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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200515641 審決 特許
無効2007800236 審決 特許
不服200711731 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1186768
審判番号 不服2007-14083  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-16 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2002-240321「野生型p53遺伝子の欠失の検出」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月27日出願公開、特開2003-155255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成2年3月19日(パリ条約による優先権主張1989年3月29日,米国)に出願した特願平2-69526号の一部を平成14年8月21日に新たな特許出願としたものであって,平成19年2月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年5月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。そして,本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は,平成19年6月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであって,請求項1には,次のとおり記載されている。
「p53遺伝子内の変異により野生型p53遺伝子機能を失った細胞中に野生型p53遺伝子を導入して該遺伝子が細胞内で発現されるようにし,そして細胞に対して野生型p53遺伝子機能を供給することにより,p53遺伝子中の変異のために野生型p53機能を欠損した細胞を有する被験体における腫瘍を治療するための,野生型p53遺伝子をコードするDNAを含む医薬組成物。」

2.原査定の理由
一方,原査定の拒絶の理由の概要は,
「 1.この出願は,発明の詳細な説明の記載が,平成2年改正前特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。」
という理由を含み,以下の点を指摘している。

本願明細書に具体的に開示されているのは,患者から単離されたいくつかの腫瘍がそのp53遺伝子中に変異を含んでいることのみであるところ,本願出願日前の医薬品の分野においては,腫瘍が様々な因子の影響により発病することは当業者に周知の事項であったと認められ,かつ遺伝子の変異が病因となる疾患において,当該遺伝子の野生型を供給すれば必ずその疾患の治療として有用であることが当業者に明らかであったとは認められないので,単に腫瘍細胞においてp53遺伝子に変異が生じていることのみをもって,野生型p53遺伝子の導入がp53遺伝子機能を失った腫瘍の治療作用を有しているとは認められない。

3.当審の判断
特許法第36条第3項の規定によれば,明細書には,当業者が容易に発明の実施をすることができる程度にその発明の目的,構成とともに,その特有の効果を具体的に記載すべきところ,医薬についての用途発明においては,一般に,有効成分の物質名,化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり,明細書に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり,それがなされていない発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第3項に規定する要件を満たさないものであるといわなければならない。

これを本願明細書についてみると,本願の特許請求の範囲の請求項1(以下、「請求項1」という。)に係る発明は,「野生型p53遺伝子」を有効成分とし,「p53遺伝子中の変異のために野生型p53機能を欠損した細胞を有する被験体における腫瘍を治療する」ことを意図した医薬用途発明に関するものと認められる。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明に,請求項1に係る発明の医薬組成物が,被験体の腫瘍を治療しうることを裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をして上記用途の有用性を裏付ける必要がある。

そこで,本願明細書の記載をみるに,請求項1に係る発明の医薬組成物の薬理データといえるものは,本願明細書の発明の詳細な説明には何ら記載されていない。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に,請求項1に係る発明の医薬組成物の薬理データと同視すべき程度の記載がなされているか否か,が問題となる。
そもそも,請求項1に係る発明の医薬組成物の薬理データとは,請求項1に係る発明の医薬組成物を製造し,その薬理試験を行った試験結果であるから,薬理データと同視すべき程度の記載といえるためには,当該記載に基づいて,当業者が,請求項1に係る発明の医薬組成物を容易に製造でき,薬理試験の結果を容易に理解できるものであることが必要である。
そこで,本願明細書をみるに,p53遺伝子内の変異により野生型p53遺伝子機能を失った細胞及びその取得方法,細胞におけるp53遺伝子の変異を検知する方法については,本願明細書の段落番号【0031】?【0036】(実施例1),段落番号【0046】?【0054】(実施例4),段落番号【0055】?【0057】(実施例5)および段落番号【0058】?【0063】(実施例6)に具体的に記載されている。
しかしながら,請求項1に係る発明の医薬組成物に関しては,具体的な記載はなく,一般的な記載があるだけである。
まず,本願の請求項1に係る発明の医薬組成物の製造方法に関しては,変異型p53対立遺伝子を有する細胞に,野生型p53遺伝子を導入し,発現する方法として,段落番号【0027】に,以下のとおり記載されている。
「・・・。野生型p53遺伝子またはその一部を,遺伝子が染色体外で維持されるようなベクターにつなぎ,細胞に導入することができる。このような状況で,染色体外で,その細胞が野生型p53遺伝子を発現するようになる。細胞内に存在する変異型p53遺伝子が発現されている場合には,野生型p53遺伝子または該遺伝子の一部は変異型一部よりも高レベルで発現されなければならない。・・・。変異型p53対立遺伝子を有する細胞に遺伝子の一部が導入され,発現される場合には,遺伝子部分は細胞の非腫瘍性増殖に必要なp53タンパク質部分をコードしていなければならない。より望ましい状況は,野生型p53遺伝子またはその一部が,細胞内に存在する内在性変異型p53遺伝子と組み換えを起こすように変異型細胞に導入されることである。p53遺伝子変異を訂正することになる,このような組み換えは二重の組み換え現象が必要である。組み換え,および,染色体外維持の双方を目的とする,遺伝子導入用ベクターは本分野では既知であり,適当なベクターは全て使用可能である。」

