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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04R 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04R |
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管理番号 | 1186471 |
審判番号 | 不服2008-1398 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-01-17 |
確定日 | 2008-10-24 |
事件の表示 | 特願2007- 44563「通話装置」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第一 経緯 1.手続 本願は、平成19年2月23日の出願であり、平成19年12月7日付けで拒絶査定された。 本件は、上記拒絶査定を不服とする平成20年1月17日の審判の請求であり、請求後、平成20年2月18日付けで手続補正書(明細書又は図面について請求の日から30日以内にする補正)が提出された。 2.査定 原査定の理由は、概略、下記のとおりである。 記(査定の理由) 本願各発明(請求項1から請求項8まで)は、下記刊行物に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開2000-125387号公報 刊行物2:実願昭51-48878号(実開昭52-141935号)の マイクロフィルム 刊行物3:実願昭50-165851号(実開昭52-78426号)の マイクロフィルム 刊行物4:特開2000-311235号公報(査定) 刊行物5:特開2004-129192号公報(査定) 第二 補正の却下の決定 平成20年2月18日付けの補正について次のとおり決定する。 《結論》 平成20年2月18付けの補正を却下する。 《理由》 本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。 本件補正は、特許請求の範囲についてする補正であるところ、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げる目的のいずれにも該当しない。 本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反しており、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 本件補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではなく、また、特許法第17条の2第4項各号に掲げる目的のいずれにも該当しないとする理由の詳細は、以下のとおりである。 1.補正の内容 (a)請求項 本件補正前の請求項1に記載した発明(補正前発明という)と、本件補正後の請求項1に記載される発明(補正後発明という)は、下記のとおりである。 記1(補正前の請求項1) 双方向の通話が可能な通話装置において、 ハウジングと、 ハウジングに取り付けられて、一方面側からハウジング外へ音声情報を出力するスピーカと、 ハウジング内でスピーカの他方面側に形成された空間である後気室と、 一端を開口し他端を閉塞した中空に形成され、開口を介して後気室内に連通した音響管と、 音声を集音するマイクロホンと、 スピーカおよびマイクロホンとの間で音声信号の授受を行う音声処理部とを備え、 後気室を包囲する各面は、互いに対向する面間の距離が50mm以下に形成される ことを特徴とする通話装置。 記2(補正後の請求項1) 双方向の通話が可能な通話装置において、 ハウジングと、 ハウジングに取り付けられて、一方面側からハウジング外へ音声情報を出力するスピーカと、 ハウジング内でスピーカの他方面側に形成された空間である後気室と、 一端を開口し他端を閉塞した中空に形成され、開口を介して後気室内に連通した音響管と、 音声を集音するマイクロホンと、 スピーカおよびマイクロホンとの間で音声信号の授受を行う音声処理部とを備え、 後気室を包囲する各面は、互いに対向する面間の距離が50mm以下に形成され、 音響管の内径は、音響管の管壁の粘性による減衰を考慮した音響インピーダンスに基づいて設定される ことを特徴とする通話装置。 (b)本件補正事項 補正後の請求項1には、新たに、「音響管の内径は、音響管の管壁の粘性による減衰を考慮した音響インピーダンスに基づいて設定される」(以下、本件補正事項という)が、記載される。 2.補正の範囲 本件補正事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項ではない。