• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2号主要部同一 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1186988
審判番号 不服2006-5273  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-22 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 平成 9年特許願第175050号「半導体装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月29日出願公開、特開平11- 26568〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年6月30日の出願であって、平成18年2月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年3月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月6日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成20年3月11日付けで審尋がなされ、同年5月16日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年4月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を、補正後の特許請求の範囲の請求項1と補正するとともに、明細書の段落【0006】を補正するものであって、補正前後の請求項1ないし3は以下のとおりである。

補正前
「【請求項1】 主表面を有する半導体基板と、
前記半導体基板の主表面上に設けられた溝と、
前記溝の側面上及び底面上に形成され、窒素を0.5?2原子%含有する酸化シリコン膜と、
前記溝内を埋め込むように、前記酸化シリコン膜上に形成された絶縁部材と
を有する半導体装置。
【請求項2】 主表面を有する半導体基板の該主表面上に溝を形成する工程と、
少なくとも前記溝の側面上及び底面上に酸化シリコン膜を形成する工程と、
前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において800?900℃で熱処理し、該酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程と、
前記溝内を絶縁材料で埋め込む工程と
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項3】 前記窒素を含有させる工程において、前記酸化シリコン膜をNOガスまたはN_(2 )Oガスを含む雰囲気中で熱処理する請求項2に記載の半導体装置の製造方法。」

補正後
「【請求項1】
主表面を有し、該主表面側の表面層にボロンが添加された半導体基板と、 前記半導体基板の主表面上に設けられた溝と、
前記溝の側面上及び底面上に形成され、窒素を0.5?2原子%含有する酸化シリコン膜と、
前記溝内を埋め込むように、前記酸化シリコン膜上に形成された絶縁部材と
を有する半導体装置。
【請求項2】
主表面を有する半導体基板の該主表面上に溝を形成する工程と、
少なくとも前記溝の側面上及び底面上に酸化シリコン膜を形成する工程と、
前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において800?900℃で熱処理し、該酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程と、
前記溝内を絶縁材料で埋め込む工程と
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記窒素を含有させる工程において、前記酸化シリコン膜をNOガスまたはN_(2 )Oガスを含む雰囲気中で熱処理する請求項2に記載の半導体装置の製造方法。」

(2)本件補正の内容の整理
〈補正事項〉
補正前の請求項1の「主表面を有する半導体基板」を補正後の請求項1の「主表面を有し、該主表面側の表面層にボロンが添加された半導体基板」と補正すること。

(3)本件補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無についての検討
上記補正事項についての補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項に関する補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。

(4)独立特許要件
上記(3)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、ここで、補正後の請求項1により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(4-1)補正後の発明
本件補正後の請求項1ないし3に係る発明は、上記「(1)本件補正の内容」の「補正後」の欄の請求項1ないし3に記載したとおりである。

(4-2)単一性について
(4-2-1)補正後の請求項1に係る発明を特定発明とした場合
補正後の請求項1に係る発明を特定発明(以下、「特定発明1」という。)とした場合、特定発明1は、「半導体装置」であり、補正後の請求項2に係る発明が「半導体装置の製造方法」である。そして、特定発明1は、「主表面を有し、該主表面側の表面層にボロンが添加された半導体基板」という構成を含んでいるものの、補正後の請求項2においては、「半導体基板」がどのようなものであるのか特定されていないため、補正後の請求項2に係る発明により製造される物は、特定発明1と一致しない。したがって、特定発明1と補正後の請求項2に係る発明とは、特許法第37条第3号に掲げる要件を満たすものではない。さらに、特定発明1と補正後の請求項2に係る発明とが、特許法第37条のその余のいずれの号に掲げる要件を満たすものでもないことは明らかである。
よって、特定発明1と補正後の請求項2に係る発明とは、特許法第37条1号ないし第5号に掲げるいずれの要件も満たすものではない。
(4-2-2)補正後の請求項2に係る発明を特定発明とした場合
補正後の請求項2に係る発明を特定発明(以下、「特定発明2」という。)とした場合、特定発明2と補正後の請求項1に係る発明とは、特許法第37条第1号ないし第5号に掲げるいずれの要件を満たすものでもないことは明らかである。
(4-2-3)補正後の請求項3に係る発明を特定発明とした場合
補正後の請求項3に係る発明を特定発明(以下、「特定発明3」という。)とした場合、特定発明3と補正後の請求項1に係る発明とは、特許法第37条第1号ないし第5号に掲げるいずれの要件を満たすものでもないことは明らかである。

