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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60B
管理番号 1188539
審判番号 不服2007-13027  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2008-11-27 
事件の表示 特願2000-309277号「車両用軸受装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年4月16日出願公開、特開2002-114004号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成12年10月10日の出願であって、平成18年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成19年2月26日に手続補正がなされ、同年3月30日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、請求人(出願人)は、平成19年5月7日に本件拒絶査定不服審判を請求するとともに、同年6月6日に手続補正(前置補正)をしたものである。

第2.平成19年6月6日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成19年6月6日の手続補正を却下する。

[理由]

1.補正後の本願発明
平成19年6月6日の手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 車体側に支持される複列転がり軸受に軸心周りで回転自在に支承した車輪取付け用のハブユニットと、該ハブユニットに前記軸心に沿うように形成された挿通孔に車両インナ側からスプライン嵌合する軸部を一端側に設け、他端側に駆動軸を前記ハブユニットに対して傾動可能に連動連結する等速ジョイントとにより構成するとともに、前記複列転がり軸受における内輪を前記等速ジョイント近くに配置し、かつ、この内輪の車両インナ側端面に、前記ハブユニットにおける車両インナ側端部を拡径した後かしめて前記ハブユニットと前記内輪とを一体化した車両用軸受装置であって、
前記内輪を車両インナ側からかしめるかしめ部の車両インナ側の前記軸心方向に沿う断面形状は、前記ハブユニットの車両インナ側端部をかしめたままで何らその端面を加工していない状態の車両インナ側に突出する凸曲面に形成し、前記等速ジョイントにおける前記ハブユニット側に対向する平坦な端面を前記かしめ部の凸曲面に接当させて押圧することで前記かしめ部と前記等速ジョイントの車両アウタ側端面とが全周にわたって面接触するように該凸曲面を微小に塑性変形させて平坦面にしていることを特徴とする車両用軸受装置。」
と補正された。

