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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23C
管理番号 1188840
審判番号 不服2006-17874  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-16 
確定日 2008-12-04 
事件の表示 平成10年特許願第280462号「チーズ包装体及びその製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年3月28日出願公開、特開2000-83583〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成10年9月17日の出願であって、平成18年4月17日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年8月16日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年9月14日付けで手続補正がされ、その後、平成19年3月19日付けの審尋に対して同年5月24日に回答書が提出されたものである。

第2 平成18年9月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年9月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成18年9月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項2を削除し、同請求項1の、
「最外層が合成樹脂又はセロファンからなり且つその最外層表面にスリップ剤を塗布、噴霧、浸漬の少なくともひとつの方法によって適用してなるフィルムを使用し、カットされたカビによる表面熟成軟質チーズの切断面にスリップ剤適用面が密着するように包装すること、を特徴とするチーズ包装体の製造法。」を、
「最外層が合成樹脂又はセロファンからなり且つその最外層表面に、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、食用油脂の内の一種又は二種以上から選ばれるスリップ剤を塗布、噴霧、浸漬の少なくともひとつの方法によって適用してなるフィルムを使用し、カットされたカビによる表面熟成軟質チーズの切断面にスリップ剤適用面が密着するように包装すること、を特徴とするチーズ包装体の製造法。」にする補正を含むものである。

2 補正要件
(1) 新規事項及び目的要件
上記補正は、「スリップ剤」を「グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、食用油脂の内の一種又は二種以上から選ばれるスリップ剤」とするものであって、該補正は、願書に最初に添付した明細書の記載からみて新規事項を追加するものではなく、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とするものに該当する。なお、補正後の請求項2?6もいずれも少なくとも請求項1を引用するものであるから、これらは、上記補正により限定的減縮を目的とする補正がされたものであるといえる。

(2) 独立特許要件
進んで、本件補正後の明細書(以下「本願補正明細書」という。)における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)を、補正後の請求項6に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)について検討すると、本願補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。以下詳述する。

ア 本願補正発明
補正後の請求項6は、
「請求項1?5のいずれか1項に記載の製造法によって製造してなるチーズ包装体。」
というものであって、その請求項1を引用するものを請求項1を引用しない形式にして記載すると、本願補正発明は、
「最外層が合成樹脂又はセロファンからなり且つその最外層表面に、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、食用油脂の内の一種又は二種以上から選ばれるスリップ剤を塗布、噴霧、浸漬の少なくともひとつの方法によって適用してなるフィルムを使用し、カットされたカビによる表面熟成軟質チーズの切断面にスリップ剤適用面が密着するように包装することによって製造してなるチーズ包装体」
ということができる。

イ 刊行物及び刊行物に記載された事項
(ア) 特開平10-150914号公報
特開平10-150914号公報(原査定で引用された引用文献3。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a1) 「【請求項1】軟質カビ系チーズのカット面が延伸ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、あるいはぬれ指数42以下の合成樹脂の層を有する包材の合成樹脂層に密着するように個包装されており、加熱殺菌がなされているチーズ包装体。
【請求項2】軟質カビ系チーズがカマンベールチーズ又はブリーチーズである請求項1記載のチーズ包装体。」(特許請求の範囲の項)
(a2) 「カット面にカビが生育していないチーズは、カット直後のチーズと同じ形態をしており見栄えが良く、カビの影響を均一に受けるため熟成のバラツキが生じにくい。このことから、カット面にカビが生育していないカットチーズを個包装したものを提供しようとしても、加熱殺菌した時にはチーズが溶けだし包材から洩れたり、カット面からも洩れてくる。又、カット面にカビが生育していないため、包材を開封する時に包材と溶けたチーズが付着して剥がれず開けづらい。」(段落【0004】【発明が解決しようとする課題】の項)
(a3) 「本発明は、カマンベールチーズ、ブリーチーズなどの軟質カビ系チーズをカットし、カット面(切断面)に密着するように包材で個包装し、次いで加熱殺菌処理してなる新しいタイプのポーションチーズである。この包材は、ぬれ指数42以下の合成樹脂が用いられる。…好適には、この包材は、少なくともアルミニウムとぬれ指数42以下の合成樹脂の二層より構成され、このぬれ指数42以下の合成樹脂層の面をチーズのカット面に密着して個包装することにより加熱殺菌時にチーズが包材から洩れることがなく、またチーズが包材に付着することがなく、容易に開封することができる。また、開封後もチーズが垂れ出ることがなく、長時間開封時の形状を保持させることができる。」(段落【0040】【発明の効果】の項)