次に,請求項1に係る発明の医薬組成物の作用・効果については,実験例はもとより一般的な記載もなく,関連する記載としては,p53活性を有するポリペプチドについて,段落番号【0028】に以下の記載があるにすぎない。
「p53活性を有するポリペプチドまたはその他の分子は,変異型p53対立遺伝子を有する細胞に供給することができる。活性分子は例えば,マイクロインジェクション,またはリポソームによって細胞に導入可能である。このような活性分子のあるものは細胞によって活発に,または拡散によって取り込まれる。このような活性分子の供給は,初期腫瘍過程に効果があるであろう。」

そこで,まず,上記段落番号【0027】の記載に基づいて,当業者が,請求項1に係る発明の医薬組成物を容易に製造できるかどうかを検討する。
請求項1に係る発明は,「p53遺伝子内の変異により野生型p53遺伝子機能を失った細胞中に野生型p53遺伝子を導入して該遺伝子が細胞内で発現されるようにし,そして細胞に対して野生型p53遺伝子機能を供給する」ことを発明の構成に欠くことのできない事項とするものである。そこで,本願明細書の上記段落【0027】の記載に基づいて,当業者が,「p53遺伝子内の変異により野生型p53遺伝子機能を失った細胞中」に野生型p53遺伝子を導入し,該遺伝子が細胞内で発現されるように容易にできるかどうかを検討する。
上記段落【0027】には,遺伝子の導入・発現に関しては,「組み換え,および,染色体外維持の双方を目的とする,遺伝子導入用ベクターは本分野では既知であり,適当なベクターは全て使用可能である。」と記載されているのみであり,「適当なベクター」としてどのようなベクターをどのような操作条件で使用すればよいかは一切説明が記載されていない。
そうすると,本願明細書の上記段落【0027】の記載に基づいて,「p53遺伝子内の変異により野生型p53遺伝子機能を失った細胞中」に野生型p53遺伝子を導入して該遺伝子が細胞内で発現されるようにするためには,当業者は,種々のベクターについて,種々の条件で遺伝子の導入を試み,「p53遺伝子内の変異により野生型p53遺伝子機能を失った細胞中」に野生型p53遺伝子を導入し,該遺伝子が細胞内で発現されるようにできるベクターとその操作条件を,発明の詳細な説明の記載になんら教示もない中で,試行錯誤を繰り返し,実験的に選択しなければならなく,当業者にとって過度の負担を要するものである。
したがって,当業者は,本願明細書の上記段落【0027】の記載に基づいて,請求項1に係る発明の医薬組成物を容易に製造することができない。
なお,本願出願時に,上記「適当なベクター」とその操作条件が当業者にとって技術常識であったと認めるに足る資料も提出されていない。
この点に関して,請求人が平成18年8月15日に提出した手続補正書で提出した参考資料1?6は,その刊行日が,2004年2月(参考資料1),2006年1月(参考資料2),1996年9月(参考資料3),2003年12月(参考資料4),2003年(参考資料5),及び2006年6月(参考資料6)といずれも本願出願日から6年?16年後に刊行されたものであり,いずれも,本願出願時の技術常識を示すものではない。

