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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1188187
審判番号 不服2007-35463  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-28 
確定日 2008-11-17 
事件の表示 平成 9年特許願第520838号「内燃機関の制御方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月12日国際公開、WO97/21029、平成11年 1月26日国内公表、特表平11-501099〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯、本願発明
本願は、1996年 7月20日を国際出願日とする出願(パリ条約による優先権主張、1995年12月 5日、ドイツ)であって、平成18年 8月17日付けで拒絶理由が通知され、平成18年12月26日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成19年 3月23日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成19年 7月 3日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、平成19年 9月21日付けで平成19年 7月 3日付けの手続補正の却下の決定がなされるととともに、同日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年12月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成20年 2月26日付けで審判請求書の請求の理由について手続補正がなされたものであり、その請求項1ないし6に係る発明は、平成18年12月26日付けの手続補正により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「1. エンジン回転速度(Nmot)およびエンジン負荷(TL)のような内燃機関の運転変数が測定され、これらの運転変数の関数として、内燃機関の所定のトルク・モデル(40-70)に基づき、内燃機関の実際トルク(Mindist)が決定され、または所定の目標トルク(Mindsoll)が内燃機関の少なくとも1つの制御変数(Ti、ZW、α)に変換され、あるいは内燃機関の実際トルク(Mindist)が決定され、かつ所定の目標トルク(Mindsoll)が内燃機関の少なくとも1つの制御変数(Ti、ZW、α)に変換され、この場合、
トルク・モデルの変数として、そのときに内燃機関が特定の効率を有する最適点火角値(ZWopt、50)が決定され、前記最適点火角値(ZWopt、50)は、内燃機関の実際トルク(Mindist)の決定のために、または目標トルク(Mindsoll)の変換のために、あるいはこれら両方のために、内燃機関の実際点火角設定の関数として補正されて評価される、内燃機関の制御方法において、
最適点火角値(ZWopt)の補正値の形成が、エンジン温度(Tmot)、吸気温度(Tans)、排気ガス戻し率の値および弁の重なり角(wnwue)のうちの1つ、またはこれらの任意の組み合わせの関数として行われることを特徴とする内燃機関の制御方法。」

第2.引用文献記載の発明及び技術
第2-1.引用文献1記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第95/24550号(1995年9月14日発行、以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

ア.「Es ist daher ・・・(中略)・・・Luftzufuhr bereitzustellen.」(明細書第2ページ第1行?第5行)
(当審仮訳)「したがって、燃料供給量、混合物組成、点火角および/または空気供給量のような駆動エンジンの出力パラメータを調節することにより車両の駆動エンジンのトルクを調節するための手段を提供することが本発明の課題である。」

イ.「In Figur 1 ist ・・・(中略)・・・Sollwert bereitgestellt.」(明細書第4ページ第4行?第5ページ第11行)
(当審仮訳)「図1に駆動ユニット10すなわち内燃機関を有する車両の制御装置の全体ブロック回路図が示され、駆動ユニット10は吸気系統12を介してドライバにより操作可能な絞り弁14と接続されている。さらに、図1に4シリンダ内燃機関10(ガソリンエンジン)の2つのシリンダ16および18が示されている。測定装置26ないし28からライン22ないし24が供給される第1の制御ユニット20は出力ライン30を有し、出力ライン30は第2の制御ユニット32に通じている。この第2の制御ユニット32にはさらに、測定装置38ないし40から入力ライン34ないし36が供給されている。制御ユニット32にはさらに、内燃機関10への空気供給量を測定するための測定装置44からライン42が供給され、内燃機関の回転速度を測定するための測定装置48からライン46が供給され、ならびに内燃機関10の排ガス組成λを測定するための測定装置52からライン50が供給されている。出力ライン54ないし56は噴射弁58ないし60に通じ、ここで各シリンダにはそれぞれ噴射弁が付属されている。その他の出力ライン62ないし64は各シリンダに付属されている点火時期を制御するための装置66ないし68に通じている。
図1に示す装置の機能を、駆動滑り制御の機能を例として説明する。ここで、制御ユニット20は駆動滑り制御装置を示し、駆動滑り制御装置には実質的にライン22ないし24を介して車両車輪の回転速度に関する信号が供給される。この信号値に基づき、制御ユニット20は制御ユニット32により調節すべき駆動エンジン10のトルクに対する目標値を求める。この目標値は制御ユニット20からライン30を介して制御ユニット32に供給され、また制御ユニット32により、それに供給された運転変数を利用して、個々のシリンダへの燃料供給の調節によりおよび/または点火角の調節により、ならびに空気/燃料混合物の組成を変化させることにより、内燃機関10により供給されるトルクを所定の目標値に近づける方向に目標値が形成される。」

