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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D05B
管理番号 1188860
審判番号 不服2007-2923  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-25 
確定日 2008-12-04 
事件の表示 平成 8年特許願第294645号「返し縫いが可能なミシン」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月12日出願公開、特開平10-118379号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年10月17日の出願であって、平成18年12月20日付け(発送:平成18年12月27日)で拒絶査定がなされたところ、平成19年1月25日に拒絶査定不服の審判が請求され、平成19年2月20日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

第2 平成19年2月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成19年2月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
【理由】
1.本件補正
本件補正のうち、特許請求の範囲についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「返し縫い指令に応答して返し縫いを行うための手段」において、「返し縫い指令」を「操作者の返し縫いスイッチの操作による返し縫い指令」という限定を付加し、「所定の縫い速度」を、「縫いの速度を設定する手段の運転速度」に限定し、さらに「最低速度から漸次縫い速度を上昇させて所定の速度に速度を落として返し縫いを行うように制御するための手段」において、「最低速度」から「所定の速度」までの「緩い速度」上昇を、「加速制御プログラムにより」行うという限定を付加するものである。
この補正は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて新規事項を追加するものでなく、しかも、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正よる補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か)について、以下に検討する。

2.本願補正発明
補正後の本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、上記補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「操作者の返し縫いスイッチの操作により返し縫いが可能で且つ返し縫いと通常縫いを相互に切り替え可能なミシンにおいて、
縫いの速度を設定するための手段と、
操作者の返し縫いスイッチの操作による返し縫い指令に応答して布の送り方向を逆転する返し縫いを行うための手段と、
前記返し縫いスイッチの操作による返し縫い指令があった時、前記返し縫いを行うための手段による返し縫いにおいて、前記縫いの速度を設定する手段の運転速度から所定の返し縫い最低速度に速度を落として返し縫いを開始させ、該最低速度から加速制御プログラムにより縫い速度が加速され漸次縫い速度を上昇させて所定の返し縫い速度にて返し縫いを行うように制御するための手段と、
返し縫い中の操作者の返し縫いスイッチの再操作による指令に応答して返し縫いから通常縫いに移行するに際して、所定の復帰最低速度に速度を落として通常縫いを開始させ、該最低速度から漸次縫い速度を上昇させて前記縫いの速度を設定する手段の運転速度にて通常縫いを行うように制御するための手段と、
を有することを特徴とする返し縫いが可能なミシン。」

