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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1186519
審判番号 不服2007-8277  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-22 
確定日 2008-10-20 
事件の表示 特願2006- 96563「磁性粒子ベースの電気化学発光検出装置と方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-184294〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1995年(平成7年)11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年11月10日、(US)米国)を国際出願日とする特許出願である特願平8-516309号の一部を、平成18年3月31日に新たな特許出願としたものであって、同年12月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年3月22日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年4月23日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年4月23日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年4月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正後の本願発明
平成19年4月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、そのうち請求項1についてする補正は、発明特定事項の対応関係からして、補正前(出願当初のもの。以下同様)の特許請求の範囲の
「【請求項6】
試料組成物からの電気化学発光の測定装置であって、
a)試料組成物を規定する容量を有するセル、入り口、出口、試料組成物に電圧を加えるのに適した電極、および結合した電気化学発光活性残基を有する試料組成物内の磁気応答性成分を、電極表面に引き寄せ分布させるのに適した、2つまたはそれ以上の磁界源からなる捕捉磁石;
b)電極表面上に位置する微粒子に結合した電気化学発光活性残基から発光を発生させるのに充分な電圧を電極に加える手段;そして
c)試料組成物内の発生する発光を測定する手段、
からなり、
捕捉磁石は電極の下に位置し、捕捉磁石内の少なくとも1つの磁界の磁界勾配は圧縮されるような構成を有する、上記装置。
【請求項7】
捕捉磁石内の磁界源は、磁界源の相対する極(N-NまたはS-S)を磁界源の引き合う極(N-S)より近くに置くように構成される、請求項6記載の装置。」
を、
「【請求項1】
試料組成物からの電気化学発光の測定装置であって、
a)試料組成物を含む容量を有するセルであって、入り口、出口および試料組成物に電圧を加えるのに適した電極を含むセル;
b)試料組成物内の、電気化学発光活性種が結合した磁気応答性成分を、電極表面に引き寄せ分布させるのに適した、2つまたはそれ以上の磁界源からなる捕捉磁石;そして
c)電極表面上に位置する微粒子に結合した電気化学発光活性種から発光を発生させるのに充分な電圧を電極に加える手段、
からなり、
該捕捉磁石は、相対する極(N-NまたはS-S)の一つのセットは、引き合う極(N-S)のいずれかのセットよりも接近しており、そして、相対する極(N-NまたはS-S)の一つの他のセットは、引き合う極(N-S)のいずれかのセットよりも離れているように配置された永久サンドイッチ磁石を含む、測定装置。」(以下、補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。)
と補正するものである。

2-2.補正の目的の適否
前記請求項1についてする補正は、補正前の請求項6または請求項7の「試料組成物内の発生する発光を測定する手段」との発明特定事項を削除することを含むものであり、特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの)に該当せず、明りようでない記載の釈明を目的とするものとも認められない。また、当該補正が、請求項の削除または誤記の訂正のいずれを目的とするものでないことも明らかである。
そうすると、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる事項のいずれをも目的としていない補正を含むものである。したがって、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により、却下されるべきものである。

2-3.独立特許要件についての検討
上記2-2.で示したように、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満足しないものであるが、仮に、本件補正が同法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであるとして、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2-3-1.引用例
2-3-1-1.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特表平6-508203号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審にて付加した。)

(ア)「8.下記を含む、電極面の電気化学的ルミネッセンスの測定に基づいて試料中に存在する対象検体のアッセイを遂行するための装置;(a)試料保留空間を規制し、入口と出口手段と電極を有し、さらに前記錯体を当該電極面に実質的に均一に分布させるための手段を有するセル;(b)当該電極に電圧を印加する手段;および(c)当該電極で励起された電気化学的ルミネッセンスを計測する手段;この際錯体の均一分布を得るための手段は、当該磁場の磁力線が当該電極面の領域に於いて当該電極面に実質的に平行であるように、当該電極に関して配向した磁場を発生させるための手段を含み、;磁場を発生させるための手段は、南北極の配置を有し非磁性材料で分離された当該電極の下に垂直に配置された複数の磁石を含んでいる。」(第2頁右上欄第17行目から左下欄第7行目)

