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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G |
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管理番号 | 1187296 |
審判番号 | 不服2005-14610 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-07-29 |
確定日 | 2008-11-06 |
事件の表示 | 特願2001-294718「電気光学装置の駆動方法及び電気光学装置及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月21日出願公開、特開2002-175048〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成12年9月29日にされた出願(特願2000-300859号)に基づく優先権を主張して平成13年9月26日にされた特許出願(特願2001-294718号)であって、平成17年6月28日付け(発送日:同年7月5日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年7月29日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年8月26日付けで明細書を補正対象とする手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「平成17年8月26日付け補正」といい、また「本件補正」ともいう。)が提出されたものである。 第2 平成17年8月26日付け補正についての補正の却下の決定 1 補正の却下の決定の結論 平成17年8月26日付け補正を却下する。 2 補正の却下の決定の理由 (1)本件補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲を次のように補正する内容を含むものである。 ア 本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、を備えた電気光学装置の駆動方法であって、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタに与え、前記オン信号を与える期間に対応して前記ドライビングトランジスタの導通または非導通を選択するセット信号を前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えるセットステップと、 前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記リセットトランジスタに与えることにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットステップ、とを含み、 前記セットステップ及び前記リセットステップは、所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で実行されること を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項2】 請求項1に記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記電気光学装置は前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線をさらに含み、前記リセットトランジスタの一端が前記電源線に接続されていること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項3】 請求項1または2に記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタの導電型と前記リセットトランジスタの導電型とが互いに異なること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタ、前記ドライビングトランジスタ、及び前記リセットトランジスタの導電型がそれぞれn型、p型、及びp型であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項5】 請求項4に記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号に対応する電圧値VSと、前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号に対応する電圧値VRと、前記スイッチングトランジスタ及び前記リセットトランジスタとをともにオフ状態とするオフ信号に対応する電圧値V0とが、VS>V0>VRという関係式を満たすこと、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項6】 請求項5に記載の電気光学装置の駆動方法において、V0=0 V(ボルト)であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする期間はリセットトランジスタをオフ状態とすること、及び 前記リセットトランジスタをオン状態とする期間は前記スイッチングトランジスタをオフ状態とすること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項8】 請求項1乃至7のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記セットステップと前記リセットステップとの間の時間間隔を設定することにより階調を得ること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項9】 請求項1乃至8のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記セットステップと前記リセットステップとで規定されるセット-リセット動作を複数回繰り返すことにより階調を得ること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項10】 請求項9に記載の電気光学装置の駆動方法において、 複数回繰り返す前記セット-リセット動作における前記セットステップと前記リセットステップとの間の時間間隔がそれぞれ異なっていること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項11】 請求項9または10に記載の電気光学装置の駆動方法において、 複数回繰り返す前記セット-リセット動作の前記セットステップと前記リセットステップとの間の時間間隔がすべて異なっており、これら時間間隔の比が、前記時間間隔のうち最小の時間間隔を基準としておよそ1:2:..:2n(nは1以上の整数)となるように設定されていること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項12】 