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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01C
管理番号 1186610
審判番号 不服2005-20399  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-21 
確定日 2008-10-24 
事件の表示 平成10年特許願第315563号「チップ型抵抗器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月30日出願公開、特開2000-150210〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯

本願は、平成10年11月6日の出願であって、平成17年9月8日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年10月21日付けで拒絶査定に対する審判の請求がなされるとともに、同年10月28日付けで手続補正がなされ、その後、当審において、平成19年5月11日付けで審尋がなされ、これに応じて同年7月6日付けで回答書が提出され、さらにその後、平成20年2月5日付けで拒絶の理由の通知(特許法第17条の2第1項第2号に掲げるもの)がなされ、これに対して同年3月25日付けで手続補正がなされ、さらにその後、同年5月8日付けで拒絶の理由の通知がなされ、これに対して同年6月24日付けで手続補正がなされているものである。

2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年3月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
絶縁基板の上面に,少なくとも,抵抗膜とその両端に対する上面電極とをその材料ペーストの塗布及び焼成にて形成する工程と,前記抵抗膜を覆うガラス製のアンダーコートをそのガラスペーストの塗布及び焼成にて形成したのちトリミング溝を刻設する工程とを有し,更に,前記アンダーコートの全体を覆うガラス製のミドルコートとこのミドルコートの全体を覆うガラス製のオーバーコートとを形成する工程とを有するチップ型抵抗器の製造方法において,
前記ミドルコート及びオーバーコートを,前記オーバーコートにおけるガラスの軟化点及び前記アンダーコートにおけるガラスの軟化点よりも低い軟化点のミドルコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と,これに重ねてオーバーコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と,この両工程の後においてオーバーコートにおけるガラスの軟化点よりも高い温度で焼成を行う焼成工程とによって同時に形成することを特徴とするチップ型抵抗器の製造方法。」

3 特許法第36条第4項について

(1)本願明細書の「発明の詳細な説明」の欄の記載

本願の願書に添付された明細書の「発明の詳細な説明」の欄の「従来の技術」の項及び「発明が解決しようとする課題」の項並びに「発明の作用・効果」の項には、以下のとおり記載されている。(なお、下線は、注目する箇所に付したものである。)

ア 「【0002】
【従来の技術】・・・iv).次に,前記アンダーコートの表面に,ミドルコート用のガラスペーストを塗布・乾燥し,更に,その表面に,オーバーコート用のガラスペーストを塗布・乾燥したのち焼成することにより,下地としてのミドルコートと,これを覆う上層としてのオーバーコートとを同時に形成する。・・・vi).そして,その全体に金属メッキ処理を施すことにより,前記両上面電極及び両側面電極の表面に金属メッキ層を形成する。・・・」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・ 【0004】・・・その焼成に際して,このミドルコートを充分に軟化することができず,ひいては,このミドルコートをトリミング溝内に充分に流れ込ませることができないから,トリミング溝内にピンホールが発生するのであり,しかも,このトリミング溝内におけるピンホールの発生は,前記オーバーコート及びミドルコートを焼成するときにアンダーコートの一部が同時に軟化してトリミング溝内に垂れ込むことによっても増大する。」

ウ 「【0005】 つまり,従来の方法では,トリミング溝内にピンホールが発生する率が高く,従って,金属メッキ層を形成するときに,このピンホール内にも金属メッキ層が形成され,抵抗膜における抵抗値が所定の許容範囲から外れることになるから,不良品の発生率が高いと言う問題があった。
本発明は,この問題,つまり,ピンホールによる不良品の発生率を確実に低減できるようにした製造方法を提供することを技術的課題とするものである。」

エ 「【0007】
【発明の作用・効果】・・・【0008】 従って,本発明によると,チップ型抵抗器の製造に際して,そのミドルコートのうちトリミング溝内の部分にピンホールが発生することを確実に低減できるという効果を有する。
このことは,その後の工程において金属メッキ層を形成するとき,前記ミドルコートのうちトリミング溝内の部分にピンホールが発生することに起因して抵抗値が所定の許容範囲から外れるという不良品の発生率を確実に少なくできることに繋がり,その製造コストの低減を図ることができる。」

