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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
管理番号 1188139
審判番号 不服2006-9043  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-08 
確定日 2008-11-21 
事件の表示 特願2000- 80048「形状記憶合金を含むアクチュエータを用いた制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月26日出願公開、特開2001-263221〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成12年3月22日に出願されたものであって、平成17年12月13日付けで拒絶理由が通知され、平成18年2月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年4月13日付けで拒絶査定がなされ、平成18年5月8日付けで同拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において平成20年6月10日付けで拒絶理由が通知され、平成20年8月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年8月18日に提出された手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、次のとおりのものである。

「【請求項1】
所定寸法に形状記憶された形状記憶合金と、当該形状記憶合金に対して外力を付加して寸法を変化させる付勢手段と、でアクチュエータを構成し、
形状記憶合金が記憶寸法に復帰する第1方向と、付勢手段が形状記憶合金の寸法を変化させる第2方向と、における被駆動部材の位置を当該アクチュエータで制御する制御装置であって、
当該形状記憶合金は、加熱により記憶された寸法形状に変形を開始する温度が、形状記憶合金を構成する材料の配合により、アクチュエータが使用される環境温度よりも高めに設定されており、
アクチュエータによる被駆動部材の制御に先立って、当該形状記憶合金にスタンバイ電流を供給することで、形状記憶合金が変形を開始する温度あるいは、それよりもやや低い温度に、当該形状記憶合金を予備加熱する予備加熱手段を備えたことを特徴とする、制御装置。」

3.当審の判断
[理由1]
(1)引用例
1)特開平10-307628号公報(「引用例1」という。)
2)特開平7-164370号公報(「引用例2」という。)

(2)引用例の記載事項
1)引用例1の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である上記引用例1には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 被駆動体と、
所定の記憶形状を有する形状記憶合金と、
形状記憶合金の変位により、被駆動体を駆動させる駆動手段と、
被駆動体の変位を検知する検知手段と、
被駆動体の変位検知手段の情報に基づき、駆動手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする位置制御駆動装置。
・・・
【請求項6】 被駆動体には、形状記憶合金の加熱による変位にて駆動される方向とは反対方向に付勢する付勢手段が働かされている請求項1から3のいずれか一項に記載の位置制御駆動装置。」(公報【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項6】)

イ.「【0022】ピント調整レンズ4を光軸7の方向に移動させてピント調整を行うために、ピント調整用レンズ支持部材5に形状記憶合金11の一端が本実施の形態1の場合直接取り付けられている。形状記憶合金11のもう一方の一端は、ピント調整用レンズ支持部材5を支持する支持部材であるレンズ鏡胴3に取り付けられている。
・・・本実施の形態1での被駆動体であるピント調整用レンズ支持部材5・・・
【0024】形状記憶合金11には、通電用の電気配線21がなされており、電磁スイッチやスイッチング素子による通電オン・オフ切換え手段12を制御装置9にて制御することで、形状記憶合金11への電流印加を制御している。
【0025】なお、本実施の形態1では形状記憶合金11に直接電流を流すことで加熱しているが、形状記憶合金11の近傍に電流印加によるニクロム線等の発熱体を配置し、発熱体への通電制御により、形状記憶合金11への加熱制御を行ってもよい。・・・」(公報段落【0022】?【0025】)

ウ.「【0041】(実施の形態3)本実施の形態3は図6に示すように、形状記憶合金11が接続されたピント調整用レンズ支持部材5に、形状記憶合金11が加熱により変形したときに移動される方向とは逆の方向に付勢するばね31が働かされている。通常、形状記憶合金11はばね31の付勢力により変形され、記憶形状よりも長くなっており、ピント調整用レンズ支持部材5をストッパ32に当接するホームポジションに保持している。
【0042】他の構成は実施の形態1の場合と同じであり、奏する作用も変わらない。従って、同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。」(公報段落【0041】?【0042】)