請求項1乃至11のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記セット信号は、前記ドライビングトランジスタの導通または非導通を選択する代わりに、前記ドライビングトランジスタの導通状態を決定する信号であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項13】 請求項1乃至12のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記電気光学素子が有機エレクトロルミネッセンス素子であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項14】 請求項1乃至13のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法によって駆動されること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項15】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、を備えた電気光学装置であって、 前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタ及び前記リセットトランジスタをオン状態またはオフ状態とする信号を発生させ、前記スイッチングトランジスタをオン状態とする信号に対応して前記ドライビングトランジスタをセットする信号を発生させるとともに、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする信号と前記リセットトランジスタをオン状態とする信号とを所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で発生させる駆動回路を少なくとも一つ含むこと、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項16】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、を備えた電気光学装置であって、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする信号と前記リセットトランジスタをオン状態とする信号とを所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で前記走査線に供給する走査線ドライバーと、 前記走査線ドライバーの動作に対応して前記ドライビングトランジスタをセットする信号を前記データ線に供給するデータ線ドライバーと、 を含むことを特徴とする電気光学装置。 【請求項17】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、を備えた電気光学装置であって、 前記電気光学素子をセットするセットステップを行うためのオン信号が前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタに与えられること、及び 前記電気光学素子をリセットするリセットステップを行うためのオン信号が前記走査線を介して前記リセットトランジスタに与えられ、 前記セットステップを行うためのオン信号と前記リセットステップを行うためのオン信号とを所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で発生させること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項18】 請求項15乃至17のいずれかに記載の電気光学装置において、 前記電気光学装置は前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線をさらに含み、前記リセットトランジスタの一端が前記電源線に接続されていること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項19】 請求項15乃至18のいずれかに記載の電気光学装置において、 前記電気光学素子が有機エレクトロルミネッセンス素子であること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項20】 請求項14乃至19のいずれかに記載の前記電気光学装置が実装されてなる電子機器。」 イ 本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線を備えた電気光学装置の駆動方法であって、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタに与え、前記オン信号を与える期間に対応して前記ドライビングトランジスタの導通または非導通を選択するセット信号を前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えるセットステップと、 前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記リセットトランジスタに与えて前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続することにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットステップ、とを含み、 前記セットステップから前記リセットステップまでの時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得ること を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項2】 請求項1に記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記電気光学装置は前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線をさらに含み、前記リセットトランジスタの一端が前記電源線に接続されていること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項3】 請求項1または2に記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタの導電型と前記リセットトランジスタの導電型とが互いに異なること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタ、前記ドライビングトランジスタ、及び前記リセットトランジスタの導電型がそれぞれn型、p型、及びp型であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項5】 請求項4に記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号に対応する電圧値VSと、前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号に対応する電圧値VRと、前記スイッチングトランジスタ及び前記リセットトランジスタとをともにオフ状態とするオフ信号に対応する電圧値V0とが、VS>V0>VRという関係式を満たすこと、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項6】 請求項5に記載の電気光学装置の駆動方法において、V0=0 