(願書に最初に添付した明細書又は図面を、以下、当初明細書という。) (a)数19(周波数f) 本願発明の目的の一つは、700?800Hz付近の低周波数の音圧レベルを増大させることにある(段落0040、段落0086)。 これに関連して、段落0086、段落0087には、「音圧レベルを増大させたい周波数と音響管40の全長Lpとの関係は[数19]に示される。【数19】 f=c/(4(Lp+ΔL))」と記載されている。ここで、cは音速であり(段落0048)、ΔLは開口端補正値であるところ(段落0081)、ΔLについては「【数16】 ΔL=8(2d)/3π」(段落0082)と記載されている。 これによれば、音圧レベルを増大させたい周波数fは、「d」(音響管の内径、段落0072)には依存するものの、「μ」(空気の粘性、段落0069)に依存するとの記載はない。また、開口端補正値ΔLが「音響管の管壁の粘性による減衰を考慮した」ことによる補正値であるとの記載もない。【数19】および【数16】は、「音響管の管壁の粘性による減衰を考慮」して周波数fや内径dを設定することを意味するものではない。 したがって、【数19】に関する記載を根拠として、本件補正事項は当初明細書に記載した事項であるとすることはできない。 (b)数18(音響インピーダンスZp) 段落0084には、音響管の管壁の粘性による減衰を考慮した音響インピーダンスZpを表す等式【数18】が記載されている。 この等式の右辺第1項には「d^(4)」(dは音響管の内径)が含まれ、同第3項には「ΔL」(開口端補正値=8(2)d)/3π、段落0082)が含まれている。 これによれば、この等式は、音響インピーダンスZpが「d」に依存することを示すに止まるもので、このZpに基づいて「d」を求めることを意図するものではない。また、このZpに基づいて「d」を求める過程について記載はない。 したがって、【数18】に関する記載を根拠として、本件補正事項は当初明細書に記載した事項であるとすることはできない。 (c)図16(3つの断面積) (c1)図16(a)(b)(c)には、後気室の容量(3800mm^(2))、音響管の長さ(95mm)を共通とし、音響管の断面積が異なる場合(3.8mm^(2)、9.0mm^(2)、12.6mm^(2))の各放射音圧特性について、「管壁の粘性を考慮しない理論値」、「管壁の粘性を考慮した理論値」および「実験結果(△マーク)」が示される(段落0088)。 そして、これについて、段落0089では、 「而して、音響管の管壁の粘性による減衰を考慮した音圧レベルの理論値と実験結果とはほぼ一致しており」、「音響管40を設けたハウジングA1では、スピーカSPの最低共振周波数fo0=800Hzとなって、図4に示す音響管無しの特性(最低共振周波数fo2=1200Hz)に比べて最低共振周波数が低周波数側に移行し、さらには800Hz以下の低減の音圧レベルが増大しており」、「スピーカの音質および効率が向上している。」と記載され、 「また、図16(a)(b)(c)によると、音響管40の断面積40の面積が小さいほど、1000Hz近傍での音圧レベルの落ち込みが小さくなることがわかる。」と記載されている。 (c2)段落0088、段落0089及び図16の記載は、いずれも、振動モデルの評価に関する記載である。すなわち、2つの振動モデル(粘性を考慮した理論値、粘性を考慮しない理論値)を実験結果と比較して、粘性を考慮した理論値がより有効であるとの評価を述べたにすぎない。 各断面積「3.8mm^(2)、9.0mm^(2)、12.6mm^(2)」は、理論値の妥当性を複数の場合について検証するために選定されたものに過ぎず、音響管の内径の設定値の候補として選定されたものではない。「音響管40の断面積40の面積が小さいほど、1000Hz近傍での音圧レベルの落ち込みが小さくなることがわかる。」との記載は、断面積(径)と落ち込みとの関係(傾向)を指摘するに過ぎない。 以上によれば、段落0088、段落0089及び図16の記載は、管壁の粘性による減衰を考慮した理論値を用いて、音響管の断面積を求める過程を示すものではない。 (c3)段落0089の「音響管40を設けたハウジングA1では、スピーカSPの最低共振周波数fo0=800Hzとなって、図4に示す音響管無しの特性(最低共振周波数fo2=1200Hz)に比べて最低共振周波数が低周波数側に移行し、さらには800Hz以下の低減の音圧レベルが増大しており」との記載は、本願発明の上記目的を意識した記載であると推察される。 しかし、ここでいう「音圧レベルが増大しており」は、「音響管40を設けたハウジングA1では・・・最低共振周波数が・・・音響管無しの特性に比べて・・・低周波数側に移行する」とあるように、「音響管40をハウジングA1に設けた」結果であると理解するのが自然であり、「音響管の管壁の粘性による減衰を考慮した」ことによる効果を意味するものではない。 (c4)以上によれば、図16に関する記載を根拠として、本件補正事項は当初明細書に記載した事項であるとすることはできない。 (d)請求人の主張 請求人は、本件補正事項は、当初明細書の段落0069?段落0089を根拠とする旨主張する。 しかし、段落0069?段落0089の記載については上記(a)?(c)のとおりであり、また、段落0069?段落0089を含め、他に、本件補正事項の根拠となるような記載は見あたらない。 2.目的の適合性 本件補正事項は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げる目的のいずれにも該当しない。 (a)減縮 本件補正事項が、仮に、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとしても、補正前発明と補正後発明の解決しようとする課題が同一であるとはいえないので、請求項1についてする補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。すなわち、 補正前発明の解決しようとする課題は、「一般に、スピーカ装置のキャビネット内には、スピーカの裏面側に形成された後気室があり、スピーカの裏面から後気室に放射される音波が、後気室を包囲する内面で反射して、互いに対向する内面間の距離が半波長の整数倍に等しくなる周波数の定在波を生じる。後気室内に生じる定在波は、スピーカの振動板の動きを阻害する作用を担うので、スピーカの出力から定在波と同一の周波数成分が低下してしまい、スピーカの音質、効率を劣化させる大きな要因となっている。而して、このような定在波が音声帯域で発生した場合、主に人の音声を出力するスピーカ装置では、音声内容が聞き取り難くなったり、消費電力が大きくなるという問題が生じる。」(段落0004)ところへ、「本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、後気室内に発生する音声帯域の定在波を抑制して、音声帯域でのスピーカの音質、効率を向上させたスピーカ装置を提供することにある。」(段落0005)とするものである。 他方、本件補正事項が解決しようとする課題は、請求人の主張によれば、「スピーカの出力において、音響管の管壁の粘性による減衰を考慮した音圧レベルの理論値と実験結果とはほぼ一致することから、音響管によるスピーカの音質および効率向上の効果が理論値どおりとなって、狙いどおりの出力特性を得ること」、「音響管の管壁の粘性を考慮することで、音響管を設けることによる効果を設計段階で精度よく検証することができ、実機による検証を何度も行わなくとも、実際のスピーカの音質および効率を狙い通りの特性に仕上げること」(いずれも、審判請求書)にある。 本件補正事項に係る上記課題は、精度のよい設計手法(振動モデル)を提供することにあり、補正前発明の「音声帯域でのスピーカの音質、効率を向上させたスピーカ装置を提供すること」(段落0005)と同一ではない。 (b)その他の目的 また、本件補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。 第三 本願発明 平成20年2月18日付けの補正は上記のとおり却下する。 本願の請求項1から請求項8までに係る発明は、本願明細書及び図面(平成19年8月10日付けの各手続補正書により補正された明細書及び図面)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1から請求項8までに記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明は、下記のとおりである(本願発明ともいう、上記補正前発明に同じ(再掲))。 記(本願発明) 双方向の通話が可能な通話装置において、 ハウジングと、 ハウジングに取り付けられて、一方面側からハウジング外へ音声情報を出力するスピーカと、 ハウジング内でスピーカの他方面側に形成された空間である後気室と、 一端を開口し他端を閉塞した中空に形成され、開口を介して後気室内に連通した音響管と、 音声を集音するマイクロホンと、 スピーカおよびマイクロホンとの間で音声信号の授受を行う音声処理部とを備え、 後気室を包囲する各面は、互いに対向する面間の距離が50mm以下に形成される ことを特徴とする通話装置。 第四 当審の判断 1.引用刊行物の記載 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物4(特開2006-311235号公報)には、「携帯端末装置」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 〈技術分野〉 (ア)「本発明は、3Dサランド機能を有する携帯端末装置に関し、特に、装置の小型化を実現しつつ、3Dサランド機能についてその効果を向上できるようにする携帯端末装置に関する。 携帯電話などの携帯端末装置では、装置内に2つのスピーカを備える構成を採って、それを使って、ユーザが現実の世界で音を聞くときと同じような感覚で音を聞くことができるようにする3Dサランド機能を実現する構成を採っている。」