• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06M
管理番号 1188258
審判番号 不服2006-4068  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-06 
確定日 2008-11-05 
事件の表示 平成8年特許願第517262号「毛玉形成しにくい性質を有する編織布を得る方法」拒絶査定不服審判事件〔平成8年6月13日国際公開、WO96/17994、平成10年9月22日国内公表、特表平10-509776〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1995年12月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1994年12月5日(DK)デンマーク国)を国際出願日とする出願であって、平成17年4月8日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年3月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?16に係る発明は、平成17年10月19日付けの手続補正書により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「著しく毛玉形成しにくい性質を有するセルロース繊維布帛を得る方法であって、該方法が、セルロース繊維含有編織布を、未処理セルロース編織布基準で2w/w%未満の重量損失に相当する繊維表面の部分加水分解を形成することのできるセルラーゼ(セルロース分解酵素)で処理することを含んでなり、ここで当該セルラーゼがフミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼの変異体であり、当該変異体が
(a) 位置8,55,58,62,67,132,147,162,221,222,223の1又はそれ以上において、1個又はそれ以上のアミノ酸残基の置換により修飾されているか;又は
(b) 位置213からの任意の位置でトランケーションされている、
前記方法。」
(以下、この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶の理由
本願発明についての原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1(国際公開第94/12578号パンフレット)及び刊行物2(国際公開第94/07998号パンフレット)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 刊行物及びその記載事項
原査定における拒絶の理由において引用された刊行物1(国際公開第94/12578号パンフレット)及び刊行物2(国際公開第94/7998号パンフレット)並びに原査定における拒絶の理由のなお書きで言及された「WO 91/17243 A」(注.「国際公開第91/17243号パンフレット」と同義。)には、以下の事項が記載されている。(以下、訳は当審による。)
1 刊行物1(国際公開第94/12578号パンフレット)
(1-a) 「要約 本発明は布帛湿潤性の損失なしで、感触と外観に関し布帛の品質を改善する観点からのセルロース布帛の改善されたセルラーゼ処理に関する。セルロース布帛はセルラーゼによる2度の処理を受ける。得られる布帛は、柔軟かつ平滑で、毛玉形成(pilling)が減少している。」(表紙、下から4?1行)
(1-b) 「布帛表面のセルラーゼ処理は、布帛湿潤性の損失なしで感触と外観に関し布帛の品質を改善する。最大の重要な効果は、より減少した毛羽立ちと毛玉形成(pilling)、増加した光沢/つや、改善された布帛の手触り、増加した耐久性のある柔軟性及び改善された水分吸収性である。これらの効果は、バイオポリッシング効果と呼ばれる。」(1頁30行?2頁2行)
(1-c) 「本発明は、改善されたバイオポリッシング効果を達成するため、セルロース布帛を多段工程で処理することに関するものである。」(2頁12?13行)
(1-d) 「最初の酵素的処理は、セルロース布帛重量の約0.05?約10.0%、好ましくは約0.5?約8.0%、そして最も好ましくは約1.0?約5.0%の重量損失を生じさせるべきである。」(2頁21?23行)
(1-e) 「本発明の製造方法において、布帛の最初のセルラーゼ処理に続き、第二のセルラーゼ処理が行なわれる。第二の酵素による処理は、最初の処理後セルラーゼ布帛の重量の約0.05?約10.0%、好ましくは約0.05?約5.0%、より好ましくは約0.1?約2.5%そして最も好ましくは約0.2?約2.0%の、最初の処理後における重量損失を生ぜしめるべきである。」(4頁3?8行)
