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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1187238
審判番号 不服2007-14755  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-23 
確定日 2008-11-06 
事件の表示 特願2002-229697「有機被膜の除去方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月18日出願公開、特開2003-203856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯及び本願発明
本願は、平成14年3月6日(優先権主張、平成13年10月23日)に出願した特願2002-61096号の一部を分割して平成14年8月7日に新たな特許出願とした特願2002-229697号であって、平成16年11月1日付の手続補正書が提出され、原審における平成18年6月30日付の1回目の拒絶理由通知に対し、平成18年9月8日付の意見書とともに同日付の手続補正書が提出され、平成18年9月29日付の2回目の拒絶理由通知に対し、平成18年12月4日付の意見書のみが提出され、そして、平成18年12月18日付の3回目の拒絶理由通知に対しては、出願人から何らの応答もなく、前記3回目に通知した拒絶理由により平成19年4月13日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年5月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
したがって、当審の審理の対象とすべき本願発明は、平成18年9月8日付の手続補正に基づいて補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特にその請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 表面にイオン注入処理またはドライエッチング処理が施されたレジスト膜を有する基体に、50?200℃に加熱した液状の炭酸エチレン、炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンと炭酸プロピレンとの液状混合物からなる処理液を接触させて、前記レジスト膜を除去することを特徴とするレジスト膜の除去方法。」

