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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1186800
審判番号 不服2007-11842  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-25 
確定日 2008-10-31 
事件の表示 特願2001-308432「小型モータ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月18日出願公開、特開2003-116247〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年10月4日の出願であって、平成19年3月20日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月25日に拒絶査定不服審判請求がされたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年8月8日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「マグネットを内周面に取り付けた有底中空筒状の金属製のケースと、該ケースの開口部を閉じるように嵌着された合成樹脂製のケース蓋と、シャフト上に積層コア、該積層コアに巻いた巻線、及び整流子を取り付けた回転子とから成る小型モータにおいて、
電気素子を含む電気回路を取り付けたプリント基板は、外部から供給される電源に接続するためケース蓋内部に取り付けられている部材に接合される第1の半田付け部と、前記金属製のケースの開口部側に設けられた切欠内の突起に接合して前記電気回路のアースをボディアースするための第2の半田付け部とを有し、
前記ケース蓋に前記プリント基板を装着して、前記第1の半田付け部を半田付けすることによりケース蓋組立て体を構成し、
前記ボディアースするための前記第2の半田付け部は、モータ組み立て時に前記金属製のケース開口部に前記ケース蓋組立て体を嵌合させた後に、該第2の半田付け部近辺において金属製ケースの外側から一対の電極を当接させて電気抵抗溶接の原理で該第2の半田付け部を溶着させた、
ことから成る小型モータ。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭62-17490号(実開昭63-127254号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「〔従来の技術〕
従来,金属ケース内に小型モータを制御する(例えば回転速度の制御)のための電子回路が搭載されたプリント基板が装着されてなる小型モータが知られている。」(明細書2頁14?18行目)

・「〔考案が解決しようとする問題点〕
前述したように,従来の上記小型モータにおいては,電子回路のアースをとるための専用のアース用導線が必要であるばかりでなく,アース施工工程においても,予め上記アース用導線をプリント基板に接続する作業と,プリント基板を金属ケースに装着したのち当該金属ケースに上記アース用導線を例えば半田付けによって接続する作業との2工程を要するため,作業工数が多くかかると言う非所望な問題があった。」(明細書3頁6?15行目)

・「〔実施例〕
第1図は本考案の一実施例における要部の斜視図,第2図は第1図図示実施例の分解斜視図,第3図は本考案の他の一実施例の一部断面説明図を示す。図中の符合1は金属ケース,2はプリント基板,3は突針部,4および5はプリント基板2の端子(端子4はアース端子であり,以下アース電極部と呼ぶ),6は係合部,7は半田,8はモータ・ケース,9は電子回路カバー,10はエンドベルキャップ,11は端子,12はブラッシ,13は整流子,14は軸受,15はモータ軸, 16はマグネット,17は回転子を表している。」(明細書4頁12行?5頁4行目)

・「第2図に図示されている如く,上記金属ケース1は,開口端縁から突起させた突針部3をそなえると共に,上記プリント基板2は,アース電極部4の上記突針部3に対応する位置に当該突針部3を貫通せしめる係合部6をそなえている。なお,上記突針部3の突起長さを上記プリント基板2の厚さよりも少なくとも大にすることが望ましい。
第1図図示実施例は,第2図の1点鎖線および矢印によって図示されている如く,上記係合部6に上記突針部3を挿入させた状態となるように,上記プリント基板2を上記金属ケース1に装着した上で,上記突針部3とアース電極部4との半田付けを行うことによって,プリント基板2のアース電極部4と金属ケース1とは,半田7を介して電気的に接合されることになる。即ち,第1図図示実施例における金属ケース1とプリント基板2とのアース施工工程は,モータ組み立て工程の途中に上記半田付けを行うだけで事足りることになる。従って,当該アース施工工程の作業工数は,大幅に低減される。」(明細書5頁14行?6頁13行目)