上記ア.ないしウ.及び各図の記載によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「所定の記憶形状に形状記憶された形状記憶合金11と、当該形状記憶合金11に対して付勢力を付加して寸法を変化させるばね31と、で位置制御駆動装置を構成し、
形状記憶合金11が加熱により変形したときに移動される方向と、形状記憶合金11が加熱により変形したときに移動される方向とは逆の方向と、における被駆動体の位置を当該位置制御駆動装置で制御する制御装置。」(以下、「引用例1記載の発明」という。)

2)引用例2の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である上記引用例2には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

エ.「【0019】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前述した従来方式は、センサの読み出し時における積分時間が回路の動作サイクルを制限する。即ち、前記センサの測定精度を高めるためには、読み出し時の積分時間を長くする必要があるが、これによって回路の動作サイクルが長くなってしまう。この場合は、ヒータがOFFの状態のサイクルでの温度低下が大きくなるため、特に周囲温度が低い場合には、温度振幅が大きくなり、アクチュエータの安定した位置制御が難しくなる。
・・・
【0023】・・・そこで本発明は、周囲温度に影響されず、且つ回路の動作サイクルが比較的長い場合にあっても温度振幅が小さく安定した位置制御が可能で、且つ応答性が高く、位置精度の高い多関節マニピュレータを提供することを目的とする。」(公報段落【0019】及び【0023】)

オ.「【0024】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、複数の関節部を有し、各関節部に形状記憶素子による駆動部を配した多関節マニピュレータにおいて、前記形状記憶素子を駆動させるための第1の熱電変換制御手段と、前記形状記憶素子を所望温度に保持させる予熱を与える第2の熱電変換制御手段とで構成される多関節マニピュレータを提供する
【0025】
【作用】以上のような構成の多関節マニピュレータは、所望する際にON状態となっている予熱用の電熱ヒータによって、周囲温度が低く、駆動用の電熱ヒータがOFFの状態にあっても温度低下が少なく、安定、且つ高応答性の位置制御が可能になる。」(公報段落【0024】及び【0025】)

カ.「【0032】ここで、関節間配線は図3で示した各端子領域にコンタクト孔を介して接続されており、Ti薄膜による駆動用電熱線パターン56は駆動線の端子領域に接続される。予熱用電熱線パターン57は、予熱線の端子領域に接続されている。但し予熱用電熱ヒータは駆動用電熱ヒータと比較して、発熱量が充分に小さくなるように電気抵抗値が設定されている。」(公報段落【0032】)

キ.「【0035】ここで、このアクチュエータの制御方式は、基本的には、図36に示した方式と同様であるが、図3からわかるように電源ラインに電圧が印加されている状態では、予熱用電熱ヒータが常に通電状態になっている。このため温度の測定精度を高めるために、計測時の積分時間を長く設定し、動作サイクルが長く、しかも周囲温度が低い場合にあっても、予熱用電熱ヒータの作用で、駆動用電熱ヒータがOFFの状態での温度低下が抑制され、安定したアクチュエータの位置制御が可能となる。」(公報段落【0035】)

上記エ.ないしキ.及び各図の記載によれば、引用例2には、次の発明が記載されていると認められる。

「形状記憶素子で駆動部を構成し、
マニピュレータの位置を当該駆動部で制御する制御装置であって、
駆動部によるマニピュレータの制御に先立って、形状記憶素子が変形を開始する温度よりも低い温度に、当該形状記憶素子を予熱を与える手段を備えた、制御装置。」(以下、「引用例2記載の発明」という。)

(2)対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、機能又は構成からみて、引用例1記載の発明の「所定の記憶形状」が本願発明の「所定寸法」に相当する。同様に、引用例1記載の発明の「形状記憶合金11」が本願発明の「形状記憶合金」に、「付勢力」が「外力」に、「ばね31」が「付勢手段」に、「位置制御駆動装置」が「アクチュエータ」に、「形状記憶合金11が加熱により変形したときに移動される方向」が「形状記憶合金が記憶寸法に復帰する第1方向」に、「形状記憶合金11が加熱により変形したときに移動される方向とは逆の方向」が「付勢手段が形状記憶合金の寸法を変化させる第2方向」に、「被駆動体」が「被駆動部材」に、それぞれ相当する。