ウ.「Der Umsetzung des ・・・(中略)・・・der Motordrehzahl bestimmt.」(明細書第5ページ第23行?第7ページ第17行)
(当審仮訳)「制御ユニット32による目標トルク値の変換には、次の基本的関係および知見が基礎になっている。個々のシリンダ内における燃焼過程により発生される内燃機関のトルク、すなわち図示トルクMiは、実質的に回転速度Nmot、エンジン負荷T1(シリンダ充填量により決定される)、調節された噴射時間Tiならびに点火角αzの関数である。空燃比、個々のシリンダへの燃料供給および点火角の調節によりトルク目標値を形成するときに、噴射時間は排ガス組成に対しそれぞれ設定されたλ値およびいわゆる低減段数XZにより決定され、ここで低減段数XZは内燃機関の作業サイクルごとの遮断シリンダ数、すなわち燃料供給が遮断されたシリンダの数を示している。したがって、図示トルクを次の関係式により示すことができる。
Mi=f(Nmot,T1,αz,λ,XZ) (1)
ここで、図示トルクは制御ユニット20により目標値として設定される。したがって、設定変数αz、λおよびXZを計算することが課題となる。この場合、基本的な知見は、等式(1)に示す関係を物理的観点により個々の機能に分割することである。
Mi=f1(Nmot,T1)*f2(Δαz)*f3(λ)
*f4(XZ) (2)
(ここで、Δαz=αzopt(Nmot,T1,λ)-αz および
f4(XZ)=1-XZ/ZZ (3))
ここで、αzoptはエンジン回転速度、エンジン負荷および排ガス組成に基づき最大トルクに対して決定された最適点火角であり、またαzは既知の回転速度-負荷特性曲線群に基づき設定される実際の点火角である。ZZはシリンダ遮断に対し可能な最大段数である(たとえば簡単な場合、4シリンダエンジンにおいては4)。
等式(2)の構成部分は物理的意味を有している。f1は最適点火角、λ=1(化学量論的関係)およびすべてのシリンダに燃料が供給されている(XZ=0)場合における図示トルクに対応する。f2はエンジントルクに対する点火角偏差ないしは点火角設定の寄与分、すなわち最適点火角に対する設定点火角の偏差の寄与分に対応する。f3は空燃比を変化させたときのトルクに対する寄与分を示し、この場合、関数f3はλ=1に対しては1である。最後に、f4は個々のシリンダを遮断することによるトルクへの寄与分を示し、この場合、いずれのシリンダも遮断されていないときすなわちすべてのシリンダに燃料が供給されているときにはこの関数は1である。
関数f1ないしf4は、この場合実験的に決定された特性曲線群ないし特性曲線を示し、これらの特性曲線群ないし特性曲線においては該当する変数の関数として絶対トルク値f1ないし相対トルク変化f2ないしf4が目盛られている。
負荷信号T1は、熱線空気質量流量計、熱フィルム空気質量流量計、吸気管圧力センサまたは空気容量流量計の信号からエンジン回転速度を考慮して決定される。」

