• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1187407
審判番号 不服2006-25958  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2008-11-04 
事件の表示 特願2002-344400「フルカラー画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日出願公開、特開2004-177701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年11月27日の出願であって、平成18年9月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月16日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。その後、平成20年6月13日付けで当審による拒絶理由が通知され、平成20年8月11日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1乃至2に係る発明は、平成20年8月11日付けの手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「シアン、マゼンダおよびイエローのトナーを用いてフルカラー画像を形成するフルカラー画像形成装置において、
ユーザによるマニュアル操作が可能に設けられたスイッチを含み、シアンのトナー使用量を設定するためのシアン濃度設定部と、マゼンダのトナー使用量を設定するためのマゼンダ濃度設定部と、イエローのトナー使用量を設定するためのイエロー濃度設定部とがそれぞれ独立して設けられ、上記シアン濃度設定部とマゼンダ濃度設定部とイエロー濃度設定部の3つの設定部をそれぞれ個別にマニュアル操作することのみで画像形成時のシアン、マゼンダおよびイエローのトナー使用量を個別に設定できるようにした設定手段と、
原稿画像のデータであって、色データが上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色の色データに置き換えられた原稿画像のデータで原稿画像をコピーする画像形成手段と、
上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色を表示する表示手段とを有することを特徴とするフルカラー画像形成装置。」

