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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1186622
審判番号 不服2006-2288  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-09 
確定日 2008-10-24 
事件の表示 特願2001- 33271「ゴルフボール用ゴム組成物及びゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月20日出願公開、特開2002-233593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

特許出願 平成13年 2月 9日
拒絶理由通知 平成17年 9月22日
意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成17年11月22日
拒絶査定 平成17年12月26日
審判請求 平成18年 2月 9日
手続補正書(明細書)提出 平成18年 3月10日
手続補正書(理由補充書)提出 平成18年 3月10日

2.補正の内容
平成18年3月10日付けで明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲(請求項数4)についての補正を含んでおり、補正前の特許請求の範囲の請求項3のうち、請求項1を引用する部分(以下、「補正前」という。)と補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正後」という。)は、以下の通りである。(ただし、対比しやすいように分節し、分節毎に符号を加えて表記した。)
<補正前>
【請求項1】
1)シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30質量%と、シス-1,4-ポリブタジエンを40質量%以上と
2)を含む基材ゴム100質量部に対して、不飽和カルボン酸の金属塩を5?10質量部と、無機充填剤を2質量部以下と、開始剤を上記不飽和カルボン酸の金属塩の配合量の10?30質量%となる量とを配合してなる比重1未満の加硫成形物が得られることを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物(微粒子状高分子ポリオレフィン及び/又は微粒子中空球体が混合分散されたゴム組成物を除く)。
【請求項3】
3)基材ゴムが、液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム及び液状EPDMから選ばれる少なくとも1種を5質量%以下配合する請求項1又は2記載のゴルフボール用ゴム組成物。

<補正後>
【請求項1】
A)シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30質量%と、シス-1,4-ポリブタジエンを40質量%以上と、
B)液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム及び液状EPDMから選ばれる少なくとも1種を5質量%以下及び/又はハイスチレンゴムを5質量%以下と
C)を含む基材ゴム100質量部に対して、不飽和カルボン酸の金属塩を5?10質量部と、無機充填剤を2質量部以下と、開始剤を上記不飽和カルボン酸の金属塩の配合量の10?30質量%となる量とを配合してなる比重1未満の加硫成形物が得られることを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物(微粒子状高分子ポリオレフィン及び/又は微粒子中空球体が混合分散されたゴム組成物を除く)。

3.補正内容の検討
補正前と補正後とを比較すると、
i.補正前の1)と補正後のA)とは、末尾に「、」を含まないか、含むかとの違いはあるものの、実質的に同一の内容である。
ii.補正前の2)と補正後のC)とは、同一の内容である。
iii.補正前の3)のうち「液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム及び液状EPDMから選ばれる少なくとも1種を5質量%以下」と補正後のB)のうち「液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム及び液状EPDMから選ばれる少なくとも1種を5質量%以下」とは、同一の内容である。
そうすると、補正後のうち、
「シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30質量%と、シス-1,4-ポリブタジエンを40質量%以上と、
液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム及び液状EPDMから選ばれる少なくとも1種を5質量%以下と
を含む基材ゴム100質量部に対して、不飽和カルボン酸の金属塩を5?10質量部と、無機充填剤を2質量部以下と、開始剤を上記不飽和カルボン酸の金属塩の配合量の10?30質量%となる量とを配合してなる比重1未満の加硫成形物が得られることを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物(微粒子状高分子ポリオレフィン及び/又は微粒子中空球体が混合分散されたゴム組成物を除く)。」は、補正前の各所の表現を改めたものの、補正前と実質的に同一の内容とする趣旨と解せる。
本件補正が補正却下されるか否かにかかわらず、本件補正によって補正された請求項1に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであれば、実質的に同一の内容である補正前の請求項3に係る発明も同様であり、結局、本願は、拒絶されるべきものであるから、以下、本件補正の補正却下については言及せずに、本件補正によって補正された請求項1に係る発明のうち、補正前の請求項1を引用する請求項3に相当する「シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30質量%と、シス-1,4-ポリブタジエンを40質量%以上と、
液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム及び液状EPDMから選ばれる少なくとも1種を5質量%以下と
を含む基材ゴム100質量部に対して、不飽和カルボン酸の金属塩を5?10質量部と、無機充填剤を2質量部以下と、開始剤を上記不飽和カルボン酸の金属塩の配合量の10?30質量%となる量とを配合してなる比重1未満の加硫成形物が得られることを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物(微粒子状高分子ポリオレフィン及び/又は微粒子中空球体が混合分散されたゴム組成物を除く)。」(以下、「本願発明」という。)について検討する。