エ.「Dazu ・・・(中略)・・・ durchgefuhrt . 」(明細書第8ページ第3行?第10ページ第2行)
(当審仮訳)「このためにまず、λ=λ0、特性曲線群による点火角αzおよび低減段数XZ=0(シリンダ遮断がない)における、調節が行われていない正常運転において設定されるトルクMiaktが概算により決定されなければならない。
Miakt=f1(Nmot,T1)*f2(αzopt-αz)
*f3(λ0)*f4(0) (4)
(ここで、λ0=1に対してf3(λ0)=1 および f4(0)=1)
優先度を有しかつトルクMisollの設定のために必要な空燃比の調節は、このとき等式(4)を考慮して等式(3)を解くことにより得られる。
λsoll=f3^(-1)[(Misoll*f3(λ0))/Miakt]
(5)
したがって、エンジンのトルクに対する目標値が調節のないときに評価された値から外れている場合、上記の等式により空燃比の設定のための目標値が決定され、この目標値は調節のないときの目標値と実際値との間の差を少なくとも小さくしようとするものである。目標値λsollは、シリンダの確実な燃焼により決定されるその許容範囲を外れてはならない。目標値がこの許容範囲から外れている場合、目標値は最小値または最大値に制限される。
目標値により設定された空燃比に対する値λから、関数f3を用いてこの調節によるトルクへの寄与分が決定されかつこれに基づく遮断すべきシリンダの数XZの決定のために数式2が解かれる。
XZsoll=[1-Misoll/
(Miakt*f3(λ0))]*ZZ (6)
低減段数が確定されると、等式2に基づきおそらく残るであろうトルク差が点火角の変化により補償される。この場合、空燃比のシフトの最適点火角に対する影響を考慮すべきである(g(λ))。このとき、設定すべき点火角αzsollは設定された低減段数およびトルク目標値の関数として、設定された空燃比の最適点火角への影響を考慮して与えられる。
αzsoll=αzopt(Nmot,T1)*g(λ)
-f2^(-1)[Misoll/(f1(Nmot,T1)
*f3(λ)*f4(XZ))] (7)
したがって、設定値の逐次計算により、目標トルクは、空燃比、個々のシリンダへの燃料供給ならびに設定すべき点火角の調節により設定することができる。
ある実施態様においてまたは特定の運転過程および運転点(トルク低減の小さいウオーミング運転または最高速度制限など)においては、個々のシリンダへの燃料供給の遮断が行われず、すなわちXZsollが常に0の場合、同様に上記の等式に基づき空燃比と点火角との組合せ調節が実行される。」

オ.「Aus den ・・・(中略)・・・ bestimmt (Gleichung 5) .」(明細書第10ページ第3行?第11ページ第18行)
(当審仮訳)「測定または計算された、点火角、シリンダ遮断およびλに対する実際値から、等式2により実際トルクが計算されまた場合により処理される。
空燃比に対する目標値の設定は、好ましい実施態様においては、噴射時間Tiの修正により行われる。
対応する機能を実行するために、上記の基本関係のほかに、時間特性を考慮すべきである。燃料噴射システムにおいて、特定のシリンダに噴射すべき燃料は実質的に負荷および回転速度の関数として事前に供給され、すなわち燃料は各シリンダの吸気サイクルの前の特定のクランク軸角において吸入弁の前に噴射される。噴射すべき燃料の量の計算もまたこの量を吸入する少し前に行われる。したがって、これは吸気過程において存在する運転状態をもはや正確には示していない。これに対し、点火角の計算は実行するそのときに行われかつ混合物点火の直前に行われる。したがって、トルク過程を改善するために、点火および燃料の量の調節は、燃料の量の変化が(空燃比を変化させる方向にまたは燃料の供給を遮断または復帰する方向に)行われるシリンダにおいてちょうどそのときに点火角の変化が行われるように同期化されなければならない。このような同期化の実行を、図2に示す流れ図において空燃比の調節を優先させる例で説明する。
クランク軸に同期してまたは時間に同期して行われるプログラム部分のスタート後、第1のステップ100において、エンジントルクMisoll、エンジン回転速度Nmot、エンジン負荷T1ならびに排ガス組成λ0に対する目標値が読み込まれる。それに続くステップ102において、エンジン回転速度、エンジン負荷およびλの関数として特性曲線群から決定される最適点火角とおよび実際に設定された点火角αzとの間の点火角差Δαzが計算される。さらにステップ102において、調節が行われていないときに実際に与えられるエンジントルクMiaktが、特性曲線群から、エンジン回転速度、エンジン負荷、排ガス組成λ0および点火角差の関数として評価される(等式4)。それに続くステップ104において、与えられた目標値と調節が行われていないときに評価されたトルクとの比が計算され、またそれに続くステップ106において、空燃比を設定するための目標値λsollが決定される(等式5)。」