したがって、本件補正は、補正後の請求項1に係る発明が、特許法第37条の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(5)むすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成18年4月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成17年1月4日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項2に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項2】
主表面を有する半導体基板の該主表面上に溝を形成する工程と、
少なくとも前記溝の側面上及び底面上に酸化シリコン膜を形成する工程と、
前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において800?900℃で熱処理し、該酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程と、
前記溝内を絶縁材料で埋め込む工程と
を有する半導体装置の製造方法。」

4.特許法第29条第2項について
(1)刊行物に記載された発明
刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された特開平7-115124号公報(以下、「刊行物」という。)には、「集積回路内のトレンチ分離構造および作成方法」(発明の名称)に関して、図1ないし図10とともに、以下の事項が記載されている。
「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は一般に半導体装置に関し、さらに詳しくは、集積回路内のトレンチ分離構造とその作成方法とに関する。
【0002】 【従来の技術】半導体産業は、デバイスの寸法を小さくすることによりデバイスの性能を高め、デバイスの密度を上げる努力を続けている。一定のチップ寸法については、能動デバイスを隔てる水平距離またはデバイス分離幅を小さくすることにより、デバイス密度を大きくすることができる。デバイス分離幅を小さくして、なおかつ隣接する能動デバイス間の必要な電気分離を維持したいという要望が、いくつもの異なる分離法の開発を導いてきた。
【0003】高密度の集積回路においてデバイス分離を行うために提案された1つの方法がトレンチ分離である。トレンチ分離により、周囲の能動領域の電界酸化物の侵食がなくなり、そのためにデバイス分離幅を小さくすることができる。残念ながら、既存のトレンチ分離法で作成された集積回路は、早期のゲート酸化物の破壊を起こすことが多く、そのために信頼性が低い。早期破壊の理由の1つは、トレンチのコーナー付近で成長するゲート酸化物が、他の部分で成長するものと比べて破壊電圧(降伏電圧)が低いことである。これは、トレンチのコーナー付近では、ゲートの酸化中は、シリコン基板がより遅い速度で酸化するためで、このことによって、トレンチ・コーナー付近では他の部分で成長する酸化物と比べてゲート酸化物が薄くなる。また、トレンチ・コーナーの表面形状が険しいために、デバイス動作中にトレンチ端付近に高い電界が発生し、この高電界によりさらに、薄くなったゲート酸化物の破壊電圧が低下する。
【0004】 【発明が解決しようとする課題】従って、信頼性を改善して高密度の集積回路を作成することができるトレンチ分離構造が必要である。」(第0001?0004段落)、
「【0006】 【実施例】図1ないし図10は、トレンチ分離構造が集積回路内に形成される本発明のある実施例による工程段階を示す。図1には、半導体基板12と、バッファ層14と、エッチ・ストップ層16とにより構成される集積回路構造の部分10が示される。半導体基板12は、単結晶シリコン基板であることが好ましい。あるいは、半導体基板12は、絶縁体上シリコン(silicon on insulator)基板、サファイヤ上シリコン(silicon on sapphire )基板などでもよい。半導体基板12は、好ましくは熱酸化されて、バッファ層14を形成し、バッファ層14の厚みは10ないし100ナノメータである。あるいはバッファ層14は、化学蒸着された二酸化シリコンでもよい。バッファ層14の形成後に、エッチ・ストップ層16がバッファ層14上に形成される。本発明の好適な実施例では、エッチ・ストップ層16は化学蒸着された窒化シリコンであることが好ましく、その厚みは50ないし200ナノメータである。あるいは、エッチ・ストップ層16は、窒化ホウ素や酸窒化シリコンなどの他の材料でもよい。
【0007】図2では、エッチ・ストップ層16の部分の上にあるフォトレジスト・マスク18を用いてエッチ・ストップ層16と下にあるバッファ層14とをパターニングして、半導体基板12の第1部分20が露出される。フォトレジスト・マスク18は、標準的なフォトリソグラフィック・パターニング工程を用いて形成され、エッチ・ストップ層16とバッファ層14とは、標準的なエッチング技術を用いてパターニングされる。
【0008】図3では、半導体基板12の第1部分20が標準的なエッチング技術を用いて異方性エッチングされて、トレンチ22を形成する。トレンチ22は、図3に示されるように半導体基板12の第2部分内に能動領域23をも規定する。トレンチ22は、側壁24とトレンチ底26とを有し、能動領域23はトレンチ側壁24と隣接する。トレンチ22が形成されると、フォトレジスト・マスク18が標準的なフォトレジスト除去技術を用いて除去される。