4.引用例
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-327791号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉乃至〈ケ〉の記載がある。
〈ア〉「【特許請求の範囲】
【請求項1】コアと該コアを被覆するカバーからなり、コアのコンプレッションが2.6?4.0mmで、かつカバーがアイオノマー樹脂を主材とし、その曲げ剛性が1500?3000kg/cm^(2) であり、ボールコンプレッションが70?95(PGA方式)で、ボール比重が0.5以上1未満であることを特徴とする水上練習用ゴルフボール。」
〈イ〉「【0016】さらに、本発明においては、ボール比重を0.5以上1未満とするが、これは比重を0.5未満にしようとすると、ゴム分を減らして微小中空球体などの低比重の充填剤を多量に配合しなければならず、ボールの反撥弾性が低下して好適な飛距離が出なくなり、また比重が1以上になると、水に浮かなくなって、水上練習用に適しなくなるからである。」
〈ウ〉「【0017】上記特性を有するコアはゴム組成物の加硫物で構成されるが、そのゴム組成物のゴム成分としては、ポリブタジエンゴムを基材ゴムとするのが適している。ただし、上記ポリブタジエンゴムに他のゴム、たとえば天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、アクリルニトリルゴムなどをゴム成分100重量部中に45重量部以下でブレンドしたものであってもよい。
【0018】そして、上記ポリブタジエンゴム中には、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30モル%含み、かつシス-1,4-ポリブタジエンを40モル%以上含むポリブタジエンゴム(以下、VCRという)をその一部として含有させるか、またはVCRのみでポリブタジエンゴムを構成するのが好ましい。
【0019】これは、VCRが高結晶性、高融点のシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含んでいるので、通常のポリブタジエンゴムを用いる場合などとは異なり、比重増加につながる無機充填剤を多量に配合しなくともゴルフボールに適度な硬さ(ボールコンプレッション)を与え、良好な打球感を付与すると共に、耐久性を高める要因になるからである。
【0020】上記のようなVCRの具体例としては、たとえば宇部興産(株)製のUBEPOL-VCR309(商品名、組成:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン9モル%、シス-1,4-ポリブタジエン89モル%、トランス-1,4-ポリブタジエン2モル%)、UBEPOL-VCR412(商品名、組成:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン12モル%、シス-1,4-ポリブタジエン86モル%、トランス-1,4-ポリブタジエン2モル%)などの市販品があり、これらは本発明において好適に使用される。そして、このVCRはゴム成分中の30?100重量%を占めるようにして使用するのが好ましい。」
〈エ〉「【0021】加硫剤としては、・・・たとえばアクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などのようなα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩などが挙げられる。
【0022】これらの加硫剤の使用量はα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩の場合、ゴム成分100重量部に対して5?35重量部が好ましく、・・・・」
〈オ〉「【0023】充填剤としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、酸化亜鉛などの通常の無機充填剤を用いることができるが、特に低比重とするために、微粒子状高分子量ポリオレフィンや微小中空球体を用いることが好ましい。」
〈カ〉「【0031】前記の無機充填剤は、主として、硬度と衝撃強度を高め、ゴルフボールの耐久性を増加させ、かつ打球感、打球音を良くする役割を果たすが、これらの無機充填剤を多く配合すると、比重が大きくなって水に浮かなくなるので、これらの無機充填剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して1?20重量部にするのが好ましい。」
〈キ〉「【0032】また、ボールを硬くするなどの目的で、・・・・・さらに、作業性の改善や硬度調整などの目的で軟化剤や液状ゴムなどを適宜配合してもよいし、また老化防止などの目的で老化防止剤を適宜配合してもよい。」
〈ク〉「【0033】加硫開始剤としては、たとえばジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの有機過酸化物が用いられる。これらの加硫開始剤の配合量はゴム成分100重量部に対して0.1?6重量部、特に0.5?3重量部が好ましい。」
〈ケ〉「【0035】そして、コアの作製にあたっては、上記の配合材料をロール、ニーダー、バンバリなどを用いてミキシングし、金型を用いて加圧下で140?200℃で8?40分間、好ましくは150?180℃で10?40分間加硫して、コアを作製する。」
〈コ〉上記〈ウ〉【0017】記載の「コアはゴム組成物の加硫物で構成される」及び上記〈ケ〉の記載より、引用例1に記載の「コア」に係る「ゴルフボール用ゴム組成物」は、加硫成形物であることが把握できる。
〈サ〉上記〈エ〉【0022】、上記〈カ〉【0031】及び上記〈ク〉【0033】に記載の「ゴム成分」は、基材ゴムであることが把握できる。
上記〈ア〉乃至〈ケ〉の記載を含む引用例1は、次のような発明が記載されていると認めることができる。
「シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30モル%と、
シス-1,4-ポリブタジエンを40モル%以上とを含む基材ゴムに対して、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩と、無機充填剤と、加硫開始剤とを配合してなる加硫成形物が得られるゴルフボール用ゴム組成物」(以下、「引用発明」という。)