上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「凸曲面」に関して「前記ハブユニットの車両インナ側端部をかしめたままで何らその端面を加工していない状態」であることを限定し、「面接触する」ことに関して「全周にわたって」いることを限定するとともに、「塑性変形」に関して「微小」であることを限定するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願前に日本国内において頒布された特開平11-5404号公報(以下「引用文献」という。)には、図1?6とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「【0002】・・・(中略)・・・外とは、自動車への組み付け状態で幅方向外寄りとなる側を言い、図4を含む各図の左側となる。反対に幅方向中央寄りとなる側を内と言い、各図の右側となる。」
(イ)「【0005】これに対して、図5は、上述の様なハブに対して内輪を抑え付ける為のかしめ部を形成した構造を、自動車の駆動輪を懸架装置に対して支持する為の車輪支持用ハブユニットに適用したものである。この図5に示した駆動輪用の車輪支持用ハブユニット1aの場合には、ハブ13を円筒状に形成すると共に、このハブ13の内周面に雌スプライン部14を形成している。そして、この雌スプライン部14に、後述する等速ジョイント15と共に駆動部材を構成し、外周面に雄スプライン部を形成した駆動軸16を挿入している。」
(ウ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図5に示した駆動輪用の車輪支持用ハブユニット1aの場合、上述の様にハブ13と駆動軸16とを、ナット17の螺合・緊締に基づいて結合すると、かしめ部9の内端面と上記駆動軸16の基端部に形成した段部18の段差面19とが全周に亙り線接触する。即ち、図6に詳示する様に、上記かしめ部9の内端面の形状は、このかしめ部9を形成すべく、上記ハブ13の内端部に形成した円筒部8の内端部を直径方向外方に折り曲げる事に伴い、凸曲面になっている。・・・(中略)・・・
【0008】この様にかしめ部9の内端面と段差面19とが線接触する場合、上記ナット17の緊締力に基づいて上記かしめ部9の内端面に加えられる面圧が非常に大きくなる。・・・(中略)・・・上述の様に大きな面圧が加わった場合には、上記かしめ部9が塑性変形し易い。この様にかしめ部9が塑性変形した場合には、上記駆動軸16の先端部に螺合・緊締したナット17が緩む可能性がある。上述の様な原因による上記かしめ部9の塑性変形を防止すべく・・・(中略)・・・。本発明の車輪支持用ハブユニットは、この様な事情に鑑みて、等速ジョイント15の形状を複雑にする事なく、上記かしめ部の変形を防止すべく発明したものである。」
(エ)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の車輪支持用ハブユニットは、前述の図5に示した従来の車輪支持用ハブユニットと同様に、等速ジョイントと共に駆動部材を構成する駆動軸により、使用時に回転駆動されるハブと、このハブの外端部外周面に設けられ、このハブに車輪を支持固定する為のフランジと、上記ハブの中間部外周面に、直接又はこのハブとは別体の内輪を介して形成した第一の内輪軌道と、上記ハブの内端部に形成された、この第一の内輪軌道を形成した部分よりも外径寸法が小さくなった段部と、外周面に第二の内輪軌道を形成して上記段部に外嵌された内輪と、内周面に上記第一の内輪軌道に対向する第一の外輪軌道及び上記第二の内輪軌道に対向する第二の外輪軌道を有し、使用時に回転しない外輪と、この外輪を懸架装置に取り付けるべく、この外輪の外周面に設けられた取付部と、上記第一、第二の内輪軌道と上記第一、第二の外輪軌道との間に、それぞれ複数個ずつ設けられた転動体とを備える。そして、上記段部に外嵌した内輪は、上記ハブの内端部でこの段部に外嵌した内輪よりも突出した部分に形成した円筒部を直径方向外方にかしめ広げて形成したかしめ部により上記段部の段差面に向け抑え付けた状態で、上記ハブに結合固定している。」
(オ)「【0013】
【発明の実施の形態】図1?2は、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本発明の特徴は、ハブ13aに対して内輪3bを抑え付ける為のかしめ部9aが、このハブ13aの先端部の雄ねじ部に螺合したナット17の緊締に基づく軸方向荷重に基づいて塑性変形しない様にすべく、上記かしめ部9aの形状を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用に就いては、前述の図5に示した従来構造と同様であるから、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0014】上記ハブ13aの内端部に内輪3bを結合固定すべく、このハブ13aの内端部に形成したかしめ部9aの内端面には、コイニング加工或は旋削加工等を施す事により、上記ハブ13aの中心軸に対して垂直な、円輪状の平坦面21を形成している。・・・(中略)・・・そして、上記ハブ13aと、等速ジョイント15と共に駆動部材を構成する駆動軸16とを結合する場合には、上記かしめ部9aの内端面である円輪状の平坦面21に、上記駆動軸16の基端部、言い換えれば上記等速ジョンイント15の肩部に形成した段部18の段差面19を突き当てる。そして、この状態で、上記駆動軸16の先端部の雄ねじ部に螺合したナット17を緊締する事により、これらナット17と段部18との間で上記ハブ13aを挟持する。
【0015】・・・(中略)・・・本例の車輪支持用ハブユニットの場合、上述の様にハブ13aと駆動軸16とを結合した状態では、かしめ部9aの内端面と上記駆動軸16の基端部に形成した段部18の段差面19とが全周に亙り面接触する。従って、上記ナット17の緊締力に基づいて上記かしめ部9aの内端面に加えられる面圧を小さくできる。・・・(中略)・・・この為、上記かしめ部9aに、上記ナット17の緊締に基づいて大きな軸方向荷重が加えられた場合でも、このかしめ部9aが塑性変形する事は殆どない。従って、かしめ部9aによる内輪3bの抑え強度が低下したり、上記ハブ13aの先端部に螺合・緊締したナット17が緩む事はない。」
(カ)図1,2には、内輪3bを、等速ジョイント15と駆動軸16とから構成される駆動部材の近くに配置した態様が図示されている。
(キ)図5,6には、かしめ部9の自動車の幅方向内側の軸方向に沿う断面形状が自動車の幅方向内側に突出する凸曲面となる態様が図示されている。

