• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1186413
審判番号 不服2006-21665  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-28 
確定日 2008-10-16 
事件の表示 特願2003- 73118「自動分析装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日出願公開,特開2004-279289〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年3月18日の特許出願であって,平成18年8月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成18年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,平成18年10月24日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成18年10月24日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正発明
本件補正は,特許請求の範囲について,
「【請求項1】
反応容器と、前記反応容器に試料および試薬を分注する分注手段を有し、分注された試料および試薬の反応液を撹拌して反応測定を行い、反応測定後に前記反応容器内を洗浄液で洗浄する自動分析装置において、
前記反応容器内の洗浄液を撹拌する超音波撹拌素子の撹拌手段を設けたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記反応液の撹拌を前記超音波撹拌素子の撹拌手段で兼ねることを特徴とする自動分析装置。」を,
「【請求項1】
反応容器と、前記反応容器に試料および試薬を分注する分注手段を有し、分注された試料および試薬の反応液を撹拌して反応測定を行い、反応測定後に前記反応容器内を洗浄液で洗浄する自動分析装置において、
前記反応容器内の洗浄液の撹拌と、前記反応容器内の反応液の撹拌を、を実行する、同一位置に設けた、超音波撹拌素子の撹拌手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。」とするものである。

2 当審の判断
(1)まず,審判請求書を補正する平成18年10月24日付け手続補正書の「3.1.3.補正の根拠」において,請求人は,
「(1).請求項は、一つにしました。この請求項は、先の手続補正書の請求項2に対応します。出願当初の明細書に記載されていた請求項4に対応します。
(2).新しい請求項1に係わる「前記反応容器内の洗浄液の撹拌と、前記反応容器内の反応液の撹拌を、を実行する、同一位置に設けた、超音波撹拌素子の撹拌手段を備えた」構成は、出願当初の明細書における次の記載に基づいて補正しました。」と述べている。

