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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
管理番号 1186979
審判番号 不服2006-1217  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-19 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2000-203048「燃料噴射装置及び内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月23日出願公開、特開2002- 21679〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成12年6月30日に出願されたものであって、平成16年9月21日付けで拒絶理由が通知され、平成16年11月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成17年12月12日付けで拒絶査定がなされ、平成18年1月19日付けで同拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに平成18年2月20日付けで手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成20年5月23日付けで前記平成18年2月20日付けの手続補正が却下されるとともに平成20年6月11日付で拒絶理由が通知され、平成20年8月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年8月5日に提出された手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、次のとおりのものである。

「【請求項1】
弁座と、この弁座との間で燃料通路の開閉を行う弁体と、少なくとも1つのコイルを有して前記弁体を駆動する駆動手段とを有し、前記燃料通路を開閉して燃料を噴射する電磁式燃料噴射弁と、前記コイルへの通電を制御する制御装置とを備えた燃料噴射装置において、
車両に搭載される2つの蓄電池と前記コイルとの間の電気的接続を開閉する開閉装置と、前記コイルに流れる電流値の一次遅れ値を検出する手段とを備え、
前記制御装置は、前記弁体を閉弁状態から開弁方向に駆動する開弁動作では、前記2つの蓄電池のうち高い電圧の蓄電池を前記コイルに接続し、前記弁体が開弁動作を完了して開弁状態を保持する保持状態では、前記2つの蓄電池のうち低い電圧の蓄電池を前記コイルに接続するように前記開閉装置を制御する装置であって、前記開弁動作から前記保持状態への切り換え時期を前記一次遅れ値に基づいて決定し、前記2つの蓄電池のうち高い電圧の蓄電池と前記コイルとの接続を開くように前記開閉装置を制御することを特徴とする燃料噴射装置。

【請求項3】
請求項1に記載された燃料噴射装置において、
前記コイルに流れる電流値を検出する電流値検出手段を備え、
一次遅れ値を検出する前記手段に替えて、前記電流値検出手段によって検出された電流値の時間積分値を数値演算する演算手段を備え、前記開弁動作から前記保持状態への切り換え時期を前記時間積分値に基づいて決定することを特徴とする燃料噴射装置。」

3.当審の判断
(1)引用例
1)特開平7-189787号公報(以下、「引用例1」という。)
2)実願平5-2774号(実開平6-60950号)のCD-ROM(以下、「引用例2」という。)
3)特開平11-344146号公報(以下、「引用例3」という。)

(2)引用例の記載事項
1)引用例1の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である上記引用例1には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、燃料噴射弁駆動制御装置に係り、特に、エンジンの燃料噴射装置において使用される電磁弁の駆動を制御する燃料噴射弁駆動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に、電磁式の燃料噴射弁では、図3に示したようにプランジャ2がバネ3によって常時はテーパー状の燃料噴射口1に当接されて閉弁状態を保っている。ここで、プランジャ2の周囲に配置されたコイルLに励磁電流が供給されると、プランジャ2がバネ3のバネ力に抗して矢印a方向へ移動する。この結果、燃料はプランジャ2と燃料噴射口1との間隙を通って噴射される。
【0003】このように、燃料噴射弁では、コイルLに与えられた燃料噴射パルスの時間だけ噴射弁が開くことから、燃料噴射量の制御は燃料噴射パルスのパルス幅を制御することによって行われる。
【0004】一方、このような構成では、開弁時に燃料噴射パルスが供給されても、バネ3のバネ力に抗する力がコイルLに発生するまで開弁しないため、ある時間遅れが生じる。また、閉弁時に燃料噴射パルスがオフになっても、コイルLに残留磁束があるため、直ぐにはプランジャ2が戻らない。したがって、このような燃料噴射弁では、燃料噴射パルスを供給しても、これに即応した噴射量制御が難しいという問題を本質的に抱えていた。
【0005】そこで、このような問題点に対処するために、図4に示したように、燃料噴射パルスのオン期間中、初期の開弁時には比較的大きな励磁電流(開弁電流)を流して素早い開弁動作を確保すると共に、一旦開弁した後は、開弁状態の維持に必要な最低限の励磁電流(保持電流)のみを流すことにより、閉弁時の残留磁束を小さくする工夫がなされている。」(公報段落【0001】?【0005】)

