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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1186807
審判番号 不服2007-26315  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-26 
確定日 2008-10-31 
事件の表示 特願2003- 27151「多極子レンズ用の多極子製造方法、多極子レンズ及び荷電粒子線装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月26日出願公開、特開2004-241190〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年(2003年)2月4日の出願(特願2003-27151号)であって、平成19年8月24日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年9月26日付で拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成19年7月17日付手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項に特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「下記の工程(A01)?(A03)を順次実行することを特徴とする多極子レンズ用の多極子製造方法、
(A01)円柱状の一体成形部材の中心部に貫通孔を形成し、前記貫通孔の外周に連続して前記貫通孔の中心から半径方向に延び且つ部分的な未切断部を残した極子分割溝を形成して極子形成部材を製造する極子形成部材製造工程、
(A02)前記極子形成部材を極子固定部材に位置決めした状態で固定支持する極子形成部材固定工程、
(A03)前記極子固定部材に固定支持された前記極子形成部材の前記未切断部を、前記極子固定部材の前記未切断部に対応する位置に形成された未切断部切断用貫通孔を介して、切断して極子を形成する極子分離工程。」

第3 引用例
1 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-260371号公報(以下、「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子ビーム描画装置の電子ビーム整形用及び偏向用などの電極に係わり、特に寸法精度が高く、保守が容易であり、かつ製造も簡単な電子ビーム描画装置用電極及びその製造方法に関する。」

(2)「【0015】また、本発明による電子ビーム描画装置用電極の製造方法は、複数の電極片に対応すべく元端側が互いに分離形成されると共に該電極片の先端に対応する部分が互いに連結された一体型の中間体を形成し、この中間体の前記元端側の光軸方向に対する一方の端面を、電気絶縁材からなり中央に貫通穴を有するリング状の絶縁部材の一方の端面に、該中間体の連結部が前記貫通穴の中央投影位置となるように配置して接着剤又はろう材によりそれぞれ密着固定させ、次いで、前記中間体の連結部を加工により互いに分離すると共に所定の形状に加工して電極片を形成することを特徴とするものである。
【0016】この製造方法によれば、リング状の絶縁部材の端面に複数の電極片を的確に固着配置することができると共に、電極片の配置精度を容易に高めることができる。」

(3)「【0022】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態につき、図1を参照して説明する。図1において、10は電極であり、絶縁部材20、複数の電極片30及び支持部材40とにより構成されている。
【0023】絶縁部材20は、中央に貫通穴21を有する円板などのリング状をしており、電気絶縁材により形成されている。この電気絶縁材としては、電極10が取り付けられる図示しない電子ビーム鏡筒内及びこれに連なる描画室などの装置内汚染を防止すると共に各電極片30の位置変動を抑えて正確な位置に保持するため、無機系の電気絶縁材であることが好ましく、例えば窒化珪素のような機械的強度を有すると共に熱変形が小さく、かつ真空環境及び電極片30の発熱により汚染物質を生じることのないファインセラミックスにより形成することが好ましい。電極片30は、Ti又はTi合金などの金属で形成され、各電極片30は、光軸方向に対する一方の端面、すなわち図1(B)において右側の端面が、絶縁部材20の同じく図1(B)において左側の端面に接着剤50によりそれぞれ密着固定されている。なお、各電極片30は、絶縁部材20の貫通穴21の中心を中心とする円周上に配列され、元端側の一部端面が絶縁部材20の側面に密着固定され、先端部がそれぞれ貫通穴21の投影空間内に突出し、互いに対をなして対向するように配置されている。
【0025】 絶縁部材20と電極片30とを密着固定する接着剤50は、接着後の接合域における内部応力低減のため、例えばエポキシ系接着剤のような300℃以下の保持温度で硬化する有機系の接着剤又は無機系の接着剤を用いることが好ましい。なお、この接着剤50に代えてアルミニウム合金、銀合金又は金合金のようなろう材を用いることもできる。これらのろう材によれば、脱ガスを抑制して真空保持を容易に行うことができるが、融点が低く、低温度で接合することができ、接合後の接合域に発生する内部応力を低く抑えるため、上記アルミニウム合金のろう材を用いることが好ましい。なお、ろう材は、ペースト状のものを塗布するか、もしくはシート状のものを挟んで接合するようにすることができる。
【0026】支持部材40は、円板などのリング状をしており、絶縁部材20の図1(B)において右側の端面に、同じく接着剤50により密着固定されている。この支持部材40は、電極10を図示しない電子ビーム鏡筒内に取り付け、又は他の電極と組み合わせる際の位置決め設定用に用いられるものであり、金属により形成されている。」