(段落0001、段落0002) 〈背景技術〉 (イ)「携帯端末装置で使用するスピーカについては、音圧を確保するために後気室の容積を確保する必要がある。例えば、スピーカのメーカが後気室の容積として3ccを要求する場合には、その容積を確保する必要がある。」(段落0004) 〈発明が解決しようとする課題〉 (ウ)「しかしながら、このように構成される従来技術では、ステレオ機能については十分にその効果を向上できるようになるものの、後気室において左右の音が混ざり合うことから、3Dサランド機能については十分にその効果を発揮することができないという問題がある。・・・本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、装置の小型化を実現しつつ、3Dサランド機能についてその効果を向上できるようにする新たな携帯端末装置の提供を目的とする。」(段落0007?段落0013) 〈課題を解決するための手段〉 (エ)「この目的を達成するために、本発明の携帯端末装置は、同一の筐体内にスピーカを2個搭載した3Dサランド機能を有するときにあって、各スピーカの前気室と後気室とが互いに分離密閉され、かつ、それらの2つの前気室が互いに分離密閉されるとともに、それらの2つの後気室が互いに分離密閉されるように構成される。 このように構成されることで、前気室において左右の音が混ざり合うことがないとともに、後気室において左右の音が混ざり合うことがないことから、3Dサランド機能について十分にその効果を向上することができるようになる。」(段落0014、段落0015) 〈実施例、図3、図5〉 〈全体構造〉 (オ)「図3に、本発明を具備する携帯電話1の本発明に関わる構造部分を図示する。ここで、図3(a)は折り畳んだ状態にあるときに蓋体20を上から見た図を示し、図3(b)はB-Bから見た断面図を示し、図3(c)は蓋体カバー23を取り外した状態における2つのスピーカ40の取り付け部分の図を示す。 この蓋体カバー23には、スピーカ40の取付位置に対応付けられるカバー前面の左右対称となる位置に、同じ大きさを持つ2つの音用開口部24が形成されている。なお、この音用開口部24には、ゴミの混入を防ぐためのメッシュがかけられており、さらに、このメッシュを保持するための橋梁部材が設けられている。 ここで、左側のスピーカ40に対応付けて設けられる音用開口部24は、そのスピーカ40の左端に対応付けられる位置に形成されるとともに、右側のスピーカ40に対応付けて設けられる音用開口部24は、そのスピーカ40の右端に対応付けられる位置に形成されることで、例えば37mm以上というように、左右の音用開口部24はできるだけ離れた位置に形成されることになる。 2つのスピーカ40は、音圧差が1dB以下の同一性能品のものが用いられ、蓋体本体22に設けられるスピーカホルダ25の持つ複数の係合片26に係合する形で取り付けられており、このスピーカホルダ25には、図中に示す黒く塗り潰した部分で示すように、2つのスピーカ40を取り囲むとともに、2つのスピーカ40を区切る形態で設けられる区画壁27が形成されている。 これらの2つのスピーカ40には、図中に示す斜線部分で示すように、その外周部分に、リング形状の前気室用パッキング41が取り付けられており、後述することから分かるように、この前気室用パッキング41により分離密閉されることになる空間部分がスピーカ40の前気室を構成するとともに、それ以外の周囲の空間部分がスピーカ40の後気室を構成することになる。」(段落0029?段落0034) 〈貫通孔〉 (カ)「さらに、スピーカホルダ25には、スピーカ40の取付位置に対応付けられる装置内部側の壁位置に、例えば3個というように複数の貫通孔28が設けられている。 ここで、左側のスピーカ40に対応付けて設けられる貫通孔28は、そのスピーカ40の左端に対応付けられる位置に設けられるとともに、右側のスピーカ40に対応付けて設けられる貫通孔28は、そのスピーカ40の右端に対応付けられる位置に設けられることで、左右の貫通孔28はできるだけ離れた位置に設けられることになる。」(段落0035、段落0036) 〈小型化が要求されない場合〉 (キ)「本発明を具備する携帯電話1に対して、それほどの小型化が要求されない場合には、後気室200の容積としてスピーカ40のメーカの要求する容積を実現でき、そのような場合には貫通孔28を設ける必要がない。」(段落0048) 〈小型化の要求が強い場合〉 (ク)「しかしながら、本発明を具備する携帯電話1に対しての小型化の要求が強い場合には、後気室200の容積としてスピーカ40のメーカの要求する容積を実現できないことで、音圧が低下することになる。 これから、このような場合には、上述した左右の貫通孔28を設けることで装置内部の容積を利用し、これにより、後気室200の容積としてスピーカ40のメーカの要求する容積を実現する構成を採ることになる。