V(ボルト)であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする期間はリセットトランジスタをオフ状態とすること、及び 前記リセットトランジスタをオン状態とする期間は前記スイッチングトランジスタをオフ状態とすること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項8】 請求項1乃至7のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記セットステップと前記リセットステップとで規定されるセット-リセット動作を複数回繰り返すことにより階調を得ること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項9】 請求項8に記載の電気光学装置の駆動方法において、 複数回繰り返す前記セット-リセット動作における前記セットステップと前記リセットステップとの間の時間間隔がそれぞれ異なっていること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項10】 請求項8または9に記載の電気光学装置の駆動方法において、 複数回繰り返す前記セット-リセット動作の前記セットステップと前記リセットステップとの間の時間間隔がすべて異なっており、これら時間間隔の比が、前記時間間隔のうち最小の時間間隔を基準としておよそ1:2:..:2n(nは1以上の整数)となるように設定されていること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項11】 請求項1乃至10のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記セット信号は、前記ドライビングトランジスタの導通または非導通を選択する代わりに、前記ドライビングトランジスタの導通状態を決定する信号であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項12】 請求項1乃至11のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法において、 前記電気光学素子が有機エレクトロルミネッセンス素子であること、 を特徴とする電気光学装置の駆動方法。 【請求項13】 請求項1乃至12のいずれかに記載の電気光学装置の駆動方法によって駆動されること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項14】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線を備えた電気光学装置であって、 前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタ及び前記リセットトランジスタをオン状態またはオフ状態とする信号と、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする信号に対応して前記ドライビングトランジスタをセットする信号を発生させる駆動回路を少なくとも一つ含み、 前記リセットトランジスタをオン状態とする信号は、前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続することにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットし、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする信号を発生させる時間から前記リセットトランジスタをオン状態とする信号を発生させる時間までの時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得ること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項15】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線を備えた電気光学装置であって、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする信号と前記リセットトランジスタをオン状態とする信号とを前記走査線に供給する走査線ドライバーと、 前記走査線ドライバーの動作に対応して前記ドライビングトランジスタをセットする信号を前記データ線に供給するデータ線ドライバーと、を含み、 前記リセットトランジスタをオン状態とする信号は、前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続することにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットし、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とする信号を発生させる時間から前記リセットトランジスタをオン状態とする信号を発生させる時間までの時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得ること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項16】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線を備えた電気光学装置であって、 前記電気光学素子をセットするセットステップを行うためのオン信号が前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタに与えられるとともに、前記オン信号に対応して前記ドライビングトランジスタをセットする信号が前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えられること、 前記電気光学素子をリセットするリセットステップを行うためのオン信号が前記走査線を介して前記リセットトランジスタに与えられ前記リセットトランジスタをオン状態として前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続することにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットされること、及び 前記セットステップから前記リセットステップまでの間の時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得ること を特徴とする電気光学装置。 【請求項17】 請求項14乃至16のいずれかに記載の電気光学装置において、 前記リセットトランジスタの一端が前記電源線に接続されていること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項18】 請求項14乃至17のいずれかに記載の電気光学装置において、 前記電気光学素子が有機エレクトロルミネッセンス素子であること、 を特徴とする電気光学装置。 【請求項19】 請求項13乃至18のいずれかに記載の前記電気光学装置が実装されてなる電子機器。」 なお、アンダーラインは補正箇所を示すために当審が付したものである。 (2)補正の目的について 本件補正の請求項1についての補正は、「前記電気素子」を「前記電気光学素子」とすることにより誤記を訂正し、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「電気光学装置」について、「前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線」を備えたものに限定し、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記リセットトランジスタに与える」ときの動作について、「前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続する」と限定し、さらに、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記セットステップ及びリセットステップは、所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で実行されること」を、「前記セットステップから前記リセットステップまでの時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得ること」と限定するものであるから、本件補正の請求項1についての補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同項の2第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 なお、本件補正後の請求項1を再掲すると以下のとおりである。 「【請求項1】 走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線を備えた電気光学装置の駆動方法であって、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタに与え、前記オン信号を与える期間に対応して前記ドライビングトランジスタの導通または非導通を選択するセット信号を前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えるセットステップと、 前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記リセットトランジスタに与えて前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続することにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットステップ、とを含み、 前記セットステップから前記リセットステップまでの時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得ること を特徴とする電気光学装置の駆動方法。」 (3)引用例 ア 引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-319908号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0010】【課題を解決するための手段】本発明は、有機発光ダイオード(O-LED)を使用するディスプレイで使用するためのピクセル構造を含む。全体アレイの各ピクセル構造は、有機発光ダイオード(O-LED)を含む。」 (イ)「【0025】図2は、本発明に従ったO-LEDピクセル構造の第1の典型的な具体例の回路図を示す。所与のピクセルのアレイ(例えば1024×1280)における各ピクセル構造は同一であると予期されるので、ひとつのピクセル構造だけが記述される。図2に示されたピクセルの構成は、電流でプログラム可能であり、そしてO-LEDの遷移電圧又はトランジスタのスレッショルド電圧のシフトのいずれかと独立である。 【0026】図2に示されるように、ピクセル構造200は、O-LED210と、2つのトランジスタT1及びT2と、データ方向に走る2つのラインD1及びD2と、セレクト方向に走る2つのラインS1及びS2とを含む。加えて、ピクセル構造200は、キャパシタC1を含む。典型的な具体例では、各トランジスタは、ソース、ゲート、及びドレインと、対応する電極とを含む。」 (ウ)「【0043】図5は、本発明に従ったO-LEDピクセル要素の第2の典型的な実施例の回路図を示す。図5に示されたピクセル構造500は、図2に示された構造と類似して、マルチモード動作を含んでいる。しかしながら、予測されるように、ピクセル構造200とピクセル構造500との間にはいくつかの相違点が存在する。例えば、図2のデータライン及びセレクトラインの対は、図5に示されたピクセル構造において単一のデータライン及び単一のセレクトラインに置換えられた。 【0044】図5に目を向けると、ピクセル構造500は、O-LED510と、2つのトランジスタT1及びT2と、データ方向に走る1本のラインD1と、セレクト方向に走る1本のラインS1とを含む。典型的な具体例では、各トランジスタはソース、ゲート、及びドレインと、対応する電極とを含む。加えて、そしてピクセル構造200に類似して、ピクセル構造500は、ピクセルの発光レベルを決定する電位をレベルが格納されるキャパシタC1を含む。」 (エ)「【0050】詳細には記述されていないけれども、代替的なピクセル構造の追加的な予期される実施例が、図6?9に示されている。本開示を手にした当業者は、図2及び5に関連して述べられた実施例の記述された動作と図4の電流発生回路とが与えらると、どのように各々の典型的な具体例が動作するかを認識するだろう。特定の実施例に依存して、電流発生源400は、相互接続とタイミングの必要性の便宜をはかるために些細な変形を必要とするかもしれない。」 (オ)「【0052】図7は、本発明に従ったO-LEDピクセル要素の第4の典型的な実施例の回路図を示す。端的には、図7に見られるように、トランジスタT1、T2及びT3はPMOS技術を使用して製造される。データラインだけでなく、セレクトラインおよび電流源も、プログラムされた電流レベルに関連した電位をC1上に設定するために操作される。発光モード中には、格納された負の電位が、トランジスタT2のゲートを適正なレベルに駆動し、電流の適正量がO-LED710に通過することを許容する。加えて、ピクセル構造700は、T3の形式でのリセット機構を含み、この機構は、導通されたときに、C1上に格納された電位が放電することをを引き起こす。」 (カ)図面の図2及び図5には、セレクトラインS1とデータラインD1との交点に対応して、ピクセル構造200または500を設けることが描かれている。 (キ)図面の図7には、O-LED710と、電流源とO-LED710との間に配置されたトランジスタT2と、トランジスタT2のゲート電極とデータラインの間に配置されたトランジスタT1と、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されたキャパシタC1と、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されたトランジスタT3とを有するピクセル構造700が描かれ、トランジスタT1のゲート電極はセレクトラインに接続され、トランジスタT3のゲート電極にはリセットパルスが入力されることが描かれている。 