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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1186649
審判番号 不服2006-21517  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-26 
確定日 2008-10-24 
事件の表示 特願2003-386322「シリカ微粉体、その製造方法及び用途」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-148448〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は、平成15年11月17日に出願したものであって、平成18年3月16日付けの拒絶理由の通知に対し、同年5月17日付けで明細書に係る手続補正がなされたが、同年8月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月26日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで明細書に係る手続補正がなされたものである。

第2.平成18年9月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年9月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】
一次粒子平均径が1μm以下、平均球形度が0.85以上の球状シリカ粉体が、アミノ基含有シランカップリング剤によって表面処理されており、JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となるものであることを特徴とするシリカ微粉体。
【請求項2】
球状シリカ粉体がアミノ基含有シランカップリング剤によって表面処理されており、JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となるものであり、上記球状シリカ粉体が、金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上の球状シリカ粉体であることを特徴とするシリカ微粉体。
【請求項3】
アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理されており、JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ微粉体。
【請求項4】
10cm/sec以上のガス流速により、粉塵濃度1?12kg/m^(3)の球状シリカ粉体の浮遊層又は流動層を形成させ、この状態で球状シリカ粉体とガス化したアミノ基含有シランカップリング剤とを、浮遊層又は流動層におけるガス化したアミノ基含有シランカップリング剤の割合を全ガス100体積部に対して0.5?30体積部として接触させた後、更に必要に応じて疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルと接触させる方法であって、上記球状シリカ粉体が、金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上の球状シリカ粉体であることを特徴とするシリカ微粉体の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3のいずれかに記載のシリカ微粉体からなることを特徴とする正帯電トナー用外添剤。」
から
「 【請求項1】
球状シリカ粉体が、アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理されたものであって、上記球状シリカ粉体が、金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上の球状シリカ粉体であり、上記アミノ基含有シランカップリング剤が末端にアミノ基を有するものであることを特徴とするシリカ微粉体。
【請求項2】
10cm/sec以上のガス流速により、粉塵濃度1?12kg/m^(3)の球状シリカ粉体の浮遊層又は流動層を形成させ、この状態で球状シリカ粉体とガス化したアミノ基含有シランカップリング剤とを、浮遊層又は流動層におけるガス化したアミノ基含有シランカップリング剤の割合を全ガス100体積部に対して0.5?30体積部として接触させた後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルと接触させる方法であって、上記球状シリカ粉体が、金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上の球状シリカ粉体であり、上記アミノ基含有シランカップリング剤が末端にアミノ基を有するものであることを特徴とするシリカ微粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のシリカ微粉体からなることを特徴とする正帯電トナー用外添剤。」
に補正された。

2.目的要件違反について
ここで、本件補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とする補正に該当するか否かについて検討する。

