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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1186801
審判番号 不服2007-11843  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-25 
確定日 2008-10-31 
事件の表示 特願2002- 41336「小型モータ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月29日出願公開、特開2003-244887〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年2月19日の出願であって、平成19年3月27日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月25日に拒絶査定不服審判請求がされたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年8月21日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「有底中空円筒状のモータケースの底部中央に一体に設けた円筒状に突出した軸受支持部に収容されたモータケース側軸受と、該モータケースの開口部に嵌合するケース蓋の中央部に収容されたケース蓋側軸受とによって、ロータを回転可能に支持した小型モータにおいて、
焼結合金製の前記モータケース側軸受は、ロータがモータケース側へ引き出された際に、ロータのシャフト上に備えられたワッシャが少なくとも当接する表面部分を、同心円状に円周方向に研磨して構成した、
ことから成る小型モータ。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-243602号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】小型モータは、前記機器のほかあらゆる分野で従来から広く使用されており、モータ騒音の防止又は低減,及び製造工程における組立作業性の改善などが求められている。
【0003】図5は従来の小型モータの一部を示す断面図である。図示するように、小型モータ1においては、ケーシング2の内周面に固定子3を取付け、ケーシング2の内部に回転子4を配設し、ケーシング2に取付けられた一方のすべり軸受5と他方のすべり軸受により、回転子4の回転軸7を回転自在に軸支している。
【0004】すべり軸受5を使用するモータ1は、その性質上、すべり軸受5と回転子4との間に隙間が必要であり、回転子4に装着されている支持部材8がすべり軸受5に直接接触しないように、平板円環状のワッシャ9が回転軸7に取付けられている。ワッシャ9は支持部材8とすべり軸受5との間に介在しており、回転子4にスラスト方向の荷重が加わった時の、すべり軸受5と支持部材8との摺動抵抗を緩和している。
【0005】また、ワッシャ9とすべり軸受5との間に僅かな間隙部11を設けて、回転子4にスラスト方向の遊びを持たせている。即ち、モータ1の回転に伴う温度上昇により回転子4の全体が熱膨張を起こした場合に、回転子4に遊びがないとワッシャ9がすべり軸受5と支持部材8とに強く圧接した状態で挟まれるので、摩擦抵抗により軸受損失が大きくなって電流値が上がり、場合によっては、回転子4が止まってモータを損傷する可能性がある。これを防止するために、回転子4にはスラスト方向の遊びがある。この回転子4の遊び量は、モータの機能上重要な寸法なので、モータの組立の際には、ワッシャ9の使用枚数又は厚み等を加減して、所定の許容寸法になるように微調整している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】減速機構を構成するウォーム10を回転軸7の出力側に取付けているモータの場合には、回転子4にスラスト方向の荷重が加わる。例えば、回転開始時や負荷変動時に、回転子4がスラスト方向に急激に移動して出力側のすべり軸受5に衝突すると、衝突音(いわゆる、コツ音)が生じる場合がある。また、何らかの原因で回転子4がスラスト方向に振動する時も、回転子4がすべり軸受5に反復接触して騒音を発生する場合がある。」

・「【0017】以下、本発明における実施の形態の一例を図1乃至図4を参照して説明する。図1は本発明に係る小型モータの正面断面図である。図示するように、小型モータとしての小型直流モータ20は、内周面21に固定子22が取付けられたケーシング23と、固定子22に対向してケーシング23の内部に設けられた回転子24とを備えている。
【0018】回転子24は、回転中心となる中心軸線の方向に延びる回転軸25を有しており、回転軸25は、ケーシング23に設けられた二つのすべり軸受部26,27により回転自在に支持されている。ケーシング23は、ハウジング28と、ハウジング28に取付けられた蓋部材30とを備えている。すべり軸受部26,27は、ケーシング23の両端部にそれぞれ設けられている。出力側のすべり軸受部26はハウジング28に、反出力側のすべり軸受部27は蓋部材30にそれぞれ取付けられている。
【0019】固定子としての一対の永久磁石22は、ハウジング28の内周面21に固着されている。ハウジング28の出力側の面37の中央部には、円筒状の突出部38が一体的に形成されており、突出部38の内周面にすべり軸受部26が圧入固定されている。一方のすべり軸受部26は、出力部39側の回転軸25を回転自在に軸支しており、回転軸25の出力部39には、減速機構を構成するウォーム44が取付けられている。他方のすべり軸受部27は、回転軸25の反出力部側を回転自在に軸支している。」