2 引用刊行物及びその記載事項
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-194806号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】第一の膜とレジスト膜からなる積層パターン形成物から該レジスト膜を剥離用溶剤を用いて剥離するレジスト剥離方法において、該剥離用溶剤に水分を添加することを特徴とするレジスト剥離方法。
【請求項2】第一の膜とレジスト膜からなる積層パターン形成物から該レジスト膜を剥離用溶剤を用いて剥離するレジスト剥離方法において、該剥離用溶剤に該第一の膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加することを特徴とするレジスト剥離方法。
【請求項3】該剥離用溶剤が、該剥離用溶剤を構成する化合物の化学式から計算される原子数比において、X/炭素比(X:ヘテロ原子)が0.3以上である化合物であることを特徴とする請求項1または2記載のレジスト剥離方法。
【請求項4】該Xが、酸素原子であることを特徴とする請求項3記載のレジスト剥離方法。
【請求項5】該第一の膜が、ブラックマトリクスあるいは着色層であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のレジスト剥離方法。
【請求項6】該剥離手段が、浸積剥離、スプレー剥離、スピナー剥離または超音波剥離のいずれかであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のレジスト剥離方法。」
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂ブラックマトリクスや着色層に、クラックを発生させることなく、該レジストを剥離することができる優れたレジスト剥離溶剤を用いたレジストの剥離方法に関する。」
「【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、カラーフィルター製造工程において、レジスト剥離の際に、樹脂ブラックマトリクスや着色層に、クラックを発生させることなく、該レジストを剥離することができる優れたレジスト剥離方法を提供せんとするものである。」
「【0009】【課題を解決するための手段】本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のレジスト剥離方法は、第一の膜とレジスト膜からなる積層パターン形成物から該レジスト膜を剥離用溶剤を用いて剥離するレジスト剥離方法において、該剥離用溶剤として、該剥離用溶剤に水分を添加するか、または、該剥離用溶剤に該第一の膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加することを特徴とするものである。
【0010】【発明の実施の形態】本発明は、前記課題、つまりカラーフィルターの製造工程において、レジスト剥離の際に、樹脂ブラックマトリクスや着色層に、クラックを発生させることなく、該レジストを剥離することができる優れたレジスト剥離方法について、鋭意検討し、レジストを剥離する際の剥離溶剤として、該剥離用溶剤に水分を添加して使用してみたところ、また、第一の膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加して使用してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0011】すなわち、第一の膜を剥離する際に、クラックが発生する要因として、水分及び第一の膜を形成するために使用される樹脂溶液組成物に含まれる溶剤、すなわち残留溶剤が、レジスト剥離溶剤側に移動することにより、第一の膜が収縮しようとするため、内部に引っ張り応力が発生し、クラックが発生することを見出した。
【0012】かかる第一の膜の内部には、プリベークの段階にあるので、水分及び溶剤が少なからず残留している。そこで、レジスト剥離用溶剤中に、該第一の膜内部に含まれている水分量及び残留溶剤量を添加して、ほぼ同一濃度で存在させる、つまり、水分及び残留溶剤成分各々で樹脂ブラックマトリクスあるいは着色層内部とレジスト剥離溶剤間で浸透圧が釣り合い、該第一の膜内部からの水分及び残留溶剤の移動を防ぐことができるのである。
【0013】しかし、第一の膜内部に含まれる水分及び残留溶剤の濃度を越えて、水分及び残留溶剤を、レジスト剥離用溶剤に添加すると、逆にレジスト剥離用溶剤から第一の膜内部に、水分及び残留溶剤が移動し、該第一の膜が膨潤し、シミになったり、該第一の膜を溶解するおそれがある。
【0014】そこで、本発明では、該第一の膜内部に含まれる水分及び残留溶剤の含有率と等しくなるように、レジスト剥離用溶剤にも、水分及び同一残留溶剤を添加するものである。具体的には、水分及び同一残留溶剤の添加量は、好ましくは0.1?5wt%、さらに好ましくは0.5?3wt%の範囲である。かかる範囲を越えて、過剰に添加すると、レジスト剥離用溶剤の剥離能力が低下するおそれがあり、逆にこれより過小であると、クラックが発生するおそれがある。該第一の膜内部に含まれる水分及び残留溶剤の含有率を直接測定することは困難であるので、該第一の膜にクラックが発生しないかどうかを調べて該第一の膜内部に含まれる水分及び残留溶剤の含有率を推測して添加量を最適化するべきである。
【0015】該第一の膜内部に含まれる水分及び残留溶剤のレジスト剥離能力は、全くないか、もしくは著しく劣るので、剥離用溶剤に添加すると、レジスト剥離能力は低下する。従って、かかる成分を剥離用溶剤に添加しても、十分なレジスト剥離能力を維持するためには、該成分を添加しない場合に較べて、より剥離能力が優れた剥離用溶剤を予め選択しておいて、これを使用する必要がある。
【0016】そこで、本発明のレジスト剥離用溶剤は、該レジスト剥離用溶剤を構成する化合物の化学式から計算される原子数比において、その比の中で、特にX/炭素比(X:ヘテロ原子)が0.3以上である化合物であることがレジスト剥離能力に優れていることを見出した。より好ましくは0.5以上であれば好適である。X/炭素比(X:ヘテロ原子)が0.3以上である化合物はレジスト剥離能力が十分優れており、該第一の膜内部に含まれる水分及び残留溶剤を添加しても、レジスト剥離能力は低下するが、問題になるレベルではない。また、X/炭素比(X:ヘテロ原子)が0.3以上であるレジスト剥離用溶剤は、ポジ型レジストに対する親和力が極めて強く、レジスト中に容易に浸透し、変質したレジストまでを短時間で溶解することができるのである。特に、Xが酸素原子である場合が好ましく、本発明では、このようなレジスト剥離能力を最大限に引き出すため、具体的には、剥離用溶剤を構成する化合物中にカルボニル基、エステル基及びエーテル基をできる限り大とすれば条件を満たすことが可能となる。
【0017】従って、本発明のレジスト剥離用溶剤は、第一の膜とレジスト膜からなる積層パターン形成物からレジスト膜を剥離するレジスト剥離溶剤において、該レジスト剥離溶剤を構成する化合物の化学式から計算される原子数比の中でX/炭素比(X:ヘテロ原子)が0.3以上である化合物であり、その他の構成成分が水、あるいは、第一の膜を形成するために使用される樹脂溶液組成物に含まれる溶剤(残留溶剤)であるものとする。
【0018】本発明において、具体的にレジスト剥離用溶剤として好適なものとしては、一般的に水溶性溶剤の方が剥離能力が優れていて好ましく、もしくは非水溶性溶剤といえども水の溶解性についてほとんど溶解しないものから、かなり溶解するものまで千差万別であり、水の溶解性が比較的高い非水溶性溶剤が好ましい。すなわち、
(1)プロピレングリコールアルキルエーテルとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテルなどが、
(2)プロピレングリコールアルキルエーテルアセテートとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、などが、
(3)プロピレングリコールアルキルエーテルプロピネートとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、
(4)エチレングリコールアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルなどが、
(5)エチレングリコールアルキルエーテルアセテートとしては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが、
(6)酢酸アルキルエステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピルなどが、
(7)プロピオン酸アルキルエステルとしては、プロピオン酸メチルなどが、
(8)アルコキシプロピオン酸アルキルエステルとしては、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチルなどが、
(9)乳酸アルキルエステルとしては、乳酸メチル、乳酸エチルなどが、
(10)脂肪族ケトンとしては、2-プロパノンなどが、
(11)アルコキシブタノールとしては、メトキシブタノール、エトキシブタノールなどが、
(12)アルキル基の炭素数が1から4のアルコール類としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどが、
(13)ヒドロキシカルボン酸エステルとしては、グリコ-ル酸メチル、グリコ-ル酸エチル、グリコ-ル酸イソプロピル、グリコ-ル酸ブチル、α-ヒドロキシイソ酪酸メチル、α-ヒドロキシイソ酪酸エチル、α-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピル、α-ヒドロキシイソ酪酸ブチル、β-ヒドロキシイソ酪酸メチル、β-ヒドロキシイソ酪酸エチル、β-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピル、、β-ヒドロキシイソ酪酸ブチル、β-ヒドロキシプロピオン酸メチル、β-ヒドロキシプロピオン酸エチル、β-ヒドロキシプロピオン酸イソプロピルおよびβ-ヒドロキシプロピオン酸ブチルなどが、
(14)ジエチレングリコールアルキルエーテルとしては、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどが、
(15)ジエチレングリコールジアルキルエーテルとしては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが、
(16)ジエチレングリコールアルキルエーテルアセテートとしては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが、