5.対比
a.引用発明の「α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩」と本願発明の「不飽和カルボン酸の金属塩」とは「不飽和カルボン酸の金属塩」である点で共通する。
b.引用発明の「加硫開始剤」と本願発明の「開始剤」とは「開始剤」である点で共通する。
してみれば、本願発明と引用発明とは、
「シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンと、
シス-1,4-ポリブタジエンとを含む基材ゴムに対して、不飽和カルボン酸の金属塩と、無機充填剤と、開始剤とを配合してなる加硫成形物が得られるゴルフボール用ゴム組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉本願発明における基材ゴムの主成分に関して「シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30質量%と、シス-1,4-ポリブタジエンを40質量%以上含む」と特定されているのに対し、引用発明における基材ゴムの主成分がそのように特定されていない点。
〈相違点2〉本願発明における基材ゴムの液状ゴム成分に関して「液状ブタジエンゴム、液状イソプレンゴム及び液状EPDMから選ばれる少なくとも1種を5質量%以下含む」と特定されているのに対し、引用発明における基材ゴムの他のゴム成分がそのように特定されていない点。
〈相違点3〉本願発明における加硫成形物の比重に関して「比重1未満の加硫成形物」と特定されているのに対し、引用発明における加硫成形物の比重がそのように特定されていない点。
〈相違点4〉本願発明における不飽和カルボン酸の金属塩の基材ゴムに対する配合割合に関して「基材ゴム100質量部に対して、不飽和カルボン酸の金属塩を5?10質量部」と特定されているのに対し、引用発明における不飽和カルボン酸の金属塩の基材ゴムに対する配合割合がそのように特定されていない点。
〈相違点5〉本願発明における無機充填剤の基材ゴムに対する配合割合に関して「基材ゴム100質量部に対して、無機充填剤を2質量部以下」と特定されているのに対し、引用発明における無機充填剤の基材ゴムに対する配合割合がそのように特定されていない点。
〈相違点6〉本願発明における開始剤の不飽和カルボン酸の金属塩に対する配合割合に関して「開始剤を上記不飽和カルボン酸の金属塩の配合量の10?30質量%となる量とを配合してなる」と特定されているのに対し、引用発明における開始剤の不飽和カルボン酸の金属塩に対する配合割合がそのように特定されていない点。
〈相違点7〉本願発明におけるゴルフボール用ゴム組成物に関して「(微粒子状高分子ポリオレフィン及び/又は微粒子中空球体が混合分散されたゴム組成物を除く)」と特定されているのに対し、引用発明におけるゴルフボール用ゴム組成物がそのように特定されていない点。

