグナル伝達系において、NIK-IKKカスケードの上流で機能する:・・・TRAF6は、IL-1によるNFκBの活性化に関与することが知られている。そこで、TAB1/TAK1がNFκBの活性化に関与するか検討した。TAK1、TAB1をそれぞれ単独で発現させた場合、特にNFκBの活性化は起こらなかった。しかし、TAK1とTAB1を同時に発現させた場合は、NFκBが活性化されることが明らかになった。」(第721頁左欄第28行?右欄第1行)
(1-4)「TRAF6によるNFκBの活性化は、NIK-IKKキナーゼカスケードにより制御されている。TAB1/TAK1とNIK-IKKキナーゼカスケードとの関係を知る目的で、NIK-kinase negative、IKK-α-kinase negativeを同時に発現させ、TAB1/TAK1によるNFκBの活性化に対する効果について検討した。その結果、TAB1/TAK1によるNFκBの活性化は、NIK-kinase negative、IKK-α-kinase negativeにより抑制された。以上の結果から、TAB1/TAK1はNIK-IKKキナーゼカスケードの上流で機能するものと考えられる。
TAK1がNIK-IKKカスケードの上流で機能するのであれば、TAK1はNIKをリン酸化していることが予想される。この可能性について検討を行った。・・・また、IL-1刺激によるNIKのリン酸化が、TAK1-kinase negativeによりブロックされた。以上の結果から、NIKはTAK1を介したリン酸化により、その活性が制御されているものと思われる。」(第721頁右欄第2?33行)
(1-5)「果たして、TAK1によるNIKのリン酸化が、ひいてはIKKの活性化につながるのか検討した。・・・その結果、TAB1/TAK1によるIKK-αの活性化が、NIK-kinase negativeを同時に発現させることにより、ブロックされた。従って、TAK1はNIKを介してIKKを活性化していると結論される。」(第722頁右欄第44行?第723頁左欄第13行)
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された、平成10年1月13日に出願公開された「特開平10-4976号公報」(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「【請求項15】(A)請求項1?6のいずれか1項に記載のTAB1蛋白質又はポリペプチドとTAK1蛋白質を発現する細胞にTGF-βシグナル伝達系阻害物質を含む試料を接触させるか又は導入し、そして(B)TAK1蛋白質キナーゼ活性を測定する、ことを特徴とするTGF-βシグナル伝達系阻害物質のスクリーニング方法。」
第4 対比・判断
引用例1には、上記摘記事項(1-1)に示されるように、TAB1/TAK1がTGF-βシグナル伝達経路を制御すること、及び、TAB1/TAK1が、NIK-IKKカスケードの上流で、NFκBの活性化に関与することが記載されている。
引用例1には、さらに、上記摘記事項(1-2)に示されるように、TAB1のC末端側のTAK1との結合領域を欠失したTAB1(1-418)は、TGF-β刺激によるTAK1キナーゼの活性化を阻害することについても記載されている。
また、引用例1には、上記摘記事項(1-3)に示されるように、TAB1/TAK1はIL-1シグナル伝達系において、NIK-IKKカスケードの上流で機能すること、そして、TAK1とTAB1を同時に発現させた場合には、NFκBが活性化されることが記載されている。
引用例1には、さらに、上記摘記事項(1-4)及び(1-5)にそれぞれ示されるように、TAK1がNIKをリン酸化し、そして、さらに当該NIKを介してIKKを活性化していることも記載されている。
してみれば、引用例1には、TAK1とTAB1が結合することにより、NIKをリン酸化し、NIK-IKKカスケードを活性化して、結果としてNFκBを活性化していることが記載されている。
そこで、本願発明と、引用例1に記載の事項とを対比すると、両者は、TAK1及びTAB1により生ずるTAK1のリン酸化反応に関する事項である点で一致し、本願発明は、炎症性サイトカインの産生を阻害する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)TAK1、TAB1及び被験試料を接触させる工程、
(b)TAK1によるリン酸化反応を検出する工程、および