3.刊行物
(1)当審における拒絶の理由で引用され、本件出願前に頒布された特開昭62-180668号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)「かかる第1図の構成において、まず通常のフルカラーコピーをする場合は、画像読取センサ1で読取つた3原色アナログ画像信号R1?B1をA/D変換部2で量子化してデイジタルカラー画像信号R2?B2にする。画像処理部3はこの輝度信号R2?B2を濃度信号C1?Y1に変換すると共にマスキング、エツジ強調、スムージング等の各種画像処理を施す。濃度信号C1?Y1は単色化処理部4をそのまま通過する。γ変換部5はトナー等の色補正をすべく通常のγ補正を行う。γ補正された濃度信号C3,CM3,Y3はデイザ処理部6で2値化され、更に2値化濃度信号C4,M4,Y4はフルカラーの出力装置7で可視像形成される。
次に、指定色により単色カラーコピーをする場合には単色化処理部4が機能する。即ち、単色化処理部4は輝度信号R2?B2に対応している濃度信号C1?Y1を白色光に対応する単一の無彩色濃度信号レベルに変換する。従って、この場合の濃度信号C2?Y2は一つの無彩色濃度信号を単に分配したものである。γ変換部5は、色指定に従って予めカラーエンコーダ44で決定した混合比データC3?Y3を保持しており、これを濃度信号C2?Y2の濃度で読み出すことにより単一指定色の濃度変調をする。」(2頁左下欄3行?同頁右下欄11行)
(イ)「次に、指定色により単色カラーコピーをする場合には単色化処理部4が機能する。第2図は単色化処理部4、γ(ガンマ)変換部5、デイザ処理部6の詳細を示すブロツク構成図である。図において、濃度信号C1,M1,Y1は単色化処理部4の乗算器10?12に人力され白色光に対応する濃度出力を得るための係数P,Q,Rが乗ぜられる。係数P,Q,Rの値は例えば1/3である。更に加算器13は乗算器10?12の各出力を加算する。この結果、画像読取センサ1からの輝度信号R1,G1,B1は各センサに色フイルタをかけない状態で画像を読み取った時と等価な無彩色信号に変換される。以後この加算器出力を単色画像信号という。
単色画像信号はセレクタ14?16の各A側端子に分配される。またセレクタ14?16のB側端子には濃度信号C1,M1,Y1がそのまま入力される。セレクタ14?16の選択端子Sには選択信号Z1が入力され、単色コピーモードの時はA側(単色画像信号)を選択出力し、通常のフルカラーコピーの時はB側(濃度信号C1,M1,Y1)を選択出力する。この出力が濃度信号C2,M2,Y2である。」(3頁右上欄3行?同頁左下欄9行)
(ウ)「第4図(a),(b)、第5図及び第6図は実施例のコピー色指定手段を説明する図である。第4図(a)は色指定部を真上から見た平面図、第4図(b)は色指定部を斜めから見た斜視図である。中央にボルユームツマミ38がついていて、その周囲に円板状のプレート39が貼ってある。プレート39の上面には指定色が徐々に虹の変る如く配されている。従ってオペレータはこのツマミ38を回すことで無段階に色指定できる。第5図はスライド操作素子40を使用して構成したものの側面図であり、やはり上部に虹色状に指定色を配した長方形板状のプレート43がとりつけられている。このスライド操作素子40にはほぼ中央に切込みが設けられており、そこから現在のプレート指定色が見えるようにしてある。第6図は他の例の平面図であり、板状のプレート43が貼られている下方にLEDランプ群42があり、指定色下のLEDランプが点灯する。同様にしてプレート43の上面には指定色が徐々に虹の変る如く配されている。押ボタン式の操作スイッチ41を押せば指定色を左方、右方の好みの方へずらす事ができる。この場合にもほぼ無段階の色指定が可能である。
第3図はカラーエンコーダ44のブロツク構成図である。指定色によるコピーを実現するために現像剤の混合比率Y3,M3,C3を決定する部分である。本実施例では、更に白から黒まで濃度が次第に変えてあるプレートをとりつけたボリユームスイッチ27を設けてある。色指定用ボリユーム26の出力と白黒用ボリユーム27の出力はは夫々A/D変換器28,29に入力される。またA/D変換器28,29の各出力は混合テーブル(ROM)30,31,32,33のアドレス端子に入力される。即ち、両方のデータが一体して1アドレスを形成する。混合テーブル30?33にはボリユーム26の色指定値とボリユーム27の黒濃度値に対応して、その時に混合するY,M,C,黒の現像剤の混合比データが書き込まれている。もし、出力装置7が黒の現像剤を持つていない場合には混合テーブル33、乗算器37は不要である。混合テーブルの内容は予め実験的に求められ、色プレート39,43等に示す色が実現されるよう適正な混合比率データが書き込まれている。混合テーブル30?33から読み出した値は乗算器34?37に入力され、制御部45で想定したアドレスA1?A4が乗ぜられる。アドレスA1?A4は、例えば夫々0から始まつて最高濃度値(8ビツトならFF)まで順次変わり、その都度乗算結果C3,M3,Y3,BLKが出力され、γRAM20,21,22のアドレスA1?A3に書き込まれる。γRAMを増せばアドレスA4にも書き込まれる。」(4頁右上欄9行?5頁左上欄12行)
(エ)第6図から、「赤 橙 黄 黄緑 緑 青緑 青 青紫 紫 赤紫 赤」との文字列の下方にプレート43が配置され、その下方に複数のLEDランプ群42が配置され、またその下方に操作スイッチ41が配置されることが看取できる。

刊行物1の前記記載(ウ)には、「もし、出力装置7が黒の現像剤を持つていない場合には混合テーブル33、乗算器37は不要である。」と記載されているから、刊行物1の「デイジタルカラー複写装置」は、黒の現像剤を用いることなく、イエロー,マゼンダ,シアンの3色の現像剤を用いてカラー画像の形成が可能であることが把握できる。
また、刊行物1の前記記載(ア)には、「通常のフルカラーコピーをする場合」、「フルカラーの出力装置7で可視画像形成される」と記載されているから、刊行物1の「デイジタルカラー複写装置」は、フルカラー画像を形成するものであることが把握できる。

刊行物1の前記記載(ア)及び(イ)には、「指定色により単色カラーコピーをする場合」と記載されているので、刊行物1記載の発明の「ディジタルカラー複写機」は、読み取った原稿画像の色データをユーザが指定した指定色に置き換えられた原稿画像のデータでコピーをして、出力装置7で出力を行っているものである。