(イ)「電気化学的ルミネッセンスを観測するためのセル
本発明のアッセイを行うための装置が第1、2、3、5、7、8、9図に示されている。第8図は使い易いECL装置を示したものである。本方法はECL部分を電気化学的ルミネッセンスへ導く引き金になる電気化学的エネルギーを供給する作動電極またはトリガー面と南北極を持った複数の磁石を備えた違ったタイプのECL装置でも実施することができる。本発明の方法は静的方法でも流動通過法でも行うことができるが、装置10は結合アッセイ試料を含む色々な形式の試料の場合に利点が多い流動通過型のセルで構成されている。ECLアッセイを遂行する装置のもっと詳細についてはPCT公開出願US89/04854およびUS90/01370に開示されている。
装置10は電気化学的セル12、望ましくは光電子倍増管(PMT)、光ダイオード、電荷結合素子、写真フィルム、乳剤またはそれに類するもので構成された光の検出/測定機構14、セル12に液を供給したり排出したりするための望ましくは蠕動ポンプであるポンプ16で構成されている。・・・
セル12それ自体には第一取り付けブロック20があって、その内部を望ましくはステンレス鋼でできた入り口管22と出口管24が貫通している。・・・
第一取り付けブロック20の内側面28には作動電極システム54が取り付けられているが、図に示した実施例ではこの電極システムは第一と第二の作動電極56と58で形成されている。他の実施例では単一の作動電極が使用される場合や、電極56のみが作動電極を形成している場合もある。作動電極56、58は問題となる電気化学的ECL反応が起こる場所である。作動電極56、58は固体ボルタンメトリー電極であって、白金、金、炭素またはその目的に適合した他の材料で作られているのか望ましい。作動電極56、58に繋がれた導線60、62は第一取り付けブロック20を貫通している。水平に配置された電極56または電極群56、58の下方には第1、2図に示したような南北極の配置を有する複数の磁石27/37が垂直に配置されている;第3、5、7図および以下の記述も併せて参照されたい。
導線60、62は両方とも第9図に示した電圧調整器66の「作動電極」端子64に接続されている。電圧調整器66は定電位電解装置のような方式で作動電極56、58に電圧信号を供給するとともに、必要があればECL測定中に作動電極に流れる電流値を測定することも出来る。また、導線60、62は電圧調整器66の別の端子に接続して別の目的に使用することもできる。」(第9頁左下欄第6行目から第10頁右上欄第15行目)

