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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1186665
審判番号 不服2007-3941  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-08 
確定日 2008-10-24 
事件の表示 特願2001-271190「ハードコンタクトレンズを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月12日出願公開、特開2003- 75782〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年9月7日に出願された特願2001-271190号であって、平成18年6月14日付け拒絶理由通知に対して、同年8月18日付けで手続補正がされたが、平成19年1月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年2月8日付けで審判請求がされ、当審による平成20年5月14日付け拒絶理由通知に対して、同年7月22日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願について
(1)本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、「ハードコンタクトレンズを製造する方法」に関するものであり、平成20年7月22日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

「【請求項1】
レンズ装用者の角膜に投影したプラチド像をコンピュータを用いて解析することによって取得した前記レンズ装用者の角膜の形状データに基づき、前記角膜に適合するとともに、レンズ内面が、実質上円形のレンズ中央領域と、前記レンズ中央領域の外側に順次連続する複数の環状の中間領域と、前記複数の中間領域の外側に連続する環状の周辺領域とからなり、かつレンズの直径方向断面を見たときに、前記レンズ中央領域の凹状のベースカーブ、前記ベースカーブの外側に順次連続する前記複数の中間領域のそれぞれの凹状の中間カーブ、前記中間カーブの外側に連続する前記周辺領域の凹状の周縁カーブによって形成された輪郭を有するハードコンタクトレンズを製造する方法であって、
(1)前記角膜の形状データに基づいて、前記レンズの直径方向を見たときに対応する角膜表面カーブを決定するステップと、
(2)前記レンズの前記複数の中間領域が、前記周辺領域に連続する第1中間領域と、前記第1中間領域および前記レンズ中央領域の間にのびる第2中間領域とからなるように前記複数の中間領域を設計するとともに、前記レンズの直径方向断面を見たときに、前記レンズの内面が、前記ベースカーブ、前記ベースカーブの外側に連続する前記第2中間領域の第2中間カーブ、前記第2中間カーブの外側に連続する前記第1中間領域の第1中間カーブ、前記第1中間カーブの外側に連続する前記周縁カーブによって形成された輪郭を有するように前記レンズの内面を設計するステップと、
(3)前記レンズの直径方向断面を見たときの前記レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心を前記角膜表面カーブの角膜頂点に一致させた状態で、前記ベースカーブが、前記レンズ中心からレンズの半径方向に耳側および鼻側に所定の距離離れ、かつ前記角膜表面カーブからの距離が所定の最大距離となる第1の点と、前記角膜頂点とを通る2次近似曲線から形成されるように、前記ベースカーブを設計するステップと、
(4)前記レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心を前記角膜表面カーブの角膜頂点に一致させた状態で、前記第2中間カーブが、前記第2中間領域により被覆された前記角膜表面カーブの範囲内にあって、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れた第2の点と、前記ベースカーブの両端との合計3点を通る2次近似曲線から形成され、かつその2次近似曲線の曲率が前記ベースカーブの2次近似曲線の曲率より小さくなるように、前記第2中間カーブを設計するステップと、
(5)前記レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心を前記角膜表面カーブの角膜頂点に一致させた状態で、前記第1中間カーブが、前記第1中間領域内にあって、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れかつ前記角膜表面カーブからの距離が所定の最大距離となる第3の点と、両側の前記第2中間カーブのそれぞれの外側端との合計3点を通る2次近似曲線から形成され、かつその2次近似曲線の曲率が前記第2中間カーブの2次近似曲線の曲率より大きくなるように、前記第1中間カーブを設計するステップと、
(6)前記レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心を前記角膜表面カーブの角膜頂点に一致させた状態で、前記周縁カーブが、レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れかつ前記角膜表面カーブからの距離が所定の最大距離となる第4の点と、両側の前記第1中間カーブのそれぞれの外側端との合計3点を通る2次近似曲線から形成されるように、前記周縁カーブを設計するステップと、
(7)前記ステップ(1)?(6)で取得したデータに基づいてコンタクトレンズ材料からハードコンタクトレンズを製造するステップと、からなっていることを特徴とする方法。
【請求項2】
8.5?10.5mmの直径を有し、前記レンズ中央領域が、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って2.95?4.35mmの距離までのび、前記第2中間領域が、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って3.55?4.95mmの距離までのび、前記第1中間領域が、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って4.15?5.15mmの距離までのびる前記レンズを製造することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心を前記角膜表面カーブの角膜頂点に一致させた状態で、
(1)前記ベースカーブが、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側および鼻側に2.95?4.35mm離れかつ前記角膜表面カーブからの距離が0.01?0.5mmとなる第1の点と、角膜頂点とを通る2次近似曲線からなり、
(2)前記第2中間カーブが、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に3.55?4.95mm離れた第2の点と、前記ベースカーブの両端との合計3点を通る2次近似曲線からなり、
(3)前記第1中間カーブが、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に4.15?5.15mm離れかつ前記角膜表面カーブからの距離が0.01?0.5mmとなる第3の点と、両側の前記第2中間カーブのそれぞれの外側端との合計3点を通る2次近似曲線からなり、
(4)前記周縁カーブが、前記レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に4.25?5.25mm離れかつ前記角膜表面カーブからの距離が0.01?0.5mmとなる第4の点と、両側の前記第1中間カーブのそれぞれの外側端との合計3点を通る2次近似曲線からなるように、前記ベースカーブ、および前記第1および第2中間カーブ、および前記周縁カーブを設計することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。」