【0009】次に図4においては、トレンチ・ライナー28がトレンチ側壁24とトレンチ底26に隣接して形成される。トレンチ・ライナー28の厚みは、トレンチ22を充填するには不充分である。好適な実施例においては、トレンチ・ライナー28は、熱二酸化シリコンの層で、5ないし100ナノメータの厚みを持ち、トレンチ側壁24とトレンチ底26とを熱酸化することにより形成される。あるいは、トレンチ・ライナー28は、酸窒化シリコンなどの他の誘電性材料でもよい。また、図4に示されるように、トレンチ底26の下にあるシリコン基板12の部分にはイオンが注入されて、トレンチ底26に隣接してチャンネル・ストップ領域30が形成されることもある。チャンネル・ストップ領域30は、トレンチ・ライナー28の作成前に形成しても後に作成してもよい。
【0010】次に図5において、エッチ・ストップ層16とトレンチ・ライナー28との上にトレンチ充填材32が形成されて、トレンチ22は実質的に充填される。好適な実施例においては、トレンチ充填材32は化学蒸着された二酸化シリコンであり、オゾンとテトラエチルオルトシリケート(TEOS)をソース・ガスとして用いて付着される。あるいはトレンチ充填材32は、酸化ゲルマニウム,スピン・オン・ガラスなどの他の誘電性材料や、多結晶シリコン,二酸化シリコンなどの他の材料を組み合わせたものでもよい。またトレンチ充填材32は、プラズマ強化化学蒸着,電子サイクロトロン共鳴付着(electron cyclotron resonance deposition ),スピン・オン付着などの他の技術を用いて形成してもよい。
【0011】次に図6で、トレンチ充填材32の一部が選択的に除去されて、エッチ・ストップ層16を露出し、トレンチ22を実質的に充填するトレンチ・プラグ34を形成する。図6に示されるように、トレンチ・プラグ34はトレンチ22内にあり、トレンチ・ライナー28に隣接する。好適な実施例においては、化学機械的研磨を用いてトレンチ・プラグ材料32の部分を選択的に除去して、トレンチ・プラグ34を形成する。あるいは、標準的な湿式またはプラズマ・エッチング技術を用いてトレンチ・プラグ34を形成することもでき、また化学機械的研磨と標準的なエッチング技術とを組み合わせて用いてトレンチ・プラグ34を形成してもよい。
【0012】次に図7で、エッチ・ストップ層16とバッファ層14とが除去されて、能動領域23の表面部分36が露出され、半導体基板12内にトレンチ分離領域40が形成される。このときトレンチ分離領域40は、トレンチ22と、トレンチ・ライナー28と、トレンチ・プラグ34とによって構成される。図7に示されるように、能動領域23はトレンチ分離領域40と境界を接する。エッチ・ストップ層16とバッファ層14とがそれぞれ窒化シリコンと二酸化シリコンである好適な実施例では、エッチ・ストップ層16はリン酸内で除去され、バッファ層14は緩衝フッ化水素酸内で除去される。あるいは、エッチ・ストップ層16も標準の乾式エッチング技術を用いて除去することもできる。
【0013】次に図8において、20ナノメータ未満の厚みを有する第1誘電層42が能動領域23上に形成される。好適な実施例においては、第1誘電層42は熱二酸化シリコンであり、露出された表面部分36を熱酸化することにより形成される。あるいは、第1誘電層42は酸窒化シリコンなどの他の誘電性材料でもよく、熱二酸化シリコンの層を、アンモニア(NH_(3 )),亜酸化窒素(N_(2) O),または一酸化窒素(NO)を含む雰囲気中で熱窒化することにより形成することができる。あるいは、露出された表面36を、前述の気体のうち1つを含む雰囲気中で直接窒化することにより酸窒化シリコン層を形成してもよい。また、薄い熱酸化物の犠牲層を露出された表面上に形成して、その後で取り除いてから第1誘電層42を形成することもできる。
【0014】次に図9では、第2誘電層44が第1誘電層42,能動領域23およびトレンチ分離領域40の上に形成される。さらに、第2誘電層44と第1誘電層42は、合わせて20ナノメータ未満の厚みを有する。好適な実施例においては、第2誘電層44は化学蒸着された二酸化シリコンで、これは窒素と酸素とを含む雰囲気中で約30分間、摂氏約1000度の温度で付着されて、密度を高める。あるいは、第2の付着された誘電層44は、酸窒化シリコンなどの他の材料でもよく、これは化学蒸着された二酸化シリコンの層を、アンモニア(NH_(3 )),亜酸化窒素(N_(2) O)または一酸化窒素(NO)を含む雰囲気中で熱窒化することにより形成される。次に導電層が付着およびパターニングされて、トランジスタ・ゲート電極46が形成されるが、このとき第1誘電層42と第2誘電層44とはトランジスタ・ゲート電極46の下にある複合ゲート誘電体を形成する。図9に示されるように、第2誘電層44がトレンチ・コーナーにおいてゲート誘電体の全体の厚みを大きくする。また、第2誘電層44は同形に付着されるので、トレンチ・コーナーに隣接するゲート誘電体の全体の厚みは、基本的に第2誘電層44の厚みの2倍の量だけ増える。これは、トレンチ・プラグとトレンチ・コーナーとの間の領域が第2誘電層44により充填される、すなわち塞がれるためである。そのために、トレンチ・コーナーと上のトランジスタ・ゲート電極との間にあるゲート誘電体の破壊電圧が大きくなる。好適な実施例においては、第1トランジスタ・ゲート電極46は多結晶シリコンで構成される。あるいは、トランジスタ・ゲート電極36は、金属、または多結晶シリコンとケイ化金属との複合体、または多結晶シリコンと窒化金属との複合体でもよい。図9に示されるように、トランジスタ・ゲート電極46は第2の付着された誘電層44と、能動領域23と、トレンチ分離領域40との上にある。
【0015】直線10-10で切断した図9の断面図を図10に示す。」(第0004?0015段落)