6.判断
〈相違点1〉について
比重が1未満のソリッドゴルフボール用ゴム組成物の基材ゴムの主成分として、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30重量%含み、かつシス-1,4-ポリブタジエンを40重量%以上含むものは、引用例1の【0008】で引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-142571号公報(以下、「引用例2」という。)の特許請求の範囲(1)及び2頁左上欄下から3行乃至同頁右下欄下から4行、並びに引用例1の【0008】で引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-185274号公報(以下、「引用例3」という。)の特許請求の範囲(1)及び3頁左上欄11行乃至4頁左上欄13行に記載されている如く、周知の技術事項であり、上記引用例2乃至3に記載の「重量%」と本願発明の「質量%」とは、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物に係る基材ゴム」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記引用例2乃至3に記載の「重量%」で表された数値は本願発明の「質量%」で表された数値と実質的に同等であるものと解される。
してみれば、引用発明において、基材ゴムの主成分として、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを5?30質量%と、シス-1,4-ポリブタジエンを40質量%以上含む構成となすことは、当業者が通常行う程度のことである。

したがって、相違点1に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

〈相違点2〉について
上記〈キ〉には、「作業性の改善や硬度調整などの目的で・・・液状ゴムなどを適宜配合してもよい」と記載されている。
加えてポリブタジエンゴムと液状ゴムの混合物を基材ゴムとして用いたゴム組成物は、混練り、押し出し等の加工性に優れていること、前記液状ゴムとしてポリブタジエンゴム及び又は液状イソプレンブタジエン共重合ゴムがあること、及びポリブタジエンゴム/液状ゴムの混合重量比=98部/2部となすことは、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-73073号公報(以下、「引用例4」という。)の1頁右下欄下から8行乃至同下から2行、特許請求の範囲及び実施例1に記載されている如く、周知の技術事項であり、上記引用例4に記載の前記「部」と本願発明の「質量%」とは、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物に係る基材ゴム」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記引用例4に記載の「部」で表された数値は前記98部と前記2部との合計で100部となるから、本願発明の「質量%」で表された数値と実質的に同等であるものと解される。
してみれば、引用発明において、上記〈キ〉及び上記周知の技術事項より、基材ゴム中に液状ゴム成分を配合して用いるとともに、当該液状ゴム成分として、予め実験により、液状ブタジエンゴムを5質量%以下に好適化して用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点2に係る本願発明の特定事項は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

〈相違点3〉乃至〈相違点5〉及び〈相違点7〉について
以下の〈相違点3〉乃至〈相違点5〉及び〈相違点7〉に係る本願発明の特定事項は、前記に検討した基材ゴムへの添加物をどの程度とすべきかに係るものである。
ここで、本願発明と引用発明ともに、ゴルフボール総体として備えるべき特性が現れない故に上記「5.対比」では表す必要を要しなかったが、本願明細書段落【0024】と上記〈ア〉乃至〈イ〉を参照するに、いずれの発明もゴルフボールが水に浮く特性を付与されたものであることを前提としている。
そして、当該〈相違点3〉乃至〈相違点5〉及び〈相違点7〉に係る本願発明の特定事項は、結局はゴルフボールが水に浮く特性を付与するために要請される条件と解される。
他方、当該特性の付与にあたって、ゴルフボール全体の質量の相当量を占めるゴルフボールのコアの比重を1以下に抑えるべきことは、当業者にとり自明というべきである。
してみるに、引用発明において、ゴルフボールのコアの比重を1以下になす要請は当然の課題と位置付けられ、以下「〈相違点3〉について」乃至「〈相違点5〉について」及び「〈相違点7〉について」では、この点は繰り返さない。