(2)当審が通知した拒絶理由

当審において通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「第1 拒絶理由1(特許法第36条第6項第2号)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1に、「レンズが装用されてレンズ中心が角膜中心部と接触した静止位置にあるとき」という記載、「角膜表面からの距離が所定の最大距離となる第1の点」という記載、「角膜表面からの距離が所定の最大距離となる第3の点」及び「角膜表面からの距離が所定の最大距離となる第4の点」という記載があるが、角膜形状はレンズ装用者毎に異なるので、請求項1ないし3の記載はコンタクトレンズ自体の形状をどのように規定したものであるのかが明確でない。

(2)請求項1に、「レンズが装用されてレンズ中心が角膜中心部と接触した静止位置にあるとき」という記載があるが、前記記載は、「角膜」という人体の一部を発明の構成要件としたものである。

(3)請求項1に、「第2中間カーブは、・・・レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れた第2の点と、前記ベースカーブの両端とを通る2次近似曲線」からなるという記載があるが、如何なる意味であるのか不明確である。すなわち、前記記載は、第2中間カーブは、レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側に所定の距離離れた点、レンズ中心からレンズの半径方向に沿って鼻側に所定の距離離れた点、及びベースカーブの両端の合計4点を通る2次近似曲線であるのか、レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側に所定の距離離れた点、または、レンズ中心からレンズの半径方向に沿って鼻側に所定の距離離れた点、及びベースカーブの両端の、合計3点を通る2次近似曲線であるのかが不明確である。また、前記第2中間カーブがレンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側に所定の距離離れた点、または、レンズ中心からレンズの半径方向に沿って鼻側に所定の距離離れた点、及びベースカーブの両端の、合計3点を通る2次近似曲線であるとすると、耳側の第2中間カーブと鼻側の第2中間カーブとは形状が異なることとなるが、何故異なる形状にするのか不明である。「第1中間カーブ」及び「周縁カーブ」についても同様に不明である。

(4)請求項1に、「第2中間カーブは、・・・その2次近似曲線の曲率は前記ベースカーブの2次近似曲線の曲率より小さく」という記載があるが、一般に2次曲線はその位置ごとに曲率が異なっているので、前記記載はどの位置における曲率の大小関係を比較しているのか不明確である。