してみると、両者は、
「所定寸法に形状記憶された形状記憶合金と、当該形状記憶合金に対して外力を付加して寸法を変化させる付勢手段と、でアクチュエータを構成し、
形状記憶合金が記憶寸法に復帰する第1方向と、付勢手段が形状記憶合金の寸法を変化させる第2方向と、における被駆動部材の位置を当該アクチュエータで制御する制御装置。」の点で一致し、以下の1)及び2)の点で相違する。

1)本願発明では、「当該形状記憶合金は、加熱により記憶された寸法形状に変形を開始する温度が、形状記憶合金を構成する材料の配合により、アクチュエータが使用される環境温度よりも高めに設定されて」いるのに対して、引用例1記載の発明では、加熱により記憶された寸法形状に変形を開始する温度を如何に設定するか明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。

2)本願発明では、「アクチュエータによる被駆動部材の制御に先立って、当該形状記憶合金にスタンバイ電流を供給することで、形状記憶合金が変形を開始する温度あるいは、それよりもやや低い温度に、当該形状記憶合金を予備加熱する予備加熱手段を備えた」のに対して、引用例1記載の発明では、その様な構成を備えていない点(以下、「相違点2」という。)。

(3)判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。
1)相違点1について
形状記憶合金において、加熱により記憶された寸法形状に変形を開始する温度が、形状記憶合金を構成する材料の配合により設定される点、及び、形状記憶合金をアクチュエータとして使用する場合、加熱により記憶された寸法形状に変形を開始する温度がアクチュエータが使用される環境温度よりも高めに設定される点は、例えば、実願昭63-4817号(実開平1-111183号)のマイクロフィルム(明細書第6頁第11?18行、実施例-1及び実施例-2を特に参照。)又は特公平7-6492号公報(公報第2欄第15行?第3欄第20行及び第1図を特に参照。)に示されるように周知の技術であるので、当業者であれば、引用例1記載の発明において、上記周知の技術を採用し、上記相違点1に係る本願発明のように構成することは、容易になし得ることである。

2)相違点2について
本願発明と引用例2記載の発明とを対比すると、機能又は構成からみて、引用例2記載の発明の「形状記憶素子」が本願発明の「形状記憶合金」に相当する。同様に、引用例2記載の発明の「駆動部」が本願発明の「アクチュエータ」に、「マニピュレータ」が「被駆動部材」に、「予熱を与える」が、「予備加熱する」に、それぞれ相当する。してみると、引用例2には、「形状記憶合金でアクチュエータを構成し、被駆動部材の位置を当該アクチュエータで制御する制御装置において、アクチュエータによる被駆動部材の制御に先立って、形状記憶合金が変形を開始する温度よりも低い温度に、当該形状記憶合金を予備加熱する制御装置。」(以下、「引用例2記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
そして、引用例1記載の発明と引用例2記載の技術事項は、共に、形状記憶合金でアクチュエータを構成し、被駆動部材の位置を当該アクチュエータで制御する制御装置であるから、当業者が、引用例1記載の発明において、引用例2記載の技術事項を適用することは、当業者の通常の創作能力の発揮である。また、形状記憶合金に通電することで、形状記憶合金の温度を制御する引用例1記載の発明においては、引用例2記載の技術事項を適用するに当たり、形状記憶合金の通電量により予備加熱を行えばよいことは、当業者であれば容易に想到し得ることであり、さらに、具体的な予備加熱の温度は、アクチュエータが適用される具体的な用途等に鑑みて、当業者が適宜設定する設計事項に過ぎない。してみると、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術事項を適用し、上記相違点2に係る本願発明と同様の構成とすることは、当業者にとって格別の創作力を要することもなく、なし得る程度のことにすぎない。

