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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1188309
審判番号 不服2005-16403  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-26 
確定日 2008-12-04 
事件の表示 特願2002-190465「静電荷像現像用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月5日出願公開、特開2004-37516〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年6月28日の出願であって、平成17年7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月31日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年8月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年8月31日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】トナーバインダー樹脂として変性されたポリエステル樹脂(i)と変性されていないポリエステル樹脂(ii)を含むトナーであって、前記(i)と前記(ii)の重量比[(i)/(ii)]が5/95?80/20であり、体積平均粒径(Dv)が3?7μm、体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が1.01?1.25であり、0.6?2.0μmの粒径の粒子の含有率が15個数%以下であり、平均円形度が0.94?0.99の母体トナーに、外添加剤が母体トナー100重量部に対して0.3?5.0重量部の比率で添加混合されていることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】前記トナーの形状係数SF-1が、105?140であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】前記変性ポリエステル樹脂(i)が、ウレア基を有する変性されたポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】前記外添加剤が、疎水化処理されたシリカであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】前記変性されていないポリエステル樹脂(ii)のピーク分子量が1000?20000である請求項1?4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】前記母体トナーの表面に帯電制御物質を固着させたことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】請求項1?6のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーを含有することを特徴とする現像剤。
【請求項8】請求項7に記載の現像剤を用いることを特徴とする画像形成方法。
【請求項9】請求項7に記載の現像剤を装填したことを特徴とする画像形成装置。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に、補正前の請求項5の「前記トナーバインダー樹脂が、変性されたポリエステル樹脂(i)と共に、変性されていないポリエステル樹脂(ii)を含有し、(i)と(ii)の重量比[(i)/(ii)]が5/95?80/20である」との構成を付加し、補正前の請求項5を削除するとともに、補正前の請求項6ないし請求項10をそのまま、補正後の請求項5ないし請求項9に繰り上げたものであるから、特許法第17条の2第4項第1号及び第2号の請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、刊行物1ないし刊行物3には下記の事項がそれぞれ記載されている。
(刊行物1:特開平11-133666号公報の記載事項)
(1a)「【請求項1】トナーバインダーおよび着色剤からなる乾式トナーにおいて、該トナーのWadellの実用球形度が0.90?1.00であり、該トナーバインダーがウレア結合で変性されたポリエステル(i)からなることを特徴とする乾式トナー。
・・・
【請求項4】該トナーバインダーが、該変性ポリエステル(i)と共に、変性されていないポリエステル(ii)を含有し、(i)と(ii)の重量比が5/95?80/20である請求項1?3のいずれか記載の乾式トナー。
【請求項5】該(ii)のピーク分子量が1000?10000である請求項4記載の乾式トナー。」
(1b)「【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは、小粒径トナーとした場合の粉体流動性、転写性に優れるとともに、耐熱保存性、低温定着性、耐ホットオフセット性のいずれにも優れた乾式トナー、とりわけフルカラー複写機などに用いた場合に画像の光沢性に優れ、かつ熱ロールへのオイル塗布を必要としない乾式トナーを開発すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。」
(1c)「【0007】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳述する。本発明において、Wadellの実用球形度とは、(粒子の投影面積に等しい円の直径)÷(粒子の投影像に外接する最小円の直径)で表される値であり、トナー粒子を電子顕微鏡観察することで測定できる。Wadellの実用球形度は、通常0.90?1.00、好ましくは0.95?1.00、さらに好ましくは0.98?1.00である。本発明においては、全トナー粒子個々の実用球形度が上記の範囲である必要はなく、平均値として上記範囲内であればよい。また、トナーの粒径は、中位径(d50)が通常2?20μm、好ましくは3?10μmである。」
(1d)「【0024】本発明の乾式トナーにおいては、さらに、荷電制御剤および流動化剤を使用することもできる。・・・流動化剤としては、コロイダルシリカ、アルミナ粉末、酸化チタン粉末、炭酸カルシウム粉末など公知のものを用いることができる。」
(1e)「【0028】【実施例】以下実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、部は重量部を示す。
【0029】実施例1
(トナーバインダーの合成)冷却管、攪拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物724部、イソフタル酸276部およびジブチルチンオキサイド2部を入れ、常圧で230℃で8時間反応し、さらに10?15mmHgの減圧で5時間反応した後、160℃まで冷却して、これに32部の無水フタル酸を加えて2時間反応した。次いで、80℃まで冷却し、酢酸エチル中にてイソフォロンジイソシアネート188部と2時間反応を行いイソシアネート含有プレポリマー(1)を得た。次いでプレポリマー(1)267部とイソホロンジアミン14部を50℃で2時間反応させ、重量平均分子量64000のウレア変性ポリエステル(1)を得た。上記と同様にビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物724部、テレフタル酸138部およびイソフタル酸138部を常圧下、230℃で6時間重縮合し、次いで10?15mmHgの減圧で5時間反応して、ピーク分子量2300、水酸基価55、酸価1の変性されていないポリエステル(a)を得た。ウレア変性ポリエステル(1)200部と変性されていないポリエステル(a)800部を酢酸エチル/MEK(1/1)混合溶剤2000部に溶解、混合し、トナーバインダー(1)の酢酸エチル/MEK溶液を得た。一部減圧乾燥し、トナーバインダー(1)を単離した。Tgは52℃、Tηは123℃、TG’は132℃であった。
(トナーの作成)ビーカー内に前記のトナーバインダー(1)の酢酸エチル/MEK溶液240部、ペンタエリスリトールテトラベヘネート(融点81℃、溶融粘度25cps)20部、シアニンブルーKRO(山陽色素製)4部を入れ、60℃にてTK式ホモミキサーで12000rpmで攪拌し、均一に溶解、分散させた。ビーカー内にイオン交換水706部、ハイドロキシアパタイト10%懸濁液(日本化学工業(株)製スーパタイト10)294部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を入れ均一に溶解した。ついで60℃に昇温し、TK式ホモミキサーで12000rpmに攪拌しながら、上記トナー材料溶液を投入し10分間攪拌した。ついでこの混合液を攪拌棒および温度計付のコルベンに移し、98℃まで昇温して溶剤を除去し、濾別、洗浄、乾燥した後、風力分級し、粒径d50が6μmのトナー粒子を得た。ついで、トナー粒子100部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5部をサンプルミルにて混合して、本発明のトナー(1)を得た。トナー粒子の実用球形化度は0.96であった。評価結果を表1に示す。」
(1f)表1には、実施例1の評価として、粉体流動性、耐熱保存性、GLOSS(光沢発現温度)、HOT(ホットオフセット発生温度)が、いずれも比較例より優れていることが示されている。(【0032】)
(1g)「【0033】実施例3
(トナーの作成)着色剤をカーボンブラック(三菱化成(株)製 MA100)8部に変える以外は実施例2と同様にしてトナーバインダー(2)をトナー化し、粒径d50が6μmの本発明のトナー(3)を得た。トナー粒子の実用球形化度は0.96であった。評価結果を表2に示す。」
(1h)表2には、実施例3の評価として、粉体流動性、耐熱保存性、MFT(最低定着温度)、HOT(ホットオフセット発生温度)が、いずれも比較例より優れていることが示されている。(【0036】
(1i)「【0037】【発明の効果】本発明の乾式トナーは以下の効果を奏する。
1.粉体流動性に優れ、現像性、転写性に優れる。
2.耐熱保存性に優れ、かつ、低温定着性と耐ホットオフセット性のいずれにも優れる。
3.カラートナーとした場合の光沢性に優れ、かつ耐ホットオフセット性が優れるため、定着ロールにオイル塗布をする必要がない。
4.カラートナーとした場合の透明性が高く、色調に優れる。」