イ.「【0009】このような構成において、図6(a) の燃料噴射パルスに応答して、トランジスタQ_(1 )のベースに図6(c) のチョッピング制御用のパルス信号が入力されると、トランジスタQ_(1) がオン/オフ制御される。トランジスタQ_(1) がオン状態になると、同図(b) に示したように、コイルLに励磁電流I_(L )が流れ出し、一次遅れで徐々に増加する。
【0010】励磁電流I_(L )が、閉弁状態の電磁弁を開弁させるのに必要な電流値(開弁電流)I_(1) に達して電磁弁がプランジャ2の吸引を完了すると、トランジスタQ_(1) のベースが“L”レベルになってオフ状態になる。
【0011】その後、励磁電流I_(L) が保持電流の下限値I_(2) まで低下すると、再びトランジスタQ_(1) がオンになって励磁電流I_(L) が流れ初め、励磁電流I_(L) が保持電流の上限値I_(3) に達すると、再びトランジスタQ_(1) がオフ状態になる。以後、燃料噴射パルス(a) が“H”レベルの期間中、このような制御が繰り返されて、励磁電流I_(L) はプランジャを吸引保持するのに必要な電流値(保持電流)に保たれる。」(公報段落【0009】?【0011】)

ウ.「【0017】
【実施例】以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例である燃料噴射弁駆動制御装置の主要部の構成を示したブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。
【0018】電磁弁駆動手段10は、NPNトランジスタQ_(1) のオン/オフを制御することにより、コイルLに供給する励磁電流I_(L) を制御する。第1の電流検知部21は、励磁電流I_(L) が開弁電流値I_(1) に達したことを検出して、電磁弁駆動手段10の出力を“L”レベルにする。第2の電流検知部22は、励磁電流I_(L) が下降過程において保持電流の下限値I_(2) に達したことを検出して、電磁弁駆動手段10の出力を“H”レベルにする。」(公報段落【0017】?【0018】)

上記ア.ないしウ.及び図1ないし図4の記載によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「テーパ状の燃料噴射口1と、このテーパ状の燃料噴射口1の開閉を行うプランジャ2と、コイルLを有して前記プランジャ2を駆動する手段とを有し、前記テーパ状の燃料噴射口1を開閉して燃料を噴射する電磁式の燃料噴射弁と、前記コイルLに供給する励磁電流I_(L)を制御する電磁弁駆動手段10とを備えた燃料噴射装置において、
トランジスタQ_(1)とトランジスタQ_(1)のオン/オフを制御する手段と、前記コイルLに流れる一次遅れで徐々に増加する励磁電流I_(L)を検出する第1の電流検知部21とを備え、
前記電磁弁駆動手段10は、初期の開弁時には比較的大きな励磁電流(開弁電流)を流し、一旦開弁した後は、開弁状態の維持に必要な最低限の励磁電流(保持電流)のみを流すように制御する装置であって、前記開弁電流から前記保持電流への切り換え時期を前記一次遅れで徐々に増加する励磁電流I_(L)に基づいて決定し、前記トランジスタQ_(1)をオフ状態に制御する燃料噴射装置。」(以下、「引用例1記載の発明」という。)

2)引用例2の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である上記引用例2には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