(イ) 実願昭57-152405号(実開昭59-55492号)のマイクロフィルム
実願昭57-152405号(実開昭59-55492号)のマイクロフィルム(原査定で引用された引用文献2。以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(b1) 「1.帯状のフイルムとこの上に積層された軟質食品とが一体的に巻き込まれてなるロール食品
3.軟質食品は、ゼリー又はチーズとした実用新案登録請求の範囲第1項記載のロール食品」(実用新案登録請求の範囲の項)
(b2) 「以下この考案を図面に示す実施例に基づいて説明する。帯状の合成樹脂フイルム1の表面にゼリー2が所定の厚さでかつ均等に積層され…前記合成樹脂フイルム1としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の食品衛生上無害で、かつゼリー2とに剥離性の良いものを用いる。また、フイルムとしては合成樹脂フイルムに代えて金属箔(…)あるいは紙3の表裏面に合成樹脂4をコーティングしたもの…等を用いることができる。」(2頁6行?3頁1行)
(b3) 「更に粘着性の強いゼリーの場合には、フイルムとの剥離を容易とするためにゼリーの表面又はフイルムの裏面及びフイルムとゼリーとの間に適宜の離形剤を塗布することが望ましい。なお、ゼリーの他にチーズ等の軟質食品をフイルムと一体的に巻き込むことにより、この考案のロール食品とすることができる。」(3頁7行?13行)

ウ 刊行物に記載された発明
(ア) 刊行物1
刊行物1には、「軟質カビ系チーズのカット面が延伸ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、あるいはぬれ指数42以下の合成樹脂(注:これらの合成樹脂を「特定の合成樹脂」という。)の層を有する包材の合成樹脂層に密着するように個包装されており、加熱殺菌がなされているチーズ包装体。」(摘示(a1))について記載され、上記摘示(a1)の請求項2によると、その軟質カビ系チーズは、カマンベールチーズ又はブリーチーズであると認められ、その包材は「包材の合成樹脂層に密着するように個包装」するものであるから、シート状のものであると認められる。
そうすると、刊行物1には、「カマンベールチーズ又はブリーチーズのカット面が、特定の合成樹脂の層を有するシート状の包材の合成樹脂層に密着するように個包装されており、加熱殺菌がなされているチーズ包装体。」という発明が記載されているといえ、これを本願補正発明の記載の表現ぶりにあわせて記載すると、
「最外層が特定の合成樹脂からなる特定の合成樹脂の層を有するシート状の包材を使用し、カットされたカマンベールチーズ又はブリーチーズの切断面に特定の合成樹脂面が密着するように包装されており、加熱殺菌がなされているチーズ包装体」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

(イ) 刊行物2
上記摘示(b1)によると、ゼリー又はチーズは刊行物2に係る軟質食品であり、フイルムは、摘示(b2)から、合成樹脂や、金属箔あるいは紙の表裏面に合成樹脂をコーティングしたもの等であって、合成樹脂面がゼリー等に密着し、「ゼリー2とに(注:「の」の誤記と認める。)剥離性の良いもの」であるといえる。これらを踏まえ、摘示(b3)をみると、刊行物2には、
「粘着性の強い軟質食品の場合には、フイルムの合成樹脂面との剥離を容易とするためにその合成樹脂面と軟質食品との間に適宜の離形剤を塗布することが望ましい」こと(以下、「引用発明2」という。)
が記載されているといえる。