まず、本件補正による請求項の対応関係をみると以下のとおりである。
補正前 補正後
請求項 1→ 削除
請求項 2→ 削除
請求項 3→ 請求項 1
請求項 4→ 請求項 2
請求項 5→ 請求項 3
補正後の請求項1は、補正前の請求項2を引用する請求項3と対応しているが、補正前の請求項3に記載されていた「JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となる」点が、補正後の請求項1に記載されていない。
このように、当該補正によって発明を特定するための事項が削除されており、実質的に特許請求の範囲を拡張するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とする補正に該当しない。
したがって、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しているので、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.独立特許要件について(予備的判断)
以上述べたとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しているものであるが、「JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となる」点は、請求項1に係る「シリカ微粉体」が凝集しないことを表現したに過ぎず、「球状シリカ粉体が、アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理されたものであって、上記球状シリカ粉体が、金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上の球状シリカ粉体であり、上記アミノ基含有シランカップリング剤が末端にアミノ基を有するものであること」によって、当然達成されるべき特性であって、発明特定事項ではないとの判断も成り立ち得る。
したがって、念のため、本件補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると仮定して、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-224456号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。)
ア.「【請求項1】 結着樹脂および着色剤を少なくとも含有する静電荷像現像用トナーと、ほぼ球形の爆燃法により得られたシリカ微粒子を含有することを特徴とする静電荷像現像剤。
【請求項2】 ほぼ球形の爆燃法により得られたシリカ微粒子は、摩擦係数が0.60以下である請求項1に記載の静電荷像現像剤。
【請求項3】 ほぼ球形の爆燃法により得られたシリカ微粒子がカップリング剤で処理されたものである請求項1に記載の静電荷像現像剤。
【請求項4】 ほぼ球形の爆燃法により得られたシリカ微粒子が疎水化処理されたものである請求項1に記載の静電荷像現像剤。」(【特許請求の範囲】)
イ.「【課題を解決するための手段】本発明者等は、鋭意検討した結果、i)外部添加剤として嵩密度が300g/l以上のほぼ球形のシリカ微粒子を用いることにより、クリーニング性が良好であり、トナーの帯電性への影響がないことを始めとする上述の目的を達成できることを見出した。本発明者等は、さらに、外部添加剤として用いる嵩密度が300g/l以上のほぼ球形のシリカ微粒子の使用形態や該シリカを含有する静電荷像現像剤の組成、使用形態、製造方法等について種々検討した結果、下記の事項が特に改善されることを見出した。具体的には、ii)低摩擦係数の上記シリカを用いることにより、トナーインパクションの防止による現像剤寿命の延長を図ることができる、iii )カップリング剤処理または疎水化処理した嵩密度が300g/l以上のほぼ球形のシリカ微粒子を用いることにより、耐環境依存性および保存安定性の向上が図られる、iv)2山分布の樹脂を用いることにより、良好な定着性を保ちつつ、キャリアへのトナーインパクションおよび感光体上へのトナーフィルミングを防止できる、v)小粒径トナーを用いることにより高画質を達成し、従来の問題である現像性および転写性の低下の改善が図られ、結果としてトナー消費量の低減が可能となる、vi)磁性粉分散型キャリアまたはトナー成分として用いられる磁性粉の脱離による感光体傷の低減が可能となり、低電位高現像、高信頼性が達成できる。さらに、vii )外部添加剤として用いる無機化合物と上記シリカの2段階混合により、現像剤寿命の延長を図ることができる、viii)高速で現像、転写、定着、クリーニングが行われる電子写真プロセスにおいて、上記シリカが付着したトナーを用いることにより、シームを有するベルト感光体においても、クリーニングを問題なく行うことができ、高速複写、高信頼性が達成できる。以上のことを見出して本発明を完成するに至ったものである。」(段落【0013】)
ウ.「以下、本発明を詳細に説明する。本発明の静電荷像現像剤は、結着樹脂と着色剤を必須成分とするトナーの粒子表面に嵩密度が300g/l以上のほぼ球形のシリカ微粒子(以下、単に球形シリカ微粒子という)を付着させたものである。この球形シリカ微粒子は爆燃法により得ることができる。爆燃法によるシリカ微粒子は、珪素と酸素を反応速度が毎秒数百m程度以下の急速な燃焼反応により生成される。一般に、この方法で得られるシリカ微粒子は密度が2.1mg/mm^(3) 以上と大きく表面が平滑な真球状を呈する。なお、通常の加水分解法によるコロイダルシリカの嵩密度は、50?200g/lである。」(段落【0016】)
エ.「また、本発明においては、球形シリカ微粒子の表面は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤等のカップリング剤や疎水化剤による処理が施されていてもよい。」(段落【0019】)
オ.「本発明で使用されるシランカップリング剤としては、上記チタンカップリング剤と同様に、シリカ微粒子表面の水酸基と反応するものが使用できる。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン;γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニル-トリス-(2-メトキシエトキシ)シラン等のビニル基含有アルコキシシラン;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリロキシ基含有アルコキシシランなどがあげられる。」(段落【0023】)
カ.「本発明で使用される疎水化処理剤としては、上記したシランカップリング剤、例えばジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のクロロシラン類、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等のアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン等のジシラザン類、トリメチルシリルメルカプタン、ビニルジメチルアセトキシシラン、トリメチルシリルアクリレート、ヘキサメチルジシロキサン、シリコーンオイル、前記したチタンカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤などがあげられる。」(段落【0024】)
キ.「本発明において球形シリカ微粒子をカップリング剤で処理する方法としては、通常のカップリング剤処理方法として知られている種々の方法を採用することができる。例えば、湿式法として、上記カップリング剤を適当な溶剤に溶解させ、球形シリカ微粒子を混合した後に溶剤を除去する方法、また乾式法として、上記カップリング剤と球形シリカ微粒子とを混合機により乾式混合する方法、あるいは気相法として、爆燃法により球形シリカ微粒子を生成させた後、高温下においてシランカップリング剤と不活性ガス、およびカップリング剤種により水蒸気を導入して表面処理する方法等があげられる。また、本発明における球形シリカ微粒子は、非処理の状態で、または前記カップリング剤または疎水化剤で処理した後、あるいはカップリング剤で処理すると同時に上記の疎水化処理剤で疎水化してもよい。」(段落【0025】)
ク.「【実施例】以下、本発明を実施例および比較例を掲げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、下記の説明において「部」は「重量部」を意味する。以下の実施例で用いた球形シリカ微粒子が球形であることは、下記の方法により確認した。
i)SEM写真より形状観察
本発明においては、投影像の円の短径/長径の比が0.8以上であるものが好ましく、特に比が0.9以上であるものが特に好ましく用いられるが、投影像の円の短径/長径の比を求めたところ、いずれも0.90以上であり、球形を呈していた。
ii)Wadellの真の球形度
【数1】


