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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1188821 |
審判番号 | 不服2005-23120 |
総通号数 | 109 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-12-01 |
確定日 | 2008-12-04 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第105559号「放電ランプの始動及び作動方法及び回路装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月22日出願公開、特開平 8-306493号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年4月25日(パリ条約による優先権主張1995年4月27日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成17年8月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月1日に審判請求がなされるとともに同年12月27日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成17年12月27日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年12月27日付け手続補正を却下する。 [理由] 平成17年12月27日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、請求項1について、「高圧放電ランプ」を「放電ランプ」とするとともに、「高圧放電ランプ(EL)にインダクタンス(L)を直列接続し、前記高圧放電ランプに始動作動状態中給電される電流が、定格作動状態中の電流の周波数よりも高い周波数を有するようにし、該手段の結果、前記始動作動状態中の前記インダクタンス(L)及び高い周波数により、前記始動作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流は、「1」より大きくて、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流の波形率よりも大きな波形率(比 I_(eff1)/I_(gl))を有している」との限定を、「放電ランプ(EL)に直列接続されたインダクタンス(L)を飽和領域で作動し、前記インダクタンス(L)が前記飽和領域の外側で作動される場合、始動作動状態中、波形率「1」の電流に対して約1.13倍の波形率を有するランプ作動電流を調整し、前記インダクタンス(L)が前記飽和領域で作動される場合、波形率「1」の電流に対して約1.45倍の波形率を有するランプ作動電流を調整する」とするものであるが、「放電ランプ」としたことにより「高圧放電ランプ」以外の放電ランプをも含むことになり、また、「高圧放電ランプに始動作動状態中給電される電流が、定格作動状態中の電流の周波数よりも高い周波数を有するようにし」との限定を削除していることにより始動作動状態中給電される電流が、定格作動状態中の電流の周波数よりも高い周波数を有さないものも含むことになるから、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的としてなされたものとは認められず、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に該当しない。しかも、本件補正は同第1号に掲げられた請求項の削除、同第3号に掲げられた誤記の訂正、同第4号に掲げられた明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的としてなされたものに該当しないことも明らかである。 したがって、上記本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定された要件に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 なお、上記の点に関し、請求人は平成19年9月6日付けの審尋に対する回答書中で、「当該補正は、原査定時の請求項1に記載された「高圧放電ランプに始動作動状態中給電される電流が、定格作動状態中の電流の周波数よりも高い周波数を有するようにし」との、始動作動状態中の周波数に関する事項を削除するものではなく、出願時明細書の段落0015に「始動作動状態中、ランプ電流の周波数は、定格作動状態の周波数よりも大きく選定される。例えば、図2の回路構成によると、1より大きい波形率が形成される。」と記載されているように、当該事項は、当該補正により、「始動作動状態中、波形率「1」の電流に対して約1.13倍の波形率を有するランプ作動電流を調整し」の要件として記載されており、当該補正は、補正前発明の発明特定事項を概念的に下位にしたものであります。」