ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
不服20056282 | 審決 | 特許 |
不服200627219 | 審決 | 特許 |
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1187175 |
審判番号 | 不服2004-18155 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-09-02 |
確定日 | 2008-10-29 |
事件の表示 | 平成11年特許願第355893号「多段カスケード型追加免疫ワクチン」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月 6日出願公開、特開2000-154153〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯、本願発明 本願は、平成7年7月6日(パリ条約による優先権主張 1994年7月6日 米国(US))の出願である特願平8-503926号の分割出願であって、その請求項1に係る発明は、平成20年4月11日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「(a)患者から得られ、その後発現ベクターによりトランスフェクトされたT細胞と、 ここで、前記発現ベクターは、キメラ免疫グロブリン/T細胞レセプターまたはキメラ免疫グロブリン/CD3タンパク質のいずれかをコードするDNA分子を有し、前記DNA分子の前記免疫グロブリンをコードする部分はクラスIII抗CEA抗体の可変部をコードし、 (b)前記トランスフェクトされたT細胞からの免疫応答を増幅できる少なくとも一のサイトカインと を別々の容器中に含んでなる治療用組み合わせ物であって、 ヒトに投与されたときに、CEAを発現している腫瘍に対する、前記ヒトにおいて一体となった体液性免疫応答及び細胞性免疫応答を誘導するための方法に使用するための治療用組み合わせ物。」(以下、「本願発明」という。) 2.引用例の記載の概要 これに対して、当審の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物には以下の事項が記載されている。 ・ PROC. NATL. ACAD. SCI. USA, (1989) 86(24) P.10024-10028(以下、「引用例1」という。) (A)「MHCに制限されずにT細胞の特異性を随意に向けるために、我々はT細胞レセプター(TcR)の定常(C)ドメインと抗体の可変(V)ドメインを融合したキメラT細胞レセプターを作り、発現させた。遺伝子発現ベクターは、TcRのα又はβ鎖のいずれか一方のC領域遺伝子断片に継ぎ合わされた抗-2,4,6-トリニトロフェニル(TNP)抗体の重鎖と軽鎖のV領域ドメインをコードする遺伝子断片の配列を含めて構築された。……細胞傷害性T細胞ハイブリドーマへのトランスフェクト後に、機能的TcRの発現が検出された。キメラTcRはSp6抗TNP抗体のイディオトープを示し、T細胞に対しハプテンTNPに対しMHCに制限されない反応性を与えた。そのトランスフェクタントは株と種の障壁を越えてTNPを有する標的細胞に反応して、特異的に殺し、インターロイキン2を産生した。」(Abstract) (B)「T細胞中でこれらのキメラ遺伝子を発現させるために、MD45マウスハイブリドーマにそれらをトランスフェクトした。MD45ハイブリドーマはH-2Db標的細胞を特異的に溶解し、T細胞マイトジェン又は適切な標的細胞の刺激によりIL-2,インターロイキン3、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子を生産した。」(第10026頁左欄3?9行) (C)「抗体特異性をT細胞が媒介する標的細胞の溶解と組み合わせる我々の能力は臨床の可能性を有するかもしれない。それは、ある標的細胞上の所望の抗原に向けられた抗体のV領域を使うキメラTcRの構築を可能にする。これらのキメラ遺伝子は、一度作られれば、MHCに制限されず、所望のセットのキメラ遺伝子がいずれの個々からのT細胞にもトランスフェクト可能であるという意味では万能である。その細胞をドナーに戻すと、その標的細胞に出会ったら、増殖し、特異的なエフェクター機能(細胞溶解、リンフォカインの産生、ヘルプやサプレッション)を媒介することによりcTcRの特異性を示すはずである。この手法は、例えば、細胞傷害性Tリンパ球が腫瘍やウイルスに感染した細胞を殺すようにさせるのに利用できる。腫瘍特異性を有するcTcRsの構築はヒトの腫瘍との闘いにおいてこのアプローチの実現性を試験するのを可能とするだろう。」