(5)請求項1に、「第1中間カーブは、・・・その2次近似曲線の曲率は前記第2中間カーブの2次近似曲線の曲率より大きく」という記載があるが、一般に2次曲線はその位置ごとに曲率が異なっているので、前記記載はどの位置における曲率の大小関係を比較しているのか不明確である。

よって、請求項1ないし3に係る発明は明確でない

第2 拒絶理由2(特許法第36条第4項)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



(1)発明の詳細な説明の記載を参照すると、角膜形状はレンズ装用者毎に異なるので、「レンズが装用されてレンズ中心が角膜中心部と接触した静止位置にあるとき」において「角膜表面からの距離が所定の最大距離となる第1の点」、「角膜表面からの距離が所定の最大距離となる第3の点」及び「角膜表面からの距離が所定の最大距離となる第4の点」という記載によってコンタクトレンズ自体の形状を規定することが可能であるとしているのは何故か、その根拠が不明である。

(2)段落【0013】に、「第2中間カーブ6は、レンズが前記静止位置にあるときに第2中間領域2により被覆された角膜表面範囲内にあって、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れた第2の点13と、ベースカーブ5の両端12、12’とを通る2次近似曲線からなっており、その2次近似曲線の曲率はベースカーブ5の2次近似曲線の曲率より小さくなっている。」と記載され、第2中間カーブ6は、レンズ中心9とベースカーブ5の両端12、12’の合計3点を通ることが記載されているが、一般に2次曲線を一意に決定するには5点が必要であって、3点のみによって2次近似曲線を決定し得ないから、上記記載では発明が実施できない。また、ベースカーブ5が如何なる2次近似曲線で近似されるのか、2次近似曲線の方程式が開示されていないので、上記記載では発明が実施できない。「ベースカーブ」、「第1中間カーブ」、「周縁カーブ」についての各々段落【0012】、【0014】及び【0016】の記載についても同様である。

(3)段落【0013】に、「第2中間カーブ6は、レンズが前記静止位置にあるときに第2中間領域2により被覆された角膜表面範囲内にあって、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れた第2の点13と、ベースカーブ5の両端12、12’とを通る2次近似曲線からなっており、その2次近似曲線の曲率はベースカーブ5の2次近似曲線の曲率より小さくなっている。」と記載されているが、前記記載では、第2の点13’を通る第2中間カーブの形状がどのように定義されているのか不明瞭である。また、前記記載において、耳側及び鼻側の第2中間カーブの形状が定義されているとしても、耳側及び鼻側以外の方向の第2中間カーブ、例えば上側あるいは下側の第2中間カーブの形状はどのように定義されているのか不明である。同様に第3の点15’を通る第1中間カーブの形状及び第4の点16’を通る周縁カーブの形状がどのように定義されているのか不明瞭であり、耳側及び鼻側以外の方向、例えば上側あるいは下側の第1中間カーブの形状及び周縁カーブの形状もどのように定義されているのか不明瞭である。

(4)段落【0013】に、「第2中間カーブ6は、・・・その2次近似曲線の曲率は前記ベースカーブ5の2次近似曲線の曲率より小さくなっている」という記載があるが、一般に2次曲線はその位置ごとに曲率が異なっているので、前記記載はどの位置における曲率の大小関係を比較しているのか不明確である。

(5)段落【0014】に、「第1中間カーブ7は、・・・その2次近似曲線の曲率は第2中間カーブの2次近似曲線の曲率より大きくなっている」という記載があるが、一般に2次曲線はその位置ごとに曲率が異なっているので、前記記載はどの位置における曲率の大小関係を比較しているのか不明確である。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

第3 請求人の主張

請求人は、平成20年7月22日付けの意見書において、上記「拒絶理由1(特許法第36条第6項第2号)」(4)及び(5)並びに「拒絶理由2(特許法第36条第4項)」(2)ないし(5)に対する意見として次のように主張している。

