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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1186804
審判番号 不服2007-17823  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-27 
確定日 2008-10-31 
事件の表示 平成10年特許願第251804号「電界発光素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 3日出願公開、特開2000- 68049〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成10年8月24日の出願であって、平成18年7月11日付けで拒絶の理由が通知され、平成18年10月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成19年1月26日付けで拒絶の理由が通知され、平成19年4月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年5月21日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成19年6月27日付けで本件審判請求がされたものである。
そして、当審においてこれを審理した結果、平成20年6月6日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成20年8月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年8月5日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「前面基板上に、順次、前面電極、正孔輸送層及び電子輸送層を有する有機層である電界発光層、背面電極を積層する工程と、前記前面基板上の少なくとも電界発光層及び背面電極を覆う保護膜を形成する工程と、光硬化性樹脂を介して前記前面基板と背面基板とを100Torr以下の雰囲気下で貼り合わせて、前記前面電極、電界発光層、背面電極、及び保護膜を前記光硬化性樹脂内に封止する工程と、前記光硬化性樹脂を窒素ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で光照射を行って硬化させる工程と、を備えることを特徴とする電界発光素子の製造方法。」


第2 当審の判断
1 引用刊行物の記載事項
平成20年6月6日付けの拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-71771号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)ないし(ク)の記載が図示とともにある。

(ア)「【請求項1】一対の電極層間に正孔注入層と発光層と電子注入層のうちの少なくとも発光層を設け、これらを基板に積層し且つ保護層,次いで封止層で被覆してなる有機薄膜発光素子において、保護層は下記の化学式で示されるペリレン系化合物を主成分とするものであることを特徴とする有機薄膜発光素子。
【化1】

【請求項2】請求項1に記載の有機薄膜発光素子において、保護層は真空蒸着法で成膜されることを特徴とする有機薄膜発光素子。
【請求項3】請求項1に記載の有機薄膜発光素子において、封止層は紫外線硬化樹脂であることを特徴とする有機薄膜発光素子。」

(イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】以上のように有機薄膜発光素子は高輝度発光、低電圧駆動、三原色発光などフルカラー表示デバイスの可能性を強く示唆しているが実用化には多くの課題が残されている。特に連続駆動時の表示品質の低下、即ち非発光あるいは輝度低下領域(所謂ダークスポット)の発生と成長を抑止することは最大の課題である。
【0007】筆者らの研究の結果では、ダークスポット発生の原因は該素子中の種々の構造的欠陥部への電界集中がもたらす破壊であり、たかだか100nm程度の有機層を介して対向する電極間に数V以上の電圧を印加し数mA/cm^(2) 以上の電流を注入する該素子においてこれを皆無とすることは技術的に困難であり、工業的には該ダークスポットの成長を抑止することが重要な課題となる。
【0008】ダークスポットの成長加速因子として、素子の成膜工程中あるいは駆動中に取り込まれた水分,酸素,環境温度等を挙げることができる。一般的なガラス基板/インジウムスズ酸化物電極/有機層/金属電極からなる有機薄膜発光素子に関して、各種環境におけるダークスポットの成長速度を評価検討した結果から、ダークスポット成長の主な要因は、成膜後に素子が曝される環境の水分であり、該水分が上述電界集中により発生した金属電極上の破壊孔あるいは金属電極端部より素子内に進入、拡散するに従ってダークスポットが成長することを確認している。
【0009】以上のことからダークスポットの成長を抑止する方策として、該素子を封止することにより環境から遮断することが有効であることは明らかであり、一般的な電子デバイスの封止方法として知られている各手法が試みられている。例えば紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂を介して防湿性薄板を接着したり(例えば特開平5─290976号公報)、防湿性のケースで素子露出面を覆い該ケース内を不活性気体またはフルオロカーボン,シリコンオイル等の不活性液体で満たすか真空としたり(例えば特開平3─363890号公報,特開平5─290976号公報,特開平5─114486号公報)、気相成膜によりポリパラキシリレンあるいはフッ素系高分子等の高分子膜あるいはダイアモンド様薄膜を形成したり(例えば特開平5─101885号公報,特開平5─101886号公報)することが挙げられる。製造コストと素子の小型化軽量化の見地から紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂を用いる手法が好ましく、生産性の見地から紫外線硬化樹脂を用いる手法がより好ましいが、有機化合物からなる薄膜積層体である有機薄膜発光素子に該手法を適用するに際して幾つかの問題がある。
【0010】その一つは、紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂を素子外表面に塗布した後、完全硬化に至るまでの間に、該樹脂組成物中の低分子成分あるいは微量の溶剤によって素子構造中の有機薄膜に相転移、溶解、界面剥離等の構造劣化がもたらされることである。他の問題は、紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂の硬化収縮時に素子外表面と該樹脂との接触面が剥離してしまうことである。
【0011】さらにもう一つの問題は、紫外線硬化樹脂の硬化工程において紫外線に曝されることによって、素子構造中の有機化合物に分解あるいは重合等の光化学的な失活を生じてしまうことである。これらの諸課題に対処する手段として、素子外表面と紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂との間に所謂保護層を設けることが有効である。該保護層に要求される性能としては、該樹脂組成物中の低分子成分あるいは汎用溶剤にに対して十分に溶解性,透過性が低く、真空蒸着等の気相成長によって素子に熱的ダメ─ジを与えることなく緻密な膜形成が可能で、該樹脂との濡れ性が十分であり、かつ素子構造中の全ての有機化合物の紫外可視吸収帯の波長を吸収することがあげられる。
【0012】上述の観点から保護層として幾つかの提案がなされている。一例としては、金属酸化物あるいは金属フッ化物等の無機化合物を抵抗加熱蒸着あるいはプラズマプロセス等により成膜する方法(例えば特開平7─85973号公報)、または前述の気相成膜によりポリパラキシリレンあるいはフッ素系高分子等の高分子膜を形成することなどが挙げられる。しかしながら無機化合物膜を用いる場合は成膜時に素子の有機薄膜積層体が高い輻射熱あるいはプラズマに曝されるという難点があり、該難点を回避するために有機材料への制約があり、また製造プロセスが煩雑化するので実用上は問題が大きい。またポリパラキシリレンあるいはフッ素系高分子膜を気相成膜する系では、該高分子膜と紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂との濡れ性が著しく低いため適当ではないし、有機薄膜発光素子に用いられる有機色素分子の幾つかは該高分子膜よりも長波長領域に紫外可視吸収帯を有するため、紫外線硬化樹脂の硬化過程で素子中の有機化合物が光劣化するという問題を回避することができない。
【0013】以上のように有機薄膜発光素子の実用化に際して最大の問題であるダークスポットの成長とそれに伴う表示画質の低下に対処するために所謂保護層が用いられるのであるが、保護層の材料およびその製造方法には未だ十分なものが見いだされていない。この発明は上述の点に鑑みてなされその目的は適切な保護層を見い出すことによりダークスポットの成長による表示画質の低下がなく信頼性に優れる有機薄膜発光素子を提供することにある。」

(ウ)「【0019】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施例に係る有機薄膜発光素子を示す断面図である。図2は本発明の異なる実施例に係る有機薄膜発光素子を示す断面図である。図3は本発明のさらに異なる実施例に係る有機薄膜発光素子を示す断面図である。
【0020】図4は本発明のさらに異なる実施例に係る有機薄膜発光素子を示す断面図である。1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は発光層、5は電子注入層、6は陰極、7は保護層、8は封止層、9は電源である。基板1は有機薄膜発光素子の支持体であり、かつ発光を取り出す光学部材でもあり、可視光に対して透明性が高いガラス、透明性樹脂等の材料を用い、単一材料または複数種の材料からなる積層体あるいは混合体、複合体が用いられる。」