エ.「【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は、特定の電源しか備えていない輸送機などに係り、各制御部等において用いられる電磁弁やリレーを駆動する電磁駆動回路に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、輸送機などでは、その容積が限られているため、特定の電源しか備えていない。また、これらの電源は、エンジン駆動のジェネレータおよび充電式のバッテリから構成されている。このような輸送機においては、各部を駆動するために油圧や空気圧等を用いていおり、これら油圧や空気圧は、導線を巻回した励磁コイルを有した電磁弁等によって制御されている。また、電磁弁は、電磁駆動回路により、上記励磁コイルに対する励磁電流をオン/オフすることによって制御される。励磁コイルの励磁電流は上記電源から供給される。一般に、上記電磁弁における弁を開閉するための励磁コイルおよび該励磁コイルによって弁を動作させる駆動部はソレノイドと呼ばれている。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
ところで、一般に、上述した励磁コイルには、励磁初期において多大な初期駆動電流が必要とされるが、一旦、励磁された後は、上記初期駆動電流より十分、小さい電流を供給すれば、駆動部の作動状態が保持される。しかしながら、上述した従来の電磁駆動回路では、励磁初期に必要とされる電流値を確保するために高電圧電源を用いており、励磁後も上記高電圧電源から電流を供給していた。したがって、励磁された後も、励磁コイルには、上記高電圧電源から不必要な電流が供給されてしまい、その結果、消費電力が大となる問題を生じた。特に、上述した輸送機等においては、限られた容量の電源しか搭載していないため、無駄な消費電力を極力押える必要がある。
【0004】
この考案は上述した事情に鑑みてなされたもので、励磁コイルの消費電力を低減することができる電磁駆動回路を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述した問題点を解決するために、この考案では、導線を巻回した励磁コイルに所定の励磁電流を供給し、該励磁コイルの電磁作用によって駆動部を作動させる電磁駆動回路において、
前記励磁コイルの励磁初期は高電圧電源から励磁電流を供給し、それ以後は、低電圧電源から前記駆動部の作動状態を保持するのに必要な電流を供給する電源切換手段を備えたことを特徴とする。
【0006】
【作用】
電源切換手段は、高電圧電源と低電圧電源とを所定のタイミングで切換えることにより、励磁コイルの励磁初期は高電圧電源から励磁電流を供給し、それ以後は低電圧電源から駆動部の作動状態を保持するのに必要な小電流を供給する。
【0007】
【実施例】
次に図面を参照してこの考案の実施例について説明する。図1はこの考案の一実施例の構成を示すブロック図である。図において、1は高電圧電源であり、28Vの出力電圧をトランジスタTR1のエミッタへ供給している。また、2は低電圧電源であり、15Vの出力電圧をトランジスタTR2のエミッタへ供給している。・・・
【0008】
・・・言換えると、ワンショット・マルチバイブレータ3、トランジスタTR1,TR2、ダイオードD1,D2から電源切換回路7が構成されている。・・・
【0011】
なお、上述したワンショット・マルチバイブレータ3における期間Tは、励磁コイル6の特性、すなわち励磁に必要な励磁電流の供給期間に応じて設定が可能である。また、上述した電磁駆動回路は、励磁コイルによって駆動される駆動部が電気的な接点であるリレー等に適用してもよい。」(明細書段落【0001】?【0011】)

上記エ.及び図1の記載によれば、引用例2には、次の発明が記載されていると認められる。

「励磁コイルを有して弁を作動させる駆動部を有し、前記励磁コイルへの励磁電流を制御する電磁駆動回路とを備えた電磁弁において、
高電圧電源1と低電圧電源2と前記励磁コイルとの間の電気的接続を切換える電源切換手段と
前記電磁駆動回路は、高電圧電源1と低電圧電源2とを所定のタイミングで切換えることにより、励磁コイルの励磁初期は高電圧電源1から励磁電流を供給し、一旦、励磁された後は、低電圧電源2から駆動部の作動状態を保持するのに必要な小電流を供給するように電源切換手段を制御する装置であって、所定のタイミングで、前記高電圧電源1と低電圧電源2のうち高電圧電源1と励磁コイルとの接続を開くように制御する電磁弁。」(以下、「引用例2記載の発明」という。)

3)引用例3の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である上記引用例3には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

オ.「【請求項11】 請求項2乃至9の電磁弁制御装置において、前記第一の励磁回路の通電を、電磁弁駆動電流の積分値が所定値に達した場合に終了することを特徴とする電磁弁制御装置。」(公報【特許請求の範囲】の【請求項11】)

カ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば小便器の自動洗浄装置や手洗い器の自動水栓等に設けられる電磁弁を制御する電磁弁制御装置に係り、特に電池を電源とする装置に好適な省電力化を高める電磁弁制御回路に関する。」(公報段落【0001】)