・「第3図図示実施例は,基本的に前述した第1図図示実施例と同様な構成を有するものであり,第1図図示実施例における金属ケース1のシールド機能を上記モータ・ケース8が有しているものである。
第3図図示実施例においては,上記モータ・ケース8の開口端縁から突起させて,第1図図示実施例と同様に突針部3をそなえている。また,プリント基板2のアース電極部(図示省略)の上記突針部3に対応する位置に,当該突針部3を貫通せしめる係合部6をそなえていることも,前述した第1図図示実施例と同様である。そして,上記係合部6に上記突針部3を挿入させた状態となるように,上記プリント基板2を装着した上で,当該プリント基板2のアース電極部(図示省略)と上記突針部3との半田付けを行うことによって,プリント基板2の上記アース電極部とモータ・ケース8とは,半田7を介して電気的に接合されることも,前述した第1図図示実施例と同様である。」(明細書7頁1行?19行目)

・また、第2図には、プリント基板2は、金属ケース1の開口部側に設けられた矩形状凹部に突起させた突針部3に接合するアース電極部4を有する小型モータの分解斜視図が、
第3図には、マグネット16を内周面に取り付けた有底中空筒状のモータ・ケース8と、前記モータ・ケース8の開口部を閉じるように装着されたエンドベルキャップ10と、モータ軸15上にコア、巻線及び整流子13を取り付けた回転子17とからなる小型モータにおいて、プリント基板2は、前記エンドベルキャップ内部に設けられているブラッシ12の端子11に接合される部分を有し、前記ブラッシ12の端子11を介して前記エンドベルキャップ10に前記プリント基板2を接合したことから成る小型モータの一部断面説明図が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「マグネットを内周面に取り付けた有底中空筒状の金属製のモータ・ケースと、該モータ・ケースの開口部を閉じるように装着されたエンドベルキャップと、モータ軸上にコア、巻線、及び整流子を取り付けた回転子とから成る小型モータにおいて、
電子回路が搭載されたプリント基板は、エンドベルキャップ内部に設けられているブラッシの端子に接合される部分と、前記金属製のモータ・ケースの開口部側に設けられた矩形状凹部内の突針部に接合するアース電極部とを有し、
前記ブラッシの端子を介して前記エンドベルキャップに前記プリント基板を接合し、
前記アース電極部は、係合部に前記突針部を挿入させた状態となるように前記プリント基板を前記モータ・ケースに装着した後に、前記突針部と前記アース電極部を半田付けした、
ことから成る小型モータ。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
後者における「モータ・ケース」が前者における「ケース」に相当し、以下同様に、
「装着された」態様が「嵌着された」態様に、
「エンドベルキャップ」が「ケース蓋」に、
「モータ軸」が「シャフト」に、
「コア」が「積層コア」に、
「巻線」が「積層コアに巻いた巻線」に、
「電子回路が搭載されたプリント基板」が「電気素子を含む電気回路を取り付けたプリント基板」に、それぞれ相当している。
また、後者における「ブラッシ」が前者における「外部から供給される電源に接続するため」の「部材」に相当しているから、後者における「エンドベルキャップ内部に設けられているブラッシの端子に接合される部分」と前者における「外部から供給される電源に接続するためケース蓋内部に取り付けられている部材に接合される第1の半田付け部」とは、「外部から供給される電源に接続するためケース蓋内部に取り付けられている部材に接合される部分」との概念で共通する。
更に、後者における「矩形状凹部内の突針部に接合するアース電極部」は前者における「切欠内の突起に接合して電気回路のアースをボディアースするための第2の半田付け部」に相当している。
加えて、後者における「ブラッシの端子を介してエンドベルキャップにプリント基板を接合し」との態様と、前者における「ケース蓋にプリント基板を装着して、第1の半田付け部を半田付けすることによりケース蓋組立て体を構成し」との態様は、「ケース蓋にプリント基板を装着し」との概念で共通する。
そして、後者における「係合部に突針部を挿入させた状態となるようにプリント基板をモータ・ケースに装着した後に、前記突針部とアース電極部の半田付けした」態様と前者における「モータ組み立て時に金属製のケース開口部にケース蓋組立て体を嵌合させた後に、該第2の半田付け部近辺において金属製ケースの外側から一対の電極を当接させて電気抵抗溶接の原理で該第2の半田付け部を溶着させた」態様とは、「モータ組み立て時に金属製のケース開口部側に第2の半田付け部を備えた部材を装着した後に、該第2の半田付け部を半田付けした」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「マグネットを内周面に取り付けた有底中空筒状の金属製のケースと、該ケースの開口部を閉じるように嵌着されたケース蓋と、シャフト上に積層コア、該積層コアに巻いた巻線、及び整流子を取り付けた回転子とから成る小型モータにおいて、