上記摘記事項(ア)ないし(キ)から、以下のことが読み取れる。 a 摘記事項(エ)の段落【0050】の記載によると、図6?9に示されているのは、代替的なピクセル構造の追加的な実施例であるから、図7のピクセル構造700は、図5のピクセル構造500と同様に、セレクトラインS1とデータラインD1の交点に対応して設けられるものであり、摘記事項(ア)の段落【0010】に記載されるように、「ディスプレイ」として使用されるものであること。 b 摘記事項(オ)の段落【0052】の「トランジスタT1、T2及びT3はPMOS技術を使用して製造される。」との記載から、トランジスタT1ないしT3は、それぞれPMOSのトランジスタであること。 c 摘記事項(オ)の段落【0052】の「データラインだけでなく、セレクトラインおよび電流源も、プログラムされた電流レベルに関連した電位をC1上に設定するために操作される。発光モード中には、格納された負の電位が、トランジスタT2のゲートを適正なレベルに駆動し、電流の適正量がO-LED710に通過することを許容する。」との記載、及び、図面の図7に描かれた回路構造から、プログラムされた電流レベルに関連した電位をC1上に設定するためには、セレクトラインに信号を入力することにより、トランジスタT1を導通させる操作を行うことが明らかであること。 d 摘記事項(オ)の段落【0052】に記載された方法は、O-LED710の発光を制御するためのものであるから、O-LED710の駆動方法であること。 そうすると、上記摘記事項(ア)ないし(キ)から、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「セレクトラインS1とデータラインD1との交点に対応して、有機発光ダイオード(O-LED710)と、電流源とO-LED710との間に配置されたPMOSのトランジスタT2と、ゲート電極がセレクトラインに接続され、トランジスタT2のゲート電極とデータラインの間に配置されたPMOSのトランジスタT1と、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されたキャパシタC1と、ゲート電極にリセットパルスが入力され、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されたトランジスタT3とを有するピクセル構造700を備えたディスプレイにおけるO-LED710の駆動方法であって、 前記セレクトラインに信号を入力することにより、トランジスタT1を導通させて、プログラムされた電流レベルに関連した電位をキャパシタC1上に設定し、発光モード中には、キャパシタC1に格納された負の電位が、トランジスタT2のゲートを適正なレベルに駆動し、電流の適正量がO-LED710に通過することを許容し、 トランジスタT3の形式でのリセット機構が導通されたときに、キャパシタC1上に格納された電位を放電するO-LED710の駆動方法。」 イ 引用例2 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-30789号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0045】・・・ [第2実施形態]本実施形態の液晶表示素子は、アレイ基板上に640×480(VGA)の画素が形成されたディスプレイである。 【0046】図3はTFTアレイ上のサブピクセルの構成を示す平面図である。図4(a)はサブピクセル群のうち4行2列部分の等価回路を示す回路図である。図3,4において、図1,2と同一な部分には同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。 【0047】本実施形態の特徴は、同じ画素電極15に接続されるnチャネルTFT素子14と、pチャネルTFT素子17のゲート電極が同一画素行の走査線11に接続され、画素電極15がpチャネルTFT素子17を介して同一画素行の補助容量線13に接続されていることである。 【0048】各行の補助容量線13は、通常のように最端部で接続され同一の端子から取り出すのではなく、各行で独立に走査線端子と反対側の基板端に設けた端子から取り出される構造とし、各補助容量線13の電位を独立に駆動可能とした。なお、補助容量線13の端子及び走査線11の端子を同じ側から、補助容量線13の群と走査線11の群をそれぞれまとめて取り出し、それぞれ別の駆動回路IC群によって駆動することも可能である。 【0049】なお、各TFT素子,液晶材料及び液晶セルの製造方法は第1実施形態と同じであるので、その説明を省略する。駆動系は、最大印加電圧3V,1ラインの選択時間64μsのVGA対応(上下二分割駆動)のものを用いた。各走査線11に、図4(b)に例示した走査線駆動波形を入力した。リセットパルス21は、複数画素行で一部ずつオーバーラップさせ、そのパルス幅を約300μsとして十分リセット時間を確保した。 【0050】走査線11にリセットパルス21が入力されると、nチャネルTFT素子14はオフとなり、pチャネルTFT素子17がオンとなる。pチャネルTFT素子17のオンにより画素電極15が補助容量線13に接続される。そして、画素印加電圧を前のフレームの信号極性と逆の極性の飽和電圧の1/2付近の電圧にすることによって、リセット動作が行われる。この動作は、補助容量線電位を液晶の飽和電圧の1/2の電圧にシフトさせることによって行われる。 【0051】次いで、信号書込パルス22によって、nチャネルTFT素子14がオンとなり、信号線12から画素電極15に画像の階調に応じた画像信号を入力されて画像表示が行われる。」 (イ)図面の図4(a)には、pチャネルTFT素子17がオンとなるときに、補助容量16に蓄積された電荷を放電する回路が描かれている。 (ウ)図面の図4(b)には、各走査線11に入力する走査線駆動波形として、リセット期間を確保するためにパルス幅を長くした負のリセットパルスと、パルス幅の短い正の信号書き込みパルス22からなる複数の走査線駆動波形が、およそ信号書き込みパルス22のパルス幅だけタイミングをずらして描かれている。 (4)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 a 引用発明の「セレクトラインS1」、「データラインD1」、「有機発光ダイオード(O-LED710)」及び「ディスプレイ」は、それぞれ、本件補正発明の「走査線」、「データ線」、「電気光学素子」及び「電気光学装置」に相当し、引用発明の「ディスプレイにおけるO-LED710の駆動方法」は、O-LED710が駆動されることによりディスプレイが駆動されるものであるから、本件補正発明の「電気光学装置の駆動方法」に相当する。 b 引用発明の「電流源とO-LED710との間に配置されたPMOSのトランジスタT2」は、本件補正発明の「電気光学素子」に相当する「O-LED710」を通過する電流量を制御するものであるから、本件補正発明の「前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタ」に相当する。 c 引用発明の「トランジスタT2のゲート電極とデータラインの間に配置されたPMOSのトランジスタT1」は、導通することにより、「プログラムされた電流レベルに関連した電位をキャパシタC1上に設定」するものであり、発光モード中には、キャパシタC1に格納された負の電位が、本件補正発明の「ドライビングトランジスタ」に相当する「トランジスタT2」を制御することとなる。