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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1188416
審判番号 不服2007-16949  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-18 
確定日 2008-11-19 
事件の表示 平成 5年特許願第201719号「X線画像検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 7月26日出願公開、特開平 6-209097〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成5年8月13日(パリ条約による優先権主張1992年8月17日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成19年3月12日に拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月18日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願請求項1ないし9に係る発明は、平成19年7月18日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 複数のX線感応センサを有し、
各センサは、コレクティング電極と該コレクティング電極を出力導線に接続するスイッチング素子とを有し、
光伝導体層は個々のコレクティング電極とバイアス電極との間に設けられ、
前記コレクティング電極は基準電極と共に、前記光伝導体で生成される電荷キャリアによって充電され得るキャパシタンスを形成する、X線画像検出器であって、
各コレクティング電極は、第1電極部及び第2電極部を有し、
前記第1電極部は付随する出力導線に隣接する各々の領域に配置され、
前記第2電極部と前記出力導線間の寄生キャパシタンスが小さく留まるように前記出力導線の上に厚さが少なくとも3μmである絶縁層が設けられ、
前記第2電極部は、前記絶縁層を通って延びるコンタクト孔を介して前記第1電極部に電気的に接続され、前記第1電極部よりも大きな表面領域を有し、前記第1電極部と前記バイアス電極との間に配置されることを特徴とするX線画像検出器。」

3.刊行物に記載の発明
(1)特開平4-212458号公報
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日の前である平成4年8月4日に日本国内において頒布された特開平4-212458号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図1及び図2とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、2つの電極とその間に設けられる半導体層とからなる光感知及び/又はX線感知薄膜センサとからなるセンサマトリックスに係る。」
「【0012】共通半導体層及び共通第2の電極がマトリックスの全てのセンサ素子に対して設けられる図1に示すセンサマトリックスの回路図はマトリックスの行及び列に配置されるセンサ1を示す。マトリックスの個々のセンサ1は同一構成を有する。各センサ1は、関連センサ1の領域でのみ設けられ、隣るセンサ1の第1の電極2から機械的及び電気的に分離された第1の電極2とからなる。それぞれの第1の電極2は関連センサ1内の記憶容量3の第1の電極に接続され、他の電極は接地に接続される。第1の電極2及び記憶容量3間の接続部は電界効果トランジスタ4のソース端子に接続される。・・・
【0015】半導体層5自体は、第2の電極として役立ち、マトリックスの全てのセンサ1に対し作用する導電層6により覆われる。第2の電極6は直流電源7に接続され、その他極は接地に接続される。
【0016】図1に示されるセンサマトリックスは、薄膜技術を用いて製造される。この技術は、2つの電極及び半導体層用にのみ用いられるばかりでなく、記憶容量3及び電界効果トランジスタ4用にも用いられる。
【0017】マトリックスの全てのセンサ用の共通の第2の電極6は直流電源7によりバイアスされる。光又はX線が半導体層5上に入射される時、照射は導電率が変化される半導体層で吸収される。従って、センサ1の記憶容量3を電気的に充電されるようにする電荷シフトが起こる。各個々のセンサの充電の度合は、所定時間間隔中の関連センサの第1の電極2及び対電極6間の領域で半導体層5上に入射する照射の量に依る。
【0018】記憶容量3に蓄積された電荷は入射,照射を決める為に読出されうる。この為に、センサの各行に対し、各スイッチングライン8が設けられ、そのラインは関連行のセンサの電界効果トランジスタのゲート端子に接続され、制御回路9により制御されうる。例えば、制御回路9は第1の行のスイッチングライン8を活性化し、これによりこの行のセンサの全ての電界効果トランジスタ4がターンオンされる。次にこの行のセンサに蓄積された電荷は、各センサ列に設けられ、関連列のセンサの電界効果トランジスタのドレーン端子に接続される読出ライン10を介して読出される。従って、読出し動作は関連行の全てのセンサに対して同時に行なわれる。増幅器11でのその結果の信号の増幅の後、増幅された信号はセンサ列の並列的に届くデータから連続出力信号を形成するマルチプレックス回路12に印加される。・・・
【0020】この事実は本発明によるマトリックスの一部の平面図である図2に更に明瞭に示される。マトリックスは共通の第2の電極6の平面図で示される。対向電極6及び共通の半導体層5はマトリックスのセンサの全ての第1電極2を覆い、そのうち9つのみが図2の例で示される。その下に位置したセンサの素子の表示を可能にする為、図2において、第2の電極6及び半導体層5は映像で準透明法で示される。
【0021】半導体層5の面の下において、第1の電極2は図2の各センサに対して区別され、その電極は比較的に大きい面領域を占める。記憶容量3は明瞭化の為図2で省略した。従って、センサの第1の電極2は図2の電界効果トランジスタ4のソース端子に直接に接続される。電界効果トランジスタ4のゲート端子は各スイッチングライン8に接続され、電界効果トランジスタのドレーン端子は各読出ライン10に接続される。」