次に,本願明細書の段落【0028】には,野生型p53遺伝子を発現することにより生産されるp53活性を有するポリペプチドについて,「このような活性分子の供給は,初期腫瘍過程に効果があるであろう。」との推測が記載されているだけであり,推測の根拠は何も示されていない。
この点に関して,請求人は,平成18年8月14日付けの意見書中で,本願明細書において,野生型p53が腫瘍抑制因子であることが開示されており,p53は腫瘍抑制因子であるのであるから,オンコジーンの場合とは異なり,野生型p53を供給すれば「p53遺伝子中の変異のために野生型p53機能を欠損した細胞を有する被験体における腫瘍」を治療することができることは,当業者が容易に認識することができると主張している。
しかしながら,平成19年2月9日付けの拒絶査定にも記載されているとおり,本願明細書には,p53遺伝子の欠失現象が腺腫から癌腫状態への転換と「関連」していることについて記載されているにとどまり(段落番号【0011】),当該p53遺伝子が腫瘍増殖因子であることは記載されておらず,この主張はそもそも前提において誤りがある。
さらに,請求人は,平成19年7月23日付審判請求理由補充書において,本願出願時の技術水準を正確に認識すべきだとして,参考資料7?15を提出しているので,以下に検討する。
上記参考資料7,8は「生化学辞典」であり,編集時の技術水準を総括的にまとめた辞典であるが,本願出願年の1990年に刊行された参考資料7(生化学辞典,第2版,第1033頁,1990年11月22日発行)によれば,p53遺伝子は細胞性の核局在がん原遺伝子の一つとされていたが,その後,1998年に刊行された参考資料8(生化学辞典,第3版,第1091頁,1998年10月8日発行)においては,「正常細胞からクローニングされたcDNAが,このような活性を持たず,むしろトランスフォーメーション抑制活性をもつこと,また,いくつかの腫瘍細胞において,p53遺伝子の欠損や変異が起こっていることが明らかにされるに至り,p53はがん抑制遺伝子産物であるという概念が確立した」と記載されていることに照らせば,本願出願時の技術水準として,p53遺伝子が癌抑制遺伝子であることが確立していたとは認められず,むしろオンコジーンとして受け止められていたものと認められる。
参考資料9の「p53研究発展史」との標題の記事の中に,「(p53遺伝子が)癌抑制遺伝子であると認識されるようになったのは’88年から’89年にかけての頃である。」(2201頁右欄5?7行)との記載はあるものの,2202頁の「表 p53に関する主要な発見の年表」では,対応する発見は記載されておらず,両記載は整合せず,この記載だけをもって,p53遺伝子がガン抑制遺伝子であることが本願出願時の技術水準であると認めることはできない。
参考資料10?14は,各種腫瘍患者から採取した細胞のうち,正常細胞では野生型p53遺伝子のみが確認され,腫瘍細胞ではp53遺伝子に変異が起きていたことを示すにとどまるものであり,しかも,何れも本願出願日以降に刊行されたものであるから,p53遺伝子がガン抑制遺伝子であることが本願出願時の技術水準であることを示すものではない。
参考資料15は,本願出願日の6年後の1996年に刊行されたものであるから,p53遺伝子がガン抑制遺伝子であることが本願出願時の技術水準であることを示すものではない。
このように,参考資料7?15は,いずれも,p53遺伝子がガン抑制遺伝子であることが本願出願時の技術水準であることを示すものではない。
なお,p53遺伝子が腫瘍抑制遺伝子であることは,それだけでは,請求項1に係る発明の医薬組成物の薬理データと同視すべき程度の記載にあたるものではない。

以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明に,請求項1に係る発明の医薬組成物が,p53遺伝子中の変異のために野生型p53機能を欠損した細胞を有する被験体における腫瘍を治療しうることを薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をして裏付けておらず,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,請求項1に係る発明を当業者が容易に実施することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載したものではない。

4.むすび
したがって,本願は,平成2年改正前特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-09 
結審通知日 2008-06-10 
審決日 2008-06-23 
出願番号 特願2002-240321(P2002-240321)
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A61K)
P 1 8・ 534- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 穴吹 智子
弘實 謙二
発明の名称 野生型p53遺伝子の欠失の検出  
代理人 社本 一夫  
代理人 江尻 ひろ子  
代理人 富田 博行  
代理人 増井 忠弐  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  

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