したがって、前記記載(ア)?(エ)及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が開示されていると認める。
「 シアン、マゼンダおよびイエローの現像剤を用いてフルカラー画像を形成するデイジタルカラー複写装置において、
押ボタン式の操作スイッチ41を含み、該操作スイッチ41を操作することで画像形成時の色を指定色に設定できるようにした色指定手段と、
原稿画像のデータであって、色データが上記色指定手段で設定される指定色の色データに置き換えられた原稿画像のデータで原稿画像をコピーする出力装置7と、
上記色指定手段で設定された指定色を示すLEDランプとを有するデイジタルカラー複写装置。」

(2)当審における拒絶の理由で引用され、本件出願前に頒布された特開平8-108581号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(オ)「【産業上の利用分野】本発明は、原稿の色に関する編集処理を行うカラー画像形成装置に関し、特にユーザが所望の色を選択することができるカラー画像形成装置に関する。」(段落【0001】)
(カ)「次に、登録色を作成する方法について説明する。図4に示す操作部80のカラー調整/登録キー85が押下され、液晶表示画面81上で「カラー登録」が選択されると、図12に示すようなカラー登録キー「1」?「8」を有する「カラー登録」画面が表示される。次いで、カラー登録キーが押下されると図13に示すように登録する色のベースとなる色を、カラーサイクルキーの8色(イエロー、オレンジ、レッド、マゼンタ、ブルー、シアン、グリーン、ライトグリーン)と、ブラックと、原稿色と、基本色と登録色から選択可能となる。
また、基本色が選択されると図14に示す画面に切り換わり、色番号を入力することにより選択することができ、また、この画面において色見本キーが選択されると色見本がプリントアウトされる。
このようにしてベース色が選択されると、図15に示すようにベース色のカラーバランスとその調整用キー(+キー、-キー)が表示され、+キー、-キーにより所望の色を選択することができる。そして、モニター出力キーが押下されると、ベース色に対してイエロー、マゼンタ、シアンの各色の割合が異なる複数の色とその番号が1枚の用紙上にプリントアウトされる。
ユーザはこの用紙上の複数の色から所望の色を選択してその番号を入力し、また、必要に応じて+キー、-キーによりカラーバランスを調整し、更に、再度、選択した色を基にモニタ出力を行うことにより所望の色を作成する。したがって、所望の色を得るまでに無駄なプリント回数を減少することができ、また、簡単に所望の色を得ることができる。そして、終了キーが押下されると、得られた色が登録される。」(段落【0042】?【0045】)
(キ)【図15】から、あるベース色のカラーバランスは、イエローが100%、マゼンタが100%、シアンが0%であることが看取できる。

図15は、「登録色のカラーバランスを調整する画面を示す説明図」であり、イエロー,マゼンタ,シアンの3色に対してそれぞれに「+キー」と「-キー」からなる調整用キーを備えるものが記載されており、前記記載(カ)には、ユーザは必要に応じて+キー、-キーを操作することで所望の色を作成することができる旨記載されている。
また、図15には、イエローが100%、マゼンタが100%、シアンが0%の組み合わせからなる登録色カラーバランスが例示されており、3色について合計すると200%となるものであるから、当該「%」は、イエローとマゼンタとシアンの合計を100%としてその中での割合を示しているものでないことは明らかである。
そして、調整用キーが各色に対して別々に設けられているので、ユーザは、各色の調整用キーを操作することで各色に対して0?100%の間を自由に設定することができるものであると解することができる。
これらのことから、刊行物2記載の調整用キーを用いた設定は、例えば、黒色を生成する場合に、イエロー,マゼンタ,シアンを10%、10%、10%と設定する場合や、各色を100%、100%、100%と設定する場合が存在するものであり、単なる3色の比率を設定するだけでなく、それぞれの色について0%から100%の値となる%量を設定していることは明らかである。