(ウ)「実施例2
ECL装置と微粒子を沈積させ方法
集積セルを使用した磁気集積
第5図に示した集積セルのようなセルでアッセイが行われる。第5図で参照番号48は透明窓を、参照番号132はガスケットを、参照番号22はセル・ブロックへの入り口を、参照番号56、58は作動電極を、参照番号20はセル・ブロック自体を、参照番号24は試料の出口を、参照番号37は第1図と第2図に示したような複数の磁石を示している。
セル・ブロックの平面は水平に配置されている;複数の磁石は磁石の下に垂直に配置されている。ECL緩衝液中で標識された微粒子(ダイナール)は蠕動ポンプで電気化学セルへ送り込まれる。試料を導入するに先立って、永久磁石37を作動電極/溶液境界の直下に0.035インチの距離になるように置く。試料をセルに送り込むと微粒子は磁石の面積によって規定された作動電極の上面に沈降する。試料の沈降が完了したらポンプを停止して磁石を取り除く。集積時間が長いほど粒子は多量に沈降する。作動電極上の粒子の濃度が高くなると第6図に示したようにECL強度が増大する。
実施例3
微粒子を沈降させるための磁石の使用
磁場の配置
それが永久磁石であるか電磁石であるかを問わず、磁場98に面して配置された第1図、第2図に示した磁石27/37によって引き付けられた微粒子96は、第7図に示したように磁場98に沈着し、その結果生成した粒子の配置96は作動電極56/58の表面の近傍に電極面に対して平行になる。 第1図と第2図は第3、5、7、8、9図の磁石システムに磁力線が電極56、58の面に概ね平行になるように取り付けられた磁石27/37を図解したものである。磁石システムは複数の永久磁石または電磁石を磁石群27/37の個々の磁石の南極と北極が交互になるように集積したもので構成されている。磁石27/37の個々の磁石は空気または何らかの磁気に感応しない材料で隔てられている。第1図、第2図に示した配置は作動電極に作用する磁力線が電極面に対して殆ど水平になるのが望ましい。その結果電極の面上にある磁気感応性粒子の配向が形成され、電極に供給された電気化学的エネルギーに容易にアクセスできるようになる;第7図を参照されたい。
第1図、第2図に示した磁石システム27/37は磁力線が磁石の構造体から余り離れた処までは広がらないという点でも優れている;第7図を参照されたい。その結果この様な磁石システムからの磁場は電極装置の近くにある常磁性材料に永久磁性を誘発させる恐れはなく、流動セル装置の近くにある光電子倍増管の機能に悪影響を及ぼすこともない。
実施例4
標識した非特異性蛋白による中程度の表面濃度での粒子のコート
4.5μmの非コート磁気感応性ポリスチレン M-450ダイナビーズ(ダイナール社、ノルウェイのオス口)30mg(1ml)をpH7.5の150mM 燐酸緩衝液を洗浄1回当たり2mlを使用し磁気分離して洗浄する。Ru(bpy)_(3)^(2+)で標識したマウスIgG(ジャクソン免疫試薬)を0.05%のチメラゾールと一緒に燐酸塩緩衝塩水1mlに溶かしたものを粒子に加える。この混合物を室温で回転させながら一夜インキュベートする。次に溶液を磁気で粒子から分離して取り除く。未反応の位置をブロックするために、0.05%のアジ化ナトリウムを添加した3%BSA/PBS1mlを粒子に加え、得られた液を室温で2時間インキュベートする。粒子を5回洗浄し(洗浄1回当たり2ml)、最後に同じ緩衝液6mlに再懸濁させて保存する。
実施例5
磁気感応性粒子を使用した電気化学的ルミネッセンス(ECL)の測定
均一および不均一の、ポリマー性および非ポリマー性の磁気感応性粒子(ダイナール社、ノルウェイのオスロ;ポリサイエンス社、1896 ペンシルバニア州ワリントン市;コルテックス・バイオケム社、9457カリフオルニア州サンレアンドロ;アルドリッヒ社、53201 ウィスコンシン州ミルウォーキー)は実施例4に記載したようにして蛋白でコートされる。コートした粒子はECL緩衝液で3回洗浄してから300μg/mlの分散液2mlにする。蠕動ポンプを使用して粒子の分散液500μlを流動セルに送り込む(実施例2)。粒子は作動電極に流れ着いたら磁石に引き付けられて作動電極面に濃縮される。粒子が作動電極面に濃縮されている流動セル上に中心を置いたハママツ R374光電子倍増管を使用して磁気粒子を使用した電気化学的ルミネッセンスを計測する。標識蛋白でコートした磁気感応性粒子から得られたECL光の放射レベルを第1表に示した。」(第12頁左下欄第19行目から第13頁左下欄第5行目)

これらの記載を総合すると、引用例1には「電極面の電気化学的ルミネッセンスの測定に基づいて試料中に存在する対象検体のアッセイを遂行するための装置であって、
(a)試料保留空間を規制し、入口と出口手段と電極を有するセル、
(b)当該電極に電圧を印加する手段、
(c)当該電極で励起された電気化学的ルミネッセンスを計測する手段、を有し、
当該電極はECL部分を電気化学的ルミネッセンスへ導く引き金になる電気化学的エネルギーを供給する作動電極であり、
試料中の標識された磁気応答性粒子を当該電極面に実質的に均一に分布させるための手段として、磁力線が当該電極面の領域に於いて当該電極面に実質的に平行であるように、南北極の配置を有し非磁性材料で分離された当該電極の下に垂直に配置された複数の磁石をさらに有する装置。」の発明(以下、「引用例1に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。

2-3-1-2.引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開昭63-4820号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付加した。)

(エ)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、流体或いは粉体中の磁性固形物を磁気により吸着捕集する積層磁石を用いたロ過装置に関し、切削油、循環冷却水、ボイラー用水、セラミックス粉末等、鉄分その他の磁性粉体を含有する流体或いは粉体のロ過に使用される。」(第1頁右欄第6行目から第11行目。)