(4)「【0030】 次に図2を参照して、本発明による上記電極10の好ましい製造方法の一例について説明する。図2(A)は、図1に示した電極片30を形成するための中間体30Aを示している。この中間体30Aは、図1に示す各電極片30の先端部を除き、元端側(中間体30Aの外周側)の形状及び配置状態が製造後の各電極片30の元端側をそのまま形成するように外形形状及びスリット31が加工され、中間体30Aの中心部すなわち各電極片30の先端側に当たる部分は互いに切り離されずに一対の部材として形成されている。なお、中間体30Aの中心には後述する各部材の組み付け及び加工を容易にするための貫通穴32が設けられている。この貫通穴32の直径は、電極片30の先端対向間隔と等しいかそれより小さい値になされている。
【0031】この中間体30Aの図2(A)において奥側の端面を、図2(B)に示す絶縁部材20の図2(B)において手前側の端面に接着剤(又はろう材)50により密着固定すると共に、絶縁部材20の図2(B)において奥側の端面には図1に示す支持部材40を同じく接着剤(又はろう材)50により密着固定する。このとき、中間体30Aと絶縁部材20及び支持部材40との芯出しは、貫通穴32を用いて行うことが好ましい。
【0032】中間体30A、絶縁部材20及び支持部材40を密着固定したならば、この組立体をワイヤカット放電加工機などの加工装置に取り付け、中間体30の各電極片30の先端部を、図1(A)に示すように、それぞれ分離すると共に、所定の先端形状に加工する。このとき、各電極片30の先端部の加工と同時に上記のように支持部材40の外周形状を加工することが好ましい。この支持部材40の外周形状の同時加工は、中間体30A、絶縁部材20及び支持部材40からなる組立体を、アームなどを用いて加工装置に取り付ける必要があるため、支持部材40の全周を加工することはできないが、大部分を加工することができ、この同時加工した外周部を位置決め基準として電極10を取り付ければ、電極10の芯出しを極めて容易に高精度に行うことができる。
【0033】図3は、本発明による電極の他の実施の形態を示すものであり、電極片30の両端面に絶縁部材20を接着剤(又はろう材)50により密着固定したものである。この電極11は、電極片30の長さが長い場合、電極片30をより安定して正確な位置に保つことができる。なお、この場合も、図2(A)に示したような中間体30Aの両端面に絶縁部材20を接合した後、電極片30の先端部を分離、形成する加工を行う。
【0034】図3に示す支持部材41は、電極片30の長手方向に伸びる円筒状とし、その両端に位置決め支持用のフランジ42を設け、図3において右方の絶縁部材20にのみ密着固定したものであるが、これに限らず、左右の絶縁部材20,20にそれぞれ図1に示したようなリング状の支持部材40を別々に密着固定してもよい。」

2 引用発明
上記「1 引用例の記載事項」の記載事項(1)?(4)から、
・「電子ビーム描画装置の電子ビーム整形用及び偏向用などの電極」の「製造方法」に関するものであること、
・「電極片30を形成するための中間体30A」を製造すること、
・「この中間体30Aは、図1に示す各電極片30の先端部を除き、元端側(中間体30Aの外周側)の形状及び配置状態が製造後の各電極片30の元端側をそのまま形成するように外形形状及びスリット31が加工され、中間体30Aの中心部すなわち各電極片30の先端側に当たる部分は互いに切り離されずに一対の部材として形成されている」こと、
・「中間体30Aの中心には後述する各部材の組み付け及び加工を容易にするための貫通穴32が設けられている」こと、
・「この中間体30Aの前記元端側の光軸方向に対する一方の端面を、電気絶縁材からなり中央に貫通穴21を有するリング状の絶縁部材20の一方の端面に、該中間体30Aの連結部が前記貫通穴21の中央投影位置となるように配置して接着剤又はろう材によりそれぞれ密着固定させ」ること、
・「次いで、前記中間体の連結部を加工により互いに分離すると共に所定の形状に加工して電極片を形成する」こと、
が記載事項として抽出される。

