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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1188506
審判番号 不服2006-9163  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-08 
確定日 2008-11-27 
事件の表示 特願2000-387081「自己着火・火花点火式内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月 5日出願公開、特開2002-188445〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成12年12月20日の出願であって、平成17年2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年4月15日に意見書が提出されたが、平成18年3月31日付けで拒絶査定がなされ、同年5月8日に同拒絶査定に対して審判請求がなされたものであって、その請求項1?11に係る発明は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「所定の自己着火運転領域で自己着火燃焼による運転を行なう一方、前記自己着火運転領域外の運転領域で火花点火燃焼による運転を行なう自己着火・火花点火式内燃機関の制御装置において、
ノッキング強度に相関する第1の判断パラメータを検出する第1検出手段と、
燃焼安定度に相関する第2の判断パラメータを検出する第2検出手段と、
自己着火燃焼による運転を行なっているとき、前記2つの判断パラメータに基づいて自己着火燃焼を継続することが可能か否か判断する判断手段と、
自己着火燃焼の継続が不可能であると判断されたとき、自己着火燃焼から火花点火燃焼へ燃焼形態を切り替える切替手段と、
を備えたことを特徴とする自己着火・火花点火式内燃機関の制御装置。」

2.原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-192846号公報(平成12年7月11日公開。以下、「引用文献」という。)
(A)引用文献には、次の事項が図面と共に記載されている。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特定の運転条件において、圧縮自己着火燃焼運転を行う内燃機関(特に4サイクルエンジン)の燃焼制御装置に関する。」(段落【0001】)
(b)「【0006】図2に自己着火燃焼範囲を示す。図からわかるように、エンジン回転数と負荷で考えた領域において、主に低負荷側で自己着火燃焼を行い、その他の領域では火花点火燃焼を行っている。」(段落【0006】)
(c)「【0032】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。図6は本発明の第1実施形態の構成図である。図中の10のエンジンは、吸気バルブ11、排気バルブ12、ピストン13を含んで構成され、吸気系には吸気圧検出手段(吸気圧センサ)14、吸気温検出手段(吸気温センサ)15を有する。エンジンコントロールユニット(ECU)16は、吸気圧、吸気温の信号を考慮して、燃料噴射量、点火時期を算出し、算出結果に基づき、燃料噴射装置17、点火プラグ18に信号を送る。…(後略)…」(段落【0032】)
(d)「【0038】燃焼制御の方法の概略について説明する。本実施形態ではノッキング限界と安定度限界の略中央の自己着火成立範囲に燃焼パラメータすなわち過給圧、空燃比を制御する。これにより部品バラツキ等が発生した場合においても、燃焼パラメータを確実に自己着火成立範囲に制御することができる。」(段落【0038】)
(e)「【0044】このように、圧縮上死点の筒内温度と筒内圧力がわかれば、ノッキング限界空燃比と安定度限界空燃比が予測でき、圧縮自己着火の成立範囲が予測できる。ここで、内燃機関の幾何学的な形状およびバルブタイミングから圧縮比が分かっているとすれば、ポリトロープ変化に基づいて圧縮開始の筒内圧力、筒内温度から圧縮上死点の筒内圧力、筒内温度が予測できる。よって、圧縮開始の筒内圧力、筒内温度を吸気圧、吸気温からそれぞれ予測すると、吸気圧、吸気温から圧縮上死点の筒内圧力、筒内温度が予測できる。
【0045】これまで説明してきた手法を用いると、吸気圧(過給圧)と吸気温から、安定度限界空燃比、ノッキング限界空燃比を予測でき、安定度限界空燃比とノッキング限界空燃比の略中間的な空燃比を算出することができる。その結果、あるエンジン回転においては、図8、図7に示すような過給圧制御ライン、空燃比制御ラインに、過給圧、空燃比を制御でき、安定した自己着火燃焼運転が実現できる。
【0046】制御の流れを、図9のフローチャートにより説明する。先ずS20で吸気温Tinを検出する。次にS21で吸気温Tinから圧縮開始筒内温度T1を算出する。例えば以下の式で算出する。
【0047】T1=Tin+α
αは定数で、例えばα=30とするが、負荷に応じて与えてもよい。次にS22で要求エンジン回転数N、要求トルクTを検出する。S23でエンジン回転数N、圧縮開始筒内温度T1毎に設けられている吸気圧(過給圧)PinとトルクTのマップ(図8)を参照する。
【0048】S24で図8のマップから自己着火燃焼が可能かを判断する。自己着火燃焼が不可能な場合はS25で火花点火燃焼の制御を開始する。自己着火燃焼が可能と判断された場合は、S26で自己着火燃焼の制御を開始する。」(段落【0044】ないし【0048】)
(f)「【図1】 本発明の構成を示す機能ブロック図
【図2】 運転領域に対する燃焼形態を説明する図
【図3】 自己着火燃焼成立範囲の説明図
【図4】 ノッキング限界空燃比の特性図
【図5】 従来例の問題点を説明する図
【図6】 第1実施形態の構成図
【図7】 過給圧に対する自己着火が成立する空燃比範囲を説明する図
【図8】 過給圧に対する自己着火が成立するトルク範囲を説明する図
【図9】 第1実施形態の制御フロー図」(【図面の簡単な説明】)