(1-f) 「セルラーゼは、酵素をエンコードするDNA配列を適当な発現ベクターに挿入することにより組換DNA工学によって得ることができる。多様の宿主-ベクター系は、酵素をエンコードするDNA配列を発現するために使用されてもよい。
商業的に入手できるセルラーゼ製品には、デンマークのノボ ノルディスクA/Sより提供されているCellusoft L(商標)及びDenimax L(商標)が含まれる。Cellusoft L(商標)及びDenimax L(商標)は、それぞれ、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)及びフミコラ インソレンス(Humicola insolens)に由来するセルラーゼを含有する。
本発明に係るプロセスにおいて使用できる他のセルラーゼは、エンドグルカナーゼである。使用できる特定のエンドグルカナーゼは、フミコラ インソレンス(Humicola insolens)に由来する高精製エンドグルカナーゼを含んでなるセルラーゼ調製品であって、DSM 1800は、ブタベスト条約の規則に従い、1981年10月1日にドイッシェザンムルグ フォン ミクロオルガニッシュン、マッシエル ベーク1B D-3300 ブラウンシェベーグ、ドイツ連邦共和国、に寄託された。このセルラーゼ調製品は、公開されたPCT出願である WO 91/17243に記載されており、これを引用して本明細書に組み込むことにする。そこで述べられているように、高精製エンドグルカナーゼの分子量は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定すると約43kDであり、そして等電点はマーカー蛋白質を用いた等電点電気泳動により測定すると約5.1である。」(5頁23行?6頁7行)
(1-g) 「驚くべきことに、本発明方法により、単一の酵素用量よりも更に多くの毛玉形成(pilling)の減少が得られる。」(6頁27?28行)
(1-h) 「実施例
30×30cmのタオルのサンプルを2回洗い、次いでタンブラー中で乾燥した。
タオルの重量を乾燥後に測定した。
大部分のタオルを3種のセルラーゼ調製品、すなわち、Cellusoft L(商標)、Denimax L(商標)、及び公開されたPCT出願である WO 91/17243に記載されているセルラーゼ調製品(以後、『エンドグルカナーゼ』という。)で処理した。セルラーゼ調製品を単一用量、又は表1に示される二工程セルラーゼ処理の第一の用量でタオルに適用した。
・・・(中略)・・・
前記実験を2回行った。2回の実験における、セルラーゼ処理タオルを用いた%単位での平均重量損失(3頁上で定義されたもの。)を table 3 に示す。
(table 3 省略)
結果は、同じ合計用量のセルラーゼが適用された場合には、単一用量処理よりも、二工程セルラーゼ処理の方が著しく高い重量損失が得られることを示す。したがって、二工程セルラーゼ処理で処理されたセルロース布帛は、著しく少ない毛玉形成(pilling)と毛羽立ちを有するであろう。
更に、この結果は、本発明に係る二工程セルラーゼ処理が、より低い合計用量のセルラーゼを用いることにより、単一用量を用いた場合と同じ効果を奏することができることを示している。したがって、本発明に係るプロセスは、単一用量処理より、費用効率が優れている。」(7頁9行?9頁16行)
(1-i) 「1.以下の工程を含む、セルロース布帛の処理方法。
(a) 布帛重量の約0.05?約10.0%の重量損失を達成するため、セルラーゼを用いたセルロース布帛の第一の処理;
(b)工程(a)の後、布帛重量の約0.05?約10.0%の重量損失を達成するため、セルラーゼを用いたセルロース布帛の第二の処理。」(10頁、請求の範囲、請求項1)
(1-j) 「10.第1のセルラーゼ及び/又は第2のセルラーゼがエンドグルカナーゼである、請求の範囲1記載の方法。
11..エンドグルカナーゼが、フミコラ インソレンス(Humicola insolens),DSM 1800に由来する、請求の範囲10記載の方法。」(11頁、請求の範囲、請求項10及び11)

2 刊行物2(国際公開第94/07998号パンフレット)
