• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1187152
審判番号 不服2004-20373  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-01 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 平成11年特許願第249066号「側面衝突エアバッグ用袋体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年3月21日出願公開、特開2001-71847号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成11年9月2日の特許出願であって、その各請求項に係る発明は、平成16年1月9日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるが、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。
【請求項1】
2枚の布帛を接合して形成された側面衝突エアバッグ用袋体であり、該布帛を構成する解反原糸の単糸繊度が4デニール(以下dと略称)以下、強度が7.5グラム/デニール(以下g/dと略称)以上であること、及び布帛を構成する製織前の使用原糸の乾熱収縮率が180℃で30分間の処理において5?15%であることを特徴とする側面衝突エアバッグ用袋体。

2 引用刊行物等とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-109607号公報(以下、「引用例1」という)及び特開平8-2359号公報(以下、「引用例2」という)には、以下のことが記載されている。
なお、下記の記載中における下線は、当審で加入したものである。

[引用例1]【特許請求の範囲】の【請求項1】には、
「2枚の織布の外周部同士を接合することにより袋部を形成し、この袋部を車両の窓部付近に展開させる側部用エアバッグであって、上記織布同士の接合部を、各布の織り組織を構成する織り糸を共通の織り組織に製織することにより形成すると共に、上記袋部全体を非透気性コーティング材によりシールしたことを特徴とする側部用エアバッグ。」と記載されている。

[引用例2]
高滑脱抵抗性エアーバッグ用織物に関する発明であって、
段落【0041】には、
「原糸の乾熱収縮率
フィラメント原糸を無撚のまま150℃で30分間収縮させてから、以下 の式により算出した。乾熱収縮率=〔(L-L_(0) )/L〕×100(%) 、(ここで、Lは収縮前のフィラメント糸長、L_(0) は収縮後のフィラメン ト糸長)」

段落【0049】の【表1】には、 「実施例1
種類 ポリエステル
原糸
ヤーンデニール(de) 420
フィラメント数(本) 249
単糸デニール(de) 1.7
引張切断強度(g/de) 9.6
150℃乾熱収縮率(%) 6.5 」
と記載されている。

また、本願出願時点で周知の技術として、以下の周知例がある。
[周知例1]特開平8?11661号公報
破裂強度と難燃性の改良された柔軟性ポリエステルエアーバッグ用織物およびその製造方法に関する発明であって、
段落【0042】の【表1】には、エアーバッグ用織物の糸の物性を示したものが記載されている。
「実施例1
種類 ポリエステル
原糸物性
ヤーン繊度(de) 420
フィラメント数(本) 249
単糸繊度(de) 1.7
引張強度(g/de) 9.6
抜糸物性
ヤーン繊度(de) 439
フィラメント数(本) 249
単糸繊度(de) 1.8
引張強度(g/de) 9.2 」

[周知例2]特開平7-48717号公報
エアバッグ基布用ポリエステル繊維に関する発明であって、
段落【0028】の【表1】には、
「180℃乾熱収縮率 %
実施例1 11.2 実施例2 14.2 実施例3 17.5 実施例4 19.5 比較例1 10.5 比較例2 9.2 比較例3 6.0 比較例4 10.2 比較例5 11.0」と記載されている。

3 発明の対比
本願発明と引用例1に記載の発明とを対比すると、
引用例1の【特許請求の範囲】の【請求項1】における下線部の記載は、本願発明の「2枚の布帛を接合して形成された側面衝突エアバッグ用袋体」に相当するので、両者は、
「2枚の布帛を接合して形成された側面衝突エアバッグ用袋体。」である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