エ 対比
引用発明1の「シート状の包材」は本願補正発明の「フィルム」に包含されるといえるから、引用発明1の「最外層が特定の合成樹脂からなる特定の合成樹脂の層を有するシート状の包材」も本願補正発明の「最外層が合成樹脂又はセロファンからなり且つその最外層表面に、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、食用油脂の内の一種又は二種以上から選ばれるスリップ剤を塗布、噴霧、浸漬の少なくともひとつの方法によって適用してなるフィルム」もともに、「最外層が合成樹脂からなるフィルム」であるといえ、引用発明1の「カマンベールチーズ又はブリーチーズ」は本願補正発明の「カビによる表面熟成軟質チーズ」に包含されるといえ、引用発明1の「切断面に特定の合成樹脂面が密着するように包装」も本願補正発明の「切断面にスリップ剤適用面が密着するように包装することによって製造」することともに「切断面にそのフィルムの最外層の面側が密着するように包装」することであるといえるから、本願補正発明と引用発明1とは、
「最外層が合成樹脂からなるフィルムを使用し、カットされたカビによる表面熟成軟質チーズの切断面にそのフィルムの最外層面側が密着するように包装するチーズ包装体」
で一致し、以下の点で相違するといえる。
(i) 最外層が合成樹脂からなるフィルムが、本願補正発明においては「その最外層表面に、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、食用油脂の内の一種又は二種以上から選ばれるスリップ剤を塗布、噴霧、浸漬の少なくともひとつの方法によって適用してなる」ものであるのに対し、引用発明1においては「最外層が特定の合成樹脂からなる特定の合成樹脂の層を有するシート状の包材」であってその表面に「スリップ剤」を適用してなるものではなく、その結果、切断面に密着するそのフィルムの最外層の面側が、本願補正発明においては「スリップ剤適用面」であるのに対し、引用発明1において「特定の合成樹脂」である点
(ii) 本願補正発明包装体は加熱殺菌されているかは明らかではないのに対し、引用発明1においては包装され加熱殺菌されている点
(これらを、それぞれ、「相違点(i)」、「相違点(ii)」という。)

オ 相違点についての判断
(ア) 相違点(i)について
本願補正発明に係る「スリップ剤」は、本願補正明細書の「本発明に従って、スリップ剤を適用した場合、チーズ切断面に接触するのはスリップ剤の薄膜であり、この薄膜によって包材表面と切り口のチーズとの接触が遮断されて剥離性が確保される」(段落【0012】)との記載によれば、切り口のチーズが包材表面に付着することなく容易に開封することができる、いわゆる「離形剤」としての作用効果を奏する離形性乃至剥離性を有する物質であると解される。
引用発明1の「特定の合成樹脂の層」は「包材を開封する時に包材と溶けたチーズが付着して剥がれず開けづらい」(摘示(a2))ため「チーズが包材に付着することがなく、容易に開封することができる」(摘示(a3))ためのものであると認められるところ、刊行物2には、剥離性のよい合成樹脂を用いたものにおいてさらに「粘着性の強い軟質食品の場合には、フイルムの合成樹脂面との剥離を容易とするためにその合成樹脂面と軟質食品との間に適宜の離形剤を塗布することが望ましい」と、合成樹脂面との剥離をより容易とするために、さらに適宜の離形剤を塗布することが望ましいことが示されている。その塗布する適宜の離形剤としての作用効果を奏する物質としてその出願前食品の包装等においてはグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン及び食用油脂は周知(必要ならば、特開平8-192874号公報(段落【0010】に、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンが剥離性を有する成分として開示)、特開平9-48999号公報(段落【0002】に、レシチン、食用油脂が開示)、特開平9-140330号公報(段落【0013】に、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンが開示)、特開平9-271324号公報(ジグリセリンモノ脂肪酸エステルが開示)等を参照のこと)のものなのであるから、引用発明2における「適宜の離形剤」ということができる。
そうすると、引用発明1の包材において、最外層の特定の合成樹脂の表面にさらに「グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、食用油脂の内の一種又は二種以上から選ばれるスリップ剤」を「塗布」の方法によって適用したものとすることは、当業者にとって容易に想到し得る域を出るものではない。
そして、引用発明1において事項を適用した場合に、切断面に密着する面は「スリップ剤適用面」になることは明らかである。
したがって、引用発明1において、相違点(i)に係る本願発明の特定事項を適用することは、当業者にとって容易に想到し得る域を出るものではない。

