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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1186406 |
審判番号 | 不服2006-16154 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-07-27 |
確定日 | 2008-10-16 |
事件の表示 | 平成10年特許願第293360号「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月28日出願公開、特開2000-122313〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成10年10月15日の出願であって、平成18年6月23日付で拒絶査定がされ、これに対して同年7月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月25日付で手続補正がなされたものである。 同手続補正は、補正前の請求項1及び7を削除したものであるので、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当し、適法な補正である。 本願の発明は、平成18年8月25日付で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「導電性基体上に中間層、感光層を有する電子写真感光体に、少なくとも帯電手段、画像露光手段、反転現像手段、転写手段、クリーニング手段を有する画像形成装置において、該帯電手段または/及び該転写手段が接触帯電手段または/及び接触転写手段であり、かつ該電子写真感光体の感光層が環状エーテル化合物及び/又はその誘導体系溶媒を用いて成り、その感光層中の溶媒残留量が1000ppm以下であることを特徴とする画像形成装置。」 2.引用された刊行物記載の発明 (刊行物1について) これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成7年5月19日に頒布された特開平7-128877号公報(以下、刊行物1という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。) ア.「支持体上に電荷発生層、ポリカーボネート樹脂及び電荷輸送物質からなる電荷輸送層を順次設けてなる積層型電子写真感光体において、電荷輸送層を20℃の粘度が0.5cp以上の溶媒系で塗布後、加熱乾燥を行ない電荷輸送層中の残留溶媒を30?500ppmとしたことを特徴とする積層型電子写真感光体。」(【請求項1】) イ.「【従来の技術】従来より、積層型電子写真感光体の有するソルベントクラック等を防止するために数々の提案がなされている。たとえば、特開平3-293672号公報では、主に電荷輸送物質を含有する層、表面層の結着樹脂の破壊/降伏伸びの比及び結着樹脂の塗布溶媒の双極子モーメントを規定することが提案されているが、ソルベントクラックに対しては結着樹脂ばかりでなく、電荷輸送材料も含めた電荷輸送の耐薬品性が要求されるため、結着樹脂の破壊/降伏伸びの比を規定しても不充分である。また、溶媒の双極子モーメントの範囲を規定しているが、ジクロロメタンのように低沸点溶媒を用いて感光体を作成すると塗膜形成時、残留溶媒が塗膜中に残らないため、塗膜の残留応力を充分に小さくすることができず、感光体に充分な耐ソルベントクラック性をもたせることができなかった。 また、特開平4-368954号公報では、電荷輸送層にシリコーン系グラフトポリマーを添加することがソルベントクラックに有効としているが、シリコーン系グラフトポリマーが成膜時に局在化するため、感光体の繰返し使用により電荷輸送層が摩耗すると耐クラック性が低下してしまう。」(段落【0002】?【0003】) ウ.「本発明においては、電荷輸送層を塗布する溶媒として、20℃の粘度が0.5cp以上の溶媒系を用いる。このような溶媒系としては、20℃の粘度が0.5cp以上の溶媒たとえばジオキサン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン等の溶媒の単独系あるいはこれら溶媒の2種以上の混合系が挙げられるが、20℃の粘度が0.5cp未満のジクロロメタン等の溶媒を前記20℃の粘度が0.5cp以上の溶媒と混合し、溶媒系全体として20℃の粘度が0.5cp以上となる溶媒系も用いることができる。 また電荷輸送層中の残留溶媒量は、電荷輸送層の塗布に用いる溶媒に応じて乾燥条件を適宜変更することにより30?500ppmにすることができる。」(段落【0007】?【0008】) エ.「また、必要に応じて支持体と電荷発生層の間に下引き層、電荷輸送層上に保護層を設けてもよい。下引き層は、ポリアミド、ポリビニルアルコール、カゼイン、エチルセルロース等の熱可塑性樹脂、フェノール、メラミン、アルキッド、不飽和ポリエステル、エポキシ等の熱硬化性樹脂またはこれらの樹脂に酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等の顔料を分散させたものが用いられ、膜厚は0.2?12μm程度である。」(段落【0015】) オ.「実施例1 φ80mm、長さ340mmのアルミドラム状支持体に下記組成の塗布液を浸漬塗布後、130℃で20分間乾燥して膜厚4μmの下引き層を形成した。 