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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D |
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管理番号 | 1188874 |
審判番号 | 不服2007-18935 |
総通号数 | 109 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-05 |
確定日 | 2008-12-04 |
事件の表示 | 特願2002-155656「ディーゼルエンジン制御方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 3日出願公開、特開2003-343324〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明 本件出願は、平成14年5月29日の出願であって、平成19年2月28日付けで拒絶理由が通知され、平成19年5月2日付けで意見書が提出されたが、平成19年5月28日付けで拒絶査定がなされ、平成19年7月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がされたものであって、その請求項1?16に係る発明は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】エンジン回転数に基づいて黒煙防止のための燃料噴射量低減処理を実行し、自動変速機の変速中に変速ショック防止のための燃料噴射量低減処理を実行するディーゼルエンジンにおいて、 自動変速機の変速中は、前記黒煙防止のための燃料噴射量低減処理を禁止することを特徴とするディーゼルエンジン制御方法。」 2.引用文献 (1)原査定の拒絶理由に引用された特開平5-71385号公報(以下、単に「引用文献」という。)には、例えば、次の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「上記の目的を達成するために、この発明においては、図1に示すように、ディーゼル機関M1に連結されて変速状態を切り換えるための自動変速機M2と、その自動変速機M2の変速切り換えを判断する変速判断手段M3と、ディーゼル機関M1に燃料噴射を行う燃料噴射手段M4と、ディーゼル機関M1の運転状態を検出する運転状態検出手段M5と、その運転状態検出手段M5の検出結果に基づきディーゼル機関M1に噴射すべき燃料噴射量を演算する噴射量演算手段M6と、その噴射量演算手段M6の演算結果に基づき燃料噴射手段M4を駆動制御する噴射制御手段M7と、変速判断手段M3が自動変速機M2の変速切り換えと判断した時には、その変速ショックを和らげるべく噴射量演算手段M6による演算結果を減量補正する変速時減量補正手段M8と、噴射量演算手段M6により演算される燃料噴射量が変化した時に、その演算結果まで燃料噴射量を徐々に増減補正する噴射量なまし補正手段M9とを備えたディーゼル機関の燃料噴射量制御装置において、変速時減量補正手段M8の作動中には、噴射量なまし補正手段M9の作動を禁止するなまし補正禁止手段M10を設けている。」(第2頁第2欄30?50行、段落【0006】) (イ)「上記の構成によれば、図1に示すように、ディーゼル機関M1の運転中において、運転状態検出手段M5はディーゼル機関M1の運転状態を検出する。その検出結果に基づき、噴射量演算手段M6はディーゼル機関M1に噴射すべき燃料噴射量を演算する。又、その演算結果に基づき、噴射制御手段M7は燃料噴射手段M4を駆動制御する。‥‥ 変速判断手段M3は自動変速機M2の変速切り換えを判断し、その判断結果が自動変速機M2の変速切り換えである時には、変速時減量補正手段M8が噴射量演算手段M6による演算結果を減量補正し、これによって自動変速機M2の変速ショックが和らげられる。一方、噴射量なまし補正手段M9は、噴射量演算手段M6により演算される燃料噴射量が変化した時に、その演算結果まで燃料噴射量を徐々に増減補正し、これによって燃料噴射量の急変が抑えられる。‥‥‥ なまし補正禁止手段M10は、変速時減量補正手段M8の作動中には、噴射量なまし補正手段M9の作動を禁止し、変速時減量補正手段M8と噴射量なまし補正手段M9の両方が同時に作動しないようにする。‥‥‥ 自動変速機M2の変速切り換えの際には、ディーゼル機関M1に噴射されるべき燃料噴射量が減量補正されるのであるが、その時の噴射量は徐々に減量されることなく直ちに減量される。」(第3頁第3欄2?26行、段落【0007】?【0010】) (ウ)「‥‥ この実施例において、エンジンECU71は主にディーゼルエンジン2の燃料噴射量制御、燃料噴射時期制御及び過給圧制御等を司る制御装置となっている。これに加えて、この実施例では、図2に示すように、自動変速機65を制御すると共にその変速判断手段を構成するエレクトリック・コントロールド・トランスミッション(ECT)ECU78が設けられている。