(2)本願発明が解決しようとする課題設定の根拠について

前記(1)ウでの記載中の「従来の方法では,トリミング溝内にピンホールが発生する率が高く,従って,金属メッキ層を形成するときに,このピンホール内にも金属メッキ層が形成され,抵抗膜における抵抗値が所定の許容範囲から外れることになる」との箇所(本願発明が解決しようとする課題設定の根拠の部分)は、
「下地としてのミドルコートと,これを覆う上層としてのオーバーコート」(前記(1)ア)が存在するとの前提に従えば、「トリミング溝内にピンホールが発生する」としても、ミドルコートを覆うオーバーコートが「ピンホール」を外部から遮断するので、「このピンホール内にも金属メッキ層が形成され」ることはない、と考えられることから、合理的に理解し得ない。

なお、審判請求人は、平成20年6月24日付けで提出した意見書の中で、
ア 「ミドルコートのうち前記トリミング溝内の部分にピンホールが発生する」と,[第1に]「前記ミドルコートを覆うオーバーコートのうち前記ピンホールの外側を遮断する部分に,クラック(割れ)発生するおそれが,前記ピンホールが存在しない場合よりも大きくて,金属メッキ処理に際して,メッキ液が,前記クラック(割れ)から前記ピンホールに侵入する。」
イ [第2に]「金属メッキ処理に際して,メッキ液が前記ピンホールに侵入するおそれは,前記ピンホールがない場合よりも,はるかに大きい。」のでありますから,『従来の方法では,トリミング溝内にピンホールが発生する率が高く,従って,金属メッキ層を形成するときに,このピンホール内にも金属メッキ層が形成され,抵抗膜における抵抗値が所定の許容範囲から外れることになる・・・
と主張しているが、これら主張の内容は明細書に記載されていないから、採用することができない。

(3)特許法第36条第4項についてのむすび

上記(1)及び(2)のとおりであるから、本願明細書の「発明の詳細な説明」の欄の記載は、「本願発明が解決しようとする課題」設定の根拠が合理的でないから、「本願発明が解決しようとする課題」自体が不明りょうである。
したがって、本願明細書の「発明の詳細な説明」の欄は、経済産業省令に定めるところにより、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4 特許法第29条第2項について

(1)本願発明

本願発明は、上記「2」に記載されたとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項

ア 特開平3-212901号公報(以下「刊行物1」という。)には、「角板型チップ抗器」に関して、次のとおり、図面第1図とともに、記載されている。
(ア)「第2図を用いて、本発明の実施例の詳細について説明する。・・・アルミナ基板上に厚膜銀ペーストをスクリーン印刷し、・・・焼成し上面電極層2を形成する。次に、上面電極層2の一部に重なるように、・・・厚膜抵抗ペーストをスクリーン印刷し、・・・焼成し、抵抗層4を形成する。次に、・・・前記抵抗層4の抵抗値を揃えるために、レーザー光によって、前記抵抗体層4の一部を破壊し抵抗値修正を行う。更に、前記抵抗層4を完全に覆うように、ガラス軟化点が560±5℃・・・の第1ガラスペーストをスクリーン印刷し、・・・乾燥する。さらに、乾燥済みの第1ガラスペーストの上に、ガラス軟化点が560±5℃・・・の捺印ガラスペーストをスクリーン印刷し、・・・乾燥する。さらに、乾燥済みの第1ガラスペーストの上で乾燥済み捺印ガラスペーストを完全に覆うように、ガラス軟化点が603±15℃・・・の第2ガラスペーストをスクリーン印刷し、・・・乾燥する。その後、ベルト式連続焼成炉によって590℃の温度で、・・・焼成し、第1ガラス層5と捺印ガラス層6と第2ガラス層7を形成する。」(第3頁左上欄15行目?同頁左下欄11行目)(なお、冒頭に「第2図」とあるは、「第1図」の誤記と認められる。)
(イ)「また実施例においては、抵抗値トリミング前に抵抗値ドリフトを抑えるためのプリコートガラスを形成しなかったが、プリコートガラスを形成した後にトリミングし、角板型チップ抵抗器を試作しても同等の性能が得られることを確認している。」(第4頁左下欄14?19行目)
(ウ)図面第1図には、第1ガラス層5の上の一部の箇所には捺印ガラス層6が存在しているが、その他の箇所には捺印ガラス層6は存在しておらず、そして、捺印ガラス層6が存在している箇所においては、第2ガラス層7が捺印ガラス層6を接して覆い、捺印ガラス層6が存在していない箇所においては、第2ガラス層7が第1ガラス層5を接して覆っている様子が示されている。