(2-a) 「要約 例えばフミコラ インソレンス(Humicola insolens)43kDエンドグルカナーゼのような45族に分類される親セルラーゼの変異体は、セルロース結合領域(CBD)、触媒活性領域(CAD)及びセルロース結合領域と触媒活性領域とを連結する領域(連結領域)を含んでおり、その中の、CBD,CAD 又は連結領域で、1個又は複数のアミノ酸残基が欠失しているか、1個又は複数のアミノ酸残基により置換されているか、及び/又は1個又は複数のアミノ酸が連結領域に加えられているか、及び/又はもう一つのCBD が触媒活性領域の反対末端に付加されたものであり、これは、例えばアルカリ活性、洗剤組成物成分との適合性、微粒状の土の除去、色彩明澄性、毛羽立ち除去、毛玉形成除去(depilling)、ごわつきの軽減並びにアニオン界面活性剤及びペルオキシダーゼ漂白系に対する感受性について向上した特性を有し、そして、例えば、繊維処理のための洗剤組成中において、製紙用パルプ加工のため、動物の飼料及びジーンズのストーン洗浄に対して有用である。」(表紙、下から9?1行)
(2-b) 「多様な酵素系において単一成分の製造を最適化すること、及び、それゆえ、工業的にみて費用効率が優れたセルロース分解酵素を得ることは困難であり、そしてそれらの実用化は、所望の効果を達成するため、かなり多量の酵素を用いる必要から生じる困難性により妨げられてきた。
以上に示したようなセルロース分解酵素の欠点は、高い特別の活性のために選ばれた単一成分酵素の利用により救済できるかもしれない。」(1頁28?末行)
(2-c) 「更に、本発明のセルラーゼ変異体は、洗剤組成物中で用いられると、微粒状の土の除去、色彩明澄化、毛羽立ち除去、毛玉形成除去(depilling)、ごわつきの軽減を示し、そして本発明のセルラーゼ変異体は、アニオン界面活性剤に対する感受性の減少と、酸化又はペルオキシダーゼ漂白系の存在に対する感受性の減少を示す。」(2頁30?末行)
(2-d) 「本発明の更に他の面において、触媒活性領域(CAD)を含んでなる親セルラーゼのセルラーゼ変異体が提供され、これは触媒的に活性な部位を含有する伸張裂部、セルラーゼ分子の表面から該伸張裂部に至る少なくとも1個の経路、活性部位の少なくとも1個のアミノ酸残基の近くで正に荷電した表面領域、及び所望によりトンネルを形成するため触媒的に活性な部位上で閉じることのできる柔軟な表面ループ領域を含んでなり、ここにおいて、基質は開裂され、そしてそこでセルラーゼ変異体の酵素活性を改質するため、好ましくはアルカリ条件下において、当該伸張裂部、経路又は表面領域の1個又は複数のアミノ酸残基は1個又は複数の他のアミノ酸残基により置換されている。」(4頁19?32行)
(2-f) 「本文中、語句『セルロース結合領域』(以下、『CBD』と略す)は、セルロース基質に対してセルラーゼ変異体の結合を行なわしめることのできるアミノ酸配列(・・・)を示すことを意図している。
語句『触媒活性領域』(以下、『CAD』と略す)は、酵素の触媒部位を含む、酵素の中核領域を示すことを意図している(・・・)。
語句、『連結領域』は、CBD を結びつけそしてそれを酵素のCADに結合させる領域を示すことを意図している。」(8頁7?26行)
(2-g) 「親セルラーゼは好ましくは微生物セルラーゼである。・・・好ましくは、親セルラーゼは45族に分類される酵素、例えば、ヘンリサット,Bら,Biochem.J.(1993), 293,p.781-788に記載されている、酵素EG B(シュードモナス フルオレセンス)及びEG V(フミコラ インソレンス(Humicola insolens)から選ばれる。
特に好ましいセルラーゼは、フミコラ インソレンス(Humicola insolens)菌に由来するセルラーゼであり、例えばH.インソレンス エンドグルカナーゼ、特に WO 91/17243 に記載されているような、H.インソレンス 43kDエンドグルカナーゼ又はその相同体である。」(9頁15?35行)
(2-h) 「変異体 H.インソレンス 43kDエンドグルカナーゼ又は相同性セルラーゼの一態様として、該親タンパク質の表面構造は、上述した領域VIII-Xの1個又は複数領域において、相同性セルラーゼはそれに対応する領域において、又は位置37,62,63,78,118,158,163,179,186 又は196 において、1個又は複数のアミノ酸基により置換することによって改質され得ると期待される。
この態様において、1個又はそれ以上のアミノ酸残基は位置37,62,63,78,118,129,131,133,136,142,146,158,163,175,176,179,186又は196の1個又は複数において置換され得る。
更に具体的には、1個又は複数のアミノ酸残基は以下のように置換され得る。
R37N,S,A
W62E,F
A63D,T,R
A78D
N118D
V129D,T,S
I131L,V,T,N,Q,H,G
D133Q
T136D
L142D,T,S
R146E,Q,S
R158D
L163N
N176D
N179D
N186D
R196D.