(17)アセト酢酸アルキルエーテルとしては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルなどが、
(18)炭酸アルキルとして、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等を使用することができる。以上、レジスト剥離用溶剤として好ましいものを例示したが、これらに限定されるものでない。
【0019】これらの中でも、更に好ましい溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチル、2-ブタノン、メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリコール酸メチル、αーヒドロキシイソ酪酸メチル、α-ヒドロキシイソ酪酸エチル、β-ヒドロキシイソ酪酸メチル、β-ヒドロキシイソ酪酸エチル、β-ヒドロキシプロピオン酸メチル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等を使用することができる。
【0020】実用的なレジスト剥離用溶剤としては、毒性の低いことが望ましく、かかる観点からは、経口のLD50として2000mg/kg以上であるものが望ましい。さらに、蒸発防止の観点と引火性が低い観点からは、沸点がおよそ150℃以上であるものが望ましい。従って、本発明のレジスト剥離用溶剤は、単独成分とすることもできるが、剥離用溶剤のレジスト剥離能及び上記の特性を調整するために、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0021】
本発明のレジスト剥離方法において、対象となるレジストは、一般的には公知のポジ型レジスト、ネガ型レジストのいずれにも適用することができる。
【0022】本発明のレジスト剥離溶剤が適用できるレジストの代表的なものを例示すると、ポジ型では、例えば、キノンジアジド系感光剤とアルカリ可溶性樹脂とからなるもの、化学増幅型レジストなどが、ネガ型では、例えば、ポリケイ皮酸ビニル等の感光性基を有する高分子化合物を含むもの、芳香族アジド化合物を含有するもの或いは環化ゴムとビスアジド化合物からなるようなアジド化合物を含有するもの、ジアゾ樹脂を含むもの、付加重合性不飽和化合物を含む光重合性組成物、化学増幅型ネガレジストなどが挙げられる。
【0023】上記キノンジアジド系感光剤とアルカリ可溶性樹脂とからなるレジスト材料は本発明のレジスト剥離溶剤が適用されるに好ましいものであるが、このキノンジアジド系感光剤とアルカリ可溶性樹脂とからなるレジスト材料のキノンジアジド系感光剤及びアルカリ可溶性樹脂の一例を示すと、キノンジアジド系感光剤としては、1,2-ベンゾキノンジアジド-4-スルホン酸、1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホン酸、1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸、これらのスルホン酸のエステル或いはアミドなどが、またアルカリ可溶性樹脂としては、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、アクリル酸或はメタクリル酸の共重合体や例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール等のフェノール類の1種又は2種以上と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等のアルデヒド類から製造されるノボラック樹脂などが挙げられる。
【0024】また、化学増幅型レジストも本発明のレジスト剥離溶剤が適用されるに好ましいレジストである。化学増幅型レジストは、放射線照射により酸を発生させ、この酸の触媒作用による化学変化により放射線照射部分の現像液に対する溶解性を変化させてパターンを形成するもので、例えば、放射線照射により酸を発生させる酸発生化合物と、酸の存在下に分解しフェノール性水酸基或いはカルボキシル基のようなアルカリ可溶性基が生成される酸感応性基含有樹脂からなるもの、アルカリ可溶樹脂と架橋剤、酸発生剤からなるものが挙げられる。」
「【0027】本発明のレジスト剥離方法を用いてレジストを剥離するのに適した作業温度条件は、室温から沸点の間の任意の温度を用いればよいが、20乃至80℃が好ましく、さらに30乃至70℃がより好ましい。かかる温度条件は短時間でレジストを剥離でき、かつ、剥離溶剤と樹脂ブラックマトリクスと剥離溶剤と接触する時間が短いのでクラックが発生する可能性を低減することができる。また、経済的にも剥離溶剤の蒸発による浪費を防ぐことおよび引火しにくいことから定めたものである。」
「【0029】本発明のレジスト剥離溶剤を用いてレジストを剥離するのに好適な剥離方法は、剥離溶剤中に剥離すべきレジストを有する基板を一定時間浸漬する、いわゆる、浸漬剥離でもよい。レジストへ剥離溶剤をスプレーで供給する、いわゆる、スプレー式の剥離方法は、剥離時間の短縮の観点からより好ましい剥離方法である。レジストへ剥離溶剤を滴下し、スピンコートで剥離揮散させるスピナー式の剥離方法は、レジストにせん断応力がかかるため、より剥離し易くなり好適である。また、浸漬剥離中に剥離溶剤に超音波を加える、いわゆる、超音波剥離の方法も剥離時間の大幅な短縮の観点からさらに好ましい剥離方法である。」
「【0085】・・・
実施例7
カラーフィルターは以下の手順により作成した。
(樹脂ブラックマトリクス層の作成)
温度計、乾燥窒素導入口、温水・冷却水による加熱・冷却装置、および、攪拌装置を付した20Lの反応釜に、γ-ブチロラクトン 16644.1g、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル 600.7g、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン 670.2g、ビス-3-(アミノプロピル)テトラメチルシロキサン 74.6gを投入し、釜を30℃に加熱した。30分後、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物 644.4g、ピロメリット酸二無水物 641.3g、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 294.2gを投入し、釜を58℃に加熱した。3時間後、無水マレイン酸 11.8gを添加し、58℃でさらに1時間加熱することにより、ポリアミック酸のNMP、γーブチロラクトン及びメチルカルビトール溶液(B3)を得た。
【0086】カーボンブラック 4.6g、ポリアミック酸溶液(B3)24.0g、γ-ブチロラクトン 31.4g、メチルカルビトール30.0gをガラスビーズ 90gとともにホモジナイザーを用い、7000rpmで30分間分散処理後、ガラスビーズを濾過により除去し、カーボンブラックミルベースを得た。
【0087】また、ピグメントブルー15:6 2.2g、ポリアミック酸溶液(B3)24.0g、N-メチルピロリドン 63.8gをガラスビーズ 90gとともにホモジナイザーを用い、7000rpmで30分間分散処理後、ガラスビーズを濾過により除去し、青顔料ミルベースを得た。
【0088】得られた両ミルベースを全量混合することにより、樹脂ブラックマトリクス用ペーストを得た。
【0089】樹脂ブラックマトリクス用ぺーストを無アルカリガラス基板(厚さ0.7mm)上にスピンコートし、50℃で10分間、90℃で10分間、110℃で20分間オーブンを用いて空気中で加熱乾燥して、膜厚1.1μmのポリイミド前駆体着色膜を得た。この膜上にポジ型レジスト(東京応化社製OFPR-800)を塗布し、80℃で20分間加熱乾燥して膜厚1μmのレジスト膜を得た。キャノン社製紫外線露光機PLA-501Fを用い、クロム製のフォトマスクを介して、波長365nmでの強度が50mJ/cm^(2)の紫外線を照射した。露光後、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの2.38wt%の水溶液からなる現像液に浸漬し、ノボラック系ポジ型レジストおよびポリイミド前駆体着色被膜の現像を同時に行った。エッチング後、不要となったレジスト層を超音波剥離により25℃の水1wt%、N-メチルピロリドン2wt%及びγ-ブチロラクトン1%及びメチルカルビト-ル1%添加したジエチレングリコールメチルエチルエーテルで剥離した。レジスト剥離残さもなく完全にレジスト剥離が行われ、着色被膜にクラックの発生はなく良好な樹脂ブラックマトリクス層が得られた。
【0090】さらにこのようにして得られたポリイミド前駆体着色被膜を窒素雰囲気中で300℃で30分間熱処理し、格子状の画素部とそれらを囲む額縁部からなる膜厚0.9μmのポリイミド着色パターン被膜を得た。
【0091】(着色層の作成)
次に、赤、緑、青の顔料として、それぞれ、ピグメントレッド177、ピグメントグリーン36、ピグメントブルー15:6を用意し、ポリアミック酸溶液(B3)と混合分散し、赤、青、緑の3種類の着色ペーストを得た。
【0092】得られた赤ペーストを樹脂ブラックマトリクス基板上にスピンコートし、50℃で10分間、90℃で10分間、110℃で20分間オーブンを用いて空気中で加熱乾燥して、膜厚1.2μmのポリイミド前駆体着色膜を得た。この膜上にポジ型レジスト(東京応化社製OFPR-800)を塗布し、80℃で20分間加熱乾燥して膜厚1.1μmのレジスト膜を得た。キャノン社製紫外線露光機PLA-501Fを用い、クロム製のフォトマスクを介して、波長365nmでの強度が50mJ/cm^(2)の紫外線を照射した。露光後、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの2.38wt%の水溶液からなる現像液に浸漬し、レジストおよびポリイミド前駆体着色被膜の現像を同時に行った。エッチング後、不要となったレジスト層を超音波剥離により25℃の水2wt%、N-メチルピロリドン0.5wt%、γ-ブチロラクトン0.2wt%及びメチルカルビトール0.5wt%添加した炭酸エチレンで剥離した。レジスト剥離残さもなく完全にレジスト剥離が行われ、着色被膜にクラックの発生はなく良好な着色被膜が得られた。
【0093】さらに、このようにして得られたポリイミド前駆体着色被膜を窒素雰囲気中で300℃で30分間熱処理し、膜厚1.0μmのポリイミド赤色パターン被膜を得た。
【0094】その後、同様にして、緑ペースト、青ペーストのパターンを形成し、赤、緑、青の3原色を有するカラーフィルターを得た。実施例1と同様にしてカラーフィルター用透明保護膜を作成し、液晶表示装置を作成した。得られた液晶表示装置を観察した結果、樹脂ブラックマトリクスおよび着色被膜のクラック発生による光漏れ、輝点等による表示不良はないことがわかった。」