したがって、刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「複数のX線感知薄膜センサ1を有し、
各センサ1は、記憶容量3と電界効果トランジスタ4とを備え、センサ1の第1の電極2及び記憶容量3間の接続部は電界効果トランジスタ4のソース端子に接続され、電界効果トランジスタ4のドレーン端子は読出ライン10に接続され、
半導体層5は、隣るセンサ1の第1の電極2から機械的及び電気的に分離された第1の電極2と、直流電源7によりバイアスされマトリックスの全てのセンサ用の共通の第2の電極6との間に設けられ、
第1の電極2は関連センサ1内の記憶容量3の第1の電極に接続され、X線が半導体層5上に入射される時、照射は導電率が変化される半導体層で吸収され、センサ1の記憶容量3を電気的に充電されるようにする電荷シフトが起こる、センサマトリックス。」

(2)特開昭62-86855号公報
原審の拒絶理由通知書において引用された、本願優先権主張日の前である昭和62年4月21日に日本国内において頒布された特開昭62-86855号公報(以下、「刊行物2」という。)には、第1図及び第2図とともに以下の事項が記載されている。
「[産業上の利用分野]
本発明は走査回路と放射線、特にX線を受光してキャリアを発生する光導電層とを積層した放射線用固体撮像素子に関する。」(第1頁右下欄第2行ないし第5行)
「[問題点を解決するための手段]
かかる目的を達成するために、本発明においては、走査回路部と光導電膜部を積層した固体撮像素子において、光導電層がX線吸収能の高い光導電体層からなることを特徴とする。また下地層が重金属からなることを特徴とする。」(第2頁左上欄第13行ないし第18行)
「第1図は走査回路をMOS型とした本発明の実施例の断面の概略図である。
図において100は走査回路部、200は光導電体部である。11はSiなどの半導体基板、12はソース、13はゲート、14はドレイン、15は出力線である。16はSiO_(2)、Si_(3)N_(4)、りん化シリケートガラス、ポリイミドなどからなる絶縁層、17Bは絵素を区画する2次電極、17Aは2次電極とソースを結ぶ1次電極で、17A、17Bで下地電極を形成する。・・・18は本発明の特徴をなす光導電体層であって、X線吸収能の高いBi_(12)GeO_(20),Bi_(12)SiO_(20),PbO,PbS,PbSe,PbTeなどを用いる。・・・
19は絵素間のリークや混色などを防止するための絵素分離層で、・・・20は透明電極で光導電体層18、絵素分離層19の表面にITOなどをスパッタまたは蒸着したものである。
第2図に本発明の他の実施例を示す、この実施例は走査回路を薄膜トランジスタ(TFT)で構成した例である。図において21は非結晶質水素化シリコンからなるTFTで22はソース、23はゲート、24はドレイン、26は絶縁層であり、その他は第1図に示した実施例と同じであるので説明を省略する。」(第2頁右上欄第8行ないし右下欄第13行)

(3)特開昭60-42989号公報
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日の前である昭和60年3月7日に日本国内において頒布された特開昭60-42989号公報(以下、「刊行物3」という。)には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「第1図において、p型半導体基板1上に、MOSトランジスタのソースとなるn型半導体領域2およびMOSトランジスタのドレインとなるn型半導体領域3が形成される。さらに、n型半導体領域2および3の間の領域上にゲート7が設けられ、n型半導体領域2および3とともにMOSトランジスタを構成する。また、n型半導体領域3に接して画素分離酸化膜13および絶縁膜8が設けられ、隣接する画素を分離する役目を果たしている。さらに、ゲート7、n型半導体領域3上に形成された一層配線4および絶縁膜8の上に絶縁膜5が形成される。次に、n型半導体領域2上に形成された一層配線4および上述の絶縁膜5の上に二層配線6が形成され、この二層配線6はさらにその上に形成された光導電膜9に電界をかける正電極の役割りを果たす。光導電膜9の上に形成された透明電極10は、上述の二層配線6とともに光導電膜9に電界をかける負電極である。透明電極10上には透明平坦化膜11が形成され、さらにその上には入射光を分光する光フィルタ12が設けられている。」(第1頁右下欄第8行ないし第2頁左上欄第8行)

