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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1187860
審判番号 不服2006-19511  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-04 
確定日 2008-11-10 
事件の表示 特願2003-503424「射出成形条件の解析方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月19日国際公開、WO02/100623〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年6月10日(優先権主張 平成13年6月8日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成17年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成18年2月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月4日に審判請求がなされ、同年11月20日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年2月14日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「樹脂成形品形状に対応した金型キャビテイの形状を数学的に定義した金型形状データと、射出成形機の射出装置と金型を連結する樹脂通路形状を数学的に定義した樹脂通路形状データと、金型キャビテイの表面温度と、粘度を含む温度に依存する充填樹脂の物性データと、スプル入口部の溶融樹脂の圧力と温度と流量を含む射出条件データとを含む入力データを用い、溶融樹脂が金型内に充填される過程の流動解析を行うことによって、溶融樹脂が型内に充填される過程の流動特性を算出する射出成形条件の解析方法であって、
射出ノズルの流路形状とシリンダのバレル部に貯溜される溶融樹脂の圧縮性を考慮して溶融樹脂の金型キャビテイ内への流動特性を算出し、さらに、金型キャビテイ内へ溶融樹脂を充填完了した後の溶融樹脂に対する冷却特性を算出することにより、樹脂が冷却されるときの収縮に伴う容積減少を補償するに要する溶融樹脂の充填圧力を算出する保圧算出工程を含む射出成形条件の解析方法。」

3.原査定の拒絶理由について
原査定の拒絶理由とされた、平成17年12月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の概要は、以下のとおりである。

この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.特開2000-355033号公報(以下、「引用文献1」という。)
2.特開平9-272145号公報(以下、「引用文献2」という。)

4.刊行物の記載事項
(1)引用文献1の記載事項

1a.「又、金型内部の樹脂の流動解析を行うことで、金型内部の任意の位置の樹脂圧力を求める手法として樹脂流動解析CAE(コンピュータ・エイディド・エンジニアリング)が開発されている(伊藤忠ほか2名編集、「射出成形」、1993年8月10日、改訂第10版、第210?第214頁「樹脂流動解析CAEシステム」(株)プラスチックス・エージ発行参照)。この樹脂流動解析CAEは、解析条件として金型温度や、金型における樹脂流入口(射出成形機側から見るとノズル先端)における溶融樹脂の流動速度と樹脂温度などを与え、金型内部の流動解析を行うことで樹脂流入口を基準とした圧力変動を算出するものである。」(段落【0003】)

1b.「この樹脂流動解析CAEに与える解析条件をそのまま成形機に与えて成形を行う方法が採用されているが、射出成形機の機械的な特性や射出成形機のシリンダ、ノズル内での樹脂の圧縮挙動が成形条件に反映されないため、樹脂流動解析CAEの結果をそのまま量産条件として利用することはできなかった。」(段落【0004】)

1c.「【発明が解決しようとする課題】一般に、射出成形機では圧力変動を検出する圧力センサはスクリュー後端部に取り付けられていて、金型の樹脂流入口とこの圧力センサとの間にはノズル部やシリンダ部などがある。ノズル部先端(金型に接する部分)は、多くの場合径が急激に絞られているため、スクリュー前進開始後、上記圧力センサにはすぐに圧力が出力されるが、樹脂はノズル内で圧縮されるだけで、金型内部への流動が生じず、金型内部の圧力が出力されるまでに時間遅れが生じるのが普通である。」(段落【0005】)

1d.「圧力センサで樹脂圧力を検出する点と金型1の樹脂流入口間には、ノズル12、シリンダ2内の溶融樹脂、さらには、スクリュー3、プレッシャープレート8が介在している。そのため、圧力センサで樹脂圧力を検出する点から金型1の樹脂流入口まで圧力ロスが生じると共に、ノズル部先端の急激な径の縮小のために、金型内部への流動が生じず、ノズル内で樹脂が圧縮される。ノズル内で圧力がある程度上昇してくると樹脂は、ノズル部を通過し、金型内部へ射出されていく。これらの要因により、射出開始後、圧力センサ9で圧力が検出されてから、金型内部の圧力が出力されるまでに時間遅れが生じる。」(段落【0008】)