(刊行物2:特開平11-125931号公報の記載事項)
(2a)「【請求項1】現像ローラー上に非磁性トナーを供給し、該現像ローラーの表面に該非磁性トナーを均一に塗布するために該現像ローラーの表面に圧接するように配置された層規制部材によって構成される現像装置を用い、静電潜像を現像し、ついで転写材に転写を行う非磁性一成分現像方法に用いる非磁性トナーであって、前記非磁性トナーの真円度が0.70?0.90であり、かつ前記非磁性トナーの粒子分布において、体積平均粒子径/個数平均粒子径が1.20以下、個数粒度分布における4μm以下の粒子が12%以下であることを特徴とする非磁性トナー。
【請求項2】体積平均粒子径が6?9μmであることを特徴とする請求項1に記載の非磁性トナー。」
(2b)「【0004】【発明が解決使用とする課題】また、従来の非磁性一成分トナーでは、高いブレード圧接力のために現像ローラーにトナーが圧力や摩擦熱等により融着する現象、いわゆるスリーブ融着を生じるという問題があった。更に、ブレード部材が金属製の場合は、ブレードにもトナーが融着して帯電付与が不十分となったり、トナー層厚が不均一となる問題を生ずることがあった。」
(2c)「【0009】本発明の非磁性トナーは、体積平均粒子径が6?9μmであることが好ましい。体積平均粒子径が、これより小さい場合は十分な流動性が得られない場合がある。またこれより大きい場合は、細線、文字等の画素の再現性が悪くなる場合がある。体積平均粒子径/個数平均粒子径は1.20以下、好ましくは1.12以下である。また、個数粒度分布における4μm以下の粒子が12.0%以下、好ましくは9%以下である。これらの範囲外の場合は、流動性の低下が起こりやすく、融着が発生しやすくなる。トナーの真円度は0.70?0.90、好ましくは0.80?0.88である。0.70未満では、流動性の低下、帯電性の不均一、トナー攪拌における磨耗過多が起こりやすくなり、トナーの融着が発生しやすくなる。一方、0.90より大きいと、クリーニング不良が発生したり、帯電立ち上がり性が低下しやすくなる。また、非磁性トナー個数平均分子量(Mn)は3500以上であることが好ましく、3500未満の場合はトナー粒子の硬度が低いため摩擦熱によって現像ローラーやブレードに融着しやすくなる。なお、前記非磁性トナーの体積平均粒子径及び個数粒度はコールターカウンターよって測定することができる。」
(2d)「【0010】本発明におけるトナー粒子の真円度は以下の方法で測定した。真円度は次式で規定する。
【数1】M=(4πS) /L^(2 ) (1)
S:トナーの投影面積
L:トナーの周囲長」
(2e)「【0024】【発明の効果】本発明の非磁性トナーを使用することにより、複写機の層規制部,現像ローラー等にトナーの融着がなくなり、良好な現像特性を得ることができる。」