‥‥‥ ECTECU78は自動変速機65の直結クラッチ制御、変速制御を司り、自動変速機65の変速ショックを軽減するために、変速時トルク制御減量等によりディーゼルエンジン2のトルクを意図的に変動させる。そのために、ECTECU78は、自動変速機65に設けられてそのシフト位置を検出するシフト位置センサ79からのシフト位置信号を入力する。又、ECTECU78はエンジンECU71との間で信号のやりとりを行い、エンジンECU71から各センサ35,73,75,77の検出値等をデータ信号として入力する。そして、ECTECU78は、それら入力された各種信号に基づきその時々のシフト条件に応じたシフトパターンを決定し、そのシフトパターンに従って自動変速機65のアクチュエータを好適に制御するためのシフト制御信号を出力する。これと同時に、ECTECU78は自動変速機65を変速させる変速中信号(トルク制御中信号)及びトルク制御要求噴射量信号をエンジンECU71へ出力する。」(第5頁第7欄43行?同頁第8欄18行、段落【0032】?【0033】) (エ)「‥‥ 前述したエンジンECU71により実行される燃料噴射量制御の処理動作について図5,図6に従って説明する。‥‥‥‥‥‥ つまり、ステップ108?ステップ114の処理では、自動変速機65の変速中でない場合に、前回の制御周期における最終噴射量QFIN0と今回求められた基本噴射量QBASEとの大小関係から、加減速時の加速ショック又は減速ショックを抑えるべく、その基本噴射量QBASEを徐々に増減補正して最終基本噴射量QBASE1とする噴射量の急変を抑える「なまし制御」を行うのである。これに対して、自動変速機65の変速中である場合には、その基本噴射量QBASEをそのまま最終基本噴射量QBASE1として、噴射量の「なまし制御」を禁止するのである。‥‥‥‥‥‥‥ そして、ステップ118において、その求められた噴射量指令値TSPを出力し、即ち最大噴射量QFULLに相当する噴射指令値TSPに基づいて電磁スピル弁23を駆動制御する。最後に、ステップ119において、今回の最終噴射量QFINを前回の最終噴射量QFIN0として設定し、その後の処理を一旦終了する。」(第6頁第9欄2行?第7頁第11欄45行、段落【0038】?【0054】) (オ)「‥‥‥ この実施例の燃料噴射量制御装置によれば、自動変速機65の変速時にその変速ショックを軽減させるべく、エンジンECU71でECTECU78からの通信データに基づき変速要求噴射量QECTを算出し、その減量補正された変速要求噴射量QECTに従って燃料噴射量の制御している。又、加速ショックや減速ショックを防止するために、加減速時に求められる燃料噴射量の急変を抑えて最終基本噴射量QBASE1を徐々に増量・減量させる「なまし制御」を行っている。このため、自動変速機の変速を円滑に行うことと、加速ショックや減速ショックを防止することとを両立させることができる。‥‥‥ しかも、この実施例では、自動変速機65の変速時にその噴射量の「なまし制御」を禁止するようにしている。従って、自動変速機65の変速時には、ディーゼルエンジン2に噴射されるべき燃料噴射量が変速要求噴射量QECTとして減量補正されるのであるが、その時の噴射量は徐々に減量されることなく直ちに減量される。その結果、変速時におけるECTECU78からエンジンECU71へのトルク制御要求により、ディーゼルエンジン2の出力トルクが直ちに低下され、そのトルク制御要求の通りに自動変速機65の変速ショックを適正に軽減することができる。」(第7頁第11欄50行?同頁第12欄22行、段落【0056】?【0057】) (カ)「‥‥ この発明によれば、ディーゼル機関に連結された自動変速機の変速時には、その変速ショックを和らげるべく運転状態に応じて演算される燃料噴射量を減量補正し、ディーゼル機関の加減速時には、その加減速の急変を抑えるべく運転状態に応じて演算された燃料噴射量を徐々に増減補正してなまし制御するようにした燃料噴射量制御装置において、燃料噴射量を減量補正すべき変速時にはその噴射量のなまし制御を禁止するようにしたので、変速時にはディーゼル機関に噴射されるべき燃料噴射量が減量補正されるのであるが、その時の噴射量は徐々に減量されることなく直ちに減量され、自動変速機の変速ショックを適正に軽減することができるという優れた効果を発揮する。」(第8頁第13欄29行?同頁第14欄6行、段落【0065】) (キ)上記の記載事項(ア)?(カ)及び図面の記載を総合すると、引用文献には、次のような発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用文献に記載された発明」という。) 「加減速時において加速ショック又は減速ショックを抑えるための燃料噴射量を徐々に増減補正する燃料噴射量のなまし制御を実行し、自動変速機の変速中に変速ショックを軽減するための燃料噴射量減量補正を実行するディーゼル機関において、 自動変速機の変速中は、前記燃料噴射量を徐々に増減補正する燃料噴射量のなまし制御を禁止するようにしたディーゼル機関の制御方法。」 