3.引用発明
(1)引用刊行物に記載された事項
原査定の拒絶理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平7-59974号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、図面とともに次のように記載されている。
(a)「【請求項1】所望の縫い模様を選択するための模様選択装置と、ミシンの制御プログラムと複数の縫い模様に対する縫目形成データが記憶された記憶装置と、記憶装置から制御プログラムおよび選択された縫い模様に対する縫目形成データを読み出す演算装置と、上下動する針を有し選択された縫い模様に対する縫目形成データに基づき演算装置の制御によりミシンの上軸回転に同期して加工布に縫目を形成する縫目形成装置とを備えたコンピュータミシンにおいて、押圧操作毎に返し縫いモードと通常縫いモードとを交互に切り替えその状態を維持する縫いモードの切替手段を備えてなることを特徴とするコンピュータミシンの返し縫い装置。」(段落【請求項1】)
(b)「【0002】
【従来の技術】返し縫いには、縫い模様により返し縫いキーを一度操作することにより所定の針数だけ返し縫いを行うものもあるが、従来、直線縫い等の縫い模様にあっては、返し縫いキーを押している間だけ返し縫いが行われるようになっていた。従って、直線縫いにおける返し縫いは、片方の手が返し縫いキーの押圧操作にとられ、残りの手だけで布を案内しなくてはならず、両手で布を案内している時より布の案内が不安定になり、返し縫い縫目が直線縫い縫目から外れたりし、良好な縫いが行われにくいという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、ミシンで返し縫いを行う場合、返し縫いキーを一度操作すれば、それを解除するまで返し縫いキーを押し続けなくても返し縫いが行われるようにすることである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は前記した課題を解決するために、コンピュータミシンにおいて、返し縫いキーを一度押すと返し縫いが継続し、返し縫いキーを再度押した時に返し縫いを解除させるように構成した。
【0005】
【発明の作用】本発明によれば、ミシンの縫目形成中は返し縫いキーを一度押すと返し縫いが継続し、返し縫いキーを再度の押圧時に返し縫いを解除するように構成し、ミシンによる返し縫い時に布から片手を離す時間を殆ど必要としないようにしたので、両手による布案内により返し縫い時の布送り方向がが安定し、良好な縫いが行える。」(段落【0002】-【0005】)
(c)「【0011】(通常縫い)操作者が模様選択装置2により縫い模様を選択し、ミシンをスタートさせると、演算装置3が、記憶装置1より縫目形成データを読み出し縫目形成装置4を制御して縫目形成が行われる。即ち、S1で縫い模様を選択すると、S2経て、S3で縫目形成データの読み出しが行われ、S4、S5を経てS6の通常縫い動作が行われ、S3?S6が繰り返し実行され通常縫いが行われる。
【0012】(返し縫い)通常縫いモードによる縫目形成中に操作者が返し縫いキー5を操作すると、S4、S7を経て返し縫いモードになり、S8の返し縫い動作が実行され、以後S3の縫目形成データの読み出し、S4、S5を経てS8の返し縫い動作が繰り返し実行され返し縫いが行われる。
【0013】即ち、縫目形成の途中で操作者が返し縫いキー5を操作すると、返し縫いキー操作信号vがフリップフロップのS端子に出力され、Q端子から通常縫い信号uを出力していたフリップフロップは、Q端子からの出力が停止しQバー端子から返し縫い信号rを演算装置3に出力して返し縫いモードになり、演算装置3は返し縫いを行うように縫目形成装置4を制御する。
【0014】(返し縫いモードから通常縫いモードへの復帰)返し縫いの途中で返し縫いキー5を操作すると、S7を経て通常縫いモードになり、S9の通常縫いが再開され、以後S3の縫目形成データの読み出し、S4、S5を経てS6の通常縫いが動作が繰り返し実行され、通常縫いが行われる。
【0015】即ち、返し縫いの途中で再び返し縫いキー5を操作すると、返し縫いキー操作信号vがフリップフロップのS端子に出力され、フリップフロップは、Qバー端子からの返し縫い信号を停止してQ端子から通常縫い信号uを演算装置3に出力して通常縫いモードになり、通常縫い信号uを受けた演算装置3は、縫目形成装置4を制御して通常縫い動作を行わせる。」(段落【0011】-【0015】)
(d)「【0018】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、ミシンの縫目形成中は返し縫いキーを一度押すと返し縫いが継続し、返し縫いキーを再度の押圧時に返し縫いを解除するように構成し、ミシンによる返し縫い時に布から片手を離す時間を殆ど必要としないようにしたので、両手による布の案内により返し縫い時の布送り方向がが安定し、良好な縫いが行える。」(段落【0018】)
以上を総合すれば、引用刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「操作者の返し縫いキー5の操作により返し縫いが可能で且つ返し縫いと通常縫いを相互に切り替え可能なミシンにおいて、操作者の返し縫いキー5の操作による返し縫い信号に応答して返し縫いを行うための手段と、前記返し縫いキー5の操作による返し縫い信号の入力があった時、返し縫いを行うように制御するための手段と、返し縫い中の操作者の返し縫いキー5の再操作による信号に応答して返し縫いから通常縫いに移行するように制御するための手段とを有する返し縫いが可能なミシン。」


4.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。本願補正発明と引用発明とを全体構成でみれば、いずれも「返し縫いが可能なミシン」に関する発明である点で共通する。そして引用発明の「返し縫いキー5」は、その構造等からみて「返し縫いスイッチ」に相当し、同様に、「返し縫い信号」は「返し縫い指令」に相当する。
してみると、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「操作者の返し縫いスイッチの操作により返し縫いが可能で且つ返し縫いと通常縫いを相互に切り替え可能なミシンにおいて、
操作者の返し縫いスイッチの操作による返し縫い指令に応答して返し縫いを行うための手段と、
前記返し縫いスイッチの操作による返し縫い指令があった時、前記返し縫いを行うよう制御するための手段と、
返し縫い中の操作者の返し縫いスイッチの再操作による指令に応答して返し縫いから通常縫いに移行するに際して、通常縫いを行うように制御するための手段と、を有することを特徴とする返し縫いが可能なミシン。」

<相違点1>
本願補正発明は「布の送り方向を逆転する返し縫い」であるのに対して、引用発明にはそのような明記がない点。
<相違点2>
本願補正発明は、縫いの速度を設定するための手段を有し、返し縫いスイッチの操作による返し縫い指令があった時、縫いの速度を設定する手段の運転速度から所定の返し縫い最低速度に速度を落として返し縫いを開始させ、該最低速度から加速制御プログラムにより縫い速度が加速され漸次縫い速度を上昇させて所定の返し縫い速度にて返し縫いを行うとともに、返し縫い中の操作者の返し縫いスイッチの再操作による指令に応答して返し縫いから通常縫いに移行するに際して、所定の復帰最低速度に速度を落として通常縫いを開始させ、該最低速度から漸次縫い速度を上昇させて縫いの速度を設定する手段の運転速度にて通常縫いを行うようにしているのに対し、引用発明においては、縫いの速度を設定するための手段を有するのか否か明確ではなく、返し縫い指令、返し縫いスイッチの再操作による指令に応じて、縫い速度を制御する手段を備えていない点。