(イ) 相違点(ii)について
本願補正明細書によれば「このようにして包装した後、常法にしたがって、熟成、加熱殺菌し、あるいは加熱殺菌することなく」(段落【0013】)と、本願補正発明にも包装後加熱殺菌する態様が包含されると認められる。
よって、この相違点(ii)点は、実質的に両者の相違点であるとはいえない。

(ウ) 本願補正発明の効果について
本願補正発明に係る効果は、本願補正明細書によると、
「本発明により、チーズが軟らかくともチーズ切り口からの包材剥離性の良い未殺菌あるいは殺菌タイプのカット個包装カビチーズを提供することができる。」(段落【0031】)というものである。
また、平成18年9月6日付け「実験成績証明書」(甲第1号証)は、カットしたカマンベールチーズ個包装において、スリップ剤の有無によるカマンベールチーズカット面の剥離性等を比較した試験の結果を示すものであるが、そこには「剥離性試験結果」(4頁【結果】(I))として、「スリップ剤を使用した場合には、サンプルA?Dのすべてにおいて、切断面のチーズがフィルムに付着することなく、きれいに剥がれており、極めて良好な剥離性を示した」(同項2))こと、「同じ包装フィルムを使用した場合であっても、スリップ剤を使用しない場合(サンプルE)には、剥離性が悪く、切断面のチーズが包材(フィルム)に強く付着しているため、包材を強く開封した結果、写真に示したように切断面のチーズが流れ出してしまった」(同項3))ことが記載されている。
しかし、これらの効果は、刊行物1及び2に記載された事項及び周知技術から予測されるところを超えて優れているとはいえない。すなわち、上記「チーズが軟らかくともチーズ切り口からの包材剥離性の良い未殺菌あるいは殺菌タイプのカット個包装カビチーズを提供することができる」、「切断面のチーズがフィルムに付着することなく、きれいに剥がれており、極めて良好な剥離性を示した」という効果は、引用発明1において「離形剤」としての作用効果を奏する物質を合成樹脂表面に塗布したものとすれば包材剥離性の良いものとなる、という刊行物1及び2に記載された事項及び周知技術から予測される範囲のものといえ、格別の効果であるということはできない。

カ 独立特許要件のまとめ
よって、本願補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正後における特許請求の範囲の請求項6に記載されている事項により特定される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、その補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないから、この補正を含む本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成18年9月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願の発明は、平成18年6月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項7は、
「請求項1?6のいずれか1項に記載の製造法によって製造してなるチーズ包装体。」
というものであって、その請求項1を引用するものを請求項1を引用しない形式にして記載すると、
「最外層が合成樹脂又はセロファンからなり且つその最外層表面にスリップ剤を塗布、噴霧、浸漬の少なくともひとつの方法によって適用してなるフィルムを使用し、カットされたカビによる表面熟成軟質チーズの切断面にスリップ剤適用面が密着するように包装することによって製造してなるチーズ包装体」
(以下、「本願発明」という。)ということができる。

