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審決分類 |
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q |
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管理番号 | 1186505 |
審判番号 | 不服2005-9672 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-05-23 |
確定日 | 2008-10-20 |
事件の表示 | 特願2001-249275「社債ポートフォリオの最適化装置およびそのプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月28日出願公開、特開2003- 58700〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成13年8月20日の出願であって、平成16年10月5日付けで拒絶理由が通知され、同年12月6日付けで手続補正がなされたが、平成17年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月23日に審判請求がなされ、同年6月22日付けで手続補正がなされたものである。その後、当審において平成20年4月9日付けで前置審尋がなされたところ、請求人からは応答なく回答書の提出がなされなかったものである。 2.平成17年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年6月22日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成17年6月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、 「【請求項1】 入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現される装置であって、 社債市場データおよび社債銘柄データを前記入力手段が受け付け、該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段に保存し、 該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信し、該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出して、将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算し、該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する、前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段と、 予測される倒産時の回収率のデータを前記入力手段が受け付けて、前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される受付手段と、 前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信し、前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算し、該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する、前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段と、 前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信し、前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信して、前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、該社債の組み合わせのデータを出力する、前記演算手段により実現されるリスク最小化手段と を備える社債ポートフォリオ最適化装置。」 から、 「【請求項1】 入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現される装置であって、 前記入力手段に入力された社債市場データおよび社債銘柄データを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される社債市場データおよび社債銘柄データ受付手段と、 該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信し、該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出して、将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算し、該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する、前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段と、 前記入力手段に入力された予測される倒産時の回収率のデータを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される回収率のデータ受付手段と、 前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信し、前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算し、該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する、前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段と、 前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信し、前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信して、前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、該社債の組み合わせのデータを出力する、前記演算手段により実現されるリスク最小化手段と を備える社債ポートフォリオ最適化装置。」 と補正された。 (2)補正の目的について 補正前の記載と補正後の記載からみて、本件補正は、以下の補正事項(ア)?(ウ)を含むものである。 (ア)補正前の「社債市場データおよび社債銘柄データを前記入力手段が受け付け、該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段に保存し、」との記載を、「前記入力手段に入力された社債市場データおよび社債銘柄データを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される社債市場データおよび社債銘柄データ受付手段と、」との記載に変更する補正事項。 (イ)補正前の「予測される倒産時の回収率のデータを前記入力手段が受け付けて、前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される受付手段と、」との記載を、「前記入力手段に入力された予測される倒産時の回収率のデータを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される回収率のデータ受付手段と、」との記載に変更する補正事項。 (ウ)補正前の「所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、」との記載を、「将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、」との記載に変更する補正事項。 