〈相違点3〉について
上記〈ア〉より、引用発明のゴルフボール用ゴム組成物は水上練習用ゴルフボールに用いられるものであり、また上記〈コ〉より、引用発明のゴルフボール用ゴム組成物に係る加硫成形物はゴルフボールのコアに用いられることは明らかである。
比重が1未満の加硫成形物が得られるゴルフボール用ゴム組成物は、引用例2の特許請求の範囲(1)、実施例1、実施例3及び実施例5、並びに引用例3の特許請求の範囲(1)、6頁第1表実施例1、実施例3及び実施例4に記載されている如く、周知の技術事項である。
してみれば、引用発明において、ゴルフボール用ゴム組成物に係る加硫成形物はゴルフボールのコアに用いられることから、上記周知の技術事項より、当該加硫成形物の比重を1未満に設定して用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点3に係る本願発明の特定事項は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

〈相違点4〉について
上記〈エ〉に記載の「α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩の場合、ゴム成分100重量部に対して5?35重量部が好ましく」とは、上記〈エ〉に記載の「重量部」と本願発明の「質量部」とが、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記〈エ〉に記載の「重量部」で表された数値は本願発明の「質量部」で表された数値と実質的に同等であるものと解されることから、「基材ゴム100質量部に対して、不飽和カルボン酸の金属塩を5?35質量部となる量を配合する」と解される。
不飽和カルボン酸の金属塩は、ゴム組成物を架橋させて反撥弾性などを発揮させ、ゴルフボールに硬度、耐久性、好適な打球感、打球音を付与するものであり、当該不飽和カルボン酸の金属塩の配合量を基材ゴム100重量部に対して5?25重量部にすることは、上記引用例2の3頁右上欄下から7乃至同左下欄5行に記載されている如く、周知の技術事項であり、上記引用例2に記載の前記「重量部」と本願発明の「質量部」とは、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記引用例2に記載の「重量部」で表された数値は本願発明の「質量部」で表された数値と実質的に同等であるものと解される。
さらにソリッドゴルフボールにおいて、不飽和カルボン酸の金属塩を多量に配合した場合、ソリッドゴルフボールの比重が大きくなり水に浮かばなくなって、水上練習用ゴルフボールとしては使用できなくなることは、引用例3の3頁右上欄下から5乃至最下行及び4頁左下欄7乃至10行に記載されている如く、周知の技術事項である。
してみれば、引用発明において、上記〈エ〉に記載の「基材ゴム100質量部に対して、不飽和カルボン酸の金属塩を5?35質量部」として、上記周知の技術事項に基づいて、予め実験により、前記基材ゴム100質量部に対して、前記不飽和カルボン酸の金属塩の配合質量部の上限である「35質量部」をより小さな値である「10質量部」に好適化して用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点4に係る本願発明の特定事項は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

〈相違点5〉について
上記〈カ〉に記載の「無機充填剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して1?20重量部にするのが好ましい。」とは、上記〈カ〉に記載の「重量部」と本願発明の「質量部」とが、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記〈カ〉に記載の「重量部」で表された数値は本願発明の「質量部」で表された数値と実質的に同等であるものと解されることから、「基材ゴム100質量部に対して、無機充填剤を1?20質量部となる量を配合することが好ましい。」と解される。
「基材ゴム100重量部に対して、無機充填剤を5重量部以下にする」ことは、引用例3の3頁右上欄下から5乃至最下行及び5頁右上欄1行乃至同3行に記載されている如く、周知の技術事項であり、上記引用例3に記載の「重量部」と本願発明の「質量部」とが、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記引用例3に記載の「重量部」で表された数値は本願発明の「質量部」で表された数値と実質的に同等であるものと解されることから、「基材ゴム100質量部に対して、無機充填剤を5質量部以下にする」ことは、周知の技術事項であるといえる。
さらにソリッドゴルフボールにおいて、無機充填剤を多量に配合した場合、ソリッドゴルフボールの比重が大きくなり水に浮かばなくなって、水上練習用ゴルフボールとしては使用できなくなることは、上記引用例3の3頁右上欄下から5乃至最下行に記載されている如く、周知の技術事項である。
してみれば、引用発明において、上記〈カ〉及び上記周知の技術事項に基づいて、予め実験により、前記基材ゴム100質量部に対して、前記無機充填剤を2質量部以下に好適化して用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点5に係る本願発明の特定事項は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

