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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20041 審決 特許
不服200615398 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1188432
審判番号 不服2005-11982  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-24 
確定日 2008-11-26 
事件の表示 平成10年特許願第531200号「症候性心臓病を治療するためのアンギオテンシンII拮抗薬の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月16日国際公開、WO98/30216、平成12年 7月 4日国内公表、特表2000-508347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯

本願は、1998年1月7日(パリ条約による優先権主張1997年1月10日、米国;1997年2月28日、英国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由に応答して平成16年2月10日付で手続補正がなされたが、その後、平成17年3月18日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年6月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年6月29日付で手続補正がなされたものである。

2 平成17年6月29日付手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年6月29日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「症候性心臓病患者の急性心臓病死を減少させるための医薬品組成物であって、該組成物は、ロサルタン、またはEXP-3174あるいはその薬学的に許容できる塩から選択されるアンギオテンシンII(AT_(1))受容体拮抗薬を含有することを特徴とし、但し、前記患者は、左心室の駆出率が40%以下に低下しており且つ予めACE阻害治療の履歴のない65歳以上の症候性心臓病患者である、前記組成物。」
とする補正を含むものである。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された医薬品組成物の適用患者である「症候性心臓病患者」を「左心室の駆出率が40%以下に低下しており且つ予めACE阻害治療の履歴のない65歳以上の症候性心臓病患者」に限定するものであり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)独立特許要件について
(2)-1 引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である、
「Cardiovasc. Drugs Ther., (1995) 9(5) p.693-700」(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。(なお、英文であるため、和訳で摘記する。)

(A)「適格な患者は65歳以上で、・・・左心室駆出率が40%以下である症候性心臓病患者であって、ACE阻害剤治療履歴のない患者でなければならない。」(第694頁 ELITEプロトコル スクリーニングと適格性)
(B)「患者は、48週間の間、ロサルタンまたはカプトプリルを用いた実薬療法にランダム化される。試験薬はタブレットとして供給されて、二重ダミー法に従い投与される。すなわち、各々の患者は、[ロサルタン+カプトプリルの偽薬]又は[カプトプリル+ロサルタンの偽薬]のどちらかを受けることになる。ロサルタンに対してランダム化される患者は、12.5mg単位(当初服用量)のロサルタンが投与され、耐性があれば25及び50mgまで増量される。試験薬の増量は、一般に7日の間隔で行われる。カプトプリルに対してランダム化される患者は1日3回6.25mg(当初服用量)のカプトプリルを受け、その後12.5mgへと増量され、それから25及び50mg1日3回へと、およそ7日の間隔で増量される。試験薬の高用量レベルへの耐性がない患者は、減量投与が許される。他の併用薬物は研究者の裁量で調節することもできるが、当該試験期間中は非盲検のACE阻害剤は許されない。」(第694頁 試験療法と薬剤投与量調節)」
(C)「ロサルタンは、アンジオテンシンIIタイプI受容体の効果を阻害する・・・アンジオテンシンII受容体拮抗剤である。」(第695頁 ディスカッション 心臓病におけるアンジオテンシンIIタイプI受容体拮抗剤ロサルタンの効果)

(2)-2 対比・判断
引用例には、(イ)ロサルタンがアンジオテンシンIIタイプI受容体拮抗剤であること(摘記事項(C))、(ロ)「65歳以上で、左心室駆出率が40%以下である症候性心臓病であって、ACE阻害剤治療履歴のない患者」を対象患者とすること(摘記事項(A))、及び、(ハ)ランダム化して2群に振り分けられたうちの一方の群の患者にロサルタンが投与されること(摘記事項(B))が記載されている。
そうすると、上記引用例には、「症候性心臓病患者のための医薬品組成物であって、該組成物は、アンギオテンシンII(AT_(1))受容体拮抗薬であるロサルタンを含有することを特徴とし、但し、前記患者は、左心室の駆出率が40%以下に低下しており且つ予めACE阻害治療の履歴のない65歳以上の症候性心臓病患者である、前記組成物。」(以下、「引用発明」という。)の発明が記載されているものと認められる。
そこで、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、「症候性心臓病患者のための医薬品組成物であって、該組成物は、アンギオテンシンII(AT_(1))受容体拮抗薬であるロサルタンを含有することを特徴とし、但し、前記患者は、左心室の駆出率が40%以下に低下しており且つ予めACE阻害治療の履歴のない65歳以上の症候性心臓病患者である、前記組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

「相違点」
本願補正発明では「症候性心臓病患者の急性心臓病死を減少させるための医薬品組成物」とされているのに対して、引用発明では「症候性心臓病患者のための医薬品組成物」である点。