・また、図1には、有底中空円筒状のハウジング28の開口部に蓋部材30が取り付けられ、前記蓋部材30の中央部に反出力側のすべり軸受部27が取り付けられている小型モータの実施例が、
図5には、すべり軸受5と支持部材8との間にワッシャ9が介在すると共に、これらは回転軸7を共通の中心軸として配置されており、回転子にスラスト方向の荷重が加わった時に、すべり軸受5はワッシャ9と当接する構造となっている従来の小型モータの一部を示す断面図が、それぞれ示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、従来の技術として次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「有底中空円筒状のハウジングの出力側の面の中央に一体的に形成された円筒状の突出部に取り付けられた出力側のすべり軸受と、該ハウジングの開口部に取り付けられた蓋部材の中央部に取り付けられた反出力側のすべり軸受部とによって、回転子を回転自在に支持した小型モータにおいて、
前記出力側のすべり軸受は、回転子にスラスト方向の荷重が加わった時に、回転子の回転軸上に取り付けられているワッシャと当接することで、出力側のすべり軸受の摺動抵抗を緩和するよう構成した、
ことから成る小型モータ。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
後者における「ハウジング」が前者における「モータケース」に相当し、以下同様に、
「出力側の面の中央」が「底部中央」に、
「一体的に形成された円筒状の突出部」が「一体的に設けた円筒状に突出した軸受支持部」に、
「取り付けられた」態様が「収容された」態様に、
「出力側のすべり軸受」が「モータケース側軸受」に、
「開口部に取り付けられた蓋部材」が「開口部に嵌合するケース蓋」に、
「反出力側のすべり軸受部」が「ケース蓋側軸受」に、
「回転子」が「ロータ」に、
「回転自在に」支持した態様が「回転可能に」支持した態様に、それぞれ相当している。
また、後者の「出力側のすべり軸受は、回転子にスラスト方向の荷重が加わった時に、回転子の回転軸上に取り付けられているワッシャと当接することで、すべり軸受の摺動抵抗を緩和するよう構成した」態様と前者の「モータケース側軸受は、ロータがモータケース側へ引き出された際に、ロータのシャフト上に備えられたワッシャが少なくとも当接する表面部分を、同心円状に円周方向に研磨して構成した」態様とは、「モータケース側軸受は、ロータがモータケース側へ引き出された際に、ロータのシャフト上に備えられたワッシャと当接し、軸受部による摺動抵抗を緩和するような構成とした」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「有底中空円筒状のモータケースの底部中央に一体に設けた円筒状に突出した軸受支持部に収容されたモータケース側軸受と、該モータケースの開口部に嵌合するケース蓋の中央部に収容されたケース蓋側軸受とによって、ロータを回転可能に支持した小型モータにおいて、
前記モータケース側軸受は、ロータがモータケース側へ引き出された際に、ロータのシャフト上に備えられたワッシャと当接し、軸受部による摺動抵抗を緩和するような構成とした、
ことから成る小型モータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
モータケース側軸受が、本願発明は「焼結合金製の」ものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がされていない点。
[相違点2]
ロータがモータケース側へ引き出された際に、軸受部による摺動抵抗を緩和するような構成として、本願発明は、モータケース側軸受は、ワッシャが「少なくとも当接する表面部分を、同心円状に円周方向に研磨して構成し」ているのに対し、引用発明では、出力側のすべり軸受の研磨に関して特定されていない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
モータに用いるすべり軸受として、焼結合金製のすべり軸受を用いることは、例えば特開平7-15907号公報(【0002】【従来の技術】参照)、特開平11-37157号公報(【0002】【従来の技術】参照)等にも開示されているように、モータの技術分野で広く一般的に行われている慣用技術といえるから、引用発明における出力側のすべり軸受として上記慣用技術である焼結合金製のすべり軸受を選択することは、当業者が適宜なし得た設計的事項といえる。

・相違点2について
摺動部材において摺動抵抗を緩和させるために、摺動部材の表面部分を、摺動方向に研磨することは、例えば特開平2-10577号公報(公報2頁の「摺動軸1の研磨痕1aの方向をキャリッジ2の移動方向と一致させることにより、キャリッジ2が摺動軸1上を摺動する際に、キャリッジ2の軸受部と摺動軸1の摩擦抵抗が小さくなる。」なる記載参照)、特開平9-177669号公報(【0012】の「砥石軸をシリンダボア内で軸線方向に移動させて研磨を行うことにより、シリンダボアの軸線にほぼ沿う方向に加工目が生じる。このため、シリンダボアの加工目の方向と、ピストンの往復運動の方向とがほぼ一致したものとなって、ピストンの摺動抵抗が軽減される。」なる記載参照)、特開平9-251117号公報(【0023】の「また、前述のようなプレスを行う代わりに、摺動面45を研磨するようにしても良い。この場合、研磨方向は可動光ファイバー3の摺動方向O,Rと一致させることにより、摺動抵抗を減少させるのが好ましい。」なる記載参照)等に開示されているように、各種分野で実施されている技術的常套手段といえる。
そして、引用発明は、出力側のすべり軸受における摺動抵抗を緩和しているもの(特に引用例の【0004】参照)であるから、当該すべり軸受における摺動抵抗を更に緩和させるために、引用発明の出力側のすべり軸受に、上記技術的常套手段を適用することは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。
なお、引用発明における出力側のすべり軸受とワッシャとは、回転軸を共通の中心軸として配置されているから、当該軸受はワッシャとの当接時に回転軸を中心とする円周方向の摺動抵抗を受けると解される。したがって、引用発明に上記技術的常套手段を適用すれば円周方向に研磨することとなり、その結果、同心円状に研磨痕が構成されることは明らかといえる。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明、慣用技術及び技術的常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明、慣用技術及び技術的常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-20 
結審通知日 2008-08-26 
審決日 2008-09-08 
出願番号 特願2002-41336(P2002-41336)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾家 英樹  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 小川 恭司
仁木 浩
発明の名称 小型モータ及びその製造方法  
代理人 森田 寛  
代理人 大川 譲  

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