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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1188573
審判番号 不服2006-17028  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-07 
確定日 2008-11-25 
事件の表示 平成 9年特許願第196361号「導電性深延伸軟質フイルム」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月 7日出願公開、特開平10- 87850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.出願手続の経緯
本願は、平成9年7月8日(優先権主張 1996年7月11日、1996年7月30日、1997年1月8日 ドイツ(DE))の特許出願であり、平成17年8月19日付けで拒絶理由が通知され、同年11月30日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成18年4月26日付けで拒絶査定がなされたところ、同年8月7日に審判請求がなされ、同年10月26日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成17年11月30日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 熱もしくは機械的に成形可能な結合剤と3,4-ポリエチレンジオキシチオフェンの混合物の透明な帯電防止被膜を有する熱および機械的に成形可能なポリマーフィルムであって、該結合剤が該被覆されたポリマーよりも低い軟化温度を有することを特徴とするポリマーフィルム。」

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原審において拒絶査定の理由とされた平成17年8月19日付けの拒絶理由通知の理由Iの概要は、「請求項1に係る発明は下記の引用文献1ないし4に、請求項3に係る発明は下記の引用文献3ないし4に、請求項4に係る発明は下記の引用文献1に、それぞれ記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

1.特開平01-313521号公報
2.特開平06-264024号公報
3.特開平09-031222号公報
4.特開平09-131843号公報 」というものである。
なお、上記拒絶理由は願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲請求項1?4に係る発明に対して通知されたものである。

第4.刊行物に記載された事項
引用文献1:特開平01-313521号公報
(ア)「1.下記式


式中
Aは随時置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキレン基を表す、
の構造単位を含むポリチオフェン類。」(特許請求の範囲請求項1)
(イ)「本発明は電気伝導性の高い、新規なポリチオフェン類、その対応するチオフェンの酸化重合による製造法、及び電流を僅かしか、又は全く伝えない物質、特にプラスチック成型物に制電性を与える為に、そして又再充電が可能な電池類の電極として使用されるポリチオフェンの使用に関する。」(第1頁左下欄下から6?最終行)
(ウ)「随時置換されていて良いC_(1)-C_(4)-アルキレン基の好ましい代表的なものを挙げると、α-オレフィン、例えばエテン、1-プロペン、1-ヘキセン、1一オクテン、1-デセン、1-ドデンセン及びスチレンの臭素化で得ることが出来る様な1,2-ジブロモアルカンから誘導される1,2-アルキレン、更にl,2-シクロヘキシレン、2,3-ブチレン、2,3-ジメチレン2,3-ブチレン及び2,3-ペンチレン基を挙げることが出来る。好ましい基はメチレン、l,2-エチレン、及び1,2-プロピレンである。」(第2頁左下欄下から4行?同頁右下欄6行)
(エ)「本発明は、更にこれらポリチオフェン類の製造法、即ち下記式


式中
Aは式(I)で示した意味を有する、
の3,4-ジ-置換チオフェン類を、使用する条件で不活性である有機溶媒中、酸化重合に適した酸化剤を使用するか、又は電気化学的に酸化して重合させる事を特徴とする方法に関する。」(第2頁右下欄7?下から3行)
(オ)「それ故、本発明は更に電流を僅かしか又は全く伝えない基体に、特にプラスチック成型品に、導電性有機ポリマー塗料を基体の表面に塗布することによって制電性を与える方法に関する。本方法は、下記式