(第10028ページ右欄第3-18行) ・ 特表平5-502587号公報 (以下、「引用例2」という。) (D)「図面の簡単な説明 本発明を次に、添付の図1?16を参照しながら、例示のみの目的の以下の実施例によって説明する。図中、 図1は、cDNAクローンの配列決定によって得られた、A5B7MAbの非処理可変領域をコードするDNA配列を、予想されるアミノ酸配列とともに示す。 …… 図8は、A5B7グラフト軽鎖、gL-1可変領域についてのDNAおよび蛋白質配列を示す。 図9は、A5B7グラフト軽鎖gL-2、可変領域についての同じ配列を示す。 図10は、A5B7グラフト重鎖gH1、可変領域についての同じ配列を示す。 図11は、A5B7グラフト重鎖gH2、可変領域についての同じ配列を示す。」(第5ページ左上欄第1?23行) (E)「例1A5B7重鎖および軽鎖cDNAの分子クローニングおよび配列決定…… 重鎖および軽鎖、両者の完全なリーダー、可変および定常領域を含有するクローンが単離され、pBGlおよびpBG2と命名された。連鎖伸長停止法(20)によってヌクレオチド配列分析を実施した。 ……。 pBGlおよびpBG2の非処理可変領域のDNA配列および予測されるアミノ酸配列を図1に示す。 図1において、パネルAはV_(L)領域コードする配列および予測されるアミノ酸配列を示している。パネルBはV_(H)領域コードする配列および予測されるアミノ酸配列を示している。シグナルペプチドの切断の候補部位は矢印で示す。誘導されるアミノ酸配列を調べだ結果、他の特性が知られている免疫グロブリン遺伝子とのがなりのホモロジーが明らかにされ、リーダー、可変および定常ドメインの範囲の正確な決定が可能になった。さらに、A5B7MAbはIgGlK抗体であることが確認された。」(第5ページ右上欄第18行?左下欄第22行) ・特開平2-494号公報(以下、「引用例3」という。) (F)「2.腫瘍に付随する抗原 …… 別の種類のTAAはオンコフエタルもしくは分化抗原である。オンコフエタル抗原は胎児細胞生産物であり、胎児遺伝子の抑制解除による悪性細胞によって発現される。ヒトのオンコアエタル抗原の一例は結腸の発癌胎生抗原(CEA)である。このセットの抗原は胎児の胃腸系から訪導される組織上に、および胃腸系の腫瘍に見出される。」(第6ページ左上欄第15行?右上欄第11行。) (G)「(2)適合性免疫治療 本発明の別の態様において、腫瘍抗原……を認識するイデイオトープを発現するT細胞……を免疫予防または免疫治療のために宿主に導入することができる。…… 別の試みにおいて、腫瘍特異性リンパ細胞を試験管内で活性化し、そしてこの活性化した腫瘍特異性白血球で患者を治療することも可能である。…… 活性化T細胞は次いで細胞培養物中で発展させることができる。この発展は……IL-2単独を含む媒質中での生育によって、行なうことができる。……活性化T細胞の接種は組織への投与により行なうのが好ましいが、他の投与方法(たとえば動脈中への直接の注入)も使用することができる。T細胞は中心静脈カテーテルを介して又は大きい周辺静脈中に静脈投与することができる。……ある患者においては、組換え体のヒトIL-2を使用してもよく且つT細胞注入の時間から始まつて8時間毎に静脈注入することができる。IL-2の注射は癌患者に従来使用されていたように(Rosenberg,S.A.等、1985,N.Engl.J.Med.313:1485)、10,000?100,000単位/kg体重の調剤量であるのが好ましい。 IL-2注入は患者が耐えられるならば、活性化T細胞注入後数日間続けることができる。」(第24ページ左下欄第4?第25ページ右下欄第14行) 3.当審の判断 (1)対比 引用例1には、「TcRのα又はβ鎖のいずれか一方のC領域遺伝子断片に継ぎ合わされた抗-2,4,6-トリニトロフェニル(TNP)抗体の重鎖と軽鎖のV領域ドメインをコードする遺伝子断片の配列を含めて構築された遺伝子発現ベクターによりトランスフェクトされたT細胞。」(以下、「引用発明」という)が記載されている(摘記事項(A)、(C))。 引用発明の「TcR」はT細胞レセプターであり、「抗-2,4,6-トリニトロフェニル(TNP)抗体の重鎖と軽鎖のV領域ドメイン」は「抗体の可変部」であるから、引用発明の「TcRのα又はβ鎖のいずれか一方のC領域遺伝子断片に継ぎ合わされた抗体の重鎖と軽鎖のV領域ドメインをコードする遺伝子断片の配列を含めて構築された遺伝子発現ベクター」は、「キメラ免疫グロブリン/T細胞レセプターをコードするDNA分子を有する発現ベクター」に相当する。 