(エ)「【0022】正孔注入層3は正孔を効率良く輸送、注入することが必要で、可視光に対して透明であることが望ましい。正孔注入物質は、イオン化ポテンシャルが大であり、且つ光学的エネルギーギャップが大である有機低分子,有機高分子,無機高分子の群から選ばれ、単一または複数種のものからなる積層体,混合体,複合体であってもよいし、また薄膜安定性等の他の機能性を付与・強化する目的で他の材料を含有せしめることもできる。正孔注入層の成膜方法としては抵抗加熱蒸着,分子線エピタキシー,スピンコート,キャスティング,LB法が用いられるが、生産性の見地から抵抗加熱蒸着法あるいはスピンコート法が好ましい。素子の動作電圧を下げる必要から、正孔注入層の電界が印加される方向の膜厚は 5nmないし 100nmの範囲であることが好ましい。
【0023】電子注入層5は電子を効率良く輸送、注入することが必要で、可視光に対して透明であることが望ましい。電子注入物質は、イオン化ポテンシャルが大、電子親和力が大である有機低分子,有機高分子,無機高分子の群から選ばれ、単一または複数種の材料からなる積層体,混合体,複合体であってもよいし、また薄膜安定性等の他の機能性を付与・強化する目的で他の材料を含有せしめることもできる。電子注入層の成膜方法としては抵抗加熱蒸着,分子線エピタキシー,スピンコート,キャスティング,LB法が用いられるが、生産性の見地から抵抗加熱蒸着法あるいはスピンコート法が好ましい。素子の動作電圧を下げる必要から、電子注入層の電界が印加される方向の膜厚は 5nmないし 100nmの範囲であることが好ましい。」

(オ)「【0024】発光層4は正孔注入層3または正極2から注入される正孔と、負極6または電子注入層5から注入される電子との再結合により効率良く発光することが望ましい。発光層は可視領域に発光帯をする必要があり、一般的には近紫外から可視領域に蛍光帯を有しかつ高い蛍光量子効率を有する有機低分子,有機高分子,無機高分子の群から選ばれ、単一または複数種の物質からなる積層体,混合体,複合体であってもよいし、また薄膜安定性等の他の機能性を付与・強化する目的で他の材料を含有せしめることもできる。特に上述の正孔注入性物質群かつまたは上述の電子注入性物資群を発光物質の群と共に発光層に含有せしめるか、または上述の正孔注入性能かつまたは上述の電子注入性能と、発光性能を兼備した物質群を含有せしめることで、正孔注入性かつまたは電子注入性を兼備した発光層とすることも可能である。発光層の成膜方法としては抵抗加熱蒸着,分子線エピタキシー,スピンコート,キャスティング,LB法などが用いられるが、生産性の見地から抵抗加熱蒸着法またはスピンコート法が好ましい。素子の動作電圧を下げる必要から、正孔注入層の電界が印加される方向の膜厚は 5nmないし 100nmの範囲であることが好ましい。」

(カ)「【0026】封止層8は積層素子構造の最外層にあり、素子構造への外部からの酸素,水分等の侵入を防止し、かつ陰極6の破損、剥離を抑制するための補強構造として機能することが要求される。封止層は、疎水性かつ酸素,水の透過性が低い薄膜あるいは部材を形成する有機低分子,有機高分子,無機高分子,金属酸化物,金属,無機非晶質の群から選ばれ、単一または複数種のものからなる積層体,混合体,複合体であってもよいが、生産性等の見地から有機高分子特に紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂の群を含有することが好ましい。また該封止層中に環境維持能あるいはその他の機能的要求から吸湿剤、脱酸素剤、酸化防止剤、着色剤、光散乱剤等を含有せしめることも有効である。封止層の形成方法としては抵抗加熱蒸着,分子線エピタキシー,スピンコート,バーコート,キャスティング,印刷、キャン封止注入法などが用いられるが、生産性の見地からスピンコート,バーコート,キャスティング,印刷等の塗布工法が好ましい。陰極6の酸化あるいは積層素子のガス吸収を最小限に抑える必要があるため、保護層7の成膜後の封止層を陰極6の成膜直後に真空を破ることなく連続して成膜することが好ましい。」