(B)上記(A)及び図面から分かること
(a)上記(A)(a)ないし(d)から、引用文献に記載されたものは、「所定の自己着火運転領域で自己着火燃焼による運転を行なう一方、前記自己着火運転領域外の運転領域で火花点火燃焼による運転を行なう自己着火・火花点火式エンジン10の制御装置」に関するものであることが分かる。
(b)上記(A)(c)及び(e)から、「吸気圧検出手段(吸気圧センサ)14」及び「吸気温検出手段(吸気温センサ)15」によってそれぞれ検出された吸気圧(過給圧)と吸気温から圧縮上死点の筒内圧力及び筒内温度が予測でき、さらに、圧縮上死点の筒内圧力及び筒内温度からノッキング限界空燃比及び安定度限界空燃比が予測できることが分かる。そして、「ノッキング限界空燃比」はノッキング強度に相関するパラメータであり、「安定度限界空燃比」は燃焼安定度に相関するパラメータであるから、結局、「吸気圧検出手段(吸気圧センサ)14」及び「吸気温検出手段(吸気温センサ)15」によって「ノッキング強度に相関するノッキング限界空燃比」及び「燃焼安定度に相関する安定度限界空燃比」を検出しているといえる。

(C)上記(A)及び(B)並びに図面によると、引用文献には、
「所定の自己着火運転領域で自己着火燃焼による運転を行なう一方、前記自己着火運転領域外の運転領域で火花点火燃焼による運転を行なう自己着火・火花点火式エンジン10の制御装置において、
ノッキング強度に相関するノッキング限界空燃比を検出する吸気圧検出手段(吸気圧センサ)14及び吸気温検出手段(吸気温センサ)15と、
燃焼安定度に相関する安定度限界空燃比を検出する吸気圧検出手段(吸気圧センサ)14及び吸気温検出手段(吸気温センサ)15と、
前記2つの限界空燃比に基づいて自己着火燃焼が可能か否か判断するエンジンコントロールユニット(ECU)16と、
自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、火花点火燃焼の制御を開始するエンジンコントロールユニット(ECU)16と、
を備えた自己着火・火花点火式エンジン10の制御装置。」
という発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されている。