そうすると,本件補正は,補正前の請求項1を削除するとともに,補正前の請求項2に係る発明を特定する事項である「前記反応容器内の洗浄液を撹拌する超音波撹拌素子の撹拌手段を設け」「前記反応液の撹拌を前記超音波撹拌素子の撹拌手段で兼ねる」を,「前記反応容器内の洗浄液の撹拌と、前記反応容器内の反応液の撹拌を,を実行する,同一位置に設けた,超音波撹拌素子の撹拌手段」と補正するものであるといえる。
そこで,上記「超音波撹拌素子の撹拌手段」に関する補正を検討すると,該補正は,補正前の発明においては,「反応液の撹拌」と「反応容器内の洗浄液の撹拌」とも同一の「超音波撹拌素子の撹拌手段」により兼ねて行うものであるところを,補正後の発明においては,「反応容器内の洗浄液の撹拌」を実行する「超音波撹拌素子の撹拌手段」と,それとは別の「反応容器内の反応液の撹拌」を実行する「超音波撹拌素子の撹拌手段」との二個の「超音波撹拌素子の撹拌手段」を「同一位置に設け」るとするものであるといえる。
一方,当初明細書の段落【0014】には「なお、前記実施例においては、反応液を攪拌混合して反応を促進させる攪拌手段と、反応容器内の洗浄液を攪拌する攪拌手段とを兼用として、製品コストの低減化を図り得る場合について例示したが、反応容器内の洗浄液を専用に攪拌する手段を新たに設けるようにすれば、その分、シーケンス制御の簡素化を図ることができる。」と記載されている。該記載からみて,同明細書の発明の詳細な説明には「反応容器内の洗浄液を攪拌する攪拌手段」とは別の「反応液を攪拌混合して反応を促進させる攪拌手段」を設けることが記載されているといえるものの,「シーケンス制御の簡素化を図ることができる」と記載されているのであるから,同一位置に設けることまで記載されているとはいえない。
また,同段落【0010】の「・・・・・反応容器(A)はポジション2に停止することになる。超音波攪拌素子7を動作させ、反応容器(A)に照射する。すると反応容器(A)内の反応液(試料と試薬の混合液)が動いて攪拌が行われ、反応が開始する。・・・・・」および同段落【0012】の「・・・・・吸上ノズル11によって反応液が吸い上げられ、洗浄液注入ノズル12によって反応容器(A)内に洗浄液が注入される。洗浄液が入った反応容器(A)は、タイムチャート「停止B」のタイミングで超音波攪拌素子7の前に停止する。このとき超音波攪拌素子7を動作させて超音波を照射する。そうすると反応容器(A)内の洗浄液が動いて容器(A)の内壁についた汚れが落とされる。超音波洗浄による汚れ落し効果が大きいことは周知である。特に細部の汚れ落しに効果がある。超音波発振素子は攪拌として液を動かせるぐらい強烈なものであるとともに、反応容器(A)の角部の隅々まで超音波の振動が行き渡るため、洗浄に大きな効果がある。」との記載は,「反応液を攪拌混合して反応を促進させる攪拌手段」と「反応容器内の洗浄液を攪拌する攪拌手段」とを兼用した場合,すなわち,「超音波撹拌素子の撹拌手段」が一個の場合についての説明であって,「反応容器内の洗浄液を攪拌する攪拌手段」とは別の「反応液を攪拌混合して反応を促進させる攪拌手段」を設けた場合の説明ではない。そうすると,二個の「超音波撹拌素子の撹拌手段」を「同一位置に設け」ることは,その技術的意味を含めて記載も示唆もされおらず,自明な事項ともいえない。
してみると,本件補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというべきであり,特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(2)つぎに,仮に,「反応容器内の洗浄液を撹拌する撹拌手段」とは別の「反応液を撹拌混合して反応を促進させる撹拌手段」を設けるとした場合に,「同一位置に設け」ることが自明であるとして,以下,検討する。
一般的に,「兼ねる」ことが,一個であるとの前提において,「同一位置に設け」ることを意味する場合があるとしても,「同一位置に設け」ることが即「兼ねる」を意味しないから,両者は技術的に同義であるとはいえないし,「同一位置に設け」ることが「兼ねる」ことの下位概念であるともいえない。
そうすると,「反応液を攪拌混合して反応を促進させる攪拌手段」と「反応容器内の洗浄液を攪拌する攪拌手段」とを兼用することを,二個の別の「攪拌手段」とし「同一位置に設け」ることとする補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものあるいは明りょうでない記載の釈明を目的とするものである,とはいえないことは明らかである。
してみると,本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず,特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(3)さらに,本件補正が,補正前の請求項1の発明を特定する事項である「前記反応容器内の洗浄液を撹拌する超音波撹拌素子の撹拌手段」を,「前記反応容器内の洗浄液の撹拌と、前記反応容器内の反応液の撹拌を、を実行する、同一位置に設けた、超音波撹拌素子の撹拌手段」とするとともに,請求項2を削除したものであるとして,以下,判断する。
前述したように,一般的に,「兼ねる」ことが「同一位置に設け」ることを意味する場合があるとしても,「同一位置に設け」ることが「兼ねる」を必ずしも意味しないから,両者は技術的に同義であるとはいえないものの,略同義であるとすれば,本件補正は,願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
なお,前掲の「3.1.3.補正の根拠」における請求人の主張は,「同一位置に設け」ることと「兼ねる」こととが技術的に同義であることを前提にしているといえる。
そして,「前記反応容器内の洗浄液を撹拌する超音波撹拌素子の撹拌手段」を,「前記反応容器内の洗浄液の撹拌と、前記反応容器内の反応液の撹拌を、を実行する、同一位置に設けた、超音波撹拌素子の撹拌手段」とする補正事項は,下線部の文言を追加するという意味にて,形式的には特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
そうすると,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由において周知例として引用された特開平8-146007号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(1-イ)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】反応容器と、この反応容器の上部開口部からサンプルを供給するサンプル供給手段と、この反応容器の上部開口部から試薬を供給する試薬供給手段と、反応中あるいは反応が終了した前記サンプルの物性を計測する計測手段とを備えた化学分析装置において、前記反応容器外部に設けられ、この反応容器に向かって音波を発生する音波発生手段を設けた化学分析装置。」