キ.「【0053】(実施例6)第6の実施例のフローチャートを図13に、回路図を図15に示す。第6の実施例では、第5の実施例の動作に対し、吸引駆動の終了条件が異なる。図15では図1に対して、ボトム検出回路8および電流積分回路9が追加されている。図15において、ボトム検出回路7はコンパレータ701、抵抗702、コンデンサ703とを備える。動作詳細は特願平08ー334681に説明されている。電磁弁のプランジャ(図不示)が閉状態から開状態に作動する時、ソレノイド10の電流変化にボトム(変曲点)が発生する。この変化を抵抗15で電圧に変換し、抵抗702とコンデンサ703からなるフィルタとコンパレータ701を用いてパルス化し、マイコン1に入力することで電磁弁の作動完了を確認出来る。電流積分回路8は、OPアンプ801、抵抗803、トランジスタ804からなる電圧-電流変換回路と,OPアンプ802とコンデンサ805からなる積分回路とを備える。電磁弁の作動時、ソレノイド10に流れる電流に比例した電圧が抵抗15に発生する。この電圧に比例した電流がトランジスタ804のコレクタから引き込まれ、積分回路のコンデンサ805が充電される。OPアンプ802の電圧をA/D変換することによりソレノイド10に流れた電流の積分値、すなわち電荷量を知ることが出来る。
【0054】実施例6のメインルーチンは、実施例4のメインルーチンである図11である。図11のS011の洗浄開始サブルーチンは、実施例4では図44であったが、実施例6では図16である。図16において、S161でPO3をHiにして吸引駆動を開始し、S162で20msec経過したかどうか、S163でボトム検出パルスが発生したかどうか、S164で電流積分値が所定値に達したかどうかをチェックし、いずれかの条件が成立するとS165へ進んで吸引駆動を停止し、保持駆動に移行する。」(公報段落【0053】?【0054】)

上記オ.ないしキ.並びに図15及び図16の記載によれば、引用例3には、次の発明が記載されていると認められる。

「ソレノイド10を有して電磁弁を駆動する手段を有し、前記ソレノイド10への通電を制御する電磁弁制御回路とを備えた電磁弁制御装置において、
前記ソレノイド10に流れた電流を検出する手段を備え、
ソレノイド10に流れた電流の積分値を得る電流積分回路8を備え、電流の積分値が所定値に達した場合に、吸引駆動を停止し、保持駆動に移行する電磁弁制御装置。」(以下、「引用例3記載の発明」という。)

(3)対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、機能・構成からみて、引用例1記載の発明の「プランジャ2」、「コイルL」及び「電磁弁駆動手段10」が、それぞれ本願発明の「弁体」、「コイル」及び「コイルへの通電を制御する制御装置」に相当している。してみると、引用例1記載の発明の「テーパ状の燃料噴射口1と、このテーパ状の燃料噴射口1の開閉を行うプランジャ2と、コイルLを有して前記プランジャ2を駆動する手段とを有し、前記テーパ状の燃料噴射口1を開閉して燃料を噴射する電磁式の燃料噴射弁と、前記コイルLに供給する励磁電流I_(L)を制御する電磁弁駆動手段10とを備えた燃料噴射装置」なる前提技術は、本願発明の「弁座と、この弁座との間で燃料通路の開閉を行う弁体と、少なくとも1つのコイルを有して前記弁体を駆動する駆動手段とを有し、前記燃料通路を開閉して燃料を噴射する電磁式燃料噴射弁と、前記コイルへの通電を制御する制御装置とを備えた燃料噴射装置」なる前提技術に相当する。
また、引用例1記載の発明の「トランジスタQ_(1)とトランジスタQ_(1)のオン/オフを制御する手段」は、「コイルへの開弁電流と保持電流を切換え制御する手段」という限りにおいて、本願発明の「車両に搭載される2つの蓄電池と前記コイルとの間の電気的接続を開閉する開閉装置」に相当し、引用例1記載の発明の「初期の開弁時には比較的大きな励磁電流(開弁電流)を流し、一旦開弁した後は、開弁状態の維持に必要な最低限の励磁電流(保持電流)のみを流すように制御する装置」は、「弁体を閉弁状態から開弁方向に駆動する開弁動作では、開弁電流を流し、弁体が開弁動作を完了して開弁状態を保持する保持状態では、保持電流を流すように制御する装置」という限りにおいて、本願発明の「前記弁体を閉弁状態から開弁方向に駆動する開弁動作では、前記2つの蓄電池のうち高い電圧の蓄電池を前記コイルに接続し、前記弁体が開弁動作を完了して開弁状態を保持する保持状態では、前記2つの蓄電池のうち低い電圧の蓄電池を前記コイルに接続するように前記開閉装置を制御する装置」に相当し、さらに、引用例1記載の発明の「前記トランジスタQ_(1)をオフ状態に制御する」は、「コイルへの開弁電流をオフに制御する」という限りにおいて、本願発明の「前記2つの蓄電池のうち高い電圧の蓄電池と前記コイルとの接続を開くように前記開閉装置を制御する」に相当する。
また、同様に、引用例1記載の発明の「前記コイルLに流れる一次遅れで徐々に増加する励磁電流I_(L)を検出する第1の電流検知部21」は、「開弁動作から前記保持状態への切り換え時期に係るパラメータを検知する手段」という限りにおいて、本願発明の「前記コイルに流れる電流値を検出する電流値検出手段を備え、前記電流値検出手段によって検出された電流値の時間積分値を数値演算する演算手段」に相当するとともに、引用例1記載の発明の「開弁電流から前記保持電流への切り換え時期を前記一次遅れで徐々に増加する励磁電流I_(L)に基づいて決定し」は、「開弁動作から前記保持動作への切り換え時期を切り換え時期に係るパラメータに基づいて決定し」という限りにおいて、本願発明の「開弁動作から前記保持状態への切り換え時期を前記時間積分値に基づいて決定し」に相当する。