別法として、1個又は複数のアミノ酸は以下のように置換され得る。
A78P
A162P
K175G,S」(24頁35行?26頁3行)
(2-i) 「例1
残留活性に関する連結領域中の変異の効果
・・・(中略)・・・
本発明に係る次のセルラーゼ変異体を残留活性に対して試験した:
変異体 I: V221S+N222S+Q223T
変異体 II: V240P+Q241P
WO 91/17243 に記載されたH.インソレンス 43kDエンドグルカナーゼを対照(親)セルラーゼとして用いた。」(40頁17?22行)
(2-j) 「例 5
非晶質セルロースに対する、アルカリ性におけるセルラーゼ活性の測定
・・・(中略)・・・
次の結果を43kDセルラーゼ及び変異体 A162P 及びW62P についてそれぞれ得た:
pH8.5 でのKcat(毎秒) pH10でのKcat(毎秒)
43 kD 57 25
A162P 64 36
W62E 41 31
表に示されるように、両置換は、アルカリ条件下(pH10.0)における基質無定形アビセルに対する触媒活性を高めた。」(52頁1行?55頁25行)
(2-k) 「1.セルロース結合領域(CBD) 、触媒活性領域(CAD)及びセルロース結合領域と触媒的に活性な領域を連結する領域(連結領域)を含んでなる親セルラーゼのセルラーゼ変異体であって、セルラーゼ変異体の性質を向上させるため、CBD,CAD又は連結領域の1個又は複数のアミノ酸残基が欠失されているか、又は1種又は複数のアミノ酸残基により置換されているか、及び/または1個又は複数のアミノ酸が連結領域に加えられているか、及び/またはもう一つのCBD が触媒活性領域の反対末端で加えられている、前記セルラーゼ変異体。」(57頁、請求の範囲、請求項1)
(2-l) 「18.請求の範囲17記載のセルラーゼ変異体において、親セルラーゼがフミコラ インソレンス(Humicola insolens)の菌株に由来するもの。
19.請求の範囲18記載のセルラーゼ変異体において、親セルラーゼがH.インソレンス(insolens)エンドグルカナーゼであるもの。
20.請求の範囲19記載のセルラーゼ変異体において、親セルラーゼが、H.インソレンス(insolens) 43kDエンドグルカナーゼ又はその相同体であるもの。」(61頁、請求の範囲、請求項18-20)

3 国際公開第91/17243号パンフレット
(3-a) 「要約 実質的に均質なエンドグルカナーゼ成分からなるセルラーゼ調製品であって、フミコラ インソレンス(Humicola insolens),DSM 1800から誘導される高度に精製された?43kDのエンドグルカナーゼに対して産生される抗体と免疫反応性であるか、又は前記?43kDのエンドグルカナーゼの相同体であるセルラーゼ調製品は、ごわつきを低減し、色を澄明化するためのセルロース含有布帛の処理に用いられるか、このような布帛の色の局所的な変化を与えるために用いられるか、又は紙パルプの処理に使用できるだろう。」(表紙、下から6?1行)
(3-b) 実施例5?実施例8には、国際公開第91/17243号の発明における?43kDのエンドグルカナーゼに関する各種の実験結果が記載されている。(36頁30行?46頁4行)
(3-c) 47頁1行?56頁末行には、フミコラ インソレンス(Humicola insolens),DSM 1800の配列表が記載されている。
(3-d) 「1.実質的に均質なエンドグルカナーゼ成分からなるセルラーゼ調製品であって、フミコラ インソレンス(Humicola insolens),DSM 1800から誘導される高度に精製された?43kDのエンドグルカナーゼに対して産生される抗体と免疫反応性であるか、又は前記?43kDのエンドグルカナーゼの相同体であるセルラーゼ調製品。」(57頁、請求の範囲、請求項1)

第5 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
刊行物1には、セルロース布帛の処理方法が記載され(摘示(1-i))、より具体的には、布帛表面をセルラーゼ処理すると、毛玉形成が減少した布帛を得ることができること(摘示(1-a)、(1-b)、(1-g))、セルロース布帛をセルラーゼで処理すること(摘示(1-a)、(1-e)、(1-h)、(1-i))、セルラーゼとして、WO 91/17243にも記載されている、フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのセルラーゼ調製品であるエンドグルカナーゼを用いること(摘示(1-f)、(1-h)、(1-j))、が記載されている。
また、「セルラーゼ」と「セルロース分解酵素」とは同義である。
以上によれば、刊行物1には、
「毛玉形成が減少したセルロース布帛を得る、セルロース布帛の処理方法であって、該方法が、セルロース布帛をセルラーゼ(セルロース分解酵素)で処理することを含んでなり、ここで当該セルラーゼがフミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼである、前記方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明との対比