また、本願発明を全体として検討しても、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術事項及び周知の技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[理由2]
(1)先願明細書の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された、本件出願の出願の日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願10-280370号(以下「先願」という。特開2000-112339号公報参照。)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

ク.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 盤面に形成された開口部から出没自在に構成された複数の可動部材と、所定の温度若しくは温度範囲を基準温度として該基準温度を上回るか或いは下回ると所定の形状復元力を発生させ、前記可動部材のそれぞれを出没動作させる複数のコイル状の形状記憶合金バネと、該形状記憶合金バネを加熱及び/又は冷却するための温度制御手段とを備えた点字表示素子において、前記可動部材は、前記形状記憶合金バネを挿通し、前記形状記憶合金バネに対して軸線方向に係合する係合部を備えていることを特徴とする点字表示装置。
・・・
【請求項3】 請求項1又は請求項2において、前記可動部材は、前記形状記憶合金バネと、前記係合部に対して前記形状記憶合金バネの反対側から係合するコイル状の補助バネとを軸線方向に挿通していることを特徴とする点字表示装置。
・・・
【請求項9】 盤面に形成された開口部から出没自在に構成された可動部材と、所定の温度若しくは温度範囲を基準温度として該基準温度を上回るか或いは下回ると所定の形状復元力を発生させ、前記可動部材を出没動作させる形状記憶合金バネと、該形状記憶合金バネを加熱及び/又は冷却する温度制御手段とを備えた点字表示素子において、前記温度制御手段は熱電素子を有し、該熱電素子における発熱部及び/又は吸熱部によって前記形状記憶合金バネを加熱及び/又は冷却するように構成されていることを特徴とする点字表示装置。
・・・
【請求項12】 請求項1から請求項11までのいずれか1項において、複数の前記可動部材を制御するための制御指令手段と、該制御指令手段から受ける駆動指令に基づいて、前記形状記憶合金バネを加熱若しくは冷却するための駆動信号を発生する駆動信号生成手段とを設けたことを特徴とする点字表示装置。
【請求項13】 請求項12において、前記駆動信号生成手段は、前記制御指令手段により、駆動休止期間若しくは駆動開始前に、常温と前記基準温度との間の値に設定された待機温度になるように、前記形状記憶合金バネの加熱若しくは冷却を予め行うように構成されていることを特徴とする点字表示装置。」(先願明細書等の【特許請求の範囲】の【請求項1】、【請求項3】、【請求項9】、【請求項12】及び【請求項13】)

ケ.「【0009】請求項1又は請求項2において、前記可動部材は、前記形状記憶合金バネと、前記係合部に対して前記形状記憶合金バネの反対側から係合するコイル状の補助バネとを軸線方向に挿通していることが好ましい。補助バネを用いることによって形状記憶合金バネの相変態時における一方向の変形を用いて可動部材を一方向に動作させ、補助バネの弾性力を用いて元位置に復帰させることができる。」(先願明細書等の段落【0009】)

コ.「【0022】請求項12において、前記駆動信号生成手段は、前記制御指令手段により、駆動休止期間若しくは駆動開始前に、常温と前記基準温度との間の値に設定された待機温度になるように、前記形状記憶合金バネの加熱若しくは冷却を予め行うように構成されていることが望ましい。常温から待機温度に予め加熱若しくは冷却を行っておくことにより、形状記憶合金バネを迅速に駆動することができる。」(先願明細書等の段落【0022】)