(1):平均粒径から計算により求めた。
(2):島津粉体比表面積測定装置SS-100形を用いBET比表面積により代用させた。
本発明においては、球形度Ψが0.6以上のものを用いることができ、特に好ましくは0.8以上のものであるが、以下の実施例で用いた球形シリカ微粒子の球形度Ψを上記式から求めたところ、いずれも0.80以上であることが確認された。」(段落【0040】)

上記の事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)
「球形シリカ微粒子を、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランで処理した後、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等の疎水化処理剤で疎水化処理したものであって、該球形シリカ微粒子が、爆燃法により得られた、Wadellの真の球形度が0.80以上のものである、シリカ微粒子」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを比較すると、刊行物1発明における「球形シリカ微粒子」、「シリカ微粒子」は、それぞれ、本願補正発明における「球状シリカ粉体」、「シリカ微粉体」に相当する。
また、「γ-アミノプロピルトリメトキシシラン」は、「3-アミノプロピルトリメトキシシラン」と同一であり、「末端にアミノ基を有するもの」であるから、刊行物1発明における「γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン」は、本願補正発明における「アミノ基含有シランカップリング剤」及び「上記アミノ基含有シランカップリング剤が末端にアミノ基を有するものである」に相当し、刊行物1発明における「ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等の疎水化処理剤」は、本願補正発明における「疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイル」に相当する。
したがって、刊行物1発明における「γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランで表面処理した後、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等の疎水化処理剤で疎水化処理した」は、本願補正発明における「アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理された」に相当する。
よって、両者は、
「球状シリカ粉体が、アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理されたものであって、上記アミノ基含有シランカップリング剤が末端にアミノ基を有するものである、シリカ微粉体。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]「球状シリカ粉体」に関し、本願補正発明においては、「金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上」のものであるのに対し、刊行物1発明においては、「爆燃法により得られた、Wadellの真の球形度が0.80以上のもの」ものである点。