カ.「Wie oben ・・・(中略)・・・ abhangig sind .」(明細書第13ページ第26行?第14ページ第4行)
(当審仮訳)「上記のように、好ましい実施態様においては、関数f2(Δαz)、f3(λ)およびg(λ)に対して実験で決定された特性曲線群または特性曲線が使用される。他の有利な実施態様においては、他の数学的表現で一次および/または二次および/または高次の多項式が使用され、この場合多項式の定数はエンジン回転速度およびエンジン負荷の関数である。」

キ.「Ein weiteres ・・・(中略)・・・ sind somit synchronisiert .」(明細書第15ページ第29行?第16ページ第16行)
(当審仮訳)「他の実施例は、低減段数の変化を必要としないエンジントルクの変化を示している。時点T4において、目標トルクは値Misoll2から値Misoll3に上昇される。したがって、この時点においてエンジントルクを変化させるために、点火角を値αzsoll3へ変化させおよび空燃比を値λ3へ変化させるように計算され、これによりトルクが低減される。トルク変化は、低減段数の変化を必要としないほど小さいので、時点T4においてはλを変化させることができる。実際に計算された噴射パルスは修正される。図示の例においては、λsollはシリンダ1の吸気サイクルである時点T4において変化される。この変化はシリンダ3に対して有効となる。この理由から、点火角の変化はシリンダ3が吸気する時点T5まで遅延される。この結果、時点T5においてエンジントルクは値Mi3に上昇し、このとき時点T5以前においてはトルク上昇に逆行するトルク変化は存在しない。したがって、空燃比の設定および点火角の設定は同期化されている。」

ク.「Anspruche (改行) 1.Verfahren zur Steuerung ・・・(中略)・・・ Kraftstoff variieren.」(明細書第18ページ第1行?第21ページ第3行)
(当審仮訳)「特許請求の範囲
1.駆動ユニットにより供給すべきトルクに対する目標値を設定するための手段と、
点火角および供給燃料のような駆動ユニットの出力パラメータを調節することによりこの目標値を設定するための手段と、
を備えた車両駆動出力の制御方法において、
目標トルクを設定するために、駆動ユニットに供給される空気と燃料との間の比が変化されることを特徴とする車両駆動出力の制御方法。
2.目標トルクから出発して、空気供給および/または燃料供給および/または空燃比および/または点火を制御するための対応の設定値が設定されることを特徴とする請求項1の方法。
3.点火角、燃料供給および空燃比の調節は、それらの駆動ユニットのトルクへの影響がそれぞれ、同じ吸気シリンダに対し現れるように相互に同期化されていることを特徴とする請求項1の方法。
4.燃料供給の調節が個々の特定シリンダへの燃料供給の遮断として行われることを特徴とする先行する請求項の方法。
5.空燃比の調節が調節すべき排ガス組成に対する目標値を変化させることにより行われることを特徴とする先行する請求項の方法。
6.トルクに対する目標値、エンジン回転速度およびエンジン負荷、調節された点火角ならびに調節された空燃比から出発して、まず空燃比に対する目標値、次に遮断すべきシリンダの数、次に点火角の変化量が決定され、これによりトルクに対する目標値が設定されることを特徴とする先行する請求項の方法。
7.トルクに対する目標値、エンジン回転速度およびエンジン負荷、調節された点火角ならびに調節された空燃比から出発して、まず遮断すべきシリンダの数、次に空燃比に対する目標値、次に点火角の変化量が決定され、これによりトルクに対する目標値が設定されることを特徴とする先行する請求項の方法。
8.ガソリンエンジンにおける空燃比に対する目標値の設定が噴射すべき燃料の量の修正により行われることを特徴とする先行する請求項の方法。
9.少なくとも1つの駆動車輪において許容値を超えた高い滑りが発生した場合に、駆動滑り制御のための制御装置の目標トルク値が、変速機制御ユニットによりまたはトルク、回転速度または走行速度が制限値を超えたときにこれらを制限するための装置により供給されることを特徴とする先行する請求項の方法。
10.個々のシリンダへの燃料供給の調節(シリンダ遮断)が禁止されたときに、空燃比および点火角の調節が行われることを特徴とする先行する請求項の方法。
11.駆動ユニットにより供給すべきトルクに対する目標値を設定するための手段と、
駆動ユニットの出力パラメータを調節することによりこの目標値を設定するための手段と、
を備えた車両駆動出力の制御装置において、
目標トルクを設定するために、駆動ユニットに供給される空気と燃料との間の比を変化させる手段が設けられていることを特徴とする車両駆動出力の制御装置。」

