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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J |
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管理番号 | 1186681 |
審判番号 | 不服2007-16086 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-06-08 |
確定日 | 2008-10-24 |
事件の表示 | 特願2000-113528「積層金属板の連結方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月26日出願公開、特開2001-295932〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年(2000年)4月14日の出願であって、平成19年5月7日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年6月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明1 本願の請求項1及び2に係る発明は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。 「軟質金属からなる第1金属板と硬質金属からなる第2金属板とを積層して、第1金属板に切断成形手段を押し当てて第2金属板側へ向けて押圧し、 該切断成形手段によって積層状態の両金属板を切断線ができるように切断するとともに、その切断線に隣接する被切断部分を第2金属板側へ膨出させてそこを膨出部として形成し、かつ、この膨出部の第1金属板における切断線側の縁部を厚さ方向と交差する方向に膨出させてそこを係止突部として、 この係止突部を上記切断線の隣接位置となる第2金属板の裏面に係止させて、上記両金属板を連結するように構成したことを特徴とする積層金属板の連結方法。」 3.刊行物及びその記載事項 本願の出願前に国内で頒布された以下の刊行物に記載された事項は次の通りである。 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された実用新案登録第3064186号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「金属積層板ガスケット」に関し図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【従来の技術】 自動車用のエンジン等に使用される金属積層板ガスケットには、図1に示すように、その用途に応じて、シリンダボア用穴Hc、水穴Hw、オイル穴Ho、ボルト穴Hp等が形成されており、それぞれのシール対象穴に対して様々なシール手段が設けられており、複数の構成板を積層しこれらを接合して金属積層板ガスケット10を形成している場合がある。 そして、金属積層板ガスケットの複数の構成板を接合する方法としては、鳩目やスポット溶接等もあるが、スポットクリンチを使用する方法がある。このスポットクリンチは、代表的なものは、図2に示すような金属積層板ガスケットの複数枚の構成板11_(A),11_(B)に、互いに独立した複数の切断線(切れ目)Cを形成し、図2に示すこの切断線Cと第1折曲部分Dとで囲まれた部分A1を、図3に示すようにプレス加工により押込んで塑性変形させて構成板11_(A),11_(B)の表裏方向に膨出させて、更に、図4に示すように、この膨出部A2を拡張して拡大膨出部A3とし、この拡大膨出部A3と構成板11_(B)の切断線Cの外側部分Fとをかしめて結合する。 このかしめにより、拡大膨張部A3が、切断線Cと折曲部分D,Eとで形成される穴から抜け出ることを防止し、接合を確実なものとする。」(4ページ7-25行;段落番号【0002】ないし【0004】参照) ロ.「〔全体構成〕 本考案に係る金属積層板ガスケットであるシリンダヘッドガスケット10は、図1に示すように、亜鉛メッキ鋼板、ステンレス鋼板等の金属板で形成される構成板11A,11Bを積層して構成され、シリンダボア用穴Hcと水穴Hw、オイル穴Ho、ボルト穴Hb、プッシュロッド穴Hp等の開口穴が形成されて構成される。 ・・・・・・ 更に、このガスケット10の構成板11_(A),11_(B)の外周縁部に舌状に突出形成した接合部(31,31),(32,32),(36,36)をそれぞれ設けて、この接合部(31,31),(32,32),(36,36)の部位にスポットクリンチ21?26を施工することにより、構成板11_(A),11_(B)を接合する。 