そうしてみると、引用刊行物1の上記記載事項からみて、前記引用刊行物1には、次の発明(以下、これを「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「ガラス基板上の樹脂ブラックマトリクスや着色膜が形成され、さらに前記着色膜上にレジスト膜が形成されてなる積層パターン形成物から、エッチング処理後の不要レジスト膜を剥離するレジスト剥離方法であって、
レジストを剥離するのに適するとされる室温から沸点の間の任意の温度である20乃至80℃の作業温度条件下において、
レジスト剥離用溶剤として好ましいとされる炭酸エチレン又は炭酸プロピレン又は炭酸エチレンと炭酸プロピレンの2種を組み合わせたものに、水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加したレジスト剥離用溶剤を用いて、
前記積層パターン形成物が露光・現像された後、さらに前記レジスト膜及び着色膜の現像が同時に行われてエッチングされた前記積層パターン形成物から、前記樹脂ブラックマトリクスや着色膜にクラックを発生させることなく、エッチング処理後の不要となった前記レジスト膜を剥離するレジスト剥離方法」

(2)本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開01/33613号(以下、「周知技術文献1」という。)には、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「FIELD OF THE INVENTION
The present invention relates to the field of removal of photoresist and residue from a substrate. More particularly, the present invention relates to the field of removal of photoresist and residue from a substrate using supercritical carbon dioxide.」(1ページ13?16行)
上記の記載部分の当審による仮訳文:
「発明の分野
本発明は、基板からフォトレジストおよび残渣を除去する分野に関する。より詳細には本発明は、超臨界二酸化炭素を用いて基板からフォトレジストおよび残渣を除去する分野に関する。」