(2)ここで、上記記載事項(1)ア.ないしク.及び図面から、引用文献1に記載されたものについて、次のことが分かる。

上記ア.、イ.から、点火角等の出力パラメータを調節することにより駆動エンジンのトルクを所定の目標値に近づけるように調節するものであることが分かる。

上記ウ.、オ.から、等式(2)によって計算される「図示トルクMi」は、「実際トルク」であることがわかる。

上記イ.、ウ.、オ.、カ.及び図面から、エンジン回転速度Nmot及びエンジン負荷T1等が測定され、これらの関数として、特性曲線群を使用して、駆動エンジン10の図示トルクMiが決定されることが分かる。

上記ウ.及び図面から、関数f2の変数として、最適点火角αzoptが決定され、図示トルクMiを決定するために用いられることが分かる。

上記エ.及び図面から、関数f2の変数として、最適点火角αzoptがトルクMiaktを概算により決定するために用いられることが分かる。

上記ウ.、オ.及び図面から、エンジン回転速度Nmot、エンジン負荷T1、排ガス組成λの関数として特性曲線群から決定される最適点火角αzoptと実際に設定された点火角αzとの間の点火角差Δαzが計算されることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記記載事項(1)、(2)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「エンジン回転速度Nmotおよびエンジン負荷T1のような内燃機関の運転変数が測定され、これらの運転変数の関数として、内燃機関の所定の特性曲線群に基づき、内燃機関の図示トルクMiが決定され、
特性曲線群の変数として、そのときに内燃機関が特定の効率を有する最適点火角αzoptが決定され、前記最適点火角αzoptは、内燃機関の図示トルクMiの決定のために、内燃機関の実際点火角αz設定の関数として調節される、内燃機関の制御方法。」

第2-2.引用文献2記載の技術
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-166671号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

ア.「2.特許請求の範囲
1.排気の一部を吸気系へ再循環させる排気再循環機構を備えたエンジンにおいて、排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路途中にデューティ制御されるEGR量調整用ソレノイドバルブを設け、このEGR量調整用ソレノイドバルブへのデューティ値に応じて点火時期を調整すべく前記エンジンの点火機構を作動制御する制御手段を設けたことを特徴とするエンジンの点火時期制御装置。」(公報第1ページ左下欄第4行?第13行)

イ.「[産業上の利用分野]
この発明はエンジンの点火時期制御装置に係り、特にEGR量を無段階に変化させ、このEGR量に応じて点火時期を調整して運転性能を向上し得るエンジンの点火時期制御装置に関する。」(公報第1ページ左下欄第15行?第19行)

ウ.「[従来の技術]
エンジンにおいては、排気の一部を吸気系に再循環させて排気有害成分の低減を図る排気再循環(EGR)機構を備えている。
即ち、第6図に示す如く、エンジン202には、吸気通路204を形成する吸気管206と排気通路208を形成する排気管210とが夫々連設されている。吸気管206には、EGR弁212が付設されている。このEGR弁212と排気管210との間には、EGR通路214を形成するEGR管216が介設されている。
このEGR管216途中には、EGR用切換弁(VSV)218が介設されている。このEGR用切換弁218は、制御手段(ECU)220によって作動制御されるものである。
この制御手段220には、冷却水温度、吸気管絶対圧PM、吸気温度、スロットル開度、エンジン回転数NE等のエンジン202の運転状態が入力される。
また、制御手段220には、エンジン202に設けられてクランク角を検出するクランク角センサ222が連絡されているとともに、エンジン202の点火機構(イグナイタ)224が連絡されている。この点火機構224は、電子進角式(ESA)のものである。
この第6図において、吸気系へのEGR量の制御は、EGR弁212のオン・オフで行われている。よって、この時の点火時期は、排気の再循環が行われているか否かに拘らず、一定であったり、あるいは排気の再循環が行われているか否かによって2段階に調整される。」(公報第1ページ左下欄第20行?第2ページ左上欄第10行)

エ.「[発明の目的]
そこでこの発明の目的は、上述の不都合を除去すべく、排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路途中にデューティ制御されるEGR量調整用ソレノイドバルブを設け、EGR量調整用ソレノイドバルブへのデューティ値に応じて点火時期を調整することにより、EGR量を無段階に変化させ、このEGR量に応じて点火時期を最適に調整し、運転性能を向上するとともに、最適なエミッションを得るエンジンの点火時期制御装置を実現するにある。」(公報第2ページ左下欄第1行?第11行)