サ.「【0027】[第1実施形態] 図1は本発明に係る点字表示装置の第1実施形態の構造を示す縦断面図、図2は同実施形態の平面図である。この実施形態では、合成樹脂などからなるケース体10の上部盤面に複数の開口部10aが形成されている。これらの開口部10aには、内部に取り付けられた可動部材11の頂部11aが出没するように構成されている。可動部材11は、上端に頂部11aを備えた上側挿通部11Aと、ケース体10の下部開口を封鎖するベース板12を摺動自在に貫通し、下端にリテーナー11dを装着した下側挿通部11Bと、上側挿通部11Aと下側挿通部11Bとの間において拡径し、周囲に張り出すように構成されたフランジ部11Cとを備えている。
【0028】可動部材11の上側挿通部11Aにはコイル状のバイアスバネ14が挿通されており、このバイアスバネ14の下端はフランジ部11Cに係合し、バイアスバネ14の上端は、ケース体の開口部10aの内側に固定された係止板18の開口縁部の内面に係合している。
【0029】可動部材11の下側挿通部11Bには、コイル状の形状記憶合金バネ15が挿通されており、形状記憶合金バネ15の上端は端子板16の環状部16aを介してフランジ部11Cに係合し、形状記憶合金15の下端は端子板17の環状部17aを介してベース板12の内面に係合している。
【0030】図1の状態でバイアスバネ14と形状記憶合金バネ15とは互いの弾性力でバランスを保っており、可動部材11の頂部11aは開口部10aの中に没入した状態となっている。
【0031】形状記憶合金バネ15としては、例えばNi-Ti合金を処理して製作したものを用いることができる。・・・形状記憶合金は固有の基準温度を備えており、所定形状にて処理することによって、その後に機械的応力を加えて変形させても、その状態で基準温度を越えた場合には元形状に復帰しようとする復元力を発生する。このような性質は、形状記憶合金における相変態によって発生する。形状記憶合金バネ15においては、例えば、ロンボヘラルド相(低温)からオーステナイト相(高温)への変態を利用することによって、元形状への復元力を発現させる。このときの形状記憶合金バネの剛性変化は、低温相では柔らかく、高温相に変態する際には剛性が高まる。この場合にはオーステナイト変態の開始温度から完了温度までが上記基準温度となり、逆に、温度低下によって低温相へと変態する際にはロボヘラルド変態の開始温度から完了温度までが上記の基準温度となる。・・・
【0032】これらの場合、基準温度は合金組成などによって広い範囲(例えば上記のNi-Ti合金の場合は-50℃から100℃までの範囲)にわたって適宜に設定することができる。
・・・
【0034】図示しない給電装置から端子板16と17との間に電圧が印加されると、所定の電流が形状記憶合金バネ15に流れ、抵抗によって発熱し、温度が上昇する。形状記憶合金バネ15の温度が上記の基準温度に達すると、形状記憶合金バネ15は伸長し剛性を増して、図3に示すように、バイアスバネ14の弾性力に抗して可動部材11を上方に押し上げるので、頂部11aは開口部10aから突出する。また、給電装置から形状記憶合金バネ15への給電を停止すると、形状記憶合金15の発熱は停止し、温度は下降して基準温度以下になるので、形状記憶合金バネ15は柔軟になり、バイアスバネ14の弾性力によって可動部材11は押し下げられるため、図1に示す状態に戻る。」(先願明細書等の段落【0027】?【0034】)

シ.「【0040】[第2実施形態] 次に、図5を参照して本発明に係る第2実施形態の構造について説明する。この実施形態において、ケース体20、可動部材21、ベース板22、バイアスバネ24、形状記憶合金バネ25、及び係止板28は、先の第1実施形態と同様のものであり、それらの説明は省略する。
【0041】本実施形態においては、形状記憶合金バネ25に電流を流すことなく、熱電素子26,27によって形状記憶合金バネ25を加熱若しくは冷却するように構成されている点が第1実施形態と異なる。・・・」(先願明細書等の段落【0040】?【0041】)