3.対比
本願発明と引用文献記載の発明を対比すると、引用文献記載の発明における「エンジン10」、「ノッキング限界空燃比」及び「安定度限界空燃比」は、本願発明における「内燃機関」、「第1の判断パラメータ」及び「第2の判断パラメータ」にそれぞれ相当する。
そして、引用文献記載の発明における「吸気圧検出手段(吸気圧センサ)14及び吸気温検出手段(吸気温センサ)15」は、本願発明における「第1検出手段」及び「第2検出手段」を兼用している。また、引用文献記載の発明における「前記2つの限界空燃比に基づいて自己着火燃焼が可能か否か判断するエンジンコントロールユニット(ECU)16と、自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、火花点火燃焼の制御を開始するエンジンコントロールユニット(ECU)16」は、「前記2つの判断パラメータに基づいて自己着火燃焼が可能か否か判断する判断手段と、自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、火花点火燃焼の制御を開始する手段」という限りにおいて、本願発明における「自己着火燃焼による運転を行なっているとき、前記2つの判断パラメータに基づいて自己着火燃焼を継続することが可能か否か判断する判断手段と、自己着火燃焼の継続が不可能であると判断されたとき、自己着火燃焼から火花点火燃焼へ燃焼形態を切り替える切替手段」に相当する。
したがって、本願発明と引用文献記載の発明は、
「所定の自己着火運転領域で自己着火燃焼による運転を行なう一方、前記自己着火運転領域外の運転領域で火花点火燃焼による運転を行なう自己着火・火花点火式内燃機関の制御装置において、
ノッキング強度に相関する第1の判断パラメータを検出する第1検出手段と、
燃焼安定度に相関する第2の判断パラメータを検出する第2検出手段と、
前記2つの判断パラメータに基づいて自己着火燃焼が可能か否か判断する判断手段と、
自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、火花点火燃焼の制御を開始する手段と、
を備えた自己着火・火花点火式内燃機関の制御装置。」
という発明で一致し、次の点で相違している。
本願発明においては、「自己着火燃焼による運転を行なっているとき」、「自己着火燃焼を継続することが可能か否か判断」し、「自己着火燃焼の継続が不可能であると判断されたとき、自己着火燃焼から火花点火燃焼へ燃焼形態を切り替える」のに対して、引用文献記載の発明においては、「自己着火燃焼が可能か否か判断」し、「自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、火花点火燃焼の制御を開始する」点。(「以下、「相違点」という。)

4.当審の判断
上記相違点について、以下に検討する。
引用文献記載の発明においては、「自己着火燃焼が可能か否か判断」し、「自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、火花点火燃焼の制御を開始する」ようにしている。そして、この引用文献記載の発明における、「自己着火燃焼が可能か否か判断」し、「自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、火花点火燃焼の制御を開始する」ことを「自己着火燃焼による運転を行なっているとき」に適用することに阻害要因はないから、上記相違点に係る本願発明の構成を得る程度のことは引用文献記載の発明から当業者が容易に想到することができたものである。
さらに、「自己着火燃焼による運転を行なっているとき」に、「自己着火燃焼が不可能であると判断されたとき、自己着火燃焼から火花点火燃焼へ燃焼形態を切り替える」ことは、周知の技術でもある(以下、「周知技術」という。必要であれば、例えば、特開昭58-88466号公報(特に、公報第3頁左下欄末行?同頁右下欄第4行の「予め設定した強度以上のノツキングが発生する燃焼状態の悪い時には、スイツチ回路33をオンにして点火時期検出回路21を動作させ、点火栓による発火動作を行なわせることによつて燃焼が改善される。」に注意。)、特開平11-6435号公報(特に、段落【0150】の「自己着火が不能、或いは、自己着火に移行しても適正時期で自己着火を行うことができず着火ミスや異常燃焼を来す虞のあるとき、若しくは、EGRによる吸気温度制御の不能時、すなわちFCOMP=0の強制点火制御時には、エンジン運転状態に応じて点火時期TADVが設定され、点火プラグ18の火花点火による強制点火が行われる。」に注意。)参照。)。してみれば、引用文献記載の発明に上記周知技術を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の構成を得る程度のことは、当業者が容易に想到することができたものである。
なお、「機関の振動を検出する振動検出器」によってノックの検出に加えて燃焼安定度である失火の判別を行うことは、周知である(要すれば、特開平2-99742号公報参照。)。
そして、本願発明の作用効果も、引用文献記載の発明さらには上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用文献記載の発明さらには上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明さらには上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-25 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-14 
出願番号 特願2000-387081(P2000-387081)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩瀬 昌治久島 弘太郎  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 金澤 俊郎
森藤 淳志
発明の名称 自己着火・火花点火式内燃機関の制御装置  
代理人 三好 秀和  

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