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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1187319
審判番号 不服2006-8484  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-28 
確定日 2008-11-06 
事件の表示 平成 9年特許願第132919号「インクカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月 8日出願公開、特開平10-235890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成9年5月7日(優先権主張平成8年6月25日、平成8年12月25日、平成8年12月27日)の出願であって、平成18年3月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月29日付けで手続補正がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成20年6月3日付けで平成18年5月29日付け手続補正を却下するとともに、同日付けで新たな拒絶理由(いわゆる最後の拒絶理由)を通知したところ、審判請求人は平成20年8月5日付けで意見書及び明細書についての手続補正書を提出した。



2 平成20年8月5日付けの手続補正書についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正について
(1-1)本件補正前および本件補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲および発明の詳細な説明についてするものであり、その補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりのものである。

(本件補正前の特許請求の範囲:平成18年2月6日付け手続補正書)
「【請求項1】記録ヘッドにインクを供給すべく複数のインク収容室のそれぞれにフルカラー記録対応のインクを収容して前記各インク収容室に連通する各インク供給口を、インクカートリッジの一面に複数の列として配列したことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】上記複数のインク供給口を、上記インクカートリッジの一面に千鳥状に配列したことを特徴とする請求項1記載のインクカートリッジ。
【請求項3】上記複数のインク供給口を、上記インクカートリッジの一面中央部に複数の列として配列したことを特徴とする請求項1記載のインクカートリッジ。
【請求項4】上記複数のインク供給口を、上記インクカートリッジの一面両端側に配列したことを特徴とする請求項1記載のインクカートリッジ。
【請求項5】インクカートリッジの内部に区画形成した複数のインク収容室の各底面を、該各インク収容室に連通する各インク供給口の口端と略同一面となしたことを特徴とする請求項1記載のインクカートリッジ。
【請求項6】内部に大小複数のインク収容室を区画形成するとともに、前記各インク収容室のそれぞれにフルカラー記録対応のインクを収容して前記各インク収容室に連通する各インク供給口の少なくとも複数ずつが、相互に平行な複数の列上のそれぞれに位置するように一面に配置されたインクカートリッジ。
【請求項7】前記インク収容室に、インクを吸収したフォームが収容されている請求項6記載のインクカートリッジ。
【請求項8】内部を横幅方向に複数の隔壁により区画して第1のインク収容室を形成するともに、前記第1のインク収容室の少なくも1つをさらに隔壁により縦方向に区画して第1のインク収容室に隣接する第2のインク収容室を形成し、前記第1、及び第2のインク収容室にフルカラー記録対応のインクを収容し、前記第1のインク収容室に連通するインク供給口と、前記第2のインク収容室に連通するインク供給口を、それぞれのインク収容室の領域を通過し、かつ相互に平行な複数の列上に配置されているインクカートリッジ。
【請求項9】前記第1のインク収容室を区画形成する隔壁が、インクカートリッジと一体的に形成されている請求項8記載のインクカートリッジ。」

(補正後の特許請求の範囲:平成20年8月5日付け手続補正書)
「【請求項1】記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジであって、フルカラー記録対応のインクを収容する複数のインク収容室と、前記各インク収容室に連通し前記記録ヘッドにインクを供給するための各インク供給口とを備え、
前記インク供給口は、前記インクカートリッジの一面に前記インク収容室の配列方向に平行な複数の列として配列され、各列ごとに結合されていることを特徴とするインクカートリッジ。」