また、【図1】【図2】の記載から、中間体30Aは、外周面から中心の貫通穴に向かって延びるスリットを有する円柱形状の一体成形部材であり、中心には貫通穴が形成され、スリットは貫通穴まで達していないものであることが読み取れる。

そして、中間体30Aのスリットと貫通穴の間の部分が上記記載事項(2)における連結部であるから、引用例1には、
「下記の工程(1)?(3)を順次実行する、電子ビーム描画装置の電子ビーム整形用及び偏向用などの電極の製造方法、
(1)円柱形状の一体成形部材に、中心の貫通穴32及び外周面から中心の貫通穴32に向かって延びるスリット31が、スリット31が貫通穴32まで達しないように連結部を残して加工されて、中間体30Aを製造する中間体製造工程、
(2)この中間体30Aを、電気絶縁材からなり中央に貫通穴21を有するリング状の絶縁部材20の一方の端面に、該中間体30Aの連結部が前記貫通穴21の中央投影位置となるように配置して、それぞれ密着固定させる中間体固定工程、
(3)次いで、リング状の絶縁部材20の貫通穴21の中央投影位置となるように配置された中間体30Aの連結部を分離する分離工程」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

第4 対比
1 対比
引用発明と本願発明を対比する。
引用発明の「電子ビーム描画装置の電子ビーム整形用及び偏向用などの電極」は、本願発明の「多極子レンズ用の多極子」に相当する。
また、引用発明の「中間体30A」は、本願発明の「極子形成部材」に相当し、引用発明の中間体30Aの「貫通穴32」、「外周面から中心の貫通穴32に向かって延びるスリット31」及び「連結部」が、その機能・構造から考えて、それぞれ、本願発明の極子形成部材の「貫通孔」、「貫通孔の中心から半径方向に延びる極子分割溝」及び「部分的な未切断部」に相当する。したがって、引用発明の「(1)円柱形状の一体成形部材に、中心の貫通穴32及び外周面から中心の貫通穴32に向かって延びるスリット31が、スリット31が貫通穴32まで達しないように連結部を残して加工されて、中間体30Aを製造する中間体製造工程」と、本願発明の「(A01)円柱状の一体成形部材の中心部に貫通孔を形成し、前記貫通孔の外周に連続して前記貫通孔の中心から半径方向に延び且つ部分的な未切断部を残した極子分割溝を形成して極子形成部材を製造する極子形成部材製造工程」とは、「円柱状の一体成形部材の中心部に貫通孔を形成し、また、前記貫通孔の中心から半径方向に延び且つ部分的な未切断部を残した極子分割溝を形成して極子形成部材を製造する極子形成部材製造工程」である点で共通している。
また、引用発明の「電気絶縁材からなり中央に貫通穴21を有するリング状の絶縁部材20」が、本願発明の「極子固定部材」に相当するから、引用発明の「この中間体30Aを、電気絶縁材からなり中央に貫通穴21を有するリング状の絶縁部材20の一方の端面に、該中間体30Aの連結部が前記貫通穴21の中央投影位置となるように配置して、それぞれ密着固定させる中間体固定工程」は、本願発明の「前記極子形成部材を極子固定部材に位置決めした状態で固定支持する極子形成部材固定工程」に相当する。
また、引用発明の「(3)次いで、リング状の絶縁部材20の貫通穴21の中央投影位置となるように配置された中間体30Aの連結部を分離する分離工程」における「次いで」は、「(中間体と絶縁部材を)中間体30Aの連結部が前記貫通穴21の中央投影位置となるように配置して、密着固定させ」た後、その状態で、ということを意味しているから、引用発明の「(3)次いで、リング状の絶縁部材20の貫通穴21の中央投影位置となるように配置された中間体30Aの連結部を分離する分離工程」と、本願発明の「(A03)前記極子固定部材に固定支持された前記極子形成部材の前記未切断部を、前記極子固定部材の前記未切断部に対応する位置に形成された未切断部切断用貫通孔を介して、切断して極子を形成する極子分離工程」とは、「前記極子固定部材に固定支持された前記極子形成部材の前記未切断部を、前記極子固定部材の貫通孔に対応する位置に配置した状態で、切断して極子を形成する極子分離工程」である点で共通している。

