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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H04R
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H04R
管理番号 1186367
審判番号 無効2007-800073  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-04-13 
確定日 2008-07-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第3517736号発明「スピーカ用振動板の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 【第1】手続の経緯

出願 平成13年10月 5日
設定登録 平成16年 2月 6日
本件無効審判請求 平成19年 4月13日
答弁書 平成17年 7月 9日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成20年 1月11日
口頭審理陳述要領書(被請求人)平成20年 1月11日
口頭審理 平成20年 1月11日

【第2】特許請求の範囲

本件特許第3517736号に係る明細書(以下,本件明細書という。)の特許請求の範囲の請求項1,2の各記載は,次のとおりである(以下,請求項1,2に係る各発明を「本件発明1」,「本件発明2」ともいう。)。

「【請求項1】
少なくとも複数の抄紙工程を備えており、一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する多層漉き抄紙法を用いた、多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法を用いて、二層以上を重ね合わせて堆積する多層構造のスピーカ用振動板。」

【第3】当事者の主張

[1]請求人の主張(請求)

[1.1]請求の趣旨及び理由の概要
(1)請求の趣旨
本件特許請求の範囲の請求項1および請求項2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきものである。

(2)請求の理由
無効理由1
請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

無効理由2
請求項2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

無効理由3
請求項2に係る発明は、甲第1,3,4,11号証のいずれかに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

[1.2]請求の理由の要点

(0)予備的主張に対して
先の無効審判の証拠方法と本件無効審判での証拠方法とは同一ではないため、本件発明1について乙1の内容は本件無効審判に通用するものではない。(陳述要領書5頁)

(1)無効理由1(本件発明1,特許法第29条第2項)の要点
《1》本件発明1
本件発明1は、「一次抄紙工程→転写工程→二次抄紙工程」の先後関係を基本構成とする多層構造のスピーカ用振動板の製造方法である。
そして、二次抄紙工程を「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する多層漉き抄紙法を用いた」ことを特徴とする。

《2》甲第1号証
甲1発明と本件発明1とは、「一次抄紙工程→転写工程→二次抄紙工程」の先後関係に従い多層構造のスピーカ用振動板を製造する点で共通し、二次抄紙工程を「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、二次抄紙以降の抄き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する多層漉き抄紙法を用いた」点(逆さ抄きで行う点)で相違する。

《3》分散液
甲1の一次抄紙工程では、紙料分散液として、無機鱗片材(グラファイト粉末、マイカ粉末など)を抄き水中に均一に分散させたものを用いており(記載ウ)、本件明細書の記載(段落0019)と共通性がある。
また、どのような紙料分散液を用いるかは、この種の技術分野において目的、用途等に応じ随時選択されるもので、当業者の単なる選択事項である。

《4》転写
「転写」とは、一方の抄紙網の堆積物を他方の抄紙網に移すことであり、甲2、甲3などに示すように、種々の方法がある。甲1では、転写の方法としてこのような種々の方法を採り得る。
また、本件明細書(段落0002?段落0003、図2)には、一次抄紙工程と転写工程が従来技術として説明されており、本件特許権者自ら、一次抄紙工程による堆積物を転写型17に吸着して抄紙網14から取り出すことは公知であることを認めている。さらに、上記従来技術の転写型17(図2)と本件実施例の抄紙台6(図1)とは、「抄紙網」の形状と用語を単に変えているだけで、その他については特に変わるところはない。「抄紙網」の形状は目的、用途に応じ適宜決定されるものであり、当業者の単なる選択事項である。

《5》逆さ抄き
「逆さ抄き」自体は、甲4?甲9に示されるように、スピーカ用振動板やパルプモールド(なお、パルプモールドはスピーカ用振動板と同じ技術分野である(甲10))の分野で広く知られた周知技術であるため、甲1の構成に「逆さ抄き」を組み合せることに困難性はない。また、甲1において、二次抄紙を「正抄き」から「逆さ抄き」に変更することに何の阻害要因もない。

《6》本件発明1の効果
本件明細書(段落0011、段落0025など)に記載された本件発明1の各効果は、いずれも、本件発明1に特有のものではない。

《7》被請求人の主張について
被請求人は、甲1は、2種の無機鱗片材の「密度の差に基づく沈降速度の差」を利用しており、「重力に従って自然堆積させること」は甲1の必須要件である、と主張する。
しかし、「密度の差に基づく沈降速度の差」や「自然堆積」は、全く問題ではなく、甲1には、本件発明1の基本的な技術的思想である「一次抄紙工程→転写工程→二次抄紙工程(逆さ漉きの点を除く)」の先後関係が開示されていることが重要であり、これら各工程を経て製造をする点において甲1は本件発明1と共通する。
甲1の2種の無機鱗片材の自然堆積による抄紙を、適宜の紙料の下方への吸引・排水堆積する一次抄紙に置き換えることは容易に想到し得る。
また、甲1の二次抄紙において、グラファイト粉末単独とした場合は、「自然体積」は必須ではなく、「逆さ抄き」も可能である。(口頭審理)

《8》まとめ
甲1には、「一次抄紙工程→転写工程→二次抄紙工程(逆さ漉きの点を除く)」の先後関係に従い多層構造のスピーカ用振動板を製造する方法が開示されており、本件発明1の「二次抄紙工程における逆さ抄き」以外は全て開示されている。
「紙料」の種類や「転写方法」は当業者の単なる選択事項であり、「逆さ抄き」自体も周知である。
本件発明1は、甲1に、周知技術である「試料」、「転写方法」、「逆さ抄き」を単に組み合わせたものに過ぎず困難性はなく、特有の効果もない。
本件発明1は、甲1?甲9に記載された発明を適宜組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)無効理由2(本件発明2、特許法第29条第2項)
本件発明2は、本件発明1を引用する形式で記載された発明であって、本件発明1の製造方法を用いて、二層以上を重ね合わせて堆積する多層構造のスピーカ用振動板に係る発明である。
本件発明2は、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由(無効理由1)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)無効理由3(本件発明2、特許法第29条第1項第3号)
本件発明2は、製造方法に係る本件発明1を引用する形式で記載された物の発明であり、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当する。
したがって、本件発明2は、本件発明1に係る製造方法とは異なる方法によって製造された「多層構造のスピーカ用振動板」であっても、本件発明1に係る製造方法によって製造された「多層構造のスピーカ用振動板」と客観的に同一の構成を有するものであれば、これを包含するものである。
本件発明2は、甲1、甲3、甲4、甲11に記載された多層構造のスピーカ用振動板を包含し、新規性がない。

[1.3]証拠方法

甲第1号証:特開昭60-177796号公報
甲第2号証:特開昭56-94897号公報
甲第3号証:米国特許第1,984,018号およびその訳文
甲第4号証:特開平4-340896号公報
甲第5号証:米国特許1,927,902号公報およびその訳文
甲第6号証:特開2002-146700号公報
甲第7号証:特開2000-239998号公報
甲第8号証:特開平8-232200号公報
甲第9号証:紙パルプ技術タイムス JN:Y028OA,
ISSN:0453-1507 VOL.36
NO.6;PAGE.20-25;(19305)
写図20、表1、参2 JSTPLUS(1993年発行
)
甲第10号証:特定中小企業集積支援技術開発事業(平成8年度実施)
発行刊行物
甲第11号証:特公昭57-10638号公報

[2]被請求人の主張(答弁)

[2.1]答弁の趣旨及び理由の概要
本件審判の請求は成り立たない。

[2.2]答弁の理由の要点

(0)予備的主張(先の無効審判)
本件特許については、本件無効審判の請求人と同一の請求人が請求した先の無効審判(無効2004-80253号)があり、先の無効審判の審決(進歩性を肯定)に対して請求人が出訴した審決取消訴訟(平成17年行(ケ)第10775号)について、請求を棄却する旨の判決が確定している(乙1)。
本件無効審判において請求人が引用する文献(甲5、甲8、甲11)は、先の無効審判で提出された文献と重複している。

(1)無効理由1(本件発明1、特許法第29条第2項)に対して
本件発明1は、甲1?甲9から容易に想到することはできない。

(1.1)甲1と「逆さ抄き」(甲4?甲9)との組合わせ
(a)甲1は、「密度の差に基づく沈降速度の差」を利用しており、「重力に従って自然堆積させること」は必須要件である。このことは、「2種の無機鱗片材の抄き水中における沈降速度の差を充分に利用するため、低密度の無機鱗片材の粒径を小さく、高密度の無機鱗片材の粒径を大きく選定することが望ましい。」(3頁左上欄12行?16行)の記載からも明らかである。
(b)甲1では、「重力に従って自然堆積させること」が必須要件であるから、「逆さ漉き」(甲4?甲9)が周知技術であったとしても、「自然堆積」の代替手段として「逆さ漉き」を用いる動機付けがない。すなわち、
ア 「逆さ漉き」は紙料分散液を重力に逆らう方向(下から上)に流れる水流に従って紙料を漉く方法であるから、分散物の密度の差に基づいて分散物の移動速度を変化させることができない。したがって、分散物の密度の差に基づき「沈降速度の差」を利用する「自然堆積」を「逆さ漉き」に置き換えることは、そもそも全く不可能である。
イ また、「逆さ漉き」では、紙料を均一に分散させるだけではなく、漉き槽の底に紙料が沈殿して水だけを漉き上げることがないようにするために、紙料を紙料分散液全体(水平方向にも垂直方向にも)に均一に分散させる必要がある。
これに対して、甲1の「自然堆積」は、紙料の密度の差に基づく「沈降速度の差」を生じさせて積層構造を実現するものであるから、紙料分散液の垂直方向には、無機鱗片材の分散密度の勾配を積極的に設ける必要がある。
したがって、甲1の「自然堆積」の代替手段として、紙料分散液全体において紙料の密度に関係なく均一に分散させる必要がある「逆さ漉き」を用いようと動機付けられることは全くないし、むしろ「逆さ漉き」を用いることを避けようとする動機付けが働くのである。
(c)甲4、甲5によっても「逆さ抄き」の動機付けがない。
甲4には、紙振動板に対して水平方向(右から左に)に吸引して目止めをする発明が開示されているに過ぎず(段落0001、図1)、そもそも下から上に漉くこと(逆さ漉き)は記載も示唆もされていない。
甲5は「逆さ漉き」を開示する。しかし、抄紙工程(堆積)は1回であり、複数の抄紙工程や抄紙工程間の転写工程は全く予定されていない。むしろ、従来の振動板の複数パーツの接合部分での重なりによって音波歪みが発生するという課題を解決するために、「振動板全体を1つのタイプの材料で形成する」(甲5訳・2頁11行?23行)ことを教示しており、甲5に当接した当業者は、複数の抄紙工程を経る多層構造を避け、単層構造にしようと動機付けられる。
(d)よって、「逆さ漉き」(甲4?甲9)が周知技術であるか否かを議論するまでもなく、甲1に「逆さ漉き」を組み合わせることはできない。
(1.2)甲1と「転写工程」(甲2、甲3)との組合せ
甲1の「重力に従って自然堆積させること」の代替手段として「逆さ漉き」を用いる動機付けがないので、甲2と甲3に転写工程が開示されているか否かに拘わらず、甲1発明に甲2と甲3に記載の発明を組み合わせても、当業者は本件発明1を容易に想到することはできない。
(1.3)本件発明1の特徴
甲各号証には、本件発明1の「一次抄紙紙料の抄紙裏に二次抄紙紙料を逆さ漉きによって堆積させる」構成自体について記載も示唆もない。したがって、その作用効果の顕著性を検討するまでもなく、本件発明1は当業者が容易に想到することができたものではない。

(2)無効理由2(本件発明2、特許法第29条第2項)に対して
本件発明2は本件発明1を引用するものであるから、本件発明1は甲1?甲9から容易に想到し得ないとする理由と同じ理由により、本件発明2は甲1?甲9に記載の発明から容易に想到できない。

(3)無効理由3(本件発明2、特許法第29条第1項第3号)に対して
(3.1)本件発明2は「一次抄紙工程→転写工程→逆さ漉きによる二次抄紙工程」との各工程を経ることによって、得られるスピーカ用振動板における一次抄紙紙料の繊維と二次抄紙紙料の繊維が互いに絡みやすくなり、両紙料層間に強固な機械的な結合が生まれ、乾燥後は、機械的な結合と水素結合とによる極めて強固な結合によって、2つの紙料が強固に一体化した振動板を提供できるのである(本件明細書、段落0011)。
(3.2)請求人は、本件発明2は新規性がないと主張するだけで、甲1、甲3、甲4、甲11に記載された振動板が、本件発明1の製造方法を用いて製造された「多層構造のスピーカ用振動板」と客観的に同一の構成を有する理由を全く述べていない。