2 原査定の理由及び刊行物の記載事項
拒絶査定は、「この出願については、平成18年4月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」というものであるところ、その拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、その「備考」にあるとおり、
「引用文献1には、スライスチーズ包装用フィルムにおいて、スリップ剤を用いること、…引用文献2には、…剥離を容易にするために適宜、離形剤を用いることが記載されている。
引用文献3には、…カマンベールチーズを包装すること、チーズを包装した後に加熱殺菌することが記載されている。
チーズを包装する際に、チーズが包装シートに粘着しないように剥離剤を用いること、…が公知であることから、引用文献3に記載されるチーズ包装材を用いてチーズを包装する際にも、剥離剤を用いることに困難性はない。」
として、本願発明はその出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
この理由において引用された引用文献3は特開平10-150914号公報であり、同引用文献2は実願昭57-152405号(実開昭59-55492号)のマイクロフィルム)であって、それぞれ、上記第2 2 (2)の項における刊行物1、2(以下、引用文献3、引用文献2を、同様に「刊行物1」、「刊行物2」という。)であり、各刊行物の記載事項及び記載された発明は同項のイ、ウに記載されたとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、食用油脂の内の一種又は二種以上から選ばれる」という事項がないものに相当する。
すると、本願発明と引用発明1とを対比すると、上記第2 2 (2)のエの項における本願補正発明と引用発明1との相違点(i)が以下の相違点(i')となるほかは、両者の一致点及び相違点は、本願補正発明と引用発明1との一致点、相違点と(「本願補正発明」が「本願発明」となる以外は)同じであるといえる。
(i') 最外層が合成樹脂からなるフィルムが、本願発明においては「その最外層表面にスリップ剤を塗布、噴霧、浸漬の少なくともひとつの方法によって適用してなる」ものであるのに対し、引用発明1においては「最外層が特定の合成樹脂からなる特定の合成樹脂の層を有するシート状の包材」であってその表面に「スリップ剤」を適用してなるものではなく、その結果、切断面に密着するそのフィルムの最外層の面側が、本願発明においては「スリップ剤適用面」であるのに対し、引用発明1において「特定の合成樹脂」である点
そして、この相違点を含めこれらの相違点の判断については上記第2 2 (2)のオの項で示したのと同じ理由を適用することができる。
そうすると、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 請求人の主張等について
(1)請求人は、平成19年5月24日の回答書において、下記のように主張し、また、補正案を提示している。
(a) 両者は、ナチュラルチーズとプロセスチーズということで、本来、その性質が相違しております(この点は、実験成績証明書(甲第1号証)からも明らかであります。)。したがって、プロセスチーズに関する技術をカマンベールチーズのようにナチュラルチーズ、特に熟成するタイプのナチュラルチーズに対して直ちに適用することは、本来、容易にできることではありません。((4)前置報告書に対する意見(1))
(b) 補正後の本願に係る発明は、「食品一般」の中から敢えて、「チーズ」を選択し、さらにその中から「カマンベールチーズ」を特に選択したものであります。
さらに、包装体の材質も限定し、スリップ剤も限定し、密着させる面をも限定したものであります。このように多くの発明特定事項を、敢えて選択し、その選択の結果、格別顕著な効果が奏されるのが本願発明なのであります。((5)前置報告書に対する意見(2))、
(c) このようなスライスチーズとの比較実験も含む実験結果等に対し、何らの判断も示さず、ただ、「当業者が予測しうる程度のものである」ということでは、審理が尽くされておらず、このまま拒絶審決ということになれば、違法の瑕疵を免れないこととなると考えられます。((6)前置報告書に対する意見(3))
(d) さらに、原審審査官殿は、記 におきまして周知技術を挙げられ、それを裏付けるものとして、特開平9-48999号公報、特開平9-153号公報を追加引用されています。しかしながら、これらの文献及び、記 に記載された理由自体が、本願の出願過程におきまして、はじめて指摘されたものであります。したがいまして、当該前置報告に記載された理由で補正却下、拒絶審決をなされるのであれば、新たな拒絶理由が発見されたわけでありますから、再度、「出願人に対し、拒絶の理由を通知し、…意見書を提出する機会を与えなければならない」(同法第159条第2項、同法第50条)はずであります。((7)前置報告書に対する意見(4))

(2) 請求人の主張について
ア 主張(a)について
平成18年4月17日付けの拒絶理由通知書における理由は、上記のとおり、引用文献3(刊行物1)に係るチーズを包装する際に、(引用文献1或いは2により)知られた剥離剤を用いることに困難性はないというものである。
そして、「チーズに密着する面側が合成樹脂層であるフィルムを使用し、カットされたカビによる表面熟成軟質チーズの切断面にその面が密着するように包装することによって製造してなるチーズ包装体」において本願(補正)発明は引用発明1と一致するのであり、チーズがカマンベールチーズであるかプロセスチーズであるかは両者の相違点とはならないのであるから、プロセスチーズをカマンベールチーズとする容易想到性についてする主張(a)は、当を得たものではない。
よって、主張(a)は、採用することはできない。