(キ)「【0027】
【実施例】
実施例1
陽極層として膜厚1,000Åで線幅2mmのITOパタンを設けた50mm角のガラス(NA45:NHテクノグラス製)基板を洗浄した後、抵抗加熱蒸着装置内の基板ホルダーに装着し10^(-6)Pa台まで真空排気後、150℃で2時間の基板ベーキングをおこなった。その後基板を50℃まで冷却し、温度と真空度を安定させて成膜を開始した。
【0028】正孔注入層として化学式〔II〕に化合物を、抵抗加熱式蒸発源にて加熱し、成膜速度を約3Å/秒として500Å形成した。続いて発光層として化学式〔III]に示した化合物を、抵抗加熱式蒸発源にて加熱し、成膜速度を約1Å/秒として580Å形成した。さらに続いて陰極層としてMgIn合金(In含有率約5体積%)を共蒸着法により3,000Å形成した。陰極層のパタンは線幅2mmのSUS製マスクを用い、陽極層のパタンと直交するように施した。
【0029】さらに続いて保護層として化学式〔I〕に示したペリレン系化合物を抵抗加熱式蒸発源にて加熱し、成膜速度を約20Å/秒として5,000Å形成した。以上の全成膜工程は、5×10^(-4)Pa以下の真空を維持し、連続しておこなった。上述の真空工程で成膜された積層体を大気に触れることなく窒素ガスで置換したグローブボックス内に収納し、十分に脱気された紫外線硬化樹脂(スリーボンド3006)を介して同じく十分に乾燥された厚さ0.6mmのガラス板と該積層体とを張り合わせた後、速やかに所定光量の紫外線照射を実施し樹脂を硬化させた。硬化後の樹脂層厚さは約0.5mmであった。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】



(ク)引用例1の図1及び引用例1の上記記載事項(ア)(ウ)から、引用例1の図1には、基板上に、陽極、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、電子を効率良く輸送する電子注入層、陰極、ペリレン系化合物を主成分とする保護層、封止層が順次積層され、前記正孔注入層、前記有機薄膜発光層、前記電子注入層、前記陰極層が前記保護層及び前記封止層により被覆された有機薄膜発光素子が記載されている。

2 引用例1記載の発明の認定
引用例1の上記記載事項(ア)ないし(キ)から、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「陽極層を設けた50mm角のガラス基板上に、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、陰極層、ペリレン系化合物を主成分とする保護層を、5×10^(-4)Pa以下の真空において連続して形成し、
上述の真空工程で成膜された積層体を大気に触れることなく窒素ガスで置換したグローブボックス内に収納し、十分に脱気された紫外線硬化樹脂を介して同じく十分に乾燥された厚さ0.6mmのガラス板と該積層体とを張り合わせた後、速やかに所定光量の紫外線照射を実施し前記紫外線硬化樹脂を硬化させて封止層を形成した、
前記正孔注入層、前記有機薄膜発光層、前記陰極層を前記保護層及び前記封止層で被覆してなる有機薄膜発光素子の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。)

