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審決分類 |
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G |
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管理番号 | 1187204 |
審判番号 | 不服2003-21231 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-10-31 |
確定日 | 2008-11-07 |
事件の表示 | 平成 5年特許願第257284号「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成7年5月2日出願公開、特開平7-114277〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯等 本願は、平成5年10月14日の出願であって、「画像形成装置」に関するものである。 2.当審における拒絶理由通知の概要 当審における平成18年7月5日付け拒絶理由通知書で指摘した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 『本件出願は、明細書及び図面の記載が下記A及びBの点で不備のため、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。 記 A.平成14年8月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。 「感光体に当接し電圧を印加したローラーにより前記感光体上に形成されたトナー像を前記記録紙へ転写する転写手段、前記記録紙上に転写されたトナー像を加熱加圧して前記記録紙へ定着する定着手段を有する画像形成装置において、 前記転写手段の記録紙搬送力をFt、前記定着手段の記録紙搬送力をFf、前記転写手段の記録紙搬送速度をVt、前記定着手段の記録紙搬送速度をVfとした場合に、 Ft>Ff、かつVf>Vt であることを特徴とする画像形成装置。」 上記転写手段の記録紙搬送力Ft、定着手段の記録紙搬送力Ff、転写手段の記録紙搬送速度Vt、定着手段の記録紙搬送速度Vfがそれぞれ何を示すものであるのか不明である。 まず、Ft、Ff、Vf、Vtが同時に測定されるべき物理量であるか否かが不明である。 上記請求項1の記載によると、物理量Ft、Ff、Vf、Vtは同時に測定されるべき物理量であると考えられる。 しかしながら、物理量Ft、Ff、Vf、Vtが同時に測定されるべきものであるとするならば、Ft>Ff、かつVf>Vtという式は、転写手段の記録紙搬送力よりも定着手段の記録紙搬送力の方が小さいのにもかかわらず、定着手段と転写手段の間において定着手段の搬送力により記録紙が伸びるという、物理的にあり得ない事象が生じることを意味する。 また、本願明細書には、物理量Ft、Ff、Vf、Vtを同時に測定可能とするための構成が記載されていない。 これに対して、上記Ft、Ff、Vt、Vfを同時に測定することは不可能であって、個々の測定方法により測定されるべき物理量であるとするのであるならば、請求項1にはそれぞれの物理量の技術的意義、及び測定方法がなんら記載されていない。 したがって、本願の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでない。 B.本願明細書の記載は、上記A.で指摘した事項に関連する、以下に指摘する不備がある。 (1)本願明細書の段落【0060】、【0061】、【0069】の記載は次のとおりである。 「【0060】次に、この転写手段実施例における記録紙搬送力Ft、および、記録紙搬送速度Vtの測定方法について述べる。 【0061】図10は転写手段実施例における転写手段記録紙搬送力Ftの測定方法を示す斜視図である。図10において、Ftは前述の給紙手段の場合と同様に、本例の転写手段を装置外へ取り外し、感光体14と転写ローラー16を画像形成時と同一周速度で回転させ、パイプ材32の両端に固定したロープ33を介して図示しないテンションゲージによって測定される動的搬送力とした。Ftの値は理論的にも推定でき、転写バネ18のバネ力、記録紙1と感光体14の摩擦係数、記録紙1と転写ローラー16の摩擦係数などから算出することができる。