オ.「[作用]
この発明の構成によれば、制御手段がEGR量調整用ソレノイドバルブへのデューティ値に応じて点火機構を作動して点火時期を調整するので、EGR量を無段階に変化させた時に点火時期を最適にすることができ、これにより、EGR量を積極的に制御して運転性能を向上させるとともに、最適なエミッションを得る。」(公報第2ページ右下欄第2行?第9行)

カ.「[実施例]
以下図面に基づいてこの発明の実施例を詳細且つ具体的に説明する。
第1?5図は、この発明の実施例を示すものである。図において、2はエンジン、4は吸気管、6は吸気通路、8は排気管、10は排気通路である。
吸気管6と排気管8とは、排気再循環機構12を構成するEGR管14によって連結されている。
このEGR管14は、吸気通路6と排気通路10とを連通するEGR通路16を形成するものである。即ち、排気通路10にEGR通路16の始端であるEGR導入口18が開口しているとともに、吸気通路6にはEGR通路16の終端であるEGR還流口20が開口している。
このEGR通路16途中には、このEGR通路16を開閉してEGR量を調整すべく、デューティ制御されるEGR量調整用ソレノイドバルブ22が介設される。
このEGR量調整用ソレノイドバルブ22は、制御手段(ECU)24によってデューティ制御され、つまり、EGRデューティ0%(全閉)からEGRデューティ100%(全開)の間で作動される。これにより、EGR通路16からのEGR量は、無段階に制御される。
この制御手段24には、冷却水温度、吸気管絶対圧PM、吸気温度、スロットル開度、エンジン回転数NE等が入力されるとともに、エンジン2に付設されたクランク角センサ26からクランク角が入力される。
また、この制御手段24は、EGR量調整用ソレノイドバルブ22へのデューティ値に応じて点火時期を調整すべくエンジン2の点火機構28を作動制御するものである。
即ち、制御手段24は、EGRデューティ0%(EGRがオフ)の時の点火時期マップ(第4図参照)と、EGRデューティ100%(EGRがオン)の時の点火時期マップ(第5図参照)とを有している。これら第4、5図における点火時期マップは、例えば、エンジン回転数NEの吸気管絶対圧PMとで決定されている。従って、EGRデューティ100%の方が、点火時期を進角したマップになっているはずである。
一方、ある格子点において、例えば、EGRデューティ0%の時に、点火時期が20°BTDCで、EGRデューティ100%の時に点火時期が40°BTDCとする。
そして、この格子点で車両が走行する場合に、EGRデューティ値が変化した時の点火時期制御は、第3図の点火時期マップによって決定される。
即ち、EGRデューティが0%、100%以外の場合は、この第3図によって補間をする。従って、EGR量を無段階に変化させた場合に、第3、4、5図の点火時期マップで決定される点火時期によって、最適な点火時期を得るものである。」(公報第2ページ右下欄第10行?第3ページ左下欄第4行)

キ.「次に、この実施例の作用を、第2図のフローチャートに基づいて説明する。
制御手段24において、プログラムがスタート(ステップ102)すると、先ず、エンジン回転数NE、吸気管絶対圧PM、スロットル開度、冷却水温度等を入力し(ステップ104)、そして、これらの値からEGR量調整用ソレノイドバルブ22へのデューティ値を演算する(ステップ106)。
次いで、制御手段24は、演算されたデューティ値によって、EGR量調整用ソレノイドバルブ22を作動制御する(ステップ108)。
また、制御手段24は、算出されたデューティ値に基づいて点火機構28を第3?5図の点火時期マップによって決定される点火時期で作動制御する。即ち、EGRデューティが0%の場合に、第4図における点火時期マップによって決定された点火時期で点火機構28を作動し、EGRデューティが100%の場合には、第5図における点火時期マップによって決定された点火時期で点火機構28を作動し、EGRデューティが0%、100%以外の場合には、第3図の点火時期マップによって決定された点火時期で点火機構28を作動する(ステップ110)。
この結果、EGR量調整用ソレノイドバルブ22を制御手段24でデューティ制御するので、EGR量を無段階に変化させるとともに、このEGR量調整用ソレノイドバルブ22へのデューティ値によって点火時期を最適に調整するので、運転性能を向上するとともに、最適なエミッションとすることができる。
また、EGR量によって点火時期が変化するので、EGR量を積極的に変化させ(または、EGRをオフさせ)、運転性能の向上を図ることができる。
更に、第4、5図の点火時期マップは、例えばエンジン回転数(NE)×吸気管絶対圧(PM)の2次元マップを有するだけで、エンジン回転数NE×吸気管絶対圧PM×EGRデューティ値の3次元マップを不要とするので、制御手段24を簡単なものとし、制御手段24の容量の削減を図り得る。」(公報第3ページ左下欄第5行?第4ページ左上欄第6行)