1e.「また、本発明の別の態様によれば、少なくとも前記ノズル部の樹脂流動解析において、樹脂粘度の圧力依存性を考慮した解析を行うことを特徴とする射出成形条件作成方法が提供される。」(段落【0016】)

1f.「図4は射出成形CAEシステムのフローチャートである。樹脂物性データ100、金型形状データ101と成形条件データ102は、流動解析部104で流動解析するための樹脂流動解析条件ファイル103を作成するのに必要となるデータである。樹脂物性データ100は、樹脂の溶融密度、比熱、熱伝導率などの熱特性や溶融時の粘度特性などである。金型形状データ101は、スプル、ランナー、キャビティなどの樹脂流路の形状データで、通常1次元、2次元または3次元要素でモデル化されている。成形条件データ102は、樹脂温度、射出速度、射出上限圧力、金型温度などである。これらの各データ100?102は記憶手段に記憶され、これらのデータに基づいて流動解析部104で流動解析が実行され解析結果力ファイル105が作成され、解析対象とした樹脂流路の流動パターンや任意の位置の圧力、温度などが得られる。」(段落【0040】)

1g.「式(2)?(4)で得られた射出圧力データP1?P3と実測の射出圧力データPfとは、樹脂の圧縮性が小さく、溶融粘度ηの圧力依存性が小さいときは、図8に示したとおりよく一致する。しかし、樹脂の圧縮性が大きく、溶融粘度ηの圧力依存性が大きいときは必ずしもよく一致するとはいえないことがある。これは、ノズル部先端から金型内へ樹脂が流入する部分など急激に断面が絞られる縮流部に生じる圧力損失や加圧によって流動性が悪くなる現象(粘度の圧力依存性)などが考慮されていないためである。」(段落【0061】)

1h.「そこで、圧縮性の大きな樹脂の場合には、式(3)の金型内から成形機のノズル部までを解析領域として樹脂流動解析を実施する際、または式(4)における成形機側のノズル端部の圧力を求める流動解析を実施する際、少なくともノズル部の解析にはノズル部先端などの縮流部に生じる圧力損失や溶融粘度の圧力依存性を考慮し、成形機側のノズル端部の樹脂圧力カーブPnを求めることが有効である。」(段落【0062】)

1i.「


」(【図4】)

(2)引用文献2の記載事項
2a.「・・・
〔ステップ39?ステップ42〕次に、保圧条件を決定する観測点を定義するとともに、その観測点における必要保圧力を算出し、さらに、初期保圧時間を算出した後、シミュレーションソルバ部14で、樹脂の粘度、温度、圧縮性、金型の形状変化、金型の温度などを考慮した、『非等温度(樹脂及び金型)、圧縮性、非ニュートン流体の射出充填?保圧?冷却シミュレーション』を実行して保圧条件を設定する。
・・・」(段落【0026】)