[2.3]証拠方法
乙第1号証:平成17年行(ケ)第10775号判決

【第4】当審の判断

[1]本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。

(M1)「【0001】【発明に属する技術分野】本発明は、音響機器に用いるスピーカ用振動板の製造方法に関するものである。
【0002】【従来の技術】スピーカ用振動板の製造方法を図2に説明する。
【0003】一般的に多く用いる製造方法は、(g)の漉き槽13の底部に所定の形状をした抄紙網14を配置しており、この槽内へ紙料液15を投入し、(h)の14から下方へ排水して、紙料16を堆積する抄紙法を用いており、抄紙した16は、(i)の転写型17に吸着して14から取り出した後、乾燥するが、通常は単一構造の抄紙である。・・・(以下略)」
(M2)「【0007】そこで、この問題を解消するに、廃液を再利用できれば良いが、抄紙工程の給水用に使うと、不純物の影響で振動板の音質、外観、重量にバラツキを生じる欠点がある。他方、不純物を減らすために抄紙網を細かくすれば、目詰まりをおこして、漉きムラを発生する不都合がある。
【0008】然るに、従来の製造方法では、排出する産業廃棄物の削減が困難なため、これを解決する新たな製造方法が求められている。
【0009】更に、前記の振動板は、図5の断面1aに示すごとく単一構造である事から、従来の音質を超える音造りが難しい。また、以前に考案された多層構造では、同一材料の積層した物、積層の境界が不明確な物、紙料に条件がある物などの制約がある。そこで、前記の制約が無い、新たな多層構造の振動板の出現が望まれる。」
(M3)「【0010】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明の製造方法は、目的とする振動板の重量を分割し、裏面側になる一次抄紙の工程と表面側になる二次抄紙以降の工程に分けて、多層漉きする抄紙法を特徴とするものである。
【0011】先ず、一次抄紙で堆積した紙料は、水素結合する前の膨張した湿紙の状態を保ち、網目状に荒れた紙料の裏面側へ堆積するように、二次抄紙網へ転写して置く。この時、紙料は抄紙網の下に吸着しており、この状態から、二次以降の紙料分散液の液中に置いて、上方に排水しながら所定の量を堆積する方法である。この抄紙法の長所は、一次抄紙の紙料が十分に水を含んだ所へ、二次以降の紙料液に浮遊している繊維が絡み付いて堆積する事にある。この為、乾燥後は、積層した境界が明確に判別できる多層構造になり、機械的な結合と水素結合によって、強固に一体化した振動板ができる。」
(M4)「【0014】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0015】請求項1は、抄紙工程の廃液を再利用しながら、産業廃棄物を削減できる多層漉き抄紙法を用いており、この振動板の製造方法を図1に説明する。
【0016】(a)の工程は、漉き槽1に一次抄紙網2を固定して、漉き槽内へ一次の紙料液3を投入し、(b)の工程で漉き槽の底部より排水して一次抄紙の紙料4を堆積する。二次抄紙網5が固定された抄紙台6に配置し、(c)の工程は、5と6を降下して4を吸着転写の後に上昇し、この吸着した状態を(e)の工程が終了するまで維持する。次に、(d)の工程は、6の4と5を漉き槽7にある二次の紙料液8の液中へ降下し、6の上方に排水しながら所定の時間を堆積する。(e)は、二次抄紙の紙料9が4に絡み付いて堆積を完了した事を示す。更に、三次抄紙以降が有るときは、別に用意した同様の(d)と(e)の工程を繰り返して紙料を積層する。・・・(以下略)」
(M5)「【0018】請求項2は、請求項1の製造方法を用いて、多層漉きした振動板の構成を図3、図4の断面図に説明する。
【0019】図3は二層構造の振動板である。表面側断面2aは、高ヤング率に適した材料からなり、高密度の紙パルプ、和紙、化繊、絹などの有機繊維、セラミック、カーボン、雲母などの無機繊維または粉体から紙料を選び、染料、サイズ剤、紙力剤などを加えた物で、音像が大きく、ひずみ感の少ない、鮮明な音質の再生に有効である。裏面側断面2bは、染色を必要とせず、内部損失と曲げ剛性に適した材料からなり、紙パルプ、和紙、化繊などの有機繊維、セラミック、カーボンなどの無機繊維から紙料を選び、サイズ剤、紙力剤などを加えた物で、高域特性の乱れが少なく、中低域の力強い音質の再生に有効である。
【0020】図4は図3に中心部を加えた三層構造の振動板である。表面側断面3aと裏面側断面3cの間の中心部断面3bは、内部損失に適した材料からなり、低密度のパルプ、化繊、中空繊維などの紙料にサイズ剤、紙力剤などを加えた物で、高出力に耐える強い剛性が得られ、力強い低音の再生に有効である。」
(M6)「【0022】(実施例1)
1.一次抄紙工程:NBKPパルプ(叩解度18)、サイズ剤、紙料液濃度1g/l、抄紙網80メッシュ、
2.二次抄紙工程:NBKPパルプ(叩解度35)、サイズ剤、黒色染料、紙力剤、紙料液濃度2g/l、抄紙網60メッシュ、・・・(以下略)
【0023】(実施例2)
1.一次抄紙工程:NBKPパルプ(叩解度18)、サイズ剤、紙力剤、紙料液濃度0.5g/l、抄紙網80メッシュ、
2.二次抄紙工程:NBKPパルプ(叩解度35)を50%、サイズ剤、レーヨン(5mm長)を50%、紙料液濃度2g/l、抄紙網60メッシュ、
3.三次抄紙工程:マニラ麻(叩解度40)、黒色染料、サイズ剤、紙料液濃度5g/l、・・・(以下略)」

[2]甲各号証の記載
甲各号証には、以下の記載がある。なお、摘示した各記載事項に付した(K1.1)等の記号は、本審決で付した記号であり、摘示した各記載事項のうち、請求人が摘示した記載事項に対応するもの(又は含むもの)については、請求人が付した(ア)等の記号を併記した。
(なお、以下、「○1」、「○2」等の表記は、記号「○の中に数字を入れた記号」を示す。情報処理システムの能力上、同記号を表すことができないことによる。)

(1)甲第1号証
甲第1号証には、電気音響変換器用振動板とその製造方法に関し、以下の記載がある。

(K1.1)「1.低密度で高弾性率を有する無機鱗片材を主として有する層(1a)(1a)間に高密度で低弾性率を有する無機鱗片材を主として含有する層(1b)を介在せしめた3層積層体と、当該各層に含浸された熱硬化性樹脂とからなることを特徴とする電気音響変換器用振動板。
2.高密度で低弾性率を有する無機鱗片材がマイカで、低密度で高弾性率を有する無機鱗片材がグラファイトであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の電気音響変換器用振動板。」(請求項1、2)
(K1.2)(イ)「3.低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを抄き水中に分散せしめる工程と、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを抄き網上に自然堆積せしめる工程と、前記工程により得られた積層体を他の抄き網に転写する工程と、当該転写された積層体を前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材単独又は、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを分散した抄き水中に配置して転写された積層体上に前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材単独または、低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを自然堆積せしめる工程と、前記各工程で得られた3層積層体に熱硬化性樹脂と硬化剤を含浸してプレプレグを得る工程と、前記プレプレグを振動板形状にプレス成形する工程とよりなることを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法。」(請求項3)
(K1.3)「この発明は電気音響変換器用振動板の改良に関し得に無機鱗片材を使用した振動板に関する。」(1頁右下欄15行、16行)
(K1.4)「従来、無機鱗片材と熱硬化性樹脂よりなる振動板が種々考案され、現実に実用化されている。
この理由は当該振動板が従来の、たとえば紙パルプよりなる振動板や、合成樹脂製振動板に比較してヤング率が高く、かつ比弾性率も大きい点、更に耐湿性、難燃性に優れている点にある。
このような無機鱗片材を主体とした振動板は従来、無機鱗片材を適度な粒径に破砕した後、抄水中に分散せしめ通常の抄造方法により所定の振動板形状、たとえばコーン形等の抄網に堆積せしめた後、熱硬化性樹脂と硬化剤を含浸し振動板形状の、加熱金型によりプレス成形した振動板がある。
しかるに従来のこのような振動板においては次のような欠点を有していた。
すなわち振動板1個ごとに前記作業を必要とする結果量産性が極めて悪く、無機鱗片材は紙パルプ繊維とは異なり無機鱗片材相互の絡み合いが殆んどないため、振動板形状に抄くことが極めて困難であり、成形された振動板の形状および物性のバラツキが大きい。」(1頁右下欄17行?2頁左上欄17行)
(K1.5)(ア)「この発明は、上記欠点を解決した振動板であって、高密度で低弾性率を有する無機鱗片材を主として含有する層と、低密度で高弾性率を有する無機鱗片材を主として含有する層を組み合わせ、かつ高密度で低弾性率を有する無機鱗片材を主として含有する層を中間層とした3層構造よりなる振動板とその製造方法であり以下実施例について詳細に説明する。」(2頁左上欄18行?2頁右上欄5行)
(K1.6)(ウ)「高弾性で低密度の無機鱗片材としてグラファイトト粉末(密度2.30g/cm^(3)、ヤング率3.43×10^(12)dyn/cm^(2)、平均粒径60μm)と低弾性で高密度の無機鱗片材としてマイカ粉末(密度2.85g/cm^(3)、ヤング率1.72×10^(12)dyn/cm^(2)、平均粒径200μm)を抄き水中に均一に分散し、漉き網上に15分程度自然堆積せしめた後抄き水を減圧下で排出する。
前記各工程により沈降速度に差により2種の無機鱗片材のうち高密度のマイカ粉末が先に抄き網上に堆積しマイカ粉体を主とした層を形成し、その上に低密度のグラファイト粉体を主とした層が形成される。」(2頁右上欄6?2頁右上欄18行)
(K1.7)(ウ)「次に、前記工程で得られた積層体を他の抄き網に転写、すなわち、マイカ層とグラファイト層とが逆になるように他の抄き網上に戴置する。
これを前記工程と同様にして抄き網をマイカ粉体とグラファイト粉体を分散した抄き水中に配置して15分程度自然堆積せしめ、マイカ層の上に更にマイカ層を、その上にグラファイト層を堆積せしめる。(2頁右上欄19行?2頁左下欄6行)
(K1.8)「上記工程で得られた積層体にエポキシ樹脂と硬化剤の混合物を含浸し、Bステージまで硬化せしめシート状のプレプレグを得た。
当該プレプレグをコーン形状のプレス金型(温度170℃、プレス圧10Kg/cm^(2)、時間20分)で成形しコーン形状の振動板を得た。
当該振動板1は第1図に示すように表層部が高弾性で低密度のグラファイト粉末を主体とし若干の低弾性で高密度のマイカ粉末を含有する無機鱗片材層1aが、中間層部に低弾性で高密度のマイカ粉末を主体とし若干の高弾性で低密度のグラファイト粉末を含有する無機鱗片材層1bがそれぞれ成層され、これらがエポキシ樹脂で一体化された構成を有する。
又、当該振動板1の組成はマイカ38.5wt%、グラファイト38.5wt%、エポキシ樹脂23wt%であった。」(2頁左下欄7行?2頁右下欄3行)
(K1.9)「当該構成は前述のごとく2種の無機鱗片材の密度および粒径の差により抄き水中での沈降速度の差を利用することにより達成できたものである。」(2頁右下欄4行?6行)
(K1.10)「上表のごとくこの発明実施例の振動板は比較例振動板に比較して優れた特性を有することが分った。
これは振動板の上下面に高弾性率層が配置され、その中間にこれよりも低弾性率の層が介在することによるサンドイッチ構造による構造的な強度が附加されたためである。
又、この発明の製造方法によればマイカ層とグラファイト層との間に明確な境界が存在しないのでこの種のサンドイッチ構成における境界面でのすべりによる曲げ剛性の劣化を防止できるし、境界面での剥離を防止することができる。」(2頁右下欄20行?3頁左上欄11行)
(K1.11)「更に、この発明の製造方法において第2の抄造工程においてはグラファイト粉体のみを第1の抄造工程で成層されたマイカ層に堆積するようにしても同等の効果が得られる。」(3頁左上欄17行?20行)
(K1.12)(エ)「以上に説明したようにこの発明は低密度で高弾性率を有する無機鱗片材を主として含有する層間に高密度で低弾性率を有する無機鱗片材を主として含有する層を介在せしめた3層積層体と、当該各層に含浸された熱硬化性樹脂とからなることを特徴とする電気音響変換器用振動板および低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを抄き水中に分散せしめる工程と、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを抄き網上に自然堆積せしめる工程と、前記工程により得られた積層体を他の抄き網に転写する工程と、当該転写された積層体を前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材単独又は、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを分散した抄き水中に配置して転写された積層体上に前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材単独又は、低密度で高弾性率を有する無機鱗片材と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材とを自然堆積せしめる工程と、前記各工程で得られた3層積層体に熱硬化性樹脂と硬化剤を含浸してプレプレグを得る工程と、前記プレプレグを振動板形状にプレス成形する工程とよりなることを特徴とする電気音響変換器用振動板の製造方法であって、物理特性の良好な振動板を極めて簡便なる製造方法により得ることができ実用上においても優れた効果を有するものである。」(3頁右上欄1行?左下欄7行)
(K1.13)(オ)「又、抄き網を予め振動板形状に成形しこれに無機鱗片材をこの発明の順序に従つて堆積せしめるようにしてもよい。」(3頁左下欄12行?14行)

(2)甲第2号証
甲第2号証には、繊維質振動板の製造方法に関し、以下の記載がある。

(K2.1)(カ)「次の各工程を具備することを特徴とする繊維質振動板の製造方法。
(1) 水中に懸濁した繊維を抄き網に堆積せしめる抄造工程。
(2) 前記抄造工程において抄き網に堆積した繊維層を転置網に転置する第1の転置と、転置網に積層した繊維層を成形網に転置する第2の転置よりなる転置工程。
(3)前記成形網に積層した繊維層を常温のプレス金型で加圧プレスする常温プレス工程。
(4)前記プレスされた繊維層を乾燥せしめる温風乾燥工程。」(1頁の特許請求の範囲)
(K2.2)「この発明はいわゆるコーン型スピーカーの繊維質振動板の製造方法の改良に関し」(1頁左下欄下から3行?末行)
(K2.3)(キ)「このような振動板は従来において通常次のような工程を経て製造される。
まず、所望の繊維を水中に懸濁せしめた同筒状の上部タンク1と出口に排水コック2を有するじょうご形の下部タンク3の間に抄き網4を配置し、排水コック2を開いて、上部タンク1の懸濁水を抄き網4を介して排水すると抄き網4の面状に繊維の堆積ができる。」(2頁左上欄1行?8行)
(K2.4)(ク)「第2図は本発明の製造工程を示す図であり、21は抄造工程である。
この工程は従来と何ら変わるところがないので説明を省略する。
22は転置工程であって第3図a、bについて説明すると、円筒状台31に転置網32を配置し、更に前記抄造工程21において抄き網33に堆積した繊維層34を前記転置網32に微少間隔をもって対向するよう前記抄き網33を配置する。そして上方より椀状容器35をかぶせ、当該容器内に圧縮空気を送る。
すると、当該圧縮空気の圧力によって、繊維層34が転置網32に移動する(第1の転置)。」(2頁右上欄9行?左下欄1行)
(K2.5)「そして、転置綱32に積層された繊維層34を第3図bに示すように、同様の工程によって成形網36に転置する(第2の転置)。 この転置工程によって抄造工程において繊維層34の抄き網33に対向しない面に発生するみみず状隆起が湿潤状態において空気圧により転置網32に押圧されるので、無理なく圧解することができる。 又、抄き網33に対向した面においては抄き綱33の綱目につまった繊維によるケバ立ちが見られるが、第1の転置時における空気圧及び第2の転置時における成形綱36への押圧力によって、当該ケバ立ちが消滅して表面が滑らかになる。
23は常温における金属プレス工程であって、前記成形網36に積層された繊維層34を熱していない(常温)金型でプレスする工程である。」(2頁左下欄2行?同欄17行)
(K2.6)(ケ)「なお、両者共原料繊維はクラフトパルプを用いている。」(3頁左下欄6行?7行)