(c)TAK1によるリン酸化反応を阻害する化合物を選択する工程、を含む方法であるのに対し、引用例1には、TAK1及びTAB1により生ずるTAK1のリン酸化反応によって、NFκBが活性化するというシグナル伝達系が記載されているにとどまり、炎症性サイトカインの産生を阻害する化合物をスクリーニングすることについては記載されていない点で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
一般に、シグナル伝達系が判明している場合、当該伝達系を阻害する化合物をスクリーニングしようとすることは、引用例4の上記摘記事項(2-1)にも示されるように周知の課題であり、また、シグナル伝達系に被験試料を接触させて、当該シグナル伝達系において生じる反応を指標として、シグナル伝達系を阻害する化合物をスクリーニングすることも、例えば、引用例4の上記摘記事項(2-1)に示されるように、広く一般に行われる事項であった。
してみれば、引用例1に記載の事項において、TAK1及びTAB1に、被験試料を接触させ、TAK1によるリン酸化反応を検出し、当該反応を阻害する化合物を選択することにより、TAK1及びTAB1により生ずるTAK1のシグナル伝達系を阻害する化合物をスクリーニングすることは、当業者が容易に想起し得たことである。そして、当該TAK1及びTAB1により生ずるTAK1のシグナル伝達系を阻害する化合物が、結果として、炎症性サイトカイン産生を阻害する化合物である点も、引用例1の上記事項(1-1)に示されるように、TAB1/TAK1が、NFκBを活性化するものであって、NFκBが活性化されれば、炎症性サイトカインが産生されることは、本願優先日前周知であった(要すれば、「Molecular and Cellular Biology,1993,p.6231-6240」の第6232頁左欄第27?48行、「J.Exp.Med,Volume 171,1990,p.35-47」の第44頁第27?33行)ことから、当業者にとって明らかであるので、上記スクリーニング工程によって、炎症性サイトカイン産生を阻害する化合物をスクリーニングすることは、当業者が容易に想起し得たことである。
そして、それによる効果について、本願明細書の実施例1?3を見ても、これらの実施例には、TAK1のドミナント・ネガティブ・インヒビターを発現するマウスの腹腔マクロファージでは、炎症性刺激に対して、炎症性サイトカインであるTNF、IL-1もしくはIL-6の産生が少ないことが示されるにとどまり、TAK1/TAB1シグナル伝達系を阻害することにより、これらの炎症性サイトカインの産生が完全に阻害されることが示されたわけでもなく、そもそも、本願発明に係るスクリーニング方法により有用な化合物がスクリーニングされた例は記載されていない。また、本願発明に係るスクリーニング方法によって、上記のTNF、IL-1もしくはIL-6にとどまらず、あらゆる炎症性サイトカインの産生を阻害する化合物をスクリーニングし得ることが示されているわけでもない。
してみれば、本願発明の効果は、TAK1のシグナル伝達の結果NFκBが活性化することの示された引用例1、及び、NFκBが活性化されれば炎症性サイトカインが産生されるという周知の事項から、当業者が予測し得るものであって、格別な効果であるとはいえない。
第5 審判請求人の主張について
審判請求人は、前置審尋に対する平成19年3月20日付回答書において、(1)平成17年2月28日付の上申書に添付した「Biochem Soc Symp 64:63-77,1999」の図1からも明らかなように、IL-1やTNFの刺激によるシグナルはいくつもの経路に分かれて伝達されていくことから、これらのシグナル伝達系の下流にある1つの経路を阻害しても、最初の刺激の結果として生じる細胞応答の一部のみが阻害されるので、当業者であっても、「ある刺激の下流に位置する複数のシグナル伝達経路の『一部』を阻害した場合に、最初の刺激によって生じる細胞応答のどの『一部』が阻害されるのか」は予測不可能であること、及び(2)ある刺激に対する複数のシグナル伝達経路は、それぞれが別々の細胞応答を担っているとは限らず、互いに補完的に機能する場合もあるので、複数のシグナル経路の「一部」を阻害したとしても、細胞応答には全く影響のない可能性すらあり、添付書類(A)として示された「J Biol Chem 282:6075-6089,2007」には、「TAK1非依存性NFκB活性化経路」の存在が示唆され、「TAK1及びMEKK3の両方が欠損した場合にのみIL-1誘導IκBαリン酸化が完全に消失すること」が示唆されているように、IL-1等の刺激によるNFκBの活性化を阻害する目的でTAK1シグナル伝達経路を阻害したとしても、MEKK3シグナル伝達経路を介してNFκBを活性化する可能性もあり、NFκBの活性化が本当に阻害されるかどうかは実際に実験を行って確認するまで予測不可能であり、同様に、TAK1のシグナル伝達経路を阻害することで炎症性サイトカインの産生が抑制されることを合理的に予見することは、当業者であっても不可能であったこと、を主張する。