第0001段落の「半導体装置に関し、さらに詳しくは、集積回路内のトレンチ分離構造とその作成方法とに関する。」、第0006段落の「図1ないし図10は、トレンチ分離構造が集積回路内に形成される本発明のある実施例による工程段階を示す。」、第0008段落の「図3では、半導体基板12の第1部分20が標準的なエッチング技術を用いて異方性エッチングされて、トレンチ22を形成する。トレンチ22は、側壁24とトレンチ底26とを有し、能動領域23はトレンチ側壁24と隣接する。」、第0009段落の「次に図4においては、トレンチ・ライナー28がトレンチ側壁24とトレンチ底26に隣接して形成される。トレンチ・ライナー28の厚みは、トレンチ22を充填するには不充分である。好適な実施例においては、トレンチ・ライナー28は、熱二酸化シリコンの層で、5ないし100ナノメータの厚みを持ち、トレンチ側壁24とトレンチ底26とを熱酸化することにより形成される。あるいは、トレンチ・ライナー28は、酸窒化シリコンなどの他の誘電性材料でもよい。」、第0010段落の「次に図5において、エッチ・ストップ層16とトレンチ・ライナー28との上にトレンチ充填材32が形成されて、トレンチ22は実質的に充填される。好適な実施例においては、トレンチ充填材32は化学蒸着された二酸化シリコンであり、オゾンとテトラエチルオルトシリケート(TEOS)をソース・ガスとして用いて付着される。」との記載および図1ないし10から、「半導体装置」「の作成方法」の各「工程」であって、「半導体基板12の第1部分20が」「異方性エッチングされて、トレンチ22を形成し」、「トレンチ22は、側壁24とトレンチ底26とを有し、」「トレンチ・ライナー28がトレンチ側壁24とトレンチ底26に隣接して形成され、「トレンチ・ライナー28は、」「酸窒化シリコン」で、「トレンチ22は」「充填され」、「トレンチ充填材32は」「二酸化シリコンで」ある「半導体装置」「の作成方法」が記載されていることは明らかである。

したがって、刊行物には、以下の発明が記載されている。
「半導体基板12の第1部分20を異方性エッチングし、トレンチ22を形成する工程と、
トレンチ側壁24とトレンチ底26に隣接して形成される酸窒化シリコンのトレンチライナー28を形成する工程と、
トレンチ22を二酸化シリコンのトレンチ充填材32で充填する工程と
を有する半導体装置の作成方法。」(以下、「刊行物発明」という。)