イ 特開平10-261502号公報(以下「刊行物2」という。)には、「チップ型抵抗器の製造方法」に関して、次のとおり、図面第1図ないし第19図とともに、記載されている。
(ア)「【0015】 【発明の実施の形態】・・・次いで、前記絶縁基板11の上面に、・・・前記抵抗膜12を覆うガラスによるアンダーコート14aを、材料のスクリーン印刷による塗布及び焼成にて形成したのち、・・・前記抵抗膜12の抵抗値を測定しながら、前記抵抗膜12及びアンダーコート14aに対してレーザ光線の照射等にてトリミング溝12aを刻設することにより、前記抵抗膜12における抵抗値が所定の許容範囲内に入るようにトリミング調整する。・・・次いで、前記絶縁基板11の上面に、・・・前記トリミング溝12bを塞ぐためのガラスによるミドルコート14bを、材料のスクリーン印刷による塗布及び焼成にて形成する。・・・更に、前記絶縁基板11の上面に、図10及び図11に示すように、前記ミドルコート14bの全体を覆うオーバーコート14cを、材料のスクリーン印刷による塗布及び焼成にて形成することにより、これらアンダーコート14a、ミドルコート14b及びオーバーコート14cによる三層構造のカバーコート14を構成する。・・・」
(イ)図面第11図には、抵抗膜12の上に形成された、アンダーコート14a、アンダーコート14aの全体を覆うミドルコート14b、ミドルコート14bの全体を覆うオーバーコート14cによる三層構造が示されている。

ウ 特開平10-289801号公報(以下「刊行物3」という。)には、「チップ抵抗器」に関して、次のとおり、図面第1図とともに、記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】従来より、絶縁基体の表面に抵抗体を形成し、その抵抗体の両端に電極を設け、その抵抗体の表面に保護膜を形成したチップ抵抗器が使用されている。図1に、そのチップ抵抗器の構造の一例を縦断面図にて示す。同図は、抵抗体の表面に3層の保護膜を形成したものであり、1はセラミック等より成る絶縁基体、2はその表面に形成された抵抗体、3はその両端に設けられた電極、4は抵抗体保護膜、5は中間保護膜、6は表面保護膜である。各保護膜の材料としては、主に後述のガラスペーストが用いられる。・・・」
(イ)「【0003】保護膜形成の手順としては、まず、抵抗体2の表面に抵抗体保護膜4の材料を塗布し、乾燥後焼成する。このとき、抵抗体保護膜4は、焼成時の抵抗体2の抵抗値変化の度合いを安定化する働きをする。その後、レーザ等による抵抗体2のトリミングを行い、抵抗値の調整をする。そして、抵抗体保護膜4の表面に中間保護膜5を塗布して乾燥させ、その上に表面保護膜6を塗布して乾燥させ、最後に焼成する。或いは、中間保護膜5の焼成後に表面保護膜6を塗布し、乾燥,焼成を行う場合もある。」
(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】・・・一般的に、抵抗体保護膜4は、上述のように焼成時の抵抗体2の抵抗値変化の度合いを安定化する事を目的とし、中間保護膜5は、上記トリミングによるトリミング溝を埋める事を目的とし、表面保護膜6は、機械的外圧から抵抗器を保護する事を目的としており、従来の各保護膜は、それぞれの目的に合わせて、軟化点,ビッカース硬さ,熱膨張係数等の特性が異なる材質のもので形成されていた・・・」