したがって、引用発明の「トランジスタT2のゲート電極とデータラインの間に配置されたPMOSのトランジスタT1」は、キャパシタC1を介して、本件補正発明の「ドライビングトランジスタ」に相当する「トランジスタT2」を制御しているということができるから、本件補正発明の「前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタ」に相当する。 d 引用発明の「ゲート電極にリセットパルスが入力され、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されたトランジスタT3」は、「トランジスタT3の形式でのリセット機構が導通されたときに、キャパシタC1上に格納された電位を放電する」という動作を行うものであり、キャパシタC1の電位が放電されると、P-MOSのトランジスタT2のゲート電極と電流源に接続されたソース電極とが同電位となることにより、P-MOSのトランジスタT2は非導通状態となるから、引用発明の「ゲート電極にリセットパルスが入力され、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されたトランジスタT3」は、本件補正発明の「前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタ」に相当する。 e 引用発明の「電流源」と「O-LED710」の間は「トランジスタT2」を介して配線で接続されており、これらの配線が、本件補正発明の「前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線」に相当する。 f 引用発明のセレクトラインに入力する信号は、トランジスタT1を導通させるものであるから、本件補正発明の「前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号」に相当し、引用発明においてセレクトラインに信号を入力する期間が、本件補正発明の「前記オン信号を与える期間」に相当し、本件引用発明の「プログラムされた電流レベルに関連した電位」が、本件補正発明の「セット信号」に相当する。また、引用発明において、「プログラムされた電流レベルに関連した電位」が「キャパシタC1上に設定され」ることは、キャパシタC1上に格納された負の電位は、本件補正発明の「ドライビングトランジスタ」に相当する「トランジスタT2」のゲートを適正なレベルに駆動するものであるから、本件補正発明において、「セット信号」を「前記ドライビングトランジスタに与える」ことに相当する。 そして、これらの相当関係を考慮すると、引用発明において、「前記セレクトラインに信号を入力することにより、トランジスタT1を導通させて、プログラムされた電流レベルに関連した電位をキャパシタC1上に設定」することと、本件補正発明の「前記オン信号を与える期間に対応して前記ドライビングトランジスタの導通または非導通を選択するセット信号を前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えるセットステップ」とは、「前記オン信号を与える期間に対応して前記ドライビングトランジスタのセット信号を前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えるセットステップ」である点で共通する。 g 引用発明の「ゲート電極にリセットパルスが入力され、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されたトランジスタT3」は、「トランジスタT3の形式でのリセット機構が導通されたときに、キャパシタC1上に格納された電位を放電する」という動作を行うものであり、引用発明の「リセットパルス」が、本件補正発明の「前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号」に相当する。そして、引用発明のトランジスタT3は、トランジスタT2のゲート電極と電流源との間に配置されるものであるから、引用発明の「トランジスタT3の形式でのリセット機構が導通されたとき」が、本件補正発明の「前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続すること」に相当し、引用発明において、「キャパシタC1上に格納された電位を放電する」ことは、P-MOSのトランジスタT2のゲート電極と電流源に接続されたソース電極とを同電位として、P-MOSのトランジスタT2を非導通状態とすることであるから、本件補正発明の「前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットステップ」に相当する。 そうすると、上記aないしgの考察から、本件補正発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。 (一致点) 「走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気光学素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線を備えた電気光学装置の駆動方法であって、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタに与え、前記オン信号を与える期間に対応して前記ドライビングトランジスタのセット信号を前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えるセットステップと、 前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号を前記リセットトランジスタに与えて前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続することにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットステップ、とを含む電気光学装置の駆動方法。」 (相違点1) 本件補正発明は、セット信号が「導通または非導通を選択するセット信号」であり、「前記セットステップから前記リセットステップまでの時間間隔を設定することにより階調を得る」のに対し、引用発明は、セット信号が「プログラムされた電流レベルに関連した電位」であり、セットステップからリセットステップまでの時間間隔を設定することにより階調を得るものではない点。 (相違点2) 前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号が、本件補正発明では、走査線を介して与えられるのに対し、引用発明では、どのようにして与えられるのか不明であり、本件補正発明が、セットステップからリセットステップまでの時間間隔を走査線を介して設定するのに対し、引用発明は、そのように限定されていない点。 (5)当審の判断 上記各相違点について検討する。 a 相違点1について 有機発光ダイオード素子は、有機EL素子とも呼ばれる素子であって、有機発光ダイオード素子及び有機EL素子の技術分野において、発光する時間間隔を設定することにより階調を得ることは、例えば、特開平10-312173号公報に「本実施形態における発光表示装置は、表示パネルの各画素に有機EL素子を用いるものとし、各画素は、2^(n)サブフィールド法に基く発光制御により輝度階調されるものとする。」