上記補正事項(ア)は、補正前の請求項1の「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段に保存」に「前記入力手段に入力された」との限定を付加するものであるので、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 上記補正事項(イ)は、補正前の請求項1の「予測される倒産時の回収率のデータを」「前記記憶手段に保存する」に「前記入力手段に入力された」との限定を付加するものであるので、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 上記補正事項(ウ)は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「所定の方式と基準により」を削除するものであり、補正後の請求項1は、補正前の請求項1に含まれなかったところの、所定の方式と基準以外の構成をも含むことになり、補正前の請求項を拡張又は変更するものである。 したがって、上記補正事項(ウ)は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。 また、原査定の拒絶の理由は、「平成16年10月5日付け拒絶理由通知書に記載した特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない」旨指摘するものであり、記載が明りょうでない旨を指摘するものではないから、上記補正事項(ウ)は、特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものとはいえない。 さらに、上記補正事項(ウ)が、特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、同第4項第3号の誤記の訂正のいずれかを目的とするものに該当しないことは明らかである。 よって、上記補正事項(ウ)を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものである。 (3)独立特許要件 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げられた事項のいずれかを目的とするものに該当しない補正事項を含むことは明らかであるが、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 本願補正発明が特許法第29条第1項柱書の規定を満たしているかどうか、補正後の請求項1の記載を、便宜上以下のとおりの(a)?(f)に分けて検討する。 「【請求項1】 (a)入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現される装置であって、 (b)前記入力手段に入力された社債市場データおよび社債銘柄データを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される社債市場データおよび社債銘柄データ受付手段と、 (c)該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信し、該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出して、将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算し、該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する、前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段と、 (d)前記入力手段に入力された予測される倒産時の回収率のデータを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される回収率のデータ受付手段と、 (e)前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信し、前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算し、該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する、前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段と、 (f)前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信し、前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信して、前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、該社債の組み合わせのデータを出力する、前記演算手段により実現されるリスク最小化手段と を備える社債ポートフォリオ最適化装置。」 本願補正発明は「企業間の信用力の変化を取り込んで、社債の債務不履行リスクや価格変動リスクなどの信用リスクを適切に管理し、高い利回りを得る」(発明の詳細な説明の段落【0007】)ことを目的とした「社債ポートフォリオ最適化装置」であり、機器等に対する制御又は該制御に伴う処理を具体的に行うものではなく、対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うものでもない。 そして、本願補正発明の「社債ポートフォリオ最適化装置」は、コンピュータにより構成されるものであり、その発明の実施にソフトウェアを必要とする、いわゆる、コンピュータ・ソフトウェア関連発明である。 このコンピュータ・ソフトウェア関連発明が、特許法第2条第1項で特許法での「発明」の定義としていうところの「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるのは、発明がそもそも一定の技術的課題を達成できる具体的なものになっていなければならないことから、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている場合であり、そのためには、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されていることが提示されている必要がある。 そこで、本願補正発明が、「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されたもの」であるかについて、以下に検討する。 上記(a)について検討する。 上記(a)には「入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現される装置であって、」と記載され、「装置」が、入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現されるものであることを示しているが、具体的な情報処理を提示するものではない。 上記(b)について検討する。 上記(b)には「前記入力手段に入力された社債市場データおよび社債銘柄データを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される社債市場データおよび社債銘柄データ受付手段と、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現される社債市場データおよび社債銘柄データ受付手段」が行う「前記入力手段に入力された社債市場データおよび社債銘柄データを前記記憶手段に保存する」という処理は、ハードウェア資源である「入力手段」、「記憶手段」を用いて実現される保存処理として把握される。 上記(c)について検討する。 上記(c)には「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信し、該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出して、将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算し、該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する、前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段と、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段」が、「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信」する処理を行い、「該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」する処理を行い、「将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算」する処理を行い、「該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する」処理を行うことを示している。