(1)「拒絶理由1(特許法第36条第6項第2号)」(4)及び(5)に対して
「(v)第1の拒絶理由(4)、(5)については、「ベースカーブ」の曲率は、当該ベースカーブを描く2次近似曲線の、第2中間カーブとの接続点における1次導関数の値として定義され、「第2中間カーブ」の曲率は、当該第2中間カーブを描く2次近似曲線の、第1中間カーブとの接続点における1次導関数の値として定義され、「第1中間カーブ」の曲率は、当該第1中間カーブを描く2次近似曲線の、周縁カーブとの接続点における1次導関数の値として定義されることを釈明しておく。」

(2)「拒絶理由2(特許法第36条第4項)」(2)に対して
「(iii)また、第2の拒絶理由(2)については、本願発明では、レンズ装用者毎に角膜形状が異なることを前提に、レンズ内面を構成する各カーブ(ベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブ)を、いずれも、3点を通る2次近似曲線から形成し、3点を通る複数種類の2次近似曲線の中から、角膜表面カーブに最も適合する1つの2次近似曲線を選択することによって、レンズ装用者毎に最適のレンズを設計し、製造するものであることを釈明しておく。」

(3)「拒絶理由2(特許法第36条第4項)」(3)に対して
「(iv)第2の拒絶理由(3)については、本願発明では、レンズにおける耳側および鼻側を通る1の直径方向を選択し、その上側及び下側に、それぞれ、該1の直径方向に平行なレンズ断面を考え、各レンズ断面について、レンズ内面を構成する各カーブ(ベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブ)を決定することによって、レンズ全体の設計を行う点を釈明しておく。」

(4)「拒絶理由2(特許法第36条第4項)」(4)及び(5)に対して
「(v)第2の拒絶理由(4)、(5)については、上記(a)(v)と同様である。」

第4 当審の判断

1.発明の明確性の要件について
平成20年7月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項に係る発明が明確であるか否かについて検討する。

請求項1には、「第2中間カーブが、・・・その2次近似曲線の曲率が前記ベースカーブの2次近似曲線の曲率より小さくなる」という記載があり、「第1中間カーブが、・・・その2次近似曲線の曲率が前記第2中間カーブの2次近似曲線の曲率より大きくなる」ように、という記載がある。
上記の点に関して、請求人は、「ベースカーブ」の曲率は、当該ベースカーブを描く2次近似曲線の、第2中間カーブとの接続点における1次導関数の値として定義され、「第2中間カーブ」の曲率は、当該第2中間カーブを描く2次近似曲線の、第1中間カーブとの接続点における1次導関数の値として定義され、「第1中間カーブ」の曲率は、当該第1中間カーブを描く2次近似曲線の、周縁カーブとの接続点における1次導関数の値として定義される、と主張している。
しかし、一般に、関数f(x)を用いてy=f(x)で表される曲線の曲率は、f(x)の1次導関数f'(x)と2次導関数f''(x)を用いて、




と定義されるものであって、請求人が主張する曲率の定義は、通常の定義とは異なるものであり、曲率を曲線の1次導関数の値として定義することは、明細書及び図面には何ら記載されていない。また、請求項1には、曲率が、「ベースカーブ」と「第2中間カーブ」との「接続点」及び「第2中間カーブ」と「第1中間カーブ」との「接続点」における値であることについて何ら記載がなく、明細書及び図面にも何ら記載がない。なお、曲線の1次導関数の値として定義されるものは勾配であって曲率とは異なる。
したがって、請求項1の上記記載は、依然として、2次近似曲線のどの位置における曲率の大小関係を比較しているのか不明確である

よって、請求項1ないし3に係る発明は明確でない。

2.実施可能要件について
平成20年7月22日付けの手続補正により補正された明細書の発明の詳細な説明が、本願の特許請求の範囲の請求項に係る発明について、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものか否かについて検討する。