このとき設けられる左右の貫通孔28は、上述したようにできるだけ離れた位置に設けられることになる。 このように構成されることで、装置の小型化を図るために後気室200の容積が十分に確保できない場合に、左右の貫通孔28を使って装置内部の容積を後気室200として利用することが可能になることで、音圧の低下を防止することができるようになるとともに、この実現にあたって、左右の貫通孔28が他方のスピーカ40から離れた位置に設けられることで、後気室200において左右の音が混ざり合うことを可能な限り抑えることができることから、3Dサランド機能について十分にその効果を向上することができるようになる。」(段落0049?段落0051) 〈実験結果〉 (ケ)「図7は、左右のそれぞれに1mm径の貫通孔28を1つ設けたときとの比較となる実験結果を示し、図8は、左右のそれぞれに1mm径の貫通孔28を2つ設けたときとの比較となる実験結果を示し、図9は、左右のそれぞれに1mm径の貫通孔28を3つ設けたときとの比較となる実験結果を示す。 ここで、実線が貫通孔28を設けないときの実験結果であり、破線が貫通孔28を設けたときの実験結果である。 これらの実験結果から、貫通孔28を設けることで、1kHz以下の低い周波数領域における音圧の低下を防止することができるようになることを検証できた。 これから、後気室200の容積が十分に確保できない場合に、貫通孔28を設けることが有効であることを検証できた。」(段落0053?段落0056) 2.対比(対応関係) 本願発明と刊行物4記載の発明とを対比すると以下の対応が認められる。 (a)通話装置 刊行物4は、「携帯電話などの携帯端末装置」に関する(記載ア)。 刊行物4の「携帯電話」は、本願発明にいう「双方向の通話が可能な通話装置」に相当する。 (b)ハウジング、スピーカ、マイクロホン、音声処理部 ハウジング、スピーカ、マイクロホンおよび音声処理部は、携帯電話が本来備える基本的な構造および機能である。刊行物2の携帯電話も、本願発明のように「ハウジング」と、「ハウジングに取り付けられて、一方面側からハウジング外へ音声情報を出力するスピーカ」と、「音声を集音するマイクロホン」と、「スピーカおよびマイクロホンとの間で音声信号の授受を行う音声処理部」とを備えるものである。 (c)後気室 刊行物4の「携帯電話」では、前気室用パッキング41により囲まれ分離密閉される内側の空間部分が、スピーカ40の前気室100を構成し、その前気室用パッキング41と後気室用パッキング29とにより区画され分離密閉される空間部分が、スピーカ40の後気室200を構成する(記載オ、図5)。 刊行物4の「後気室200」は、本願発明にいう「ハウジング内でスピーカの他方面側に形成された空間である後気室」に相当する。 もっとも、後気室につき本願発明では、「後気室を包囲する各面は、互いに対向する面間の距離が50mm以下に形成される」ところ、刊行物4には、後気室200の大きさについて記載はない。相違が認められる。 (d)音響管 本願発明は、「一端を開口し他端を閉塞した中空に形成され、開口を介して後気室内に連通した音響管」を備えるところ、刊行物4には、「音響管」について記載はない。相違が認められる。 3.一致点・相違点 本願発明と刊行物4記載の発明との一致点および相違点は、下記とおりである。 記(一致点) 双方向の通話が可能な通話装置において、 ハウジングと、 ハウジングに取り付けられて、一方面側からハウジング外へ音声情報を出力するスピーカと、 ハウジング内でスピーカの他方面側に形成された空間である後気室と、 音声を集音するマイクロホンと、 スピーカおよびマイクロホンとの間で音声信号の授受を行う音声処理部とを備える、 通話装置。 記(相違点) 〈相違点1〉 後気室につき、 本願発明では、「後気室を包囲する各面は、互いに対向する面間の距離が50mm以下に形成される」のに対して、刊行物4には、後気室の大きさについて記載がない点。 〈相違点2〉 本願発明では、「一端を開口し他端を閉塞した中空に形成され、開口を介して後気室内に連通した音響管」を備えるのに対して、刊行物4では、「音響管」について記載がない点。 4.相違点の判断等 〈相違点1について〉 (a)通常の事項(手持ち型携帯電話の横幅) 刊行物4(図3)の携帯電話は手持ち型であり、また、後気室の容積として「3cc」(記載イ。この容量は、本願の通話音質および効率が悪化する後気室の容量である「3800mm^(3)以下」(段落0040)に該当する。)が要求される小型のものである。 他方、手持ち型の携帯電話の横幅は通常50mm前後である。 携帯電話の後気室の大きさ(横方向)は横幅以下であるから、刊行物4においても、その後気室の大きさも通常の横幅(50mm前後)以下である。 (b)50mm以下の意義 本願発明の「50mm以下」の意義は、「この発明によれば、後気室内に3KHz以下の定在波が発生することはなく、後気室内に発生する定在波によって音声帯域でのスピーカの音質、効率が悪化することを防止できる。」(段落0007)ことにある。 