ス.「【0052】[第4実施形態] 次に、上記第2実施形態の駆動部を制御するための別の制御系の例を図7に基づいて説明する。この制御系は、特に、点字表示装置の応答性の向上と、多数の点字表示装置を共通の制御指令手段に接続する場合などに最適化する目的で構成されている。
・・・
【0056】この実施形態では、点字表示装置の或る可動部材を駆動する前及びその駆動を休止している間において、予め設定された予熱温度T1に形状記憶合金バネ25を予熱しておき、駆動開始若しくは駆動再開後の応答時間を短縮する工夫がなされている。図9に示すように、制御指令手段からの温度制御データ信号TDにより温度指令値T1が送出されると、温度ラッチ信号TRによって比較手段78に取り込まれ、駆動データ信号DDがオンになると駆動ラッチ信号DRによって定電流回路73から駆動信号が熱電素子26に出力され、形状記憶合金バネ25が加熱される。形状記憶合金バネ25の温度が高くなっていき、フィードバック制御により徐々に温度指令値のT1に接近する。
・・・
【0062】このように予め点字表示装置を駆動させる前に形状記憶合金バネ25を予熱しておくことによって、動作開始までの時間を短縮し、短時間のうちに点字表示装置を動作させることができる。図9に点線で示すように、予熱をしない場合と較べて大幅に動作開始時間を短縮することができる。」(先願明細書等の段落【0052】、【0056】及び【0062】)

セ.上記コ.の記載から、基準温度は常温よりも高めに設定されていることが分かる。

ソ.上記ケ.及びサ.の特に段落【0030】の記載から、バイアスバネ14によって、形状記憶合金バネ15に対して外力を付加して寸法を変化させることが分かる。

タ.上記ク.?ス.の記載から、形状記憶合金バネ15とバイアスバネ14と、でアクチュエータが構成されていることが分かる。

上記ク.ないしタ.及び各図の記載によれば、先願明細書等には、次の発明が記載されている。

「所定形状にて処理された形状記憶合金バネ15と、当該形状記憶合金バネ15に対して外力を付加して寸法を変化させるバイアスバネ14と、でアクチュエータを構成し、
形状記憶合金バネ15が元形状に復帰する第1方向と、バイアスバネ14が形状記憶合金バネ15の寸法を変化させる第2方向と、における可動部材11の位置を当該アクチュエータで制御する駆動信号生成手段であって、
当該形状記憶合金バネ15は、基準温度が、形状記憶合金を構成する材料の配合により、常温よりも高めに設定されており、
アクチュエータによる被駆動部材の制御に先立って、基準温度よりも低い待機温度T1に、当該形状記憶合金バネ15を予め加熱する駆動信号生成手段を備えた、点字表示装置。」(以下、「先願明細書等記載の発明」という。)

(2)対比
本願発明と先願明細書等記載の発明とを対比すると、機能又は構成からみて、先願明細書等記載の発明の「所定形状にて処理された形状記憶合金バネ15」が本願発明の「所定寸法に形状記憶された形状記憶合金」に相当する。同様に、先願明細書等記載の発明の「バイアスバネ14」が本願発明の「付勢手段」に、「元形状」が「記憶寸法」に、「可動部材11」が「被駆動部材」に、「駆動信号生成手段」が「制御装置」に、「基準温度」が「加熱により記憶された寸法形状に変形を開始する温度」に、「常温」が「アクチュエータが使用される環境温度」に、「形状記憶合金バネ15を予め加熱する駆動信号生成手段」が「形状記憶合金を予備加熱する予備加熱手段」に、それぞれ相当する。また、先願明細書等記載の発明の「基準温度よりも低い待機温度T1」は、「形状記憶合金が変形を開始する温度よりも低い温度」という限りにおいて、本願発明の「形状記憶合金が変形を開始する温度あるいは、それよりもやや低い温度」に相当する。

してみると、両者は、
「所定寸法に形状記憶された形状記憶合金と、当該形状記憶合金に対して外力を付加して寸法を変化させる付勢手段と、でアクチュエータを構成し、
形状記憶合金が記憶寸法に復帰する第1方向と、付勢手段が形状記憶合金の寸法を変化させる第2方向と、における被駆動部材の位置を当該アクチュエータで制御する制御装置であって、
当該形状記憶合金は、加熱により記憶された寸法形状に変形を開始する温度が、形状記憶合金を構成する材料の配合により、アクチュエータが使用される環境温度よりも高めに設定されており、
アクチュエータによる被駆動部材の制御に先立って、形状記憶合金が変形を開始する温度よりも低い温度に、当該形状記憶合金を予備加熱する予備加熱手段を備えた、制御装置。」の点で一致し、次の1)及び2)点で一応相違する。