3 本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(1)引用発明1の「50mm角のガラス基板」、「陽極層」、「正孔を効率良く輸送する正孔注入層」、「有機薄膜発光層」、「陰極層」は、それぞれ、本願発明の「前面基板」、「前面電極」、「正孔輸送層」、「有機層である電界発光層」、「背面電極」に相当する。
したがって、引用発明1の「陽極層を設けた50mm角のガラス基板上に、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、陰極層、ペリレン系化合物を主成分とする保護層を、5×10^(-4)Pa以下の真空において連続して形成」する工程と、本願発明の「前面基板上に、順次、前面電極、正孔輸送層及び電子輸送層を有する有機層である電界発光層、背面電極を積層する工程」とは、「前面基板上に、順次、前面電極、正孔輸送層を有する有機層である電界発光層、背面電極を積層する工程」である点で一致する。
また、引用発明1の「50mm角のガラス基板上に」「形成」された「前記正孔注入層、前記有機薄膜発光層、前記陰極層」を「被覆してなる」「ペリレン系化合物を主成分とする保護層」を「形成」する工程は、本願発明の「前記前面基板上の少なくとも電界発光層及び背面電極を覆う保護膜を形成する工程」に相当する。

(2)引用発明1の「紫外線硬化樹脂」、「厚さ0.6mmのガラス板」は、それぞれ、本願発明の「光硬化性樹脂」、「背面基板」に相当する。
したがって、引用発明1の「陽極層を設けた50mm角のガラス基板上に、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、陰極層、ペリレン系化合物を主成分とする保護層を、5×10^(-4)Pa以下の真空において連続して形成」「された積層体を大気に触れることなく窒素ガスで置換したグローブボックス内に収納し、十分に脱気された紫外線硬化樹脂を介して同じく十分に乾燥された厚さ0.6mmのガラス板と該積層体とを張り合わせた」工程と、本願発明の「光硬化性樹脂を介して前記前面基板と背面基板とを100Torr以下の雰囲気下で貼り合わせて、前記前面電極、電界発光層、背面電極、及び保護膜を前記光硬化性樹脂内に封止する工程」とは、「光硬化性樹脂を介して前記前面基板と背面基板とを貼り合わせて、前記前面電極、電界発光層、背面電極、及び保護膜を前記光硬化性樹脂内に封止する工程」である点で一致する。

(3)引用発明1の「上述の真空工程で成膜された積層体を大気に触れることなく窒素ガスで置換したグローブボックス内に収納し」、「速やかに所定光量の紫外線照射を実施し前記紫外線硬化樹脂を硬化させて封止層を形成した」工程は、本願発明の「前記光硬化性樹脂を窒素ガス雰囲気下で光照射を行って硬化させる工程」に相当する。

(4)したがって、本願発明と引用発明1とは、
「前面基板上に、順次、前面電極、正孔輸送層を有する有機層である電界発光層、背面電極を積層する工程と、前記前面基板上の少なくとも電界発光層及び背面電極を覆う保護膜を形成する工程と、光硬化性樹脂を介して前記前面基板と背面基板とを貼り合わせて、前記前面電極、電界発光層、背面電極、及び保護膜を前記光硬化性樹脂内に封止する工程と、前記光硬化性樹脂を窒素ガス雰囲気下で光照射を行って硬化させる工程と、を備えることを特徴とする電界発光素子の製造方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
本願発明の「電界発光素子」の「電界発光層」は「電子輸送層を有する」のに対し、引用発明1の「有機薄膜発光素子」は前記「電子輸送層」を有していない点。

〈相違点2〉
本願発明では、「光硬化性樹脂を介して前記前面基板と背面基板とを」「貼り合わせて、前記前面電極、電界発光層、背面電極、及び保護膜を前記光硬化性樹脂内に封止する工程」を「100Torr以下の雰囲気下」で行っているのに対し、引用発明1の「十分に脱気された紫外線硬化樹脂を介して同じく十分に乾燥された厚さ0.6mmのガラス板と」「陽極層を設けた50mm角のガラス基板上に、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、陰極層、ペリレン系化合物を主成分とする保護層を、5×10^(-4)Pa以下の真空において連続して形成」「された積層体」「とを張り合わせ」ることを「窒素ガスで置換したグローブボックス内」で行っている点。