酸化チタン(TA-300;富士チタン社製) 76部 アクリル樹脂(A430;大日本インキ社製) 23部 メラミン樹脂(L-117-60;大日本インキ社製) 10部 メチルエチルケトン 90部 次に下記式(III)のアゾ顔料3部、ポリビニルブチラール樹脂(B-90;日本モンサント社製)1部、シクロヘキサノン80部からなる混合物をボールミルポットに取り、φ10mmSUSボールを使用し48時間ボールミルした後、さらにシクロヘキサノン116部を加えて電荷発生層液を調製し、この塗布液を下引き層上に塗布し、130℃で15分間乾燥して膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。 【化3】(省略) 続いて、下記組成の電荷輸送層塗布液を調整し、前記電荷発生層上に塗布後、110℃で5分間乾燥し、膜厚25μmの電荷輸送層を形成し、積層型電子写真感光体を作成した。 表1の化合物No.1の電荷輸送物質 8部 ポリカーボネート樹脂(K-1300;帝人化成社製) 10部 シリコーンオイル(KF-50;信越化学社製) 0.002部 テトヒドロフラン 66部 塩化メチレン 18部」 (段落【0018】) カ.「ソルベントクラックの評価は、50ppmのイソプロピルアルコールガス中に積層型電子写真感光体を1週間放置後、積層型電子写真感光体表面のクラックの有無を目視で調べた。続いて、反転現像方式デジタル複写機イマジオ420(リコー製)に積層型電子写真感光体を取付け、初期と3万枚コピー後の画像品質を評価した。また、画像コピー前と3万枚コピー後にイマジオ420の現像位置に表面電位計を取り付け年露光部(原文どおり、当審注。)の表面電位V1と非画像部のVdを測定した。なお、電荷輸送層の塗布に用いた溶媒の20℃における粘度はE型粘度計(東京計器社製)を用いて測定した。これらの結果を表4に示す。 【表4】 」(段落【0029】) そして、上記摘記事項カ.において、「反転現像方式デジタル複写機イマジオ420(リコー製)」が、少なくとも帯電手段、画像露光手段、反転現像手段、転写手段、クリーニング手段を有する画像形成装置であることは、自明の事項である。 したがって、上記の事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、刊行物1発明という。) 「支持体上に下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を順次設けてなる電子写真感光体に、少なくとも帯電手段、画像露光手段、反転現像手段、転写手段、クリーニング手段を有する画像形成装置において、該電子写真感光体の電荷輸送層がテトラヒドロフラン等の溶媒を用いて成り、その電荷輸送層中の残留溶媒を30?500ppmとした、画像形成装置。」 (刊行物2について) また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成5年9月3日に頒布された特開平5-224435号公報(以下、刊行物2という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。) キ.「【従来の技術】電子写真プロセスに使用される感光体は、コロナ帯電法あるいは接触帯電法により帯電される。接触帯電法は、コロナ帯電法に比べて、オゾン発生量が少ないという長所を有する。しかし、コロナ放電が放電ワイヤーの近傍に電気力線が集中した状態で帯電が行われるのに対して、接触帯電では帯電部材と感光体表面との僅か数十ミクロンの間隙に電気力線が集中し、感光体表面は常時、発光を伴う放電活性種にさらされた状態で、放電が行われる。具体的には、スコロトロンを用いたコロナ帯電では、約700V/1mm=7KV/cmであるのに対して、接触帯電では約1000V/20μm=500KV/cmと2桁程、電界が強い。従って、感光体はイオン衝撃や放電生成物の打ち込み等により劣化しやすい。劣化した感光体の表面は低抵抗化のため、解像力が低下するという問題が発生する。 【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、接触帯電方式の電子写真プロセスに使用しても、解像力の低下等が生じない感光体を提供することを目的とする。」(段落【0002】?【0003】) ク.「感光体の作製 まず、比較例用の感光体として、長波長光(780nm)に対して感度を有する感光体を以下のごとく作製した。・・・・ 電荷輸送層の作製 次いでこの電荷発生層上に、下記構造式で示されるヒドラゾン化合物8重量部、オレンジ色素(Sumiplast Orange12; 住友化学社製)0.1重量部、ポリカーボネート樹脂(パンライトL-1250; 帝人化成社製)10重量部をテトラヒドロフラン180重量部から成る溶媒中に溶解させた塗液をディッピング法を用いて塗布し、乾燥して、膜厚28μmの電荷輸送層を形成した。この時の塗液の粘度は20℃で240cpであった。また、乾燥条件は100℃の循環空気中で30分間とした。」(段落【0025】?【0027】) してみると、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。(以下、刊行物2発明という。) 「電荷輸送層がテトラヒドロフラン等の溶媒を用いて形成された感光体を、接触帯電法の電子写真プロセスに使用すること。」 3.対比 本願発明と刊行物1発明と対比すると、 まず、刊行物1発明における「支持体」、「下引き層」は、それぞれ、本願発明における「導電性基体」、「中間層」に相当する。 また、刊行物1発明における「電荷発生層」及び「電荷輸送層」は、本願発明における「感光層」に相当し、刊行物1発明における「テトラヒドロフラン等の溶媒」は、本願発明における「環状エーテル化合物及び/又はその誘導体系溶媒」に相当する。 そして、刊行物1発明における「その電荷輸送層中の残留溶媒を30?500ppmとした」は、本願発明における「その感光層中の溶媒残留量が1000ppm以下である」に相当する。 