刊行物1に記載された「毛玉形成が減少したセルロース布帛」及び「セルロース布帛」は、それぞれ、本願発明における「毛玉形成しにくい性質を有するセルロース繊維布帛」及び「セルロース繊維含有編織布」に対応することを考慮して本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「毛玉形成しにくい性質を有するセルロース繊維布帛を得る方法であって、該方法が、セルロース繊維含有編織布をセルラーゼ(セルロース分解酵素)で処理することを含んでなり、ここで当該セルラーゼがフミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼである、前記方法。」
である点で一致するが、以下の点で一応相違すると認められる。
[相違点]
(1) 毛玉形成しにくい性質の程度について、本願発明が「著しく」と規定するのに対し、引用発明においては特に規定されていない点
(2) セルラーゼ(セルロース分解酵素)について、本願発明が
「未処理セルロース編織布基準で2w/w%未満の重量損失に相当する繊維表面の部分加水分解を形成することのできるセルラーゼ(セルロース分解酵素)」であって、「フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼの変異体であり、当該変異体が
(a) 位置8,55,58,62,67,132,147,162,221,222,223の1又はそれ以上において、1個又はそれ以上のアミノ酸残基の置換により修飾されているか;又は
(b) 位置213からの任意の位置でトランケーションされている、」
と規定するのに対し、引用発明においては
「セルラーゼ(セルロース分解酵素)」であって、「フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼ」
と規定する点
(以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点(1)」及び「相違点(2)」という。)

3 相違点についての判断
(1) 相違点(1)について
引用発明においては毛玉形成が減少した布帛を得ることができること(摘示(1-a)、(1-g))が記載されており、また、引用発明は「著しく少ない毛玉形成(pilling)と毛羽立ちを有するであろう」(摘示(1-h))とも記載されている。
したがって、相違点(1)は実質的な相違点であるとは認められない。

(2) 相違点(2)について
ところで、本願発明において、
「未処理セルロース編織布基準で2w/w%未満の重量損失に相当する繊維表面の部分加水分解を形成することのできるセルラーゼ(セルロース分解酵素)」であって、「フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼの変異体であり、当該変異体が
(a) 位置8,55,58,62,67,132,147,162,221,222,223の1又はそれ以上において、1個又はそれ以上のアミノ酸残基の置換により修飾されているか;又は
(b) 位置213からの任意の位置でトランケーションされている、」
と規定することは、取りも直さず、
「フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼの変異体であり、当該変異体が
(a) 位置8,55,58,62,67,132,147,162,221,222,223の1又はそれ以上において、1個又はそれ以上のアミノ酸残基の置換により修飾されているか;又は
(b) 位置213からの任意の位置でトランケーションされている、」
と規定するに等しいから、以下、この点を検討する。

引用発明は布帛のセルラーゼ処理に関するもので、改善されたバイオポリッシング効果を達成することに関するものであり(摘示(1-a)、(1-c))、バイオポリッシング効果の評価手法として、具体的にはタオルをセルラーゼ処理して、その重量損失を測定し、高い重量損失が得られたことから、引用発明においては、「著しく少ない毛玉形成(pilling)と毛羽立ちを有するであろう」及び「費用効率が優れている」と結論付けている(摘示(1-h))。
これに対し、刊行物2に記載されたセルラーゼ変異体は、毛羽立ち除去及び毛玉形成除去(depilling)について向上した特性を有するものである(摘示(2-a)、(2-c))が、布帛表面のセルラーゼ処理において、減少した毛羽立ちや毛玉形成(pilling)の効果はバイオポリッシング効果と呼ばれる(摘示(1-b))のであるから、刊行物2に記載されたセルラーゼ変異体は、向上したバイオポリッシング効果の特性を有するものであることは明らかである。
したがって、引用発明と刊行物2に記載されたセルラーゼ変異体の発明とは、共に、布帛のセルラーゼ処理に関するものであって、向上したバイオポリッシング効果の特性を有するものであるから、両者は技術分野が関連するとともに、課題が共通していると認められる。
そして、
