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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F |
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管理番号 | 1188221 |
審判番号 | 不服2006-19098 |
総通号数 | 109 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-08-31 |
確定日 | 2008-11-20 |
事件の表示 | 平成11年特許願第 12301号「生体親和性に優れた骨代替材料」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月 2日出願公開、特開2000-210313号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年1月20日の出願であって、平成18年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年10月2日付けで明細書について手続補正がなされたものである。 2.平成18年10月2日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年10月2日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 平成18年10月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、 「チタン或いはチタン合金製の基材表面であって生体組織との結合面に、根元径が平均40?300μmの凸部が多数形成されて、該結合面が凹凸状である骨代替材料において、 前記凸部から凹部にかけて表面が深さ方向に0.5?2μmの厚みをもって酸素濃度35原子%以上のアルカリチタン酸塩層に変化しており、前記凸部の芯部分がチタン或いはチタン合金製の基材材料のままであることを特徴とする生体親和性に優れた骨代替材料。」と補正された。(下線部は補正箇所を示す。) 上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「凸部」について、「根元径が平均」「300μm」以内の「凸部が多数形成されて」、及び、「凸部の芯部分がチタン或いはチタン合金製の基材材料のまま」との限定を付加し、発明特定事項である「アルカリチタン酸塩層」について、「凸部から凹部にかけて表面が深さ方向に」「変化しており」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特許第2775523号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「チタンTi又はチタンTi合金よりなる基体と、基体の表面に形成された酸化チタン相及びアルカリチタン酸塩の非晶質相を含む被膜とからなる骨修復材料。」(特許請求の範囲、請求項1) (イ)「第一の被膜の厚さが0.1?10μmである請求の範囲第1項?第3項のいずれかに記載の骨修復材料」(特許請求の範囲、請求項4) (ウ)「技術分野 この発明は、骨代替材料とその製造方法に関する。この骨代替材料は、大腿骨、股関節、歯根等のように大きな荷重の加わる部分の修復材料として好適に利用され得る。」(第2頁3欄8行?12行) (エ)「背景技術 人工材料が生体内で骨と結合する生体活性を示すための条件は、生体内でその表面に骨の無機物質と同種のアパタイトの相を形成することであると考えられている。・・・(中略)・・・現在、それらの代替材料としては、金属材料中で最も優れた生体親和性を示すチタン及びその合金が使われている。しかし、これら金属材料は、大きな破壊靭性を持つが、骨と直接結合するのに10年程度の長期間を要する。・・・(中略)・・・本発明の目的は、このような従来の課題を解決し、チタンの破壊靭性とアパタイトの生体活性とを兼備し、しかもチタンとアパタイトが強固に接着した骨修復材料を安価に提供することにある。」(第2頁3欄13行?49行) (オ)「本発明の骨修復材料は、チタンTi又はチタンTi合金よりなる基体と、基体の表面に形成された酸化チタン相及びアルカリチタン酸塩の非晶質相を含む被膜(第一被膜)とを備えたものとする。基体としては、生体親和性の点では純Tiが良いが、成形性の点ではTi-6Al-4V、Ti-5Al-2.5Sn、Ti-3Al-13V-11Cr、Ti-15Mo-5Nb-3Ta、Ti-6Al-2Mo-Taのような合金が良い。 また、第一被膜の上に更にアパタイトを主成分とする第二の被膜が形成されたものでもよい。 第一被膜は、酸化チタン相の濃度が外表面に向かって漸減しており、アルカリイオンの合計濃度が外表面に向かって漸増しているものであると、望ましい。・・・(中略)・・・上記のような骨代替材料を製造する好適な製造方法は、チタンTi又はチタンTi合金よりなる基体をアルカリ液中に浸漬した後、基体をチタンTi又はチタンTi合金の転移温度以下の温度に加熱することを特徴とする。浸漬と加熱とを同時進行させるために、浸漬中に加圧下で加熱してもよい。また、加熱処理に続いて、アパタイトの溶解度以上のカルシウムCaとリンPを含む水溶液中、例えば擬似体液中に浸漬してもよい。 ここで、アルカリ液とは、望ましくはナトリウムNa+イオン、カリウムK+イオン及びカルシウムCa2+イオンのうち1種以上を含む水溶液である。アルカリ液の好ましい濃度、温度及び反応時間は、それぞれ2?10モル、40?70℃及び1?24時間である。 加熱温度は、300?800℃、特に550?650℃が望ましい。」