(3)甲第3号証
甲第3号証(米国特許第1,984,018号)には、音声発生装置または関連装置で用いられるパルプのような繊維質材料からなる振動板の製造方法に関し、以下の事項が記載されている(翻訳文を併記する)。

(K3.1)(コ)「The present invention relates to the making or producing of sound producing members or the like, particularly those of the fibrous kind.
Among the objects of the invention is to provide a novel sound producing member or article, preferably of the diaphragmatic type. A specific illustrative embodiment of it is shown as conical or conic in form. It is composed of material, preferably moldable, accretable, and integratable fibrous material, having water or moisture proofing characteristics or properties. 」
(現行の発明は音声発生装置または関連装置で、特に繊維の種類に関する。
発明の目的は新しい音声発生装置・製品を供給することで、振動板タイプが望ましい。その具体的な説明になる実例が、円錐形状として示されている。
材料は成型ができ。堆積・融合し、一体化する繊維材料が望ましく、耐水性・耐湿性を持つものが望ましい。)(1頁左欄1行?11行、翻訳文1頁1行?4行)
(K3.2)(サ)「In operation, the former and table are lowered in the tank 2 to submerge them in a bath, and with the suction cup in contact with the member 9 and in the position shown in full lines in the drawing, and with the suction effective in the cup 16 and duct 18, a stratum 20 of proofed fibrous material is deposited, accreted, integrated, and knitted upon the part of the former above the cup 16. The remainder of the former is thus blanked off. The suction draws the water of the bath through the pores 4, grooves 5, holes 10, and thence through duct 18, the fibres thus being deposited on the member 9 and held matter thereon by the suction.」
(動作時、型とテーブルはタンク2に下ろされて、槽内に浸潰される。また、部材9と接触している吸引カップは、図の実線で示された場所でカップ16とダクト18の中での有効な吸引によって、「耐候処理を施された」繊維材料の層20を、カップ16の上の型部の一部に堆積・融合・一体化・接合する。
その他の型部は従って閉塞する。真空吸引は微細孔4、溝5、孔10を通して槽内の水を排水する。またダクト18を通して部材9の上に繊維が堆積し、吸引により保持される。)(2頁左欄51行?64行、翻訳文3頁10行?15行)
(K3.3)「Completion of the blank by deposit upon the remainder of the former, may be effected from the same bath, or from another bath having a different composition of fibres and proofing material. If from the same bath, the cup is simply lowered, as to a position shown in dotted lines in the drawing, whereupon the suction becomes effective throughout the whole chamber 7, thus causing a deposit, accretion, integration, and knitting of a fibrous stratum 21 over the remainder of the former and over the previously formed stratum 20, and integrating uniting, and knitting therewith, whereby an unitary integral, unit or blank is formed, with the apical part thicker than the remainder of the blank, to give stiffness to the vibratile or conic portion of the sound producing member.」
(型のその他の部分に堆積してブランクを完成することは、同じ槽または異なる繊維と耐候性処理剤の組成を持つもう一つの槽を使って達成できる。同じ槽からの場合、カップは単に図の点線部分まで降下するとすぐに、チャンバー7全体を通して吸引が効き、型のその他の部分及び以前に形成された層20の全体に、繊維層21が堆積・融合・一体化・接合し、均一で一体化したブランクのユニットが形成される。ブランクの頂部は他の部分より厚く、音声発生部分の振動部即ち円錐部にスティフネスを与える。)(2頁左欄65行?2頁右欄6行、翻訳文3頁16行?21行)
(K3.4)(シ)「If completion is to be effected from another bath, with the suction still acting, the device is raised out of the bath, and then submerged into the other bath, while at the same time the cup is lowered to the dotted line position shown in the drawing, so as to cause the suction to be effective throughout the chamber 7, and a deposition, accretion, integration, and knitting of the stratum 21 over the remainder of the former and the stratum 20, as also an integration, knitting and uniting with the stratum 20 to produce an unitary integral unit or blank, with a thicker and stiffer apical part for the vibratile portion of the sound producing member.」
(もし完成がもう一つの槽で行われる場合、吸引がまだ効いている状態で装置は槽から取り出され、他の槽に浸漬される。
同時にカップは図に示す点線の位置まで降りてきて、チャンバー7全体に吸引が行渡り、型の他の部分と層20に、層21の堆積・融合・一体化・接合が起こり、層20にも一体化・接合・結合が起こって均一で一体化したブランクのユニットを生成する。音声発生部分の振動部頂部は厚く、スティフネスが高い。)(2頁右欄7行?20行、翻訳文3頁22行?27行)
(K3.5)(ス)「After thus completing the blank, the device is then raised out of the bath, with the suction still acting to drain off residual water. Then a female suction die or box 22 is placed over the blank, with the suction shut-off or reversed in the chamber 7, and with suction effective in die 22, the blank is stripped from the former 3-9, and engaged with the contoured surface 23 conforming with the shape of the blank, the contoured wall 23 having a number of apertures 24 for the suction of air for engaging and holding the blank with and to the contoured surface 23. The die 22 has connected to it a suction duct 25. Its contoured surface acts as a die to uniformly distinctly shape the wet blanks.
For the purpose of drying the blank, and also for pressing it, a hot male die 26 having a contoured surface 27 comforming to the form of the blank, is pressed against the blank. 」
(こうしてブランクを完成させた後、吸引が余った水を排水しながら、装置は槽から取り出される。その後雌の吸引ダイ即ち箱22がブランクを覆い、チャンバー7の吸引を止めるか逆にするかして、ダイ22の吸引が効いているうちに、ブランクが型3-9から剥ぎ取られる。そしてブランクの形状と一致し、曲線をつけて作られた表面23とぴったりとかみ合う。23にはエアを吸引する多くの開口部24が設けられていて、曲線をつけて作られた表面23にブランクをはめ込み、保持している。ダイ22には吸引ダクト25が接続されている。その曲面のついた表面は湿ったブランクを均一に、はっきりと形成するように働く。
ブランクを乾燥・プレスする目的で、ブランクの形状に一致する、曲線の付いた表面27を持つ熱い雄型のダイがブランクをプレスする。)(2頁右欄36行?54行、翻訳文3頁下から33行?4頁7行)。

(4)甲第4号証
甲第4号証には、音響振動板の製造方法に関し、以下の記載がある。

(K4.1)(セ)「抄造した紙振動板をミクロフィブリル化したパルプの分散液中に浸漬し、前記紙振動板上にミクロフィブリル化したパルプを吸引堆積することを特徴とする音響振動板の製造方法。」(2頁の特許請求の範囲)。
(K4.2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、音響振動板の製造方法に関するものであり、特に紙振動板の目止め方法の改良に関する。」
(K4.3)「【0003】ところで、紙振動板は、抄造により作製されるものであるが故に、多くの空間を有しある程度の通気性を有するのは止むを得ないところであり、したがって、この紙振動板の気密性を確保するために、いわゆる目止めと称される処理が施されている。そして、従来、目止め処理としては、例えば、紙振動板の表面に高分子材料を主成分とし気密性を有するフィルムをラミネートしたり、高分子材料を有機溶剤に溶解あるいはエマルジョン化した塗料を塗布すること等が行われている。
【0004】しかしながら、これらの方法を採用すると、紙振動板の大きな長所である低密度、高剛性、低損失等の特性が著しく損なわれ、さらには異種材料と複合化されるため紙振動板の持つ良好な音質が損なわれることが問題となる。
【0005】そこで、その解決策の一つとして、紙振動板を抄造する際に高叩解度のパルプやミクロフィブリル化したセルロースを加え、混抄と称される手法により紙振動板を作製することが考えられる。このような手法によれば、異種材料が複合化されることもなく、音質等の特性が大きく損なわれることはない。
【0006】しかしながら、前記混抄による方法も基本的には抄造により紙振動板を作製するものであることから、振動板の通気性を完全に解消することは困難である。また、前記混抄による方法では、音質的には紙振動板の特徴を維持することができても、振動板の密度が大きくなるという問題が残る。」
(K4.4)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、紙振動板においては、低密度、高剛性、低損失の特性を損なうことなく、気密性を改善することが大きな課題となっている。そこで本発明は、かかる従来の実情に鑑みて提案されたものであって、紙振動板の特徴である低密度、高剛性、低損失の各特性を損なうことなく、確実に気密性を高めることが可能な音響振動板の製造方法を提供することを目的とする。」
(K4.5)「【0009】
【作用】紙振動板上にミクロフィブリル化したパルプを吸引堆積すると、紙振動板の空間がこのミクロフィブリル化したパルプによって塞がれた形になり、通気性が減少する。このとき、目止め材として機能するのはミクロフィブリル化したパルプであって、同一成分の複合となるため、低密度、高剛性、低損失の各特性が損なわれることはなく、紙振動板の良好なる音質が損なわれることもない。」
(K4.6)(ソ)「【0010】また、ミクロフィブリル化したパルプは、堆積したときに繊維間の水素結合が多く発生し大きな弾性率を発現する。したがって、本発明により得られる振動板においては、弾性率の大きな材料が表面に配置されることになり、振動板の弾性率が大きく向上する。」
(K4.7)(タ)「【0013】この吸引抄紙装置は、図1に示すように、ミクロフィブリル化したパルプの分散液を収容する懸濁液槽1と、この懸濁液槽1内のパルプ分散液2中に浸潰される吸引用筐体3と、前記吸引用筐体3の背面3aに設けられた吸引管4を介して吸引用筐体3内を真空吸引する真空ポンプ(図示は省略する。)とから構成されるものである。前記吸引用筐体3の前面3bには、基体紙振動板5の形状に応じた開口部が設けられ、この開口部を塞いで基体紙振動板5を密閉装着するような構成とされている。また、この吸引用筐体3は上下動可能な支持シャフト6によって支持されて、基体紙振動板5の装着時にはパルプ分散液2の液面よりも上の位置に移動し、装着後にパルプ分散液2中に浸潰されるような構造となっている。」
(K4.8)(チ)「【0014】基体となる紙振動板5は、通常の抄造方法によって作製されるものであって、パルプの種類等も任意である。ここでは、通常のコーン紙とした。」
(K4.9)(ツ)「【0015】そして、基体紙振動板5上にミクロフィブリル化したパルプを吸引堆積するには、先ず基体紙振動板5を吸引用筐体3の開口部に密閉装着し、真空ポンプによって真空吸引しながらパルプ分散液2中に浸漬する。すると、パルプ分散液2は、基体紙振動板5の背面側から吸引され、当該紙振動板5を透過する。このとき、パルプ分散液2中のミクロフィブリル化したパルプが基体紙振動板5の空間を埋めて堆積し、図に示すような堆積層7が基体紙振動板5の表面に形成されることになる。」
(K4.10)(テ)「【0016】このとき、堆積層7は、基体紙振動板5の表裏何れの表面に形成されてもよく、何れの面に形成されるかは基体紙振動板5の吸引用筐体3への取付け方向によって決めることができる。また、堆積層7の厚さも任意である。」
(K4.11)「【0018】上述のように真空吸引して堆積層7を形成した後、プレスによって水分を除去し、乾燥して音響振動板を完成する。なお、以上は基体紙振動板5をコーン紙とした例であるが、図3に示すようにドーム形の振動板に応用することも可能である。この場合には、平坦な基体紙振動板11の表面にミクロフィブリル化したパルプの堆積層12を同様の手法により吸引堆積した後、半球状の凹部を有する金型と該凹部に対応した凸部を有する金型によって絞り成形加工し、ドーム形に加工すればよい。」
(K4.12)「【0023】比較例1
先の各実施例で用いた基体紙振動板と全く同じ配合で重量3.0gの紙振動板を作製し、これをそのまま比較例とした。
【0024】比較例2
先の各実施例で用いた基体紙振動板の配合に実施例1で用いた高叩解度のクラフトパルプを30重量%加え、抄造法によって重量3.0gの紙振動板を作製した。
【0025】比較例3
先の各実施例で用いた基体紙振動板の配合に実施例2で用いたミクロフィブリルセルロース(商品名MFC)を30重量%加え、抄造法によって紙振動板の作製を試みたが、瀘水性が著しく悪く、作製が不可能であった。
【0026】比較例4
実施例1と同様の重量2.5gの基体紙振動板を用い、その表面に厚さ50μmのナイロンフィルムをラミネートし、複合振動板を得た。」