電気素子を含む電気回路を取り付けたプリント基板は、外部から供給される電源に接続するためケース蓋内部に取り付けられている部材に接合される部分と、前記金属製のケースの開口部側に設けられた切欠内の突起に接合して前記電気回路のアースをボディアースするための第2の半田付け部とを有し、
前記ケース蓋に前記プリント基板を装着し、
前記ボディアースするための前記第2の半田付け部は、モータ組み立て時に金属製のケース開口部側に第2の半田付け部を備えた部材を装着した後に、該第2の半田付け部を半田付けした、
ことから成る小型モータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
ケース蓋が、本願発明は「合成樹脂製の」ものであるのに対し、引用発明では、エンドベルキャップの材質が明確にされていない点。
[相違点2]
プリント基板が有する、外部から供給される電源に接続するためケース蓋内部に取り付けられている部材に接合される「部分」が、本願発明では「第1の半田付け部」であるのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点。
[相違点3]
ケース蓋にプリント基板を装着する態様として、本願発明では「第1の半田付け部を半田付けすることによりケース蓋組立て体を構成し」ているのに対し、引用発明ではプリント基板を装着する際の具体的手段について特定していない点。
[相違点4]
金属製のケース開口部側に第2の半田付け部を備えた部材を装着する態様として、本願発明では「ケース蓋組立て体を嵌合させ」ている、即ち、ケースとプリント基板とを組み立ててからケースに嵌合させているのに対し、引用発明では、装着方法を特定していない点。
[相違点5]
第2の半田付け部を半田付けする方法が、本願発明では「第2の半田付け部近辺において金属製ケースの外側から一対の電極を当接させて電気抵抗溶接の原理で該第2の半田付け部を溶着させた」方法であるのに対し、引用発明では、半田付けの方法について特定していない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
本願の明細書には合成樹脂製のケース蓋としたことによる特段の効果の記載はない。また、必要に応じて公知材料の中から最適材料を選択することは当業者の通常の創作能力の発揮と認められるから、引用発明におけるエンドベルキャップの材質を合成樹脂製として、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点2、3について
引用発明において、エンドベルキャップ内部に設けられているブラッシをプリント基板まで延在させて端子を設けているのは、ブラッシとプリント基板とを電気的に接合させるためと解される。そして、半田付けにより端子とプリント基板とを電気的及び機械的に接合することは技術的常套手段といえる。
したがって、引用発明において、プリント基板が有する、ケース蓋内部に取り付けられている部材(ブラッシ)に接合される「部分」を、「第1半田付け部」とすることは当業者が容易に想到し得たことというべきである。
その結果、引用発明におけるエンドベルキャップとプリント基板が半田付けにより一体化されて「ケース蓋組立て体」を構成することは明らかといえる。

・相違点4について
部材を組み立てる順番、即ち、エンドベルキャップとプリント基板とを組み立ててからモータ・ケース開口部に嵌合させるか、モータ・ケース開口部にエンドベルキャップを嵌合させた後にプリント基板を装着させるかといった順番の特定は、製造方法上の特定事項であるから、完成品が同等の構成を有している限り、物の発明において前記特定事項は単なる設計的事項といわざるを得ない。したがって、引用発明において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点5について
本願発明と引用発明とは、第2の半田付け部を半田付けしている点においては差異がなく、物の発明において、当該半田付けの「方法」のみが相違する場合、当該相違点は単なる設計事項といわざるを得ない。したがって、引用発明において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。

5.むすび
したがって,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-14 
結審通知日 2008-08-19 
審決日 2008-09-01 
出願番号 特願2001-308432(P2001-308432)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾家 英樹  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 田良島 潔
小川 恭司
発明の名称 小型モータ及びその製造方法  
代理人 森田 寛  
代理人 大川 譲  

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