してみると、両者は、
「弁座と、この弁座との間で燃料通路の開閉を行う弁体と、少なくとも1つのコイルを有して前記弁体を駆動する駆動手段とを有し、前記燃料通路を開閉して燃料を噴射する電磁式燃料噴射弁と、前記コイルへの通電を制御する制御装置とを備えた燃料噴射装置において、
コイルへの開弁電流と保持電流を切換え制御する手段と、開弁動作から前記保持状態への切り換え時期に係るパラメータを検知する手段とを備え、
前記制御装置は、弁体を閉弁状態から開弁方向に駆動する開弁動作では、開弁電流を流し、弁体が開弁動作を完了して開弁状態を保持する保持状態では、保持電流を流すように制御する装置であって、開弁動作から前記保持動作への切り換え時期を切り換え時期に係るパラメータに基づいて決定し、コイルへの開弁電流をオフに制御する燃料噴射装置。」の点で一致し、以下の1)及び2)の点で相違する。

1)「コイルへの開弁電流と保持電流を切換え制御する手段」を備え、「弁体を閉弁状態から開弁方向に駆動する開弁動作では、開弁電流を流し、弁体が開弁動作を完了して開弁状態を保持する保持状態では、保持電流を流すように制御する」及び「コイルへの開弁電流をオフに制御する」ことに関して、本願発明では、「車両に搭載される2つの蓄電池と前記コイルとの間の電気的接続を開閉する開閉装置」を備え、「弁体を閉弁状態から開弁方向に駆動する開弁動作では、前記2つの蓄電池のうち高い電圧の蓄電池を前記コイルに接続し、前記弁体が開弁動作を完了して開弁状態を保持する保持状態では、前記2つの蓄電池のうち低い電圧の蓄電池を前記コイルに接続するように前記開閉装置を制御する」及び「前記2つの蓄電池のうち高い電圧の蓄電池と前記コイルとの接続を開くように前記開閉装置を制御」するものであるのに対して、引用例1記載の発明では、「トランジスタQ_(1)とトランジスタQ_(1)のオン/オフを制御する手段」を備え、「初期の開弁時には比較的大きな励磁電流(開弁電流)を流し、一旦開弁した後は、開弁状態の維持に必要な最低限の励磁電流(保持電流)のみを流すように制御する」及び「前記トランジスタQ_(1)をオフ状態に制御」するものである点(以下、「相違点1」という。)。