ク.「[発明の効果]
以上詳細な説明から明らかなようにこの発明によれば、排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路途中にデューティ制御されるEGR量調整用ソレノイドバルブを設け、EGR量調整用ソレノイドバルブへのデューティ値に応じて点火時期を調整すべくエンジンの点火機構を作動制御する制御手段を設けたことにより、EGR量を無段階に変化させるとともに、EGR量調整用ソレノイドへのデューティ値に応じて点火時期を最適に調整することができ、これにより、EGR量を積極的に制御して運転性能の向上を図るとともに、最適なエミッシヨンを得る。」(公報第4ページ左上欄第7行?第19行)

ケ.「4.図面の簡単な説明
第1?5図はこの発明の実施例を示し、第1図はエンジンの点火時期制御装置のシステム構成図、第2図はこの実施例の作用を説明するフローチャート、第3図はEGRデューティ値が0%、100%以外における点火時期マップの説明図、第4図はEGRデューティ値が0%における点火時期マップの説明図、第5図はEGRデューティ値が100%における点火時期マップの説明図である。
第6図は従来における点火時期制御装置のシステム構成図である。
図において、2は内燃機関、6は吸気通路、10は排気通路、16はEGR通路、22はEGR量調整用ソレノイドバルブ、24は制御手段、そして28は点火機構である。」(公報第4ページ左上欄第20行?右上欄第15行)

(2)ここで、上記記載事項(1)ア.ないしケ.及び図面から、引用文献2に記載されたものについて、次のことが分かる。

排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路途中にデューティ制御されるEGR量調整用ソレノイドバルブを設け、EGR量調整用ソレノイドバルブへのデューティ値に応じて点火時期を調整することにより、EGR量を無段階に変化させ、このEGR量に応じて点火時期を最適に調整し、運転性能を向上するとともに、最適なエミッションを得ることが分かる。

(3)引用文献2記載の技術
上記記載事項(1)、(2)より、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されていると認められる。
「内燃機関の制御において、排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路途中にデューティ制御されるEGR量調整用ソレノイドバルブを設け、EGR量調整用ソレノイドバルブへのデューティ値に応じて点火時期を調整することにより、EGR量を無段階に変化させ、このEGR量に応じて点火時期を最適に調整し、運転性能を向上するとともに、最適なエミッションを得るエンジンの点火時期制御技術」。

第3.本願発明と引用文献1記載の発明との対比
本願発明と引用文献記載1の発明を対比すると、引用文献1記載の発明における「エンジン回転速度Nmot」、「エンジン負荷T1」、「特性曲線(群)」が、その機能からみて、それぞれ、本願発明の「エンジン回転速度(Nmot)」、「エンジン負荷(TL)」、「トルク・モデル」に相当する。同様に、引用文献1記載の発明における「図示トルク」、「最適点火角」、「実際の点火角」、「調節される」が、それぞれ、本願発明の「実際トルク」、「最適点火角値」、「実際点火角」、「補正して評価される」に相当する。

そうすると、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「エンジン回転速度(Nmot)およびエンジン負荷(TL)のような内燃機関の運転変数が測定され、これらの運転変数の関数として、内燃機関の所定のトルク・モデルに基づき、内燃機関の実際トルクが決定され、
トルク・モデルの変数として、そのときに内燃機関が特定の効率を有する最適点火角値が決定され、前記最適点火角値は、内燃機関の実際トルクの決定のために、内燃機関の実際点火角αz設定の関数として補正して評価される、内燃機関の制御方法。」で一致し、次の点において相違している。