上記記載事項(エ)及び図1,2の図示内容から、外輪4、内輪3b、転動体5等から「複列転がり軸受」が構成されているといえ、該複列転がり軸受は懸架装置に取り付けられるものであるといえる。また、ハブ13aは、その中間部外周面に内輪軌道11が形成され、使用時に回転駆動されるものであるので、複列転がり軸受に軸心周りで回転自在に支承したものであることは明かである。
上記記載事項(ア),(イ)及び図1,2の図示内容から、駆動部材は、ハブ13aに軸心に沿うように形成された内周面に自動車の幅方向内側からスプライン嵌合する駆動軸16を一端側に設け、他端側に等速ジョイント15を設けたものであることは明かである。
上記記載事項(ア),(エ)及び図1,2の図示内容から、内輪3bの自動車の幅方向内側の面に、ハブ13aの自動車の幅方向内側の円筒部8を直径方向外方にかしめ広げて、内輪3bをハブ13aに結合固定したといえる。
上記記載事項(オ)の「上記かしめ部9aの形状を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用に就いては、前述の図5に示した従来構造と同様である」及び「かしめ部9aの内端面には、コイニング加工等を施す事により、上記ハブ13aの中心軸に対して垂直な、円輪状の平坦面21を形成している」から、コイニング加工或は旋削加工等により平坦面21を形成する前におけるかしめ部9aは、従来構造と同様であるといえるので、上記記載事項(ア),(ウ),(キ)から、かしめ部9aを形成すべく、ハブ13aの自動車の幅方向内側の円筒部8を直径方向外方に折り曲げる事に伴い、かしめ部9aの自動車の幅方向内側の軸方向に沿う断面形状が自動車の幅方向内側に突出する凸曲面に形成しているといえる。そして、上記記載事項(ア),(オ)から、かしめ部9aと駆動部材の自動車の幅方向外側の段差面19とが全周に亙り面接触するように、凸曲面をコイニング加工等を施す事により平坦面21にしているといえる。