(2)対比
本願発明と刊行物発明とを対比する。
(2-1)刊行物発明の「半導体基板12」、「トレンチ22」は、本願発明の「半導体基板」、「溝」に、それぞれ、相当する。
(2-2)刊行物発明の「半導体基板12の第1部分20」は、「半導体基板12」の「主表面」であることは明らかであるから、刊行物発明の「半導体基板12の第1部分20を異方性エッチングし、トレンチ22を形成する工程」は、本願発明の「主表面を有する半導体基板の該主表面上に溝を形成する工程」に相当する。
(2-3)刊行物発明の「二酸化シリコン」は、絶縁材料であり、そして、刊行物発明の「充填」は、埋め込むことであるから、刊行物発明の「トレンチ22を二酸化シリコンのトレンチ充填材32で充填する工程」は、本願発明の「溝内を絶縁材料で埋め込む工程」に相当する。
(2-4)刊行物発明の「半導体装置の作成方法」は、本願発明の「半導体装置の製造方法」に相当する。

したがって、本願発明と刊行物発明とは、
「主表面を有する半導体基板の該主表面上に溝を形成する工程と、
前記溝内を絶縁材料で埋め込む工程と
を有する半導体装置の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
本願発明は、「少なくとも前記溝の側面上及び底面上に酸化シリコン膜を形成する工程と、 前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において800?900℃で熱処理し、該酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程」を有するのに対し、刊行物発明は、「トレンチ側壁24とトレンチ底26に隣接して形成される酸窒化シリコンのトレンチライナー28を形成する工程」を有する点。