「BACKGROUND OF THE INVENTION
Semiconductor fabrication uses photoresist in ion implantation, etching, and other processing steps. In the ion implantation steps, the photoresist masks areas of a semiconductor substrate that are not implanted with a dopant. In the etching steps, the photoresist masks areas of the semiconductor substrate that are not etched. Examples of the other processing steps include using the photoresist as a blanket protective coating of a processed wafer or theblanket protective coating of a MEMS (microelectro-mechanical system) device.
Following the ion implantation steps, the photoresist exhibits a hard outer crust covering a jelly-like core. The hard outer crust leads to difficulties in a photoresist removal.
Following the etching steps, remaining photoresist exhibits a hardened character that leads to difficulties in the photoresist removal. Following the etching steps, photoresist residue mixed with etch residue coats sidewalls of etch features. Depending on a type of etching step and material etched, the photoresist residue mixed with the etch residue presents a challenging removal problem since the photoresist residue mixed with the etch residue often strongly bond to the sidewalls of the etch features.」(1ページ18?34行)
上記の記載部分の当審による仮訳文:
「発明の背景
半導体の製造では、イオン注入、エッチング、およびその他の加工ステップにおいてフォトレジストが使用される。イオン注入のステップでは、半導体基板のドーパントを注入しない領域をフォトレジストによりマスクする。エッチングのステップでは、半導体基板をエッチングしない区域をフォトレジストによりマスクする。その他の加工ステップの例には、加工されたウェーハ全体の保護コーティングまたはMEMS(超小型電気機械システム)デバイス全体の保護コーティングとしてフォトレジストを使用することが含まれる。
イオン注入のステップの後、フォトレジストはゼリ-様のコアを覆う硬い外殻を示す。この硬い外殻はフォトレジストの除去を困難にする。
エッチングのステップの後に残留するフォトレジストは、フォトレジストの除去を困難にする硬い性質を示す。エッチングのステップの後、エッチング残渣と混ざったフォトレジスト残渣が、エッチングフィーチャの側壁を被覆する。エッチングのステップとエッチングされた材料の種類にもよるが、エッチング残渣と混ざったフォトレジスト残渣は往々にしてエッチングフィーチャの側壁と強く結合するので、このエッチング残渣と混ざったフォトレジスト残渣は難しい除去の問題を提示する。」