エ 特開平8-330114号公報(以下「刊行物4」という。)には、「ネットワーク抵抗器」に関して、次のとおり、図面第1図ないし第3図とともに、記載されている。
(ア)「【0028】・・・複数個の抵抗素子13を形成する。この際、必要であればこの抵抗素子13を覆うパッシベーション膜を形成してもよい。」
(イ)「【0030】・・・抵抗素子13とを覆うように、軟化点が555℃のガラスペーストをスクリーン印刷し、約100?150℃で乾燥後、前記ガラスペースト上の一部に、抵抗値や品番等を表示する捺印16を印刷し、約100?150℃で乾燥させる。この後、前記ガラスペーストと、捺印16とを600?620℃で焼成し、第1の保護膜15および捺印16を形成する。」
(ウ)「【0031】次に、図3(e)に示すように、第1の保護膜15の表面積より、小さい表面積を持つマスクを用いて、第1の保護膜15上にガラスペーストをスクリーン印刷し、約100?150℃で乾燥後、600℃?620℃で焼成して第2の保護膜17を形成してネットワーク抵抗器を製造するものである。」
(エ)「【0032】なお、本実施例では、第1の保護膜15のガラスペーストの軟化点と、第2の保護膜17のガラスペーストの軟化点とは同じにしたが、第1の保護膜15に軟化点が555℃である黒色系ガラスペーストを用い、第2の保護膜17に軟化点が575℃である透過色のガラスペーストを用いれば、第2の保護膜17のガラスペーストの軟化点のほうが高い・・・」

(3)刊行物1に記載された発明

ア 前記「(2)ア(ア)」の記載事項からすると、刊行物1には、
「アルミナ基板上に厚膜銀ペーストをスクリーン印刷し焼成して上面電極層2を形成し、次に、上面電極層2の一部に重なるように、厚膜抵抗ペーストをスクリーン印刷し焼成して抵抗層4を形成する工程と、前記抵抗層4の抵抗値を揃えるために、レーザー光によって、前記抵抗層4の一部を破壊し抵抗値修正を行う工程を有し、更に、第1ガラス層5と捺印ガラス層6とこの捺印ガラス層6を覆う第2ガラス層7とを形成する工程とを有する角板型チップ抗器の製造方法において、
前記第1ガラス層5、捺印ガラス層6及び第2ガラス層7を、前記第2ガラス層7におけるガラスの軟化点603±15℃よりも低い、560±5℃の軟化点の第1ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記第1ガラスペーストの上に560±5℃の軟化点の捺印ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記捺印ガラスペーストの上に第2ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、この3工程の後にベルト式連続焼成炉によって590℃の温度で焼成し、第1ガラス層5と捺印ガラス層6と第2ガラス層7を形成する角板型チップ抵抗器の製造方法」が記載されており、
更に、前記「(2)ア(イ)」の記載事項を加味すると、
「アルミナ基板上に厚膜銀ペーストをスクリーン印刷し焼成して上面電極層2を形成し、次に、上面電極層2の一部に重なるように、厚膜抵抗ペーストをスクリーン印刷し焼成して抵抗層4を形成する工程と、プリコートガラスを形成したのちトリミングを行う工程を有し、更に、第1ガラス層5と捺印ガラス層6とこの捺印ガラス層6を覆う第2ガラス層7とを形成する工程とを有する角板型チップ抗器の製造方法において、
前記第1ガラス層5、捺印ガラス層6及び第2ガラス層7を、前記第2ガラス層7におけるガラスの軟化点603±15℃よりも低い、560±5℃の軟化点の第1ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記第1ガラスペーストの上に560±5℃の軟化点の捺印ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記捺印ガラスペーストの上に第2ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、この3工程の後にベルト式連続焼成炉によって590℃の温度で焼成し、第1ガラス層5と捺印ガラス層6と第2ガラス層7を形成する角板型チップ抵抗器の製造方法」が記載されている。

イ 上記アに加え、更に前記「(2)ア(ウ)」の事項を加味すると、刊行物1には、
「アルミナ基板上に厚膜銀ペーストをスクリーン印刷し焼成して上面電極層2を形成し、次に、上面電極層2の一部に重なるように、厚膜抵抗ペーストをスクリーン印刷し焼成して抵抗層4を形成する工程と、プリコートガラスを形成したのちトリミングを行う工程を有し、更に、第1ガラス層5と、前記第1ガラス層5上の一部箇所に形成する捺印ガラス層6を覆い、前記捺印ガラス層6が形成されていない前記第1ガラス層5上の箇所を覆う第2ガラス層7とを形成する工程とを有する角板型チップ抗器の製造方法において、
前記第1ガラス層5、捺印ガラス層6及び第2ガラス層7を、前記第2ガラス層7におけるガラスの軟化点603±15℃よりも低い、560±5℃の軟化点の第1ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記第1ガラスペーストの上に560±5℃の軟化点の捺印ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記捺印ガラスペーストの上に第2ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、この3工程の後にベルト式連続焼成炉によって590℃の温度で焼成し、第1ガラス層5と捺印ガラス層6と第2ガラス層7を形成する角板型チップ抵抗器の製造方法」(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。