(第2頁4欄1行?31行) (カ)「従って、チタンTi又はチタンTi合金よりなる基体をアルカリ液中に浸漬すると、反応量の少ない内部から反応量の多い外部に向かって漸増する濃度勾配をもって、基体表面に非晶質のアルカリチタン酸塩が生成する。その後、基体をチタンTi又はチタンTi合金の転移温度以下の温度に1?24時間加熱することによって、酸素が拡散して上記の生成相の厚さが増加する。 こうして基体の表面に酸化チタン相及び非晶質のアルカリチタン酸塩相よりなる被膜が形成される。しかも上記のように中間工程で生成されるアルカリチタン酸塩が、被膜の厚さ方向に外部に向かって漸増する緩やかな濃度勾配をもっていることから、この化合物の出発物質となる酸化チタン相は、外部に向かって漸減し、他方、生成物質となる非晶質のアルカリチタン酸塩相に含まれるアルカリイオン(Na+、K+、Ca2+等)の合計濃度は、外部に向かって漸増する。このように緩やかな勾配で濃度が変化しているから、基体と被膜との界面並びに被膜内の各々の相間の界面は、強固に接着している。この点、基体を別途調製したチタニアゲルに浸漬すると、Ti表面に骨と結合し易いゲルが生成するが、Tiとゲル層との結合力が弱く剥離し易いのと相違する。しかも最外表面は、アルカリイオンに富んでいるので、擬似体液又は体液中で、そのアルカリイオンが水素イオンと交換され、カルシウムCaやリンPと反応し易い水酸化チタン相が生成される。 一方、アパタイトの溶解度以上のカルシウムCaとリンPを含む水溶液及び体液は、アパタイトを生成する成分をアパタイトの溶解度以上に含んでいるので、アパタイト結晶を成長させる能力を有しているが、結晶核生成のための活性化エネルギーが高いので、それが障壁となって単独ではアパタイト核を形成する能力に欠ける。これに対し、酸化チタンが水和してなる非晶質の水酸化チタン相は、非晶質であるから反応性に富む。従って、それが体液中の骨形成成分と反応してアパタイト核を形成する。また、加熱処理に続いてアパタイトの溶解度以上のカルシウムCaやリンPを含む水溶液中、望ましくは擬似体液中に浸漬して予めアパタイト核を形成してもよい。特に体液に近いイオン濃度を有する擬似体液で処理されたものは、表面に形成されるアパタイトの組成及び構造が、骨のアパタイトの組成及び構造に近似しているので、骨と結合し易いからである。」(第2頁4欄35行?3頁第5欄25行) (キ)「表1にみられるように、400?600℃で加熱したTi金属板の表面には、酸化チタン相(ルチル型、アナターゼ型)及びアルカリチタン酸塩の非晶質相が形成されていた。800℃で加熱したTi金属板の表面には、アルカリチタン酸塩の非晶質相が消失し、代わりにNa_(2)Ti_(5)O_(11)結晶相が確認された。」(第3頁第6欄25行?42行) 上記記載事項を総合すると、引用例には、 「チタンTi又はチタンTi合金の基体からなる骨修復材料において、 基体の表面に0.1?10μmの厚みをもったアルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))の被膜を形成した骨修復材料。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者における「チタンTi」が、その機能・構造等からみて前者における「チタン」に相当し、以下同様に、「チタンTi合金」が「チタン合金」に、「基体」が「基材」に、「基体の表面」が「基材表面」に、「アルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))の被膜」が「アルカリチタン酸塩層」にそれぞれ相当している。 また、上記記載事項(ウ)からみて、引用発明の「骨修復材料」は、「大腿骨、股関節、歯根等のように大きな荷重の加わる部分の修復材料として好適に利用され」るものであるから、引用発明の「骨修復材料」は本願補正発明の「骨代替材料」に相当している。 また、上記記載事項(エ)からみて、引用発明の「骨修復材料」は、生体内で骨と結合させる人工材料として「金属材料中で最も優れた生体親和性を示すチタン及びその合金」を用いるものであり、「チタン及びその合金」からな「骨修復材料」と骨と結合するために、「骨修復材料」の表面にアパタイトの相を形成するものといえる。 そして、「骨修復材料」の表面に凹凸を形成することが、生体の骨との強固な結合を図るうえで技術常識であることを考慮すると、引用例に接した当業者ならば、引用発明の「骨修復材料」の表面にも当然、凹凸が形成されていると理解するはずである。 したがって、引用発明の「チタンTi又はチタンTi合金よりなる基体からなる骨修復材料」の「基体の表面」は、本願補正発明の「チタン或いはチタン合金製の基材表面」であって、「凸部が多数形成され」た「凹凸状」の形状であるといえる。 また、上記記載事項(エ)ないし(キ)からみて、引用発明は、「金属材料中で最も優れた生体親和性を示すチタン及びその合金」を基体として用い、「チタンの破壊靭性とアパタイトの生体活性とを兼備し、しかもチタンとアパタイトが強固に接着した骨修復材料を安価に提供する」ために、該基体を「アルカリ液中に浸漬した後、基体をチタンTi又はチタンTi合金の転移温度以下の温度に加熱する」ことで「基体の表面に0.1?10μmの厚みをもったアルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))の被膜」を形成しているから、引用発明の「アルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))」からなる被膜は、本願発明の「酸素濃度35原子%以上のアルカリチタン酸塩層」に相当するといえる。 