(1-ロ)
「【0005】また、近年このような化学分析装置が設置される病院等には、この他にも様々な機器が導入されつつあり、より一層の小型化が望まれる。
【0006】本発明の目的は、化学分析装置において、容器内部のサンプルと試料とを混合する際、キャリーオーバーを防止することにある。
【0007】また、本発明の他の目的は、化学分析装置そのものの小型化を図ることにある」

(1-ハ)
「【0018】
【実施例】本発明の一実施例を図1及び図2を用いて説明する。図1は本実施例の化学分析装置の構成を示す斜視図、図2は図1に示す化学分析装置に装備されている非侵襲(非接触)撹拌装置の構成を示す縦断面図である。
【0019】容器固定ターンテーブル302の円周上に複数の反応容器301が固定されている。この容器固定ターンテーブル302は、図示しないモータや回転軸等から構成されるテーブル駆動部303によって周方向回転する。一方、サンプルは複数のサンプルカップ305に入れられ、これらサンプルカップ305はテーブル駆動部307により周方向に1周と1回転を周期として回転するサンプル用ターンテーブル306の円周上に固定される。サンプル自動ピペッティング機構304は予め決められたシーケンスに従ってサンプル用ターンテーブル306の回転と共に定位置に送られてくるサンプルカップ305内のサンプルを反応容器301に供給する。また、試薬は複数の試薬ボトル309に入れられ、これら試薬ボトル309はテーブル駆動部311により周方向に回転する試薬用ターンテーブル310の円周上に固定されている。、やはり予め決められたシーケンスに従って試薬用ターンテーブル310の回転と共に定位置に来た試薬ボトル309内の試薬を反応容器301に供給する。なお、試薬ボトル309には、それぞれ異なる種類の試薬が入れられており、試薬自動ピペッティング機構308は予定のシーケンスによって必要量を反応容器301に供給する。」

(1-ニ)
「【0020】試薬自動ピペッティング機構308が、反応容器301内に試薬を吐出する位置には、非侵襲撹拌装置312およびその非侵襲撹拌装置312を駆動制御するドライバ313が設けられている。そして、その位置に移動してきた反応容器301内のサンプルおよび試薬を撹拌して混合する。さらに、サンプルと試薬の化学反応を促進するために全ての反応容器301は浴槽401内の恒温水402に浸されており、反応容器301は恒温水402内を移動する。」

(1-ホ)
「【0021】容器固定ターンテーブル302の周方向の別の位置には、容器内において反応した液の物性を光で計測するための計測部314が設けられている。別の位置には、容器内の反応液を吸引し、洗浄液を吐出し、その位置に移動してきた反応容器301を洗浄するための洗浄機構315が設けられている。洗浄機構315と同じ位置には、対流によって容器内の洗浄液を撹拌して洗浄効果を高めるための非侵襲撹拌装置316およびその非侵襲撹拌装置316を駆動するドライバ317が設けられている。固定容器ターンテーブル303、テーブル駆動部307,311およびサンプル自動ピペッティング機構304、試薬自動ピペッティング機構308、2つの非侵襲撹拌装置用のドライバ313,317、洗浄機構315、及び、計測部314は、コントロール用信号線を介して制御部318と接続され、予め決められたシーケンス(プログラム)に従って、サンプル(この場合被検査対象である血液)を自動的に分析・測定する。」