本例では転写バネ18のバネ力を調整することでFtを調整可能とした。Ftの適正値については実験例1で後述する。」 「【0069】定着手段第一および第二実施例における記録紙搬送力Ffと記録紙搬送速度Vfの測定方法は前述の転写手段と同一であり、説明は省略する。本例では加圧バネ24のバネ力を調整することでFfを調整可能とし、Vfも調整可能なように構成した。FtおよびVfの適正値については実験例1および2で後述する。」 まず、段落【0060】に、記録紙搬送速度Vtの測定方法について述べる旨記載されているが、本願明細書には記録紙搬送速度Vtがどのようにして測定されるのか全く記載されていない。 次に、段落【0069】に定着手段の記録紙搬送速度Vfの測定方法は転写手段と同一と記載されているだけであるから、定着手段の記録紙搬送速度Vfの測定方法も同様に全く不明である。 そして、図10に記載されている、転写手段記録紙搬送力Ftの測定方法においても、パイプ材32が停止した状態で転写手段記録紙搬送力Ftを測定するのか、パイプ材を所定の移動速度で移動させながら測定するのか不明である。 仮にパイプ材が停止した状態で転写手段記録紙搬送力Ftを測定するのであるとしても、転写手段と記録紙との間ですべりを生じるまでの最大値とするのかすべりを生じている時の値を採用するのか不明である。 また、【0069】に、定着手段の記録紙搬送力Ffと記録紙搬送速度Vfは転写手段と同一であると記載されているが、転写手段と定着手段の記録紙搬送力や記録紙搬送速度は相互に影響を及ぼすものであるにもかかわらず、定着手段のみを取り外して測定することができることの理由が不明である。 (2)本願図14として転写手段搬送力Ftや定着手段搬送力Ff、張力T4やT5を示す実験例が記載されているが、転写手段搬送力Ftの方が定着手段搬送力Ffよりも大きいのにもかかわらず、記録紙に張力が作用する理由が不明である。 また、この張力が記録紙に伸びを発生させることができるような非常に大きなものであるという理由も不明である。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は当業者が本願発明を容易に実施することができる程度にその構成を記載したものでない。』 3.審判請求人による手続補正及び意見書 上記拒絶理由通知に対して、審判請求人は平成18年8月31日付けで、特許請求の範囲の請求項1を次のものとすることを含む手続補正をした。 「給紙トレイに収納された記録紙を順次一枚分離して給送し、給送された前記記録紙は感光体と転写手段である転写ローラーとの間で挟持され、トナー像が転写されながら引き続いてヒートローラーとこれに加圧当接される加圧ローラーとからなる定着手段に向けて搬送され、前記ヒートローラーと前記加圧ローラーとの間で狭持された後は前記感光体と転写ローラー、及び前記定着手段によって同時に搬送されながら前記記録紙にトナー像が定着される画像形成装置において、 前記感光体と前記転写ローラーとにより前記記録紙を狭持して前記定着手段に向けて前記記録紙を搬送する搬送力をFt、 前記ヒートローラーと前記加圧ローラーとにより前記記録紙を狭持して搬送する搬送力をFf、 とした場合に、 Ft>Ff の関係にあり、かつ、 前記感光体と前記転写ローラーとにより前記記録紙を狭持して前記定着手段に向けて搬送する搬送速度をVt、 前記ヒートローラーと前記加圧ローラーとにより前記記録紙を狭持して搬送する搬送速度をVf とした場合に、 Vf>Vt の関係にあることを特徴とする画像形成装置。」 また、審判請求人は、上記手続補正と同日付けの意見書において、次のように主張している。(下線は当審で付与。) 『4.審判官がご指摘の明細書の記載不備について A.について (1)転写手段の記録紙搬送力Ft、定着手段の記録紙搬送力Ff、転写手段の記録紙搬送速度Vt、定着手段の記録紙搬送速度Vfにつきましては、それぞれの物理量の定義をしましたので、技術的意義は明確になったものと考えます。これらの物理量は、本願発明におきましては、同時測定か、個別測定かは問題としてはおりません。これらの物理量が、請求項1に記載の関係になるように設定することを要件としております。