〔スポットクリンチの施工〕 次に、このスポットクリンチ21?26の施工について説明する。 このスポットクリンチ21?26は、図2に示すように、複数枚の構成板11_(A),11_(B)に、互いに独立した複数の切断線Cを形成し、図3に示すように、この切断線Cと第1折曲部分Dと囲まれた部分A1を、プレス加工により、塑性変形させて構成板11A,11Bの表裏方向に膨出させて切断線Cと第2折曲部分Eで囲まれた膨出部A2を形成する。 更に、図4に示すように、この膨出部A2の幅Bを拡張して幅B1とし、膨出部A2を拡大膨出部A3とする。この時に切断線C,Cの外側部分Fも塑性変形して間隔Hが小さくなり間隔H1となる。この拡大膨出部A3と構成板11Bの切断線Cの外側部分Fとをかしめて結合する。 このかしめにより、拡大膨張部A3が、切断線Cと折曲部分D,Eとで形成される穴から抜け出ることを防止し、接合は確実なものとなる。」(8ページ16行-9ページ14行;段落番号【0023】ないし【0026】参照) してみると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「亜鉛メッキ鋼板、ステンレス鋼板等の金属板で形成される構成板11_(A),11_(B)を積層し、構成板11_(A),11_(B)に、互いに独立した複数の切断線Cを形成し、この切断線Cと第1折曲部分Dと囲まれた部分A1を、プレス加工により塑性変形させて構成板11_(A),11_(B)の表裏方向に膨出させて膨出部A2を形成し、この膨出部A2の幅Bを拡張して幅B1とし、膨出部A2を拡大膨出部A3とし、この拡大膨出部A3と構成板11_(B)の切断線Cの外側部分Fとをかしめて結合することにより、拡大膨張部A3が穴から抜け出ることを防止し、接合は確実なものとなるスポットクリンチを施工することにより、構成板11_(A),11_(B)を接合する金属積層板ガスケット。」 (2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-10448号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「金属ガスケツト」に関し図面とともに以下の事項が記載されている。 ハ.「本発明は金属ガスケットに関する。」(2ページ1欄9?10行;段落番号【0001】参照) ニ.「図1には図2のI-I線に沿ってみた第1の実施例の金属ガスケットの拡大断面図を示す。図1を参照すると、金属ガスケット1は上層である軟質金属板1aと、下層である硬質金属板1bとが重ね合わされて成る。硬質金属板1bは軟質金属板1aより硬度が高い。軟質金属板1aは例えば圧延率の低いSUS301であり、硬質金属板1bは例えば圧延率の高いSUS301である。 ・・・・・・ 図3を参照すると、第1の凸状ビード4は下方に凸状の軟質金属で形成され、第1の凸状ビード4の底部4a,4bは軟質金属板1a下面に溶接等で結合されている。」(2ページ2欄16-3ページ3欄2行;段落番号【0010】ないし段落番号【0014】参照) ホ.「なお以上の実施例では、軟質金属板1aを上側に、硬質金属板1bを下側に配置しているが、この配置を逆にして、軟質金属板1aを下側に、硬質金属板1bを上側に配置してもよい。」(3ページ3欄14-17行、段落番号【0016】参照) してみると、刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「軟質金属板1aと硬質金属板1bとが結合された金属ガスケット。」 4.対比 本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「亜鉛メッキ鋼板、ステンレス鋼板等の金属板で形成される構成板11_(A),11_(B)を積層し」と、本願発明1の「軟質金属からなる第1金属板と硬質金属からなる第2金属板とを積層して」とは、少なくとも「第1金属板と第2金属板とを積層して」である点では共通している。また、刊行物1記載の発明の「構成板11_(A),11_(B)に、互いに独立した複数の切断線Cを形成し、この切断線Cと第1折曲部分Dと囲まれた部分A1を、プレス加工により塑性変形させて構成板11_(A),11_(B)の表裏方向に膨出させて膨出部A2を形成し」は、本願発明1の「第1金属板に切断成形手段を押し当てて第2金属板側へ向けて押圧し、 該切断成形手段によって積層状態の両金属板を切断線ができるように切断するとともに、その切断線に隣接する被切断部分を第2金属板側へ膨出させてそこを膨出部として形成し」に相当し、そして、「膨出部A2の幅Bを拡張して幅B1とし、膨出部A2を拡大膨出部A3とし」は「切断線に隣接する被切断部分を第2金属板側へ膨出させてそこを膨出部として形成し」に相当し、それから「拡大膨出部A3と構成板11_(B)の切断線Cの外側部分Fとをかしめて結合することにより、拡大膨張部A3が穴から抜け出ることを防止し、接合は確実なものとなる」は「係止突部を上記切断線の隣接位置となる第2金属板の裏面に係止させて、上記両金属板を連結するように構成したこと」に相当する。