(4)対比

本願発明と刊行物1発明を対比する。

ア 刊行物1発明の「角板型チップ抵抗器」、「アルミナ基板」、「スクリーン印刷」、「上面電極層2」、「抵抗層4」、「プリコートガラス」、「第1ガラス層5」、「第2ガラス層7」、「トリミング」は、それぞれ、本願発明の「チップ型抵抗器」、「絶縁基板」、「塗布」、「上面電極」、「抵抗膜」、「アンダーコート」、「ミドルコート」、「オーバーコート」、「トリミング溝」の「刻設」に相当する。

イ 刊行物1発明の「前記第1ガラス層5」は、「前記第2ガラス層7におけるガラスの軟化点603±15℃よりも低い」軟化点を有することが明らかである。

ウ したがって、両者は、
「絶縁基板の上面に,少なくとも,抵抗膜とその両端に対する上面電極とをその材料ペーストの塗布及び焼成にて形成する工程と,ガラス製のアンダーコートを形成したのちトリミング溝を刻設する工程とを有し,更に,ガラス製のミドルコートとガラス製のオーバーコートとを形成する工程とを有するチップ型抵抗器の製造方法において,
前記ミドルコート及びオーバーコートを,前記オーバーコートにおけるガラスの軟化点よりも低い軟化点のミドルコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と,これに重ねてオーバーコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と,この両工程の後において焼成を行う焼成工程とによって同時に形成することを特徴とするチップ型抵抗器の製造方法」
である点で一致し、以下の6点で相違している。

[相違点1]
本願発明では、「ガラス製のアンダーコート」は「抵抗膜を覆う」ものであるとともに、当該「ガラス製のアンダーコートをそのガラスペーストの塗布及び焼成にて形成」するのに対し、
刊行物1発明では、これらのことが明らかでない点。

[相違点2]
本願発明では、「オーバーコート」が「ミドルコート」を覆うのに対し、刊行物1発明では、第2ガラス層7は捺印ガラス層6を覆い、この捺印ガラス層6が第1ガラス層5を覆う点。

[相違点3]
本願発明では、「ミドルコート」は「アンダーコート」の「全体を覆う」とともに、「オーバーコート」は「ミドルコート」の「全体を覆う」のに対し、
刊行物1発明では、第1ガラス層5がプリコートガラスの全体を覆うのか明らかでなく、かつ、第2ガラス層7は、前記第1ガラス層5上に捺印ガラス層6が存在していない箇所では第1ガラス層5全体を覆っているものの、前記第1ガラス層5上に捺印ガラス層6が存在している箇所では、第2ガラス層7は、捺印ガラス層6を覆っている点。

[相違点4]
本願発明では、「ミドルコート及びオーバーコートを,」「ミドルコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と,これに重ねてオーバーコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と,この両工程の後において」「焼成を行う焼成工程とによって」「形成する」のに対し、
刊行物1発明では、第1ガラス層5、捺印ガラス層6及び第2ガラス層7を、第1ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記第1ガラスペーストの上に捺印ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、さらに乾燥済みの前記捺印ガラスペーストの上に第2ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程と、この3工程の後にベルト式連続焼成炉によって焼成し、形成する点。

[相違点5]
本願発明では、「ミドルコート」用「ガラスの軟化点」が「アンダーコートにおけるガラスの軟化点よりも低い」のに対し、
刊行物1発明では、このことが明らかでない点。

[相違点6]
本願発明では、「ミドルコート及びオーバーコートを,」「同時に形成する」に際し、「前記オーバーコートにおけるガラスの軟化点よりも高い温度で焼成を行う」のに対し、
刊行物1発明では、第1ガラス層5及び第2ガラス層7を、同時に形成するに際し、前記第2ガラス層7におけるガラスの軟化点よりも低い温度で焼成を行っている点。