(1)[相違点1]
本願発明においては、「内燃機関の所定のトルク・モデルに基づき、内燃機関の実際トルクが決定され」の代わりに、「所定の目標トルクが内燃機関の少なくとも1つの制御変数に変換され、あるいは内燃機関の実際トルクが決定され、かつ所定の目標トルクが内燃機関の少なくとも1つの制御変数に変換され」てもよいとしているのに対し、引用文献1記載の発明は、その点が明らかでないこと。

(2)[相違点2]
本願発明においては、「前記最適点火角値は、内燃機関の実際トルクの決定のために」内燃機関の実際点火角設定の関数として補正されて評価される代わりに、「目標トルクの変換のために、あるいはこれら両方のために」内燃機関の実際点火角設定の関数として補正されて評価されてもよいとしているのに対し、引用文献1記載の発明は、その点が明らかでないこと。

(3)[相違点3]
本願発明においては、「最適点火角値(ZWopt)の補正値の形成が、エンジン温度(Tmot)、吸気温度(Tans)、排気ガス戻し率の値および弁の重なり角(wnwue)のうちの1つ、またはこれらの任意の組み合わせの関数として行われる」のに対し、引用文献1記載の発明は、その点が明らかでないこと。

第4.当審の判断
(1)まず、上記[相違点1]について検討する。
本願発明において、「内燃機関の所定のトルク・モデルに基づき、内燃機関の実際トルクが決定され」ることと、「所定の目標トルクが内燃機関の少なくとも1つの制御変数に変換され」ることと、「内燃機関の実際トルクが決定され、かつ所定の目標トルクが内燃機関の少なくとも1つの制御変数に変換され」ることとが、選択的事項となっており、そのうち、少なくとも、「内燃機関の所定のトルク・モデルに基づき、内燃機関の実際トルクが決定され」るものは引用文献1記載の発明と一致しているから、両者の相違点は、実質的なものではない。

(2)次に、上記[相違点2]について検討する。
本願発明において、「内燃機関の実際トルクの決定のために」、「目標トルクの変換のために」、「これら両方のために」が、選択的事項となっており、そのうち、少なくとも「内燃機関の実際トルクの決定のために」行うものは引用文献1記載の発明と一致しているから、両者の相違点は、実質的なものではない。

(3)次に、上記[相違点3]について検討する。
前記第2-2(3)のとおり、引用文献2には、「内燃機関の制御において、排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路途中にデューティ制御されるEGR量調整用ソレノイドバルブを設け、EGR量調整用ソレノイドバルブへのデューティ値に応じて点火時期を調整することにより、EGR量を無段階に変化させ、このEGR量に応じて点火時期を最適に調整し、運転性能を向上するとともに、最適なエミッションを得るエンジンの点火時期制御技術」が記載されており、この「EGR量」は、実質的に、本願発明の「排気ガス戻し率」に相当するものである。
そして、排気再循環(EGR)機構(本願発明の「排気ガス戻し」に相当)を設けた内燃機関においては、点火時期を調整する(本願発明の「最適点火時期を補正する」に相当)にあたって、このように、EGR量(率)を考慮することは、当業者にとって技術常識(引用文献2のほかにも、たとえば特開昭59-126041号公報参照)である。
また、それ以外にも、エンジンの効率が最大となる点火時期を吸気温度等で補正を行う技術は、従来周知(例、特公平6-100171号公報の第8欄第16行?第19行参照。以下、「周知技術」という。)である。
したがって、上記引用文献1記載の発明における「最適点火角値の補正値の形成」において、上記引用文献2記載の技術ないし上記周知技術を適用して、上記[相違点3]に係る本願発明の構成とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。


なお、本願発明を全体として検討しても、上記引用文献1記載の発明及び上記引用文献2記載の技術ないし上記周知技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。


第5.むすび
したがって、本願発明は、上記引用文献1記載の発明及び上記引用文献2記載の技術ないし上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-24 
結審通知日 2008-06-25 
審決日 2008-07-08 
出願番号 特願平9-520838
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 一郎佐々木 芳枝  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 金澤 俊郎
森藤 淳志
発明の名称 内燃機関の制御方法および装置  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 社本 一夫  
代理人 千葉 昭男  
代理人 増井 忠弐  

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