2)「開弁動作から前記保持状態への切り換え時期に係るパラメータを検知する手段」を備え、「開弁動作から前記保持動作への切り換え時期を切り換え時期に係るパラメータに基づいて決定し」に関して、本願発明では、「電流値検出手段によって検出された電流値の時間積分値を数値演算する演算手段」を備え、「前記時間積分値に基づいて決定する」のに対して、引用例1記載の発明では、「前記コイルLに流れる一次遅れで徐々に増加する励磁電流I_(L)を検出する第1の電流検知部21」を備え、「前記開弁電流から前記保持電流への切り換え時期を前記一次遅れで徐々に増加する励磁電流ILに基づいて決定」する点(以下、「相違点2」という。)。

(4)判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。
1)相違点1について
引用例2記載の発明の「励磁コイル」、「高電圧電源1」、「低電圧電源2」及び「電源切換手段」が、それぞれ本願発明の「コイル」、「高い電圧の蓄電池」、「低い電圧の蓄電池」及び「開閉装置」に相当するから、引用例2には、「2つの蓄電池とコイルとの間の電気的接続を開閉する開閉装置とを備え、弁体を閉弁状態から開弁方向に駆動する開弁動作では、前記2つの蓄電池のうち高い電圧の蓄電池を前記コイルに接続し、前記弁体が開弁動作を完了して開弁状態を保持する保持状態では、前記2つの蓄電池のうち低い電圧の蓄電池を前記コイルに接続するように開閉装置を制御制御する装置であって、高い電圧の蓄電池と前記コイルとの接続を開くように制御」するもの、すなわち、上記相違点1に係る本願発明と同様の技術思想が記載されていると言える。
そして、引用例1記載の発明と引用例2記載の技術思想は、共にコイルを有する電磁式の弁という同じ技術分野に属するものであるから、引用例1記載の発明において、「トランジスタQ_(1)とトランジスタQ_(1)のオン/オフを制御する手段とを備え、初期の開弁時には比較的大きな励磁電流(開弁電流)を流し、一旦開弁した後は、開弁状態の維持に必要な最低限の励磁電流(保持電流)のみを流すように制御し、保持状態への切り換え時期に前記トランジスタQ_(1)をオフ状態に制御する」ことに換えて、引用例2記載の技術思想を採用し、上記相違点1に係る本願発明のように構成することは、当業者にとって格別の創作力を要することもなく、なし得る程度のことにすぎない。

2)相違点2について
引用例3記載の発明の「ソレノイド10」、「電磁弁制御回路」、「ソレノイド10に流れた電流を検出する手段」及び「ソレノイド10に流れた電流の積分値を得る電流積分回路8を備え、電流の積分値が所定値に達した場合に、吸引駆動を停止し、保持駆動に移行する」が、それぞれ本願発明の「コイル」、「前記コイルへの通電を制御する制御装置」、「前記コイルに流れる電流値を検出する電流値検出手段」及び「前記電流値検出手段によって検出された電流値の時間積分値を数値演算する演算手段を備え、前記開弁動作から前記保持状態への切り換え時期を前記時間積分値に基づいて決定する」に相当することから、引用例3には、開弁動作から保持状態への切り換え時期に係るパラメータに関して、「電流値検出手段によって検出された電流値の時間積分値を数値演算する演算手段を備え、前記時間積分値に基づいて決定する」するもの、すなわち、上記相違点2に係る本願発明と同様の技術思想が記載されていると言える。
そして、引用例1記載の発明と引用例3記載の技術思想は、共にコイルを有する電磁式の弁という同じ技術分野に属するものであるから、引用例1記載の発明において、開弁動作から保持状態への切り換え時期に係るパラメータとして、引用例3記載の技術思想を採用して、上記相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者にとって格別の創作力を要することもなく、なし得る程度のことにすぎない。

また、本願発明を全体として検討しても、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術思想及び引用例3記載の技術思想から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術思想及び引用例3記載の技術思想に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-01 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2000-203048(P2000-203048)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤井 智毅八板 直人  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 金澤 俊郎
森藤 淳志
発明の名称 燃料噴射装置及び内燃機関  
代理人 井上 学  
代理人 井上 学  

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