(5)判断

(5-1)[相違点1]について
前記刊行物2には、「抵抗膜12を覆うガラスによるアンダーコート14aを、材料のスクリーン印刷による塗布及び焼成にて形成し」(段落「0015」冒頭)と記載されている。
ここで、刊行物2記載の「スクリーン印刷」は、前記「(4)ア」におけると同様、本願発明の「塗布」に相当する。
そうすれば、刊行物2の上記記載事項を刊行物1発明に付加し、以て[相違点1]に係る本願発明の、「『ガラス製のアンダーコート』は『抵抗膜を覆う』ものであるとともに、当該『ガラス製のアンダーコートをそのガラスペーストの塗布及び焼成にて形成』する」という発明特定事項のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

(5-2)[相違点2]について
刊行物1発明は、第1ガラス層5と第2ガラス層7の外に、これら2つの層間に、捺印ガラス層6をも形成するものであるから、「第2ガラス層7が捺印ガラス層6を覆い、この捺印ガラス層6が第1ガラス層5を覆う」ということになるのは、捺印ガラス層6を形成した必然である。
そして、一般に「捺印」を形成するか否かは当業者が必要に応じて適宜選択することであるから、「捺印」を不要とするチップ型抵抗器において捺印ガラス層6を形成することなく第2ガラス層7が直接第1ガラス層5を覆うように形成することは、当業者が必要に応じて適宜行うことである。
したがって、[相違点2]に係る本願発明の、「『オーバーコート』が『ミドルコート』を覆う」という発明特定事項のようにすることは、当業者が、この種のチップ型抵抗器が「捺印」を備えている必要がなかった場合に、当然に行ったことである。

(5-3)[相違点3]について
前記刊行物2の段落「0015」には、「抵抗膜12を覆うガラスによるアンダーコート14aを、材料のスクリーン印刷による塗布及び焼成にて形成したのち、トリミング溝12bを塞ぐためのガラスによるミドルコート14bを、材料のスクリーン印刷による塗布及び焼成にて形成する。・・・更に、前記絶縁基板11の上面に、・・・前記ミドルコート14bの全体を覆うオーバーコート14cを、材料のスクリーン印刷による塗布及び焼成にて形成することにより、これらアンダーコート14a、ミドルコート14b及びオーバーコート14cによる三層構造のカバーコート14を構成する。」と記載され、また、同刊行物の図面第11図には、抵抗膜12の上に形成された、アンダーコート14a、アンダーコート14aの全体を覆うミドルコート14b、ミドルコート14bの全体を覆うオーバーコート14cによる三層構造が示されている。
そうすれば、上記記載の「アンダーコート14a、アンダーコート14aの全体を覆うミドルコート14b、ミドルコート14bの全体を覆うオーバーコート14cによる三層構造」という事項に含まれる「『ミドルコート』が『アンダーコートの全体を覆う』」構造及び「『オーバーコート』が『ミドルコートの全体を覆う』」構造を刊行物1発明に付加し、以て[相違点3]に係る本願発明の、「ミドルコート」は「アンダーコート」の「全体を覆う」とともに、「オーバーコート」は「ミドルコート」の「全体を覆う」という発明特定事項のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

(5-4)[相違点4]について
刊行物1発明は、第1ガラス層5と第2ガラス層7の外に、これら2つの層間に、捺印ガラス層6をも形成するものであるから、刊行物1発明においては、捺印ガラス層6を形成するための「乾燥済みの前記第1ガラスペーストの上に捺印ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程」を要し、かつその後の工程も、「乾燥済みの前記捺印ガラスペーストの上に」第2ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程を採用しているが、上記(5-2)にて検討したとおり、「捺印」を形成するか否かは当業者が必要に応じて適宜選択することであるから、「第1ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程」の後、直ちに、これに重ねて「乾燥済みの前記第1ガラスペーストの上に」「第2ガラスペーストを印刷したのち乾燥する工程」を行うことは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。
したがって、[相違点4]に係る本願発明の、「『ミドルコート及びオーバーコートを、』『ミドルコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と、これに重ねてオーバーコート用ガラスペーストを塗布したのち乾燥する工程と、この両工程の後において』『焼成を行う焼成工程とによって』『形成する』」という発明特定事項のようにすることは、当業者が、上記(5-2)にて述べたように、この種のチップ型抵抗器が「捺印」を備えている必要がなかった場合に、当然に行ったことである。