4.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物発明」という。)について、以下で対比する。
(a)刊行物発明の「X線感知薄膜センサ1」は、本願発明の「X線感応センサ」に相当する。
(b)刊行物発明の「第1の電極2」、「電界効果トランジスタ4」、「読出ライン10」は、本願発明の「コレクティング電極」、「スイッチング素子」、「出力導線」にそれぞれ相当し、刊行物発明の第1の電極2と読出ライン10は電界効果トランジスタ4により接続されるから、刊行物発明の「各センサ1は、記憶容量3と電界効果トランジスタ4とを備え、センサ1の第1の電極2及び記憶容量3間の接続部は電界効果トランジスタ4のソース端子に接続され、電界効果トランジスタ4のドレーン端子は読出ライン10に接続され」ることは、本願発明の「各センサは、コレクティング電極と該コレクティング電極を出力導線に接続するスイッチング素子とを有」することに相当する。
(c)刊行物発明の「半導体層5」は、「光又はX線が半導体層5上に入射される時、照射は導電率が変化される半導体層で吸収される」(段落【0017】)ものであるから、本願発明の「光伝導体層」に相当し、刊行物発明の「直流電源7によりバイアスされマトリックスの全てのセンサ用の共通の第2の電極6」は、本願発明の「バイアス電極」に相当する。したがって、刊行物発明の「半導体層5は、隣るセンサ1の第1の電極2から機械的及び電気的に分離された第1の電極2と、直流電源7によりバイアスされマトリックスの全てのセンサ用の共通の第2の電極6との間に設けられ」は、本願発明の「光伝導体層は個々のコレクティング電極とバイアス電極との間に設けられ」に相当する。
(d)刊行物発明において、第1の電極2は関連センサ1内の記憶容量3の第1の電極に接続されるから、第1の電極2と記憶容量3の第1の電極とは、実質的に一体の電極であり、第1の電極2は記憶容量3を形成すると言える。そして、刊行物発明の「記憶容量3」は、半導体層5により生成された電荷で充電されるものであるから、本願発明の「キャパシタンス」に相当する。よって、上記(b)及び(c)を併せ考慮すると、刊行物発明の「第1の電極2は関連センサ1内の記憶容量3の第1の電極に接続され、X線が半導体層5上に入射される時、照射は導電率が変化される半導体層で吸収され、センサ1の記憶容量3を電気的に充電されるようにする電荷シフトが起こる」ことは、本願発明の「前記コレクティング電極は」「前記光伝導体で生成される電荷キャリアによって充電され得るキャパシタンスを形成する」ことに相当する。
(e)刊行物発明の「センサマトリックス」は、複数のX線感知薄膜センサ1から構成され、「記憶容量3に蓄積された電荷は入射,照射を決める為に読出されうる。・・・読出し動作は関連行の全てのセンサに対して同時に行なわれる。増幅器11でのその結果の信号の増幅の後、増幅された信号はセンサ列の並列的に届くデータから連続出力信号を形成するマルチプレックス回路12に印加される。」(段落【0018】)と記載されるように、各センサ1に照射されたX線の照射量を蓄積された電荷信号として読出し、連続出力信号として出力するものであって、実質的に、X線画像を検出しているものと認められるから、本願発明の「X線画像検出器」に相当する。

したがって、本願発明と刊行物発明とは、
「複数のX線感応センサを有し、
各センサは、コレクティング電極と該コレクティング電極を出力導線に接続するスイッチング素子とを有し、
光伝導体層は個々のコレクティング電極とバイアス電極との間に設けられ、
前記コレクティング電極は、前記光伝導体で生成される電荷キャリアによって充電され得るキャパシタンスを形成する、X線画像検出器。」
であることにおいて一致し、以下の2点において相違している。
(1)
本願発明は、「前記コレクティング電極は基準電極と共に、前記光伝導体で生成される電荷キャリアによって充電され得るキャパシタンスを形成」しているのに対し、刊行物発明の第1の電極2は記憶容量3を形成するものの、他方の電極が明らかではない点。(以下、「相違点1」という。)
(2)
本願発明は、「各コレクティング電極は、第1電極部及び第2電極部を有し、 前記第1電極部は付随する出力導線に隣接する各々の領域に配置され、 前記第2電極部と前記出力導線間の寄生キャパシタンスが小さく留まるように前記出力導線の上に厚さが少なくとも3μmである絶縁層が設けられ、 前記第2電極部は、前記絶縁層を通って延びるコンタクト孔を介して前記第1電極部に電気的に接続され、前記第1電極部よりも大きな表面領域を有し、前記第1電極部と前記バイアス電極との間に配置される」のに対し、刊行物発明は、このような構成を有していない点。(以下、「相違点2」という。)