以下、相違点について検討する。
上記相違点は、結局のところ、「急性心臓病死を減少させるための」なる規定の有無であることから、かかる規定の存在によって本願補正発明が引用発明と実質的に相違するものであるか否かについて検討する。
引用発明に係る医薬品組成物はアンギオテンシンII(AT_(1))受容体拮抗薬であるロサルタンを含有するものであり、また、当該医薬品組成物を適用する患者は左心室の駆出率が40%以下に低下しており且つ予めACE阻害治療の履歴のない65歳以上の症候性心臓病患者であり、それら医薬品組成物、患者は、本願補正発明におけるそれと同一である。そして、急性心臓病死する患者もそうでない患者もともに症候性心臓病患者に包含される患者であって、本願明細書をみても、たとえば、症候性心臓病患者のうち、急性心臓病死をする患者は特定の遺伝子型を有する一群の患者群を形成する等、本願補正発明と引用発明とが対象患者の点において明確に区別することができるものと認めることはできないし、また、適用部位が異なる等、両発明が互いに適用範囲を異にする別異の発明であるとも認められない。
そうすると、本願補正発明と引用発明との上記相違点は、単なる表現上の相違にすぎず、これによって両発明が実質的に異なるものであるとすることはできない。

なお、上記引用例は、これから実施してデータを収集・分析・評価するためのプロトコルについて記載したものであり、具体的な試験結果を記載するものではないが、以下に示すように、上で認定した引用発明が特許法第29条第1項第3号にいう「刊行物に記載された発明」として十分に評価できるものである。
上記引用例に記載のプロトコルは、単なるアイデア的なものであって技術的な裏付け・根拠の乏しいものではない。すなわち、たとえば、上記引用例に、「ニューヨーク心臓協会クラスII?IV心臓病患者における、1日25mgのロサルタン、1日50mgのロサルタン、または10mg1日2回のエナラプリル服用後の運動研究は、運動能力において同様な向上を示した[39]。・・・ロサルタンは、心室肥大、フィブロネクチン、及び、コラーゲン形成を防ぐことが示されており[17,40]、実験的な心臓病では、心室機能の改善においてACE阻害剤と等しいことが示された[41,43]。ロサルタンは、ACE阻害剤エナラプリルと同じか或いはより強力な冠状動脈血管拡張薬であることも示されており[44]、また、腎不全患者ではエナラプリルに等しいことも示されている[45]。」(第695頁右欄下から11行?第696頁6行)と記載されているように、上記プロトコルは、ロサルタンが、心臓病患者における罹患率並びに死亡率低減に効果的であることが既に確認されているエナラプリル等のACE阻害剤と同程度の効果を有する、との幾つかの実証例を踏まえて、さらに、アンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤及びアンジオテンシンIIタイプI受容体拮抗剤に関する理論的な分析(引用例第697頁 アンジオテンシン受容体拮抗剤とACE阻害剤との比較)を加えた上で提案されたものである。そして、上記プロトコルについては、実際にプロトコルを実施する機関の『レビュー委員会』が承認を与えた(引用例第694頁 ELITEプロトコル 方法 参照)ものである。
したがって、上記引用例の記載がたとえ具体的な試験結果に関する記載を伴わないものであったとしても、本願優先権主張日における当業者が上記引用例の記載に接したならば、上記プロトコルが技術的に十分な裏付け、あるいは根拠を伴って記載されていると認識されるものであるから、かかるプロトコルに基づいて認定した引用発明は、特許法第29条第1項第3号にいう「刊行物に記載された発明」とされるに十分なものである。

以上のとおり、本願補正発明は、上記引用例に記載された発明であるので特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明について

平成17年6月29日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成16年2月10日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「症候性心臓病患者の急性心臓病死を減少させるための医薬品組成物であって、該組成物は、ロサルタン、またはEXP-3174あるいはその薬学的に許容できる塩から選択されるアンギオテンシンII(AT_(1))受容体拮抗薬を含有することを特徴とする、前記組成物。」
本願発明は、前記2で検討した本願補正発明における「但し、前記患者は、左心室の駆出率が40%以下に低下しており且つ予めACE阻害治療の履歴のない65歳以上の症候性心臓病患者である」との規定がなく、対象患者を症候性心臓病患者全般としたものであるから、本願補正発明を包含するものである。
そうすると、本願補正発明が、前記「2(2)」に記載したとおり、引用例に記載された発明であるから、それを包含する本願発明も引用例に記載された発明である。
したがって、本願発明は、上記引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-11 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-07-10 
出願番号 特願平10-531200
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 572- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 元浩  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 井上 典之
穴吹 智子
発明の名称 症候性心臓病を治療するためのアンギオテンシン▲II▼拮抗薬の使用  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  
代理人 大崎 勝真  

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