そして、引用発明の「アルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))」からなる被膜は、「中間工程で生成されるアルカリチタン酸塩が、被膜の厚さ方向に外部に向かって漸増する緩やかな濃度勾配をもっていることから、この化合物の出発物質となる酸化チタン相は、外部に向かって漸減し、他方、生成物質となる非晶質のアルカリチタン酸塩相に含まれるアルカリイオン(Na+、K+、Ca2+等)の合計濃度は、外部に向かって漸増」(上記記載事項(カ)参照)し、「400?600℃で加熱したTi金属板の表面には、酸化チタン相(ルチル型、アナターゼ型)及びアルカリチタン酸塩の非晶質相が形成されていた。800℃で加熱したTi金属板の表面には、アルカリチタン酸塩の非晶質相が消失し、代わりにNa_(2)Ti_(5)O_(11)結晶相が確認され」(上記記載事項(キ)参照)るものであるから、引用発明の「基体の表面に0.1?10μmの厚みをもったアルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))の被膜を形成した」点は、本願補正発明の「凸部から凹部にかけて表面が深さ方向に0.5?2μmの厚みをもって酸素濃度35原子%以上のアルカリチタン酸塩層に変化して」いる点に相当している。 また、引用発明の前記「基体の表面に0.1?10μmの厚みをもったアルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))の被膜」は、「アルカリイオンに富んでいるので、擬似体液又は体液中で、そのアルカリイオンが水素イオンと交換され、カルシウムCaやリンPと反応し易い水酸化チタン相が生成」されて、基体の表面に骨の無機質と同質のアパタイトの形成が促されるもの(上記記載事項(カ)参照)といえるから、生体親和性に優れていることも明らかである。 したがって、両者は、 「チタン或いはチタン合金製の基材表面であって生体組織との結合面に、凸部が多数形成されて、該結合面が凹凸状である骨代替材料において、 前記凸部から凹部にかけて表面が深さ方向に0.5?2μmの厚みをもって酸素濃度35原子%以上のアルカリチタン酸塩層に変化している生体親和性に優れた骨代替材料。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点]本願補正発明の基材表面に多数形成される凸部は、根元径が平均40?300μmであり、凸部の芯部分がチタン或いはチタン合金製の基材材料のままであるのに対し、引用発明の凸部はそのような構成であるか否か不明な点。 (4)判断 そこで上記相違点について検討する。 引用発明において、基体の生体組織との結合面に形成された凹凸を、上記「アルカリチタン酸塩(Na_(2)Ti_(5)O_(11))」で被膜する際に、凹凸の形状が被膜によって平坦化しないようにすることは、「骨修復材料」と生体の骨との結合を強固にするために当業者であれば当然に考慮する事項である。 しかも、「骨修復材料」の表面に形成される凹凸形状に倣って生体組織と親和性の高い被膜を形成することは、従来周知(例えば、特開平2-257947号公報、第2頁右下欄1行?20行、第3頁左下欄5行?右下欄1行、第1図参照)である。 そうすると、引用発明において、基体の生体組織との結合面に形成された凹凸に上記周知の技術を適用して、その凹凸の形状に倣って被膜を形成し、凸部の芯部分がチタン或いはチタン合金製の基材材料のままであるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際、生体と骨のとの結合の程度を考慮して、凸部の根元径を平均40?300μm程度とすることは、当業者が適宜になし得る設計的な事項の範疇にすぎない。 そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記結論のとおり決定する。 3.本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年5月1日付け手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「チタン或いはチタン合金製の基材表面であって生体組織との結合面に凹凸が形成された骨代替材料において、 前記凹凸は、その最表面に酸素濃度35原子%以上のアルカリチタン酸塩層が0.5?2μmの深さで形成され、該凹凸の凸部根元径が平均40μm以上であることを特徴とする生体親和性に優れた骨代替材料。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「凸部」についての限定事項である「根元径が平均」「300μm」以内の「凸部が多数形成されて」、及び、「凸部の芯部分がチタン或いはチタン合金製の基材材料のまま」を省き、「アルカリチタン酸塩層」についての限定事項である「凸部から凹部にかけて表面が深さ方向に」「変化しており」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)及び(4)」で検討したように、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-22 |
結審通知日 | 2008-09-24 |
審決日 | 2008-10-09 |
出願番号 | 特願平11-12301 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北村 英隆 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
仲村 靖 豊永 茂弘 |
発明の名称 | 生体親和性に優れた骨代替材料 |
代理人 | 二口 治 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 伊藤 浩彰 |
代理人 | 菅河 忠志 |