(2)補正目的について
本件補正により、請求項の数が9から1に変更された。
ここで、本件補正前後の特許請求の範囲を比較すると、請求項の対応関係についてみるに、本件補正前には請求項1,請求項6,請求項8が独立請求項となっているものであるから、これらの請求項のうち、いずれと本件補正後の請求項1が対応するものであるのか以下に検討する。
(2-イ)本件補正前の請求項1における「複数のインク収容室」、「各イ
ンク供給口」、「複数の列」および「インクカートリッジ」とい
う発明を特定するための事項については、本件補正後の請求項1
にも記載されている。
(2-ロ)本件補正前の請求項6は「各インク供給口の少なくとも複数ずつ
が、相互に平行な複数の列上のそれぞれに位置する」という発明
を特定するための事項を有するものであるのに対し、本件補正後
の請求項1には、上記事項に関する記載はない。
(2-ハ)本件補正前の請求項8は「内部を横幅方向に複数の隔壁により区
画して第1のインク収容室を形成するともに、前記第1のインク
収容室の少なくも1つをさらに隔壁により縦方向に区画して第1
のインク収容室に隣接する第2のインク収容室を形成」するとい
う発明を特定するための事項を有するものであるのに対し、本件
補正後の請求項1には、上記事項に関する記載はない。
上記(2-イ)?(2-ロ)からみて、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1に対応するものであると考えられる。

してみると、本件補正は、特許請求の範囲についての以下の補正事項を含むものである。
(補正事項1)本件補正前の請求項1の記載の語順を入れ替えることにより
、「インクカートリッジ」が「複数のインク収容室」および
「各インク供給口」を備えるとする補正
(補正事項2)本件補正前の請求項1に係る発明における「記録装置」を、
「インクジェット記録装置」とする補正
(補正事項3)「インク供給口」の「列」に関して、「各列ごとに結合され
ている」との記載を付加する補正

上記補正について検討する。
(補正事項1)について
(補正事項1)は、上記平成20年6月5日付け拒絶理由における理由2(特許法第36条第6項第2号)に対応してなされたものであり、その趣旨は、「インクカートリッジ」がどのようなものであるかを明確にするものであると認められる。したがって、(補正事項1)は明りようでない記載の釈明に該当する。
(補正事項2)について
(補正事項2)は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するための事項である「記録装置」を、「インクジェット記録装置」と限定するものである。したがって、特許請求の範囲の減縮に該当する。
(補正事項3)について
(補正事項3)において付加された「各列ごとに結合されている」という記載そのものの意味は必ずしも明確とはいえない。しかしながら、本件特許出願の発明の詳細な説明には、段落【0035】に「インク供給口50a?d」が「リブ51」により「枠52」に結合されている構成が記載されていることを参酌すると、上記「各列ごとに結合されている」との記載は、列を形成する複数のインク供給口が、相互に何らかの部材により結合されている構成を意味するものであると解釈することができる。したがって、(補正事項3)は「インク供給口」の「列」に関する構成を限定しているものと解釈できるものであるから、ここでは一応、特許請求の範囲の範囲の減縮に該当するものと認めることとする。

したがって、本件補正は、一応、特許請求の範囲の減縮に該当するものであると認め、以下に本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。


(3)独立特許要件について
(3-1)本件補正発明の認定
本件補正発明は、次のとおりのものである。
「記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジであって、フルカラー記録対応のインクを収容する複数のインク収容室と、前記各インク収容室に連通し前記記録ヘッドにインクを供給するための各インク供給口とを備え、
前記インク供給口は、前記インクカートリッジの一面に前記インク収容室の配列方向に平行な複数の列として配列され、各列ごとに結合されていることを特徴とするインクカートリッジ。」

(3-2)周知発明[引用文献]
当審において平成20年6月3日付けで通知した拒絶理由では、本願出願前に頒布された以下の刊行物を提示して、当該技術分野における周知の技術としての事項を認定している。

・周知技術を示す刊行物1:特開平07-060985号公報(当審の拒絶
理由における引用文献1。以下、「周知引例1
」という。)
・周知技術を示す刊行物2:特開平02-198861号公報(当審の拒絶
理由における引用文献2。以下、「周知引例2
」という。)
・周知技術を示す刊行物3:特開平01-242256号公報(当審の拒絶
理由における引用文献3。以下、「周知引例3
」という。)