しかしながら、「前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段」が行う処理の「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信」する処理は、ハードウェア資源として「記憶手段」が記載されているものの「記憶手段」に関する記載はデータの送信元を特定するに留まり、情報の演算又は加工については記載されていないので受信するデータを特定するに留まる。また、「該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」する処理は、本願補正発明の他の発明特定事項をあわせみても、「全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」するのに「該社債市場データおよび該社債銘柄データ」をどのように情報処理して利用し算出するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算」する処理は、本願補正発明の他の発明特定事項をあわせみても、「将来の信用格付の変動分布」を計算するのに「該相関データ」をどのように情報処理して利用し計算するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する」処理は、情報の演算又は加工については記載されていないので出力するデータを特定するに留まる。 上記(d)について検討する。 上記(d)には「前記入力手段に入力された予測される倒産時の回収率のデータを前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される回収率のデータ受付手段と、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現される回収率のデータ受付手段」が行う「前記入力手段に入力された予測される倒産時の回収率のデータを前記記憶手段に保存する」処理は、ハードウェア資源である「入力手段」、「記憶手段」を用いて実現される保存処理として把握される。 上記(e)について検討する。 上記(e)には「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信し、前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算し、該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する、前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段と、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段」が、「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信」する処理を行い、「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」する処理を行い、「該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する」処理を行うことを示している。しかしながら、「前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段」が行う処理の「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信」する処理は、ハードウェア資源として「記憶手段」が記載されているものの「記憶手段」に関する記載はデータの送信元を特定するに留まり、情報の演算又は加工については記載されていないので受信するデータを特定するに留まる。また、「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」する処理は、本願補正発明の他の発明特定事項をあわせみても、「ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」するのに「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率」をどのように情報処理して利用し計算するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する」処理は、情報の演算又は加工については記載されていないので出力するデータを特定するに留まる。 上記(f)について検討する。 上記(f)には「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信し、前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信して、前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、該社債の組み合わせのデータを出力する、前記演算手段により実現されるリスク最小化手段と」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現されるリスク最小化手段」が「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信」する処理を行い、「前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信」する処理を行い、「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」する処理を行い、「該社債の組み合わせのデータを出力する」処理を行うことを示している。しかしながら、「前記演算手段により実現されるリスク最小化手段」が行う処理の「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信」する処理及び「前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信」する処理は、それぞれ、ハードウェア資源として「信用格付変動分布計算手段」、「スプレッド期間構造計算手段」が記載されているものの「信用格付変動分布計算手段」、「スプレッド期間構造計算手段」に関する記載はデータの送信元を特定するに留まり、情報の演算又は加工については記載されていないので受信するデータを特定するに留まる。また、「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」する処理は、本願補正発明の他の発明特定事項をあわせみても、「将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」するのに「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造」をどのように情報処理して利用し計算するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「該社債の組み合わせのデータを出力する」処理は、情報の演算又は加工については記載されていないので出力するデータを特定するに留まる。 