4 相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
引用例1の上記記載事項(ク)の「電子を効率良く輸送する電子注入層」は、本願発明の「電子輸送層」に相当する。
すると、引用発明1の「有機薄膜発光層」と「陰極層」との間に、引用例1に記載された「電子を効率良く輸送する電子注入層」を設けることは、当業者であれば容易に想到し得る。
したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2について
引用例1の上記記載事項(イ)の段落【0008】の記載から、引用発明1の「有機薄膜発光素子の製造方法」において、「紫外線硬化樹脂」として「十分に脱気された」ものを用い、かつ、「上述の真空工程で成膜された積層体を大気に触れることなく窒素ガスで置換したグローブボックス内に収納し」て「紫外線硬化樹脂を介して同じく十分に乾燥された厚さ0.6mmのガラス板と該積層体とを張り合わせた」のは、「厚さ0.6mmのガラス板」と「陽極層を設けた50mm角のガラス基板上に、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、陰極層、ペリレン系化合物を主成分とする保護層を、5×10^(-4)Pa以下の真空において連続して形成」「された積層体」とを「紫外線硬化樹脂を介して」張り合わせる際に、前記「紫外線硬化樹脂」を含む引用発明1の「有機薄膜発光素子」に水分や酸素が入り込むのを防ぎ、ダークスポットの発生と成長を抑止するためであることは、当業者にとって自明である。
そして、引用例1の上記記載事項(カ)には、「陰極6の酸化あるいは積層素子のガス吸収を最小限に抑える必要があるため、保護層7の成膜後の封止層を陰極6の成膜直後に真空を破ることなく連続して成膜することが好ましい。」と記載されている。また、電界発光素子の分野において、光硬化性樹脂を介して基板により電界発光素子を封止する際、真空状態や減圧下の雰囲気下で脱気した光硬化性樹脂を用いることは本願出願時において周知の事項である(特開平1-274384号公報(公報第3頁左上欄第8?17行)、特開平7-295484号公報(段落【0042】)を参照。)。さらに、真空状態や減圧下の雰囲気が、窒素ガス雰囲気と同様に、水分や酸素が入りこまないような雰囲気であることは技術常識であるから、真空状態や減圧下の雰囲気下で光硬化性樹脂を脱気すると、前記光硬化性樹脂に水分や酸素が入りこまなくなることは自明である。
したがって、上記周知事項及び引用例1の上記記載事項(カ)に照らし、引用発明1の「有機薄膜発光素子の製造方法」において、「十分に脱気された紫外線硬化樹脂」を介して「十分に乾燥された厚さ0.6mmのガラス板と」「陽極層を設けた50mm角のガラス基板上に、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、陰極層、ペリレン系化合物を主成分とする保護層を、5×10^(-4)Pa以下の真空において連続して形成」「された積層体」「とを張り合わせ」ることを「窒素ガスで置換したグローブボックス内」で行うことに代えて、引用発明1の「紫外線硬化樹脂」を介して「厚さ0.6mmのガラス板と」「陽極層を設けた50mm角のガラス基板上に、正孔を効率良く輸送する正孔注入層、有機薄膜発光層、陰極層、ペリレン系化合物を主成分とする保護層を、5×10^(-4)Pa以下の真空において連続して形成」「された積層体」「とを張り合わせ」ることを真空状態や減圧下の雰囲気で行うことは、当業者にとって容易に想到し得る。
その際、真空状態や減圧下の雰囲気の圧力を100Torr以下とすることは、真空状態や減圧下の雰囲気によって前記「紫外線硬化樹脂」を十分に脱気することに鑑みて当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(3)本願発明の進歩性の判断
以上のとおりであるから、上記相違点1,2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易である。
また、本願発明の効果は、引用例1に記載された発明及び周知事項から予測し得る程度のものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第3 むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-28 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願平10-251804
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東松 修太郎  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 佐藤 昭喜
日夏 貴史
発明の名称 電界発光素子の製造方法  

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