(3)当審の判断(その1)
相違点について以下で検討する。
(3-1)半導体装置の製造方法において、酸窒化シリコン膜を形成する手段として、酸化シリコン膜を形成する工程と、前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において900℃程度で熱処理し、酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程とを用いることは、例えば、以下の周知文献1、2において記載されているように、従来周知である。
(3-2)周知文献1.特開平5-67675号(発明の名称「半導体装置の製造方法」)の第0029段落には、「熱酸化法によりSi溝404内に30nmのSiO_(2)を形成する。次にアンモニア(NH_(3))雰囲気中で900℃,30分の熱処理を行ないSi基板401表面及びSi溝404内表面のSiO_(2) を熱酸窒化膜(オキシナイトライド)402,405に変換する。周知のように、Si基板上の薄いSiO_(2 )をアンモニア雰囲気中で熱処理すると酸窒化膜が得られる。」との記載があり、Si溝404内にSiO_(2)を形成し、次にアンモニア雰囲気中で900℃の熱処理を行ないSi基板401表面及びSi溝404内表面のSiO_(2 )を熱酸窒化膜に変換し、酸窒化膜を得る技術が、記載されていることが明らかである。
(3-3)周知文献2.特開平5-218405号(発明の名称「半導体装置及びその製造方法」)の第0021段落には、「シリコン基板1上にシリコン酸化膜を、例えば50オングストロ-ム形成後、さらにアンモニア(またはN_(2) O,N_(2) ,NF_(3) ,NO_(2) ,N_(2) O_(4) ,NOガス)雰囲気中でのランプ加熱(RTN:Rapid Thermal Nitridation )を、例えば900℃で10秒間行ない、且つ同温、同時間の酸素雰囲気中での再酸化(RTO:Rapid Thermal Oxidation )を行なうことにより、シリコン基板1との界面より10オングストロームの範囲における窒素原子の濃度(原子濃度)が平均で1atom・%以内の範囲にあるゲート絶縁膜4を形成する(図1(a))。」との記載があり、シリコン基板1上にシリコン酸化膜を形成後、さらにアンモニア(またはN_(2) O,N_(2) ,NF_(3) ,NO_(2) ,N_(2 )O_(4 ),NOガス)雰囲気中での加熱を900℃で行うことにより、窒素原子の濃度が平均で1atom・%以内の範囲にある絶縁膜を形成する技術が、記載されていることが明らかである。
(3-4)したがって、刊行物発明において、「トレンチ側壁24とトレンチ底26に隣接して形成される酸窒化シリコンのトレンチライナー28を形成する工程」の「酸窒化シリコン」を形成する手段として、周知文献1、2に記載された周知の技術を適用し、本願発明の如く「少なくとも前記溝の側面上及び底面上に酸化シリコン膜を形成する工程と、 前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において800?900℃で熱処理し、該酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程」とすることは、当業者が容易になし得るものである。
(3-5)よって、本願発明は、刊行物に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.特許法第29条の2について
(1)先願明細書に記載された発明
先願明細書
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願平9-138989号(特開平10-335442号公報参照)(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、「半導体装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「【0017】 【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため、本発明の半導体装置では、素子領域と素子分離領域との境界に、窒素を含む酸化シリコン膜が存在する構成を採用した。ここで、素子領域及び素子分離領域が半導体基板上にある場合、その半導体基板にシリコン基板を用いることもできる。また、素子分離領域の成分を主に酸化シリコンとすることもできる。また、窒素を含む酸化シリコン膜の中の窒素濃度を、窒素対酸素の比で5分の1以下とするのが好適である。また、ここでの半導体装置は、MOS型FETを含む構成とすることもでき る。さらに、素子分離領域の形成方法については、半導体基板をエッチングし、溝部を形成する工程と、この溝部を絶縁膜にて埋める工程とを含む方法を採用することもできる。一方、本発明の製造方法では、半導体基板表面の素子領域を形成する部分にマスク材を形成する工程と、マスク材を用いて半導体基板をエッチングして素子分離領域となる溝部を形成する工程と、溝部に窒素を含む酸化シリコン膜を形成する工程と、溝部を絶縁膜にて埋める工程とを具備する。ここで、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程を、窒素化合物を含む雰囲気中で加熱する工程によって行うこともできる。その場合、窒素化合物として、N_(2)O、NH_(3)、NOなどを用いることもできる。また、この窒素化合物を含む雰囲気中で加熱する工程においては、加熱温度を700?1200℃とするのが好適である。また、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程においては、形成する窒素を含む酸化シリコン膜厚を3?15nmとするのが好適である。また、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程を、酸化シリコン膜を形成し、窒素化合物を含む雰囲気中で加熱する工程によって行うこともできる。その場合、窒素化合物として、N_(2)O、NH_(3)、NOなどを用いることもできる。また、酸化シリコン膜を形成し、窒素化合物を含む雰囲気中で加熱する工程においては、加熱温度を400?1200℃とするのが好適である。また、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程においては、形成する酸化シリコン膜厚を3?15nmとするのが好適である。また、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程を、酸化シリコン膜を形成し、窒素イオンを注入する工程によって行うこともできる。その場合、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程においては、形成する酸化シリコン膜厚を3?15nmとするのが好適である。また、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程を、酸化シリコン膜を形成し、窒素化合物イオンを注入する工程によって行うこともできる。その場合、窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程においては、形成する酸化シリコン膜厚を3?15nmとするのが好適である。また、酸化シリコン膜の形成工程を、熱酸化工程によって行うこともできる。また、酸化シリコン膜の形成工程を、CVDによる工程によって行うこともできる。」(第0017段落)

第0017段落の「本発明の半導体装置では、素子領域と素子分離領域との境界に、窒素を含む酸化シリコン膜が存在する構成を採用した。」、「本発明の製造方法では、半導体基板表面の素子領域を形成する部分にマスク材を形成する工程と、マスク材を用いて半導体基板をエッチングして素子分離領域となる溝部を形成する工程と、溝部に窒素を含む酸化シリコン膜を形成する工程と、溝部を絶縁膜にて埋める工程とを具備する。」、「窒素を含む酸化シリコン膜の形成工程を、酸化シリコン膜を形成し、窒素化合物を含む雰囲気中で加熱する工程によって行うこともできる。」、「酸化シリコン膜を形成し、窒素化合物を含む雰囲気中で加熱する工程においては、加熱温度を400?1200℃とするのが好適である。」との記載から、先願明細書には、以下の発明が記載されている。
「半導体基板表面の素子領域を形成する部分にマスク材を形成し、マスク材を用いて半導体基板をエッチングして溝部を形成する工程と、
酸化シリコン膜を形成する工程と、
窒素化合物を含む雰囲気中で、加熱温度を400?1200℃として加熱することにより、溝部に窒素を含む酸化シリコン膜を形成する工程と、
溝部を絶縁膜にて埋める工程とを具備する半導体装置の製造方法。」(以下、「先願発明」という。)