(オ)「〔問題解決の手段〕
本発明は上記欠点を解決し、効率的な磁石によるロ過装置を提供することを目的とし、その構成は、ロ過槽のロ過層に非磁性管を植設し、該非磁性管内に積層磁石を充填した吸着体を有するロ過装置であって、上記積層磁石が、相対する平板面に両極が形成されている複数の磁石を、N極とN極、S極とS極をそれぞれ対向させ、高透磁性素材からなるスペーサーを介在させて固定積層されていることを特徴とし、更に、上記構成に加えるに、この積層磁石よりなる吸着体が有効磁界内において少なくとも構成磁石の一部が同極が相対する位置に相互配置され、更に必要に応じ、構成磁石の一部が異極が相対する位置に相互配置されていることを特徴とする。
すなわち、本発明は、板状或いは筒状の磁石であって、側面にも強い磁束密度を有する磁石を形成させ、これを用いることによりロ過効率の向上を図るものであり、複数の平板状或いは筒状の磁石をS極とS極、N極とN極を対向させ、更に高透磁性素材を介して結合した複合磁石を用いるものである。」(第2頁左上欄第17行目から右上欄第18行目。)

(カ)「〔作用〕
本発明に使用する積層磁石では環状のN、S極が軸方向に交互に形成されているため、吸着体の周辺には偏りのない磁束分布が得られ、有効ロ過面積を増大する。また、複数の磁石をS極とS極、N極とN極を対向させて高透磁性素材を介して結合した複合磁石を用いるため、磁力線は介挿した高透磁性素材表面から垂直方向に向かって飛び、磁石側面周辺では遠方まで有効な磁場を形成し、単一の磁石を用いた場合と比し、ロ過効率の向上が著しい。」(第3頁左上欄第2行目から第12行目。)

(キ)また、図面第1図には、複数の積層永久磁石7がS極とS極、N極とN極を対向させてスペーサー11を介して結合されており、この対向する極(S極とS極、N極とN極)の一つのセットは、引き合う極(N極とS極)のいずれかのセットよりも接近しており、この対向する極(S極とS極、N極とN極)の一つの他のセットは、引き合う極(N極とS極)のいずれかのセットよりも離れているように配置されることが記載されている。

これらの記載を総合すると、引用例2には「流体中の磁性固形物を磁気により吸着捕集する積層磁石を用いたロ過装置であって、
積層磁石が、相対する平板面に両極が形成されている複数の磁石を、N極とN極、S極とS極をそれぞれ対向させ、高透磁性素材からなるスペーサーを介在させて固定積層されており、この対向する極(S極とS極、N極とN極)の一つのセットは、引き合う極(N極とS極)のいずれかのセットよりも接近しており、この対向する極(S極とS極、N極とN極)の一つの他のセットは、引き合う極(N極とS極)のいずれかのセットよりも離れているように配置される装置。」の発明(以下、「引用例2に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。

2-3-2.対比
本願補正発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1に記載された発明の「電極面の電気化学的ルミネッセンスの測定に基づいて試料中に存在する対象検体のアッセイを遂行するための装置」は、「試料中に存在する対象検体」からの「電気化学的ルミネッセンスの測定」を行うことを含む装置であるから、本願補正発明の「試料組成物からの電気化学発光の測定装置」に相当する。
また、引用例1に記載された発明の「試料保留空間を規制」する「セル」は、本願補正発明の「試料組成物を含む容量を有するセル」に相当し、引用例1に記載された発明の「入口と出口手段と電極を有するセル」は、「当該電極はECL部分を電気化学的ルミネッセンスへ導く引き金になる電気化学的エネルギーを供給する作動電極で」あることから、本願補正発明の「入り口、出口および試料組成物に電圧を加えるのに適した電極を含むセル」に相当する。
さらに、引用例1に記載された発明の「当該電極に電圧を印加する手段」は、電極を通じて「ECL部分を電気化学的ルミネッセンスへ導く引き金になる電気化学的エネルギーを供給する」ものであり、「試料中の標識された磁気応答性粒子」は「ECL部分」を有するものであって、電極面に分布しているのであるから、上記「当該電極に電圧を印加する手段」は、本願補正発明の「電極表面上に位置する微粒子に結合した電気化学発光活性種から発光を発生させるのに充分な電圧を電極に加える手段」に相当する。
そして、引用例1に記載された発明の「試料中の標識された磁気応答性粒子を当該電極面に実質的に均一に分布させるための手段として、磁力線が当該電極面の領域に於いて当該電極面に実質的に平行であるように、南北極の配置を有し非磁性材料で分離された当該電極の下に垂直に配置された複数の磁石」は、「試料中の磁気応答性粒子を電極面に実質的に均一に分布させるため」のものであって、「複数の磁石」からなり、この「磁石」が「磁界源」となることは明らかであることから、本願補正発明の「試料組成物内の、電気化学発光活性種が結合した磁気応答性成分を、電極表面に引き寄せ分布させるのに適した、2つまたはそれ以上の磁界源からなる捕捉磁石」に相当する。