(1)「拒絶理由2(特許法第36条第4項)」(2)に対して

発明の詳細な説明には、

「【0019】
次に、レンズの直径方向断面を見たときのレンズ内面のカーブにおけるレンズ中心9を角膜表面カーブ10の角膜頂点11に一致させた状態で、ベースカーブ5が、レンズ中心9からレンズの半径方向に耳側および鼻側に所定の距離離れ、かつ角膜表面カーブ10からの距離が所定の最大距離となる第1の点12、12’と、角膜頂点11とを通る2次近似曲線から形成されるように設計がなされる。この場合、ベースカーブ5が、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側および鼻側に2.95?4.35mm離れかつ角膜表面カーブからの距離が0.01?0.5mmとなる第1の点12、12’と、角膜頂点11とを通る2次近似曲線からなるように設計がなされることが好ましい。
【0020】
そして、レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心9を角膜表面カーブ10の角膜頂点11に一致させた状態で、第2中間カーブ6が、第2中間領域2により被覆された角膜表面カーブ10の範囲内にあって、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れた第2の点13と、ベースカーブ5の両端12、12’との合計3点を通る2次近似曲線から形成され、かつその2次近似曲線の曲率がベースカーブ5の2次近似曲線の曲率より小さくなるように設計がなされる。この場合、第2中間カーブ6が、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に3.55?4.95mm離れた第2の点13と、ベースカーブの両端12、12’との合計3点を通る2次近似曲線からなるように設計がなされることが好ましい。
【0021】
また、レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心9を角膜表面カーブ10の角膜頂点11に一致させた状態で、第1中間カーブ7が、第1中間領域3内にあって、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れかつ角膜表面カーブ10からの距離が所定の最大距離となる第3の点15と、両側の第2中間カーブ6のそれぞれの外側端13、13’との合計3点を通る2次近似曲線から形成され、かつその2次近似曲線の曲率が第2中間カーブ6の2次近似曲線の曲率より大きくなるように設計がなされる。この場合、第1中間カーブ7が、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に4.15?5.15mm離れかつ角膜表面カーブからの距離が0.01?0.5mmとなる第3の点15と、両側の第2中間カーブのそれぞれの外側端13、13’との合計3点を通る2次近似曲線からなるように設計がなされることが好ましい。
【0022】
さらに、レンズ内面のカーブにおけるレンズ中心9を角膜表面カーブ10の角膜頂点11に一致させた状態で、周縁カーブ8が、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れかつ角膜表面カーブ10からの距離が所定の最大距離となる第4の点16と、両側の第1中間カーブ7のそれぞれの外側端17、17’との合計3点を通る2次近似曲線から形成されるように設計がなされる。この場合、周縁カーブ8が、レンズ中心9からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に4.25?5.25mm離れかつ角膜表面カーブからの距離が0.01?0.5mmとなる第4の点16と、両側の第1中間カーブのそれぞれの外側端17、17’との合計3点を通る2次近似曲線からなるように設計がなされることが好ましい。」

という記載がある。

上記の点に関し、請求人は、レンズ内面を構成する各カーブ(ベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブ)を、いずれも、3点を通る2次近似曲線から形成し、3点を通る複数種類の2次近似曲線の中から、角膜表面カーブに最も適合する1つの2次近似曲線を選択することによって、レンズ装用者毎に最適のレンズを設計し、製造するものである、と主張している。

上記【0019】段落ないし【0022】段落においては、レンズ内面を構成するベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブを、いずれも、3点を通る2次近似曲線から形成することが記載されている。しかし、3点を通る複数種類の2次近似曲線の中から、角膜表面カーブに最も適合する1つの2次近似曲線を選択することについては、複数種類の2次近似曲線の中から1つの2次近似曲線をどのように選択するのか明細書には具体的に記載されていない。