以上検討したとおり、本願補正発明の「信用格付変動分布計算手段」が行う「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信」する処理及び「該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」する処理及び「将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算」する処理及び「該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する」処理、「スプレッド期間構造計算手段」が行う「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信」する処理及び「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」する処理及び「該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する」処理、「リスク最小化手段」が行う「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信」する処理及び「前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信」する処理及び「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」する処理及び「該社債の組み合わせのデータを出力する」処理は、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか提示するものではない。 そして、本願補正発明の「社債市場データおよび社債銘柄データ受付手段」が行う保存処理、「回収率のデータ受付手段」が行う保存処理は、「企業間の信用力の変化を取り込んで、社債の債務不履行リスクや価格変動リスクなどの信用リスクを適切に管理し、高い利回りを得る」という目的を達成するために本願補正発明が行う処理の一部分の処理にすぎず、本願補正発明は、全体として、その目的を達成するための情報処理が、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか提示するものではない。 よって、本願補正発明は、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとはいえないから、特許法第2条第1項で定義される「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当しない。 したがって、本願補正発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 (4)まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 また、仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められないので、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明 平成17年6月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年12月6日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(便宜上各段落に(A)?(F)の符号を付した。) 「【請求項1】 (A)入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現される装置であって、 (B)社債市場データおよび社債銘柄データを前記入力手段が受け付け、該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段に保存し、 (C)該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信し、該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出して、将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算し、該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する、前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段と、 (D)予測される倒産時の回収率のデータを前記入力手段が受け付けて、前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される受付手段と、 (E)前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信し、前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算し、該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する、前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段と、 (F)前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信し、前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信して、前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、該社債の組み合わせのデータを出力する、前記演算手段により実現されるリスク最小化手段と を備える社債ポートフォリオ最適化装置。」 4.原査定の拒絶の理由の概要 平成16年10月5日付けの拒絶理由通知の記載からみて、当該拒絶理由通知に記載された拒絶の理由の概要は以下のとおりのものである。 『この出願の下記の請求項に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 記 (1)請求項1には、「演算手段」が、 「該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通の確率変数と信用格付の変動の相関を考慮して、将来の信用格付の変動分布を」計算すること、 「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列と、倒産確率と、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンと、前記倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を」計算すること、 「計算された前記将来の信用格付の変動分布と前記将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを」計算すること、 が記載されている。これらは、「将来の信用格付の変動分布」、「将来の信用格付別スプレッド期間構造」、「将来のリスクを最小化する社債の組み合せ」という演算の結果を、単に所定の入力に基づいて計算するということが特定されているだけであって、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとはいえないから、当該請求項に係る発明が、全体として、自然法則を利用した技術的思想の創作であるとは認められない。 (2)請求項2における、「演算手段」が、「前記社債市場データおよび前記社債銘柄データに基づいて、所定パス回数のモンテカルロ・シミュレーションを行って、該パスのそれぞれについて将来の信用格付の変動を」計算するとの記載も、上記(1)で指摘したのと同様である。 (3)請求項3における、「演算手段」が、 「前記将来の信用格付別スプレッド期間構造に基づいて、前記信用格付変動分布計算ステップにおいて計算された各パスにおける社債の銘柄別のリターンと、同様に計算された社債の銘柄別のリターンを複数のパスについて平均した社債の銘柄別の期待リターンとの差を」計算する、 「該差と社債の銘柄別のウェイトとの積を」計算する、該積を複数の社債の銘柄について演算手段が計算し、計算された社債の銘柄についての該積の和を」計算する、 「所定のパス回数における、該和のうちの0以上の値を有するものの平均を」計算する、 「該和の平均が最小になるような銘柄別ウェイトを」計算するとの記載も、上記(1)で指摘したのと同様である。 (4)請求項4における、「演算手段」が、 「前記将来の信用格付別スプレッド期間構造に基づいて、前記信用格付変動分布計算ステップにおいて計算された各パスにおける社債の銘柄別のリターンと、社債の銘柄別のウェイトとの積の和を複数の銘柄について」計算する、 「予め設定されているクリティカルレベルリターンから、計算された該積の和を引いて計算される0以上の差を演算手段が計算し、該差の平均」計算する、 「該差の平均が最小になるような銘柄別ウェイトを」計算する、との記載も、上記(1)で指摘したのと同様である。 (5)請求項5-15のデータの内容を特定する記載を加味しても、上記(1)で指摘したのと同様である。 (6)請求項16における、「演算手段」が、 「前記信用格付推移確率行列(Pj,k+1)と、リスク中立な倒産確率(q?j,K+1)と、別途求めるか入力された複数期間の予想される将来の国債価格(v0)と、前記倒産時の回収率(δj)と、入力された割引社債価格(vj)とに基づいて、リスク・プレミアム・ファクター(lj)を」計算する、 「該リスク・プレミアム・ファクター(lj)と、前記信用格付推移確率行列(Pi,j)とに基づいて、複数期間のリスク中立確率である推移確率(q?i,j)を」計算する、 「計算された該複数期間のリスク中立確率である推移確率(q?i,j)に基づいて、所望期間のリスク中立確率である推移確率(q?i,j)を」計算する、 「計算された該所望期間の該リスク中立確率である推移確率(q?i,j)に基づいて計算されるリスク中立な倒産確率(q?i,K+1)、前記倒産時の回収率(δj)と、所望期間における割引国債価格(v0)とに基づいて、所望期間における社債価格(v)を」計算する、 「計算された該所望期間における社債価格(v)と、該所望期間における満期の割引国債価格(v0)との差に基づいて、社債の将来の信用格付別スプレッド期間構造を」計算する、との記載についても、上記(1)で指摘したのと同様である。 (7)請求項17-32についても上記(1)-(6)と同様である。 (8)請求項33は、当該請求項が引用する請求項1-16について、上記(1)-(6)で指摘したように、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとはいえないから、請求項33の「コンピュータシステム」としてみても、自然法則を利用した技術的思想の創作であるとは認められない。 よって、請求項1-33に係る発明は、特許法第2条第1項に定める「発明」に該当しない。』 5.当審の判断 本願発明は「企業間の信用力の変化を取り込んで、社債の債務不履行リスクや価格変動リスクなどの信用リスクを適切に管理し、高い利回りを得る」(発明の詳細な説明の段落【0007】)ことを目的とした「社債ポートフォリオ最適化装置」であり、機器等に対する制御又は該制御に伴う処理を具体的に行うものではなく、対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うものでもない。 そして、本願発明の「社債ポートフォリオ最適化装置」は、コンピュータにより構成されるものであり、その発明の実施にソフトウェアを必要とする、いわゆる、コンピュータ・ソフトウェア関連発明である。 このコンピュータ・ソフトウェア関連発明が、特許法第2条第1項で特許法での「発明」の定義としていうところの「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるのは、発明がそもそも一定の技術的課題を達成できる具体的なものになっていなければならないことから、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている場合であり、そのためには、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されていることが提示されている必要がある。 そこで、本願発明が、「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されたもの」であるかについて、以下に検討する。 上記(A)について検討する。 上記(A)には「入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現される装置であって、」と記載され、「装置」が、入力手段と演算手段と記憶手段とを有するコンピュータを用いて実現されるものであることを示しているが、具体的な情報処理を提示するものではない。 上記(B)について検討する。 上記(B)には「社債市場データおよび社債銘柄データを前記入力手段が受け付け、該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段に保存し、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置において「社債市場データおよび社債銘柄データを前記入力手段が受け付け」る処理及び「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段に保存」する処理は、ハードウェア資源である「入力手段」、「記憶手段」を用いて実現される保存処理として把握される。 上記(C)について検討する。 上記(C)には「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信し、該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出して、将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算し、該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する、前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段と、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段」が、「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信」する処理を行い、「該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」する処理を行い、「将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算」する処理を行い、「該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する」処理を行うことを示している。しかしながら、「前記演算手段により実現される信用格付変動分布計算手段」が行う処理の「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信」する処理は、ハードウェア資源として「記憶手段」が記載されているものの「記憶手段」に関する記載はデータの送信元を特定するに留まり、情報の演算又は加工については記載されていないので受信するデータを特定するに留まる。また、「該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」する処理は、本願発明の他の発明特定事項をあわせみても、「全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」するのに「該社債市場データおよび該社債銘柄データ」をどのように情報処理して利用し算出するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算」する処理は、本願発明の他の発明特定事項をあわせみても、「将来の信用格付の変動分布」を計算するのに「該相関データ」をどのように情報処理して利用し計算するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する」処理は、情報の演算又は加工については記載されていないので出力するデータを特定するに留まる。 上記(D)について検討する。 上記(D)には「予測される倒産時の回収率のデータを前記入力手段が受け付けて、前記記憶手段に保存する、前記演算手段により実現される受付手段と、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現される受付手段」が行う「予測される倒産時の回収率のデータを前記入力手段が受け付け」る処理及び「前記記憶手段に保存する」処理は、ハードウェア資源である「入力手段」、「記憶手段」を用いて実現される保存処理として把握される。 上記(E)について検討する。 