「FIG. 2 illustrates a first via structure 30 of the prior art subsequent to an RIE (reactive ion etching) etch and prior to a photoresist and residue removal.」(2ページ9?10行)
上記の記載部分の当審による仮訳文:
「図2は、RIE(反応性イオンエッチング)の後、フォトレジストおよび残渣除去の前の従来の技術の第一バイア構造30を図示する。」

「SUMMARY OF THE INVENTION
The present invention is a method of removing photoresist and residue from a substrate. Typically, the photoresist--or the photoresist and the residue, or the residue-remains on the substrate following a preceding semiconductor processing step such as ion implantation or etching. The method begins by maintaining supercritical carbon dioxide, an amine, and a solvent in contact with the substrate so that the amine and the solvent at least partially dissolve the photoresist and the residue.」(5ページ4?10行)
上記の記載部分の当審による仮訳文:
「発明の概要
本発明は、基板からフォトレジストおよび残渣を除去するための方法である。イオン注入またはエッチングなどの先行する半導体の加工ステップ後、一般にフォトレジスト、すなわちフォトレジストおよび残渣、または残渣が基板上に残留する。この方法は、アミンおよび溶剤が少なくとも部分的にフォトレジストおよび残渣を溶解するように超臨界二酸化炭素、アミン、および溶剤を基板と接触させた状態に保つことによって始まる。」

「Preferably, the solvent is selected from the group consisting of DMSO (dimethyl sulfoxide), EC (ethylene carbonate), NMP (N-methyl-2-pyrrolidone), acetyl acetone, BLO (butyrolactone), acetic acid, DMAC(N, N'-dimethylacetamide), PC (propylene carbonate), and a mixture thereof. More preferably, the solvent is selected from the group consisting of DMSO, EC, NMP, acetyl acetone, BLO, glacial acetic acid, and a mixture thereof.」(7ページ8?14行)
上記の記載部分の当審による仮訳文:
「好ましくは溶剤は、DMSO(ジメチルスルホキシド)、EC(炭酸エチレン)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、アセチルアセトン、BLO(ブチロラクトン)、酢酸、DMAC(N,N’-ジメチルアセトアミド)、PC(炭酸プロピレン)、およびその混合物からなる群から選択される。より好ましくは溶剤は、DMSO、EC、アセチルアセトン、BLO、氷酢酸、およびその混合物からなる群から選択される。」

(3)原査定の拒絶理由において周知技術として引用された、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-295239号公報(以下、「周知技術文献2」という。)には、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、フォトレジストの剥離工程を有する半導体集積回路や回路基板等を製造する技術分野に属し、主としてノボラック系樹脂からなるフォトレジストを剥離する際に使用する洗浄剥離組成物及び洗浄剥離方法に関する。」
「【0015】剥離すべきフォトレジストの剥離特性は、それまでの製造工程に受けたイオン注入やエッチングなどの加工履歴により大きく左右されるものである。このため、剥離温度と剥離液組成物の組成とは、実際のフォトレジストの状態によって最適に設定されるべきである。たとえば、イオン注入濃度の大きい場合にはレジスト表面が炭化し、硬化するため、湿式剥離を行う前に、酸素プラズマ等によるドライエッチングにより、あらかじめ硬化した表面層を除去することが一般的となっている。このように硬化した表面層が除去されている場合には、剥離温度が70℃以下でも剥離効果を奏するが、レジストを硬化させ密着を完全にするためのポストベークを終え、硬化した表面層が除去されていないフォトレジストを本発明により剥離する場合には、剥離効果は70℃以上で顕著である。」
「【0025】(実施例2)フォトレジスト剥離を行う試料として、シリコン基板表面に、絶縁層として窒化酸化膜を形成し、この上に東京応化製OFPR-800型のノボラック系ポジ型フォトレジストをスピン塗布し、90℃で30分間のプリベークを経た後、通常の方法に従ってマスク露光現像し、純水リンス後、135℃で30分間のポストベークを施し、スルーホールエッチ、すなわちドライエッチングにより絶縁層を除去する加工を経たウェハーを用意する。このウェハーを、4-メトキシ-1ブタノールを25重量%含む炭酸プロピレン溶液より成る本発明の剥離液組成物で満たされ90℃に加温された剥離槽の中で10分間揺動し、ウェハー上のフォトレジストを剥離した後、ウェハーをイオン交換水槽に移し5分間濯ぎ洗浄した。その結果、フォトレジストは、完全に除去され、スルーホールが満足に形成された。なお、この剥離液組成物の引火点は93℃(クリーブランド開放式)であった。」

