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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1188392
審判番号 不服2005-22887  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-28 
確定日 2008-11-05 
事件の表示 平成 8年特許願第511457号「医療分野において使用されるパルス放射レーザー装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月 4日国際公開、WO96/09799、平成10年 6月23日国内公表、特表平10-506314号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年9月28日の出願(パリ条約による優先権主張1994年9月29日、フランス)であって、平成17年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年1月5日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「レーザービーム(6)のパルス放射を供する装置であって、
・反射性エンベロープ(3)の中に備ったレーザーロッド(1);
・反射性エンベロープの中に備っており、且つ前記レーザーロッド(1)に光線を供させるようにするためにこのレーザーロッド(1)のパルス励起を供する放電ランプ(2);及び
・前記ロッド(1)の両側に配置され、且つ、前記ロッドの励起期間に近い期間のパルスより構成されるレーザー光線を放射させるようにするレゾネーター(4,5)、ここでこのレゾネーターは放射された光線の波長を選別する選別手段を含む;
を含んで成るタイプであり、
・前記レーザーロッド(1)として式Nd:YAlO_(3)のイットリウム・アルミニウム・ペロブスカイトのネオジム・ドープ結晶;及び
・軟質組織及び硬質組織の双方に対する熱的作用が確実となるように1.34μmの波長の光線の放射を優先するように構成された前記選別手段(4,5);を含んで成ることを特徴とする装置。」

第2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平5-129707号公報(以下、「引用例1」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 反射性中空光学的空洞を有するハウジング;該光学的空洞内に取付けられた、ネオジムドーピングを有する結晶性またはガラスホスト構造からなるレーザーロッド;光学的空洞内でレーザーロッドに隣接して取付けられた、レーザーロッドに伝送するための光源を備えるポンピングランプ;ポンピングランプからの光の間欠的パルスをつくるためポンピングランプを駆動するための回路を有する駆動装置;1.4?1.5μmの波長に対し最大反射および他の波長に対し最小反射を生じ、1.4?1.5μmの範囲内でレーザー振動を許す波長選択共振器を包含し、かつレーザーロッドは約0.3?0.7Nのネオジム濃度レベルを有することを特徴とする長波長のネオジムレーザー。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「他の態様ではネオジム濃度は約0.4Nであり、波長選択共振器は、1.44μmに対し約90%の反射率を有するミラーを包含する。」(段落【0012】)
(ウ)「図1には、切断モードで動作するため波長1.44μmの光ビームを提供するかまたは凝固モードで動作するため波長1.06μmの光ビームを提供するように構成されたNdYAGレーザーが示されている。・・・(略)・・・」(段落【0014】)
(エ)「レーザーロッド1は、YAGホスト媒質の重量の約3.3?6.6%(0.3?0.7N)、望ましくは約4.4%(0.4N)のドーピングを有する通常のNdYAG材料からなる。通常のNdYAG材料は結晶性またはガラスホスト構造中へ三層イオン化ネオジムイオンを取込んでなる。・・・(略)・・・YAGはネオジムに対する望ましい結晶性ホスト材料であるが、YAGの代りに、レーザーロッド1に対し使用することができるのはフッ化イットリウムリチウム(一般にYLFとして公知)およびアルミン酸イットリウム(一般にYALOとして公知)である。・・・(略)・・・」(段落【0015】 )
(オ)「駆動ランプ2は望ましくは、1.44μmのレーザー作用に対してすぐれていることの判明しているクリプトンランプ(アークおよびフラッシュ)である。代表的には、ランプ2は7mmの内径および10cmの長さを有する。これらの寸法のランプは、瞬間作動に要求されるパルス電流の必要な高い繰返し度に耐えることが判明した。ランプ2は代表的には、1ミリ秒の周期に対し約600ボルトの適用電圧を用いかつ30?100パルスの繰返し度で1.44μmでのレーザー動作に対するパルスモードで動作される。付加的に、上記のクリプトンランプ2は波長1.06μmでの連続動作に対し50アンペアまでの直流での動作に適当であることが判明した。ランプ2は望ましくはクリプトンアークランプであるが、タングステンランプまたは連続的に発光する他のアークランプのような他の光源または光パルスを生じるキセノンフラッシュランプを利用することもできる。」(段落【0019】)
(カ)「ミラーキャルーセル5は、通常のレーザーミラー調整機構20,21に取付けられた、2つ以上の組のレーザーミラー18,18′および19,19′を含有するすり動ミラーマウントからなる。キャルーセル5は、調整機構20と21を互いに連続して、ミラーのそれぞれの組18,18′または19,19′をタンデムに動かすリンク部材22を含有する。キャルーセル5は、ミラー18,18′がロッド1を有するレーザー空洞を形成して波長1.06μmのビームを生じる第1位置と、ミラー19,19′がロッド1の端部に隣接して波長1.44μmのレーザービームを生じる第2位置の間で駆動される。・・・(略)・・・」(段落【0022】)
(キ)「1.44μmのレーザー作用を達成するのに使用されるミラーは、1.44μmでは反射しなければならないが、1.06μmおよび1.32μmではできるだけ透過性でなければならない。・・・(略)・・・」(段落【0023】)
(ク)図1には、レーザービームを供する装置が図示されており、レーザービームは上記記載(オ)からパルス放射を供するといえるので、レーザービームのパルス放射を供する装置が示されているといえる。
また、上記(イ)より、ミラーは波長を選別する機能を備えていることから、ミラーは放射された光線の波長を選別する選別手段を含むものであることは明らかである。
そして、上記(エ)には、レーザーロッドは、NdYAG材料からなり、YAGの代わりに、YALOを使用することができることが記載されていることから、NdYAlO_(3)を使用することについても示されているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「レーザービームのパルス放射を供する装置であって、
反射性中空光学的空洞を有するハウジング内に取付けられたレーザーロッド;
光学的空洞内でレーザーロッドに隣接して取付けられた、レーザーロッドに伝送するための光源を備える、パルスモードで動作されるポンピングランプ;及び
ロッドの端部に隣接するミラー、このミラーは放射された光線の波長を選別する選別手段を含む;
を含んでなり、
レーザーロッドとしてNdYAlO_(3);を含んでなる装置。」