と主張しているが、波形率は波形によりきまるものであり、周波数とは関係ない値なので、該請求人の主張は採用できない。 3.本願発明について (1)本願発明 平成17年12月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成17年7月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「高圧放電ランプ(EL)の始動及び作動方法であって、前記高圧放電ランプには、始動作動状態中前記高圧放電ランプの点灯後、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される定格電流の実効値よりも高い実効値(I_(eff1))の電流が給電される方法において、 高圧放電ランプ(EL)にインダクタンス(L)を直列接続し、前記高圧放電ランプに始動作動状態中給電される電流が、定格作動状態中の電流の周波数よりも高い周波数を有するようにし、該手段の結果、前記始動作動状態中の前記インダクタンス(L)及び高い周波数により、前記始動作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流は、「1」より大きくて、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流の波形率よりも大きな波形率(比 I_(eff1)/I_(gl))を有していることを特徴とする方法。」 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-54990号公報(平成5年3月5日公開、以下「引用例1」という。)には、「放電灯点灯装置」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【目的】直流電源の電流制限機能を活用し、放電ランプと直列のチョークコイルがインダクタンスの小さなものでも低い周波数の矩形波電流でランプを安定点灯させる。」 ・「【請求項1】 出力電圧制御手段と出力電流制御手段を有する直流電源と、前記直流電源の出力端に接続され、負荷出力の電流をある期間毎に反転する電流反転手段と、前記電流反転手段の負荷として接続された放電ランプとを有し、前記直流電源の出力端には小容量の平滑コンデンサを接続または前記平滑コンデンサを省略し、前記放電ランプの起動時または起動から所定の期間までは前記出力電圧制御手段により、かつ起動後または前記所定の期間の終了後は前記出力電流制御手段により前記直流電源を動作させるように構成したことを特徴とした放電灯点灯装置。 【請求項2】 直流電源の出力電流制御手段は、前記直流電源の出力電流上限値を放電ランプ始動時には前記放電ランプの定格電流値以上に設定するように制御する請求項1記載の放電灯点灯装置。 【請求項3】 放電ランプに直列に接続された誘導性のインピーダンス素子を有し、電流反転手段は電流反転のためのスイッチ素子と前記スイッチ素子をオン・オフして電流反転を制御するドライブ手段を有し、前記ドライブ手段が前記放電ランプ始動時には前記放電ランプ定常点灯時に比べて高い周波数で前記スイッチ素子をオン・オフする請求項1または2記載の放電灯点灯装置。」 ・「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、メタルハライドランプなどの放電ランプの点灯を制御する放電灯点灯装置に関する。」 ・「【0013】 【作用】上記構成の本発明の放電灯点灯装置は、直流電源が出力電圧制御手段と出力電流制御手段を有するとともに、小容量の平滑コンデンサを備えており、放電ランプの起動時または起動から所定の期間まではこの出力電圧制御手段を用いて、放電ランプの電極間の絶縁破壊に必要な電圧を供給し、起動後または前記所定の期間の終了後は出力電流制御手段を用い、放電ランプに定格以上の電流を流し、発光の立ち上がりを速やかにするとともに、負荷電流の遮断時に平滑コンデンサを速やかに充電する。この平滑コンデンサは充電電圧を早期に回復するので、放電ランプの再点弧電圧が補償され点灯が安定する。」 ・「【0053】つぎに、本発明の第5の実施例を添付図面に基づいて説明する。図5は第5の実施例の放電灯点灯装置の回路図である。第1の実施例と構成上で異なる点はランプ電圧検出回路23を設置し、その出力信号を、直流電源回路18のFET3を駆動するドライブ回路8Aとフルブリッジインバータ回路19のFET11,12,13,14を駆動するドライブ回路17Cに入力するラインを設けたところである。 【0054】このような構成の第5の実施例の動作を説明する。放電ランプ始動時の光立ち上がりを早くするには、始動時に大きなランプ電力を供給する必要がある。また、光出力をほぼ一定の状態に保ちながら定格点灯に移行させるためには、ランプ特性を検出しながらランプ電力を始動時の最大値から放電ランプ16の定格電力値にまで徐々に下げていく必要がある。