3.当審の判断 (1)本願発明と引用文献に記載された発明との対比 本願発明と引用文献に記載された発明とを対比するに、引用文献に記載された発明における「ディーゼル機関」、「変速ショックの軽減」、及び、「(変速ショックを軽減するための)燃料噴射量減量補正」は、それらの意図する技術内容及び機能等からみて、本願発明の「ディーゼルエンジン」、「変速ショック防止」、及び、「(変速ショック防止のための)燃料噴射量低減処理」にそれぞれ相当する。 また、引用文献に記載された発明においては、自動変速機の変速中に変速ショックを軽減するための燃料噴射量減量補正を実行するとともに、加減速時において加速ショック又は減速ショックを防止するように燃料噴射量の急変を抑えるべく燃料噴射量を徐々に増減補正するなまし制御を実行するように構成されており、燃料噴射量を減量補正すべき自動変速機の変速時には、燃料噴射量を徐々に増減補正するなまし制御を禁止して、自動変速機の変速ショックを適正に軽減しようとするものであり、引用文献1に記載された発明における『加減速時において加速ショック又は減速ショックを抑えるための燃料噴射量を徐々に増減補正するなまし制御』と本願発明における『黒煙防止のための燃料噴射量低減処理』は、自動変速機の変速時において変速ショックを確実に防止するために禁止される点では、共通しているといえる。 したがって、本願発明と引用文献に記載された発明は、「自動変速機の変速中に変速ショック防止のための燃料噴射量低減処理を実行し、そして、変速ショック防止以外の目的のための燃料噴射量可変処理(本願発明においては「エンジン回転数に基づいて黒煙防止のための燃料噴射量低減処理」、引用文献に記載された発明では「加減速時において加速ショック又は減速ショックを抑えるために燃料噴射量を徐々に増減補正する燃料噴射量のなまし制御」)を実行するディーゼルエンジンにおいて、自動変速機の変速中は、前記変速ショック防止以外の目的のための燃料噴射量可変処理を禁止するようになしたディーゼルエンジン制御方法。」である点で一致し、次の点において相違する。 〈相違点〉自動変速機の変速中に禁止される変速ショック防止以外の目的のための燃料噴射量可変処理が、本願発明においては、「エンジン回転数に基づいて黒煙防止のための燃料噴射量低減処理」であるのに対し、引用文献1に記載された発明では「加減速時において加速ショック又は減速ショックを抑えるために燃料噴射量を徐々に増減補正する燃料噴射量のなまし制御」である点。 (2)相違点についての検討 前記〈相違点〉について検討するに、ディーゼルエンジンの燃料噴射量制御において、エンジン回転数が急激に上昇した場合に、燃焼が不安定となることにより黒煙が発生しやすくなるために、エンジン回転数の変化量が予め設定された値より大きくなったときに燃料噴射量を減量あるいは抑制することによって黒煙の発生を抑えるようにした技術手法、すなわち、エンジン回転数に基づいて黒煙防止のための燃料噴射量を低減する処理手法は、原査定の拒絶理由に引用された特開2000-220502号公報又は、その他に特開昭60-104743号公報で例示されるように周知(以下、「周知技術」という。)である。してみると、引用文献に記載された発明において変速ショック防止以外の目的のための可変処理として、周知技術であるエンジン回転数に基づいて黒煙防止のための燃料噴射量低減処理を採用して、自動変速機の変速中に変速ショック防止のための燃料噴射量低減処理とともにエンジン回転数に基づいて黒煙防止のための燃料噴射量低減処理をそれぞれ実行しうるようになし、そして、自動変速機の変速中には、エンジン回転数に基づいて黒煙防止のための燃料噴射量低減処理を禁止して、自動変速機の変速ショックを確実に防止するように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。 したがって、前記〈相違点〉に係る本願発明のような構成とすることは、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が格別な創意工夫を要することなく容易に想到し発明することができたものと認められる。 また、本願発明を、全体構成でみても、引用文献に記載された発明及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-29 |
結審通知日 | 2008-10-07 |
審決日 | 2008-10-20 |
出願番号 | 特願2002-155656(P2002-155656) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 畔津 圭介 |
特許庁審判長 |
小谷 一郎 |
特許庁審判官 |
森藤 淳志 中川 隆司 |
発明の名称 | ディーゼルエンジン制御方法及び装置 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 博宣 |