しかしながら、上記(1)についてみると、例えば、引用例1の上記摘記事項(1-4)に、「TAB1/TAK1とNIK-IKKキナーゼカスケードとの関係を知る目的で、NIK-kinase negative、IKK-α-kinase negativeを同時に発現させ、TAB1/TAK1によるNFκBの活性化に対する効果について検討した。その結果、TAB1/TAK1によるNFκBの活性化は、NIK-kinase negative、IKK-α-kinase negativeにより抑制された。以上の結果から、TAB1/TAK1はNIK-IKKキナーゼカスケードの上流で機能するものと考えられる。」と記載されるように、ある刺激(この場合は、IL-1による刺激)、の下流に位置する複数のシグナル伝達経路の『一部』(この場合は、NIK-IKKキナーゼカスケード)を阻害した場合に、最初の刺激によって生じる細胞応答の『一部』(NFκBの活性化)が阻害されていることから、IL-1による刺激の下流に位置するシグナル伝達経路が、複数存在するにせよ、その一つのシグナル伝達経路であるTAB1/TAK1シグナル伝達経路を阻害した場合に、NFκBの活性化が阻害されるであろうことは当業者が当然予測し得たことであり、NFκBの活性化が阻害されれば、炎症性サイトカインの産生も抑制されることは、上記第4において述べたとおりである。
次に、上記(2)についてみると、まず、添付書類(A)として示された「J Biol Chem 282:6075-6089,2007」は、本願の出願後8年も経過した後の文献であるので、本願発明の進歩性の判断において、参酌すべきものではない。
しかも、たとえそれを参酌し、TAK1非依存性NFκB活性化経路が存在することが本願優先日当時に公知であったとしても、「TAK1及びMEKK3の両方が欠損した場合にのみIL-1誘導IκBαリン酸化が完全に消失する」ことが、審判請求人の主張するように、TAK1/TAB1シグナル伝達系が阻害されても、細胞応答に全く影響のない程度に、TAK1非依存性NFκB活性化経路のMEKK3が補完的に機能することを、直ちに意味するものではない。
また、引用例1の上記摘記事項(1-4)には、上述のとおり、293細胞にNIK-kinase negative、IKK-α-kinase negativeを同時に発現させたところ、TAB1/TAK1によるNFκBの活性化は、NIK-kinase negative、IKK-α-kinase negativeにより抑制されたことが示されており、一方で、293細胞が、内在的にTAK1もMEKK3も有することは添付資料Aの6087頁左欄6?7行の記載から明らかである。このことは、とりもなおさず、審判請求人の主張するようなTAK1非依存性NFκB活性化経路が存在しても、TAK1/TAB1シグナル伝達系の阻害によって、NFκBの活性化という細胞応答に抑制という影響が及ぼされたことに他ならない。
してみれば、IL-1等の刺激によるNFκBの活性化を阻害する目的でTAB1/TAK1シグナル伝達経路を阻害し、NFκBの活性化が阻害されるかどうかを予測し、これを試験・確認すること、また、同様に、TAB1/TAK1のシグナル伝達経路を阻害することで炎症性サイトカインの産生が抑制されることを合理的に予見し、これを試験・確認することは、当業者が容易に想起し得たことであり、実際にそのようなことが確認できたことをもって格別なこととはいえない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-21 
結審通知日 2008-05-22 
審決日 2008-06-04 
出願番号 特願2000-577317(P2000-577317)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 松波 由美子
鵜飼 健
発明の名称 炎症性サイトカインのシグナル伝達を阻害する化合物をスクリーニングする方法  
代理人 清水 初志  

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