前記各物理量を請求項1に記載の関係とするための具体例として、例えば段落番号(0061)に記載されておりますように、物理量を測定する以外にも計算で求めることもできますので、これらの物理量の測定方法は、特許請求の範囲に記載しなければならない要件ではないと出願人は考えております。 (2)記録紙の搬送力をFt>Ff、の関係にしたことと、記録紙搬送速度をVf>Vtの関係にしたことの技術的意義について説明します。記録紙搬送方向からみて上流側の転写側の搬送力Ftを、下流側の定着側の搬送力Ffよりも大きくしておりますので、記録紙は瞬間的には定着側でせき止められたような状態となります。そこで、下流側の定着側の記録紙搬送速度Vfを上流側の転写側の記録紙搬送速度Vtよりも大きくして、前記せきとめられた状態にある記録紙を定着側で早送りすることにより、記録紙を円滑に搬送しております。 B.について (1)転写手段の記録紙搬送速度Vtと定着手段の記録紙搬送速度Vfについて。 この点に関しましては、審判官殿がご指摘のように明細書には記載されておりません。例えば給紙手段における記録紙搬送速度について、段落番号(0046)、(0054)に「レーザードップラー型速度計」により測定することにつきまして具体的に開示しております。したがいまして、出願人としましては、転写手段および定着手段の記録紙搬送速度の測定につきましても「レーザードップラー型速度計」により測定することは、当業者が類推できる範囲内の事項と考えます。その理由は、本願発明のように小型の画像形成装置において、給紙手段と近接する転写手段および定着手段の記録紙搬送速度の測定手段を、給紙手段とは異なる手段で測定することは現実的ではないこと、記録紙搬送力の測定につて、給紙手段の測定(図4)と転写手段の測定(図10)は、同じ測定手段によりなされていること、から推定できる範囲と考えます。 (2)図10の転写手段における記録紙搬送力の測定は、段落番号(0061)に記載されておりますように、「動的搬送力」、すなわち、動的摩擦がある状態で行われております。この際に、パイプ材32は矢視方向に引っ張られた状態で(すなわち移動させながら)、記録紙搬送力の測定を行います。 (3)本願発明のように、給紙手段、転写手段、定着手段に1枚の記録紙がまたがって搬送されるような小型の画像形成装置におきましては、審判官殿がご指摘のように、前記各手段では相互に記録紙搬送力、記録紙搬送速度、発熱などの影響を受けます。しかしながら、これらの影響すべてを考慮して、前記各手段それぞれのパラメータを同時に測定することは、誤差の発生などにより、正確な値が得られません。本願発明におきましては、このような理由により転写手段、定着手段を別個に取り出し、相互に影響を受けない状態として、固有の記録紙搬送力、記録紙搬送速度を測定しております。 (4)図14は、段落番号(0107)?(0109)に記載されておりますように、請求項1の要件外である給紙手段の記録紙搬送抵抗力を含めた画像形成装置全体の特性を開示しております。記録紙は、前記しましたように転写手段の搬送力が定着手段の搬送力よりも大きいために、瞬間的には定着手段の入り口でせき止められた状態になりますが、記録紙搬送速度が定着手段側を転写手段側よりも大きくすることで、記録紙に張力が作用します。この張力の大きさは、例えば実験例の表9、段落番号(0075)に記載されておりますように、給紙手段の記録紙搬送速度Vsと転写手段の記録紙搬送速度Vtとの関係なども考慮して定められます。』 4.当審の判断 (4-1)理由Aについて 本願の【図14】は、以下に示すとおりのものである。 そして、上記【図14】について、以下のように説明されている。 「【0107】一方、図14は本画像形成装置の実験例1から5において記録紙1が各搬送手段から受ける力を示す平面図である。」 そして、上記「3.」における審判請求人の、「記録紙搬送方向からみて上流側の転写側の搬送力Ftを、下流側の定着側の搬送力Ffよりも大きくしておりますので、記録紙は瞬間的には定着側でせき止められたような状態となります。そこで、下流側の定着側の記録紙搬送速度Vfを上流側の転写側の記録紙搬送速度Vtよりも大きくして、前記せきとめられた状態にある記録紙を定着側で早送りすることにより、記録紙を円滑に搬送しております。」という主張も参酌すると、補正前及び補正後の請求項1における物理量Ft、Ff、Vf、Vtは、上記【図14】に示されているように、同時に測定されるべきものであると考えられる。 