(5-5)[相違点5]について
前記刊行物3には、次のとおり記載されている。
「【0004】・・・【発明が解決しようとする課題】一般的に、抵抗体保護膜4は、上述のように焼成時の抵抗体2の抵抗値変化の度合いを安定化する事を目的とし、中間保護膜5は、上記トリミングによるトリミング溝を埋める事を目的とし、表面保護膜6は、機械的外圧から抵抗器を保護する事を目的としており、従来の各保護膜は、それぞれの目的に合わせて、軟化点,ビッカース硬さ,熱膨張係数等の特性が異なる材質のもので形成されていた」
この記載事項によれば、「各保護膜は、それぞれの目的に合わせて、軟化点,ビッカース硬さ,熱膨張係数等の特性が異なる材質のもので形成されてい」るものであり、また、「中間保護膜5は、上記トリミングによるトリミング溝を埋める事を目的と」するものである。
そうすれば、中間保護膜5の材質の軟化点を抵抗体保護膜4の材質の軟化点よりも低く設定することは、当業者が、中間保護膜5の上記目的に重点を置く必要が生じた場合、当然になし得ることである。
そして、「抵抗体保護膜4」、「中間保護膜5」、「表面保護膜6」は、それぞれ、それらの各目的からして、本願発明の「アンダーコート」、「ミドルコート」、「オーバーコート」に相当することが明らかである。
以上からすれば、刊行物3の上記記載事項に基づいて、[相違点5]に係る本願発明の、「ミドルコート用ガラスの軟化点がアンダーコートにおけるガラスの軟化点よりも低い」という発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じ、適宜なし得ることである。

(5-6)[相違点6]について
前記刊行物4には、前記したとおり、「抵抗素子13を覆うパッシベーション膜を形成してもよい。」(段落「0028」)、「軟化点が555℃のガラスペーストをスクリーン印刷し、・・・前記ガラスペースト・・・を600?620℃で焼成し、第1の保護膜15・・・を形成する。」(段落「0030」)、「次に、・・・第1の保護膜15上にガラスペーストをスクリーン印刷し、約100?150℃で乾燥後、600℃?620℃で焼成して第2の保護膜17を形成してネットワーク抵抗器を製造する」(段落「0031」)及び「・・・本実施例では、第1の保護膜15のガラスペーストの軟化点と、第2の保護膜17のガラスペーストの軟化点とは同じにしたが、第1の保護膜15に軟化点が555℃である黒色系ガラスペーストを用い、第2の保護膜17に軟化点が575℃である透過色のガラスペーストを用い」(段落「0032」)る、と記載されている。
以上をまとめると、刊行物4には、「第1の保護膜15における黒色系ガラスペーストの軟化点555℃及び第2の保護膜17における透過色のガラスペーストの軟化点575℃よりも高い、600℃?620℃で焼成して第2の保護膜17を形成」することが記載されている。
ここで、刊行物4には、「抵抗素子を覆うパッシベーション膜を形成してもよい。」と記載されていることから、刊行物4での「第1の保護膜15」、「第2の保護膜17」は、それぞれ、本願発明における「ミドルコート」、「オーバーコート」に相当する。
したがって、刊行物4には、「ミドルコートのガラスペーストの軟化点及びオーバーコートのガラスペーストの軟化点よりも高い温度で焼成してオーバーコートを形成」することが記載されていることになる。
そうすると、刊行物1発明における、「第1ガラス層及び第2ガラス層を、」「同時に形成する」に際し、「前記第2ガラス層7におけるガラスの軟化点よりも低い温度で焼成を行」う構成に、上記刊行物4記載の、「ミドルコートのガラスペーストの軟化点及びオーバーコートのガラスペーストの軟化点よりも高い温度で焼成してオーバーコートを形成」する構成を適用し、以て[相違点6]に係る本願発明の、「『ミドルコート及びオーバーコートを、』『同時に形成する』に際し、『オーバーコートにおけるガラスの軟化点よりも高い温度で焼成を行う』」という発明特定事項のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

(6)特許法第29条第2項についてのむすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび

上記「3」のとおり、本願明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
また、上記「4」のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-20 
結審通知日 2008-08-27 
審決日 2008-09-09 
出願番号 特願平10-315563
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01C)
P 1 8・ 536- Z (H01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 重田 尚郎  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 石川 正幸
北島 健次
発明の名称 チップ型抵抗器の製造方法  
代理人 西 博幸  
代理人 石井 暁夫  
代理人 東野 正  
代理人 渡辺 隆一  

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