式中
Aは随時置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキレン基、好ましくは随 時アルキル置換されていて良いメチレン基、随時C_(1)-C_(12)-アルキル -又はフェニル置換されていて良い1,2-エチレン基、又は1,2- シクロヘキシレン基を表す、
の構造単位から構成されるポリチオフェン類被膜を、基体表面に酸化重合によって製造することを特徴とする。」(第3頁左上欄12行?同頁右上欄10行)
(カ)「チオフェン及び酸化剤を一緒に塗布する時は、チオフェン及び酸化剤を含む一つの溶液を、処理をする基体に塗布する。両者を一緒に塗布する場合、チオフェンが一部蒸発するので、チオフェン減少量をあらかじめ予測してその分酸化剤を減らして溶液に添加する。
更に同溶液は、有機溶剤に溶解する有機結合剤、例えばポリビニール酢酸、ポリカーボネート、ポリビニール酪酸、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニール、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、シリコーン樹脂、及び有機溶剤に可溶なピロール/アクリレート、酢酸ビニール/アクリレート、エチレン/酢酸ビニール共重合体を含むことが出来る。」(第4頁右上欄11行?同頁左下欄5行)
(キ)「本発明の方法によって制電性又は導電性を与えることの出来る基体としては、例えば有機プラスチックから製造される成型物、特にポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニール、及びポリエステルであるが、無機材料、例えばセラミックス、例えば酸化アルミニウム、2酸化珪素、及びガラスも、本発明の方法によって制電性を与えることが可能である。」(第4頁左下欄下から6行?同頁右下欄3行)
(ク)「本発明の方法をプラスチックフィルムに制電性を付与するのに使用するとき、工業的に特に興味深い実施態様は塗布フィルムの熱処理とフィルムの機械的変形(加工)を同時に行うことである。この種の熱処理及び機械的加工の同時実施は、熱成型によるプラスチックフィルムからの、プラスチック成型品の製造で行われる。」(第5頁左上欄4?10行)
(ケ)「本発明の方法の、プラスチック成型物、特にプラスチックフィルムに制電性を与えるための特に有利な実施態様は、チオフェンと酸化剤を別々に、即ち、最初に酸化剤を、水に不溶な、又は難溶な有機結合剤を含む有機溶媒に溶かした溶液を、制電性を与えるプラスチック成型物に塗布し、その塗膜から有機溶媒を除去、酸化剤を塗布したプラスチック成型物に、制電性を与えるプラスチック材料、プラスチック表面に塗布した結合剤及び酸化剤を溶解しない有機溶媒に溶解したチオフェン溶液を塗布、成型物に塗布した被膜から有機溶媒を除去、そして最後にこうして得られた塗膜から重合で結合しなかった無機化合物、例えば使用されなかった酸化剤を水で洗って除去することである。
チオフェンと酸化剤をを一緒に塗布した場合、特に酸化剤として第2鉄塩を使用し、これらの鉄塩が、制電性プラスチック成型物を更に使用する際に、塗膜中で邪魔をする時、特に制電性フィルムが電子部品の梱包に使用される場合は、溶媒除去後に得られた塗膜を水洗する。」(第5頁左上欄下から4行?同頁右上欄下から4行)
(コ)「本発明の方法は、例えばポリエステル、ポリカーボネート及びポリアミドの制電性プラスチックフィルムを製造するのに特に適している。得られたフィルムは透明で、そして制電性は耐久性がある為、機械的にあるいは熱的にストレスがかかる様な条件下でも、本発明の制電性プラスチックフィルムは、熟成型による透明包装部品の製造に適している。」(第5頁右上欄下から3行?同頁左下欄5行)
(サ)「実施例 3
1gの3,4-エチレンジオキシチオフェン、5gのp-トルエンスルホン酸第2鉄、及び5gのポリ(酢酸ビニール)を25gのイソプロパノール-アセトン1:1混合物に溶解した溶液を、室温でポリカーボネートフィルムに手塗り器で塗布する。得られたフィルムは室温で、重量が一定になる迄乾燥する。
この方法で得たフィルムの表面抵抗(Rs)は1,000Ωであった。
このフィルムサンプルを180℃で10秒間加熱、得られたフィルムの表面抵抗は120Ωであった。フィルムは室温ででも、又180℃で熱処理した後も透明であった。」(第7頁右上欄下から5行?同頁左下欄9行)
(シ)「実施例 7
0.25gの3,4-エチレンジオキシ-チオフェン、1gのp-トルエンスルホン酸第2鉄及び1gのポリ酢酸ビニールを18gのイソプロパノール-アセトン2:1混合溶媒に溶解した溶液を手塗り器を用いてポリカーボネートフィルムに塗布し(湿潤塗膜厚さ:約25μm、乾燥塗膜厚さ1ないし2μmに相当)。60ないし80℃で溶媒除去(乾燥)後、塗膜を流水で、洗浄水が実質的にFe^(3+)を含まなくなる迄洗浄する。
透明フィルムが得られ、表面抵抗(Rs)は350Ωであった。
フィルムサンプルを180℃で5秒間加熱した。フィルムの表面抵抗(Rs)はこの熱処理で20Ωに低下した。」(第8頁左上欄7行?同頁右上欄1行)