さらにこのような、「スポットクリンチ」により接合される刊行物1記載の発明の「金属積層板ガスケット」は、本願発明1の「積層金属板の連結方法」に相当する構成を含むものである。 そうすると、本願発明1と刊行物1記載の発明とは、本願発明1の用語に倣えば、 「第1金属板と第2金属板とを積層して、第1金属板に切断成形手段を押し当てて第2金属板側へ向けて押圧し、 該切断成形手段によって積層状態の両金属板を切断線ができるように切断するとともに、その切断線に隣接する被切断部分を第2金属板側へ膨出させてそこを膨出部として形成し、かつ、この膨出部の第1金属板における切断線側の縁部を厚さ方向と交差する方向に膨出させてそこを係止突部として、 この係止突部を上記切断線の隣接位置となる第2金属板の裏面に係止させて、上記両金属板を連結するように構成したことを特徴とする積層金属板の連結方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 本願発明1は第1金属板が「軟質金属」からなり、第2金属板が「硬質金属」からなっているのに対し、刊行物1記載の発明の第1金属板、第2金属板は、このような特定がなされていない点。 5.判断 上記相違について検討するに、刊行物2記載の発明は、軟質金属板1aと硬質金属板1bとを接合した金属ガスケット、すなわち積層金属板に係る技術事項を含むものである。 そして、刊行物2記載の発明は、本願発明1及び刊行物1記載の発明と同様の技術分野に属するものであり、刊行物1記載の発明の第1金属板及び第2金属板に対し、刊行物2記載の発明の上記技術事項を適用することに、格別な技術上の困難性を見出すこともできない。 また、刊行物2の摘記事項ニ.及びホ.からみて、刊行物2記載の発明は、軟質金属板、硬質金属板は上側若しくは下側のいずれにも配置できるものであり、さらに、軟質金属は硬質金属と比べ膨出が容易であることを踏まえて膨出を要する部材に軟質金属を採用することは、当業者であれば容易に想起しうることに鑑みれば、「軟質金属からなる第1金属板」とし、「硬質金属からなる第2金属板」とする点は、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明の上記技術事項を適用するに際し、第1金属板の膨出の必要性、製造効率等を踏まえて、日常の設計活動の範囲内で適宜選択しうる事項であって、この点に格別な創作性を見出せないものである。 したがって、刊行物1記載の発明の第1金属板及び第2金属板に対し、軟質金属及び硬質金属の性質を考慮しつつ刊行物2記載の発明を適用し、上記相違に係る本願発明1の構成とすることは、当業者であれば容易に想到しうるものである。 そして、本願発明1が奏する作用効果も、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明から、当業者が予測できる範囲内のものである。 なお、請求人は、平成19年7月3日付けの手続補正(方式)により補正した審判請求書の【請求の理由】欄において、「引用文献1(実用新案登録第3064186号公報)の目的は、従来行っていた積層金属板の締結工程と品質表示用の加工工程とを1工程で処理することであり、スポットクリンチの形状や施工位置等を異ならせることで製品としての各ガスケットの板厚の違いを外観から容易に識別できるようにしたことが特徴である。 引用文献1においては、上下の構成板11A,11Bに切断線と膨出部A2を形成してからそれを拡張して拡大膨出部A3を形成することにより、該拡大膨出部A3を下方の構成板11Bにかしめて結合することが開示されている(段落0003および図4参照)。 しかしながら、この引用文献1においては、上下の構成板11A、11Bの硬さの違いについては何ら示唆されておらず、膨出部A2および拡大膨出部A3を形成する際の図示しない成形工具の押圧方向と構成板11A、11Bの硬さの違いとの関係に付いても何ら示唆されていない。 この引用文献1には、上記本願発明の動機となった問題点について何ら示唆されておらず、また上記本願発明の特徴A、B、Cについても何ら示唆されていない。 」と主張し、「一方、引用文献2(特開平5-10448号公報)の目的は、硬度の異なる上下の金属板におけるビード部4,5を同心円状に二重に配置することで、ガスケットのシール性を向上させるとともにビード部5の応力腐食割れを防止することである。 