(3)引用文献1記載の発明
引用文献1には、摘示1a.及び1f.からみて、射出成形において金型内部の樹脂の流動解析を行う方法が記載されている。
また、引用文献1には、上記摘示1b.、1c.及び1d.からみて、ノズル内での樹脂の圧縮挙動、すなわち、樹脂がノズル内で圧縮されるだけで、金型内部への流動が生じないこと、に基づいた「圧力センサで圧力が検出されてから、金型内部の圧力が出力されるまでに時間遅れが生じる」との問題についての認識が記載されており、さらに、上記摘示1g.及び1h.からみて、樹脂の圧縮性に応じたノズル部先端などの縮流部に生じる圧力損失などを考慮することが記載されていることから、引用文献1においては、上記射出成形における金型内部の樹脂の流動解析を行う方法においてノズル部内での樹脂の圧縮、すなわち、樹脂の圧縮性に応じた圧力損失などの圧縮挙動、を考慮すべきことが記載されているものと認められる。
そうすると、引用文献1に記載の発明(以下、「引用発明」という。)は、摘示1a.?1i.からみて、次のとおりのものである。
「樹脂の溶融密度、比熱、熱伝導率などの熱特性や溶融時の粘度特性などの樹脂物性データ100と、スプル、ランナー、キャビティなどの樹脂流路の形状データで、通常1次元、2次元または3次元要素でモデル化されている金型形状データ101と、樹脂温度、射出速度、射出上限圧力、金型温度などである成形条件データ102との入力データを用いて、金型内部の樹脂の流動解析を行い、解析対象とした樹脂流路の流動パターンなどを算出する、射出成形条件の解析方法であって、ノズル部内での樹脂の圧縮を考慮する方法。」

5.対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比する。

本願発明における「樹脂成形品形状に対応した金型キャビテイの形状を数学的に定義した金型形状データ」は、引用発明における「(金型形状データ101に含まれる)キャビティの形状データで、通常1次元、2次元又は3次元要素でモデル化されている金型形状データ」に相当し、本願発明における「射出成形機の射出装置と金型を連結する樹脂通路形状を数学的に定義した樹脂通路形状データ」は、引用発明における「スプル、ランナーなどの樹脂流路の形状データで、通常1次元、2次元または3次元要素でモデル化されている金型形状データ」に相当し、本願発明における「金型キャビテイの表面温度」は、引用発明における「(成形条件データ102に含まれる)金型温度」に相当し、本願発明における「粘度を含む温度に依存する充填樹脂の物性データ」は、引用発明における「樹脂の溶融密度、比熱、熱伝導率などの熱特性や溶融時の粘度特性などの樹脂物性データ」に相当し、本願発明における「スプル入口部の溶融樹脂の圧力と温度と流量を含む射出条件データ」は、引用発明における「(成形条件データ102に含まれる)樹脂温度、射出速度及び射出上限圧力などである成形条件データ」に相当する。
また、本願発明は「溶融樹脂が金型内に充填される過程の流動解析を行うことによって、溶融樹脂が型内に充填される過程の流動特性を算出する」ものであるが、引用発明における「金型内部の樹脂の流動解析を行い、解析対象とした樹脂流路の流動パターンなどを算出する」態様を包含するものと解される。
すると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、実質上、次のとおりである。
[一致点]
樹脂成形品形状に対応した金型キャビテイの形状を数学的に定義した金型形状データと、射出成形機の射出装置と金型を連結する樹脂通路形状を数学的に定義した樹脂通路形状データと、金型キャビテイの表面温度と、粘度を含む温度に依存する充填樹脂の物性データと、スプル入口部の溶融樹脂の圧力と温度と流量を含む射出条件データとを含む入力データを用い、金型内における溶融樹脂の流動解析を行い、金型内における溶融樹脂の流動パターンを算出する、射出成形条件の解析方法である点。
[相違点]
・相違点1
本願発明では、「射出ノズルの流路形状を考慮して」、流動解析を行う方法であるのに対して、引用発明では、「射出ノズルの流路形状を考慮する」ことについて特に規定がない点。
・相違点2
本願発明では、「バレル部に貯留される溶融樹脂の圧縮性を考慮して」、流動解析を行う方法であるのに対して、引用発明は、ノズル部内での樹脂の圧縮を考慮する方法である点。
・相違点3
本願発明では、「金型キャビテイ内へ溶融樹脂を充填完了した後の溶融樹脂に対する冷却特性を算出することにより、樹脂が冷却されるときの収縮に伴う容積減少を補償するに要する溶融樹脂の充填圧力を算出する保圧算出工程を含む」ことを発明特定事項としているのに対して、引用発明には、保圧工程について規定がない点。