5.判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、「各センサ1は、関連センサ1の領域でのみ設けられ、隣るセンサ1の第1の電極2から機械的及び電気的に分離された第1の電極2とからなる。それぞれの第1の電極2は関連センサ1内の記憶容量3の第1の電極に接続され、他の電極は接地に接続される。」(段落【0012】)と記載されている。この記載について、対応する図1を参照すると、第1の電極2と記憶容量3の一方の電極と電界効果トランジスタ4のソース端子とは、実質的に一体の電極であり、電界効果トランジスタ4のドレーン端子は読出ライン10に接続され、半導体層5の第2の電極6は直流電源7に接続されることが図示されているから、上記「他の電極は接地に接続される。」の記載は、図1との対応関係から、記憶容量3の他の電極について説明したものと判断せざるを得ない。
したがって、刊行物1には、記憶容量3(本願発明の「キャパシタンス」に相当)の一方の電極を「第1の電極2」(本願発明の「コレクティング電極」に相当)とし、他方の電極を接地に接続する(即ち、「基準電極」とする)ことが、実質的に開示されている。
そして、拒絶査定の備考欄において指摘したように、スイッチング素子に接続された電極膜自体をキャパシタ電極の一方として用いて、基準電極と共にキャパシタンスを形成させることは、特開平3-149884号公報(「付加容量用透明電極を有する逆スタガート型薄膜トランジスタに於て、付加容量用透明電極と画素用透明電極間に・・・合計三層の絶縁膜を介」する。[第2頁左上欄第18行ないし右上欄第5行]、第1図を参照。)、特開平4-3027号公報(「画素電極Eの下部に絶縁膜3を介して透明電極2を設けることにより静電容量を形成」する。[第2頁右上欄第7行ないし第9行]、第2図、第4図を参照。)及び特開平4-218028号公報(「付加容量配線42とこれにゲート絶縁膜を挟んで対向する絵素電極41との間に付加容量51が形成されている。」[段落【0025】]、図7ないし図9を参照。)に記載されているように、当該技術分野において周知の事項である。
よって、相違点1に指摘した本願発明の構成は、刊行物1に開示されているから、相違点1は実質的なものではなく、仮に実質的なものであるとしても、上記周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得ることである。
(相違点2について)
光感知又はX線感知をするセンサや画像検出器において、その感度を高めることは当然の要請であって、このために、基板に設けられたスイッチング素子となるトランジスタや信号線の上に、画素電極及び光導電層を積層して形成し、実質的な有効画素面積を大きくすることが従来から試みられている。
例えば、刊行物2には、走査回路とX線を受光してキャリアを発生する光導電層とを積層した放射線用固体撮像素子が記載されており、第1図及び第2図とその説明を参照すると、光導電体層18の下地電極(本願発明の「コレクティング電極」に相当)が1次電極17A(本願発明の「第1電極部」に相当)と2次電極17B(本願発明の「第2電極部」に相当)で構成され、2次電極は1次電極より大きな表面領域を有して、絶縁層16を介して、トランジスタ及び出力線15の上部に配置されていることが看取できる。
また、刊行物3には、同じく光導電変換手段を走査回路の上部に積層した固体撮像装置が記載されており、第1図とその説明を参照すると、MOSトランジスタのソース2に接続された一層配線4(本願発明の「第1電極部」に相当)と絶縁膜5上の二層配線6(本願発明の「第2電極部」に相当)が、光導電膜9(本願発明の「光伝導体層」に相当)の正電極(本願発明の「コレクティング電極」に相当)を構成し、二層配線6は、絶縁層5を通って延びるコンタクト孔を介して前記一層配線4に電気的に接続され、前記一層配線4よりも大きな表面領域を有し、前記一層配線4と透明電極10(本願発明の「バイアス電極」に相当)との間に配置されることが、看取できる。
なお、刊行物3に記載のものにおいて、MOSトランジスタのドレイン3に接続された一層配線4は、「出力導線」として機能することは明らかであり、ソース2に接続された一層配線4は、ドレイン3に接続された「出力導線」と同層で形成されるものであるから、この一層配線4(本願発明の「第1電極部」に相当)が「出力導線」により区画された各々の領域に配置されていることは当然のことである。
ところで、刊行物2,3に記載されるような光導電変換手段を走査回路の上部に積層した固体撮像装置においては、例えば、特開昭58-190166号公報(「電極12と下層のY信号出力線4‘が完全にオーバーラップする構造であるため電極と出力線間に寄生容量22が発生し、・・・偽信号が現れる」[第2頁左下欄第6行ないし第9行]、第1図参照。)に記載されるように、光導電膜の下部電極と走査回路の出力導線との間に寄生容量が生じ、雑音が現れることは、本願優先権主張日の時点において、周知の技術課題である。