(5)甲第5号証
甲第5号証(米国特許第1,927,902号)には、ラジオ用スピーカの振動板、あるいは音を拡大したり再生するユニットの振動板を製造する方法に関し、以下の事項が記載されている(翻訳文を併記する)
(K5.1)「This invention relates to new and improved methods for manufacturing diaphrams for radioloud speakers or other sound amplifying or reproducing units.」
(本発明は、ラジオ用スピーカーの振動板、あるいは音を拡大したり再生するユニッの振動板を製造するときの方法であって、新しい方法、および改良した方法に関連している。)(1頁左欄1行?4行、翻訳文1頁3行?4行)
(K5.2)(ト)「Reference character 1 designates a frame in which is mounted a tank 2 which may be provided with intake and discharge orifices through which the compounded fibrous stock is pumped and maintained at the required level. At each end of the frame are upright guides 3 adapted to guide slide blocks 4 to one of which is affixed a vacuum valve block 5, connected by a flexible hose 7 to a suitable vacuum pump 42. In blocks 4 is journaled shaft 8 on which is mounted a number of suction molds in a manner similar to that illustrated in Fig.2. The construction consists of vacuum header end blocks 6, one of which is arranged to interconnect at varying positions with valve block 5. To blocks 6 are connected vacuum header shafts 9 which in turn are connected to a gang of screen mold devices similar to that shown in Fig.3. These may consist of finely woven wire screens 12 mounted on plates 11 and stems 10, the stems 10 being removably connected into the header shafts 9. Stems are provided with orifices 13 permitting the suction system to create a partial vacuum inside the screens 12 in order to form diaphragms in the manner about to be described.」
(説明数字1は、取り入れ用開口と排出用の開口のあるタンク2が取り付けてある枠を示す。これらの開口を通して、合成した繊維の抄紙液がポンプで注入され、必要なレベルで維持される。枠の両端には、サイドブロック4をガイドするようになっている縦のガイド3がある。このサイドブロックのうちの1個に、柔軟なホース7で適当な真空ポンプにつながっている真空バルブブロック5が取り付けてある。ブロック4にはシャフト8が軸受けを使ってつないである。このシャフトには、吸引型が、図2に示したような方法でいくつか取り付けてある。これは、バキュームヘッダーのエンドブロック6で出来ており、この内の一つは、いろいろな位置で弁のブロック5に相互につながるように配置してある。バキュームヘッダーのシャフト9はブロック6につなげてある。このシャフト9は、図3に示してあるデバイスににている一群の抄紙型デバイスにつながっている。これらは、プレート11とステム10に取り付けてある、細かく編んだワイヤースクリーン12で出来ている。ここで、ステム10はヘッダーシャフト9につながっているが、取り外せるようになっている。次に説明するような形で振動板を形成できるように、ステムには関口13があって、吸引システムで、スクリーン12の内側で部分的な真空状態を作れるようになっている。(2頁右欄3行?27行、翻訳文3頁下から11行?4頁2行)
(K5.3)(ナ)「The stock is charged into tank 2, suction pump 42 started and power means 34 thrown into gear. Cam 28 raises the cam lever 26 which raises valves 22 and 23 to open lines 20 and 21 to air pressure. Valves 24 and 25 are at this moment of operation, closed. The air pressure is admitted into the bottom of the cylinders and raises pistons 18 and 19 so that blocks 4 and the screen mold apparatus are raised so that each screen mold is above the level of the liquid in the tank. As the cam slowly rotates, the cam lever is lowered, shutting off the air pressure admitted through valves 22 and 23 and opening valves 24 and 25 which allow the air to escape and cause blocks 4 to descend until the pistons have reached the lower limit of their stroke, or until the air pressure is equalized against the weight of the screen mold apparatus or again raised to operate the pistons and raise the device. At this time the suction molds are immersed in the bath and the stock is being deposited on the screens 12 in a manner similar to that in which stock is deposited on the screens in a paper making machine. The cam is further rotated in order to again admit air into the cylinders and to raise the molds from the bath. The cam may be so shaped that it will raise the molds partially from the bath and hold them there during the interval required to deposit a thicker layer of stock on the lower portions of the screens. Thus a very thin film of stock may be deposited on the outer rim of the screen and a relatively thick film on the inner portion or apex, resulting in a molded diaphragm of varying thicknesses. When the screens emerge from the bath, the shaft 8 is rotated 180°to position another row of screen molds for immersion, while the screens on the first row are removed. It can be seen that the arrangement illustrated may be regulated to effect an automatic timing which permits keeping any desired portion of the mold in the fibrous suspension for any desired length of time, enabling a uniform or non-uniform film to be deposited on the mold.」
(抄紙液はタンク2へ入れられ、吸引ポンプ42が働き、動力手段34がギアヘ伝わる。カム28によってカムレバー26が上へ上がる。このカムレバーは、弁22、23を持ち上げてライン20、21を開けて空気圧をかける。
弁24、2 5はこの動作時点では閉じている。ブロック4と抄紙型機械装置が上がるように、空気圧はシリンダーの底部まで導かれ、ピストン18、19を上へ上げる。これは、それぞれの抄紙型がタンクの中の液面よりも上になるようにするためである。カムがゆっくり回転するとともにカムレバーは下がって、弁22、23を通してかかっていた空気圧を遮断し、弁24、25を開く。この結果、空気は逃げ、ブロック4は、ピストンがストロークの下限に達するまで、あるいは、空気圧が抄紙型機械装置の重量と同じになるまで、もしくは、再びピストンを動作させデバイスを上げるまで下降する、この時、吸引型は槽に浸され、抄紙液は、抄紙機のスクリーン上に堆積するときに似たかたちでスクリーン12の上に堆積する。カムは更に回転して空気を再度シリンダーに入れ、型を槽から上げる。カムは、糟から型を部分的に上げ、そこで型を、スクリーンの下部に抄紙液の厚い層ができるのに必要な時間、保持するような形状にしてもよい。このようにして、スクリーンの外側のリムには非常に薄い抄紙液のフィルムが、内側あるいは頂点に比較的厚いフィルムが堆積し、厚みの異なる振動板が成型される。スクリーンが槽から出ると、最初の一列のスクリーンが取り除かれる一方で、シャフト8は180度回転して別のスクリーンを一列、浸す位置に持ってくる。図示した配置で、タイミングを自動的にとらせるように制御できることが判る。こうすることによって、型の希望部分を繊維性の懸濁液の中に希望時間、保つことができ、一定のフィルムあるいは一定でないフィルムを型に堆積させることができることになる。)(2頁右下欄から16行?3頁左欄27行、翻訳文4頁下から17行?最終行)

(6)甲第6号証
甲第6号証には、パルプモールド成形体の製造方法に関し、以下の事項が記載されている。

(K6.1)(ニ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表面平滑性に優れ、良好な外観を呈する成形体を容易に製造し得るパルプモールド成形体の製造方法に関する」
(K6.2)(ヌ)「【0019】先ず図2(a)に示すように、抄紙型1をパルプスラリー2が満たされた容器3内に浸漬させる。抄紙型1をパルプスラリー2中に浸漬した状態下に、吸引パイプ32に接続されたポンプ等の吸引手段(図示せず)により、抄紙型1をその外部から内部へ向けて吸引する。吸引は前述した連通路を通じて行われる。即ち、前記連通路を通じてパルプスラリー2中の水分が吸引されて、抄紙型1の表面、即ち流体透過性材料20の表面に、パルプの繊維が堆積されてなる含水状態のパルプ層が形成される。前述の通り、コア10の外面と流体透過性材料20との間には所定の空間が存在しており、水の流通性が確保されているので、パルプ繊維の堆積は円滑に行われ、均一な厚みのパルプ層が形成される。尚、コア10が弾性変形可能な材料から構成されていることは前述の通りであるが、これに加えてコア10は、前記吸引によって変形しない程度の剛性を有していることが好ましい。」
(K6.3)(ネ)「【0020】パルプスラリー2は、パルプ繊維と水とからなるものでもよく、或いはこれらに加えてタルクやカオリナイト等の無機物、ガラス繊維やカーボン繊維等の無機繊維、ポリオレフィン等の合成樹脂の粉末又は繊維、非木材又は植物質繊維、多糖類等の成分を含有していてもよい。これらの成分の配合量は、前記パルプ繊維及び該成分の合計量に対して1?70重量%、特に5?50重量%であることが好ましい。パルプ繊維は、針葉樹または広葉樹等の木材パルプや竹、わら等の非木材パルプであるのが好ましい。また、パルプ繊維の長さと太さは、それぞれ0.1mm以上10mm以下、0.01mm以上0.05mm以下であるのが好ましい。」
(K6.4)(ノ)「【0021】所定の厚みのパルプ層が形成されたら、図2(b)に示すように抄紙型1をパルプスラリー中から引き上げ、引き続き吸引を行いパルプ層4を脱水して、その含水率を所定の値とする。吸引脱水後のパルプ層4の含水率は、60?95重量%、特に60?80重量%であることが、吸引によってパルプ層4を抄紙型1の表面に十分に保持し得る点、及び保持されたパルプ層4が脱落すること無く抄紙型1を搬送移動し得る点から好ましい。」

(7)甲第7号証
甲第7号証には、パルプモールド成形品の製造方法に関し、以下の事項が記載されている。

(K7.1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば粉粒体や液体等の如き収容物を収容するのに適したパルプモールド成形品の製造方法及びパルプモールド中空容器に関する。」
(K7.2)(ハ)「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を適用した具体的な第1の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は分割型をパルプスラリー中に浸漬させる状態を示す断面図、図2は分割型によって抄紙する状態を示す断面図、図3及び図4は一組の分割型を突き合わせる状態を示すものであり、図3(a)及び図4(a)はそれぞれ分割型を突き合わせる前の状態の横断面図、図3(b)及び図4(b)はそれぞれ分割型を突き合わせた状態の横断面図」
(K7.3)「【0003】上記特性を有したパルプモールド容器を製造するには、例えば特公昭51-34002号公報に開示されるように、成形体の形状に応じて形成したすき網をパルプスラリー中に浸漬し、該すき網を真空ポンプ等によりバキュームして該網の表面にパルプ繊維を堆積させた後、乾燥炉内に該すき網を搬送させパルプ繊維を乾燥させることにより、パルプモールド容器を得る。
【0004】しかしながら、上記の方法では、すき網に付着した抄造カス等の除去が困難であると共に、パルプ繊維がすき網に抱着してしまい、抄造後及び乾燥後の離型及び取出しが困難となり、製品デザイン上の制約を受ける。」
(K7.4)【0007】従って、本発明の目的は、大型の設備を必要とせず、且つ型から容易に成形品を取り出すことができ複雑な形状のパルプモールド成形品を均一な肉厚で製造することのできるパルプモールド成形品の製造方法及びパルプモールド中空容器を提供することにある。」
(K7.5)「【0011】さらに、本実施形態のパルプモールド中空容器の製造方法について、図面を参照しながら具体的に説明する。先ず、図1に示すように、分割型の外側面よりキャビティに連通する複数の連通孔1を有する一組の分割型2,3(図1では、一方の分割型3は図示を省略する)を用意する。本実施形態では、容器の形状に応じたキャビティ形状をそれぞれの分割型2,3の分割型内面2a,3aに付与してある。なお、図示は省略してあるが、各連通孔1はそれぞれ吸引管10に連通されており、該吸引管10を通して真空ポンプ等によりバキューム可能とされている。」
(K7.6)(ヒ)「【0012】次に、図2に示すように、一組の上記分割型2、3それぞれを、容器5内に満たしたパルプスラリー6中に浸漬させる。パルプスラリー6中に浸潰させるものに際しては、一組の分割型2、3を同時に浸漬させてもよく、または別々に浸潰させるようにしてもよい。パルプスラリーは、パルプ繊維を水に分散させて形成したものである。これらパルプ繊維の濃度は0wt%超6.0wt%以下が好ましく、更に0.1?3.0wt%とするのが好ましい。また、パルプ繊維は、針葉樹または広葉樹等の木材パルプや竹、わら等の非木材パルプであるのが好ましい。また、パルズ繊維の長さと太さは、それぞれ0.1?10.00mm、0.01?0.1mmであるのが好ましい、」
(K7.7)(フ)「【0013】そして、上記連通孔1よりバキュームしてパルプ繊維を、それぞれの分割型内面2a、3aに堆積させる。その結果、図3(a)に示すように、それぞれの分割型内面には、パルプ積層体7、8が形成される。その結果、図3(a)に示すように、それぞれの分割型内面には、パルプ積層体7,8が形成される。」

(8)甲第8号証
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

(K8.1)「【0002】
【従来の技術】従来、繊維懸濁液中に型を浸漬して内部を減圧することにより、型の表面に繊維層を付着させて型抄造品を得る技術は、パルプモールドとして周知であり、一部に於て容器や包装用パッキン等の製造に利用されている。しかし、この方法では吸湿、脱臭、磁気・電磁波の放射、薬効、肥効、その他、多くの機能を有する粉粒体の層を形成することは不可能であり、又、これら粉粒体を繊維と混合すれば層を形成させることはできても、この場合、粉粒体の多くが排水と共に流出するためロスが多く、又製品化した後も粉粒体の離脱が生じて安定した製品を得られない問題点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記問題点を解決するためになされたもので、型表面にあらかじめ繊維による粉粒体の遮蔽層を形成させて、その上に粉粒体層か、粉粒体と繊維との混合体層を重設することにより、従来不可能な粉粒体層の抄造形成を可能にすると共に、粉粒体と繊維との混合層の抄造形成も粉粒体のロスや製品からの離脱が少ない状態で安定して行える複層型抄造品の製品方法及び装置を提供する。」
(K8.2)「【0005】
【作用】本発明に係る複層型抄造品の製造方法及び装置は、各原料槽にそれぞれ原料懸濁液を供給して装置を運転すると、型はまず最初の原料槽の繊維を主体とした懸濁液中へ浸漬されて内部を減圧されるため、その表面に繊維による粉粒体の遮蔽層を形成されるから、このとき型内の減圧を停止して原料槽から引き上げ、次の原料槽上へ移して粉粒体の懸濁液中か、粉粒体と繊維の混合懸濁液中に浸漬して型内を減圧すれば、前記遮蔽層が粉粒体の排出を阻止するために遮蔽層の上に粉粒体層か、粉粒体と繊維の混合体層がロスなく確実に形成されるので、型を原料槽から引きげて製品を脱型すれば二層の型抄造品が得られる。しかし、前記した粉粒体層か粉粒体と繊維の混合層の上に更に被覆層を形成する必要がある場合は、型をその次の原料槽上に移動させ、繊維を主体とした懸濁液中へ浸漬して型の内を減圧すれば、粉粒体層か粉粒体と繊維の混合体層の上に繊維の被覆層が形成されるから、型を原料槽から引き上げて製品を脱型すれば三層の型抄造品が得られるものであり、更に粉粒体が有する機能を複合的に利用したい場合は、粉粒体層か粉粒体と繊維との混合体層を二層以上設ける必要があるので、この場合は原料槽を4槽以上に増し、型を懸濁液に浸漬する操作を4回以上行えば、4層以上の型抄造品を得ることができるものである。」
(K8.3)(ヘ)【0010】同図において符号8は型抄造品4を成形する型を示すもので、希望する製品の内側に合致する形状に形成して、その全面に図2?図5に示すように微細な搾水孔9を開口させ、上部には吸引管10を接続した減圧室11を連設することにより、この型8を原料層1?3内の懸濁液中に浸漬して、吸引管10により減圧室11内を減圧すると、懸濁液中の液分は搾水孔9と吸引管10を経て排出され、懸濁原料が型8の外面に付着するから、第1の原料槽1では型8の表面に粉粒体の遮蔽層aが、第2の原料槽2では遮蔽層aの上に粉粒体層か、粉粒体と繊維の混合体層bが、第3の原料槽3では粉粒体層か、粉粒体と繊維の混合体層bの上に被覆層cが形成される。」
(K8.4)(ホ)「【0011】同図において符号12は前記型8を移動させる移動枠を示すもので、前記複数の原料槽1?3の上方に配設した水平ガイド13に移動自在に係合させ、この移動枠12にモータ14により回転される移動手段の送りねじ15を螺合させることにより、該送りねじ15を一方へ回転させると、移動枠12が第1原料槽1の位置から第3原料槽3へ向かって進み、移動枠12へ昇降杆16により取り付けられる型8を第1、第2、第3の各原料槽1、2、3の上へ順次に位置付けするが、モータ14により送りねじ15を他方へ回転させると、移動枠12は第3の原料槽3の位置から第1の原料槽1へ向かって戻り、型8を第1の原料槽1の上へ位置付けする。」
(K8.5)(マ)「【0012】同図において符号17は前記型8を昇降させる手段のシリンダを示すもので、前記型8が移動枠12によって原料槽1、2、3のいずれかの上に位置付けされたとき、ロッド18を下降させて型8を原料槽1、2、3のいずれかの懸濁液中に浸漬し、この状態を一定時間保持させてからロッド18を上昇させて型8を懸濁液中から引き上げ、次の原料槽上へ移動させる。
【0013】同図において符号19は形成された型抄造品4を型8から受け取る外型を示すもので、この外型19は形成された型抄造品4の外形に合致する形状に形成して、その全面に図5?図7に示すように微細な搾水孔20を開口させ、下部には吸引管21を接続した減圧室22を連設してあり、この外型19は前記昇降手段17により型8が第3槽3の上方へ引き上げられると第3の原料槽3上へ移動され、昇降手段17により型8が下降されて型抄造品4を外型19内に収まらせたとき、吸引管21により減圧室22を減圧して型抄造品4を型8から受け取る」