ところで、刊行物1には、「キャビネット101内に生じる定在波は、スピーカユニット102の振動板の動きを阻害する作用を担うので、スピーカ装置Sの再生音質を劣化させる大きな要因となる。そのため、従来では、キャビネット内に生じる定在波を極力緩和させるために図13に示すスピーカ装置の各例に見られるようなさまざまな工夫がなされていた。」(段落0010、段落0011)と記載されており、スピーカ分野において定在波を抑制することは、当業者が当然考慮する設計基準であることが認められる。 また、刊行物1には、「壁面間に生じる定在波には、該壁面間の間隔のおよそ2倍に相当する波長の定在波(最低共振モード)のほか、最低共振モードのn倍(nは自然数)の共振周波数に相当する高次モードが含まれる。」(段落0008)とも記載されている。これによれば、壁面間の間隔を小さくするにつれて最低共振モード(および高次モード)の共振周波数が高くなることは周知の事項であることが認められる。他方、「一般に通話で使用される音声帯域は600Hz?3KHzであ(る)」(本願明細書の段落0034)ことは技術常識である。 そうすると、音声帯域(600Hz?3KHz)での定在波を抑制するように壁面間の距離を最適設定することは、当業者にとって新規な着想であるとも言えず、「50mm以下」に格別の意義は認められない。 (c)まとめ 上記相違点1に係る構成は、刊行物4の後気室の設計に際して、上記通常の事項を採用することにより、当業者が容易になし得ることである。 〈相違点2について〉 (a)刊行物4 刊行物4では、携帯電話に対して小型化の要求が強い場合には、要求される後気室200の容積を実現できず音圧が低下することになるとの認識に立ち、後気室に貫通孔28を設けることで装置内部の容積を後気室200として利用することにより、音圧の低下を防止することが記載されている(記載ク)。 刊行物4の「後気室に貫通孔28を設ける」構成は、後気室の容積が小さいことにより音圧が低下することを防止することを目的とするものであり、この点、本願発明の目的とも一致する。 (b)刊行物2 刊行物2には、小型スピーカ1の背面に設けられた空室1の周壁に任意数の孔を開け、該孔のそれぞれに長さの異なるパイプ(31、32、33)の 一端を連絡し、各パイプの他端部に栓(前後移動と取外し自在)を設けた構成が記載されている(第2頁、第1図?第3図)。また、空室6内に、渦巻き型に長さの異なるパイプ状区画(71,72,73)をそれぞれの内端を空室6内に開き、外端を空室6の外方に開き、外端部に栓8(前後移動と取外し自在)を設ける構成も記載されている(第3頁、第4図?第7図)。 そして、上記各構成において、パイプまたはパイプ状区画の有効長さを、共振される低音周波数の波長の1/4に設定することにより、低音の再生限界を低くし、空気室の容積が小さい小型スピーカの低音特性を改善することが記載されている(第2頁)。 刊行物2の「パイプまたはパイプ状区画」は、本願発明にいう「一端を開口し他端を閉塞した中空に形成され、開口を介して後気室内に連通した音響管」に相当するものである。 (c)まとめ 上記相違点2に係る構成は、刊行物4において、その貫通孔28または空気室202に、刊行物2の構成を採用することにより、当業者が容易になし得ることである。 〈効果等について〉 上記相違点1および相違点2に係る構成がいずれも当業者が容易になし得ることであることは前記のとおりであるところ、これら相違点を総合しても、格別の作用をなすとは認められない。本願発明の効果も、刊行物4および刊行物2の記載から予測することができる程度のものにすぎない。 5.まとめ 以上、本願発明は、引用例4および刊行物2に記載された発明ならびに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第五 むすび 以上、本願の請求項1に係る発明は、刊行物4および刊行物2に記載された発明ならびに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、残る請求項2から請求項8までに係る各発明について特に検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-08-19 |
結審通知日 | 2008-08-26 |
審決日 | 2008-09-08 |
出願番号 | 特願2007-44563(P2007-44563) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04R)
P 1 8・ 57- Z (H04R) P 1 8・ 561- Z (H04R) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大野 弘 |
特許庁審判長 |
新宮 佳典 |
特許庁審判官 |
小池 正彦 奥村 元宏 |
発明の名称 | 通話装置 |
代理人 | 森 厚夫 |
代理人 | 西川 惠清 |