そして、この技術課題を解決するためには、寄生容量を小さくすることが必要であるから、その手段として、下部電極と出力導線とのオーバーラップする面積を減らすこと(寄生容量の面積を減少させること)、下部電極と出力導線間の絶縁膜の誘電率を低くすること(寄生容量の誘電率を小さくすること)、下部電極と出力導線間の絶縁膜を厚くすること(寄生容量の電極間距離を広くすること)等が直ちに想到され、その中でも、下部電極と出力導線間の絶縁膜を厚くすることは、他の手段と比較して最も簡易に実現可能な手段にすぎない。
この点について、本願発明の構成を検討すると、本願発明には「前記第2電極部と前記出力導線間の寄生キャパシタンスが小さく留まるように前記出力導線の上に厚さが少なくとも3μmである絶縁層が設けられ」と記載されており、この「前記第2電極部と前記出力導線間の寄生キャパシタンスが小さく留まるように」の部分は、上記周知の技術課題を解決するために当然に必要な事項にすぎない。そして、絶縁膜の「厚さが少なくとも3μmである」ことについてみると、本来、絶縁膜の厚さは、「X線画像検出器」の要求される性能から、許容される雑音及び許容される寄生キャパシタンス(寄生容量)を検討し、他のデバイス構造(下部電極と出力導線とのオーバーラップする面積や絶縁膜の誘電率等)を特定した上で決定されるものであるところ、本願発明においては他の要素が数値的に何も特定されていないから、上記「厚さが少なくとも3μmである」ことに臨界的な意義を認めることはできず、また、寄生容量を低減するためには絶縁膜は厚い程望ましいから、「厚さが少なくとも3μmである」絶縁膜を用いることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることにすぎない。
次に、上記刊行物2,3の記載及び上記周知の技術課題と解決手段を勘案して、刊行物1に記載のセンサマトリックスへの適用を検討すると、刊行物1に記載のものも、基板上にスイッチング素子となるトランジスタ4や、該トランジスタに接続するスイッチングライン8、読出ライン10(本願発明の「出力導線」に相当)が形成され、該基板に半導体層5からの電荷を受ける第1の電極2が形成されているから、上記トランジスタやライン8,10を除いた部分に画素電極である第1の電極2を形成することとなり、第1の電極2は「付随する出力導線に隣接する各々の領域に配置され」るとともに、必然的に十分な有効画素面積が確保できなくなる場合があるものと認められる。
よって、刊行物発明において、実質的な有効画素面積を大きくして感度を高めるために、光導電変換手段を走査回路の上部に積層した構造を採用することは直ちに想起し得ることであり、刊行物3に記載の、光導電膜9(本願発明の「光伝導体層」に相当)の正電極(本願発明の「コレクティング電極」に相当)が一層配線4(本願発明の「第1電極部」に相当)と絶縁膜5上の二層配線6(本願発明の「第2電極部」に相当)を有し、二層配線6は、絶縁層5を通って延びるコンタクト孔を介して前記一層配線4に電気的に接続され、前記一層配線4よりも大きな表面領域を有し、前記一層配線4と透明電極10(「バイアス電極」に相当)との間に配置される構造を適用するとともに、一層配線を刊行物1の第1の電極2のごとく「付随する出力導線に隣接する各々の領域に配置され」るものとし、更に、当然に生じるであろう上記周知の技術課題を解決するように、「前記出力導線の上に厚さが少なくとも3μmである絶縁層」を設けること、即ち、刊行物発明において、本願発明のごとく、「各コレクティング電極は、第1電極部及び第2電極部を有し、 前記第1電極部は付随する出力導線に隣接する各々の領域に配置され、 前記第2電極部と前記出力導線間の寄生キャパシタンスが小さく留まるように前記出力導線の上に厚さが少なくとも3μmである絶縁層が設けられ、 前記第2電極部は、前記絶縁層を通って延びるコンタクト孔を介して前記第1電極部に電気的に接続され、前記第1電極部よりも大きな表面領域を有し、前記第1電極部と前記バイアス電極との間に配置される」ようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、上記相違点1及び2に基づいて、本願発明が奏する効果も、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

したがって、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明並びに周知の技術及び技術課題に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2ないし9に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-09 
結審通知日 2007-10-16 
審決日 2007-10-29 
出願番号 特願平5-201719
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北島 健次瀧内 健夫  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 井原 純
河合 章
発明の名称 X線画像検出器  
代理人 伊東 忠彦  

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