(2)対比
補正前の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)と先願発明とを対比する。
(2-1)先願発明の「溝部」は、本願発明の「溝」に相当する。
(2-2)先願発明の「半導体基板表面」は、「素子領域を形成する」面、すなわち、主表面であることが明らかであるから、先願発明の「半導体基板表面の素子領域を形成する部分にマスク材を形成し、マスク材を用いて半導体基板をエッチングして溝部を形成する工程」は、本願発明の「主表面を有する半導体基板の該主表面上に溝を形成する工程」に相当する。
(2-3)先願発明の「溝部に」「窒素を含む酸化シリコン膜」を形成することから、「酸化シリコン膜」は、「溝部」における側面上及び底面上に形成することは明らかである。そして、「窒素化合物を含む雰囲気中で、加熱」することは、「窒化雰囲気中において熱処理」することに他ならないから、刊行物発明の「酸化シリコン膜を形成する工程と、窒素化合物を含む雰囲気中で、加熱することにより、溝部に窒素を含む酸化シリコン膜を形成する工程」は、本願発明の「少なくとも前記溝の側面上及び底面上に酸化シリコン膜を形成する工程と、 前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において熱処理し、該酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程」に相当する。

したがって、本願発明と先願発明とは、
「主表面を有する半導体基板の該主表面上に溝を形成する工程と、
少なくとも前記溝の側面上及び底面上に酸化シリコン膜を形成する工程と、
前記酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において熱処理し、該酸化シリコン膜中に窒素を含有させる工程と、
前記溝内を絶縁材料で埋め込む工程と
を有する半導体装置の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
窒化雰囲気中において熱処理する際の温度が、本願発明では「800?900℃」であるのに対し、先願発明では「400?1200℃」である点。

(3)当審の判断(その2)
相違点について以下で検討する。
(3-1)先願発明に記載の「400?1200℃」は、本願発明に記載の「800?900℃」を包含しており、温度範囲として重複部分を有している。
(3-2)さらに、半導体装置の製造方法の技術分野において、酸化シリコン膜を、窒化雰囲気中において熱処理し、酸化シリコン膜中に窒素を含有させる際に、該熱処理の温度を900℃程度の温度とすることは、例えば、前記4.(3)において提示した以下の周知文献1、2においても記載されているように、本願出願前において当業者の技術常識である。
(3-3)周知文献1.特開平5-67675号の第0029段落には、「熱酸化法によりSi溝404内に30nmのSiO_(2)を形成する。次にアンモニア(NH_(3))雰囲気中で900℃,30分の熱処理を行ないSi基板401表面及びSi溝404内表面のSiO_(2 )を熱酸窒化膜(オキシナイトライド)402,405に変換する。」と記載されている。
(3-4)周知文献2.特開平5-218405号の第0021段落には、「シリコン基板1上にシリコン酸化膜を、例えば50オングストロ-ム形成後、さらにアンモニア(またはN_(2) O,N_(2) ,NF_(3) ,NO_(2) ,N_(2 )O_(4) ,NOガス)雰囲気中でのランプ加熱(RTN:Rapid Thermal Nitridation )を、例えば900℃で10秒間行ない、且つ同温、同時間の酸素雰囲気中での再酸化(RTO:Rapid Thermal Oxidation )を行なうことにより、シリコン基板1との界面より10オングストロームの範囲における窒素原子の濃度(原子濃度)が平均で1atom・%以内の範囲にあるゲート絶縁膜4を形成する」と記載されている。
(3-5)加えて、本願明細書の第0030段落には「熱処理温度は800℃に限定されない。ただし、熱処理温度が低すぎると所望の含有量を得るまでの処理時間が長くなり、高すぎると制御が困難になる。このため熱処理温度を800?900℃程度とすることが好ましい。」と記載されているものの、これら「処理時間」や「制御」の困難性は、酸化シリコン膜中に含有させる窒素の濃度などの条件に依存することは明らかであることから、それらが特定されていない本願発明において、「800?900℃」という温度の範囲に臨界的意義が認められない。
(3-6)上記(3-1)ないし(3-5)における検討から、上記相違点は実質的なものではない。
(3-7)よって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項1及び3について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-22 
結審通知日 2008-08-26 
審決日 2008-09-08 
出願番号 特願平9-175050
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01L)
P 1 8・ 642- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 松田 成正
北島 健次
発明の名称 半導体装置及びその製造方法  
代理人 高橋 敬四郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