したがって、前記記載(オ)?(キ)及び図面を含む刊行物2全体の記載から、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認める。
「原稿の色をユーザが生成した色でコピーする画像形成装置において、イエローとマゼンタとシアンの3色について独立した調整用キーを備え、それらを個別に操作することでシアン、マゼンダ、イエローそれぞれの%量(0?100%)を設定する点。」

4.本願発明と刊行物1記載の発明との対比
a.刊行物1の前記記載(ア)には「トナー」が記載されているので、刊行物1記載の発明の「現像剤」は、「トナー」である。
したがって、刊行物1記載の発明の「現像剤」は、本願発明の「トナー」に相当する。

b.刊行物1記載の発明の「デイジタルカラー複写装置」は、本願発明の「フルカラー画像形成装置」に相当する。

c.本願発明には、「ユーザによるマニュアル操作が可能に設けられたスイッチ」との記載があるが、本願明細書には複数のスイッチが記載されており、どのスイッチを示しているのか不明確なものとなっているので、発明の詳細な説明の記載を参照して解釈することとする。
段落【0006】(平成20年8月11日付けの手続補正書による)には、「ユーザによるマニュアル操作が可能に設けられたスイッチ(511a?513a、511b?513b、511c?513c)を含み」と記載されており、【図2】,【図3】では、511a?513a、511b?513b、511c?513cが、3色の濃度設定部を指していることから、本願発明の「ユーザによるマニュアル操作が可能に設けられたスイッチ」は、独立して設けられたシアン濃度設定部、マゼンダ濃度設定部、イエロー濃度設定部を示していると解釈することができる。
そこで、本願発明の「ユーザによるマニュアル操作が可能に設けられたスイッチ」と刊行物1記載の発明の「押ボタン式の操作スイッチ41」とを対比すると、どちらもユーザによるマニュアル操作が可能なものである。
したがって、刊行物1記載の発明の「押ボタン式の操作スイッチ41」は、本願発明の「ユーザによるマニュアル操作が可能に設けられたスイッチ」に相当する。

d.刊行物1記載の発明の「押ボタン式の操作スイッチ41」は、ユーザによって操作される設定部ということができ、操作スイッチ41を包含する「色指定手段」は、指定色を設定する設定手段ということができるから、刊行物1記載の発明の「該操作スイッチ41を操作することで画像形成時の色を指定色に設定できるようにした色指定手段」と本願発明の「シアンのトナー使用量を設定するためのシアン濃度設定部と、マゼンダのトナー使用量を設定するためのマゼンダ濃度設定部と、イエローのトナー使用量を設定するためのイエロー濃度設定部とがそれぞれ独立して設けられ、上記シアン濃度設定部とマゼンダ濃度設定部とイエロー濃度設定部の3つの設定部をそれぞれ個別にマニュアル操作することのみで画像形成時のシアン、マゼンダおよびイエローのトナー使用量を個別に設定できるようにした設定手段」とは、「設定部をマニュアル操作することで特定の単色を得るための設定を行う設定手段」である点で共通する。

e.刊行物1記載の発明の「上記色指定手段で設定される指定色」と、本願発明の「上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色」とは、いずれも、「上記設定手段で設定された特定の単色」である点で共通する。
したがって、刊行物1記載の発明の「原稿画像のデータであって、色データが上記色指定手段で設定される指定色の色データに置き換えられた原稿画像のデータで原稿画像をコピーする出力装置7」と、本願発明の「原稿画像のデータであって、色データが上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色の色データに置き換えられた原稿画像のデータで原稿画像をコピーする画像形成手段」とは、「原稿画像のデータであって、色データが上記設定手段で設定された特定の単色の色データに置き換えられた原稿画像のデータで原稿画像をコピーする画像形成手段」である点で共通する。

f.刊行物1記載の発明の「LEDランプ」は、指定色を表示(広辞苑第五版によると、「表示」とは、外部へあらわし示すことの意である。)する機能を有する点で、本願発明の「表示手段」と相違するものではない。
また、「上記色指定手段で設定される指定色」と、本願発明の「上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色」とは、いずれも、「上記設定手段で設定された特定の単色」である点で共通する。
したがって、刊行物1記載の発明の「上記色指定手段で設定された指定色を示すLEDランプ」と、本願発明の「上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色を表示する表示手段」とは、「上記設定手段で設定された特定の単色を表示する表示手段」という点で共通する。