(9)甲第9号証
甲第9号証には、パルプモールド製造装置について記載され、22頁の図3?図6に種々のタイプの成型機が記載されている。

(10)甲第10号証
甲第10号証は、「高度化集積等技術開発事業」と題された出版物であって、「高度化集積等技術開発事業」「紙製容器商品に必要な緩衝材料の開発について」「プレスモールドによる複雑形状品の開発について」、以下の事項が記載されている。

(K10.1)(ミ)「開発内容の実施状況
○1 プレスモールド抄紙装置の試作
取付台に原料タンク、エアーシリンダー、コンプレッサー、シーケンサ、温度調節器、吸引ポンプ、電磁弁、位置センサー、ヒーター、空気制御盤等の取付・調整を行い装置を完成させた。また2層抄紙、3層抄紙ができることを確認した。
○2 材料の検討及び抄紙
静的強度の高い材料配合条件及び緩衝性の高い材料配合条件を実験計画を組み単層抄紙で実施し、静的強度の高い配合条件及び緩衝性の高い材料配合条件を決定した。更に選定した材料配合を用いた2層抄紙、3層抄紙試験を行った。」(2頁下から4行?3頁1行?5行)。
(K10.2)(ム)「○1 開発の目的
活性化促進地域では伝統ある美濃手すき和紙を発祥の期限として1300年の歴史をもっている。当該地域が近代的な紙生産地として本格的な発展を歩み始めるのは、明治中期以降のことである。明治37年に美濃紙同業組合による抄紙試験場が設立され、更に昭和4年には県立製紙試験場が設置されて手すき業者の技術改良・新製品開発に当たった。
明治から大正にかけて和紙の生産は増加を続け、製造戸数は最盛期に4000戸に達し織物、陶磁器と並ぶ県下の三大生産物であった。しかし第2次世界大戦後は、終戦直後に手すき和紙業界が活況を呈した時期があってもののその後は衰退した。昭和30年代になると、機械漉き和紙の台頭によるちり紙、障子紙、謄写版原紙の生産が始まり、スピーカーコーンの生産も始まった。
音響部品製造業であるスピーカーコーン業界の現状は納入先である大手家電メーカー、自動車産業の海外進出の影響を受け、それまで7社が生産していた内2社が元請けとともに海外へ進出(1社は工場閉鎖)、2社が転業、1社が廃業している。
国内のスピーカーコーン業界も同様で海外進出か転廃業しており、円高に伴う影響はこの業界を直撃した。国内スピーカーコーン業界は壊滅状態である。集積地域に所在するスピーカーコーン製造業企業は生き残りをかけるために、新商品開発のためにスピーカーコーン製造技術を発展させたプレスモール料こよる複雑形状品の開発技術を検討した。
また、集積地域内の紙関連中小企業を対象に有志を募り「ファイバーモールド成型技術開発研究会」、「モールド企業化研究会」、「美濃ビューティーモールド協力会」といった組織の変遷をたどりつつプレスモールド包装材分野への進出を計画している。
○2 開発の必要性
特定中小企業活性化につながる新製品開発を促進するために、プレスモールドによる複雑形状品の開発が必要である。
現状のプレス成型技術は、スピーカーコーンに代表される単純形状でしかも平面的なものである。そのため新市場開発新製品開発するためには複雑形状品の開発技術は必要不可欠である。」(33頁5行?28行)

(11)甲第11号証
甲第11号証には、スピーカ用振動板の製造装置に関し、以下の事項が記載されている。

(K11.1)(メ)「この発明は少なくとも2層により構成されるスピーカ用振動板を接着工程を経ずして製造し得る装置を提供しようとしたもので、抄紙タンク内を成形型がアップダウンできるようにし、その抄紙タンク内に振動板の材料を交互に供給できるように構成したことを特徴とするものである。(1頁右欄24行?29行)
(K11.2)(モ)「各原料タンク3、例えば、原料タンク3 aには木材パルプが収容され、原料タンク3bには木材パルプ以外の繊維材液、詳しくは、合成繊維、金属繊維、ガラス繊維を浮遊状態にした液状原料が収められている。
次にこの発明による装置を用いてスピーカ用振動板の成形作業の実際を説明する。先ず、成形型2に直接密着する形成層となる木材パルプを原料タンク3aから抄紙タンク3に所定のレベルまで導入する。原料が満たされたところでエヤシリンダ21中を真空状態にして、大気圧によりロッド22と共に成形型2を下降させ、液状原料中を下降する間にその表面に木材パルプを付着させる。この場合、成形型2の表面に小孔を多数穿けてあるので、真空による吸気がこの小孔に作用して原料を吸着層設する。
成形型2に対する木材パルプの厚さは、抄紙タンク1中の滞留時間、あるいは真空による吸着時間、さらには真空圧の大小によって制御する。
次いで木材パルプを原料タンクに戻し、抄紙タンク1を空にして、再び、成形型2を上昇させる。そして、原料タンク3bから合成繊維の浮遊した液状原料を管路31を経由してポンプ32によって抄紙タンク1に送り込み、所定のレベルにする。この状態から負圧をエヤシリンダ21に作用させて成形型2を合成繊維を含む原料液中を下限まで下降移動させる。これにより、木材パルプの層の上側に合成繊維の層を層設する。この場合、成形型2に対して負圧が作用して合成繊維の層を形成する。」(2頁左欄35行?右欄20行)
(K11.3)(ヤ)「この発明のスピーカ用振動板の製造装置によれば、抄紙タンクに対し、任意の原料を導入して溜め、この抄紙タンク中に成形型を沈めながら原料を吸着させて、成形型の表面に振動板を形成する層を設け、これを異なった原料中で所望の回数繰返し行うように構成したので所望の層の層設でき、しかも各層間に接着剤が存在しないので、品質のばらつき、チップなどがなく、振動板の物理的性質、ヤング率、内部損質などを容易にコントロールでき、原料の配合を変化させて得た振動板より多層の振動板の方が優れた特性をもつ振動板とすることができ、しかも、それを容易に製作することができる。」(2頁右欄31行?43行)

[3]無効理由1(本件発明1、特許法第29条第2項)について
以下、甲第1号証、甲第2号証などを、「甲1」、「甲2」などともいう。
まず、甲6は、本件出願日である平成13年10月5日後の平成14年5月22日に頒布された刊行物であり、特許出願前に頒布された刊行物ではない。甲6は、各無効理由の証拠として採用しない。

[3.1]本件発明1
(a)構成要件
本件発明1は、【第2】で前記した請求項1記載のとおりの構成要件をその構成としたものと認められるところ、以下での検討の便宜上、本件発明1の構成要件を次のとおりA?Dに分説する(以下、この分説に従って、「構成要件A」などという。)。

A:少なくとも複数の抄紙工程を備えており、
B:一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する
C:多層漉き抄紙法を用いた、
D:多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法。

構成要件Bは、さらに、先後関係にある前半部の工程B1と後半部の工程B2の2つの工程に、次のとおり分説する(以下、この分説に従って,「工程B1」,「工程B2」という。)

構成要件B:工程B1後に工程B2を行う
工程B1:一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、
工程B2:吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にあ る紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する

本件発明1の工程B2は、実質的に「二次抄紙」を含め「二次抄紙」後に続く「三次抄紙」「四次抄紙」・・・の構成を特定するものであるが、図1(f),図3,前掲(M5)(M6)からすれば、本件発明1には、二次抄紙までで三次抄紙がないものも含まれることは明らかであるから、上記工程B2の「二次抄紙以降」とは「二次抄紙」までのものを含む意味と解する。

(b)目的・課題、作用効果
前掲(M1)?(M8)の記載によれば、
本件発明1は、音響機器に用いるスピーカ用振動板の製造方法に関するものであって、
〈課題〉
従来の単一構造のスピーカ用振動板の製造方法である紙料液を下方へ排水して紙料を堆積する抄紙法では、排出する産業廃棄物の削減が困難であり、また、そのような抄紙法による単一構造の振動板では、従来の音質を超える音造りが難しいという課題や、以前に考案された多層構造の振動板では、同一材料の積層した物、積層の境界が不明確な物、紙料に条件がある物などの制約があるという課題があるところ(前掲(M1)(M2))、
〈構成〉
この課題を解決するために、上記構成要件A?Dの製造方法を採るものであり、
〈作用効果〉
このうち、特に構成要件Bの抄紙法とすることにより、網目状に荒れた紙料の裏面側が開放され、その網目状に荒れた堆積した紙料の裏面側へ、紙料液に浮遊している繊維が上方に移動しつつ絡み付いて堆積するという作用(長所)をなし、その結果、乾燥後は、積層した境界が明確に判別できる多層構造になり、機械的な結合と水素結合によって、強固に一体化した振動板が製造できるという効果を奏するものと認められる(前掲(M3):段落0011)。

(c)本件発明1の特徴、技術的意義
以上によれば、上記作用効果をもたらす構成要件B(工程B1後に工程B2を行う)は、本件発明1の本質的部分であって中心的特徴をなす構成要件であるということができ、その技術的意義は上記作用をなすことにあると認められる。これを、工程B1,工程B2に対応づければ、すなわち、
(i)まず、「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」(工程B1:転写工程)により、一次抄紙網に堆積した紙料が、その裏面側が二次抄紙網の表面になるように剥ぎ取られて二次抄紙網に写り(図1(c))、その結果、堆積した紙料の一次抄紙網側の剥ぎ取られた網目状に荒れた面(裏面)が開放され、
(ii)続いて、「吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する」(工程B2:二次抄紙)(図1(d)(e))により、十分に水を含んだ網目状に荒れた堆積した紙料の裏面側へ、紙料液に浮遊している繊維が上方に移動しつつ絡み付いて堆積し、
その結果、乾燥後は、積層した境界が明確に判別できる多層構造になり、機械的な結合と水素結合によって、強固に一体化した振動板が製造できるものということができる。

[3.2]甲1発明に基づく容易想到性(甲1発明を主引用発明として)

請求人は、甲1発明に、甲2?甲9発明を組みあわせることで、本件発明1は容易に想到し得る旨主張する。また、甲1発明の、2種の無機鱗片材の自然堆積による抄紙を、適宜の紙料の下方への吸引・排水堆積する一次抄紙に置き換えることは容易である旨も主張する。
そこで、本件発明1と甲1発明と対比する。

(1)甲1発明

(a)目的・課題、構成、作用
前掲(K1.1)?(K1.13)の記載によれば、
甲1発明は、電気音響変換器用振動板の改良に関し特に無機鱗片材を使用した振動板に関するもの(前掲(K1.3))であって、

〈課題〉
無機鱗片材と熱硬化性樹脂よりなる振動板は、従来の、例えば紙パルプや合成樹脂よりなる振動板に比較してヤング率が高く、かつ比弾性率も大きく、耐湿性、難燃性にも優れていることから、種々考案され、現実に実用化されているところであるが、
無機鱗片材と熱硬化性樹脂よりなる振動板の、従来の製造法である、
無機鱗片材を適度な粒径に破砕した後、抄水中に分散せしめ通常の抄造方法によりコーン形等の振動板形状の抄網に堆積せしめた後、熱硬化性樹脂と硬化剤を含浸し、振動板形状の加熱金型によりプレス成形する製造法は、
(i)振動板1個ごとに前記作業を必要とする結果量産性が極めて悪い。
(ii)無機鱗片材は紙パルプ繊維とは異なり無機鱗片材相互の絡み合いが殆んどないため、振動板形状に抄くことが極めて困難であり、成形された振動板の形状および物性のバラツキが大きい、
というような課題(欠点)を有していたところ(前掲(K1.4))、
この課題を解決するために、

〈構成〉
低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)とを抄き水中に分散せしめ、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)とを漉き網上に自然堆積せしめて、
沈降速度に差により2種の無機鱗片材のうち高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)が先に抄き網上に堆積し高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)を主とした層を形成し、その上に低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)を主とした層を形成するようにして積層体を形成する第1の抄造工程と、
第1の抄造工程により得られた積層体を他の抄き網に転写、すなわち高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)層と低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)層とが逆になるように他の抄き網上に戴置する工程と、
当該転写された積層体を、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)単独又は、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)とを分散した抄き水中に配置して転写された積層体上に前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)単独または、低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)とを自然堆積せしめる第2の抄造工程と、
これらの工程で得られた3層積層体に熱硬化性樹脂と硬化剤を含浸してプレプレグを得る工程と、
前記プレプレグを振動板形状にプレス成形する工程とよりなり、
低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)を主として有する層(1a)(1a)間に高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)を主として含有する層(1b)を介在せしめた3層積層体と、当該各層に含浸された熱硬化性樹脂とからなる電気音響変換器用振動板を製造する
という構成を採るものと認められる。
(なお、前掲(K1.11)からすれば、前掲(K1.6)「高弾性で低密度の無機鱗片材として・・・グラファイト粉体を主とした層が形成される。」工程を「第1の抄造工程」と称し、前掲(K1.7)の「これを前記工程と同様にして抄き網をマイカ粉体とグラファイト粉体を分散した抄き水中に配置して15分程度自然堆積せしめ、マイカ層の上に更にマイカ層を、その上にグラファイト層を堆積せしめる。」工程を「第2の抄造工程」と称しているといえるから、これらの用語を用いて上記構成を記載した。)