6.当審の判断
これらの相違点について検討する。
<相違点1について>
相違点1に係る「射出ノズルの流路形状を考慮する」ことにについて、引用発明は「ノズル部内での樹脂の圧縮を考慮する、射出成形条件の解析方法」に係るものであるから、引用発明において、解析に際して、入力データとして採用している「スプル、ランナー、キャビティなどの樹脂流路の形状データで通常1次元、2次元または3次元要素でモデル化されている金型形状データ」に加え、「射出ノズルの流路形状」に係るデータを入力データとして採用し、「射出ノズルの流路形状」を考慮して、流動解析を行うことは当然のことであり、相違点1に係る「射出ノズルの流路形状を考慮する」ことを本願発明の発明特定事項と成す点は、当業者が引用発明に基づいて、容易に想到することができたものであるといえる。

<相違点2について>
引用発明は「ノズル部内での樹脂の圧縮を考慮する、射出条件の解析方法」に係るものであり、上記4.(3)のとおり、引用発明において考慮するノズル部内での樹脂の圧縮とは、「ノズル部内での樹脂の圧縮性に応じた圧力損失などの圧縮挙動」である。してみれば、引用発明において考慮する「圧縮」が樹脂の圧縮性に関連するものであることから、引用発明における上記記載は、本願発明において考慮する「溶融樹脂の圧縮性」と重複するものであることは明らかである。また、引用発明においてはノズル部での樹脂の圧縮を考慮するものであるが、バレル部はノズル部に連通しているものであり、バレル部における樹脂の圧縮性に基づく圧縮挙動はノズル部における樹脂の圧縮性に基づく圧縮挙動と密接に相関していると解されるので、樹脂の圧縮性を考慮すべき部材として、ノズル部に代えて、バレル部を採用することに、特に困難性は見出せない。してみれば、相違点2に係る「バレル部に貯留される溶融樹脂の圧縮性を考慮して」流動解析を行うとの本願発明の発明特定事項については、当業者が引用発明に基づいて、容易に想到し得る程度のことである。
<相違点3について>
射出成形サイクルにおいて、溶融樹脂の金型内への射出・充填工程の後に、金型内での樹脂の冷却・収縮を補償し、成形品にヒケが生じないように、保圧工程を実施することは、当該技術分野において当業者に周知慣用の技術的事項である。
一方、相違点3に関し、本願発明においては、「溶融樹脂に対する冷却特性を算出する」及び「樹脂が冷却されるときの収縮に伴う容積減少を補償するに要する溶融樹脂の充填圧力を算出する」とされているが、本願明細書の記載をみても、前記「冷却特性」及び「充填圧力」の算出については、何ら具体的に記載されていない。
さらに、引用文献2には、「『非等温度(樹脂及び金型)、圧縮性、非ニュートン流体の射出充填?保圧?冷却シミュレーション』を実行して保圧条件を設定する」〔摘示2a.〕と記載されているから、保圧工程のシミュレーション自体は、公知のものである。
すると、相違点3に係る本願発明の発明特定事項の点は、当業者からみて、特段のものであるとはいえず、当業者が、引用文献1及び2並びに周知慣用技術に基づいて適宜実施し得たことにすぎない。
<まとめ>
上記相違点1?3については、上記検討のとおりである。
また、本願明細書の記載をみても、実施例、比較例等による具体的開示が何もないことから、本願発明が、相違点1?3において、予期し得ない格別に顕著な作用・効果を奏するものであると把握することができない。
したがって、本願発明は、引用文献1及び2並びに周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-10 
結審通知日 2008-09-12 
審決日 2008-09-26 
出願番号 特願2003-503424(P2003-503424)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 祥吾  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 一色 由美子
前田 孝泰
発明の名称 射出成形条件の解析方法  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  

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