(3)判断
上記相違点1について検討する。
まず、本願補正発明の「平均球形度」に関して、本願明細書には、以下の記載がある。
「球状シリカ粉体の平均球形度は、実体顕微鏡、例えば「モデルSMZ-10型」(ニコン社製)、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等にて撮影した粒子像を画像解析装置、例えば(日本アビオニクス社製など)に取り込み、次のようにして測定することができる。すなわち、写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の真円度はA/Bとして表示できる。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πr^(2)であるから、B=π×(PM/2π)^(2)となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B=A×4π/(PM)^(2)として算出することができる。このようにして得られた任意の粒子200個の球形度を求めその平均値を平均球形度とする。」(段落【0011】)
このように、本願補正発明の「平均球形度」と、刊行物1発明の「Wadellの真の球形度」とは、定義が異なるものであるが、本願補正発明の「平均球形度」は、周囲長と面積に基づく「円形度」として従来周知である。
そして、本願補正発明の「平均球形度」と、刊行物1発明の「Wadellの真の球形度」は、ともに「1」に近いほど真球(投影面が真円)に近くなるものであって、外添剤としてのシリカ粉体の性能の観点から、両発明においては、ともに、球状シリカ粉体の球形度が1に近い方が好ましいことは自明の事項である。
したがって、刊行物1発明の「Wadellの真の球形度が0.80以上」と、本願補正発明の「平均球形度が0.85以上」とは、ともに真球に近いものが含まれる点で一致し、その差異は数値限定上の微差でしかないから、「Wadellの真の球形度が0.80以上」に代えて、本願補正発明のような「平均球形度が0.85以上」を採用することは、設計上の微差に過ぎない。
次に、刊行物1発明の「爆燃法により得られた」に関して、上記摘記事項ウ.のとおり、「爆燃法によるシリカ微粒子は、珪素と酸素を反応速度が毎秒数百m程度以下の急速な燃焼反応により生成される。」との記載があるので、本願補正発明の「金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた」とは類似があるものの、同一の製造手段によるものとはいえない。
しかしながら、「金属シリコン粉末を火炎中に噴射し酸化反応」させる「金属粉末燃焼法」は周知の技術的手段であり、「金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて」球状シリカ粉体を得ることも、よく知られている。(必要ならば、特開昭60-255602号公報、特開2000-247626号公報参照。)
したがって、球状シリカ粉体を得る手段として、公知の手段の中から代替手段を選択し、水スラリーを用いた「金属粉末燃焼法」を採用することは、当業者が適宜為し得る設計的事項である。
そして、上記相違点1によって本願発明が奏する効果も、予測し得る程度のものであって、格別のものではない。
してみると、相違点1に係る構成の変更は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて適宜為し得たことである。

(4)請求人の主張
請求人は、審判請求の理由において、
「(ロ)本願発明による有利な効果は、本願実施例1、2と、参考例1、2及び比較例1?6との対比から明白であり、本願発明によれば、凝集性の小さいシリカ微粉体とその容易な製造方法が提供されます。また、印字性持続効果に優れた正帯電トナー用外添剤が提供されます。すなわち、本願明細書の表1、2に示されるように、浮遊層等のガス流速が適正でない場合(参考例1と比較例1との対比)、浮遊層等における球状シリカ粉体の粉塵濃度が適正でない場合(参考例1と比較例3、4との対比)、末端にアミノ基を有するアミノ基含有シランカップリング剤による処理量が適正でない場合(参考例1と比較例5、6との対比)では、粒ゲージ法による凝集が多く見られるシリカ微粉体となります。これに対し、本願発明の実施例1、2によれば、粒ゲージ法による凝集がほとんど見られず、しかも疎水化度の大きなシリカ微粉体となります。このような効果は、引用文献1-11から全く予測が困難です。 」(主張1)、
「(ハ)引用文献1?11には本願発明の目的、構成及び効果が記載されておらず、本願発明と著しく相違しておりますことは、平成18年 5月17日差出の意見書に述べたとおりです。」
(なお、平成18年 5月17日差出の意見書には、
「目的
本願発明の目的は、アミノ基含有シランカップリング剤で表面処理されたシリカ微粉体の凝集性を小さくすることであり、そのようなシリカ微粉体を容易に製造することです。
さらには、このシリカ微粉体からなる印字性持続効果に優れた正帯電トナー用外添剤を提供することです。このような目的は、引用文献1?11には明記されておりません。
構成
引用文献1?10に示されたシリカ粉体にあっては、いずれもJIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となることはありません。したがいまして、本願発明と引用文献1?11とは発明の構成が明確に相違しております。」とある。)(主張2)、
「(ニ)原査定の謄本には上記備考が摘記されております。しかし、引用文献5を初めとする引用文献1?11には、シリカ粉体を「アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理」することは記載されておりません。」(主張3)と、主張している。