上記(E)には「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信し、前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算し、該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する、前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段と、」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段」が、「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信」する処理を行い、「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」する処理を行い、「該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する」処理を行うことを示している。しかしながら、「前記演算手段により実現されるスプレッド期間構造計算手段」が行う処理の「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信」する処理は、ハードウェア資源として「記憶手段」が記載されているものの「記憶手段」に関する記載はデータの送信元を特定するに留まり、情報の演算又は加工については記載されていないので受信するデータを特定するに留まる。また、「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」する処理は、本願発明の他の発明特定事項をあわせみても、「ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」するのに「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率」をどのように情報処理して利用し計算するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する」処理は、情報の演算又は加工については記載されていないので出力するデータを特定するに留まる。 上記(F)について検討する。 上記(F)には「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信し、前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信して、前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算し、該社債の組み合わせのデータを出力する、前記演算手段により実現されるリスク最小化手段と」と記載され、社債ポートフォリオ最適化装置が備える「前記演算手段により実現されるリスク最小化手段」が「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信」する処理を行い、「前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信」する処理を行い、「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」する処理を行い、「該社債の組み合わせのデータを出力する」処理を行うことを示している。しかしながら、「前記演算手段により実現されるリスク最小化手段」が行う処理の「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信」する処理及び「前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信」する処理は、それぞれ、ハードウェア資源として「信用格付変動分布計算手段」、「スプレッド期間構造計算手段」が記載されているものの「信用格付変動分布計算手段」、「スプレッド期間構造計算手段」に関する記載はデータの送信元を特定するに留まり、情報の演算又は加工については記載されていないので受信するデータを特定するに留まる。また、「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」する処理は、本願発明の他の発明特定事項をあわせみても、「将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」するのに「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造」をどのように情報処理して利用し計算するのか提示しておらず、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか把握されるものではない。また、「該社債の組み合わせのデータを出力する」処理は、情報の演算又は加工については記載されていないので出力するデータを特定するに留まる。 以上検討したとおり、本願発明の「信用格付変動分布計算手段」が行う「該社債市場データおよび該社債銘柄データを前記記憶手段から受信」する処理及び「該社債市場データおよび該社債銘柄データに基づいて、全社債に共通する指標の確率変数と個々の社債発行企業の信用格付変動データとの相関を示す相関データを算出」する処理及び「将来の信用格付の変動分布を該相関データを用いて計算」する処理及び「該将来の信用格付の変動分布のデータを出力する」処理、「スプレッド期間構造計算手段」が行う「前記社債市場データに含まれる信用格付推移確率行列のデータと、倒産確率のデータと、別途求めるかまたは入力された予想される将来の国債のリターンのデータと、前記倒産時の回収率のデータとを前記記憶手段から受信」する処理及び「前記社債市場データに含まれる該信用格付推移確率行列と、該倒産確率と、該国債のリターンと、該倒産時の回収率とに基づいて、ある期間の個々の信用格付にある社債のリターンと前記国債のリターンとの間の差を表す将来の信用格付別スプレッド期間構造を計算」する処理及び「該将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを出力する」処理、「リスク最小化手段」が行う「前記信用格付変動分布計算手段から前記将来の信用格付の変動分布のデータを受信」する処理及び「前記スプレッド期間構造計算手段から前記将来の信用格付別スプレッド期間構造のデータを受信」する処理及び「前記相関データを用いて計算された該将来の信用格付の変動分布と該将来の信用格付別スプレッド期間構造とに基づいて、所定の方式と基準により将来のリスクを最小化する社債の組み合わせを計算」する処理及び「該社債の組み合わせのデータを出力する」処理は、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか提示するものではない。 そして、本願発明の「社債ポートフォリオ最適化装置」における保存処理、「受付手段」が行う保存処理は、「企業間の信用力の変化を取り込んで、社債の債務不履行リスクや価格変動リスクなどの信用リスクを適切に管理し、高い利回りを得る」という目的を達成するために本願発明が行う処理の一部分の処理にすぎず、本願発明は、全体として、その目的を達成するための情報処理が、ハードウェア資源をどのように用いてどのような情報の演算又は加工をして実現されるのか提示するものではない。 よって、本願発明は、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとはいえないから、特許法第2条第1項で定義される「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当しない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第2条第1項でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないので、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-08-19 |
結審通知日 | 2008-08-22 |
審決日 | 2008-09-04 |
出願番号 | 特願2001-249275(P2001-249275) |
審決分類 |
P
1
8・
1-
Z
(G06Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小太刀 慶明、宮下 浩次 |
特許庁審判長 |
赤穂 隆雄 |
特許庁審判官 |
小山 満 山本 穂積 |
発明の名称 | 社債ポートフォリオの最適化装置およびそのプログラム |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 奥山 尚一 |