〈作用〉
そして、本件発明1は、上記の構成により、
「沈降速度に差により2種の無機鱗片材のうち高密度のマイカ粉末が先に抄き網上に堆積しマイカ粉体を主とした層を形成し、その上に低密度のグラファイト粉体を主とした層が形成される。」(前掲(K1.6))、
「当該振動板1は第1図に示すように表層部が高弾性で低密度のグラファイト粉末を主体とし若干の低弾性で高密度のマイカ粉末を含有する無機鱗片材層1aが、中間層部に低弾性で高密度のマイカ粉末を主体とし若干の高弾性で低密度のグラファイト粉末を含有する無機鱗片材層1bがそれぞれ成層され、これらがエポキシ樹脂で一体化された構成を有する。」(前掲(K1.8))、
「当該構成は前述のごとく2種の無機鱗片材の密度および粒径の差により抄き水中での沈降速度の差を利用することにより達成できたものである。」(前掲(K1.9))、
「振動板の上下面に高弾性率層が配置され、その中間にこれよりも低弾性率の層が介在することによるサンドイッチ構造による構造的な強度が附加され」、「マイカ層とグラファイト層との間に明確な境界が存在しないのでこの種のサンドイッチ構成における境界面でのすべりによる曲げ剛性の劣化を防止できるし、境界面での剥離を防止することができる。」(前掲(K1.10))
の作用をなし、これにより、上記の課題を解決するものと認められる。

(略記)
以下、簡単のため、
「高密度で低弾性の無機鱗片材(マイカ粉末)」を『マイカ鱗片材』とも、 「低密度で高弾性率の無機鱗片材(グラファイト粉末)」を『グラファイト鱗片材』とも、これらを合わせたものを『2種無機鱗片材』とも、『』付きで略していう。

(b)特徴(特徴構成、技術的意義)
上記(a)によれば、上記作用をなし上記課題に適合する、甲1発明の特徴(特徴構成およびその技術的意義)は、以下の2点に集約される。

特徴1
『2種無機鱗片材』の自然堆積による抄造という構成(特徴構成1)を採ることにより、明確な境界がなく境界面でのすべりによる曲げ剛性の劣化や剥離しにくい2層を1度の抄造で形成する(技術的意義)こと。
これは、自然堆積における「沈降速度の差」を利用することにより、マイカ粉末を主体とするも若干のグラファイト粉末を含有する層の上に、グラファイト粉末を主体とするも若干のマイカ粉末を含有する層が成層されて達成されるものであり、この特徴1は、甲1発明の本質部分であると認められる。

特徴2
上記特徴構成1で得た2層を転写しさらに自然堆積する構成(特徴構成2)を採ることにより、特徴構成1としてなお、上下面が高弾性率層(グラファイト主体の層)が配置され、その中間にこれよりも低弾性率の層(マイカ主体の層)が介在する構造的な強度が附加された3層サンドイッチ構成とする(技術的意義)こと。
これは、転写により下層のマイカ主体の層を上側にしておき、その後、その上に同じマイカ主体の層、さらにグラファイト主体の層が自然堆積することにより4層とはならずに3層が形成され、第1の抄造と同様、中間層と3層目間には明確な境界はできないことにより達成される(第2の抄造で『グラファイト鱗片材』単独の場合も、3層が形成される点は同様。)ものである。
〈転写の意義〉
そして、転写の意義は、自然堆積による第1の抄造では下層とならざるを得ないマイカ主体の層の上に更にもう1層堆積させる必要から、その後の第2の抄造に備えて、第1の抄造工程により得られた積層体の上下を逆にして(つまり、第1の抄造において抄き網側であった)下層のマイカ主体の層を上側にしておき、その後の第2の抄造工程での堆積と相まって、当該高密度低弾性率無機鱗片材層が3層サンドイッチ構造の中間部となるようにすること、にあると認められる。

(2)甲1発明との対応関係
本件発明1と甲1発明とを対比する。

《目的・課題》
本件発明1と甲1発明とは、多層構造のスピーカ用振動板の製造方法の改良である点で共通する。

《構成要件》
本件発明1の上記各構成要件A?D毎に、甲1発明の上記〈構成〉と対比する。

(a)構成要件D(多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法)
甲1発明の「電気音響変換器用振動板」は「3層」(第1図)からなり、「多層構造と特徴とするスピーカ用振動板」といい得るものである。
甲1発明と本件発明1とは、構成要件D「多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法」において一致する。

(b)構成要件A(少なくとも複数の抄紙工程を備えており、)、紙料
(b1)複数の抄紙工程
前記した甲1発明の構成(前記[3.2](1)(b))によれば、甲1発明は「一次抄造工程」と「二次抄造工程」を備えている。
他方、本件発明1は「一次抄紙」および「二次抄紙」という「少なくとも複数の抄紙工程を備えており」とするところ、「抄紙工程」が「抄造工程」の一種であることは明らかであるから、甲1発明と本件発明1とは、構成要件A「少なくとも複数の抄造工程を備えており」とする点において一致する。
(b2)紙料(抄造用材料)
もっとも、本件発明1の「紙料」に対応する、甲1の抄造用の材料(以下、「抄造用材料」という)は、『2種無機鱗片材』{低密度で高弾性の無機鱗片材(グラファイト粉末)と高密度で低弾性の無機鱗片材(マイカ粉末)}であるところ(ただし、二次抄造にあっては、『グラファイト鱗片材』を単独でも用いる)、無機鱗片材は「紙料」とはいえないから、抄造用材料において相違する。
甲1発明の無機鱗片材は、「紙パルプ繊維とは異なり無機鱗片材相互の絡み合いが殆んどない」(前掲(K1.4))のに対して、本件発明1は、前記したように「網目状に荒れた紙料の裏面側へ」「紙料液に浮遊している繊維が絡み付いて堆積する」(前掲(M3))ことを、その特徴とするものであり、「有機繊維や無機繊維」(段落0019)が想定されていることからすれば、本件発明の「紙料」とは、少なくとも繊維材料であって、絡み付き得る材料としての意味での「紙料」と解される。したがって、上記したように抄造用材料において相違がある。
なお、「粉体」(段落0019)は「繊維が絡みついて堆積する」ものではなく、本件発明1の「紙料」からは除外されていると言うべきである。
(b3)同様に、甲1発明における「一次抄造」,「二次抄造」は、本件発明1のような「一次抄紙」,「二次抄紙」ということはできず、相違が認められる。また、甲1発明における「堆積した抄造用材料」,「二次抄造網」,「抄造用材料分散液」(後記(c)参照)、「多層漉き抄造法」(後記(d)参照)は、それぞれ、本件発明1のような「堆積した紙料」,「二次抄紙網」,「紙料分散液」,「多層漉き抄紙法」ということはできず、相違が認められる。
しかし、これらの相違は、本件発明1の抄造用材料が「紙料」であるという上記相違に伴う表現上のものであり、実質的な相違点ではない。

(c)構成要件Bについて
(c1)工程B1(一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、)
甲1発明の「第1の抄造工程により得られた積層体を他の抄き網に転写、すなわち高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)層と低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)層とが逆になるように他の抄き網上に戴置する工程」において、「他の抄き網」は第2の抄造工程で使用する抄き網であるから、「二次抄造網」ともいい得る。甲1発明は、一次抄造で堆積した抄造用材料(『2種無機鱗片材』)を「二次抄造網に転写」しているものといえる。
甲1発明と本件発明1とは、抄造用材料における上記相違を除き構成要件B1とする点、すなわち、「一次抄造で堆積した抄造用材料を二次抄造網に転写して、」とする点において一致する。
(c2)工程B2(吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する)
(ア)甲1発明が「当該転写された積層体を、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)単独又は、前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)とを分散した抄き水中に配置して転写された積層体上に前記低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)単独または、低密度で高弾性率を有する無機鱗片材(グラファイト粉末)と高密度で低弾性率を有する無機鱗片材(マイカ粉末)とを自然堆積せしめる第2の抄造工程」を備えることは前記のとおりである。
(イ)この「第2の抄造工程」における「抄き水」は二次抄造の漉き槽にあるといえるから、甲1発明の「分散した抄き水中に配置して・・・自然堆積せしめる」は、抄造用材料における上記相違を除き工程B2が規定する「二次抄造の漉き槽にある抄造用材料分散液の液中に置き、堆積する」と一致する。
(ウ)しかし、甲1発明の「置き」は、転写した「抄造用材料を二次抄造網上に載置した状態で」なされ、工程B2が規定するように「〔紙料を二次抄紙網に〕吸着せしめた状態を維持しながら」なされるのではなく、また、甲1の「堆積」は、「自然堆積」でなされ、工程B2が規定するように「上方に排水して」なされるものでもない。「置き」と「堆積」の仕方について相違が認められる。
(c3)工程B2(二次抄紙以降)
本件発明1には、二次抄紙までで三次抄紙がないものも含まれることは前記したとおりであるから、甲1発明には第3の抄造工程は存在しないものの、この点は、相違点とはならない。

(d)構成要件C(多層漉き抄紙法を用いた、)
甲1発明は、第1の抄造工程により『2種無機鱗片材』が異なる層として堆積した2層積層体上に、第2の抄造工程により『2種無機鱗片材』または『グラファイト鱗片材』単独を堆積して、2回の漉き(抄造)により3層を形成するものであることは前記のとおりである。
甲1発明と本件発明1とは、抄造用材料における上記相違を除き「多層漉き抄造法を用いた、」とする点において一致する。

(3)一致点・相違点
本件発明1と甲1発明との一致点・相違点は、下記のように記述できる。

記(一致点)
少なくとも複数の抄造工程を備えており、
一次抄造で堆積した抄造用材料を二次抄造網に転写して、
二次抄造の漉き槽にある抄造用材料分散液の液中に置き、堆積する
多層漉き抄造法を用いた、
多層構造を特徴とするスピーカ用振動板の製造方法。

記(相違点)
[相違点1](抄造、抄造用材料の相違)
本件発明1では、抄造用材料が「紙料」であり、これに伴い、複数の抄造工程、堆積した抄造用材料、二次抄造網、多層漉き抄造法、がそれぞれ、「複数の抄紙工程」、「堆積した紙料」、「二次抄紙網」、「多層漉き抄紙法」であるのに対して、
甲1発明では、抄造用材料が『2種無機鱗片材』(二次抄造にあっては『グラファイト鱗片材』単独の場合を含む)である点。

[相違点2](抄造方法の相違)
二次抄造が、
本件発明1では、「吸着せしめた状態を維持しながら、分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する」のに対して、
甲1発明では、「載置した状態で、分散液の液中に置き、自然堆積する」点。

なお、「高密度で低弾性の無機鱗片材(マイカ粉末)」を『マイカ鱗片材』と略記し、「低密度で高弾性率の無機鱗片材(グラファイト粉末)」を『グラファイト鱗片材』と略記し、これらを合わせたものを『2種無機鱗片材』と略記していることは、前記したとおりである。

(4)相違点の判断

(4.1)相違点の克服
[相違点1]は、甲1発明の抄造用材料である『2種無機鱗片材』を「紙料」に置き換えることで克服される(「置換1」という。)。
[相違点2]は、甲1発明の二次抄造である「〔抄造用材料を二次抄造網に〕載置した状態で、二次抄造の漉き槽にある抄造用材料分散液の液中に置き、自然堆積する抄造法」を「〔紙料を二次抄紙網に〕吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄造の漉き槽にある抄造用材料分散液の液中に置き、抄造用材料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する抄造法に置き換えることで克服される(「置換2」という。)。

(4.2)置換容易性の判断
上記置き換え(「置換1」および「置換2」)が、当業者が容易になし得るか否かについて、甲1発明(甲1号証)および甲2?甲11号証(甲6号証を除く)の記載に基づいて、以下に検討する。

(a)置換を困難とする事情(絡み合いの有無、適用対象の相違)
甲1発明は、前記したその課題・構成・作用に照らせば、製造方法の対象を専ら「無機鱗片材と熱硬化性樹脂よりなる振動板」に限定し、従来の「紙パルプよりなる振動板や合成樹脂製振動板」をその対象に含むものではない。
特に、「無機鱗片材は紙パルプ繊維とは異なり無機鱗片材相互の絡み合いが殆んどない」に照らせば、「無機鱗片材相互の絡み合いが殆んどない」という「無機鱗片材と熱硬化性樹脂よりなる振動板」にとって特有の課題認識に基づき、(2種の)無機鱗片材料を前提にこれに適合する特有の抄造工程を採ることにより同課題を克服するものであり、本件発明1のような、「繊維が絡みついて堆積する」ところの「紙料」は全く想定されておらず、「紙料」は甲1の適用対象外である。
したがって、甲第1号証に接した当業者が、甲1発明を「繊維が絡みついて堆積する」振動板の抄紙法に適用することを試みようとすること自体困難というべきである。したがって、上記「置換1」は困難である。

(b)置換を妨げる事情(抄造原理の相違、特徴1の放棄)
甲2?甲11(甲6を除く)に記載されるように、抄造材料を紙料とした抄紙法はすべて「排水による堆積」(排水堆積)を採用する(後記(c1)参照)。
そうすると、甲1発明の『2種無機鱗片材』を「紙料」に置き換える(置換1)には、「自然堆積」をこれとは原理が異なる「排水堆積」へと抄造法を変更する必要がある。
しかし、このことは、前記した甲1発明の「特徴構成1」であって本質部分をなす「自然堆積」を放棄することになる。すなわち、甲1発明の「自然堆積」の本質は、2種の抄造材料を用い「沈降速度の差」を利用して剥離しにくい2層を1回の抄造で形成することにあり、抄き水を排水したのでは「沈降速度の差」(堆積速度の差)などの条件を保証することが困難となるからである。
したがって、置き換えを妨げる事情があるのであり(この事情は、二次抄造においても同様である)、上記「置換1」は困難であるというべきである。

(c)置換を妨げる事情(抄造原理の相違、特徴2の放棄)
また、「紙料」の「排水堆積」では、1回の抄紙で形成される層は基本的に1層となり、2回の抄紙(第1の抄造及び第2の抄造)によっても、3層サンドイッチ構成はできない。すなわち、上記置き換えは、甲1発明の前記「特徴2」をも放棄することになる。
このことからも、上記「置換1」は困難であるというべきである。