2 一致点
したがって、本願発明と引用発明は、
「下記の各工程を順次実行することを特徴とする多極子レンズ用の多極子製造方法、
円柱状の一体成形部材の中心部に貫通孔を形成し、また、前記貫通孔の中心から半径方向に延び且つ部分的な未切断部を残した極子分割溝を形成して極子形成部材を製造する極子形成部材製造工程、
前記極子形成部材を極子固定部材に位置決めした状態で固定支持する極子形成部材固定工程、
前記極子固定部材に固定支持された前記極子形成部材の前記未切断部を、前記極子固定部材の貫通孔に対応する位置に配置した状態で、切断して極子を形成する極子分離工程。」
である点で一致し、次の各点で相違している。

3 相違点
(1)相違点1;
極子形成部材製造工程の貫通孔の中心から半径方向に延び且つ部分的な未切断部を残した極子分割溝の形成について、本願発明においては「貫通孔の外周に連続して」形成しているのに対し、引用発明においては「(貫通孔の外周との間に)連結部を残して」形成している点。

(2)相違点2;
極子分離工程の未切断部の切断について、本願発明においては、「未切断部に対応する位置に配置された貫通孔を介して」切断するものであるのに対し、引用発明においては、その点が限定されていない点。

第5 当審の判断
次に、上記の相違点について検討する。

1 相違点1について
相違点1は、本願発明が極子分割溝を貫通孔に連続して形成することにより、未切断部を貫通孔から離れた位置に形成したものであるのに対して、引用発明は、貫通穴の外周に接して連結部を形成した点、すなわち、未切断部を貫通孔に接した位置に形成した点にある。
したがって、相違点1は、未切断部の位置に関する相違であるといえるが、未切断部を貫通孔から離れた位置に形成することについても、例えば、
・特開平5-29201号公報(【0021】【0022】【図1】【図2】参照。)
にも記載されているように周知の技術であることにかんがみれば、未切断部をどこに設けるかは単なる設計的事項であるということができるから、引用発明においても、未切断部を貫通孔から離れた位置に形成すること、すなわち、貫通孔の外周に連続して極子分割溝を形成することは、当業者が容易に想到し得た事項に過ぎない。
そうすると、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、上記周知技術にかんがみて当業者が容易に想到し得た事項である。

2 相違点2について
未切断部をどのように切断するかについては、引用発明においては明確に特定はされていないが、「第3 引用例」の「1 引用例の記載事項」における(4)の記載事項の【0033】欄の記載及び引用例1の【図3】の記載における、リング状の絶縁部材20を中間体30Aの両端面に接合した後、連結部(未切断部)を切断する場合には、該連結部に対応して配置された貫通穴21を介して切断することが最も自然であると認められるから、引用例1においても、極子分離工程の未切断部の切断について「未切断部に対応する位置に配置された貫通孔を介して」切断することが記載されているに等しいということができる。
すなわち、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

3 まとめ
そして、本願発明によってもたらされる効果は、上記引用例1に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第6 むすび
以上より、本願発明は、引用例1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-23 
結審通知日 2008-08-12 
審決日 2008-08-26 
出願番号 特願2003-27151(P2003-27151)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 安田 明央
森林 克郎
発明の名称 多極子レンズ用の多極子製造方法、多極子レンズ及び荷電粒子線装置  

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