ア 刊行物2で用いられる親セルラーゼは、WO 91/17243 にも記載されている、フミコラ インソレンス 43kDエンドグルカナーゼであり(摘示(2-g)、(2-i)、(2-l))、また、WO 91/17243、すなわち国際公開第91/17243号パンフレットには、フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼが記載されている(摘示(3-a)?(3-d))こと
イ 刊行物2には、変異体 A162P 及び W62P に関する技術が開示されており(摘示(2-h))、また、43kDセルラーゼと変異体 A162P 及び W62P の触媒活性を比較して、親セルラーゼである43kDセルラーゼに対し、変異体 A162P 及び W62P の触媒活性が高められていること(摘示(2-j))が記載されていること
を考慮すると、刊行物2には、「フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼ」に代えて、「フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼの変異体であり、当該変異体が位置62又は162において、1個のアミノ酸残基の置換により修飾されている」もの(以下、「62等の変異体」という。)を用いると触媒活性が高められることが記載されていると認められる。
してみると、セルラーゼ(セルロース分解酵素)はセルロースが分解するのを触媒する酵素であるから、引用発明における「フミコラ インソレンス、DSM 1800に由来する43kDのエンドグルカナーゼ」に代えて62等の変異体を用いることにより、より高い重量損失から想定される向上した毛玉形成除去特性(摘示(1-h))、すなわち、より改善されたバイオポリッシング効果(摘示(1-b))を達成しようとすることは当業者が容易になし得ることである。

(3) 本願発明の効果について
そして、本願明細書等を検討しても、本願発明がこれらの相違点により格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。
すなわち、本願明細書の実施例(17頁3行?19頁末行)によれば、刊行物1に記載されたセルラーゼであるフミコラ インソレンス(Humicola insolens)、DSM 1800由来の43kDのエンドグルカナーゼ(酵素B)は重量損失(Δ%)値が2.0であるのに対し、本願発明においては酵素Cが1.3、酵素Dが1.3、酵素Fが1.7、酵素Gが1.2、酵素Hが1.0、酵素Jが1.2及び酵素Kが1.5であるが、これらの重量損失(Δ%)値は一群として分布する程度のものであって、本願発明の酵素C、酵素D、酵素F?Kが、酵素Bに対し格別顕著な効果を奏するとまではいえない。
また、刊行物2に記載されたセルラーゼ変異体は、毛玉形成除去(depilling)についても向上した特性を有する(摘示(2-a)、(2-c))のであるから、例えば62等の変異体を用いる場合には毛玉形成除去(depilling)について向上した特性を有することが予想されるので、この点でも本願発明が格別顕著な効果を奏するとはいえない。
更に、本願発明においては「位置8,55,58,62,67,132,147,162,221,222,223の1又はそれ以上において、1個又はそれ以上のアミノ酸残基の置換により修飾されている」と規定しており、どのようなアミノ酸残基の置換により修飾されているのかについては限定していないところ、実施例に示されているのは、酵素C(置換D58A)、酵素D(置換F132D)、酵素F(置換D67R)、酵素G(置換Y147S)、酵素H(置換S55E)及び酵素K(置換Y147N)というような特定のアミノ酸で置換した変異体だけであるから、実施例に示されている変異体以外で本願発明に含まれるもの、例えば、変異体 D58H や変異体 Y147C など、実施例に示されているものとは異なるタイプのアミノ酸残基の置換により修飾されているもの、が酵素C、酵素D、酵素F?Kと同様の効果を奏すると認め得るに足る技術的根拠は見いだせないので、本願発明に包含される全ての変異体が格別顕著な効果を奏するとはいえない。

4 まとめ
以上のとおり、上記各相違点は相違点でないか、あるいは当業者が容易に想到し得たものであり、本願明細書等を検討しても、本願発明がこれらの相違点に係る特定事項により格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないので、請求項2?16に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-06 
結審通知日 2008-06-10 
審決日 2008-06-23 
出願番号 特願平8-517262
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
唐木 以知良
発明の名称 毛玉形成しにくい性質を有する編織布を得る方法  
代理人 石田 敬  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