1)本願発明では、「形状記憶合金にスタンバイ電流を供給する」ことで、予備加熱のに対して、先願明細書等記載の発明では、「形状記憶合金にスタンバイ電流を供給する」ことで、予備加熱を行うか明らかではない点(以下、「相違点3」という。)。

2)予備加熱の温度に関して、本願発明では、「形状記憶合金が変形を開始する温度あるいは、それよりもやや低い温度」であるのに対して、先願明細書等記載の発明では、「形状記憶合金が変形を開始する温度よりも低い温度」である点(以下、「相違点4」という。)。

(3)判断
上記相違点3及び相違点4について検討する。
1)相違点3について
先願明細書等では、実施例1として、形状記憶合金に電流を供給することで、形状記憶合金を加熱して、形状記憶合金を駆動するもの(いわゆる「直接的加熱法」。)が記載されており、実施例2として、形状記憶合金に電流を供給する直接的加熱法に換えて、「熱電素子」で間接的に形状記憶合金を加熱するもの(いわゆる「間接的加熱法」。)が記載されている。さらに、先願明細書等では、実施例4として、前記実施例2において熱電素子に駆動信号(本願発明の「スタンバイ電流」)を流すことで、予備加熱を行うものとなっている。してみると、先願明細書等では、実施例として、直接的加熱法において、予備加熱を行うことは記載されていないから、一見すると、先願明細書等には、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項について、直接の記載はないことになる。
しかしながら、先願明細書等の請求項1(上記[理由2](1)ク.を参照。)においては温度制御手段について、直接的加熱法又は間接的加熱法を何ら具体的に特定していないこと、及び、請求項9において、温度制御手段は熱電素子を有する間接的加熱法であることが特定されていることから、先願明細書等の請求項1係る発明は、実施例1又は実施例2に記載された、直接的加熱法及び間接的加熱法を共に包含するものである。そして、先願明細書等の請求項12では、温度制御手段を何ら特定していない請求項1等に従属する請求項11に従属した上で、予備加熱することを特定しているから、先願明細書等の請求項12に係る発明は、実施例4に記載された間接的加熱法において予備加熱を行う態様のみならず、直接的加熱法において、予備加熱する態様についても包含していることは、先願明細書等に接した当業者にとって自明のことである。してみると、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、先願明細書等に一見して直接の記載がないとしても、当業者であれば、先願明細書等の特許請求の範囲の記載及び各実施例の記載から、先願明細書等に実質的に記載されているに等しいと理解できる程度のものであるから、上記相違点3は実質的な相違点ではない。
なお、仮に、当業者が、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項が先願明細書に実質的に記載されているに等しいと理解できる程度のものといえないとしても、直接的加熱法及び間接的加熱法は、例えば、実願昭63-4817号(実開平1-111183号)のマイクロフィルム(明細書第2頁第18行?第3頁第5行を特に参照。)に示されるように共に周知の技術であるから、上記相違点3は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないものであって、実質的な相違点ではない。

2)相違点4について
予備加熱の具体的な温度は、アクチュエータが適用される用途等に鑑みて、当業者が適宜設定する設計事項に過ぎない。
よって、上記相違点4は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないものであり、実質的な相違点ではない。

したがって、本願発明は、先願明細書等記載の発明と実質的に同一である。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書等記載の発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願明細書等記載の発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、又は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-08 
結審通知日 2008-09-16 
審決日 2008-09-29 
出願番号 特願2000-80048(P2000-80048)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (F03G)
P 1 8・ 121- WZ (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 豊英  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
森藤 淳志
発明の名称 形状記憶合金を含むアクチュエータを用いた制御装置  

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