(1-ヘ)
「【0022】次に図2を用いて反応容器内部の被撹拌対象物を非接触にて撹拌する装置について説明する。反応容器301は回転移動および停止を繰り返し、図の位置に停止すると、コントローラ313(317、コントローラ317は洗浄用撹拌装置316を制御するものであるがそれらの構造や動作は撹拌用非侵襲撹拌装置313と同様であるので、本明細書中においては非侵襲撹拌装置313及びコントローラ313を代表して説明する)から圧電素子103に対して信号が出力され、圧電素子103は、後に詳述するように周波数の高い音波である超音波を出力する。この非侵襲撹拌装置312(図2に示した装置全体の総称)は、前述の如く、溶質(サンプル)101と溶媒(試薬)102を入れた反応容器301がサンプル用ターンテーブル302に固定されている。反応容器301は、恒温水402を入れた浴槽401に浸漬されている。浴槽401の底部には圧電素子103が、浴槽401の下部に位置調整部106を介して固定されており、反応容器301とは恒温水402を介して設けられている。なお、浴槽401の圧電素子103の取付部は恒温水402が流出することを防止するためにシール107が設けられている。圧電素子103は、コントローラ501によって所定の周波数で駆動される。
【0023】以上のように構成された非侵襲(接触)撹拌装置312の動作を以下説明する。圧電素子103は、コントローラ501によって所定の周波数で加振され、発生した振動は、矢印105で示す方向に浴槽401内を音波(矢印403で示す)として伝播し、反応容器301の底部に到達する。この音波は、反応容器301底部壁面を通過して容器内の被撹拌物である溶媒102及び溶質101に到達する。
【0024】伝達された振動波は、溶媒の中を鉛直上方に音波として伝播する。この伝幡方向に矢印203で示す音響直進流と呼ばれる定常流が発生する。・・・この音響直進流203によって溶質101は溶媒102中を鉛直上方に浮揚され、液面付近に到達した後再び周囲を下降する上下対流を形成する。このため、容器内にヘラなどの介在物を挿入することなく、溶媒102および溶質101の撹拌が行なわれる。音響直進流203の流速は、溶媒102の音吸収係数、振動の周波数、振幅の増加に伴って増大し、実験結果によると、反応容器301内で音響直進流が顕著に発生する条件は、圧電素子103の振動速度として少なくとも0.1mm/s以上の速度が必要であることが分かった。
【0025】この音波は溶媒102などの流体に音響直進流203を引き起こし、溶質101の移動を促進して撹拌を行う。なお、図では反応容器301と圧電素子103との間に恒温水402を介在させているが、反応容器301に圧電素子103とを接触させても撹拌可能である。」

これらの記載事項と図面を総合すると,刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「反応容器と,この反応容器の上部開口部からサンプルを供給するサンプル供給手段と,この反応容器の上部開口部から試薬を供給する試薬供給手段と,反応中あるいは反応が終了した前記サンプルの物性を計測する計測手段とを備えた化学分析装置において,
試薬供給手段が反応容器内に試薬を吐出する位置に、その位置に移動してきた反応容器内のサンプルおよび試薬を撹拌して混合する超音波を出力する圧電素子の非侵襲撹拌装置を設けるとともに,容器固定ターンテーブルの周方向の別の位置に,対流によって容器内の洗浄液を撹拌して洗浄効果を高めるための非侵襲撹拌装置を設けた化学分析装置。」(以下,「引用発明1」という。)

また,原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-201397号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(2-イ)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 反応テーブルの左・右に試薬テーブル及びサンプラーを配置した自動分析装置において反応テーブルの回動を複数回転+1ピッチ歩進することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】 請求項1の自動分析装置において、試薬の分注工程における試薬ピペットは第1試薬用ノズル及び第2試薬用ノズルを複数個保有し、同一位置で第1試薬、第2試薬を別個ノズル又は同一ノズルから分注できることを特徴とする試薬分注機構。
【請求項3】 請求項1の自動分析装置において、同一位置で第1次攪拌及び第2次攪拌を行うことを特徴とする攪拌機構。」

(2-ロ)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のように従来から用いられている装置は、シングルマルチ型では反応テーブルの外周にある反応管に希釈検体の分注後、第1試薬分注、第1攪拌後、更に別個に第2試薬分注、第2攪拌及び/又は第3試薬分注、攪拌後、数ピッチ進み、測光、洗浄を順次行い、1回転後に1ピッチ回動を繰返す装置は、装置の大型化と処理能力を向上を目標としており、ために装置のコストアップにつながるものであった。本発明では装置の効率化と小型化で安価なものを提供するため、極めて簡易化した効率的に操作できる自動分析装置を提供を目的とした。同時に反応管には左・右に分離された隔壁を有し、含有液が底下部より連通可能とするものを用い、空気差圧による変動で攪拌できる混合ポンプを用いるシステムにより洗浄工程での応用を試みた。」