そこで、本願発明と引用発明を対比すると、両者は「発現ベクターによりトランスフェクトされたT細胞であって、該発現ベクターはキメラ免疫グロブリン/T細胞レセプターをコードするDNA分子を有し、前記DNA分子の免疫グロブリンをコードする部分は抗体の可変部をコードするものであるT細胞」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1 本願発明では、T細胞が患者から得られたものであり、これをトランスフェクトする発現ベクターの免疫グロブリンをコードする部分は、クラスIII抗CEA抗体の可変部であって、該T細胞が、ヒトに投与されたときに、CEAを発現している腫瘍に対する、体液性及び細胞性免疫応答を誘導するための方法に使用されるのに対し、引用発明は、マウス由来T細胞を使用し、抗体はTNPに対するものであって、トランスフェクトされたT細胞は標的細胞(TNPを有する細胞)を溶解する点。 ・相違点2 本願発明はサイトカインと組み合わせ治療用組み合わせ物としたの対し、引用発明にはサイトカインの併用について特定されていない点。 (2)相違点についての判断 ・相違点1について 引用例1には、抗体特異性をT細胞が媒介する標的細胞の溶解と組み合わせることの臨床的応用として、腫瘍特異性を有するキメラTcRの構築が挙げられ、個々からのT細胞をキメラ遺伝子でトランスフェクトしそれをドナーに戻し、キメラTcRの特異性を発揮させる手法が、腫瘍やウイルス感染細胞を殺すのに応用でき、ヒトの腫瘍との闘いにおいてこのアプローチの実現性を試験するのが可能になる旨の示唆がなされている(摘記事項(C))。 また、ヒトの腫瘍抗原としてCEAはよく知られており(引用例2(摘記事項(D))及び引用例3(摘記事項(F))、さらに、CEA抗体の中でもクラスIII抗体は、特異性が高いものとして周知である。 そうすると、引用例1の臨床応用への示唆に従い、腫瘍の治療に役立つT細胞を構築するにあたって、TNP抗体に代えて、腫瘍抗原として周知のクラスIII抗CEA抗体をコードするDNAを用いて、引用例2(摘記事項(E))に記載の通常のクローニング方法を応用してキメラ免疫グロブリン/T細胞レセプターをコードするDNA分子を有する前記発現ベクターを構築し、CEAを発現している腫瘍に対する免疫応答の誘導に応用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、引用例1の上記示唆は当然にヒトの腫瘍の治療を前提とするものであるから、治療の対象である患者由来のT細胞の使用が最適であることも当業者にとって自明のことである。 また、引用例1において、トランスフェクトされたT細胞はその標的細胞に出会うと増殖し、特異的なエフェクター機能(細胞溶解、リンフォカインの産生、ヘルプやサプレッション)を媒介することによりキメラTcRの特異性を示すはずであるとされ、リンフォカインとしてIL-2、IL-3等が示されているが(摘記事項(B)(C))、このIL-2は、T細胞の増殖誘導のみならずB細胞の増殖誘導・B細胞からの免疫グロブリン産生の増強などにも働くことが周知である(生化学辞典(第2版)、1990年11月22日、株式会社東京化学同人、第144ページ左欄のインターロイキン2の項参照。)。そうすると、トランスフェクトされたT細胞が、ヒトにおいて一体となって細胞性及び体液性免疫応答を誘導する点にしても、当業者が容易に予測しうる範囲のことである。 ・相違点2について 引用例3(摘記事項(G))には、免疫治療のために宿主に導入する活性化T細胞と共にIL-2のようなサイトカインが癌患者に使用されることが記載されている。このようにIL-2は、それ単独での使用のほか、免疫誘導用のT細胞との組み合わせ投与の試みもされているのであるから、CEAを発現している腫瘍に対し免疫応答を誘導するT細胞による癌の治療にあたっても、IL-2のようなサイトカインを組み合わせ使用することは、当業者が容易に想到し得ることであり、これを別々の容器に収容して治療用組み合わせ物とする点にしても格別の困難性を要するものではない。 そして、本願発明の効果についても、当業者であれば、容易に予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-05-29 |
結審通知日 | 2008-05-30 |
審決日 | 2008-06-18 |
出願番号 | 特願平11-355893 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大久保 元浩、森井 隆信 |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
谷口 博 瀬下 浩一 |
発明の名称 | 多段カスケード型追加免疫ワクチン |
代理人 | 吉田 尚美 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 奥山 尚一 |