(3-2-1)周知引例1:特開平07-060985号公報
周知引例1には、図示とともに以下の記載がある。
(イ)「図1及び図2に示すように、本実施例のインクカートリッジ本体1
はインクジュート記録ヘッドと連結するための開口部2をインクカー
トリッジ本体の底面に有し、負圧発生部材3を収容した負圧発生部材
収容部4と該負圧発生部材収納部4に仕切り壁5を介して隣接し、イ
ンクカートリッジ側面に設けた気液交換手段8によって連通したイン
クのみを収容するインク収容部6とからなっている。」(段落【00
34】)
(ロ)「尚、図4(A),(B)の様に、本発明の交換型インクカートリッ
ジをカラーインクジェット記録装置に対応するために各色(例えばブ
ラック、イエロー、マゼンタ、シアンの4色)のインクをそれぞれ個
別の交換型インクカートリッジに収容して使用することができる。ま
た、図4(A)のように個別のインクカートリッジを1体化させて交
換型インクカートリッジとしてもよく、あるいは、図4(B)のよう
に使用頻度の高いブラックインク用の交換型インクカートリッジと他
のカラーインク1体化交換カートリッジを分離した交換型インクカー
トリッジとしてもよい。これらの組み合わせはインクジェット装置に
合わせて任意である。」(段落【0041】)

(3-2-2)周知引例2:特開平02-198861号公報
周知引例2には、図示とともに以下の記載がある。
(ハ)「第5図は本発明の第3の実施例の4色一体型カートリッジを示す、
第5図において、第1図ないし第4図と同様の箇所には同一の符号を
付す。
記録へッドチップ1は、4つの記録ヘッド1C,1M,1Yおよび
1Kを一体化したものであり、インクタンク7はインクタンク7C,
7M,7Yおよび7Kを一体化したものである。記録ヘッド1C,1
M,1Yおよび1Kは、それぞれインクタンク7C,7M、7Yおよ
び7にと結合している。インクタンク7C、7M、7Yおよび7Kは
、それぞれ、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)および
K(ブラック)のインクが、符合7Aで示すように人っている。これ
らチップ1およびインクタンク7の結合部の構成は、例えば第1図と
同様とすることができる。」(公報第5頁右下欄第15行?第6頁左
上欄第9行)

(3-2-3)周知引例3:特開平01-242256号公報
周知引例3には、図示とともに以下の記載がある。
(ニ)「また、カラーインクジェットを行なうには、通常、第4図に示すよ
うに、Y、M、C1(B)つまり、イエロー、マゼンダ、シアン、(
ブラック)(ブラックはない場合もある)のように複数色のインクが
用いられ、それぞれに吐出ヘッド(Y_(1)?B_(1))、インクカートリッ
ジ(Y_(2)?B_(2))が必要であり1通常、単色のコストの数倍のコスト
がかかる。この点に鑑み、たとえば、インクカートリッジだけでも一
体的に製作すると、そのコストを安くすることができる。」(公報第
3頁左下欄第12行?同頁右下欄第1行)
(ホ)「本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、特に、カラ
ーインクジェット記録において、各色のインクを収容した各色一体型
インクカートリッジ、あるいは、ヘッド一体型インクカートリッジが
最も経済的に交換できるようにすることを目的としてなされたもので
ある。」(公報第4頁左下欄第3?8行)
(ヘ)「第1図は、本発明の一実施例を説明するための構成図で、図中、1
0は一体型インクカートリッジ、11はインク1用インク収容室、l
laはインク1用のインク吐出ヘッド、12はインク2用のインク収
容室、12aはインク2用のインク吐出ヘッド、同様に、13.13
a及び14,14aはそれぞれインク3用及びインク4用のインク収
容室及びインク吐出ヘッドで、同図には、4種類のインクの例を示す
。」(公報第4頁右下欄第11?19行)

これらの記載ならびに図面等を参酌すると、周知引例1?3には、いずれもインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジに関する技術が開示されており、かつ、周知引例1?3に記載されたインクカートリッジは、いずれもブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの4色のインク、すなわち、フルカラー記録対応のインクを収容する複数のインク収容室を有するものと認められる。
したがって、周知引例1?3における上記記載ならびに図面等から見て、当審の拒絶理由にても示したように、本件特許出願時点において次のような発明が周知であると認めることができる。

「記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジであって、フルカラー記録対応のインクを収容する複数のインク収容室と、前記各インク収容室に連通し前記記録ヘッドにインクを供給するための各インク供給口とを備え、前記インク供給口が前記インクカートリッジの一面に配置されたインクカートリッジ。」(以下、「周知発明」という。なお、ここで認定した周知発明は、当審の拒絶理由にて周知の技術として示した事項とはその構成要件の語順が若干異なっているが、実質的に構成が異なるものではない。)

(3-3)対比
本件補正発明と周知発明とを対比すると、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジであって、フルカラー記録対応のインクを収容する複数のインク収容室と、前記各インク収容室に連通し前記記録ヘッドにインクを供給するための各インク供給口とを備え、前記インク供給口が前記インクカートリッジの一面に配置されたインクカートリッジ。」

一方で、本件補正発明と周知発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件補正発明は「インク供給口」が「インク収容室の配列方向に平行な複数の列として配列され」るものであると特定されるのに対し、周知発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点2>
本館補正発明は「インク供給口」が「各列ごとに結合されている」と特定されるのに対し、周知発明ではそのような特定がなされていない点。

(3-4)判断
上記各相違点について判断する。

<相違点1>について
当審における拒絶理由にて引用した特開平07-125262号公報[当審の拒絶理由における引用文献4]および特開平07-148936号公報[当審の拒絶理由における引用文献5]等に示されているように、カラー記録のために複数色のインクを使用するインクカートリッジという技術分野において、装置の小型化を実現するために、複数のインク収容室をインクカートリッジのインク供給口が設けられた面において複数の列として配列する技術は周知のものである。
装置の小型化という課題はプリンタという技術分野において周知のものであるから、周知発明も、この周知課題を当然有していたものである。
したがって、装置の小型化を実現するために、周知発明におけるインク収容室の配置として、上記特開平07-125262号公報および特開平07-148936号公報等に記載された周知事項である、複数のインク収容室をインクカートリッジのインク供給口が設けられた面において複数の列として配列する構成を採用することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。
そして、周知発明に対し、上記周知のインク収容室の配列を適用したときに、各インク収容室からのインク供給口を複数の列として配列することは、当業者ならば適宜なし得る設計事項である。
したがって、<相違点1>の構成は、周知発明および周知事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

<相違点2>について
<相違点2>における「各列ごとに結合されている」という記載により規定される構成については、上記「2(2)(補正事項3)について」の項において述べたとおり、列を形成する複数のインク供給口が、相互に何らかの部材により結合されている構成を意味するものと解釈される。
ここで、カラー記録のために複数色のインクを使用するインクカートリッジという技術分野において、列を形成する複数のインク供給口を相互に部材により結合する構成は、例えば特開平07-052399号公報[特に段落【0057】?【0063】および図8,図10参照。]や特開平08-267776号公報[特に段落【0033】?【0035】および図10参照。]に記載されているように、本件特許出願時において周知のものである。
したがって、周知発明におけるインク供給口を列として配置する際に、上記特開平07-052399号公報や特開平08-267776号公報に記載された周知事項を参考にして、前記インク供給口の列を結合する構成とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。

(3-5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、<相違点1>および<相違点2>の構成は、当業者が周知発明および周知事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も、当業者ならば予測することができた程度のものに過ぎない。

よって、本件補正発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反している。


(4)補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に及び同条5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しており、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されなければならない。

よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。



3 本件審判請求についての判断
(1)本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至9に係る発明は、平成18年2月6日付け手続補正書により補正された上記「2(1)(1-1)(本件補正前の特許請求の範囲:平成18年2月6日付け手続補正書)」にて示したとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「記録ヘッドにインクを供給すべく複数のインク収容室のそれぞれにフルカラー記録対応のインクを収容して前記各インク収容室に連通する各インク供給口を、インクカートリッジの一面に複数の列として配列したことを特徴とするインクカートリッジ。」