3 当審の判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア まず、引用発明1の「ガラス基板上の樹脂ブラックマトリクスや着色膜が形成され、さらに前記着色膜上にレジスト膜が形成されてなる積層パターン形成物」、「レジスト剥離用溶剤」及び「不要レジスト膜を剥離するレジスト剥離方法」のそれぞれが、本願発明1の「レジスト膜を有する基体」、「処理液」及び「レジスト膜の除去方法」のそれぞれに相当することは明らかである。

イ また、本願発明1の「表面にイオン注入処理またはドライエッチング処理が施されたレジスト膜」と、引用発明1の「前記積層パターン形成物が露光・現像された後、さらに前記レジスト膜及び着色膜の現像が同時に行われてエッチングされた前記積層パターン形成物のエッチング処理後の不要となった前記レジスト膜」とは、ともに「レジスト膜」である点で共通する。

ウ さらに、本願発明1の「液状の炭酸エチレン、炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンと炭酸プロピレンとの液状混合物からなる処理液」が、50?200℃に加熱したものであるのに対して、引用発明1における「レジスト剥離用溶剤として好ましいとされる炭酸エチレン又は炭酸プロピレン又は炭酸エチレンと炭酸プロピレンの2種を組み合わせたものに、水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加したレジスト剥離用溶剤」も、レジストを剥離するのに適するとされる室温から沸点の間の任意の温度である20乃至80℃の作業温度条件下において用いられていることから、引用発明1における前記レジスト剥離用溶剤が、レジストを剥離するのに適するとされる20乃至80℃に加熱されていることは明らかである。
そうすると、引用発明1の前記「レジスト剥離用溶剤として好ましいとされる炭酸エチレン又は炭酸プロピレン又は炭酸エチレンと炭酸プロピレンの2種を組み合わせたものに、水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加したレジスト剥離用溶剤」と、本願発明1の前記「液状の炭酸エチレン、炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンと炭酸プロピレンとの液状混合物からなる処理液」とは、ともに「加熱した液状の処理液」である点で共通する。

エ したがって、本願発明1と引用発明1とは、
「レジスト膜を有する基体に、加熱した液状の処理液を接触させて、前記レジスト膜を除去するレジスト膜の除去方法」
である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。

相違点1:レジスト膜が、本願発明1では、「表面にイオン注入処理またはドライエッチング処理が施されたレジスト膜」であるのに対し、引用発明1は、そのような処理が施されたレジスト膜であるか否かが明確でない点。
相違点2:加熱した液状の処理液が、本願発明1では、「炭酸エチレン、炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンと炭酸プロピレンとの液状混合物からなる処理液」であるのに対し、引用発明1は、「レジスト剥離用溶剤として好ましいとされる炭酸エチレン又は炭酸プロピレン又は炭酸エチレンと炭酸プロピレンの2種を組み合わせたものに、水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加したレジスト剥離用溶剤」である点。
相違点3:処理液の加熱温度範囲が、本願発明1では、「50?200℃」であるのに対し、引用発明1は、「20乃至80℃」である点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点1について
(ア)引用刊行物1には、レジスト剥離用溶剤による剥離対象のレジストとして、イオン注入またはドライエッチング処理に用いられるような、例えばノボラック系ポジ型フォトレジスト等の一般的なレジストについても記載されており、そして、前記レジストが引用刊行物1に記載のレジスト剥離用溶剤が適用されるに好ましいレジストである旨が記載(段落【0022】?【0024】の記載を参照。)されている。
また、引用刊行物1に記載のレジスト剥離用溶剤は、ポジ型レジストに対する親和力が極めて強く、レジスト中に容易に浸透し、変質したレジストまでを短時間で溶解することができることについても記載(段落【0016】の記載を参照。)されている。

(イ)一方、レジスト剥離という技術分野において、イオン注入やドライエッチング処理が施されたレジスト膜は変質し、そのレジスト膜の剥離が困難である旨の知見が、周知技術文献1及び周知技術文献2に記載されていることから、かかる知見は本願特許出願時における周知技術であるといえる。

(ウ)そうすると、引用発明1において、変質したレジストまでを短時間で溶解することができるレジスト剥離能力に優れたレジスト剥離用溶剤として好ましいとされた炭酸エチレン、炭酸プロピレンを、剥離が困難なレジスト膜であることが周知の知見となっているイオン注入またはドライエッチング処理が施されたレジスト膜の剥離のためのレジスト剥離用溶剤として試みようとすることは、引用刊行物1の上記記載、並びに、周知技術文献1及び周知技術文献2に記載された周知技術を参照すれば、当業者が容易に想到できることといえる。そして、引用発明1には、その適用を阻害する格別の事情も認めることができない。

