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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B |
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管理番号 | 1187384 |
審判番号 | 不服2005-19321 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-10-06 |
確定日 | 2008-11-04 |
事件の表示 | 特願2001- 17965「光情報記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成14年8月9日出願公開、特開2002-222542〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯、本願発明 本願は、平成13年1月26日の出願であって、拒絶理由通知に対し平成17年1月11日付けで手続補正がされたが、同年8月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月4日付けで手続補正がされた。 これに対し、当審が拒絶理由を通知したところ、平成20年7月18日付けで手続補正がされた。 本願請求項1乃至2に係る発明は、平成20年7月18日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】透光性を有するとともにプリグルーブを形成した基板と、 この基板上に設けるとともに、レーザー光による記録光を吸収する色素から構成した光吸収物質を含む光吸収層と、を有し、 前記光吸収層に前記記録光を照射することにより情報を記録する光情報記録媒体であって、 前記光吸収物質の分解開始温度をTbとし、前記光吸収物質の分解時の吸発熱温度範囲をTeとしたときに、 190℃≦Tb≦250℃、および Te≦40℃、 であることを特徴とする光情報記録媒体。」 2.引用例 当審が通知した拒絶の理由に引用された特開平11-25504号公報(以下、「引用例」という。)には、「光情報記録媒体」に関して図面とともに、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加した。) ア「【請求項1】基板上に、レーザ光の照射により情報を記録することができる色素記録層およびその上に光反射層を有するヒートモード型の光情報記録媒体であって、該色素記録層の熱分解スペクトルが、220?300℃の範囲に発熱ピーク値を有し、かつ発熱ピークの半値幅が15℃以内であることを特徴とする光情報記録媒体。」 イ「【0003】近年、光情報記録媒体の記録容量の増大と共に、通常の1倍速から4倍速、更に6倍速などとその記録及び再生速度は高速化傾向にあり、その研究が進められている。そのために、光情報記録媒体においては、高感度であることのみならず、高速記録であっても熱分解によるピットの形成が、記録信号の長さ(通常、CD方式では3T信号から11T信号の長さまである)に影響されることなく、その記録信号の形状(長さ)で忠実に行なわれることなどの高い記録特性が要求される。一般に感度の向上には色素記録層の熱分解開始温度が低いことが有利である。このような観点から感度の改良を試みたCD-Rや、記録時に形成されるピット形状を改良することにより、良好な再生特性を達成したCD-Rが提案されている。特開平4-226388号公報には、記録層に含まれる色素化合物(近赤外線吸収剤)の融点と分解点に着目し、感度の向上を達成した情報記録媒体(CD-R)が開示されている。具体的には、色素化合物として、融点が150?300℃で分解開始温度が200?350℃の範囲にあるフタロシアニン化合物を選択的に用いることにより、感度の高いCD-Rが製造できるとされている。特開平4-259593号公報には、融解点と分解点との差が100℃以下の記録材料(具体的には、シアニン色素)を含有する記録層を持つCD-Rが開示されている。このような物性を持つ色素化合物を用いることにより、形状の整ったピットの形成が可能となり、良好な再生特性が得られるとされている。特開平4-192131号公報には、記録層に含有する色素化合物の光吸収率および発熱量を特定の範囲に抑えることにより、高い反射率の達成と共にピット形状を明瞭化し、再生信号のエラーの発生を低減させたCD-Rが提案されている。具体的には、アニオン成分(例、ClO_(4)^(-))の含有率を制限した特定のシアニン色素を用いることにより、再生特性が改良されるとされている。」 ウ「【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者は、高速記録に適した光情報記録媒体を求めて研究を進めた。その結果、色素記録層へのレーザ光の照射により得られる熱分解スペクトルにおいて、その発熱ピーク値が特定の温度範囲内に入るように、かつ発熱ピークの半値幅が15℃以下の非常に狭い範囲となるように(即ち、その発熱ピークが非常にシャープな形状となるように)色素記録層を構成することにより、高速記録に対しても幅広い記録パワーで安定した記録特性が実現できる光情報記録媒体を製造できることを本発明者は見出した。前記公報に記載のように、従来の比較的半値幅の広い発熱ピークを持つ色素記録層の場合には、その発熱ピークの裾野の低温域で色素の熱分解が開始され、従って高速記録に際しては特にピット形状が不揃いになり易かった。本発明者の研究により、熱分解スペクトルの発熱ピークの半値幅を狭くすることにより、色素記録層の熱分解が極めて狭い温度範囲で開始されるため、従来に比べてより形状の整ったピットの形成が可能になることが判明した。