(刊行物3:特開平10-111582号公報)
(3a)「【請求項1】少なくとも結着剤樹脂と着色剤とを有する静電荷像現像用球形トナーであって、結着剤樹脂の主成分がポリエステル樹脂であり、且つトナーの体積平均粒径(Dv)の値が1.0μm?10μmの範囲内にあり、体積平均粒径と個数平均粒径(Dn)との比の値Dv/Dnが1.00?1.40であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】トナーの形状係数SF-1が、100?140の範囲内である請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】体積平均粒径と個数平均粒径との比の値Dv/Dnが、1.00?1.15である請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】トナーの形状係数SF-1が、100?125の範囲内である請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】トナーの粒子表面に、ポリエステル樹脂以外の異種高分子化合物を有する請求項3又は請求項4に記載の静電荷像現像用トナー。」
(3b)「【0011】・・・結着剤樹脂の主成分がポリエステル樹脂であり、且つトナーの体積平均粒径(Dv)の値が1.0μm?10μmの範囲内にあり、体積平均粒径と個数平均粒径(Dn)との比の値Dv/Dnが1.00?1.40であることを特徴とする。先ず、本発明の静電荷像現像用トナーは、その体積平均粒径(Dv)が1?10μmと小粒径である。即ち、Dvの値が1μmよりも小さくなると、転写効率が低下して廃トナー量が増加するばかりでなく、画像の抜けやムラが発生し易くなり好ましくない。又、Dvの値が10μmより大きくなると、得られる画像の画質が低下してしまい実用上充分なものが得られない。更に、高画質化の観点からは、本発明の静電荷像現像用トナーの体積平均粒径(Dv)が1?6μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0012】本発明の静電荷像現像用トナーは、上記したような体積平均粒径(Dv)を有する小粒径のトナー粒子であるが、その粒度分布が、トナーの個数平均粒径をDnとした場合に、Dv/Dn=1.00?1.40とシャープであることを要する。即ち、Dv/Dnの値が1.40を超えると、粒度分布がブロードになる結果、得られる画像にトナーの飛び散りがみられ、又、非画像部におけるカブリ等が発生し易くなり、従来の粉砕トナーとの有意差がみられなくなってしまう。本発明においては、更なる高画質化の観点から、Dv/Dnの値が1.00?1.15の範囲内にあるトナーであることがより好ましい。
【0013】上記したシャープな粒度分布を有する小粒径の本発明の静電荷像現像用トナーを使用すれば、現像装置に用いられている感光体ドラムの寿命やクリーニングブレードの寿命を延ばすことが可能となる。その理由は定かではないが、第一に、本発明の静電荷像現像用トナーは、粒度分布がシャープであり均一な帯電量の分布をもつので、転写効率が高く、転写残トナー量が少くなる為、クリーニングプロセスにおけるクリーニングブレードや感光体ドラムにかかるストレスが絶対的に少なくなることによると考えられる。第二に、転写残トナーにおいても、トナーの粒度分布がシャープであり帯電量の分布が均一である為、転写残トナーの感光体ドラムへの付着力も均一となり、クリーニングプロセスにおいて、クリーニングブレードや感光体にかかるストレスが均一に分散し、一部分に集中してかかることがないためと考えられる。」