そうすると、拒絶理由通知書で指摘したように、補正前及び補正後の請求項1におけるVf>Vtという規定は、転写手段と定着手段の間で記録紙が伸びることを意味する。 ところが、上記【図14】を参照して理解されるように、仮に記録紙が搬送力により伸びるものとしても、記録紙は転写手段において定着手段の搬送力Ffよりも大きな搬送力Ftで搬送されているのであるから、転写手段においてすでに伸びており、転写手段の搬送力Ffより小さい定着手段の搬送力Ftによりさらに記録紙が伸びることはあり得ない。 また、審判請求人は上記主張において、転写側の搬送力Ftが下流側の定着側の搬送力Ftよりも大きいので、記録紙は瞬間的には定着側でせき止められたような状態となるので、下流側の定着側の記録紙搬送速度Vfを上流側の転写紙の記録紙搬送速度Vtよりも大きくして、せき止められた状態にある記録紙を定着側で早送りすることにより、記録紙を円滑に搬送できる旨主張しているが、そもそも、転写手段の搬送力Ftは、転写手段の上流側の記録紙に張力を与えるために発生するものであって、転写手段の下流側の記録紙の張力には何ら影響を及ぼすものでないから、審判請求人のいう、記録紙が瞬間的に定着側でせき止められるということの技術的意義が不明であるし、仮に、記録紙が瞬間的にせき止められたとしても、定着側で早送りされた後は、定着手段においてすべりが発生することにより、定着手段と転写手段の記録紙搬送速度は等しくなることは技術常識である。 ところで、一対の搬送ローラで構成された直列に配置された2つの記録紙搬送手段により記録紙搬送経路を構成するに際して、上流側の記録紙搬送手段の搬送力を下流側の記録紙搬送手段の搬送力より大きくするとともに、下流側の記録紙搬送手段の搬送ローラの周速度を上流側の記録紙搬送手段の搬送ローラの周速度よりも大きくすることにより、2つの記録紙搬送手段の間で記録紙に張力を発生させながら記録紙を良好に搬送することは、審査時に示された特開平3-271786号公報の他に、特開平4-172375号公報に記載されているように、本願出願前に周知の技術的事項ではある。 しかしながら、このようなものは、上流側の記録紙搬送手段の記録紙搬送速度と下流側の記録紙搬送手段の搬送速度は等しいのであって、記録紙に張力が作用している搬送状態において、下流側の記録紙搬送手段の記録紙搬送速度が上流側の搬送手段の記録紙搬送速度より大きいことはあり得ない。 上述した理由により、本願の請求項1に記載の発明の技術的意義は、依然として不明である。 したがって、本願の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでない。 (4-2)拒絶理由Bについて 上記(4-1)で述べたように、本願明細書における物理量Ft、Ff、Vf、Vtは、それぞれ、上記【図14】に記載されているように、実際に記録紙が搬送される状態のときの値を示すものであると考えられる。 これに対して、本願明細書には物理量Ft、Ff,Vf、Vtをそれぞれ単独で測定したことが記載されているが、それぞれの物理量の具体的測定手段は依然として全く不明であるし、転写手段と定着手段の記録紙搬送力や記録紙搬送速度は相互に影響を及ぼすものであるにもかかわらず、定着手段のみを取り外して単独で物理量を測定することができる理由も依然として不明である。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は当業者が容易に本願発明の実施をすることができる程度に、発明の目的、構成及び効果を記載したものでない。 5.むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び同条第5項第2号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-04 |
結審通知日 | 2008-09-10 |
審決日 | 2008-09-24 |
出願番号 | 特願平5-257284 |
審決分類 |
P
1
8・
531-
WZ
(G03G)
P 1 8・ 534- WZ (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 矢沢 清純、北川 清伸 |
特許庁審判長 |
山下 喜代治 |
特許庁審判官 |
赤木 啓二 下村 輝秋 |
発明の名称 | 画像形成装置 |
代理人 | 飯高 勉 |