同じく、Loren F.Stokes et al.,Biomedical Utility of 1.34 μm Nd:YAG Laser Radiation,IEEE Transaction on Biomedical Engineering,米国,1981年3月,Vol.BME-28,No.3,297-299(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ケ)「Contrary to [4]and[5], the data show the 1.34 μm radiation to be no substitute for the argon laser. The 1.34μm radiation would not be useful・・・(略)・・・ If such an application arose, appropriate clinical animal studies would be worthwhile.([4]と[5]に反して、データは、1.34μmの放射がアルゴンレーザーの代わりではないことを示す。1.34μmの放射は、表面あるいは表面近くの光凝固には役立たない。しかしながら、1.06μmの放射を著しく越えた浸透を行う局地化された浸透深部加熱のためには、この研究は、1.34μm Nd:YAGレーザーが適切であることを示唆する。もしこのような適用が起こるなら、適切な臨床動物実験は価値がある。)」(第299ページ左欄第3?27行目)(()内は、当審による仮訳。以下同様。)

第3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「レーザービームのパルス放射を供する装置」は、本願発明の「レーザービーム(6)のパルス放射を供する装置」に相当し、以下同様に、「反射性中空光学的空洞を有するハウジング」は、「反射性エンベロープ(3)」に、「レーザーロッド」は「レーザーロッド(1)」に、「ポンピングランプ」は「放電ランプ(2)」に、「レーザーロッドに伝送するための光源を備える、パルスモードで動作されるポンピングランプ」は「レーザーロッド(1)に光線を供させるようにするためにこのレーザーロッド(1)のパルス励起を供する放電ランプ(2)」に、「ロッドの端部に隣接するミラー」は、ロッド(1)の両側に配置される「レゾネーター(4,5)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「レーザーロッドとしてNdYAlO_(3)」は、本願発明の「レーザーロッド(1)として式Nd:YAlO_(3)のイットリウム・アルミニウム・ペロブスカイトのネオジム・ドープ結晶」に相当する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「レーザービームのパルス放射を供する装置であって、
・反射性エンベロープの中に備ったレーザーロッド;
・反射性エンベロープの中に備っており、且つ前記レーザーロッドに光線を供させるようにするためにこのレーザーロッドのパルス励起を供する放電ランプ;及び
・前記ロッドの両側に配置されるレゾネーター、ここでこのレゾネーターは放射された光線の波長を選別する選別手段を含む;
を含んで成るタイプであり、
・前記レーザーロッドとして式;Nd:YAlO_(3)のイットリウム・アルミニウム・ペロブスカイトのネオジム・ドープ結晶;
を含んで成ることを特徴とする装置。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
レゾネータに関し、本願発明は、ロッドの励起期間に近い期間のパルスより構成されるレーザー光線を放射させるようにしているのに対し、引用発明はそのような構成であるかが不明である点。
(相違点2)
選別手段に関し、本願発明は、軟質組織及び硬質組織の双方に対する熱的作用が確実となるように1.34μmの波長の光線の放射を優先するように構成されているのに対し、引用発明はそのように構成されていない点。

第4.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
ロッドの励起期間に近い期間のパルスより構成されるレーザー光線を放射させるようにすることは周知技術であることから[例えば、国際公開94/8372号「When the Nd:YAG laser is・・・(略)・・・the same duration is produced.(このNd:YAGレーザを閃光ランプ励起式自然放出システムとして用いれば、一般に持続時間が100から1,000マイクロセカンドの閃光パルスでレーザのNd:YAGロッドが励起されることになり、これで閃光パルスとほぼ同一持続時間のレーザ出力パルスが生ずる。)」(第1ページ第18?22行目の記載参照。)]、引用発明において、上記周知技術を適用して相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(相違点2について)
引用例2には、特定の条件の下において1.34μm Nd:YAGレーザーが適切であることを示唆する記載がなされている。
したがって、当業者が実験的に1.34μmの波長を選択することは引用例2の記載事項から適宜なし得ることといえる。
また、特定の波長について軟質組織への適用、硬質組織への適用を行うことは当業者であれば容易に想到し得ることであり、さらに柔らかい組織への応用、硬い組織への応用に同一波長を用いることは周知技術であることから[例えば、国際公開94/8372号「Further, for soft tissue applications,・・・(略)・・・a coating centered at 1.320μm is presently preferred.(さらに、柔らかい組織への応用において、1.064μmと1.320μmとにそれぞれ中心を合わせたコーティングが、有用であることがわかったのに対し、歯科用エナメルの蒸発などの他のある硬い組織への応用において、1.320μmに中心を合わせたコーティングが好ましい。)」(第13ページ第3?8行の記載参照。)]、1.34μmの波長を軟質組織、硬質組織の双方に適用し、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明、引用例2の記載事項、及び周知技術に基いて、当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2の記載事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-03 
結審通知日 2008-06-10 
審決日 2008-06-24 
出願番号 特願平8-511457
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 智宏稲村 正義  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 新井 克夫
北村 英隆
発明の名称 医療分野において使用されるパルス放射レーザー装置  
代理人 石田 敬  
代理人 吉田 維夫  
代理人 西山 雅也  

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