(d)置換を妨げる事情(抄造原理の相違、堆積方向の相違)
仮に、抄造材料を「紙料」とし、かつ「自然堆積」をこれとは原理が異なる「排水堆積」へと変更するとしても、本件発明1のように、転写後の二次抄紙を「上方に排水して堆積する」とする構成が得られるものでもない。なぜなら、「自然堆積」の堆積方向は必ず「下方」(重力方向)であり、重力に反して「上方」に向けて堆積することは他の動機付けがない限り、想定外である。上記「置換2」も困難である。

(e)動機付けとなるに足る技術的課題の欠如
仮に、上記事情(甲1発明の本質(自然堆積)を放棄すること)にもかかわらず、それでも上記「置換1」が容易想到であるというためには、その本質(自然堆積)を無視し放棄してでも、「置換1」後の構成(本件発明1の相違点1に係る構成)に至らしめるに足る明確かつ強い示唆等の動機付けを要するというべきところ、以下に示すように甲2?甲11(甲6を除く)のいずれを見ても、本件発明1の相違点1に係る構成である、工程B1「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」後に二次抄紙する構成、つまり、「紙料」について「一次抄紙→二次抄紙網に転写→二次抄紙」とする構成に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことができない。
したがって、上記「置換1」は困難である。

《甲2?甲11(甲6を除く)の記載の検討》
(e1)「紙料」、排水堆積する抄紙法
前掲(K2.1)?(K11.3)によれば、甲2?甲5、甲11にはスピーカ用振動板の製造に用いる抄紙が、甲7?甲10はパルプモールド品の製造に用いる抄紙が記載されていて、それら甲2?甲5、甲7?甲11のいずれもが、抄造用材料を「紙料」とし排水して堆積する抄紙法を採り、自然堆積する抄紙法を採るものはない。
(e2)工程B1後に二次抄紙する構成について
〈甲2〉
下方に排水して堆積する抄紙工程(一次抄紙)で堆積した紙料を、圧縮空気によって「転置網32」に転置し、さらに同じく圧縮空気によって「成形網36」に転置することが記載されているが、両転置は、それぞれ、みみず状隆起の圧解、ケバ立ちの消滅・プレスのためのもの(前掲(K2.4)(K2.5))であって、これら「転置網32」,「成形網36」はいずれも抄紙する為の網ではなく「二次抄紙網」ではない。したがって、甲2は、工程B1「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」とするものでもなく、二次抄紙工程もない。甲2に工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈甲3〉
下方に排水して堆積する一次抄紙に続いて、同じく下方に排水して堆積する二次抄紙する工程は記載されているが、工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
なお、「吸引ダイ即ち箱22」は、多くの開孔部24が設けられているものの、「ブランク」(繊維材料の一体化層)を「剥ぎ取」って「プレス」するためのもの(前掲(K3.5))であって、「網」ではないし抄紙のためのものでもなく、「二次抄紙網」ではない。、
〈甲4〉
後記([3.3](2))するように、一次抄紙で作製した基体振動板上にパルプを水平方向に吸引堆積する工程は記載されているが、工程B1「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」とするものではない。甲4に工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈甲5〉
上方に排水して堆積する唯1回の抄紙工程(一次抄紙)は記載されているが、転写・二次抄紙については示唆も記載もない。甲5に工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈甲7〉
上方または水平方向に排水して堆積する抄紙工程が記載されているが、転写・二次抄紙については示唆も記載もない。甲7に工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈甲8〉
上方に排水して堆積する抄紙を繰り返し行う工程が記載されているが、転写後の抄紙については示唆も記載もない。甲8に工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈甲9〉
上方または下方に排水して堆積する抄紙工程が記載されているが、転写後の抄紙については示唆も記載もない。甲9に工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈甲10〉
排水(排水方向は定かではない)して堆積する抄紙を複数回繰り返すことは記載されているが、工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈甲11〉
下方に排水して堆積する抄紙を繰り返し行う工程が記載されているが、転写後の抄紙については示唆も記載もない。甲11に工程B1後に二次抄紙する構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできない。
〈まとめ(e2)〉
甲2?甲11(甲6を除く)のずれにも、工程B1後に二次抄紙する構成に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことはできない。

(f)「置換2」について
甲1発明において、第2の抄造工程の抄造用材料として『グラファイト鱗片材』単独を用いる場合は「沈降速度の差」を利用しないから、下方への排水堆積も上方への排水堆積もできなくはないと一応考えられる。
しかし、その場合でも、3層サンドイッチ構成を形成する(前記「特徴構成2」)以上、第1の抄造工程において剥離しにくい2層を形成しておく必要がありあくまで「自然堆積」を基本とすることに変わりはなく、第2の抄造工程のみを積極的に「排水堆積」とする意義はない。さらに、堆積方向を「上方」に変更するには新たな吸引設備も要すると考えられるところ、これらを押して「上方に排水して堆積する」構成とする利点や示唆も、同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題等も見いだすことができない。
したがって、上記「置換2」は容易とはいえない。

(4.3)まとめ(相違点の判断)
以上によれば、上記「置換1」も「置換2」も困難であり、上記各相違点に係る本件発明1の構成は、いずれも当業者が容易になし得たとすることはできない。

(5)請求人の主張について

(a)主張1
請求人は、甲1発明において、抄造用材料を「グラファイト鱗片材」単独とした場合は、沈降速度の差を利用しないから「自然体積」でなくても良く、「上方に排水して堆積する」抄造と変更することを妨げる要因とはならない、と主張する。(口頭審理)
この主張は、甲1において、一次抄造については、その抄造用材料(『2種無機鱗片材』)も抄造法(自然堆積)も変更せず、二次抄造については、その抄造用材料(『グラファイト鱗片材』単独)はそのままでその抄造法のみを「自然体積」から「上方に排水して堆積する」に変更することはまず容易であるとした上で、一次抄造及び二次抄造の抄造用材料を「紙料」に変更することも容易である(このような2つの変更は容易であり、したがって、本件発明1に至る)との主張と思われる。
しかしながら、そのような2つの変更が容易とはいえないことは、上記(4.2)で既に判断したとおりである。

(b)主張2
請求人は、甲1には、本件発明1の基本的な技術的思想である「一次抄紙工程→転写工程→二次抄紙工程(逆さ漉きの点を除く)」の先後関係が開示されていることを重要視し、これらの工程を経て多層のスピーカ用振動板を製造する点について本件特許発明1と共通する旨、主張する。
請求人の主張は、甲1に「一次抄紙工程→転写工程→二次抄紙工程」との基本的な技術的思想が開示されていることを前提とするものである。しかし、甲1全体をみても、材料および抄造法を一般化した技術的思想が記載されているとはいえないので、そのような前提は妥当とはいえない。主張は、前提を欠いており、採用できない。
すなわち、前記([3.2](1)(b))したように、甲1の技術的意義(一次抄造工程→転写工程→二次抄造工程とする技術的意義)は、「2種無機鱗片材を用いた自然堆積による抄造」としてなお、上下面に高弾性率層が配置され、その中間にこれよりも低弾性率の層が介在するサンドイッチ構成を達成することにあり、転写の意義は、「2種無機鱗片材」を用いた自然堆積による抄造では、下層とならざるを得ない高密度低弾性率無機鱗片材層の上に更にもう1層堆積させる必要から、その後の第2の抄造工程に備えて第1の抄造工程により得られた積層体の上下を逆にしておく、ということにつきるものである。
甲1は、かかる技術的意義とは別に、抄造用材料を「2種無機鱗片材」ではない紙料としたり、抄造法を「自然堆積」ではない排水堆積としたりするなど、種々の材料を用いた種々の抄造法にまで抽象化し一般化した技術的意義をなんら開示するものではない。
なお、仮に、甲1に接した当業者が、甲1特有の上記転写の意義を離れて「一次抄造工程→転写工程→二次抄造工程」を把握することができたとしても、単に、一次抄造網に堆積した堆積物の裏面(一次抄造網側面)にさらに重ねて堆積するための一手段としてこれを理解するに止まるのであって、
排水堆積して製造する“紙”の振動板の抄紙においては、余分な転写工程を介さずとも一次抄紙に続けて二次抄紙を単純に繰り返せば2層にできる(甲3、甲8、甲11等)ところを、これを押してこのような手段を採用することの必要性や利点・動機付け・技術的課題がどこにも示されていないのであるから、上記「置換1」は困難であるし、排水堆積して製造する“紙”の振動板の抄紙において「一次抄造工程→転写工程→二次抄造工程」を採用することは困難である。

(6)まとめ([3.2])
以上によれば、本件発明1は、甲1発明に甲2?甲11(甲6を除く)を組みあわせることにより容易に想到する、とすることはできない。


[3.3]甲2?甲11発明(甲6を除く)に基づく容易想到性の検討(甲2?甲11発明を主引用発明としての検討)
甲2?甲11(甲6を除く)のうち、構成要件A:「少なくとも複数の抄造工程を備えており」を開示するのは、甲3、甲4、甲8、甲10、甲11である。念のため、本件発明1は、これらの各甲号証に残りの各甲号証を組みあわせることにより容易に想到し得るか否かについて、検討する。
(請求人は、これら各甲号証のうち甲4は、「一次抄紙→転写→二次抄紙」を示唆していると主張するので、甲4については他と分けて検討する。)

(1)甲3、甲8、甲10、甲11発明について(本件発明1との相違)
甲3、甲8、甲10、甲11は、いずれも、「紙料」を用い、一次抄紙に続けて二次抄紙を単純に繰り返すことにより、多層構造を製造するものにすぎない。また、甲3、甲8、甲10、甲11には、一次抄紙と2次抄紙との間に転写などの別の工程を介在させるという技術思想やこれに至る動機付けとなるに足る技術的課題を見いだすことはできないことは、既に前記したとおりである((4.2)(c2))。
すなわち、甲3、甲8、甲10、甲11発明は、いずれも、少なくとも、「工程B1(「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」)後に二次抄紙する構成」を備えていない点で本件発明1と相違する。
また、これら各甲号証には、上記構成に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことはできない。

(2)甲4発明について(本件発明1との相違)
(a)甲4発明
前掲(K4.1)?(K4.11)によれば、甲第4号証には、概要、紙振動板の従来の目止め処理であるフィルムラミネートや塗料の塗布に代わり、紙振動板の特徴である低密度、高剛性、低損失の各特性を損なうことなく目止め処理(確実に気密性を高めること)が可能な音響振動板の製造方法を提供することを目的とし、
通常の抄造方法によって作製された基体紙振動板5上に、ミクロフィブリル化したパルプを吸引堆積して、堆積層7を基体紙振動板5の表面に形成する音響振動板の製造方法が記載されている。
前掲(K4.7)(K4.9)によれば、甲4では、基体紙振動板5上へのパルプの吸引堆積は、「通常の抄造方法によって作製された」「基体紙振動板5を」、「吸引用筐体3の前面3bに設けられた」「開口部を塞いで」「開口部に密閉装着し、真空吸引しながらパルプ分散液2中に浸漬する」ことにより、「パルプ分散液2は基体紙振動板5の背面側から吸引され、当該紙振動板5を透過する」ようになされる。
甲4は、基体紙振動板5上にパルプを吸引堆積する工程の前に、基体紙振動板5を通常の抄造方法によって作製する工程(一次抄紙)を有するといえ、複数の堆積工程を備えている。

(b)本件発明1との対応(工程B1関連)
甲4は、本件発明1の工程B1(一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、)に対応する工程として、上記「通常の抄造方法によって作製された基体紙振動板5を、吸引用筐体3の前面3bに設けられた開口部を塞いで開口部に密閉装着し、」とする工程を有しているが、
以下に示すように、甲4は、「二次抄紙網」を用いず、「基体紙振動板5」は本件発明1の「堆積した紙料」とはいえず、したがって、「開口部を塞いで開口部に密閉装着し、」とする工程は、工程B1とは異なる。
(ア)甲4は、二次抄紙網を用いない。
「開口部を塞いで開口部に密閉装着し」「背面側から吸引され、当該紙振動板5を透過する」からすれば、吸引用筐体3は、その前面3bに開口部が設けられているのみで抄き網を有するものでなく、基体紙振動板5は、その開口部を当該基体紙振動板5で塞ぐように開口部に装着・取り付けられるものと解される。すなわち、上記吸引堆積は、抄き網を用いてなされるものとはいえない。
(イ)「基体紙振動板5」は、「堆積した紙料」とはいえない。
本件発明1の「堆積した紙料」は、「紙料」と称されていて、これに続く「を二次抄紙網に転写して、」を前提とするもので、転写後の二次抄紙で繊維が絡み付くものでなければならず、「未だ十分形態がなくそれ自体では形態が保持できない」「堆積した状態の紙料」であるのに対して、
「基体紙振動板5」は、「基体紙振動板5」との名称、「通常のコーン紙とした」((K4.8))の記載、これを扱う上で、「装着」や「取付け」と表現していること、上記吸引堆積は、従来の、フィルムラミネートや塗料の塗布に代わる目止め処理として行われるものであること(前掲(K4.3.))、前記したように「吸引用筐体3の開口部を塞いで開口部に密閉装着し」た状態で真空吸引され得るものでなくてはならないこと等からすれば、通常の抄造方法においては一次抄紙網等に「堆積した状態」はあったとは想定できるものの、その「堆積した」状態にあったものを抄紙網から取り出した後、何らかの工程を経て少なくとも「それ自身で形態が保持し得る状態」まで作製し、これを基体紙振動板5としたものと想定される。
「基体紙振動板5」は、本件発明1の「堆積した紙料」とは相違する。
(ウ)甲4は、「二次抄紙網に転写して、」を具備しない。
上記したように、甲4は「二次抄紙網」を用いない。
「転写」とは、一方のものから他方のものに写し取ることを意味し、本件発明1でもその意味どおり、一次抄紙網に堆積した紙料を二次抄紙網に写し取ることで、堆積した紙料の裏面側(一次抄紙網面側)が表に現れるように二次抄紙網に移る、すなわち、二次抄紙では紙料の一次抄紙網面側に堆積するように移ることは明らかであるところ、
基体紙振動板5を開口部に密閉装着する工程は、上記したように、「堆積した」状態にあったものを抄紙網等から取り出した後、さらに何らかの工程を経てそれ自身で形態が保持し得る状態まで作製した後に、単に装着する工程であって、「写し取る」ものではなく、また、同工程は、「堆積層7は、基体紙振動板5の表裏何れの表面に形成されてもよく、何れの面に形成されるかは基体紙振動板5の吸引用筐体3への取付け方向によって決めることができる。」(前掲(K4.10))とあるように、堆積層7の形成表面は任意であり、一次抄紙網側にあった面に堆積層7を堆積するという技術思想を開示も示唆もしていないことは明らかである。
したがって、甲4は、「二次抄紙網に転写して、」とするものではない。
なお、仮に、吸引用筐体3の前面開口部に抄紙網を備えているとしても、上記のような技術思想を開示しないし、「写し取る」ことも開示しておらず、甲4は、「二次抄紙網に転写して、」を具備するものとはいえない。
(エ)まとめ(工程B1関連)
以上によれば、甲4は、上記工程B1を具備しない。また、甲4は工程B1を示唆するものでもない。

