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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02N
管理番号 1187001
審判番号 不服2006-12856  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-21 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2001-240461「スタータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月21日出願公開、特開2003- 49754〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本件出願は、平成13年8月8日に出願されたものであって、平成17年11月30日付けで拒絶理由が通知され、平成18年2月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月17日付けで拒絶査定がなされ、同年6月21日に同拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年7月21日に手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、これらに対し、平成20年6月30日付けで審尋がなされ、同年7月24日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

[2]平成18年7月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成18年7月21日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.本件補正の内容、及び補正の目的
平成18年7月21日付けの手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成18年2月6日付けの手続補正書により補正された)下記の(ロ)に示す請求項1乃至8を下記の(イ)に示す請求項1乃至5と補正するものである。

(イ)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 モータの回転力をピニオンと噛み合う内燃機関のリングギヤに伝達して前記内燃機関を始動させるスタータであって、
前記モータの回転力を出力する出力軸と、
この出力軸上にヘリカルスプライン嵌合するバレルを有し、前記出力軸から前記バレルに伝達された回転を前記ピニオンに伝達する一方向クラッチとを備え、
前記出力軸に設けられるスプラインと前記バレルに設けられるスプライン、または何方か一方のスプラインの表面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に10μm以下の微小な凹凸を有し、かつグリースが塗布されていることを特徴とするスタータ。
【請求項2】 請求項1に記載した前記スプラインの表面に化成皮膜を形成する化成処理方法であって、
前記スプライン表面の汚れを除去する洗浄工程と、
前記スプラインを化成浴に浸漬して化成処理する処理工程と、
化成処理した前記スプラインを洗浄して化成処理液を除去する処理液除去工程とを有している化成処理方法。
【請求項3】 請求項2に記載した化成処理方法において、
前記洗浄工程の前に、
前記出力軸または前記バレルに対し、前記スプライン以外の不要部分をマスキングするマスキング工程を有し、
前記処理液除去工程の後に、
前記マスキングを除去するマスキング除去工程を有していることを特徴とする化成処理方法。
【請求項4】 請求項2に記載した化成処理方法において、
前記洗浄工程は、
アルカリ洗浄によって前記スプライン表面の汚れを除去する工程と、
その後、湯洗によってアルカリ液を除去する工程とを有していることを特徴とする化成処理方法。
【請求項5】 請求項2に記載した化成処理方法において、
前記処理液除去工程は、
湯洗によって前記化成処理液を除去する工程と、
その後、前記スプライン表面の水分を除去する乾燥工程とを有していることを特徴とする化成処理方法。」

(ロ)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
モータの回転力をピニオンと噛み合う内燃機関のリングギヤに伝達して前記内燃機関を始動させるスタータであって、
前記モータの回転力を出力する出力軸と、
この出力軸上にヘリカルスプライン嵌合するバレルを有し、前記出力軸から前記バレルに伝達された回転を前記ピニオンに伝達する一方向クラッチとを備え、
前記出力軸に設けられるスプラインと前記バレルに設けられるスプライン、または何方か一方のスプラインの表面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に10μm以下の微小な凹凸を有していることを特徴とするスタータ。
【請求項2】
モータの回転力をピニオンと噛み合う内燃機関のリングギヤに伝達して前記内燃機関を始動させるスタータであって、
前記モータの回転力を出力する出力軸と、
この出力軸上にヘリカルスプライン嵌合するバレルを有し、前記出力軸から前記バレルに伝達された回転を前記ピニオンに伝達する一方向クラッチとを備え、
前記出力軸に設けられるスプラインと前記バレルに設けられるスプライン、または何方か一方のスプラインの表面に10μm以下の微小な凹凸が設けられていることを特徴とするスタータ。
【請求項3】
モータの回転力を出力する出力軸と、
この出力軸上にヘリカルスプライン嵌合するバレルを有し、前記出力軸から前記バレルに伝達された回転をピニオンに伝達する一方向クラッチとを備え、
前記モータの回転力を前記ピニオンと噛み合う内燃機関のリングギヤに伝達して前記内燃機関を始動させるスタータにおいて、
前記出力軸に設けられるスプラインと前記バレルに設けられるスプライン、または何方か一方のスプラインの表面に化成皮膜を形成する化成処理方法であって、
前記スプライン表面の汚れを除去する洗浄工程と、
前記スプラインを化成浴に浸漬して化成処理する処理工程と、
化成処理した前記スプラインを洗浄して化成処理液を除去する処理液除去工程とを経て、前記化成皮膜の表面に10μm以下の微小な凹凸が設けられることを特徴とする化成処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載した化成処理方法において、
前記洗浄工程の前に、
前記出力軸または前記バレルに対し、前記スプライン以外の不要部分をマスキングするマスキング工程を有し、
前記処理液除去工程の後に、
前記マスキングを除去するマスキング除去工程を有していることを特徴とする化成処理方法。
【請求項5】
請求項3に記載した化成処理方法において、
前記洗浄工程は、
アルカリ洗浄によって前記スプライン表面の汚れを除去する工程と、
その後、湯洗によってアルカリ液を除去する工程とを有していることを特徴とする化成処理方法。
【請求項6】
請求項3に記載した化成処理方法において、
前記処理液除去工程は、
湯洗によって前記化成処理液を除去する工程と、
その後、前記スプライン表面の水分を除去する乾燥工程とを有していることを特徴とする化成処理方法。
【請求項7】
請求項2に記載したスタータにおいて、
前記スプライン表面の微小な凹凸は、前記スプライン表面を酸洗浄処理して設けられていることを特徴とするスタータ。
【請求項8】
請求項2に記載したスタータにおいて、
前記スプライン表面の微小な凹凸は、機械的な加工により設けられていることを特徴とするスタータ。」

