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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21C
管理番号 1187872
審判番号 不服2007-19243  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-09 
確定日 2008-11-10 
事件の表示 特願2002-372726「制御棒駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日出願公開、特開2004-205287〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年12月24日に出願された、特願2002-372726号であって、平成18年12月12日付けで拒絶理由通知がなされ、平成19年2月13日付けで手続補正がなされ、同年6月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同年8月8日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
1.補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲について、補正前(平成19年2月13日付け手続補正書参照)に

「【請求項1】
永久磁石と、この磁石を密封収納する匡体とを備え、前記匡体が、略円筒形のスリーブと、このスリーブの端部開口を塞ぐ端板部材とを有する磁気継手要素を製造する方法であって、
前記スリーブと前記端板部材との間の周方向の接合部を、溶加棒を用いた少なくとも2パスのレーザ溶接により、1パス目の溶接止端部と2パス目の溶接止端部の位置が周方向で異なるように溶接し、
前記スリーブおよび前記端板部材の材料として、炭素含有量0.02%以下のオーステナイト系ステンレス鋼を用いると共に、
前記溶加棒の材料として、前記スリーブおよび前記端板部材の材料よりもフェライト含有量の大きい材料を用いる、ことを特徴とする磁気継手要素の製造方法。
【請求項2】
永久磁石と、この磁石を密封収納する匡体とを備え、前記匡体が、略円筒形のスリーブと、このスリーブの端部開口を塞ぐ端板部材とを有する磁気継手要素を製造する方法であって、
前記スリーブと前記端板部材との間の周方向の接合部に、予めインサートリングを取り付けてから、当該接合部を、少なくとも2パスのレーザ溶接により、1パス目の溶接止端部と2パス目の溶接止端部の位置が周方向で異なるように溶接し、
前記スリーブおよび前記端板部材の材料として、炭素含有量0.02%以下のオーステナイト系ステンレス鋼を用いると共に、
前記インサートリングの材料として、前記スリーブおよび前記端板部材の材料よりもフェライト含有量の大きい材料を用いる、ことを特徴とする磁気継手要素の製造方法。
【請求項3】
原子炉の制御棒を駆動するための制御棒駆動装置であって、
請求項2記載の製造方法で製造された略円筒形の内側磁気継手要素と、この内側磁気継手要素を同軸に取り囲む略円筒形の外側磁気継手要素とを有する磁気継手と、
この磁気継手の前記内側磁気継手要素に連結され、当該内側磁気継手要素の回転に伴って制御棒を昇降駆動させるためのボールねじと、
前記磁気継手の前記外側磁気継手要素を回転駆動するための回転駆動装置とを備え、
少なくとも前記内側磁気継手要素が、原子炉の炉水と接するように配置されている、ことを特徴とする制御棒駆動装置。 」

とあったものを、

「【請求項1】
原子炉の制御棒を駆動するための制御棒駆動装置であって、
略円筒形の内側磁気継手要素と、この内側磁気継手要素を同軸に取り囲む略円筒形の外側磁気継手要素とを有する磁気継手と、
この磁気継手の前記内側磁気継手要素に連結され、当該内側磁気継手要素の回転に伴って制御棒を昇降駆動させるためのボールねじと、
前記磁気継手の前記外側磁気継手要素を回転駆動するための回転駆動装置とを備え、
少なくとも前記内側磁気継手要素が、原子炉の炉水と接するように配置されており、
前記内側磁気継手要素は、永久磁石と、この磁石を密封収納する匡体とを備え、前記匡体が、略円筒形のスリーブと、このスリーブの端部開口を塞ぐ端板部材とを有し、
この内側磁気継手要素が、
前記スリーブと前記端板部材との間の周方向の接合部に、予めインサートリングを取り付けてから、当該接合部を、少なくとも2パスのレーザ溶接により、1パス目の溶接止端部と2パス目の溶接止端部の位置が周方向で異なるように溶接し、
前記スリーブおよび前記端板部材の材料として、炭素含有量0.02%以下のオーステナイト系ステンレス鋼を用いると共に、
前記インサートリングの材料として、前記スリーブおよび前記端板部材の材料よりもフェライト含有量の大きい材料を用いる、ことにより製造されている、ことを特徴とする制御棒駆動装置。 」

と補正するものであるところ、その内容は、補正前の請求項1および2を削除するとともに、補正前の請求項2を引用した補正前の請求項3を、補正後の請求項1において、補正前の請求項2に係る「磁気継手要素の製造方法」で製造された「内側磁気継手要素」を備えた「制御棒駆動装置」に係る発明であるとして、独立形式の請求項として記載したものであるから、請求項の削除を目的とする補正に該当する。よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げる事項を目的とする補正に該当する。

2.本願発明
本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げる事項を目的とする補正に該当するので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に記載するとおりのものである。なお、請求項1には「匡体」と記載されているが、「筐体」の誤記であると認められるので、次のように認定した。

「【請求項1】
原子炉の制御棒を駆動するための制御棒駆動装置であって、
略円筒形の内側磁気継手要素と、この内側磁気継手要素を同軸に取り囲む略円筒形の外側磁気継手要素とを有する磁気継手と、
この磁気継手の前記内側磁気継手要素に連結され、当該内側磁気継手要素の回転に伴って制御棒を昇降駆動させるためのボールねじと、
前記磁気継手の前記外側磁気継手要素を回転駆動するための回転駆動装置とを備え、
少なくとも前記内側磁気継手要素が、原子炉の炉水と接するように配置されており、
前記内側磁気継手要素は、永久磁石と、この磁石を密封収納する筐体とを備え、前記筐体が、略円筒形のスリーブと、このスリーブの端部開口を塞ぐ端板部材とを有し、
この内側磁気継手要素が、
前記スリーブと前記端板部材との間の周方向の接合部に、予めインサートリングを取り付けてから、当該接合部を、少なくとも2パスのレーザ溶接により、1パス目の溶接止端部と2パス目の溶接止端部の位置が周方向で異なるように溶接し、
前記スリーブおよび前記端板部材の材料として、炭素含有量0.02%以下のオーステナイト系ステンレス鋼を用いると共に、
前記インサートリングの材料として、前記スリーブおよび前記端板部材の材料よりもフェライト含有量の大きい材料を用いる、ことにより製造されている、ことを特徴とする制御棒駆動装置。 」

3.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-14189号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

(a)「【請求項1】 筒状の匡体内に磁石を密封収容した磁気継手要素であって、前記匡体は、前記磁石を外周側から被覆するスリーブと、前記磁石を軸方向端部外側から被覆する端板部材とを有し、これらスリーブと端板部材とが溶接により接合されているものにおいて、前記端板部材にその外周縁部から軸方向に沿って突出する筒状部を一体形成し、この筒状部を前記スリーブと同径またはそれ以下の径に設定して、前記スリーブの軸方向端部にレーザ溶接により接合したことを特徴とする磁気継手要素。
【請求項2】 筒状の匡体内に磁石を密封収容した磁気継手要素であって、前記匡体は、前記磁石を外周側から被覆する薄肉なスリーブと、前記磁石を軸方向両端部外側から被覆する1対の端板部材とを有し、これらスリーブと各端板部材とが溶接により接合されているものにおいて、前記各端板部材にその外周縁部から軸方向に沿って前記磁石と反対側の方向に突出する筒状部をそれぞれ一体形成するとともに、これらの各筒状部の外周面に前記スリーブの全体が嵌合し得る凹部を形成し、これらの凹部に嵌合した前記スリーブの軸方向端部と前記各端板の筒状部とをレーザ突合せ溶接により接合したことを特徴とする磁気継手要素。
・・・
【請求項5】 筒状の匡体内に磁石を密封収容した径の異なる1対の磁気継手要素を同一軸心上に備え、前記小径な一方の磁気継手要素を内側磁気継手要素とするとともに、前記大径な他方の磁気継手要素を外側磁気継手要素として前記内側磁気継手要素の外側に組合せ配置した磁気継手であって、前記内側磁気継手要素として請求項1?4のいずれかに記載の磁気継手要素を適用したことを特徴とする磁気継手。
【請求項6】 原子炉の制御棒を昇降駆動する電動型の制御棒駆動装置であって、制御棒駆動機構ハウジング内に連通して接液状態で設けられる制御棒昇降駆動用ボールねじ機構に連結される内側磁気継手と、前記制御棒駆動機構の外側空間に設けられ前記ボールねじ機構の回転駆動源となる電動機アセンブリに連結される外側磁気継手要素とを有する磁気継手を備えたものにおいて、前記磁気継手として、請求項5記載の磁気継手を適用したことを特徴とする制御棒駆動装置。」

(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気継手要素、この磁気継手要素を用いた磁気継手、およびこの磁気継手を用いた制御棒駆動装置に関する。」

(c)「【0002】
【従来の技術】沸騰水型原子炉の制御棒駆動装置は制御棒と一体となり、原子炉の反応度を制御するものであり、プラントの運転および安全上特に重要なものである。
【0003】従来、この制御棒駆動装置として、回転駆動源である電動機アセンブリと接液側である制御棒昇降駆動用ボールねじ機構とを、径が異なり互いに離間嵌合状態で配置される磁石内在型の1対の筒状の磁気継手要素からなる磁気継手によって連結する構成の電動型の制御棒駆動装置が知られている。
【0004】図5は、この電動型の制御棒駆動装置の具体的な構成例を示している。
【0005】この図5に示すように、制御棒駆動機構ハウジング8内にアウタチューブ9が設置され、これらの制御棒駆動機構ハウジング8およびアウタチューブ9が、スプールピース10にボルト11によって締結されている。スプールピース10内は原子炉圧力容器に通じており、内側磁気継手要素13は運転期間を通じて炉水に浸されている。
【0006】この制御棒駆動装置の下端側には、駆動源である電動機アセンブリ12が設けられ、この電動機アセンブリ12の回転が、スプールピース10の隔壁10aにより隔てられた内側磁気継手要素13と外側磁気継手要素14とから構成される磁気継手、および駆動軸2等を介して、ボールねじ機構に伝達されるようになっている。
【0007】そして、制御棒駆動装置の上部構造内には、ボールねじ3、ボールナット4、中空ピストン5等からなるボールねじ機構が設けられ、ボールねじ3の下端部には回転軸2を介して内側磁気継手要素13が連結されている。一方、下部構造側に設けられた電動機アセンブリ12の垂直な回転軸1が、外側磁気継手14にお結合されている。内側磁気継手要素13および外側磁気継手要素14は互いに磁気的に結合しているため、スプールピース10の隔壁10aを介して非接触で内側および外側磁気継手要素13、14間で動力を伝達可能である。そして、内側磁気継手要素13に一体回転可能に連結されたボールねじ3にボールナット4が螺合し、ボールねじ3が回転するようになっている。
【0008】ボールナット4の上部には、ボールねじ3を囲んで上方に伸びる中空ピストン5が設けられ、この中空ピストン5の上端に、カップリング6を介して制御棒7が連結されている。
【0009】このように構成された制御棒駆動機構において、電動機アセンブリ12を回転駆動させることにより、回転軸1,外側磁気継手要素14,内側磁気継手要素13および駆動軸2を介してボールねじ3が回転し、このボールねじ3の回転によりボールナット4が上下動する。ボールナット4の上下動に連動して、中空ピストン5および制御棒7が上下動し、この制御棒7の上下動により炉心への挿入および引抜き量が調整され、炉出力がコントロールされる。」

(d)「【0029】第1実施形態(図1、図2、図5)
本実施形態は、沸騰水型原子炉の制御棒駆動装置に適用される内側磁気継手要素についてのものであり、図1は図5に示した内側磁気継手要素13の第1実施形態を示す拡大断面図であり、図2は図1のA-A線断面図である。なお、説明を容易にするため、従来例と共通または対応する部材等には図6および図7に示した符号と同一の符号を使用する。
【0030】図1に示すように、本実施形態の内側磁気継手要素13は、筒状の匡体内に永久磁石を密封収容した構成とされており、具体的にはキー15、カラー16、ブッシュ17、ヨーク18、永久磁石19、およびスリーブ20を備えて構成される。すなわち、匡体は永久磁石19およびヨーク18を外周側から被覆する薄肉な円筒状のスリーブ20と、永久磁石19およびヨーク18を軸方向両端部外側から被覆する上下1対の端板部材としてのカラー16およびブッシュ17とにより構成され、この匡体材料としては、オーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS316L、SUS316、SUS304L、SUS304等)が適用されている。そして、スリーブ20の肉厚は0.8mm以上に設定されている。
【0031】カラー16はディスク状のもので、その外周縁部から軸方向に沿って永久磁石と19反対側の方向(上方向)に突出する筒状部が一体形成してある。また、ブッシュ17は軸受部となる上下に長い内筒の下端部にディスク状部分を一体形成したもので、そのディスク状部分の外周縁部から軸方向に沿って永久磁石19と反対側の方向(下方向)に突出する筒状部が一体形成してある。このように、カラー16およびブッシュ17は、そのディスク状部分とこれより突出する筒状部部とにより皿状をなしている。
【0032】そして、カラー16およびブッシュ17の各筒状部の外周面には、スリーブ20の全体が嵌合し得る凹部が形成され、これらの凹部に嵌合したスリーブ20の軸方向端部(上下端部)とカラー16およびブッシュ17の各筒状部とがレーザ突合せ溶接による溶接部(周継手)26で接合されている。このレーザ溶接による加工は、正逆方向の2パスにより行ったものである。なお、レーザ溶接には、例えばYAGレーザ、CO2レーザ等、各種のレーザを適用することができる。
【0033】ここで、制御棒駆動装置の上側になるカラー16とスリーブ20との溶接部26については、カラー16の軸方向端部より1mm以上離した部分に溶接線を配置するとともに、カラー16を溶接部より1mm以上奥まで皿状に加工してある。また、制御棒駆動装置の下側になるブッシュ17とスリーブ20との溶接部についても、ブッシュ17の軸方向端部より1mm以上離した部分に溶接線を配置するとともに、ブッシュ17の底面を溶接部より1mm以上奥まで皿状に加工してある。」

(e)「【0035】そして、スリーブ20とカラー16およびブッシュ17との溶接方法としてレーザ溶接を用いたことにより、従来のTIG溶接の場合と異なり、永久磁石の磁気的影響を受けずに溶接を行うことが可能となり、溶接信頼性の維持を図ることが可能となる。また、スリーブ20の板厚を0.8mm以上に設定することにより、2パス溶接が可能となり、溶接欠陥の生じ易い溶接止端部が、例えば1層目のパスの止端部と2層目のパスの止端部との位置を異ならせることによって正常化することができる。したがって、溶接欠陥のない高信頼性の溶接施工が可能となり、制御棒駆動機構への適用について、溶接欠陥による漏洩の可能性を大幅に低減させることが可能となる。」
なお、上記摘記事項において、「匡体」は「筐体」の誤記であると認められる。

(f)「【0046】第3実施形態(図1?図5、図8、図9)
本実施形態は、第1実施形態または第2実施形態で示した内側磁気継手要素13を、図8および図9に示した外側磁気継手要素14と組合せて、磁気継手とするものである。
【0047】これにより、溶接部26における波打ち状態の解消および溶接加工性の向上ひいては溶接信頼性の向上が図れ、しかも溶接後の検査を容易かつ高精度で行うことができる磁気継手を提供することができる。
【0048】第4実施形態(図1?図5、図8、図9)
本実施形態は、第3実施形態で示した磁気継手を適用して、図5に示した沸騰水型原子炉の制御棒駆動装置を構成するものである。
【0049】これにより、信頼性の高い制御棒駆動機構を提供することができる。」

(g)図2および図9の記載から、内側磁気継手要素13および外側磁気継手要素14の断面形状が略円形であること、すなわち、内側磁気継手要素13および外側磁気継手要素14の形状が略円筒形であることが見てとれる。

上記記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「原子炉の制御棒を昇降駆動する電動型の制御棒駆動装置であって、回転により制御棒を上下動させる制御棒昇降駆動用ボールねじ機構と、制御棒駆動機構ハウジング内に連通して接液状態で設けられる前記制御棒昇降駆動用ボールねじ機構に連結される内側磁気継手要素と、前記制御棒駆動機構の外側空間に設けられ前記ボールねじ機構の回転駆動源となる電動機アセンブリに連結される外側磁気継手要素とを有する磁気継手を備えたものにおいて、
前記磁気継手が、筒状の筐体内に永久磁石を密封収容した径の異なる1対の略円筒形の磁気継手要素を同一軸心上に備え、前記小径な一方の磁気継手要素を内側磁気継手要素とするとともに、前記大径な他方の磁気継手要素を外側磁気継手要素として前記内側磁気継手要素の外側に組合せ配置した磁気継手であって、
前記内側磁気継手要素が、 筒状の筐体内に永久磁石を密封収容した磁気継手要素であって、前記筐体は、前記永久磁石を外周側から被覆する薄肉なスリーブと、前記磁石を軸方向両端部外側から被覆する1対の端板部材とを有し、これらスリーブと各端板部材とが溶接により接合されているものにおいて、
前記筐体の材料として、オーステナイト系ステンレス鋼を用い、
前記各端板部材にその外周縁部から軸方向に沿って前記永久磁石と反対側の方向に突出する筒状部をそれぞれ一体形成するとともに、これらの各筒状部の外周面に前記スリーブの全体が嵌合し得る凹部を形成し、これらの凹部に嵌合した前記スリーブの軸方向端部と前記各端板の筒状部とを、1層目のパスの止端部と2層目のパスの止端部との位置が異なる2パスのレーザ突合せ溶接により接合した磁気継手要素である、制御棒駆動装置。」

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-173493号公報(以下「周知例1」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

(a)「(産業上の利用分野)
本発明は、配管の溶接接合部に用いられる溶接用差込管継手に関する。
(従来の技術)
たとえば原子力発電プラントあるいは火力発電プラント等では、蒸気および水を流すための配管が多数設けられており、これら配管の接続部における溶接箇所の数も膨大なものとなっている。
このような配管接続箇所に適用される溶接手法は溶接部の試験検査、たとえば放射線透過試験、超音波探傷試験等による健全性の確認が比較的容易なこともあって、基本的に第5図に示す突合せ溶接が使用される。すなわち第5図において、接続すべき配管2,2の各端部を開先処理して突合せ、接合部における配管2の内面への裏波形成を整えるため、突合せ部分にインサートリング1を付設して溶接接合している。」(公報第1頁右下欄第14行?第2頁左上欄第10行参照)

(b)「また配管2と継手4に使用されるステンレス鋼(例えばJISのSUS316L)同士を融接(fusion welding)した場合、δ-フェライトの発生が少ないため高温割れを起こすことがあるが、継手4を、δ-フェライト量が5%以上となるように成分調整した材料で製作することによって、これを防止することができる。」(公報第3頁左上欄第6?12行参照)

(c)「第2図は本発明のさらに他の実施例を示すものであり、第2図において、継手4は一般に使用されるものと同じ形状、材質とされているが、配管2の表面の継手4の端面と接する位置に、配管2の全周を取巻くように金属製のインサートリング9が設けられている。配管2と継手4を溶接するときは、溶接トーチによってまずインサートリング9を融解して溶接を進める。
インサートリング9と配管2の表面間の隙間はできるだけ狭くすることが望ましく、インサートリング9はδ-フェライト量が5%以上となるように成分調整した材料で製作すれば、なお良好な結果が得られる。」(公報第3頁左上欄第13行?右上欄第5行参照)

(ウ)本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭64-63895号公報(以下「周知例2」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

(a)「〔産業上の利用分野〕
本発明は原子炉での使用済原子燃料の再処理プラントに係り、特に、溶接部の腐食損傷による破損の恐れを極力低減した再処理プラント部材に関する。」(公報第1頁右下欄第14?18行参照)

(b)「溶接施工時の割れ防止の点からはある程度のδ-フェライト量は必要である。Moを含有するオーステナイトステンレス鋼を溶接する場合は、予め母材にMoを含有しない材質で肉盛り(バタリング)をしておいて、その後、同材質の溶接棒で溶接接合する。この状況を第1図に示す。図中2が肉盛り部を示し、(1)?(8)は溶接パス番号を表している。この場合、第2図に示すように同材質のインサート3を用いることも有効である。」(公報第3頁右下欄第3?11行参照。ただし、上記摘記事項において、(1)?(8)は丸数字である。)

(エ)本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-242477号公報(以下「周知例3」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

(a)「(3)オーステナイト系ステンレス鋼からなる薄肉の多角管の外表面又は内表面に硬化処理が施された母材同志を溶接する場合、又は一方の母材のみに上記硬化処理が施されておりこの一方の母材と他方の母材とを溶接する多角管溶接方法において、上記母材にはインサートメタルが装着され、このインサートメタルはCr/Ni比が1.63以上になるように成分調整され、このインサートメタルの部分に電子ビーム溶接装置により電子ビーム溶接を施すことを特徴とする多角管溶接方法。」(公報第1頁左下欄第17行?右下欄第6行参照)

(b)「(産業上の利用分野)
本発明は、多角管溶接方法及び多角管溶接方法に使用するインサートメタルに係り、特に表面硬化処理が施された多角管の該表面硬化処理を施した部分に剥離あるいは割れ等を発生させないで溶接することを可能にするものである。
(従来の技術)
例えば原子炉プラントの炉内機器は耐蝕性を考慮してオーステナイト系ステンレス鋼が使用されている。また炉内機器の場合には摺動等の動作をするものが多く、よって耐摩耗性の考慮も必要となる。そこで上記オーステナイト系ステンレス鋼の表面に表面硬化処理を施すことがなされている。ここに表面硬化処理とは硬化材料(モルモノイ、ステライト、クロムカーバイド/ニクロム、タングステンカーバイド等)を溶射、肉盛、熱処理等の手段により上記オーステナイト系ステンレス鋼の表面に表面硬化処理層として付着させることをいう。この表面硬化処理層は通常母材とはその成分を異にしておりかつ脆性を有するものである。したがって表面硬化処理を施した後に溶接を行なう場合には表面硬化処理層に対する影響を考慮して行なう必要がある。」(公報第1頁右下欄第17行?第2頁左上欄第19行参照)

(c)「次に本実施例の場合には母材1a及び1bの成分が所定の成分に調整されている。すなわち本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼はそのCr/Ni比が1.63以上となっている。これを第4図を参照して説明する。第4図はsus304、及びsus316についてその成分を種々変えた場合に高温割れ発生するか否かを示した図であり、Cr/Ni比が1.63以上の場合には割れの発生が見られないのに対してそれ以下の場合には一様に割れが発生している。尚上記比の算出に際しては次のHammar氏の式によるものである。
Cr=Cr+1.37Mo+1.5Si+2Nb+3Ti
Ni=Ni+0.31Mn+22C+14.2N+Cu
次にデルタフェライト量についてであるが、デルタフェライト量を5.5%以上とすれば高温割れの発生を抑制することができるが、sus304、及びsus316といった通常の材料ではそこまで含有量を高くすることは困難である。しかしながらCr/Ni比が1.63以上の場合には第10図に示すようにsus316の場合には4%以上のデルタフェライト量があれば高温割れが発生せず、又sus304の場合には3%以上のデルタフェライトを含んでいれば高温割れの発生はない。そこで本実施例ではCr/ Ni比が1.63以上とするものである。」(公報第4頁左下欄第7行?右下欄第10行参照)

(d)「次に第6図乃至第8図を参照して第2及び第3の発明の一実施例を説明する。この実施例は前記第1の発明の一実施例が母材の成分を調整することにより高温割れの発生を防止したのに対して、母材はそのままとして成分調整されたインサートメタル11を使用するものである。第6図(a)に示すように母材1a及び母材1bとの間には上記インサートメタル11が装着されている。このインサートメタル11は第7図に示すような形状のものであり、Cr/Nl比が1.63以上となるように調整されている。このインサートメタル11の製作は第8図に示すように、まず所定の成分に調整された材料から冷間引抜加工により六角管12を形成する。これを例えば3mm以下の厚さで切断して第7図に示したインサートメタル11とするものである。尚これは第3の発明によるものである。
上記インサートメタル11を装着した状態で前記第1の発明の一実施例と同様に電子ビーム溶接を施すものである。したがって前記第1の発明の一実施例と同様の効果を奏することができるのはもとより、母材全てについて成分調整する必要がなくなるという効果がある。」(公報第5頁右上欄第7行?左下欄第9行参照)

4.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「原子炉の制御棒を昇降駆動する電動型の制御棒駆動装置」は、本願発明の「原子炉の制御棒を駆動するための制御棒駆動装置」に相当する。
引用発明の「制御棒昇降駆動用ボールねじ機構」は、本願発明の「ボールねじ」に相当する。
引用発明の「内側磁気継手要素」は、本願発明の「内側磁気継手要素」に相当する。
引用発明の「外側磁気継手要素」は、本願発明の「外側磁気継手要素」に相当する。
引用発明の「ボールねじ機構の回転駆動源となる電動機アセンブリ」は、「外側磁気継手要素」に連結されているので、本願発明の「外側磁気継手要素を回転駆動するための回転駆動装置」に相当する。
引用発明の「内側磁気継手要素」と「外側磁気継手要素」とを有する「磁気継手」は、本願発明の「内側磁気継手要素」と「外側磁気継手要素」とを有する「磁気継手」に相当する。
引用発明の「径の異なる1対の略円筒形の磁気継手要素を同一軸心上に備え、前記小径な一方の磁気継手要素を内側磁気継手要素とするとともに、前記大径な他方の磁気継手要素を外側磁気継手要素として前記内側磁気継手要素の外側に組合せ配置した」ことは、本願発明の「略円筒形の外側磁気継手要素」が「略円筒形」の「内側磁気継手要素を同軸に取り囲む」ことに相当する。
引用発明の「内側磁気継手要素」が「制御棒昇降駆動用ボールねじ機構に連結され」ていることは、本願発明の「内側磁気継手要素に」「ボールねじ」が「連結され」ていることに相当する。
引用発明の「内側磁気継手要素」に連結された「制御棒昇降駆動用ボールねじ機構」が「回転により制御棒を上下動させる」ことは、本願発明の「ボールねじ」が「内側磁気継手要素に連結され、当該内側磁気継手要素の回転に伴って制御棒を昇降駆動」していることに相当する。
引用発明の「内側磁気継手要素」が「接液状態で設けられ」ていることは、本願発明の「内側磁気継手要素が、原子炉の炉水と接するように配置されて」いることに相当する。
引用発明の「内側磁気継手要素が、 略円筒形の筐体内に磁石を密封収容した磁気継手要素」であることは、本願発明の「内側磁気継手要素」が「永久磁石と、この磁石を密封収納する筐体とを備え」ていることに相当する。
引用発明の「略円筒形の筐体」が「磁石を外周側から被覆する薄肉なスリーブと、前記磁石を軸方向両端部外側から被覆する1対の端板部材とを有」していることは、本願発明の「筐体が、略円筒形のスリーブと、このスリーブの端部開口を塞ぐ端板部材とを有」していることに相当する。
引用発明の「スリーブの軸方向端部と前記各端板の筒状部とを、1層目のパスの止端部と2層目のパスの止端部との位置が異なる2パスのレーザ突合せ溶接により接合」したことと、本願発明の「スリーブと前記端板部材との間の周方向の接合部に、予めインサートリングを取り付けてから、当該接合部を、少なくとも2パスのレーザ溶接により、1パス目の溶接止端部と2パス目の溶接止端部の位置が周方向で異なるように溶接」したこととは、「スリーブと前記端板部材との間の周方向の接合部を、2パスのレーザ溶接により、1パス目の溶接止端部と2パス目の溶接止端部の位置が周方向で異なるように溶接」したという点で一致する。
引用発明の「筐体の材料として、オーステナイト系ステンレス鋼を用い」たことと、本願発明の「スリーブおよび前記端板部材の材料として、炭素含有量0.02%以下のオーステナイト系ステンレス鋼を用い」たこととは、「スリーブおよび前記端板部材の材料として、オーステナイト系ステンレス鋼を用い」たという点で一致する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「原子炉の制御棒を駆動するための制御棒駆動装置であって、
略円筒形の内側磁気継手要素と、この内側磁気継手要素を同軸に取り囲む略円筒形の外側磁気継手要素とを有する磁気継手と、
この磁気継手の前記内側磁気継手要素に連結され、当該内側磁気継手要素の回転に伴って制御棒を昇降駆動させるためのボールねじと、
前記磁気継手の前記外側磁気継手要素を回転駆動するための回転駆動装置とを備え、
少なくとも前記内側磁気継手要素が、原子炉の炉水と接するように配置されており、
前記内側磁気継手要素は、永久磁石と、この磁石を密封収納する筐体とを備え、前記筐体が、略円筒形のスリーブと、このスリーブの端部開口を塞ぐ端板部材とを有し、
この内側磁気継手要素が、
前記スリーブと前記端板部材との間の周方向の接合部を、2パスのレーザ溶接により、1パス目の溶接止端部と2パス目の溶接止端部の位置が周方向で異なるように溶接し、
前記スリーブおよび前記端板部材の材料として、オーステナイト系ステンレス鋼を用いる、ことにより製造されている、ことを特徴とする制御棒駆動装置。 」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
スリーブと端板部材との間の周方向の接合部を溶接する際に、本願発明では「接合部に、予めインサートリングを取り付けて」いるのに対して、引用発明ではこの点が明らかでない点。

(相違点2)
オーステナイト系ステンレス鋼が、本願発明では「炭素含有量0.02%以下」であるのに対して、引用発明ではこの点が明らかでない点。

(相違点3)
インサートリングの材料が、本願発明では「スリーブおよび端板部材の材料よりもフェライト含有量の大きい材料を用いる」のに対して、引用発明ではこの点が明らかでない点。

5.判断
上記相違点1について検討する。
溶接の際に予めインサートリングを接合部に取り付けて溶接を行うことは、例えば上記周知例1ないし3に記載されるように周知技術であるから、引用発明において、スリーブと端板部材との間の周方向の接合部を溶接する際に、接合部に予めインサートリングを取り付けることは、当業者が容易に想到し得ることである。

上記相違点2について検討する。
原子炉において、オーステナイト系ステンレス鋼として、炭素含有量0.02%以下のオーステナイト系ステンレス鋼を用いることは、例えば特開昭59-192995号公報(公報第3頁右下欄第13?17行参照)及び特開2000-254776号公報(【請求項15】参照)に記載されるように周知技術であるから、引用発明において、オーステナイト系ステンレス鋼の炭素含有量を0.02%以下とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

上記相違点3について検討する。
インサートリングやインサートメタルの材料としてフェライト含有量の大きい材料を用いることは、例えば上記周知例1ないし3に記載されるように周知技術であり、インサートメタル(インサートリングと実質的に同じ部材である)の材料のフェライト含有量をスリーブおよび前記端板部材の材料のフェライト含有量よりも大きくすることは、例えば上記周知例3に記載されるように当業者が必要に応じて適宜なし得ることであるから、引用発明において、インサートリングの材料として、スリーブおよび端板部材の材料よりもフェライト含有量の大きい材料を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明の作用効果は引用発明及び周知技術から当業者が予期できたものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-09 
結審通知日 2008-09-12 
審決日 2008-09-26 
出願番号 特願2002-372726(P2002-372726)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平村田 尚英今浦 陽恵  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 安田 明央
森林 克郎
発明の名称 制御棒駆動装置  
代理人 吉武 賢次  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 岡田 淳平  
代理人 宮腰 健介  

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