そこで本実施例では直流電源回路18の出力電流上限値を、ドライブ回路8Aにより放電ランプ16の定格電流値より上げておき、ドライブ回路17Cにより点灯周波数を変えることにより、放電ランプ始動時のランプ電流をチョークコイル15の電流制限機能で制御するのであるが、小さなインダクタンスのチョークコイル15でランプ電流を制限するため始動時機の点灯周波数は定常点灯時の点灯周波数より高くなる。また、始動時のランプ電流波形は三角波となる。 【0055】まず、放電ランプ16の始動電流の最大値が流せるように始動時の点灯周波数と始動時の直流電源回路18の出力電流上限を設定する。そしてランプ電圧検出回路23でランプ電圧を検出しながらそのランプ電圧に応じてドライブ回路17Cが点灯周波数を高くすることにより、ランプ電流は制限され定格電流に近づいていく。 【0056】つぎに、ランプ電流を始動電流の最大値から定格電流値に下げていく過程で点灯周波数が音響的共鳴現象の起こる周波数まで上がっていく場合は、音響的共鳴周波数になる前にランプ電圧検出回路23の信号に応じてドライブ回路8Aにより直流電源回路18の出力電流上限値を下げていく。そして直流電源回路18の出力電流の上限値を定格ランプ電流値近傍に下げ、その後点灯周波数を低周波にして放電ランプ16を定常点灯させる。 【0057】定常点灯時はランプ電圧検出回路23でランプ電圧を検出して、ランプ電力が定格電力近傍になるよう直流電源回路18の出力電流上限値を制御する。このように本発明の第5の実施例によれば、第1、第3、第4の実施例の効果の他に放電ランプ始動時に直流電源回路18の出力電流の上限値をあげ、放電ランプ16に直列のチョークコイル15で電流制限することにより、光の立ち上がりを速くすることができる。ここで、第1の実施例のように直流電源回路18の出力電流上限値の制御だけで始動電流を流すとなれば直流電源回路18の体積が大きくなる。つまり、第1の実施例は放電ランプ16に大きな始動電流を流すときにも矩形波点灯であるため、直流電源回路18の出力電流の平均値がランプ電流の実効値に等しい。これに対し、本実施例のように始動時に点灯周波数を高くしてチョークコイル15のインピーダンスを大きくする場合は、三角波点灯となりインピーダンスが上昇する分だけ直流電源回路18の出力電圧が高くなる。この場合、直流電源回路18の出力電力が、フルブリッジインバータ回路19での損失があるためにランプ電力以上になるのは第1の実施例と同じであるが、直流電源回路18の出力電圧が高くなる分だけ出力電流を少なくすることができる。すなわち、直流電源回路18の出力電流の平均値はランプ電流の実効値より小さい。直流電源回路18の出力電流が減ると、直流電源回路18内を流れる電流値は小さくなり、よって直流電源回路18を構成するトランス、チョークコイル、FET、ダイオードに流れる電流の最大値も小さくなるので、これらの部品を小型化できるとともに、直流電源回路18の効率を上昇させることができる。また、放電ランプ16の始動時の直流電源回路18の出力電圧が第1の実施例より高くできる分だけ、始動時の再点弧補償を確実に行える。」 ・「【0062】つぎに、本発明の第6の実施例を添付図面に基づいて説明する。その構成は第5の実施例と同じでありその回路図は図5にあたる。つぎに第6の実施例の動作を説明すると、第5の実施例では始動時に大きなランプ電力を供給するため点灯周波数を変化させたが、本実施例では始動時の周波数は定常時よりも高い周波数でほぼ一定になるように設定し、直流電源回路18の出力電流の上限値を変化させることにより始動電力を制御する方式をとる。ここで、定常時よりも高い周波数に設定するのは第5の実施例の場合と同じ理由による。 【0063】まず、放電ランプ16の始動電流の最大値が流せるように始動時の点灯周波数と始動時の直流電源回路18の出力電流上限値を設定する。そしてランプ電圧検出回路23でランプ電圧を検出しながらそのランプ電圧に応じて直流電源回路18の出力電流上限値を小さくすることにより、ランプ電流は制限された定格電流に近づいていく。そして、直流電源回路18の出力電流を小さくしていきランプ電流がその定格値付近になったところで、低周波の矩形波になるよう点灯周波数を下げる。」 これらの記載によると、引用例1には、 「メタルハライドランプなどの放電ランプの点灯を制御する方法であって、放電ランプの起動後または起動から所定の期間の終了後、放電ランプに定格以上の電流を流し、つぎに、ランプ電流を始動電流の最大値から定格電流値に下げていく方法において、放電ランプに誘導性のインピーダンス素子を直列に接続し、放電ランプ始動時には放電ランプ定常点灯時に比べて高い周波数でスイッチ素子をオン・オフし、始動時のランプ電流波形は三角波となり、その後低周波の矩形波になるよう点灯周波数を下げ放電ランプを定常点灯させる方法。」の発明(以下「引用例1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)対比 本願補正発明と引用例1記載の発明を対比すると、メタルハライドランプは高圧放電ランプであるから、後者の「メタルハライドランプなどの放電ランプ」は、前者の「高圧放電ランプ」に相当する。