〈相違点6〉について
上記〈ク〉に記載の「加硫開始剤の配合量はゴム成分100重量部に対して0.1?6重量部、特に0.5?3重量部が好ましい。」は、上記〈ク〉に記載の「重量部」と本願発明の「質量部」とは、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記〈ク〉に記載の「重量部」で表された数値は本願発明の「質量部」で表された数値と実質的に同等であるものと解されることから、「基材ゴム100質量部に対して、開始剤を0.1?6質量部、特に0.5?3質量部が好ましい。」と解される。
前記開始剤は、架橋性モノマーである不飽和カルボン酸の金属塩の重合を開始させてゴルフボール用ゴム組成物を架橋させるものであることは、上記引用例2の3頁右上欄下から7行乃至同頁左下欄13行並びに上記引用例3の5頁右上欄4乃至16行及び4頁左下欄7乃至10行に記載されている如く、周知の技術事項であり、
さらに前記開始剤の配合量が所定量より少ない場合、架橋が充分に進行せず、前記開始剤の配合量が所定量より多くなると架橋が進みすぎて、ソリッドゴルフボールのコアが硬くなり、打球感が悪くなる傾向があることは、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-322962号公報(以下、「引用例5」という。)、特に【0019】に記載されている如く、周知の技術事項である。
してみれば、引用発明において、上記〈ク〉及び上記周知の技術事項に基づいて、予め実験により、開始剤を上記不飽和カルボン酸の金属塩の配合量の10?30質量部となる量に好適化して用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点6に係る本願発明の特定事項は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

〈相違点7〉について
上記〈イ〉には、「本発明においては、ボール比重を0.5以上1未満とするが、これは比重を0.5未満にしようとすると、ゴム分を減らして微小中空球体などの低比重の充填剤を多量に配合しなければならず、ボールの反撥弾性が低下して好適な飛距離が出なくなり、」と、また上記〈オ〉には、「特に低比重とするために、微粒子状高分子量ポリオレフィンや微小中空球体を用いることが好ましい。」とそれぞれ記載されており、上記〈イ〉及び上記〈オ〉に係る記載は、必ずしも微粒子状高分子量ポリオレフィンや微小中空球体を用いなくてもよいことが示唆されているものと認められる。
加えて上記〈カ〉「無機充填剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して1?20重量部にするのが好ましい。」は、上記〈カ〉に記載の「重量部」と本願発明の「質量部」とが、いずれも「ゴルフボール用ゴム組成物」中に存在する成分の占める相対的な比率を表すものに相当し、上記〈カ〉に記載の「重量部」で表された数値は本願発明の「質量部」で表された数値と実質的に同等であるものと解されることから、「無機充填剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して1?20質量部にするのが好ましい。」と解される。
そして、上記「〈相違点5〉について」で低比重とするために無機充填剤を2質量部以下とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとしており、その場合に上記〈オ〉に記載の微粒子状高分子量ポリオレフィンや微小中空球体を用いることなく、ゴルフボール用ゴム組成物に係る加硫成形物の比重が1未満のものが得られるであろうことは、当業者が容易に予測できる程度のことである。
してみれば、引用発明において、上記〈イ〉、〈オ〉及び〈カ〉より、「(微粒子状高分子ポリオレフィン及び/又は微粒子中空球体が混合分散されたゴム組成物を除く)」構成となすことは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点7に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び引用例1に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

このように、上記相違点1乃至相違点7に係る本願発明の特定事項は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であり、これらの発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は平成18年3月10日付けの手続補正が補正却下されるか否かにかかわらず、また本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-20 
結審通知日 2008-08-27 
審決日 2008-09-09 
出願番号 特願2001-33271(P2001-33271)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅野 芳男
坂田 誠
発明の名称 ゴルフボール用ゴム組成物及びゴルフボール  
代理人 小林 克成  
代理人 小島 隆司  
代理人 石川 武史  
代理人 重松 沙織  

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