(2-ハ)
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明に係る自動分析装置は小型、効率化を目的とするため、テーブルトップ型を選択し、反応テーブルを中心にターレットの周囲に無接触空気攪拌様式の反応管を備え左右に試薬テーブルとサンプラーを備えるもので、複数回転+1ピッチ歩進する方式を採用した。このため従来複数個必要とした試薬分注、攪拌などの機構を単数化することによって、装置の小型化、効率化を図った。
【0005】更に、試薬ピペットは同一ピペット上に別個外端に対称に、第1試薬用ノズルと第2試薬用ノズルを有し、同一試薬テーブル中に第1、第2試薬を保持して同一位置で、同一又は別個ノズルより各試薬を選択分注することによって、操作の効率化と装置の小型化を図ったものである。」

(2-ニ)
「【0007】また、上述のごとく、反応テーブル反応管は無接触空気攪拌式であるため、これを洗浄工程で連続して作動させ、吸引、洗剤液送入、攪拌吸引、水送入、攪拌、吸引、水送入、水吸引、乾燥を行う工程で、同一混合ポンプでそれぞれ吸引及び攪拌を行い、非接触攪拌によって効率化とクロスコンタミネーションの防止効果が生じた。」

(2-ホ)
「【0008】
【実施例】本発明に係る自動分析装置においては、サンプラー1にターレット状に外周に複数個の検体容器2、内周に複数個のコントロール検体容器又は緊急検体用容器3を保持し、左・右回動自在で、それぞれの検体情報に基き、サンプルピペット4の分注可能な位置まで回動し、サンプルピペット4により必要回数及び必要量の検体が反応管5に分注される。
【0009】本発明の特徴は反応管5を複数回転+1ピッチ歩進を行い、その間に試薬添加や攪拌などを同一位置で行い装置を簡略化、効率化したものである。反応管5は反応テーブルの外周に例えば50個を保持する。図2では上図に分析工程の流れを示したが、1サイクル目で第1試薬R1 の添加、試薬ブランクの測定を行い、2サイクル目でサンプル添加及び攪拌を行い、5分後の23サイクル目で第2試薬添加、24サイクル目で攪拌、更に5分後の44サイクル目で洗浄を開始し、50サイクル目で終了し、51サイクルで元に戻ることを示す。」

(2-ヘ)
「【0015】44サイクル目から50サイクル目までは、図3に示すごとき反応管を洗浄し再生するための洗浄工程が行われる。44サイクル目以後の説明を行う。所定時間後A動作を行なった後、さらに所定時間後B動作を行なった後、さらに所定時間後、C動作によって、反応管5は洗浄位置へと移動し、反応液の吸引が行われる。後、D動作により反応管Aは44サイクル目から反時計方向へ1ピッチ分歩進した位置へと移動する。
【0016】次の45サイクル目に入ると、所定時間後A動作を行った後、さらに所定時間後B動作によって、洗剤添加位置へと移動し、洗剤(例えばアルカリ性洗剤)が添加される。その後C動作により、洗浄位置へと移動し、空気圧攪拌洗浄及び洗浄液の吸引が行われる。その後D動作により45サイクル目より反時計方向へ1ピッチ歩進する。次の46サイクル目は前記45サイクル目の洗剤の代りに洗浄水(例えばイオン交換水)を添加し以下同様の工程が行われる。次の47サイクル目は、所定時間後A動作を行った後、さらに所定時間後B動作によって、洗浄水添加位置へと移動し46サイクルより多目の洗浄水が添加される。以後C動作により、洗浄位置へと移動し、洗浄水が吸引される。その後D動作により前サイクルより反時計方向へ1ピッチ歩進する。
【0017】次の48サイクル目反応管5は、所定時間後A動作を行った後、さらに所定時間後B動作により、洗浄水添加位置W4へ移動し、洗浄水が添加される。その後C動作により洗浄位置へ移動するが何も行われず、D動作中に、光学測定装置18により水ブランク測定が行なわれる。このブランク測定値は、次の分析(51サイクル目)のために使用される。
【0018】D動作後、前サイクルよりさらに1ピッチ歩進する。次の49サイクル目、反応管5は、前サイクルと同様の所定時間後のA,B,C動作により洗浄位置へと移動し、前サイクルで添加された洗浄液の吸引を行なった後、D動作によって、前サイクルよりさらに1ピッチ歩進する。次の50サイクル目、反応管5は、前サイクルと同様の所定時間後のA,B,C動作により、洗浄位置へと移動し、先端にスポンジ等保持する乾燥チップ25により、水滴等を吸引して、反応管を再生し次のサイクルから始まる新規の分析に使用する。」