また、後者の「点灯を制御する方法」は、始動時から定常点灯時に至る制御の方法であるから、前者の「始動及び作動方法」に相当する。また、後者において「放電ランプの起動後または起動から所定の期間の終了後、放電ランプに定格以上の電流を流し、つぎに、ランプ電流を始動電流の最大値から定格電流値に下げていく」ことは、前者における「高圧放電ランプには、始動作動状態中前記高圧放電ランプの点灯後、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される定格電流の実効値よりも高い実効値(I_(eff1))の電流が給電される」ことと、「高圧放電ランプには、始動作動状態中前記高圧放電ランプの点灯後、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される定格電流よりも高い電流が給電される」点で共通する。また、後者の「誘導性のインピーダンス素子」は前者の「インダクタンス」に、後者の「放電ランプ始動時には放電ランプ定常点灯時に比べて高い周波数でスイッチ素子をオン・オフし」は前者の「高圧放電ランプに始動作動状態中給電される電流が、定格作動状態中の電流の周波数よりも高い周波数を有するようにし」に、それぞれ相当する。 また、「三角波」の波形率は1.155、「矩形波」の波形率は1であり、後者においては、「放電ランプに誘導性のインピーダンス素子を直列に接続し、放電ランプ始動時には放電ランプ定常点灯時に比べて高い周波数でスイッチ素子をオン・オフ」することにより、「始動時のランプ電流波形は三角波とな」っているので、後者の「始動時のランプ電流波形は三角波となり、その後低周波の矩形波になるよう点灯周波数を下げ放電ランプを定常点灯させる」ことは、前者の「該手段の結果、前記始動作動状態中の前記インダクタンス(L)及び高い周波数により、始動作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流は、「1」より大きくて、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流の波形率よりも大きな波形率(比 I_(eff1)/I_(gl))を有している」ことに相当する。 したがって、両者は、「高圧放電ランプの始動及び作動方法であって、前記高圧放電ランプには、始動作動状態中前記高圧放電ランプの点灯後、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される定格電流よりも高い電流が給電される方法において、 高圧放電ランプにインダクタンスを直列接続し、前記高圧放電ランプに始動作動状態中給電される電流が、定格作動状態中の電流の周波数よりも高い周波数を有するようにし、該手段の結果、前記始動作動状態中の前記インダクタンス及び高い周波数により、前記始動作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流は、「1」より大きくて、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される電流の波形率よりも大きな波形率(比 I_(eff1)/I_(gl))を有している方法。」である点で一致し、次の点において一応相違する。 [相違点] 「高圧放電ランプには、始動作動状態中前記高圧放電ランプの点灯後、定格作動状態中前記高圧放電ランプに給電される定格電流よりも高い電流が給電される」ことにについて、本願発明においては、電流を「実効値」で規定しているのに対して、引用例1記載の発明においては、単に「電流値」で規定している点。 (4) 判断 相違点について検討すると、引用例1段落【0053】には、「始動時に大きなランプ電力を供給する必要がある。」との記載があり、電力は電流の実効値に比例するから、引用例1記載の発明において、「放電ランプの起動後または起動から所定の期間の終了後、放電ランプに定格以上の電流を流し、つぎに、ランプ電流を始動電流の最大値から定格電流値に下げていく」ということが、実質的には、電流値を実効値で規定することと格別な差異があるとは認められない。 そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1に記載されたものと格別な差異があるとは認められない。 (5)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-02 |
結審通知日 | 2008-07-09 |
審決日 | 2008-07-23 |
出願番号 | 特願平8-105559 |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 永田 和彦、宮崎 光治 |
特許庁審判長 |
丸山 英行 |
特許庁審判官 |
平上 悦司 岸 智章 |
発明の名称 | 放電ランプの始動及び作動方法及び回路装置 |
代理人 | 矢野 敏雄 |
代理人 | 山崎 利臣 |
代理人 | ラインハルト・アインゼル |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |