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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1187984
審判番号 不服2006-5021  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-16 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 特願2000- 7221「静電荷像現像用トナー、二成分系現像剤、及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月27日出願公開、特開2001-201887〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年1月14日の出願であって、平成18年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月16日付けで審判請求がなされ、当審において、平成20年6月23日付けで通知された拒絶理由に対して、同年8月20日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものであって、「静電荷像現像用トナー、二成分系現像剤、及び画像形成方法」に関するものと認める。


第2 当審の拒絶理由通知の概要
平成20年6月23日付けの拒絶理由通知には、次の指摘事項が含まれている。
『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号、並びに同条第4項に規定する要件を満たしていない。 記
請求項1には、「少なくとも、結着樹脂、着色剤、及びワックスを含有するトナーにおいて、該トナーのTHF溶解成分のGPCによる分子量に関し、積分分子量分布における5×10^(5)以上の割合が1重量%以下であり、積分分子量分布における3×10^(3)以下の割合が30重量%以下であり、かつ、積分分子量分布における5×10^(3)以下の割合{W(5×10^(3))}と、積分分子量分布における1×10^(5)以上の割合{W(1×10^(5))}との比{W(5×10^(3))/W(1×10^(5))}が15?50」である旨の記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0015】には、「図1に、第1の発明のトナーの積分分子量分布の一例を示す。図1のように、第1の発明のトナーは、該トナーのTHF溶解成分のGPCによる分子量に関し、積分分子量分布における5×10^(5)以上の割合{W(5×10^(5))=100-(A)%}が1重量%以下であり、積分分子量分布における3×10^(3)以下の割合{W(3×10^(3))=(D)%}が30重量%以下であり、積分分子量分布における5×10^(3)以下の割合{W(5×10^(3))=(C)%}と、積分分子量分布における1×105以上の割合{W(1×10^(5))=100-(B)%}との比{W(5×10^(3))/W(1×10^(5))}が15?50である。つまり、第1の発明では、低分子量成分の量を少なくして耐オフセット性を向上させ、更に高分子量成分の量を少なくして、低温定着性やOHP透明性、フラットな定着画像形成性能を高めている。言いかえると、分子量分布を狭くし、低分子量成分と高分子量成分との量を制御することで、フルカラートナーに求められている諸特性を同時に満足することを可能としている。」という記載もある。
ここで、積分分子量分布において、5×10^(5)以下の割合が「A」、1×10^(5)以下の割合が「B」、5×10^(3)以下の割合が「C」、3×10^(3)以下の割合が「D」である。
したがって、請求項1の「15?50」の条件について、B、Cを用いて表現すると次のとおりである。
15≦C/(100-B)≦50
このとき、Bの値は100%に近い値をとるものと考えられる(Aの値が99%以上であるから、Bもそれに近いはずで、模式図の図1をみてもそうなっている。)から、Bを90%を超える値で変動させるとC値がどうなるか計算してみると、下記の計算例が得られ、これによれば、Bの変動巾が小さくても、Cの値は、非常に広い範囲(数%近くから、90%超まで)を含み得るものであることがわかる。
B C C/(100-B)
ケース1 99.5 7.5 15
(比15) 96 60 15
94 90 15
ケース2 99.5 25 50
(比50) 99 50 50
98.2 90 50
しかしながら、このように広い範囲のC値についてまで、低温定着性、OHP透過性及び耐オフセット性に優れ、高い光沢度の定着画像を形成できるという効果を奏するかどうかは、明細書では何らの検証も論理的説明もされておらず、不明であるというほかないものである。
また、実施例では、C/(100-B)の値は示されている(【0061】の表3)が、B,Cの値は示されておらず、意味あるC値のとりうる範囲を確認する手だてもない。
したがって、15≦C/(100-B)≦50の範囲全体(一部ではない)に渡る技術的意味が不明である。
また、特許請求の範囲では、発明の課題が解決できるかどうか確認されていない範囲にまで、特許を請求していることになる。
よって、請求項1に係る発明は、発明の範囲全体についての技術的意義が明確でなく、また、発明の詳細な説明に実質的に記載したものでもない。』

第3 手続補正書、意見書の内容
これに対し、請求人より、平成20年8月23日付けで手続補正書及び意見書が提出されたところ、それには以下の内容が含まれる。

(ア)補正された請求項1
請求項1は、補正により、次のとおりの記載になった。

「【請求項1】 少なくとも、結着樹脂、着色剤、及びワックスを含有するトナーにおいて、該トナーのTHF溶解成分のGPCによる分子量に関し、積分分子量分布における5×10^(5)以上の割合が1重量%以下であり、積分分子量分布における3×10^(3)以下の割合が30重量%以下であり、かつ、積分分子量分布における5×10^(3)以下の割合{W(5×10^(3))}と、積分分子量分布における1×105以上の割合{W(1×10^(5))}との比{W(5×10^(3))/W(1×10^(5))}が18.5?32.5であり、かつ、該トナーのTHF溶解成分のGPCによる重量平均分子量が19,800?21,800であり、
潜像担持体上に静電潜像を形成する潜像形成工程と、該静電潜像をトナーにより現像してトナー画像を形成する現像工程と、該トナー画像を転写材上に転写して転写画像を形成する転写工程と、該転写画像を加熱ローラ及び加圧ローラを用いて定着する定着工程とを含む画像形成方法において、前記加熱ローラ及び加圧ローラの表面がフッ素樹脂で形成されており、実質的にその表面に離型性液体を供給しない画像形成方法に用いられることを特徴とする静電荷像現像用トナー。」

(イ)意見書の内容
また、請求人は、意見書にて、上記「第2」で示した拒絶理由通知に対して、次のように反論している。

『3.出願人の意見
審判官殿が平成20年6月24日発送の拒絶理由通知においてご指摘された1)上記BとCの範囲についてのご指摘、及び、2)平成20年6月2日付け意見書における出願人の主張に関し、出願人の主張する意味ある分子量分布が当初明細書には開示がないとのご指摘、の2点についてご説明します。なお、以下、重量平均分子量分布(Mw)を適宜「分子量」と略称します
3-1)BとCの範囲について
分子量が5×10^(5)以上の割合{W(5×10^(5))}を「100-A」、
分子量が3×10^(3)以下の割合{W(3×10^(3))}を「D」、
分子量が5×10^(3)以下の割合{W(5×10^(3))}を「C」、
分子量が1×10^(5)以上の割合{W(1×10^(5))}を「100-B」としたとき、
補正後の本願請求項1、出願当初の本願実施例1?本願実施例3、図1、及び図2より、本願発明のトナーは以下の値を示します。
分子量(Mw):19,800?21,800
100-A :1重量%以上
(当審注:これは「1重量%以下」の誤記である)
D :30重量%以下
上記A及びDを、本願図2に示される微分分子量分布にあてはめたとき、A及びDは本願図2に示される微分分子量分布のピーク付近の分子量に比べ、分子量分布曲線の裾野にあたります。同様に、B及びCを本願図2に示される微分分子量分布にあてはめたとき、B及びCは「19,800?21,800」の範囲の分子量と比べ、A及びDに近い分子量であることから、B及びCが本願図2に示される分子量分布曲線の裾野にあたることは明らかであります。従いまして、Bは、審判官殿がご指摘されるように「100%に近い値をとるものと考えられ(Aの値が99%以上であるから、Bもそれに近いはずで、模式図の図1をみてもそうなっている。)」ます。
そのため、Cが、審判官殿のご認定のような、非常に広い範囲を取ることは有り得ません。上記のように、Bが100%に近い値をとり、Cが広い範囲を取るものではないことが、次に示す参考実験(表A)からも明らかであります。当該参考実験は、本願実施例2及び本願実施例3において用いたトナーについて、本願実施例2及び本願実施例3と同様にしてGPC測定をしました。参考実験により得られたA?Dにおける積分分子量分布の値、C/(100-B)の値、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)の値を下記表Aに示します。
[表A]

このように、本願における上記B及びCは、審判官殿がご指摘されるような非常に広い範囲をとるものではありません。そのため、本願において規定するトナーは、発明の課題が解決できる範囲のみについて特許を請求しているにすぎません。またそのような発明の課題が解決できる範囲については、出願当初の本願実施例1?3に示すように、本願発明によれば発明の課題が解決できることが示されております。従いまして、本願請求項1の発明の範囲全体についての技術的意義も明確であるものと思料致します。』


第4 当審の判断
まず、以下では、積分分子量分布における各種割合を、上記拒絶理由通知及び意見書でしたように、A,B,C,Dを用いて、
分子量が5×10^(5)以上の割合{W(5×10^(5))}を「100-A」、
分子量が3×10^(3)以下の割合{W(3×10^(3))}を「D」、
分子量が5×10^(3)以下の割合{W(5×10^(3))}を「C」、
分子量が1×10^(5)以上の割合{W(1×10^(5))}を「100-B」
と表すことにする。
そうすると、請求項1に係る発明についての上記補正は、「C/(100-B)」の範囲について、補正前の15?50を、本願の実施例1?3における最大値、最小値をとって、18.5?32.5と減縮するとともに、補正前には規定がなかった重量平均分子量(Mw)について、やはり実施例1?3における最大値、最小値をとって、19,800?21,800と限定するものである。なお、補正されなかった、「100-A」は1重量%以下、Dは30重量%以下である。
その上で、請求人は、意見書にて、上記のとおり、本願において規定するトナーは、発明の課題が解決できる範囲のみについて特許を請求しているにすぎず、またそのような発明の課題が解決できる範囲については、出願当初の本願実施例1?3に示すように、本願発明によれば発明の課題が解決できることが示されている旨を主張しているので、以下、その具体的な主張を検討しつつ、拒絶理由が解消しているかどうかを判断するものとする。

まず、請求人は、意見書にて、『上記A及びDを、本願図2に示される微分分子量分布にあてはめたとき、A及びDは本願図2に示される微分分子量分布のピーク付近の分子量に比べ、分子量分布曲線の裾野にあたります。同様に、B及びCを本願図2に示される微分分子量分布にあてはめたとき、B及びCは「19,800?21,800」の範囲の分子量と比べ、A及びDに近い分子量であることから、B及びCが本願図2に示される分子量分布曲線の裾野にあたることは明らかであります。従いまして、Bは、審判官殿がご指摘されるように「100%に近い値をとるものと考えられ(Aの値が99%以上であるから、Bもそれに近いはずで、模式図の図1をみてもそうなっている。)」ます。そのため、Cが、審判官殿のご認定のような、非常に広い範囲を取ることは有り得ません。』と主張する。
そこで検討するに、
請求人が説明に用いる「本願図2に示される微分分子量分布」とは、明細書【0017】に「図2に、第2の発明のトナーの微分分子量分布の一例を示す。」と記載されているように、あくまで一例であって、しかも、本願の実施例に対応する微分分子量分布を正確に示しているのではない。
それでも、一応、微分分子量分布を仮想したとき、A点(分子量5×10^(5))、D点(分子量3×10^(3) )が、仮想される微分分子量分布のピークよりも、それぞれ分子量の高い側、低い側の裾野に位置するであろうことは、常識的に理解できるところである。また、B点(分子量が1×10^(5))も、A点に近い分子量であることから、微分分子量分布のピークよりも、分子量の高い側の裾野付近に位置するであろうことは推認できる。
しかし、C点(分子量5×10^(3))については、微分分子量分布のピークよりも、分子量の低い側に位置するとしても、裾野にあるのか、裾野より上の中腹にあるのかは、必ずしも推認することができないものである。積分分子量分布(累積重量%)におけるC値は、裾野にあれば、30?45%程度にあるとしても、中腹にあれば、50?60%程度ということも十分にあり得るし(請求項1では、D[分子量3×10^(3)]が30%以下と規定されるから、Dより増加するはずのC[分子量5×10^(3)]が50%を超えても不思議でない。)、逆に裾野の端であれば、20%以下ということも十分にあり得るものである。
請求人は、C点(分子量5×10^(3))が微分分子量分布の裾野にある根拠として、Cが、重量平均分子量(Mw)「19,800?21,800」(請求項1)の範囲の分子量と比べ、Dに近い分子量であることを示しているので、これを検討すると、
重量平均分子量(Mw)は、微分分子量分布に対し分子量を重みとして加えて計算した加重平均というべきものであるから、積分分子量分布の累積重量%で50%となる分子量は、重量平均分子量(Mw)である「19,800?21,800」よりもかなり小さくなることが考えられるところ、C点(分子量5×10^(3)、つまり5000)の積分分子量がどのような値を取るかまでは確定できず、例えば、20%より小さい場合もあれば、50%を超える場合(前記拒絶理由通知で示した90%という数字はあり得ないとしても)もあるかもしれない。