(3)対比
上記刊行物1の摘記事項(上記(1a)(1b)(1c)(1d)(1e))から、刊行物1には、「トナーバインダーおよび着色剤からなるトナー粒子であって、Wadellの実用球形度が0.90?1.00であり、該トナーバインダーがウレア結合で変性されたポリエステル(i)と共に、変性されていないポリエステル(ii)を含有し、(i)と(ii)の重量比が5/95?80/20であり、中位径が2?20μmの小粒径トナー粒子に、トナー粒子100重量部に対して、0.5重量部のコロイダルシリカを添加混合した乾式トナー」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているところ、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「トナーバインダー」「ウレア結合で変性されたポリエステル(i)」「トナー粒子」「コロイダルシリカ」「乾式トナー」は、本願補正発明の「トナーバインダー樹脂」「変性されたポリエステル樹脂」「トナー母体」「外添加剤」「静電荷像現像用トナー」にそれぞれ相当する。
(イ)刊行物1発明は、外添加剤であるコロイダルシリカをトナー粒子100重量部に対して、0.5重量部添加しており、本願補正発明の、外添加剤が母体トナー100重量部に対して0.3?5.0重量部の範囲に含まれている。
したがって、本願補正発明と刊行物1発明との間には、下記のような一致点及び相違点がある。

(一致点)
トナーバインダー樹脂として変性されたポリエステル樹脂(i)と変性されていないポリエステル樹脂(ii)を含むトナーであって、前記(i)と前記(ii)の重量比[(i)/(ii)]が5/95?80/20である母体トナーに、外添加剤が母体トナー100重量部に対して0.3?5.0重量部の比率で添加混合されている静電荷像現像用トナーである点。

(相違点1)
本願補正発明の母体トナーは、平均円形度が0.94?0.99であるのに対して、刊行物1発明のトナー粒子は、Wadellの実用球形度が0.90?1.00であるものの、平均円形度は不明である点。

(相違点2)
本願補正発明は、母体トナーが、体積平均粒径(Dv)が3?7μm、体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が1.01?1.25であり、0.6?2.0μmの粒径の粒子の含有率が15個数%以下であるのに対して、刊行物1発明は、中位径が2?20μmの小粒径トナーであるが、体積平均粒径(Dv)、体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)、0.6?2.0μmの粒径の粒子の含有率は不明である点。