上記記載事項(ア)?(キ)、図面の図示内容、検討した事項を総合すると、引用文献には、「懸架装置に取り付けれる複列転がり軸受に軸心周りで回転自在に支承した車輪を支持固定するハブ13aと、該ハブ13aに前記軸心に沿うように形成された内周面に自動車の幅方向内側からスプライン嵌合する駆動軸16を一端側に設け、他端側に等速ジョイント15を設けた駆動部材とにより構成するとともに、前記複列転がり軸受における内輪3bを前記駆動部材の近くに配置し、かつ、この内輪3bの自動車の幅方向内側の面に、ハブ13aの自動車の幅方向内側の円筒部8を直径方向外方にかしめ広げて、内輪3bをハブ13aに結合固定した自動車の車輪支持用ハブユニットであって、前記内輪3bを自動車の幅方向内側からかしめるかしめ部9aを形成すべく、ハブ13aの自動車の幅方向内側の円筒部8を直径方向外方に折り曲げる事に伴い、かしめ部9aの自動車の幅方向内側の軸方向に沿う断面形状が自動車の幅方向内側に突出する凸曲面に形成し、かしめ部9aと駆動部材の自動車の幅方向外側の段差面19とが全周に亙り面接触するように該凸曲面をコイニング加工等を施す事により平坦面21にしている自動車の車輪支持用ハブユニット。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.本願補正発明と引用発明との対比
(1)両者の対応関係
引用発明の「懸架装置」は、その作用、機能からみて、本願補正発明の「車体側」に相当し、以下同様に、「車輪を支持固定する」「ハブ13a」は「車輪取付け用」「ハブユニット」に、「内周面」は「挿通孔」に、「自動車の幅方向内側」は「車両インナ側」に、「駆動軸16」は「軸部」に、「駆動部材」は「等速ジョイント」に、「内輪3b」は「内輪」に、内輪3bの「自動車の幅方向内側の面」は内輪の「車両インナ側端面」に、「自動車の幅方向内側の円筒部8」は「車両インナ側端部」に、「かしめ部9a」は「かしめ部」に、「自動車の幅方向外側の段差面19」は「車両アウタ側端面」に、「平坦面21」は「平坦面」に、「自動車の車輪支持用ハブユニット」は「車両用軸受装置」に、各々相当する。
また、引用発明の「懸架装置に取り付けれる」との事項は、その作用、機能からみて、本願補正発明の「車体側に支持される」との事項に相当し、引用発明の「この内輪3bの自動車の幅方向内側の面に、ハブ13aの自動車の幅方向内側の円筒部8を直径方向外方にかしめ広げて、内輪3bをハブ13aに結合固定した」との事項は、その作用、機能からみて、本願補正発明の「この内輪の車両インナ側端面に、前記ハブユニットにおける車両インナ側端部を拡径した後かしめて前記ハブユニットと前記内輪とを一体化した」との事項に相当し、引用発明の「前記内輪3bを自動車の幅方向内側からかしめるかしめ部9aを形成すべく、ハブ13aの自動車の幅方向内側の円筒部8を直径方向外方に折り曲げる事に伴い、かしめ部9aの自動車の幅方向内側の軸方向に沿う断面形状が自動車の幅方向内側に突出する凸曲面に形成し」との事項は、その作用、機能からみて、本願補正発明の「前記内輪を車両インナ側からかしめるかしめ部の車両インナ側の前記軸心方向に沿う断面形状は、前記ハブユニットの車両インナ側端部をかしめたままで何らその端面を加工していない状態の車両インナ側に突出する凸曲面に形成し」との事項に相当する。
さらに、コイニング加工は塑性加工の一種であるので、引用発明の「該凸曲面をコイニング加工等を施す事により平坦面21にしている」との事項は、本願補正発明の「該凸曲面を微少に塑性変形させて平坦面にしている」との事項と、「該凸曲面を塑性変形させて平坦面にしている」との事項において共通する。
すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

(2)両者の一致点
「車体側に支持される複列転がり軸受に軸心周りで回転自在に支承した車輪取付け用のハブユニットと、該ハブユニットに前記軸心に沿うように形成された挿通孔に車両インナ側からスプライン嵌合する軸部を一端側に設ける等速ジョイントとにより構成するとともに、前記複列転がり軸受における内輪を前記等速ジョイント近くに配置し、かつ、この内輪の車両インナ側端面に、前記ハブユニットにおける車両インナ側端部を拡径した後かしめて前記ハブユニットと前記内輪とを一体化した車両用軸受装置であって、
前記内輪を車両インナ側からかしめるかしめ部の車両インナ側の前記軸心方向に沿う断面形状は、前記ハブユニットの車両インナ側端部をかしめたままで何らその端面を加工していない状態の車両インナ側に突出する凸曲面に形成し、前記かしめ部と前記等速ジョイントの車両アウタ側端面とが全周にわたって面接触するように該凸曲面を塑性変形させて平坦面にしている車両用軸受装置。」

(3)両者の相違点
a.相違点1
等速ジョイント(駆動部材)に関して、本願補正発明では「他端側に駆動軸を前記ハブユニットに対して傾動可能に連動連結する」ものであるのに対し、引用発明では他端側に等速ジョイント15を設けたものであるものの、駆動軸について明確ではない点。

b.相違点2
かしめ部に関して、本願補正発明では、「前記等速ジョイントにおける前記ハブユニット側に対向する平坦な端面を前記かしめ部の凸曲面に接当させて押圧することで前記かしめ部と前記等速ジョイントの車両アウタ側端面とが全周にわたって面接触するように該凸曲面を微小に塑性変形させて平坦面にしている」のに対し、引用発明では、かしめ部9aと駆動部材の自動車の幅方向外側の段差面19とが全周に亙り面接触するように該凸曲面をコイニング加工等を施す事により平坦面21にしているものの、駆動部材の段差面19をかしめ部9aの凸曲面に接当させて押圧するものではなく、また該凸曲面を微少に塑性変形させて平坦面にしているのか否かが明確ではない点。