その結果、高速記録に対してもその記録信号の形状に忠実なピットの形成が可能になり、エラーの少ない高い再生特性を備えた光情報記録媒体を製造できるようなった。」 エ「【0057】プレグルーブが設けられた基板上には、色素記録層が設けられる。色素記録層の形成は、前記シアニン色素化合物及び前記の退色防止剤、更に所望により結合剤を溶剤に溶解して塗布液を調製し、次いでこの塗布液を基板表面に塗布して塗膜を形成したのち乾燥することにより行なうことができる。<以下、省略>」 上記ア、エによれば、引用例には次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。 「プレグルーブが設けられた基板上に、レーザ光の照射により情報を記録することができる色素記録層およびその上に光反射層を有するヒートモード型の光情報記録媒体であって、該色素記録層の熱分解スペクトルが、220?300℃の範囲に発熱ピーク値を有し、かつ発熱ピークの半値幅が15℃以内である光情報記録媒体。」 3.対比 CD-R等の光情報記録媒体の基板は透光性を有することは明らかであるから、引用例発明の「プレグルーブが設けられた基板」は、本願発明の「透光性を有するとともにプリグルーブを形成した基板」に相当する。 引用例発明の「レーザ光の照射により情報を記録することができる色素記録層」は、本願発明の「レーザー光による記録光を吸収する色素から構成した光吸収物質を含む光吸収層」に相当する。 したがって、本願発明と、引用例発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「透光性を有するとともにプリグルーブを形成した基板と、 この基板上に設けるとともに、レーザー光による記録光を吸収する色素から構成した光吸収物質を含む光吸収層と、を有し、 前記光吸収層に前記記録光を照射することにより情報を記録する光情報記録媒体。」 [相違点] 本願発明が、「光吸収物質の分解開始温度をTbとし、前記光吸収物質の分解時の吸発熱温度範囲をTeとしたときに、190℃≦Tb≦250℃、および Te≦40℃」であるのに対し、引用例発明では「色素記録層(光吸収物質)の熱分解スペクトルが、220?300℃の範囲に発熱ピーク値を有し、かつ発熱ピークの半値幅が15℃以内」である点。 4.相違点についての判断 引用例には、光情報記録媒体に高速で記録を行うためには「一般に感度の向上には色素記録層の熱分解開始温度が低いことが有利である」こと、記録層に含まれる色素化合物(近赤外線吸収剤)の融点と分解点に着目し、感度の向上を達成した例として、分解開始温度が200?350℃の範囲にあるフタロシアニン化合物を選択的に用いることにより、感度の高いCD-Rが製造できること(上記イ)、「発熱ピークの裾野の低温域で色素の熱分解が開始される」こと(上記ウ)が記載されている。 したがって、引用例発明において光吸収物質の分解開始温度Tbを、従来の200?350℃、あるいは、発熱ピーク値の温度範囲である220℃?300℃よりも低い温度に設定することは当業者が容易に推考しうることであって、190?250℃とすることは、単なる設計事項にすぎない。 引用例には、「熱分解スペクトルの発熱ピークの半値幅を狭くすることにより、色素記録層の熱分解が極めて狭い温度範囲で開始されるため、従来に比べてより形状の整ったピットの形成が可能になることが判明した。その結果、高速記録に対してもその記録信号の形状に忠実なピットの形成が可能になり、エラーの少ない高い再生特性を備えた光情報記録媒体を製造できるようなった。」と記載されている。(上記ウ) 引用例発明において、熱分解スペクトルの発熱ピークの半値幅が狭いということは、熱分解の温度範囲が狭いことを意味し、分解時の吸発熱温度範囲を狭くすることと共通する技術思想であるといえる。 そうすると、引用例発明は、記録層の光吸収性物質の吸発熱温度範囲は狭い方が好ましいことを示唆しているのであるから、吸発熱温度範囲TeをTe≦40℃以下とすることは、当業者が適宜設定しうる事項にすぎない。 請求人は、引用例発明の「熱分解スペクトルの発熱ピーク値の温度範囲及び半値幅」は、本願発明の「分解開始温度及び吸発熱温度範囲」と同等ではない旨主張している。 しかし、DSC(示差走査型熱量計)による熱分解スペクトルのピークを示す曲線(引用例の図1及び図2参照)についてみれば、上記のとおり、発熱ピークの裾野の低温域で色素の熱分解が開始され、熱分解スペクトルのピークの半値幅が小さい程吸発熱温度範囲が狭くなるのであるから、それぞれの間に相関関係があるといえる。 そうすると、「熱分解スペクトルの発熱ピーク値の温度範囲及び半値幅」と「分解開始温度及び吸発熱温度範囲」とでは、それらの数値範囲は異なるとしても、両者の意味する技術的意義が格別異なるものではないから、請求人の上記主張を採用することはできない。 そして、上記相違点について総合的に判断しても、本願発明における数値範囲に特段の臨界的意義があるということはできず、本願発明が奏する効果は、引用例から予測しうる程度のものにすぎない。 したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-08-20 |
結審通知日 | 2008-08-26 |
審決日 | 2008-09-10 |
出願番号 | 特願2001-17965(P2001-17965) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山崎 達也 |
特許庁審判長 |
小林 秀美 |
特許庁審判官 |
横尾 俊一 吉川 康男 |
発明の名称 | 光情報記録媒体 |
代理人 | 池澤 寛 |