5.相違点についての検討及び判断
(1)相違点1について
引用発明には、「布の送り方向を逆転する返し縫い」について明記はないが、返し縫いの際に布の送り方向を逆転することは、技術常識であり実質的な相違点とは認められない。仮に、そうでないとしても、返し縫いが可能なミシンの技術分野において、従来周知の技術手段である(特公平2-34636号公報(第2頁左欄第43-44行)、特開平3-111085号公報(請求項2)等参照)。

(2)相違点2について
一般に、縫い速度を設定する手段を設けることは、特開平3-111085号公報(前進送り速度設定回路4、返し縫い最大速度設定回路10参照)等にみられるように、本願出願前より周知の技術であり、引用文献の記載(a)等によれば、引用発明のミシンも、各種の縫い模様を可能にするコンピュータミシンであるから、縫い速度を設定する手段を当然具備しているものといえ、そうでなくても、上記周知技術を勘案すれば、当業者が適宜採用し得る程度の事項にすぎないものである。
また、通常縫いであれ、返し縫いであれ、縫い始めから定常の縫い状態になるまでは、速度を所定の低速から定常速度まで漸次速度を増加させ、縫い始め位置や縫い方向等を所望のものに定めることができるようにすることは、手動による速度制御を含め、本願出願前より広く行われている事項と解される。そして、そのような速度制御を行うことにより、本件補正発明のような作業性向上や作業者の心理的不安感の防止といった作用効果を生じることも、当業者にとって明白な事項である(特開昭53-57420号公報(特に第6頁左上欄第4行-第15行)、特開昭55-116387号公報(特に第6頁右上欄第2行-第6行)等参照)。
通常縫いから返し縫い、あるいは返し縫いから通常縫いに切り換える際も、結局、一方向の縫いを終了し、新たに他方向に縫い始めるものであるから、このような場合にも同様な速度制御が必要なことは、当業者がごく自然に想起すべき事項と解されるところ、通常縫いから返し縫いに切り替える際に、低速に減速しその後加速して所定の返し縫い速度とすることは、特公平2-34636号公報(第3図(f)(g))、特開昭54-94951号公報(第2図(イ)(ロ))、特開昭59-200639号公報(第5図)等にみられるように、本願出願前より広く採用されている技術的事項である。
してみると、これら周知技術を引用発明に適用して、本件補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。


(3)まとめ
本願補正発明を全体構成でみても、引用発明及び上記周知の技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項に読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
平成19年2月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、出願当初の明細書における特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「返し縫いが可能で且つ返し縫いと通常縫いを相互に切り替え可能なミシンにおいて、返し縫い指令に応答して返し縫いを行うための手段と、
前記返し縫いを行うための手段により、返し縫い指令があった時、所定の返し縫い最低速度に速度を落として返し縫いを開始させ、該最低速度から漸次縫い速度を上昇させて所定の返し縫い速度にて返し縫いを行うように制御するための手段と、
所定の指令に応答して返し縫いから通常縫いに移行するに際して、所定の復帰最低速度に速度を落として通常縫いを開始させ、該最低速度から漸次縫い速度を上昇させて所定の縫い速度にて通常縫いを行うように制御するための手段とを有することを特徴とする返し縫いが可能なミシン。」


第4 引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用刊行物、その記載事項及び引用発明は、前記第2【理由】3.に記載したとおりである。


第5 対比・判断
本願発明は、上記第2【理由】、2.で検討した本願補正発明から、「返し縫い指令」について、「操作者の返し縫いスイッチの操作による」という限定を削除し、「縫いの速度を設定するための手段」を削除し、「所定の縫い速度」について、「縫いの速度を設定する手段の運転速度」とする限定を削除し、さらに「最低速度から漸次縫い速度を上昇させて所定の速度に速度を落として返し縫いを行うように制御するための手段」について、「最低速度」から「所定の速度」までの「緩い速度」上昇を、「加速制御プログラム」により行うという限定を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2【理由】5.に記載したとおり、引用発明及び上述した周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上述した周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である上記引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-17 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-14 
出願番号 特願平8-294645
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D05B)
P 1 8・ 575- Z (D05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 熊倉 強
村山 禎恒
発明の名称 返し縫いが可能なミシン  

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