4.相違点の検討
(1)相違点1について
車輪用軸受装置において、等速ジョイントの他端側に駆動軸をハブユニットに対して傾動可能に連動連結することは常套手段であり、引用発明において上記常套手段を付加することを妨げる特段の技術的事情も見あたらないので、引用発明において上記常套手段を適用して、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
引用文献(上記記載事項(ウ),図5,6)には、車輪支持用ハブユニットの従来の技術として、駆動軸16の基端部に形成した段部18の段差面19をかしめ部9の凸曲面に接触させてナット17を緊締し、大きな面圧が加わった場合には、かしめ部9の凸曲面が塑性変形する事項が記載されている。
そして、引用文献(上記記載事項(ウ),(オ))には、ナットが緩むような塑性変形を防止することが記載されているものの、かしめ部の凸曲面を塑性変形させて平坦面にすることを阻害するものではないので、引用発明において、かしめ部の凸曲面を塑性変形させる手段として、上記従来の技術の事項を採用して、平坦面にすることは、当業者にとって格別困難とはいえない。また、塑性変形を微少なものとすることも、当業者が適宜その程度を設定する事項である。
よって、引用発明において、上記従来の技術を採用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(3)本願補正発明について
そして、本願補正発明全体による作用効果について検討しても、引用発明、常套手段及び上記従来の技術から当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、常套手段及び上記従来の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成19年6月6日の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成19年2月26日の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 車体側に支持される複列転がり軸受に軸心周りで回転自在に支承した車輪取付け用のハブユニットと、該ハブユニットに前記軸心に沿うように形成された挿通孔に車両インナ側からスプライン嵌合する軸部を一端側に設け、他端側に駆動軸を前記ハブユニットに対して傾動可能に連動連結する等速ジョイントとにより構成するとともに、前記複列転がり軸受における内輪を前記等速ジョイント近くに配置し、かつ、この内輪の車両インナ側端面に、前記ハブユニットにおける車両インナ側端部を拡径した後かしめて前記ハブユニットと前記内輪とを一体化した車両用軸受装置であって、
前記内輪を車両インナ側からかしめるかしめ部の車両インナ側の前記軸心方向に沿う断面形状は、車両インナ側に突出する凸曲面に形成し、前記等速ジョイントにおける前記ハブユニット側に対向する平坦な端面を前記かしめ部の凸曲面に接当させて押圧することで前記かしめ部と前記等速ジョイントの車両アウタ側端面とが面接触するように該凸曲面を塑性変形させて平坦面にしていることを特徴とする車両用軸受装置。」

2.引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献とその記載事項は、上記「第2.2.引用文献及びその記載事項」に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
実質的に本願発明の構成を全て含むと共に、当該発明の構成に、更に「凸曲面」に関して「前記ハブユニットの車両インナ側端部をかしめたままで何らその端面を加工していない状態」であること、「面接触する」ことに関して「全周にわたって」いること、「塑性変形」に関して「微小」であることを限定付加していると認められる本願補正発明が、前記「第2.3.本願補正発明と引用発明との対比」及び「第2.4.相違点の検討」に記載したとおり、引用発明、常套手段及び上記従来の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を上位概念化した本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明、常套手段及び上記従来の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-25 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-14 
出願番号 特願2000-309277(P2000-309277)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60B)
P 1 8・ 575- Z (B60B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小関 峰夫  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 岸 智章
柴沼 雅樹
発明の名称 車両用軸受装置およびその製造方法  
代理人 岡田 和秀  

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