イ 主張(b)について
上記のとおり、カマンベールチーズを含む「カットされたカビによる表面熟成軟質チーズの切断面にその面が密着するように包装することによって製造してなるチーズ包装体」及びその問題点(摘示(a2))は刊行物1に既に示されているから、(カットした)「カマンベールチーズ」を特に選択したことに技術的意義を見出すことはできない。さらに、その「包装材の材質」、「スリップ剤」、「密着させる面」の限定も、刊行物1に記載されるものであるか、容易想到のものであり、その効果も予期しうる域を出るものではないことは、上記第2 2(2)で述べたとおりである。
よって、主張(b)は、採用することはできない。

ウ 主張(c)について
本願(補正)発明の効果が、平成18年9月6日付け「実験成績証明書」(甲第1号証)に「剥離性試験結果」(4頁【結果】(I))として示された効果を含め、刊行物1及び2に記載された事項及び技術常識から予測されるところを超えて優れているとはいえないものであることは、上記第2 2(2)で述べたとおりである。
また、同証明書にはカマンベールチーズとスライスチーズとの比較実験も含む実験結果等も示されているが、上記のとおり、カマンベールチーズとスライスチーズとは本願(補正)発明と引用発明1との相違点ではなく、上記の結果は進歩性の判断に直接かかわるものではないから、その検討が必要であるとはいえない。
よって、主張(c)は、採用することはできない。

エ 主張(d)について
平成18年11月7日付け前置報告書の「記」には、
「しかしながら、本願出願日以前より、様々な食品を包装する際に包装材料の表面に、レシチン、マーガリン、ショートニング、菜種油、サラダ油、ごま油の油脂類やシリコーンを塗布することより粘着性の食品の包装を取りやすくすることが周知であった(要すれば、特開平09-048999号公報、特開平09-000153号公報の従来の技術参照)こと」
と記載されており、この記載は、補正によってスリップ剤として特定された物質を「塗布することより粘着性の食品の包装を取りやすくすることが周知」
であるとするもので、その周知技術を裏付けるべく特開平09-048999号公報と特開平09-000153号公報の文献を例示的に引用したことが明らかである。
そして、周知技術とは、文献等を例示するまでもなく、「当業者ならば当然知っているはずの事項」であって、審査ないし審判において周知技術を用いる際、そのことについて意見書提出又は補正の機会を与えなくとも、当業者である出願人に対し不意打ちになることはないと考えられる(必要ならば、平成16年10月18日判決言渡平成15年(行ケ)373号判決等参照)から、これら「記」に記載された理由及び文献は新たな拒絶理由を構成するものではなく、当審において、再度、「出願人に対し、拒絶の理由を通知し、…意見書を提出する機会を与えなければならない」ものではない。
よって、上記主張(d)は、採用することはできない。

(3) 回答書に提示の補正案について
請求人は、平成18年9月14日付け手続補正書の請求項1の「スリップ剤」のうち「レシチン」と「食用油脂」を削除したものに相当する特許請求の範囲についての補正案を提示している。
しかし、上記第2 2(2)において検討したように、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルは、レシチンや食用油脂と同様に、スリップ剤(離形剤)として周知の物質であるから、たとえレシチンと食用油脂とをスリップ剤(離形剤)から削除したとしても、その削除後の発明の進歩性が肯定されるわけではない。
したがって、請求人が提示した補正案は、採用することはできない。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

第4 むすび
以上によれば、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないものであるから、この出願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-11 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-14 
出願番号 特願平10-280462
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23C)
P 1 8・ 121- Z (A23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 坂崎 恵美子
鈴木 紀子
発明の名称 チーズ包装体及びその製造法  
代理人 松本 久紀  

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