請求項1に係る本件補正は、本件補正前は「スプラインの表面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に10μm以下の微小な凹凸を有している」とされていたものを「スプラインの表面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に10μm以下の微小な凹凸を有し、かつグリースが塗布されている」と補正し、スプラインの表面に係る発明特定事項を具体化するものであるから、本件補正前の請求項1の発明特定事項を限定的に減縮するものであって、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲を減縮することを目的とするものと認められる。

2.独立特許要件について
本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて検討する。

(1)引用例
1)実願昭63-25276号(実開平1-130074号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)
2)特開平4-341648号公報(以下、「引用例2」という。)
3)特開平7-90611号公報(以下、「引用例3」という。)

(2)当審の判断
1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である上記引用例1には、次の事項が記載されている。

ア.「(産業上の利用分野)
本考案は車輌の機関始動用として用いられる始動電動機に関する。」(明細書第2頁第4?6行)

イ.「第4図において、1は機関を始動するための回転力を発生させる直流電動機、2は直流電動機1の電機子回転軸2aおよびこれから前方へ一体に伸長する出力回転軸2bを備えてなる回転軸、3は出力回転軸2bに摺動可能に嵌装されたオーバランニングクラッチ装置、4は同様に出力回転軸2bに摺動可能に嵌装されたピニオン移動筒をそれぞれ示している。
オーバランニングクラッチ装置3は出力回転軸2bに形成されたヘリカルスプライン7(5の誤記と認める。)に噛み合う歯部を内周面に形成した筒状部を後部に一体的に有するクラッチアウタ3aを備え、クラッチインナ3bはピニオン移動筒4の後端部を組み込んで構成されている。ピニオン移動筒4はその内周面に嵌着された軸受6a,6bを介して出力回転軸2bに嵌装され、その前端外周部には機関のリングギヤ(図示せず)と噛み合うピニオン7が創設されている。」(明細書第2頁第16行?第3頁第13行)

上記ア.及びイ.並びに各図の記載によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「直流電動機1の回転力をピニオン7と噛み合う機関のリングギヤに伝達して前記機関を始動させる始動電動機であって、
前記直流電動機1の回転力を出力する出力回転軸2bと、
この出力回転軸2b上にヘリカルスプライン嵌合するクラッチアウタ3aを有し、前記出力回転軸2bから前記クラッチアウタ3aに伝達された回転を前記ピニオン7に伝達するオーバランニングクラッチ装置3とを備え、
前記出力回転軸2bに設けられるヘリカルスプライン5と前記クラッチアウタ3aの内周面に形成されるヘリカルスプライン5に噛み合う歯部を有する始動電動機。」(以下、「引用例1記載の発明」という。)

2)対比
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、機能又は構成からみて、引用例1記載の発明の「直流電動機1」が本願補正発明の「モータ」に相当する。以下同様に、引用例1記載の発明の「ピニオン7」は本願補正発明の「ピニオン」に、「機関」が「内燃機関」に、「始動電動機」が「スタータ」に、「出力回転軸2b」が「出力軸」に、「クラッチアウタ3a」が「バレル」に、「オーバランニングクラッチ装置3」が「一方向クラッチ」に、「ヘリカルスプライン5」が「スプライン」に、「クラッチアウタ3aの内周面に形成されるヘリカルスプライン5に噛み合う歯部」が「バレルに設けられるスプライン」に、それぞれ相当する。