第5.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、その特許請求の範囲に「下記式


式中
Aは随時置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキレン基を表す、
の構造単位を含むポリチオフェン類。」(摘示記載(ア))が記載されており、そのポリチオフェン類をプラスチック成型物に制電性を与えるために使用すること(摘示記載(イ)、(オ)、(ク)?(コ))、その制電性を与える方法として、チオフェン類と酸化剤を含有する溶液をプラスチックフィルム表面に塗布し、酸化重合によってフィルム表面に当該ポリチオフェン類被膜を製造すること((エ)、(オ)、(キ)?(シ))が記載され、そのチオフェン類としてA=エチレン基のチオフェン、即ち、3,4-エチレンジオキシチオフェン(摘示記載(ウ)、(エ)、(サ)、(シ))が記載されている。
当該3,4-エチレンジオキシチオフェンを酸化重合することにより得られるポリチオフェン類被膜は、ポリ-(3,4-エチレンジオキシチオフェン)被膜である。
さらに、引用文献1には、その被膜製造に際して、塗布溶液にポリビニール酢酸等の有機結合剤を含有させること(摘示記載(カ)、(サ)、(シ))、使用されなかった酸化剤は除去されること(摘示記載(ケ)、(シ))、得られたフィルムは透明で、制電性であること(摘示記載(コ)、(シ))が記載されている。
これらの記載を勘案すると、引用文献1においては、有機結合剤と3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを含有する溶液をプラスチックフィルム表面に塗布し、酸化重合し、酸化剤を除去することにより、有機結合剤とポリ-(3,4-エチレンジオキシチオフェン)混合物の被膜が当該フィルム上に製造されているものと認められ、当該被膜は透明で制電性と解される。
したがって、引用文献1には「有機結合剤とポリ-(3,4-エチレンジオキシチオフェン)混合物の透明な制電性被膜を有するポリマーフィルム。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

第6.対比・判断
1.対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
本願発明1の帯電防止被膜はフィルムに導電性を与えるものであるところ、引用発明1の制電性被膜はこれと同様の作用を有するものである(摘示記載(イ)、(オ))から、引用発明1の制電性被膜は、本願発明1の帯電防止被膜に相当するものである。
また、引用発明1のポリ-(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は、本願発明1の3,4-ポリエチレンジオキシチオフェンに相当する。
したがって、両者は「結合剤と3,4-ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する混合物の透明な帯電防止被膜を有するポリマーフィルム。」である点で一致し、次の相違点1乃至3で一応相違する。

【相違点1】本願発明1のポリマーフィルムは、「熱および機械的に成形可能な」と特定されているのに対し、引用発明1ではかかる特定はなされていない点。
【相違点2】本願発明1の結合剤は、「熱もしくは機械的に成形可能な」と特定されているのに対し、引用発明1ではかかる特定はなされていない点。
【相違点3】本願発明1の結合剤は、「被覆されたポリマーよりも低い軟化温度を有する」と特定されているのに対し、引用発明1ではかかる特定はなされていない点。