(主張1について)
まず、「本願実施例1、2と、参考例1、2及び比較例1?6との対比から明白であり」とあるが、この効果の主張は、実施例1に対して、シランカップリング剤等の処理法を変更した比較例との対比であるから、本願補正発明には、シランカップリング剤等の処理法は何ら特定されていないから、本願補正発明の効果の主張としては、採用できない。
(主張2について)
次に、「アミノ基含有シランカップリング剤で表面処理されたシリカ微粉体の凝集性を小さくする」との目的については、トナー用外添剤としてのシリカ微粒子において、「トナーの流動性の確保」、「現像・転写性の向上」の観点から、微粒子が凝集しないことが好ましいことは当業者にとって周知の事項であるから、目的が記載されていないとの主張は当を得ていない。
また、「JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下」との構成は、本願補正発明の発明特定事項ではない。
(主張3について)
「アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理」の点については、刊行物1(上記摘記事項キ.参照)に加えて、原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭59-34539号公報(引用文献7、公報第6頁左上欄第1行?第12行)及び特開昭59-44059号公報(引用文献8、公報第6頁右上欄第1行?第12行)にも示されるように、従来周知の事項である。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.補正却下の決定についてのむすび
以上述べたとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しているか、または、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成18年9月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成18年5月17日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項3のうち、請求項2を引用する請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
(なお、「本願発明」は、平成20年6月25日付けで請求人が提出した、当審からの審尋に対する回答書における「特許請求の範囲の補正案」の請求項1と実質的に同一である。)
「【請求項2】
球状シリカ粉体がアミノ基含有シランカップリング剤によって表面処理されており、JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となるものであり、上記球状シリカ粉体が、金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上の球状シリカ粉体であることを特徴とするシリカ微粉体。
【請求項3】
アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理されており、JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となるものであることを特徴とする請求項2に記載のシリカ微粉体。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用された刊行物1、及び、その記載事項は、前記第2.3.(1)ア.?ク.で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2.3.で検討した本願補正発明に、「JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となる」点を追加したものである。

したがって、本願発明と刊行物1発明とを対比すると、
「球状シリカ粉体が、アミノ基含有シランカップリング剤により表面処理された後、更に疎水性シランカップリング剤又はシリコーンオイルによって疎水化処理されたものであって、上記アミノ基含有シランカップリング剤が末端にアミノ基を有するものであるシリカ微粉体。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]「球状シリカ粉体」に関し、本願発明においては、「金属シリコン粉末の水スラリーを火炎中に噴射し酸化反応させて得られた平均球形度が0.85以上」のものであるのに対し、刊行物1発明においては、「爆燃法により得られた、Wadellの真の球形度が0.80以上のもの」ものである点。
[相違点2]本願発明においては、「JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となる」ものであるのに対し、刊行物1発明においては、そのような特定がない点。

(相違点1について)
相違点1については、上記第2.3.(3)で検討したとおりである。
(相違点2について)
「JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となる」点については、シリカ微粒子が凝集しないということを、特定の試験方法に基づいて表現したものであるが、トナー用外添剤としてのシリカ微粒子において、「トナーの流動性の確保」、「現像・転写性の向上」からは、凝集しないことが好ましいことは周知の事項といえる。
そして、刊行物1発明のシリカ微粒子と本願発明の発明特定事項とは、この凝集しないという物性による特定を除き、格別の構成上の差異はないから、刊行物1発明のシリカ微粒子においても、凝集しないということが当然予想される。
また、本願明細書には、「1μm以下のシリカ粉体の凝集性の評価法としては、ゆるめ嵩密度、固め嵩密度などがある」(段落【0005】)とあり、刊行物1には、「カップリング剤処理または疎水化処理した嵩密度が300g/l以上のほぼ球形のシリカ微粒子を用いることにより、耐環境依存性および保存安定性の向上が図られる」(上記摘記事項イ.参照)との嵩密度に関する記載もあるとおり、刊行物1発明においても、凝集度を考慮していることは明らかである。
したがって、「JIS K 5400の粒ゲージ法による凝集粒子検出数が2本以下となる」点は、シリカ微粒子に求められる当然の物性として、凝集しない点を追加したに過ぎないから、当業者が適宜付加できる設計的事項であって、実質的な相違点ではない。
そして、上記相違点1及び2によって本願発明が奏する効果も、予測し得る程度のものであって、格別のものではない。
してみると、相違点1及び2に係る構成の変更は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて適宜為し得たことである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項2を引用する請求項3に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-22 
結審通知日 2008-08-26 
審決日 2008-09-09 
出願番号 特願2003-386322(P2003-386322)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 572- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 淺野 美奈
山下 喜代治
発明の名称 シリカ微粉体、その製造方法及び用途  

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