(4)判断
(相違点1について)
まず、本願補正発明の「平均円形度」について、本願明細書段落【0108】に「フロー式粒子像分析装置FPIA-1000(東亜医用電子株式会社製)」により平均円形度として計測できることが記載されている。そして、例えば特開2002-40711号公報を参照すると、「形状係数=円相当径から求めた円の周囲長/粒子投影の周囲長」の平均値、つまり平均円形度を測定する方法として、FPIA-1000(東亜医用電子株式会社製)により測定することが記載されていることから、本願補正発明の「平均円形度」とは、「円相当径から求めた円の周囲長/粒子投影の周囲長」の平均値を意味していると解釈して、相違点1について検討する。
刊行物1には、トナー粒子が水系媒体中で形成された粒子であることが記載され、実施例では、トナーバインダーと溶剤等を攪拌して均一に溶解、分散させたものを、分散剤や界面活性剤を含有したイオン交換水中に攪拌しながら投入した後、溶剤を除去し、濾別、洗浄、乾燥し、分級してトナーを製造し、Wadellの実用球形度で表される、トナー粒子の丸さの度合いが0.96であることが記載されている。そして、このような製造方法では、溶剤に溶解、分散したトナーバインダーの微粒子が水系の分散媒体中で造粒されて分散するから、トナー粒子の丸さの度合いが1に近いだけでなく、分散媒体中の微粒子表面の凹凸の度合いもかなり小さいものになるといえるが、一方で、造粒後の洗浄、乾燥工程等において、トナー表面の凹凸が全くなく、平均円形度が1.0となるような配慮は何らされていない。
そして、トナーの円形度が1に近い程、転写効率が良くなるが、クリーニング不良が発生しやすくなることは本願出願前に周知であり、形状係数SF-1或いはWadellの実用球形度で表されるトナー粒子の丸さの度合い、形状係数SF-2或いは平均円形度で表されるトナー粒子の凹凸の度合い、さらに円形度の分布を適正なものとして、クリーニング不良や転写効率の低下を防止することは、例えば、特開平8-278656号公報(周知例1:【0018】?【0024】)、特開平10-97095号公報(周知例2:【請求項1】?【請求項4】、【0035】?【0036】)、特開平10-39537号公報(周知例3:【請求項1】、【0006】)にも記載されるように、本願出願前に周知の技術である。そして、平均円形度が1.0に近いトナー粒子は、例えば、特開2002-40711号公報(周知例4:【請求項1】、【0027】?【0030】、【0032】)、特開2001-296684号公報(周知例5:【請求項1】【請求項2】【0036】?【0038】、【0047】?【0049】)、特開2002-182427号公報(周知例6:【0070】?【0072】)にも記載されるように本願出願前に周知であるから、刊行物1発明において、転写効率だけでなく、クリーニング不良が発生しないことも考慮して、トナー粒子の平均円形度を最適化し、平均円形度を0.94?0.99とすることは当業者が容易になし得たものといえる。

(相違点2について)
刊行物2には、トナーの体積平均粒子径を6?9μmとすることで、十分な流動性と細線再現性を良好とすること、体積平均粒子径/個数平均粒子径が1.20以下、個数粒度分布における4μm以下の粒子が12%以下とすることで、流動性が良く、融着が発生しないことが記載されている。刊行物2に記載されたトナーは、具体的には粉砕法により製造された、真円度が、0.70?0.90と表面の凹凸の度合いが本願発明よりも大きいものであるが、例えば、上記周知例4?6、特開2000-10343号公報(周知例7:【0105】?【0107】)、及び刊行物3にも記載されるように、重合法により製造され表面の凹凸の度合いが小さく、体積平均粒径3?8μm程度の小粒径トナーにおいても、体積平均粒子径/個数平均粒子径が1に近く粒径分布がシャープであり、2μm以下の微粉トナーが少ないことが望ましいことは、本願出願前に周知であったといえるから、刊行物1発明において、体積平均粒径(Dv)が3?7μm、体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が1.01?1.25であり、0.6?2.0μmの粒径の粒子の含有率が15個数%以下とすることは、当業者が容易になし得たものといえる。
そして、本願発明の効果は、刊行物1に記載された発明、及び刊行物2、3等の周知技術から予測し得たものといえる。
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び刊行物2、3等の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年8月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年6月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 トナーバインダー樹脂として変性されたポリエステル樹脂(i)を含むトナーであって、体積平均粒径(Dv)が3?7μm、体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が1.01?1.25であり、0.6?2.0μmの粒径の粒子の含有率が15個数%以下であり、平均円形度が0.94?0.99の母体トナーに、外添加剤が母体トナー100重量部に対して0.3?5.0重量部の比率で添加混合されていることを特徴とする静電荷像現像用トナー。」

(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「トナーバインダー樹脂」の限定事項である、変性されたポリエステル樹脂(i)と併せて、「変性されていないポリエステル樹脂(ii)を含む」との構成、及び「前記(i)と前記(ii)の重量比[(i)/(ii)]が5/95?80/20」であるとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」及び「2.(4)」に記載したとおり、刊行物1、刊行物2に記載された発明、及び本願出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、刊行物2に記載された発明、及び本願出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び刊行物2、3等の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-11 
結審通知日 2007-07-17 
審決日 2007-07-30 
出願番号 特願2002-190465(P2002-190465)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 秋月 美紀子
中澤 俊彦
発明の名称 静電荷像現像用トナー  
代理人 廣田 浩一  

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