(段落【0035】)及び「表示パネル9の各画素は、供給される各サブフィールドに対応する累積発光時間だけ発光し、1フレーム分の発光時間を階調表示によって行うことができる。」(段落【0039】)と記載され、また、本願明細書の発明の詳細な説明の【従来の技術】の欄に記載された文献である、「K.Inukai, et al., "4.0-in. TFT-OLED Displays and a Novel Digital Driving Method", SID INTERNATIONAL SYMPOSIUM DIGEST OF THECHNICAL PAPERS, VOL.31, May 16, 2000, pages 924-927」の図2に、「3Tr-pixel circuit for SES driving(SES(simultaneous-erasing-scan:同時消去走査)駆動のための3トランジスタ-画素回路)」として、引用例1と同様のOLEDを使用した画素回路が描かれ、926ページ右欄4行-927ページ左欄16行の「3.2. SES driving(SES駆動)」の欄に、図2のような3トランジスタ構成の画素を、図6のように発光時間の異なる6つのサブフレームで駆動して階調表示を行うことが記載されているごとく、サブフィールド法またはサブフレーム法として従来周知の技術であり、引用発明に周知技術を適用し、発光する時間間隔を設定することにより階調を得ることに格別の困難性はない。 また、サブフィールド法における画像データの信号は、各サブフィールド期間に、発光させるか否かを選択する信号であるから、引用発明に従来周知のサブフィールド法を適用したときには、データラインに入力された画像データの信号は、トランジスタT2の導通または非導通を選択して、O-LED710の発光または非発光を選択することとなる。 よって、引用発明に従来周知のサブフィールド法を適用したときの上記画像データの信号は、本件補正発明の「前記ドライビングトランジスタの導通または非導通を選択するセット信号」に相当するものである。 さらに、引用発明のトランジスタT2は、O-LED710を通過する電流を制御するものであるから、トランジスタT1のゲート電極に論理ハイの信号を入力して、トランジスタT1を導通してキャパシタC1に負の電位を格納したときには、トランジスタT2が導通状態となることにより、電流源からの電流がO-LED710に流れてO-LED710が発光し、その後、トランジスタT3のゲート電極にリセットパルスを入力して、トランジスタT3を導通してキャパシタC1に格納された電位を放電したときには、トランジスタT2が非導通状態となることにより、O-LED710の発光が停止することとなる。そうすると、トランジスタT1のゲート電極に論理ハイの信号を入力してトランジスタT2の導通または非導通を選択するステップから、トランジスタT3のゲート電極にリセットパルスを入力してトランジスタT2を非導通とするステップまでの時間間隔を設定することにより、各サブフィールドにおけるO-LEDの発光期間を制御して、サブフィールド法による階調を得ることも、当業者が適宜なし得ることである。 以上のことから、引用発明において、発光する時間間隔を設定することにより階調を得るという有機発光ダイオード素子及び有機EL素子の技術分野における周知技術を適用し、トランジスタT1のゲート電極に論理ハイの信号を入力するステップから、トランジスタT3のゲート電極にリセットパルスを入力するステップまでの時間間隔を設定することにより、各サブフィールドにおけるO-LEDの発光期間を制御して、階調を得るごとく構成して、本件補正発明の上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 b 相違点2について 引用例2の摘記事項(ア)ないし(ウ)によると、引用例2には、液晶表示素子において、同じ画素電極15に接続されるnチャネルTFT素子14と、pチャネルTFT素子17のゲート電極を同一画素行の走査線11に接続し、走査線11に負のリセットパルス21を入力することにより、pチャネルTFT素子17をオンとし、補助容量16に蓄積された電荷を放電し、走査線11に正の信号書込パルス22を入力することにより、nチャネルTFT素子14をオンとし、信号線12から画素電極15に画像の階調に応じた画像信号を入力する技術が記載されている。 なお、引用例2の摘記事項(ア)の段落【0049】の「リセットパルス21は、複数画素行で一部ずつオーバーラップさせ、そのパルス幅を約300μsとして十分リセット時間を確保した。」との記載、及び、摘記事項(ウ)の図面の図4において、複数の走査線駆動波形が、およそ信号書き込みパルス22のパルス幅だけタイミングがずれていて、信号書き込みパルス22が順次入力されるように構成されていることからすると、pチャネルTFT素子17及びnチャネルTFT素子14のそれぞれは、負のリセットパルス21及び正の信号書込パルス22がそれぞれ入力されている期間のみ、オンとなっていることが明らかである。 そして、引用発明と引用例2に記載の発明とは、ともに電気光学装置である点において技術分野が共通し、引用発明のトランジスタT1及びトランジスタT3と、引用例2に記載のnチャネルTFT素子14及びpチャネルTFT素子17とは、一方のトランジスタが信号を書き込むためのものであり、他方のトランジスタがリセットを行うためのものである点において、制御されるべき2つのトランジスタの機能も共通する。したがって、引用発明に引用例2に記載の発明を適用して、引用発明のトランジスタT3に入力されるリセットパルスについても、データラインを介して供給し、引用発明のトランジスタT1とトランジスタT3の双方をデータラインを介して制御することにより、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることに格別の困難性はない。 そして、本件補正発明の作用効果も、引用例1及び2の記載、並びに周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載の発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 なお、請求人は、平成17年8月16日付けの手続補正書により補正された審判請求書の請求の理由において、「しかしながら、いずれの引用文献も「前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線」、「前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続することにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットする」、「前記セットステップから前記リセットステップまでの時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得る」のすべての特徴を開示するものはありません。」