2.相違点に対する判断
(1)相違点1について
引用文献1には、塗布フィルムの熱処理とフィルムの機械的変形(加工)を同時に行うこと(摘示記載(ク))及び得られたフィルムは機械的にあるいは熱的にストレスがかかる様な条件下でも、熱成型による透明包装部品の製造に適していること(摘示記載(コ))が記載されており、これらの記載からみて、引用発明1のポリマーフィルムが熱および機械的に成形できるものであり、成形可能であることは明らかである。
さらに、引用文献1において基体として例示されているポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニール、及びポリエステルフィルムは、本願明細書段落【0024】において基礎のポリマーフィルムのポリマー成分として例示されているものであることに鑑みても差異があるとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

(2)相違点2について
上記(1)相違点1についてで述べたように、引用発明1のポリマーフィルムは熱および機械的に成形可能なものである。
当該ポリマーフィルムは、基材となるプラスチックフィルムと帯電防止被膜とからなるものであるから、そのポリマーフィルムが熱および機械的に成形可能であるということは、その基材及び帯電防止被膜がともに熱および機械的に成形可能であると解され、さらに、その帯電防止被膜の構成成分である結合剤についても、同様に熱および機械的に成形可能なものと解するのが相当であるから、当然に熱もしくは機械的に成形可能なものと解される。
この点については、引用文献1において有機結合剤として例示されているポリビニール酢酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニール(摘示記載(カ)、(サ))が、本願明細書段落【0013】?【0014】において適切な成形可能な結合剤として例示されているものであることからも、明らかである。
したがって、相違点2も実質的な相違点とはいえない。

(3)相違点3について
本願明細書の実施例には、その結合剤とポリマーフィルムの軟化温度は記載されておらず、軟化点を考慮して特別な結合剤とポリマーフィルムを選択したものとも認められないことに鑑みるに、当該実施例の結合剤とポリマーフィルムの組み合わせを選択することにより、結合剤が「被覆されたポリマーよりも低い軟化温度を有する」との条件(以下、「軟化温度条件」という。)を自ずと満足するものと解さざるを得ない。
仮に、当該結合剤とポリマーフィルムの組み合わせであって、軟化温度条件を満足しない場合があるとしても、当該結合剤とポリマーフィルムの組み合わせは、当該条件を満足する組み合わせを排除するものではないから、当該条件を満足する組み合わせを包含するものである。
そして、上記(1)、(2)において述べたように、引用発明1の有機結合剤とポリマーフィルム成分は、本願発明1の結合剤とポリマーフィルムに各々重複・一致するものである。
さらに、引用文献1には、その実施例3及び7において、3,4-エチレンジオキシチオフェンとポリビニール酢酸(結合剤)の混合溶液をポリカーボネートフィルムに塗布し、被覆を形成すること(摘示記載(サ)、(シ))も具体的に記載されているが、当該実施例は、本願明細書の実施例1とその結合剤とポリマーフィルムとの組み合わせを同じくするものである。
したがって、引用発明1は、結合剤が「被覆されたポリマーよりも低い軟化温度を有する」との条件を満足する、結合剤とポリマーフィルムの組み合わせを包含しているといえる。
したがって、相違点3も実質的な相違点とはいえない。

3.まとめ
よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明である。

なお、審判請求人は審判請求書において補正案を提示している。
この補正案は本願発明1のポリマーフィルムに更に「帯電防止効果の損失なしに深延伸成形品を製造するための」との限定を付すものである。
しかしながら、ポリマーフィルムという物の発明において、「帯電防止効果の損失なしに深延伸成形品を製造するための」との事項は、用途を限定するものとはいえず、ポリマーフィルムを何ら限定するものとはいえない。
仮に、これが用途を限定するものであるとしても、「帯電防止効果の損失なしに」とはその程度が不明であり、また、深延伸とはどの程度の延伸を意味するのかも不明であるから、かかる限定を付すことは、発明を不明確にするものである。
したがって、当該補正案を検討しても、上記判断を覆すに足る事情は認められない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることはできない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-09 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-07-02 
出願番号 特願平9-196361
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治天野 宏樹  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 野村 康秀
前田 孝泰
発明の名称 導電性深延伸軟質フイルム  
代理人 小田島 平吉  
代理人 小田島 平吉  

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