引用文献2の段落0014の最後に、『……第1の凸状ビード4の底部4a、4bは軟質金属板1a下面に溶接等で結合されている。』との記載がある。つまり、円形の縁部(境界部)となる各底部4a、4bを軟質金属板1aの下面に溶接等で結合することが開示されている。 このような記載はあるが、上下の金属板をスポットクリンチで結合することについては引用文献2には何ら示唆されておらず、また、スポットクリンチで上下の金属板を結合する際に上下何れの側から金属板に加工用工具を当てるのかについても引用文献2には一切示唆されていない。 さらに、引用文献2の凸状ビード4の底部4a、4bは燃焼室孔2を囲繞する円形の縁部となっているので、そのような円形の縁部である各底部4a、4bを軟質金属板1aの下面に結合するために、溶接の代わりにスポットクリンチを採用することは当業者であっても行わないと考えられる。 また、この引用文献2の段落(0016)の後半部分に、『……なお以上の実施例では、軟質金属板1aを上側に、硬質金属板1bを下側に配置しているが、この配置を逆にして、軟質金属板1aを下側に、硬質金属板1bを上側に配置してもよい。』との記載がある。つまり、この引用文献2においては、軟質金属板(あるいは硬質金属板)を上下どちらに配置しても良いという開示である。 この引用文献2においても、本願発明の前提となった上述した問題点については何ら示唆されておらず、また本願発明の特徴A?Cについても引用文献2には示唆されていない。」と主張し、さらに「上述したように、引用文献1は、製品としてのガスケットの厚さを外観上から容易に識別できるように、厚さの違いに応じて各ガスケットごとにスポットクリンチの形状や方向などを異ならせたものである。他方、引用文献2は、硬さの異なる2枚の金属板に、同心円上に二重のビード部を形成してシール性を向上させたものである。この引用文献2においては、ガスケットの厚さの違いを外観から識別できるようにすることは何ら問題にされていない。 そのため、例え当業者であろうとも、上記引用文献2において、硬さが異なる上下の金属板を連結するために引用文献1に開示されたスポットクリンチによる連結方法を採用するという動機は生じ得ないものである。 それでも、敢えて当業者が引用文献2における硬さが異なる上下の金属板を連結する為に、上記引用文献1のスポットクリンチを採用したとしても、そのような構成は本願発明の特徴A?Cを示唆するものではない。 なぜならば、前述したように、両引用文献ともに本願発明の前提となった問題点について示唆されていないので、両引用文献を敢えて寄せ集めた構成は、引用文献2の上下の金属板をスポットクリンチで連結するということを示唆するだけであって、前述した本願発明の特徴A?Cを示唆することにはならないからである。」と主張している。 しかしながら、刊行物1記載の発明は、刊行物1の摘記事項イ.からみて、鳩目、溶接等と同じく、金属積層板の複数の構成板を接合する方法に係る従来技術であって、必要に応じて適宜選択的に採用されている技術と理解できるものであり、そのような従来技術である刊行物1記載の発明の第1金属板、第2金属板に刊行物2記載の発明を採用することに格別な技術的困難性を見出すことはできないものである。また、刊行物2の摘記事項ニ.、ホ.の記載からみて、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用する際に、第1金属板として軟質金属板を採用できない格別な事情はなく、軟質金属板と硬質金属板の性質に鑑みれば、膨出を想定した第1金属板に対し、膨出がより容易である軟質金属板を採用することは、当業者であれば容易に想起しうるものであることは、上述の相違点の検討で述べたとおりであり、そうすることによって、本願発明1がそもそも想定している第1金属板と第2金属板の結合がより効果的に行いうることは、当業者であれば容易に理解しうるものである。 よって、請求人のこれらの主張は採用できない。 6.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論の通り審決する。 |
審理終結日 | 2008-08-22 |
結審通知日 | 2008-08-26 |
審決日 | 2008-09-08 |
出願番号 | 特願2000-113528(P2000-113528) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 島田 信一、柏原 郁昭 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
水野 治彦 川上 益喜 |
発明の名称 | 積層金属板の連結方法 |
代理人 | 神崎 真一郎 |