(2)当審の拒絶理由の概要
本件補正前の本件特許出願に対し、当審が通知した平成20年6月3日付けの拒絶理由(最後の拒絶理由)の概要は、以下のとおりである。

理由1
本願の請求項1乃至9に係る発明は、
・特開平07-060985号公報(引用文献1)
・特開平02-198861号公報(引用文献2)
・特開平01-242256号公報(引用文献3)
・特開平07-125262号公報(引用文献4)
・特開平07-148936号公報(引用文献5)
・特開平08-058107号公報(引用文献6)
に記載された発明のうち、引用文献1?3等に記載された周知技術および引用文献4?5等に記載された周知技術に基づいて、もしくは、引用文献1?3等に記載された周知技術および引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2
本願の請求項1乃至9は、その記載に技術的に不明確な点があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(3)当審の判断その1(理由1進歩性について)
(3-1)周知発明[引用文献]
当審の拒絶理由に引用された引用文献1乃至6のうち、引用文献1乃至3により例示される周知発明は、上記「2(3)(3-2)周知発明[引用文献]」に記載されたとおりである。
なお、当審の拒絶理由に引用された引用文献1乃至6のうち、引用文献4および5に記載された技術内容については、上記「2(3)(3-4)判断 <相違点1>について」にて、周知事項として示されている。

(3-2)対比・判断
本願発明は、上記「2」で検討した本件補正発明から、「インクジェット記録装置」との限定を「記録装置」と上位概念化し、「インク供給口」についての限定事項である「各列ごとに結合されている」という構成を省くとともに、発明を特定する事項の語順が異なるものである。
ここで、語順が異なる点については、上記「2(2)補正目的について」で述べたように、本件補正前後において実質的に発明を特定する事項が変更されるものではない。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「2(3)独立特許要件について」に記載したとおり、当審の拒絶理由に引用された周知発明(引用文献1乃至3により例示)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、周知発明及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明に関する作用・効果も、周知発明及び周知事項から当業者が予測できる範囲のものである。


(4)当審の判断その2(理由2記載不備について)
平成20年6月3日付けで当審より通知した拒絶理由における理由2は、本願の平成18年2月6日付け手続補正書により補正された請求項1乃至9の記載が技術的に不明確であることを指摘したものであるが、そのうち本願発明に関する点の概要は以下の通りである。

(4-1)本願発明における「インク収容室」と「インク供給口」の「複数の列」との相互の位置関係は、その記載からは技術的に不明確である。
(4-2)本願発明における「複数の列」とは、どの方向から見たどのような構成を意味するものであるのか、技術的に不明確である。
(4-3)本願発明における「インクカートリッジ」は、いわゆるインクタンクを意味するものであるのか、それともインクタンクに結合される記録ヘッドと一体の部材を意味するものであるのか、それともこれら両者を包含する概念であるのか、その記載からは技術的に不明確である。

(4-1)について
本願発明においては、「インク収容室に連通する各インク供給口を、インクカートリッジの一面に複数の列として配列した」とあるものの、この構成からは、「インク収容室」がどのように「インク供給口」の「複数の列」と対応するものであるのか、技術的に不明確である。その結果、本願発明の発明を特定する事項の相互の技術的関係が不明確なものとなっている。
(4-2)について
本願発明には「複数の列」がどのようなものであるのか明示されておらず、また、発明の詳細な説明を見ても、どの方向から見たどのような構成が、本願発明における「複数の列」を意味するものであるのか技術的に不明確である。
(4-3)について
本願発明の「インクカートリッジ」は、その発明を特定する事項から見て、「インク収容室」を備えたものであるかどうか不明確であり、また、「インク収容室」という表現自体も、当該技術分野においては、インクタンクにおいてインクを収容する部分にも、ヘッドに接続される「リザーバ」にも、共通して使用されるものである。してみると、本願発明を特定する事項からは、本願発明の「インクカートリッジ」がどのようなものを意味するのかが技術的に不明確である。

したがって、本願発明における発明を特定する事項は、上記のとおり技術的に不明確なものであるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(5)本件審判請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、かつ、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことから特許を受けることができないものである。



4 むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、かつ、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことから特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-27 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-24 
出願番号 特願平9-132919
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (B41J)
P 1 8・ 537- WZ (B41J)
P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 陽子  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 上田 正樹
江成 克己
発明の名称 インクカートリッジ  
代理人 宮坂 一彦  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 須澤 修  

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