ところで、請求人は、意見書にて、本願の実施例2,3の条件に即してB,C値を示す参考実験(表A)を提示しているので、これを検討する(なお、このB,C値は、請求人もいうようにあくまで参考実験であり、実施例ではない)。
参考実験の値は以下のとおりである。
B C C/(100-B)
参考実験例1: 97.5 46.3 18.5
参考実験例2: 99.0 32.5 32.5
ここで、C(累積重量%)は、46.3%、32.5%という数字が示されており、この付近の数字について、本願の効果(熱ロール定着において実質的にオイルを塗布することなく、低温定着性、OHP透過性及び耐オフセット性に優れ、高い光沢度の定着画像を形成できること)が一応確認されたということができる。
しかし、上記でみたように、Cは、例えば20%より小さい場合もあれば50%を超える場合もあり得るものである。
しかも、請求項1では、「C/(100-B)」の範囲は、18.5?32.5というのであるから、上記参考実験例1で、B(97.5)を固定した上で「C/(100-B)」を32.5に変更した場合、Cは81%となり、また、参考実験例2で、B(99.0)を固定した上で「C/(100-B)」を18.5に変更した場合、Cは19%となるものである。そうすると、Cは、参考実施例で示される46.3%や32.5%という数字からは、かなり大きくかけ離れることになる。そして、81%という数字は、上記の検討からすればあり得ないかもしれないが、19%や50?60%という数字はあり得るものである。
つまり、実施例や参考実験例(仮に採用するとして)により効果が一応確認できるのは、せいぜい「B:97.5、C:46.3」や「B:99.0、C:32.5」の付近に限られるのに対して、請求項1の規定では、Cが少なくとも20%から60%程度の値を取り得るものであり、技術常識に照らしても、請求項1に係る発明は、効果が確認されない範囲を広く含んでいるというべきである。

したがって、請求項1に係る発明は、18.5≦C/(100-B)≦32.5の範囲全体に渡る技術的意味が不明確であるとともに、発明の課題が解決できるかどうか確認されていない範囲にまで、特許を請求していることになる。
よって、請求項1に係る発明は、発明の範囲全体についての技術的意義が明確でなく、また、発明の詳細な説明に実質的に記載したものでもない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-10 
結審通知日 2008-09-16 
審決日 2008-09-30 
出願番号 特願2000-7221(P2000-7221)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
淺野 美奈
発明の名称 静電荷像現像用トナー、二成分系現像剤、及び画像形成方法  
代理人 西元 勝一  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

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