(c)本件発明1との対応(工程B2関連)
上記したように、甲4による基体紙振動板5上へのミクロフィブリル化したパルプの吸引堆積は、抄き網を用いないものであるから、「〔二次抄紙網に〕吸着せしめた状態」はない。また、水平に排水するものであり、上方に排水するものでもない。
甲4は、「吸引しながら、二次抄紙の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、水平に排水して堆積する」ものではあるが、「〔二次抄紙網に〕吸着せしめた状態を維持しながら、上方に排水して堆積する」工程B2とは相違する。

(d)請求人の主張(甲4関連)について
請求人は、甲4に関して以下の様に主張している。
(i)甲4は、本件発明1の「一次抄紙で堆積した紙料」に相当する基体紙振動板5を吸引用筐体3の前面3b側に移して装着するところ、
吸引用筐体3の開口部は、本件発明1の「二次抄紙網」に相当し、
「転写」とは、一方の抄紙網の堆積物を他方の抄紙網に移すことであり、基体紙振動板5の表裏何れの面に形成しても良く、何れの面に堆積層7を形成するかは基体紙振動板5の吸引用筐体3への取付け方向によって決めることができる、と記載されてことから、甲4は「転写工程」を示唆している。
したがって、甲4は、「一次抄紙→転写→二次抄紙」を示唆している。
(ii)甲7において逆さ抄きが示され、図3(a)、図4(b)で横向き抄きが示されており、どちらの手段をとっても良いことから、横向きとするか上方向とするかは設計事項であるといえ、このことから、甲4は、逆さ抄きの二次抄紙も示唆している。

しかしながら、以下の理由で、上記請求人の主張は当を得ないもので、採用できない。
〈上記(i)について〉
基体紙振動板5は、本件発明1における「一次抄紙で堆積した紙料」に相当するとはできないこと、甲4が、本件発明1の工程B1を開示も示唆もしないことは、上記(b)で既に検討したとおりである。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。
〈上記(ii)について〉
甲4には「上方に排水して堆積する」ことの記載はない。
そして、甲7が開示する「上方または水平に排水して堆積する抄紙」は、甲4が用いない(複数の連通孔が形成された)分割型を用いてこれに堆積するものであり、甲4では必要な「密閉装着」工程をもともと必要としない単なる「一次抄紙」である等、甲4の水平方向への吸引堆積とは相違するものである。このような相違がある以上、甲7に、上方または水平に排水して堆積することが記載されているからといって、このことから直ちに、甲4号証に「上方に排水して堆積する」工程が示唆されているとはいえない。

(e)まとめ(甲4発明について(本件発明1との相違))
以上によれば、甲4は、少なくとも、「工程B1(「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」)後に二次抄紙する構成」を備えていない点で本件発明1と相違する。また、上記構成に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことはできない。

(3)本件発明1との相違点(甲3、甲4、甲8、甲10、甲11)
以上によれば、甲3、甲4、甲8、甲10、甲11の各発明は、少なくとも、「工程B1(「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」)後に二次抄紙する構成」を備えていない点で本件発明1と相違する。
そして、これら各甲号証には、いずれも、上記構成に至らしめる示唆はもちろん同構成に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことはできない。

(4)上記相違点の容易性判断
甲1号証には、「[3.2](1)甲1発明」で前記した発明が記載されており、本件発明1との比較でみれば「一次抄造で堆積した抄造用材料を二次抄造網に転写して、」後に二次抄造する点で共通すると記述はできるものの、当該甲1発明の技術は、「無機鱗片材と熱硬化性樹脂よりなる振動板」にとって特有の課題認識に基づき、(2種の)無機鱗片材料を前提にこれに適合する特有の抄造工程を採ることにより同課題を克服するものであって、「紙料」を抄造材料とした「排水堆積」する抄造法への適用は対象外でありその本質及び特徴を放棄しなければ適用できないことは、「[3.2](4)」で既に判断したとおりである。
したがって、「紙料」を抄造材料とした「排水堆積」する抄造法である甲3、甲4、甲8、甲10、甲11の各発明に、甲1発明の技術を組み合わせることは困難である。

(5)まとめ([3.3])
以上によれば、本件発明1は、甲2?甲11発明(甲6を除く)を主引用発明としこれに残る甲各号証(甲6を除く)を組み合わせて当業者が容易に想到し得るもの、とはできない。

[3.4]まとめ(無効理由1)
以上によれば、本件発明1は、甲1?甲11(甲6を除く)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件発明1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。


[4]無効理由2(本件発明2、特許法第29条第2項)について
本件発明1が甲1?甲11(甲6を除く)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないことは前記のとおりである。
同様の理由により、本件発明2は甲1?甲11(甲6を除く)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件発明2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

[5]無効理由3(本件発明2、特許法第29条第1項第3号)について

[5.1]本件発明2
(1)「物の発明」としての本件発明2
請求項2の「請求項1の製造方法を用いて、二層以上を重ね合わせて堆積する多層構造のスピーカ用振動板。」との記載は、「製造方法の発明」ではなく、「スピーカ用振動板」という「物の発明」の構成を特定するために規定するものであるから、本件発明2の要旨は、請求項1の製造方法を用いて最終的に得られる「スピーカ用振動板」自体の構成に係るものと解すべきである。
そこで、請求項1の製造方法を用いることにより最終的に得られる「スピーカ用振動板」自体の構成を特定する事項(発明の要旨)について、まず検討する。

(2)本件発明2の要旨
(2.1)構成要件B(工程B1後に工程B2を行う)
請求項1の製造方法の中心的特徴は、[3.1](c)で前記したように構成要件B(工程B1後に工程B2を行う)にあり、
まず、「一次抄紙で堆積した紙料を二次抄紙網に転写して、」(工程B1:転写工程)により、一次抄紙網に堆積した紙料が、その裏面側が二次抄紙網の表面になるように剥ぎ取られて二次抄紙網に写り、その結果、堆積した紙料の一次抄紙網側の剥ぎ取られた網目状に荒れた面(裏面)が開放され、
続いて、「吸着せしめた状態を維持しながら、二次抄紙以降の漉き槽にある紙料分散液の液中に置き、上方に排水して堆積する」(工程B2:二次抄紙)により、十分に水を含んだ網目状に荒れた堆積した紙料の裏面側へ、紙料液に浮遊している繊維が上方に移動しつつ絡み付いて堆積し、
その結果、乾燥後は、積層した境界が明確に判別できる多層構造になり、機械的な結合と水素結合によって、強固に一体化した振動板が製造できるものと認められる。
(2.2)製造過程
上記工程による製造過程の詳細は以下のようであると理解される。
振動板の材料は、少なくとも繊維材料であって、絡みつき得る材料としての意味での「紙料」である(前記[3.2](2)(b))。
一次抄紙の堆積において、堆積し始めは、細かく短い繊維は水と共に抄紙網をすり抜け、主に大きな繊維が堆積すると考えられ、堆積紙料の抄紙網面側は主に大きな繊維で構成される。転写により、堆積紙料の抄紙網面側は「網目状に荒れた紙料の裏面側」として現れる。なお、「網目状に荒れた」(状態)とは、抄紙網から剥ぎ取られた堆積紙料の抄紙網面側が、網目状にケバだった状態となることを意味すると考えられる。
二次抄紙の堆積において、「網目状に荒れた紙料の裏面側へ堆積する」ことにより、「紙料の裏面側」であって「網目状に荒れた」状態のところへ、「紙料液に浮遊している繊維が絡み付いて堆積する」ことになるため、転写がない場合より強固に絡み付き、機械的強度が増すと考えられる。
その結果、乾燥後に最終的に得られる物として、振動板の1層と2層との境界には、一次抄紙で堆積した「紙料の裏面側」であって「繊維が強固に絡み付い」た「網目状に荒れた」状態の跡、すなわち、繊維が強固絡み付いた荒れた網目状跡が残り、「積層した境界が明確に判別できる多層構造」になり、「機械的な結合と水素結合によって、強固に一体化した振動板」(M3:段落0011)が得られることとなる。
なお、三次抄紙以降は転写を伴わないので、「網目状に荒れた紙料の(裏)面側へ繊維が絡みついて堆積する」ことにはならず、「積層した境界が明確に判別できる多層構造」になることはない。したがって、上記のような境界は、1層目と2層目との間の境界に限定される。
(2.3)本件発明2の要件
以上のことから、本件発明2は、下記の要件1ないし要件3を具備する発明であると認められる。
記(本件発明2の要件)
要件1:各層の材料は、少なくとも繊維材料であって、絡みつき得る材料としての意味での「紙料」であること。
要件2:1層と2層との境界には、繊維が強固に絡み付いた荒れた網目状跡が残り、積層した境界が明確に判別できること。
要件3:二層以上の多層構造であること。
以上の要件1ないし要件3を具備するスピーカ用振動板。

[5.2]新規性の判断
(1)甲1発明
甲1に記載された振動板は、前記[3.2](1)及び前掲(K1.11)によれば、
「低密度で高弾性率を有する無機鱗片材を主として有する層(1a)(1a)間に高密度で低弾性率を有する無機鱗片材を主として含有する層(1b)を介在せしめた3層積層体と、当該各層に含浸された熱硬化性樹脂とからなることを特徴とする電気音響変換器用振動板。」である。
しかし、各層の材料である「無機鱗片材」は、「少なくとも繊維材料であって、絡みつき得る材料としての意味での「紙料」である」とはいえないから、上記要件1を具備しない。
また、「マイカ層とグラファイト層との間に明確な境界が存在しない」(前掲(K1.11):3頁左上欄7行?8行)のであるから、要件2も具備しない。
したがって、本件発明2は甲第1号証に記載された発明である、とすることはできない。
(2)甲3発明
甲3に記載された振動板は、「頂部(中央部分)では、繊維材料の層20の上に、異なる繊維と耐候性処理剤の組成を持つ層21が重なった振動板」(前掲(K3.1)?(K3.5))である。
しかし、甲3には抄紙網を用いる記載はなく、層20と層21の境界には、「繊維が強固に絡み付いた荒れた網目状跡」が残っているとはいえず、「積層した境界が明確に判別できる」ことも認められず、上記「要件2」を具備しない。
したがって、本件発明2は甲第3号証に記載された発明である、とすることはできない。
(3)甲4発明
(3.1)甲4に記載された振動板は、「通常の抄造方法によって作製された基体紙振動板5の表面に、ミクロフィブリル化したパルプが同基体紙振動板5の空間を埋めて堆積した堆積層7を形成した音響振動板」((K4.1)?(K4.12))である。そして、基体紙振動板5と堆積層7の材料は、共に少なくとも繊維材料(パルプ)であり、要件1にいう「紙料」ということができる。
(3.2)基体紙振動板5は、通常の抄造方法によって作成されるところ、通常の抄造方法においては、抄紙網等に「堆積した」状態にあったものを抄紙網から取り出した後、何らかの工程を経て少なくともそれ自身で形態が保持し得るところまで作製し、これを基体紙振動板5としたものと想定される{前記[3.3](b)参照}。
ここで、抄紙網から取り出す方法は不明であるものの、抄紙網から取り出すとき、基体紙振動板5の抄紙網側の面が「網目状に荒れた」状態にあることは一応想定できる。しかし、それ自身で形態を保持し得るところまで作製した段階においてもなお、基体紙振動板5の表面に「網目状に荒れた」状態が残っているかどうかは不明である。
さらに、堆積層7を堆積する面については、「堆積層7は、基体紙振動板5の表裏何れの表面に形成されてもよく、何れの面に形成されるかは基体紙振動板5の吸引用筐体3への取付け方向によって決めることができる。」(前掲(K4.10))とあるように、堆積層7の形成表面は任意であり、抄紙網側にあった面に堆積層7を堆積するという技術思想を開示していない。
そうすると、基体紙振動板5と堆積層7との境界に、「繊維が強固に絡み付いた荒れた網目状跡」が残っているとはいえない。
さらにまた、基体紙振動板5と堆積層7は、図2、3上では2層となることが示されてはいるものの、堆積層7は「紙振動板の気密性を確保するため」の「いわゆる目止めと称される処理」(前掲(K4.3):2頁左欄23行)のためのものであり、基体紙振動板5と堆積層7の実際は、「紙振動板の空間がこのミクロフィブリル化したパルプによって塞がれた形」((K4.5):2頁右欄13行?14行)の構造となっているのであるから、「積層した境界が明確に判別できる」ともいえない。
以上によれば、甲第4号証に記載された音響振動板は、上記「要件2」を具備しない。
(3.3)したがって、本件発明2は甲第4号証に記載された発明である、とすることはできない。
(4)甲11発明
甲11に記載された振動板は、「木材パルプの層の上側に合成繊維の層を層設したスピーカ用振動板」(前掲(K3.1)?(K3.5))である。
しかし、甲11の製造過程において抄紙網を用いる記載はなく、木材パルプの層と合成繊維の層の境界に「繊維が絡み付いた荒れた網目状跡」が残っているとはいえない。
以上によれば、甲第11号証に記載された振動板は、上記「要件2」を具備しない。
したがって、本件発明2は甲第11号証に記載された発明である、とすることはできない。
(5)まとめ(新規性の判断)
本件発明2は、甲1、甲3,甲4,甲11のいずれかに記載された発明である、とすることはできない。

[5.3]まとめ(無効理由3)
以上、本件発明2は、甲1、甲3、甲4、甲11のいずれかに記載された発明である、とすることはできない。
したがって、本件発明2に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

【第5】むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、請求項1及び請求項2に係る発明に係る特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-07 
結審通知日 2008-05-12 
審決日 2008-05-23 
出願番号 特願2001-343884(P2001-343884)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H04R)
P 1 113・ 113- Y (H04R)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 新宮 佳典
益戸 宏
登録日 2004-02-06 
登録番号 特許第3517736号(P3517736)
発明の名称 スピーカ用振動板の製造方法  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 高山 道夫  
代理人 古橋 伸茂  

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