<相違点>
(1)本願発明では、「布帛を構成する解反原糸の単糸繊度が4デニール(d)以下、強度が7.5グラム/デニール(g/d)以上である」のに対して、引用例1に記載の発明では、このような構成かどうか明らかでない点。
(2)本願発明では、「布帛を構成する製織前の使用原糸の乾熱収縮率が180℃で30分間の処理において5?15%である」のに対して、引用例1に記載の発明では、このような構成かどうか明らかでない点。
4 相違点の検討
相違点(1)について
引用例2には、エアバッグ用袋体の布帛を構成する原糸の特性が示されている。
ここで、引用例2に示された原糸の特性は、解反原糸の特性ではないが、周知例1の原糸物性と抜糸物性とを比較して参照すれば、引用例2に示された織物の解反原糸(周知例1の「抜糸」が、これに相当する)でも単糸繊度(de)が1.8 、引張強度(g/de)が9.2の値を示すものとみられ、これらの数値は、本願発明の構成である「単糸繊度が4デニール以下、強度が7.5グラム/デニール以上」の数値範囲に含まれるものである。
したがって、引用例1に記載の側面衝突エアバッグ用袋体において、当該袋体の布帛について、引用例2に記載のエアーバッグ用織物の解反原糸を採用して、上記相違点(1)でいう本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。
相違点(2)について
同じく引用例2に示されているエアバッグ用の織物(布帛)を構成する原糸の乾熱収縮率は、150℃で30分間の処理において6.5%(5?15%の範囲内)である。
ただ、引用例2に示された原糸の特性は、150℃での乾熱収縮率であるのに対し、本願発明では、180℃での乾熱収縮率である。
そこで、本願当初明細書の実施例の記載を見ると、150℃での処理に関しては、段落【0028】に「150℃に加熱した金属ロール間で線圧30kg/cmで両面カレンダー加工をした。」との記載があるが、使用原糸について、180℃の処理に関する記載は全くなく、180℃に限定した意義は見あたらない。
そうすると、180℃の限定は、単に試験用処理装置或いは測定機器の仕様程度のことと認められる。
なお、180℃での乾熱収縮率に何らかの意義があるとしても、180℃で乾熱収縮率5?15%の範囲の特性は、ポリエステル繊維を用いたエアバッグ用基布の原糸では周知例2に示されているように普通の値でもある。
したがって、布帛を構成する製織前の使用原糸の乾熱収縮率が180℃で30分間の処理において5?15%の範囲となるような原糸を用いてエアバッグの布帛を構成する程度のことは当業者であれば容易に想到し得ることである。

よって、本願発明は、上記各周知例に示された技術事項を参酌することにより、引用例1に記載の発明において、引用例2に記載のエアバッグの織物(布帛)の原糸を採用することにより当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
5 審判請求人の主張について
請求人は意見書で「本願発明はかかる構成により、いわゆる袋織エアバッグにおいて2枚の布帛の接合を形成する1重部と2重部の接合部での目ずれが発生しにくく、かつガス漏れが少なく、また接合部での布帛の厚みの差を小さくすることができ、又コート量が少なくて、均一で、軽量、コンパクトで信頼性の高いエアバッグを提供することができる(本願明細書[0009])。」と主張している。
また、審判請求書では「引用文献2の実施例2以外の実施例及び比較例で示されている原糸の乾熱収縮率の値を引用文献2のエアバッグのような縫製タイプのエアバッグではなく袋織タイプのエアバッグで採用することを促す動機付けは引用文献2には全く存在しないし、袋織タイプのエアバッグで採用した場合に奏される効果を示唆する記載も引用文献2には存在しない。」と主張している。
しかしながら、本願請求項1には、エアバッグが「袋織」されたものであることを特定する記載、並びにエアバッグが「コート」されたものであることを特定する記載がない以上、本願発明は、本願請求項1に記載されているようにエアバッグ用袋体における「布帛を構成する原糸」に関する限定事項だけが発明特定事項であるので、請求人の上記主張は、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づかない根拠のない主張である。
6 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項並びに上記各周知例に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-09 
結審通知日 2007-07-10 
審決日 2007-07-24 
出願番号 特願平11-249066
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘野村 亨  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 柿崎 拓
岸 智章
発明の名称 側面衝突エアバッグ用袋体  
代理人 風早 信昭  
代理人 浅野 典子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