すると、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「試料組成物からの電気化学発光の測定装置であって、
a)試料組成物を含む容量を有するセルであって、入り口、出口および試料組成物に電圧を加えるのに適した電極を含むセル;
b)試料組成物内の、電気化学発光活性種が結合した磁気応答性成分を、電極表面に引き寄せ分布させるのに適した、2つまたはそれ以上の磁界源からなる捕捉磁石;そして
c)電極表面上に位置する微粒子に結合した電気化学発光活性種から発光を発生させるのに充分な電圧を電極に加える手段、
からなる測定装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)捕捉磁石に関して、本願補正発明では「該捕捉磁石は、相対する極(N-NまたはS-S)の一つのセットは、引き合う極(N-S)のいずれかのセットよりも接近しており、そして、相対する極(N-NまたはS-S)の一つの他のセットは、引き合う極(N-S)のいずれかのセットよりも離れているように配置された永久サンドイッチ磁石を含む」と限定しているのに対し、引用例1に記載された発明では「磁力線が当該電極面の領域に於いて当該電極面に実質的に平行であるように、南北極の配置を有し非磁性材料で分離された当該電極の下に垂直に配置された複数の磁石」としている点。

2-3-3.判断
上記相違点について判断する。
引用例2に記載された発明は、ロ過装置に関するものであるが、流体中の磁性固形物を磁気により吸着捕集するものであって、引用例1に記載された発明の、試料中の磁気応答性粒子を複数の磁石により電極面に分布させるものと、流体中の磁性物質を磁石によって捕集する点で、同一の目的を有するものである。
また、引用例1には、上記摘記事項(ウ)に「作動電極に作用する磁力線が電極面に対して殆ど水平になるのが望ましい。その結果電極の面上にある磁気感応性粒子の配向が形成され、電極に供給された電気化学的エネルギーに容易にアクセスできるようになる」と記載されるように、磁力線が均一であることが望ましいことが示唆されているが、この点に関し、引用例2には、上記摘記事項(カ)に「本発明に使用する積層磁石では環状のN、S極が軸方向に交互に形成されているため、吸着体の周辺には偏りのない磁束分布が得られ、有効ロ過面積を増大する」と記載されるように、偏りのない磁束分布を得ることが示されており、引用例1に記載された発明と、引用例2に記載された発明とは、どのような磁力線を形成するかにおいても同様の作用効果を奏するものである。
してみると、引用例1に記載された発明における複数の磁石の構成として、引用例2に記載された発明の積層磁石の構成を採用し、「N極とN極、S極とS極をそれぞれ対向させ、この対向する極(S極とS極、N極とN極)の一つのセットは、引き合う極(N極とS極)のいずれかのセットよりも接近しており、この対向する極(S極とS極、N極とN極)の一つの他のセットは、引き合う極(N極とS極)のいずれかのセットよりも離れているように配置される複数の磁石」とすることは、当業者であれば容易に為し得たものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明から、当業者であれば予測できる範囲のものである。
以上の通り、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

2-3-4.むすび
上記の通り、仮に、本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであるとしても、本件補正は、同法第17条の2第5項で準用する同法第126条5項の規定に違反するものであり、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成19年4月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される、上記2-1.に記載のとおりのものである。