したがって、発明の詳細な説明及び図面の記載だけでは、複数種類の2次近似曲線の中から1つの2次近似曲線を選択する際に、過度の試行錯誤が必要となることから、当業者といえども、レンズ内面を構成するベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブを、いずれも、3点を通る2次近似曲線から形成し、3点を通る複数種類の2次近似曲線の中から、角膜表面カーブに最も適合する1つの2次近似曲線を選択することが容易に実施できるとはいえない。

(2)「拒絶理由2(特許法第36条第4項)」(3)に対して

発明の詳細な説明には、

「【0016】
本発明の方法によれば、まず、角膜の形状データに基づいて、レンズの直径方向を見たときに対応する角膜表面カーブ10が決定される。
【0017】
そして、レンズの複数の中間領域2、3が、周辺領域4に連続する第1中間領域3と、第1中間領域3およびレンズ中央領域1の間にのびる第2中間領域2とからなるように設計がなされるとともに、レンズの直径方向断面を見たときに、レンズの内面が、ベースカーブ5、ベースカーブ5の外側に連続する第2中間領域2の第2中間カーブ6、第2中間カーブ6の外側に連続する第1中間領域3の第1中間カーブ7、第1中間カーブ7の外側に連続する周縁カーブ8によって形成された輪郭を有するように設計がなされる。」

という記載がある。

上記の点に関し、請求人は、レンズにおける耳側および鼻側を通る1の直径方向を選択し、その上側及び下側に、それぞれ、該1の直径方向に平行なレンズ断面を考え、各レンズ断面について、レンズ内面を構成する各カーブ(ベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブ)を決定することによって、レンズ全体の設計を行う旨を主張している。

上記【0016】段落ないし【0017】段落においては、レンズの直径方向断面を見たときに、レンズの内面が、ベースカーブ、ベースカーブの外側に連続する第2中間領域の第2中間カーブ、第2中間カーブの外側に連続する第1中間領域の第1中間カーブ、第1中間カーブの外側に連続する周縁カーブによって形成された輪郭を有するように設計がなされることが記載され、上記【0019】段落ないし【0022】段落においては、レンズ中心からレンズの半径方向に沿って耳側または鼻側に所定の距離離れた点を通るように、レンズ内面を構成するベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブを設計する旨が記載されている。しかし、レンズにおける耳側および鼻側を通る1の直径の上側及び下側に、それぞれ、該1の直径に平行なレンズ断面を考え、各レンズ断面について、レンズ内面を構成するベースカーブ、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブを決定することについては、明細書には何ら記載されていない。

したがって、発明の詳細な説明及び図面の記載だけでは、耳側及び鼻側以外の方向の第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブの形状を決定する際に、過度の試行錯誤が必要となることから、当業者といえども、耳側及び鼻側以外の方向の第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブの形状を決定することが容易に実施できるとはいえない。

(3)「拒絶理由2(特許法第36条第4項)」(4)及び(5)に対して

上記「1.発明の明確性の要件について」において検討したように、請求人が主張する曲率の定義は、通常の定義とは異なるものであり、曲率を曲線の1次導関数の値として定義することは、明細書及び図面には何ら記載されていない。また、請求項1には、曲率が、「ベースカーブ」と「第2中間カーブ」との「接続点」及び「第2中間カーブ」と「第1中間カーブ」との「接続点」における値であることについて何ら記載がなく、明細書及び図面にも何ら記載がない。なお、曲線の1次導関数の値として定義されるものは勾配であって曲率とは異なる。

したがって、発明の詳細な説明及び図面の記載だけでは、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブの曲率の大小関係を決定する際に、過度の試行錯誤が必要となることから、当業者といえども、第2中間カーブ、第1中間カーブ及び周縁カーブの曲率の大小関係を決定することが容易に実施できるとはいえない。

よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本件出願は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-20 
結審通知日 2008-08-27 
審決日 2008-09-09 
出願番号 特願2001-271190(P2001-271190)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G02C)
P 1 8・ 537- WZ (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 英信  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 安田 明央
森林 克郎
発明の名称 ハードコンタクトレンズを製造する方法  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

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