してみると、両者は、
「モータの回転力をピニオンと噛み合う内燃機関のリングギヤに伝達して前記内燃機関を始動させるスタータであって、
前記モータの回転力を出力する出力軸と、
この出力軸上にヘリカルスプライン嵌合するバレルを有し、前記出力軸から前記バレルに伝達された回転を前記ピニオンに伝達する一方向クラッチとを備えるスタータ。」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点
本願補正発明では、「前記出力軸に設けられるスプラインと前記バレルに設けられるスプライン、または何方か一方のスプラインの表面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に10μm以下の微小な凹凸を有し、かつグリースが塗布されている」のに対して、引用例1記載の発明では、出力軸に設けられるスプラインとバレルに設けられるスプラインを備えるものではあるが、これらの表面処理等の具体的態様が明らかではない点(以下、「相違点」という。)。

3)判断
上記相違点について検討する。
本願補正発明において、上記相違点に係る「前記出力軸に設けられるスプラインと前記バレルに設けられるスプライン、または何方か一方のスプラインの表面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に10μm以下の微小な凹凸を有し、かつグリースが塗布されている」なる事項を採用したことの技術的意義(解決しようとする技術的課題)は、本願明細書の段落0005に記載されるように、「この構成によれば、スプライン部に塗布されるグリースが化成皮膜の表面に有する10μm以下の微小な凹凸によって保持されるので、保油効果を大幅に改善でき、且つ摩耗に対する耐久寿命も向上する。更に、スプラインの表面に化成皮膜が形成されるので、被水や塵埃の厳しい環境下においても発錆を防止でき、出力軸とバレルとの間で良好な摺動性を確保できる。」という点、すなわち、スタータのスプライン部又はそこに塗布されているグリースに関して、グリースの保油効果の改善、発錆の防止及び良好な摺動性の確保にある。
この点、スタータのスプライン部において、グリースが塗布されていること及び前記技術的課題が在していることは、例えば、特開平10-169532号公報(公報段落【0003】、【0013】?【0014】及び【0022】を特に参照。)、特開平3-149350号公報(公報第3頁左上欄第18?20行を特に参照。)又は実願平3-42673号(実開平5-42673号)のCD-ROM(明細書段落【0002】を特に参照。)に示されるように、当業者が通常備えている、スタータに係る技術的知見(以下、単に「スタータに係る技術的知見」という。)である。してみると、スタータのスプライン部において、グリースが塗布されていること及び前記技術的課題が存していることが、引用例1において明記されていないとしても、当業者であれば、前記スタータに係る技術的知見の下、引用例1記載の発明において、スプライン部にグリースが塗布されるとともに、前記技術的課題が内在していることは、理解できるものである。
他方、例えば、原査定の拒絶の理由において引用された上記引用例2(公報段落【0007】等を参照。)又は引用例3(公報段落【0002】を特に参照。)に示されるように、摺動面において、グリース等の潤滑剤の保油効果を改善する等の目的のために、摺動面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に微小な凹凸を有し、かつ潤滑剤が塗布されているように構成することは、周知の技術である。
してみると、上記スタータに係る技術的知見の下、引用例1記載の発明に内在する、グリースの保油効果の改善、発錆の防止及び良好な摺動性の確保なる技術的課題を解決するために、一般に知られている解決手段の中から一を選択して適用することは、当業者の通常の創作能力の発揮であるから、引用例1記載の発明において、上記周知の技術を採用し、「スプラインの表面に化成皮膜が形成され、その化成皮膜の表面に微小な凹凸を有し、かつグリースが塗布されている」ように構成することは、当業者が格別の創作力を要することなく想到することができたことである。
また、化成皮膜の表面の微小な凹凸の大きさに関して、本願補正発明において特定されている10μm以下という点についても、化成皮膜処理を施した際に結果として通常形成される程度のものに過ぎないものであり、また、グリース等の潤滑剤の保油効果を改善する等の技術的課題に照らして、当業者が、化成皮膜を具体的に適用する摺動面の部材や潤滑油等に応じて、適宜実験等によって決定する設計事項である。
よって、引用例1記載の発明において、上記周知の技術を適用し、上記相違点に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得ることである。

また、本願補正発明を全体として検討しても、引用例1記載の発明及び上記周知の技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。

以上から、本願補正発明は、引用例1記載の発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

[3]本願発明について
1. 本願発明
上記のとおり、平成18年7月21日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年2月6日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、上記[2]1.(ロ)に記載したとおりである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭63-25276号(実開平1-130074号)のマイクロフィルムの記載事項は、上記[2]2.(2)1)に記載したとおりである。

3.当審の判断
本願発明は、前記[2]2.で検討した本願補正発明の発明特定事項のうち、スプラインの表面に係る発明特定事項について、「グリースが塗布されて」なる事項を有しないものに相当する。
そうすると、本願発明を特定する事項を全て含み、さらに本願発明を減縮したものに相当する本願補正発明が、上記[2]2.に記載したとおり、引用例1記載の発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1記載の発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-28 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2001-240461(P2001-240461)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02N)
P 1 8・ 575- Z (F02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久島 弘太郎  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 森藤 淳志
中川 隆司
発明の名称 スタータ  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  

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