4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記2-3-1.に記載したとおりである。

5.対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
上記2-3-2.で指摘した点を考慮すると、引用例1に記載された発明の「電極面の電気化学的ルミネッセンスの測定に基づいて試料中に存在する対象検体のアッセイを遂行するための装置」、「試料保留空間を規制」し「入口と出口手段と電極を有するセル」、「試料中の標識された磁気応答性粒子を当該電極面に実質的に均一に分布させるための手段として、磁力線が当該電極面の領域に於いて当該電極面に実質的に平行であるように、南北極の配置を有し非磁性材料で分離された当該電極の下に垂直に配置された複数の磁石」及び「当該電極に電圧を印加する手段」は、それぞれ本願発明の「試料組成物からの電気化学発光の測定装置」、「試料組成物を規定する容量を有するセル、入り口、出口、試料組成物に電圧を加えるのに適した電極」、「結合した電気化学発光活性残基を有する試料組成物内の磁気応答性成分を、電極表面に引き寄せ分布させるのに適した、2つまたはそれ以上の磁界源からなる捕捉磁石」及び「電極表面上に位置する微粒子に結合した電気化学発光活性残基から発光を発生させるのに充分な電圧を電極に加える手段」に相当する。
また、引用例1に記載された発明の「当該電極で励起された電気化学的ルミネッセンスを計測する手段」は、本願発明の「試料組成物内の発生する発光を測定する手段」に相当する。
さらに、引用例1に記載された発明において、「複数の磁石」が「当該電極の下に垂直に配置され」ることは、本願発明の「捕捉磁石は電極の下に位置」することに相当する。

すると、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
「試料組成物からの電気化学発光の測定装置であって、
a)試料組成物を規定する容量を有するセル、入り口、出口、試料組成物に電圧を加えるのに適した電極、および結合した電気化学発光活性残基を有する試料組成物内の磁気応答性成分を、電極表面に引き寄せ分布させるのに適した、2つまたはそれ以上の磁界源からなる捕捉磁石;
b)電極表面上に位置する微粒子に結合した電気化学発光活性残基から発光を発生させるのに充分な電圧を電極に加える手段;そして
c)試料組成物内の発生する発光を測定する手段、
からなり、
捕捉磁石は電極の下に位置する、装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)捕捉磁石に関して、本願発明では「捕捉磁石内の少なくとも1つの磁界の磁界勾配は圧縮されるような構成を有する」のに対し、引用例1に記載された発明ではそのような構成を有していない点。

6.判断
上記相違点について判断する。
引用例2に記載された発明は「複数の磁石」が「N極とN極、S極とS極をそれぞれ対向させ」て固定積層されており、「この対向する極(S極とS極、N極とN極)の一つのセットは、引き合う極(N極とS極)のいずれかのセットよりも接近して」配置されている。このような磁極の配置をとった場合、同極どうしが対向しているのであるから、磁束線が圧縮される、すなわち磁界勾配が圧縮されるような構成となることは、当業者には明らかである。この点は、引用例2に記載された発明のような磁石の配置である「サンドイッチ磁石」に関して、本願明細書の【0018】段落にて「本発明の別の態様において、試料組成物内に磁性粒子を捕捉するのに使用される磁石は、磁束線が圧縮されている(すなわち、磁界勾配が圧縮されている)構成を有する。このような態様においては、2つまたはそれ以上の磁界源が使用され、それらの相対する磁界の重複が強制されるように構成される。これは、磁界源の相対する極(N-NまたはS-S)を引き合う極(N-S)より近くに置くこと(すなわち、「強制」構成)により達成される。」と説明されることからも、明らかである。
そして、上記2-3-3.で示したのと同様に、引用例2に記載された発明は、引用例1に記載された発明と同一の目的を有し、同様の作用効果を奏するものであるから、引用例1に記載された発明における複数の磁石の構成として、引用例2に記載された発明の積層磁石の構成を採用し、「捕捉磁石内の少なくとも1つの磁界の磁界勾配は圧縮されるような構成を有する」ようにすることは、当業者であれば容易に為し得たものである。
そして、本願発明の作用効果も、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明から、当業者であれば予測できる範囲のものである。

7.むすび
以上の通り、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、請求項1乃至5、7乃至32に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-27 
結審通知日 2008-05-30 
審決日 2008-06-10 
出願番号 特願2006-96563(P2006-96563)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 572- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 秋月 美紀子
田邉 英治
発明の名称 磁性粒子ベースの電気化学発光検出装置と方法  
代理人 池田 幸弘  
代理人 浅村 肇  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 皓  

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