(2-ト)
「【0022】光学測定装置18は光源19、反射鏡20、スリット21、回析格子22、受光素子23で構成され、反応管5が矢印の方向に少くとも1回転以上に回動するごとの前述の動作Dのタイミングに反応液が光路を横切りとその吸光度が測光・記憶され、標準サンプル、コントロールサンプルの校正、ブランクサンプルの校正、前回サンプルの測定結果の記憶表示、異常データの再分析と、コンピュータ(図示せず)を用いての記憶表示、プリントなどが実施される。反応管5の回動は前述のごとく1サイクル毎に反時計方向へ1ピッチずつスタートの位置からずれた位置へと歩進し、スキヤニングによって、連続して吸光度の測定を可能とするものである。本吸光度の測定は連通型反応管5を用いる場合、障壁の下部の連通部に光束を通過させるか適宜目的に応じて行う。」

4 補正発明と引用発明1との対比
補正発明と引用発明1とを対比すると,その構造および機能からみて,引用発明1の「反応容器」,「サンプル供給手段および試薬供給手段」,「反応容器内のサンプルおよび試薬を撹拌して混合する超音波を出力する圧電素子の非侵襲撹拌装置」,「対流によって容器内の洗浄液を撹拌して洗浄効果を高めるための非侵襲撹拌装置」および「化学分析装置」が,それぞれ,補正発明の「反応容器」,「試料および試薬を分注する分注手段」,「反応容器内の反応液の撹拌を実行する超音波撹拌素子の撹拌手段」,「反応容器内の洗浄液の撹拌を実行する超音波撹拌素子の撹拌手段」および「自動分析装置」に相当するといえる。
そうすると,両者は,
(一致点)
「反応容器と,前記反応容器に試料および試薬を分注する分注手段を有し,分注された試料および試薬の反応液を撹拌して反応測定を行い,反応測定後に前記反応容器内を洗浄液で洗浄する自動分析装置において,
前記反応容器内の洗浄液の撹拌と前記反応容器内の反応液の撹拌を実行する超音波撹拌素子の撹拌手段を備えた自動分析装置。」
である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(相違点1)
「反応容器内の洗浄液の撹拌と反応容器内の反応液の撹拌を実行する超音波撹拌素子の撹拌手段」について,補正発明では「同一位置に設けた」一個の撹拌手段であるのに対し,引用発明1では「容器固定ターンテーブルの周方向の別の位置に設けた」二個の撹拌装置である点。

5 相違点1についての検討
そもそも,上記記載事項(1-ロ)および記載事項(2-ロ)によれば,自動分析装置において,装置の小型化・操作の効率化は一般的に要請されている課題であり,また,上記記載事項(2-ハ)によれば,従来複数個必要とした試薬分注・攪拌などの種々の機構を単数化することによって,装置の小型化・操作の効率化を図るという技術的事項が,刊行物2に記載されているといえる。
しかも,上記記載事項(1-ヘ)によれば,引用発明1の「反応容器内のサンプルおよび試薬を撹拌して混合する超音波を出力する圧電素子の非侵襲撹拌装置」と「対流によって容器内の洗浄液を撹拌して洗浄効果を高めるための非侵襲撹拌装置」の構造および動作は同一であるから,両者を「同一位置に設けた」一個の撹拌手段とすることに何ら阻害要因は存在せず,また,「洗浄液」と「検体と試薬との反応混合物」であるという液体内容物の相違を考慮しても,両者を「同一位置に設けた」一個の撹拌手段とすることに阻害要因はないといえる。
してみると,引用発明1の両「超音波を出力する圧電素子の非侵襲撹拌装置」に,刊行物2に記載されている上記技術的事項を適用して,相違点1における補正発明の構成とすることは,当業者ならば何ら困難性はなく,容易になし得る程度のことであるというべきである。