よって、両者は、以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
「シアン、マゼンダおよびイエローのトナーを用いてフルカラー画像を形成するフルカラー画像形成装置において、
ユーザによるマニュアル操作が可能に設けられたスイッチを含み、設定部をマニュアル操作することで特定の単色を得るための設定を行う設定手段と、
原稿画像のデータであって、色データが上記設定手段で設定されて得られた特定の単色の色データに置き換えられた原稿画像のデータで原稿画像をコピーする画像形成手段と、
上記設定手段で設定された特定の単色を表示する表示手段とを有するフルカラー画像形成装置。」

<相違点1>
本願発明では、設定手段が、「シアン濃度設定部」、「マゼンダ濃度設定部」、「イエロー濃度設定部」という独立した3つの設定部からなり、それらを個別に操作することのみで、シアン、マゼンダ、イエローのトナー使用量を設定するものであることを特定しているのに対して、刊行物1記載の発明では、設定手段が、操作スイッチ41という1つの設定部からなり、操作スイッチ41を操作することで設定されるのは、シアン、マゼンダ、イエローの現像剤の混合比であって、本願発明の上記特定を有しない点。

<相違点2>
「画像形成装置が原稿画像のデータを置き換える色」及び「表示手段が表示する色」が、本願発明では、「上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色」であることを特定しているのに対して、刊行物1記載の発明では、「上記色指定手段で設定される指定色」であって、上記特定と異なる点。

5.判断
<相違点1について>
刊行物1,2に記載される装置は、いずれもユーザが生成した色で原稿画像をコピーする機能を有するものであるから、刊行物1記載の発明における「押ボタン式の操作スイッチ41を操作することで画像形成時の色を指定色に設定できるようにした色指定手段」に代えて、刊行物2に記載の「イエローとマゼンダとシアンの3色について独立した調整用キー」を適用すること、また、それらの調整用キーを個別に操作することで、シアン、マゼンダ、イエローそれぞれの%量(0?100%)を設定することに格別の困難性はない。

また、本願発明で「トナー使用量」を設定する点について検討するに、刊行物2には、調整用キーによって設定される各色の%量に応じて何を制御するかについて記載されていないが、各色毎に独立して設定した値に応じて現像バイアス等を制御することは周知(例えば、特開昭60-80864号公報の2頁左下欄18行?同頁右下欄3行の「ユーザーがダイヤル8?10を操作すれば、それに応じて現像バイアスが変えられると同時に、その結果得られる色調が事前にCRTディスプレイ2の画面に表示され、ユーザーはその画面に表われた色を見ながら選定したい色調に設定することができる。」と記載されている。)であるから、刊行物2の調整用キーによって設定された各色の%量に応じて現像バイアス等を制御することで、イエロー,マゼンタ,シアンのトナー使用量を設定することも何ら困難性はない。

よって、刊行物1記載の発明において、刊行物2の記載事項及び周知技術から、本願発明の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到できたものである。

<相違点2について>
前記「<相違点1について>」で検討したように、刊行物2に記載の調整用キーによってイエロー,マゼンタ,シアンのトナー使用量を設定することに何ら困難性はないから、設定手段で設定されるのを「トナー使用量」とするのにともない、「画像形成装置が原稿画像のデータを置き換える色」と「表示手段が表示する色」を、「上記設定手段で設定されたトナー使用量により生成される特定の単色」とすることは、当然のことである。
よって、刊行物1記載の発明において、刊行物2の記載事項及び周知技術から、本願発明の相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到できたものである。

なお、請求人は、平成20年8月11日付けの意見書の「[5]本件出願が特許されるべき理由」の「3.理由3(特許法第29条第2項の規定による拒絶理由)について」の「(1)本願請求項1の発明について」の「(iii)文献3との対比」において、「これに対し、文献3の構成では、画像形成時の色および濃度を一括して設定することはできず、色と濃度を別個に設定する必要があります。具体的には、文献3の図15に示されているように、シアン、マゼンタおよびイエローの各調整用キー(3つの設定部に相当、以下、構成a’’ともいいます)の操作のみでは、画像形成時の色を設定することはできますが、画像形成時の濃度を設定することはできません。
図15では、シアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれの単位が%であることから、各調整用キーの操作によって設定できるのは、所定の濃度(係数)に対するシアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれのトナーの割合であります。これは、文献3の[0044]段落に、図15の各調整用キーによって設定されるのは、シアン、マゼンタおよびイエローの各色の割合であると記載されていることからも明らかです。
したがって、図15の画面で、所定の濃度(係数)に対するシアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれのトナーの割合を設定することに加え、別途、文献3には明示されていない濃度設定キーなどの濃度設定手段(以下、構成b’’ともいいます)を操作することで、所定の濃度(係数)の設定をユーザが行う必要があります。これにより、初めて、シアン、マゼンタおよびイエローの各色のトナーの量が設定され、画像形成時の色および濃度が設定されます。」と主張している。
しかしながら、前記「3.刊行物」の「(2)」及び前記「<相違点2について>」で示したように、刊行物2(意見書では「文献3」が相当している。)に記載される「%」は、それぞれの色成分における量を示しているのであって、他の色成分のと比率を示すものではないのであるから、刊行物2に記載される調整用キーによって、色と濃度を一括して設定することができるものであると解することができ、請求人が主張するように、「別途、文献3には明示されていない濃度設定キーなどの濃度設定手段を操作することで所定の濃度の設定をユーザが行う必要がある」との主張は採用できない。

また、請求人は、前記意見書の「[5]本件出願が特許されるべき理由」の「3.理由3(特許法第29条第2項の規定による拒絶理由)について」の「(1)本願請求項1の発明について」の「(ii)文献2との対比」において、「これに対し、文献2の構成では、画像形成時の色および濃度を一括して設定することはできず、色と濃度を別個に設定する必要があります。・・・したがって、第44図の画面で、所定の濃度(係数)に対するシアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれのトナーの割合を設定することに加え、別途、第6図の濃度調整メニュー402c(以下、構成b’ともいいます)を操作することで、所定の濃度(係数)の設定をユーザが行う必要があります。これにより、初めて、シアン、マゼンタおよびイエローの各色のトナーの量が設定され、画像形成時の色および濃度が設定されます。」と主張し、刊行物2に対する主張と同様の主張をしている。
そして、この主張は文献2に対する主張であって文献3(当審の「刊行物2」)に対する主張ではないが、文献2と文献3に対して同様の主張をしていることから、文献3においても文献2と同様に、トナー割合を設定することに加えて、濃度調整を行うものであることを暗に主張していると思われる。
しかし、文献3(刊行物2)には調整用キー以外の濃度調整を行うものであるか否かが明記されていないので、調整用キー以外の濃度調整を行うものであるか否かは不明であるが、前述したように各色毎の調整値によって現像バイアスを制御することで各色のトナー使用量を調整することができ、調整用キー以外の濃度調整を不要とすることができるものである。
そして、文献2が、トナー割合を設定することに加えて濃度調整を行うものであるからといって、文献3においても同様であるとまでは言えず、文献3においても文献2と同様に、トナー割合を設定することに加えて、濃度調整を行うものであるとは言えない。

そして、本願発明の作用効果も、刊行物1、2の記載事項から当業者が予測できる程度のものである。

したがって、本願発明は、その出願日前に頒布された刊行物1記載の発明、刊行物2の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-28 
結審通知日 2008-09-04 
審決日 2008-09-17 
出願番号 特願2002-344400(P2002-344400)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳澤 智也島▲崎▼ 純一宮崎 恭  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
菅藤 政明
発明の名称 フルカラー画像形成装置  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 川崎 実夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