と主張しているが、たとえ、引用例1、引用例2及び周知技術のそれぞれが本件補正発明のすべての特徴を開示するものではないとしても、本件補正発明が、引用発明及び引用例2に記載の発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記で検討したとおりであるから、請求人の審判請求書における上記主張は採用できない。 また、請求人は、平成20年7月24日付けの回答書において、引用例1の図7では、「電流源」が用いられていることを根拠として、以下のことを主張している。 ・電流源は駆動トランジスタの駆動能力よりも大きく設定されているから、トランジスタT3を介してC1をリセットしようとすれば、電流源とトランジスタT2の駆動能力の差により、電流を流しつづけるように動作して、C1に格納された電位が放電されないこと。 ・仮にC1上に格納された電位が放電されるとしても、トランジスタT2及びO-LED710の特性に応じてトランジスタT2の電流源側の電位が上昇し、これに応じてトランジスタT2のゲートの電位がソース電位からトランジスタの閾値を差し引いた値に漸近し、徐々に電流が減少する動作をすること。 ・引用文献1において、O-LED710を非発光状態としようとしたとしても、電流源が電流を流しつづけさせようとするため、トランジスタT2により階調を設定できない問題を有するものであります。 しかしながら、引用例1の図7で「電流源」が記載されているとしても、トランジスタT1にリセットパルスが入力され、トランジスタT3が導通状態となれば、キャパシタC1に格納された電位が放電されることは明らかであるし、引用例1の図7に記載された発明は、そもそも、トランジスタT2のゲートを適正なレベルに駆動し、電流の適正量がO-LEDに通過することを許容するものであり、電流源についてもそのような駆動を行うことができるように構成することは、当業者の通常の設計事項であるから、請求人の回答書における主張も採用することができない。 (6)本件補正についてのむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成17年8月26日付け補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成17年5月20日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 2(1)ア」の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載のとおりである。 第4 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 2(3)引用例」に記載したとおりのものである。 第5 対比 本願発明は、前記「第2 2」で検討した本件補正発明の発明特定事項から、「前記ドライビングトランジスタを介して電気光学素子に電流を供給する電源線」を備えるという限定を省き、本件補正発明の発明特定事項から、「前記ドライビングトランジスタのゲートを前記電源線と電気的に接続する」との限定を省き、さらに、本件補正発明の発明特定事項である「前記セットステップから前記リセットステップまでの時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得ること」について、「前記セットステップ及びリセットステップは、所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で実行されること」とすることにより、「時間間隔を走査線を介して設定することにより階調を得る」という限定を省いたものである。 本願発明と引用発明とを対比すると、前記「第2 2(4)対比」で本件補正発明と引用発明とを対比したのと同様の相当関係から、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点a及びbで相違する。 (一致点) 「走査線とデータ線との交点に対応して、電気光学素子と、前記電気素子を駆動するドライビングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを制御するスイッチングトランジスタと、前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットトランジスタと、を備えた電気光学装置の駆動方法であって、 前記スイッチングトランジスタをオン状態とするオン信号を前記走査線を介して前記スイッチングトランジスタに与え、前記オン信号を与える期間に対応して前記ドライビングトランジスタのセット信号を前記データ線及び前記スイッチングトランジスタを介して前記ドライビングトランジスタに与えるセットステップと、 前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号を前記リセットトランジスタに与えることにより前記ドライビングトランジスタを非導通状態にリセットするリセットステップ、とを含む電気光学装置の駆動方法。」 (相違点a) 本願発明は、セット信号が「導通または非導通を選択するセット信号」であり、「前記セットステップ及び前記リセットステップは、所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で実行される」のに対し、引用発明は、セット信号が「プログラムされた電流レベルに関連した電位」であり、セットステップ及びリセットステップが、所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で実行されるのかどうかが不明である点。 (相違点b) 前記リセットトランジスタをオン状態とするオン信号が、本願発明では、走査線を介して与えられるのに対し、引用発明では、どのようにして与えられるのか不明である点。 第6 判断 1 相違点aについて、 上記周知技術であるサブフレーム法は、電気光学素子の発光または非発光を選択するステップと、発光を停止するステップを、所定の周期で繰り返すタイミングに基づいて前記所定の周期以内の期間で実行するものであることが明らかである。 そうすると、上記「第2 2(5)a 相違点1について」で検討したのと同様に理由により、本願発明の上記相違点aに係る発明特定事項は、引用発明に有機発光ダイオード素子及び有機EL素子の技術分野における上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。 2 相違点bについて 引用発明に引用例2に記載の発明を適用して、引用発明のトランジスタT3に入力されるリセットパルスについても、データラインを介して供給することに格別の困難性はないことは、上記「第2 2(5)b 相違点2について」で検討したとおりである。 そして、本願発明の作用効果も、引用例1及び2の記載、並びに周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-03 |
結審通知日 | 2008-09-09 |
審決日 | 2008-09-24 |
出願番号 | 特願2001-294718(P2001-294718) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福村 拓 |
特許庁審判長 |
杉野 裕幸 |
特許庁審判官 |
堀部 修平 下中 義之 |
発明の名称 | 電気光学装置の駆動方法及び電気光学装置及び電子機器 |
代理人 | 上柳 雅誉 |
代理人 | 須澤 修 |