したがって、両者は、 「導電性基体上に中間層、感光層を有する電子写真感光体に、少なくとも帯電手段、画像露光手段、反転現像手段、転写手段、クリーニング手段を有する画像形成装置において、かつ該電子写真感光体の感光層が環状エーテル化合物及び/又はその誘導体系溶媒を用いて成り、その感光層中の溶媒残留量が1000ppm以下である、画像形成装置。」 の点で一致し、下記の点のみで相違する。 相違点:本願発明は、「該帯電手段または/及び該転写手段が接触帯電手段または/及び接触転写手段」であるのに対して、刊行物1発明は、そのような特定がない点。 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 接触帯電法に関しては、刊行物2(上記摘記事項キ.参照)にも示されるように、電子写真プロセスに使用される感光体は、コロナ帯電法あるいは接触帯電法により帯電されるものであり、オゾン発生量が少ないという長所から、接触帯電法への期待が高まってきていることは周知の事項である。 そして、刊行物2には、「電荷輸送層がテトラヒドロフラン等の溶媒を用いて形成された感光体を、接触帯電法の電子写真プロセスに使用すること」が記載されているから、刊行物1に記載の感光体を接触帯電法の電子写真プロセスに使用することは、当業者が適宜為し得たことである。 また、刊行物1発明においても用いられている「デジタル複写機イマジオ420(リコー製)」に関して、帯電手段を接触帯電手段に変更したり、転写手段を接触転写手段に変更するなどして、接触帯電方式や接触転写方式に適用することもよく行われている。(必要ならば、特開平6-175512号公報,【0019】、特開平7-84376号公報,【0047】、特開平6-51538号公報,【0032】、参照。) したがって、刊行物1発明の画像形成装置における帯電手段または転写手段として、接触帯電手段または接触転写手段を採用することに格別の技術的困難性は見出せない。 そして、上記相違点によって本願発明が奏する効果も、当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。 よって、相違点に係る構成の変更は、当業者が刊行物2の記載事項に基づいて容易に為し得たものである。 5.請求人の主張 請求人は、審判請求の理由において、 「本願発明の特徴は、感光層が環状エーテル化合物及び/又はその誘導体系溶媒を用いて成り、その感光層中の溶媒残留量が1000ppm以下である、特定の感光体と接触帯電手段または/及び接触転写手段を用いる画像形成装置であります。したがって、本願発明は、この構成とすることによって、本願発明の課題である、磨耗量や放電破壊による異常画像を防止することができるものであります。」、 「引用文献等1に記載の感光体は、接触帯電方式の電子写真プロセスに使用しても解像力の低下等が生じない感光体の提供を課題としたものであり、引用文献等5に記載の感光体は、感光層の耐クラック性に優れた積層型電子写真感光体の提供を課題としたものであり、本願発明の課題とは全く異なり、本願で記載されている接触帯電器を用いた場合の課題である放電破壊に関する課題、さらに残留溶媒を特定値としたときに本課題を解決できることについては予測できるものでないと考えます。」 「上述したように、感光層が環状エーテル化合物及び/又はその誘導体系溶媒を用いて成り、その感光層中の溶媒残留量が1000ppm以下である、本願発明に特有の感光体と、接触帯電手段または/及び接触転写手段を用いる本願発明の画像形成装置特有の課題については、引用文献等には何ら記載はなく、それらを組み合わせて用いるための示唆もなければ、ましてや合理的根拠もなく、本願発明に想到するためには、たとえ当業者といえども、過度な試行錯誤を要し、容易に本願発明をなし得ると認めることは困難であると思料いたします。」と、 「本願の課題が新規である点」(主張1)、 「その感光層中の溶媒残留量が1000ppm以下である、本願発明に特有の感光体と、接触帯電手段または/及び接触転写手段との組合せに合理的根拠がない点」(主張2)を、主張している。 (主張1について) まず、請求人が主張する、「磨耗量や放電破壊による異常画像を防止することができる」、「接触帯電器を用いた場合の課題である放電破壊に関する課題」について検討する。 刊行物1(原審における「引用文献等5」)には、「感光体の繰返し使用により電荷輸送層が摩耗すると耐クラック性が低下してしまう。」(上記摘記事項イ.参照)との記載もあるように、耐クラック性が耐摩耗性や耐久性とも関係していることは明らかであるから、刊行物1発明に係る感光体における「感光層の耐クラック性」は、「感光層の耐摩耗性」及び「異常画質の防止」にも関連するものである。 そして、刊行物2にも記載されているように、接触帯電方式を採用した際の「感光体の劣化」や「解像度の低下」は周知の事項であるから、接触帯電方式における「感光層の耐摩耗性」と「異常画質の防止」も周知の課題といえる。 (主張2について) 「その感光層中の溶媒残留量が1000ppm以下である感光体と、接触帯電手段または/及び接触転写手段との組合せ」については、上記4.で検討したとおり、接触帯電法への期待が高まってきていること、帯電手段を接触帯電手段に変更したり、転写手段を接触転写手段に変更することもよく行われていることから、この組合せに格別の困難性は見出せない。 以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-08-18 |
結審通知日 | 2008-08-19 |
審決日 | 2008-09-01 |
出願番号 | 特願平10-293360 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅野 芳男 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
山下 喜代治 伏見 隆夫 |
発明の名称 | 画像形成装置 |
代理人 | 伊東 忠彦 |