そして,本願明細書に記載された補正発明の効果も,当業者であれば予測し得る範囲内のものであり,格別顕著なものといえない。

したがって,補正発明は,本願出願前に国内において頒布された上記刊行物1および刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するというべきである。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず,あるいは,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず,もしくは,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成18年10月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし2に係る発明は,平成18年7月31日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものであると認められ,その請求項1は次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)

「【請求項1】
反応容器と、前記反応容器に試料および試薬を分注する分注手段を有し、分注された試料および試薬の反応液を撹拌して反応測定を行い、反応測定後に前記反応容器内を洗浄液で洗浄する自動分析装置において、
前記反応容器内の洗浄液を撹拌する超音波撹拌素子の撹拌手段を設けたことを特徴とする自動分析装置。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物2(特開平8-201397号公報)において図面と共に記載された事項は,前記(2-イ)?(2-ト)において記載したとおりである。
そして,これらの記載と図面とを総合すると,刊行物2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「左右に試薬テーブルとサンプラーを備え,サンプルピペットにより必要回数及び必要量の検体が反応管に分注され,試薬ピペットは第1試薬用ノズル及び第2試薬用ノズルを複数個保有し,同一位置で第1試薬,第2試薬を別個ノズル又は同一ノズルから分注されるとともに,同一位置で第1次攪拌及び第2次撹拌を行う攪拌機構,攪拌・混合された反応液の吸光度を測光する光学測定装置および前記反応管を空気圧撹拌洗浄し再生する洗浄装置を備えた自動分析装置。」(以下,「引用発明2」という。)

3 本願発明と引用発明2との対比
本願発明と引用発明2とを対比すると,その構造・機能からみて,引用発明2の「反応管」,「検体および試薬」および「サンプルピペットおよび試薬ピペット」が,それぞれ,本願発明の「反応容器」,「試料および試薬」および「分注手段」に相当するといえる。また,引用発明2の「反応管を空気圧撹拌洗浄し再生する洗浄装置」と本願発明の「反応容器内の洗浄液を撹拌する超音波撹拌素子の撹拌手段」とは,「反応容器内の洗浄液を撹拌する撹拌手段」である点で共通する。
そうすると,両者は,
(一致点)
「反応容器と、前記反応容器に試料および試薬を分注する分注手段を有し、分注された試料および試薬の反応液を撹拌して反応測定を行い、反応測定後に前記反応容器内を洗浄液で洗浄する自動分析装置において、
前記反応容器内の洗浄液を撹拌する撹拌手段を備えた自動分析装置。」
の点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(相違点2)
「反応容器内の洗浄液を撹拌する撹拌手段」が,本願発明では「超音波撹拌」式であるのに対し,引用発明2では「空気圧撹拌」式である点。

4 相違点2についての検討
そもそも,自動分析装置において,「反応容器内の液体内容物を撹拌する撹拌手段」として「超音波撹拌素子の撹拌手段」を採用することは,本願出願前周知の技術的事項である(例えば,前記刊行物1に記載された「対流によって容器内の洗浄液を撹拌して洗浄効果を高めるための非侵襲撹拌装置316」あるいは特開2001-242177号公報に記載された「音響放射圧により発生する旋回流を利用して混合し攪拌する攪拌部」を参照されたし。)といえる。
してみると,引用発明2において,その「反応管を空気圧撹拌洗浄し再生する洗浄装置」の代わりに,上記周知の「超音波撹拌素子の撹拌手段」を採用することにより「超音波撹拌式」とし,相違点2における本願発明の構成とすることは,当業者ならば何ら困難性がなく,容易になし得る程度のことであるというべきである。

そして,本願明細書に記載された本願発明の効果も,当業者であれば予測し得る範囲内のものであり,格別顕著なものといえない。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願出願前に頒布された刊行物2に記載された発明および周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,請求項2に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-13 
結審通知日 2008-08-19 
審決日 2008-09-02 
出願番号 特願2003-73118(P2003-73118)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮秋田 将行  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 田邉 英治
信田 昌男
発明の名称 自動分析装置  
代理人 ポレール特許業務法人  
代理人 ポレール特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