(エ)したがって、引用発明1に前記周知技術を適用する際に、引用発明1の剥離すべき不要のレジスト膜を、前記相違点1に係る本願発明1の前記「表面にイオン注入処理またはドライエッチング処理が施されたレジスト膜」に置換することは、引用刊行物1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できることである。

イ 相違点2について
(ア)引用刊行物1に、ガラス基板上の樹脂ブラックマトリクスや着色層にクラックが発生しないようにするために添加される水分や残留溶剤にはレジスト剥離能力が全くないか著しく劣ることから、水分や残留溶剤が添加された剥離用溶剤のレジスト剥離能力は低下することについて記載(段落【0015】の記載を参照。)されている。
かかる引用刊行物1の記載からみて、クラック発生の防止のために添加される「水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤」が、レジスト剥離能力の低下を招くことは明らかであるといえる。
一方、周知技術文献1及び周知技術文献2に記載されているイオン注入やドライエッチング処理が施されたレジスト膜が、前記した樹脂ブラックマトリクスや着色層を下層に有していないことは明らかである。
そうすると、前記周知技術文献1及び周知技術文献2に記載されているイオン注入やドライエッチング処理が施されたレジスト膜を剥離する際には、前記レジスト膜がクラックの発生を招く樹脂ブラックマトリクスや着色層を下層に有していないことから、クラック発生の防止を考慮する必要がないことも明らかなことである。

(イ)さすれば、引用発明1において、引用発明1のレジスト膜として、前記周知技術文献1及び周知技術文献2に記載されているイオン注入やドライエッチング処理が施されたレジスト膜を採用してレジスト膜を剥離する際には、クラック発生の防止を考慮する必要がないことから、引用発明1の「レジスト剥離用溶剤として好ましいとされる炭酸エチレン又は炭酸プロピレン又は炭酸エチレンと炭酸プロピレンの2種を組み合わせたものに、水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤を添加したレジスト剥離用溶剤」を、クラック発生の防止のために添加される「水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤」の添加によるレジスト剥離能力の低下を回避するために、引用発明1の前記レジスト剥離用溶剤に前記「水分又は前記着色膜を形成するために使用された樹脂溶液組成物の溶剤と同一の溶剤」を添加することなく、単なる「レジスト剥離用溶剤として好ましいとされる炭酸エチレン又は炭酸プロピレン又は炭酸エチレンと炭酸プロピレンの2種を組み合わせたレジスト剥離用溶剤」に変更して、イオン注入やドライエッチング処理が施されたレジスト膜の剥離に用いるようにすることは、引用刊行物1の上記記載並びに周知技術文献1及び周知技術文献2に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に想到できることである。

(ウ)したがって、引用発明1のレジスト剥離用溶剤を、前記相違点2に係る本願発明1の前記「炭酸エチレン、炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンと炭酸プロピレンとの液状混合物からなる処理液」とすることは、引用刊行物1の記載及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得ることである。

ウ 相違点3について
(ア)引用発明1のレジスト剥離用溶剤の加熱温度範囲「20乃至80℃」と本願発明1の処理液の加熱温度範囲「50?200℃」とは、「50?80℃」の数値範囲において重複していることが明らかであるから、引用発明1と本願発明1とは、少なくとも「50?80℃」の加熱温度範囲において一致しているといえる。
してみると、本願発明1の前記相違点3に係る「50?200℃」の処理液の加熱温度範囲は、引用発明1と本願発明1との実質的な構成上の相違ということができない。

(イ)また、引用発明1に、表面にイオン注入またはドライエッチング処理が施されたレジスト膜を剥離する周知技術を適用する際に、レジスト剥離用溶剤についての好適な加熱温度範囲を設定しておくことは、当然に考慮すべき技術事項であって、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないことである。
そうすると、引用発明1のレジスト剥離用溶剤の加熱温度範囲「20乃至80℃」を、前記相違点3に係る本願発明1の処理液の加熱温度範囲「50?200℃」に変更することは、当業者が必要に応じてなし得る設計事項でもあるといえる。

そして、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明1及び周知技術から予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願特許出願前に当業者が上記引用発明1及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、請求項1に係る本願発明1は、本願特許出願前に当業者が上記引用発明1及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-08 
結審通知日 2008-09-09 
審決日 2008-09-24 
出願番号 特願2002-229697(P2002-229697)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 越河 勉
末政 清滋
発明の名称 有機被膜の除去方法  
代理人 岩見谷 周志  
代理人 岩見谷 周志  

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