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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06T
管理番号 1188900
審判番号 不服2006-19377  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-01 
確定日 2008-12-05 
事件の表示 平成11年特許願第152954号「地図表示制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 8日出願公開、特開2000-339443〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年5月31日の出願であって、平成18年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同年10月2日に手続補正がなされたが、平成20年7月10日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年9月1日に手続補正がなされたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年9月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 分割された複数のセルで構成された道路地図データを記憶する記憶手段と、
車両の進行方向が画面の上方と一致するように回転移動された道路地図を画面に表示する表示手段と、
前記記憶手段に記憶された道路地図データを読み出して前記画面に対応した座標変換を行う座標変換手段を有し、前記表示手段に表示する前記道路地図を展開する表示制御手段とを備え、
前記座標変換手段は、前記セルの左下と右下と左上の前記画面における座標を前記回転移動に応じた回転角度を用いた三角関数による座標変換により求めるとともに、前記セルの下辺と左辺の前記画面における座標に変換したときのXY方向成分を求め、前記セルの左下の画面座標とXY方向成分に基づき前記セルの左下と右下と左上の前記画面における座標以外のセルの各点の座標変換を前記三角関数を用いない整数計算にて行うことを特徴とする地図表示制御装置。」

2.引用例
(1)当審における拒絶の理由に引用された、特開昭60-1512号公報(以下「引用例1」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「本願発明は車載用地図表示装置、特に車両の進行方向が表示手段の上方と一致するよう適宜道路地図を回転表示させ、実際の車両走行状態にマッチした表示が得られるようにした車載用地図表示装置に関するものである。」(1ページ右下欄19行?2ページ左上欄3行)

イ 「第2図は第1実施例の全体構成を表すブロック図であり、図中、1は距離センサであり(中略)、2は方位センサであり(中略)、3は表示手段としてのCRTディスプレイであり道路地図及び現在地マークが表示されるものを表す。4は制御手段としての電子制御装置であり、MPU5、ROM6、RAM7及びI/O回路8を備えたマイクロコンピュータや表示コントローラ9を有し、距離センサ1からの距離パルス、方位センサ2からの地磁気X、Y成分信号、ROMパッケージ10からの地図データを受けて、予め定めた制御プログラムに従った演算処理を実行し、CRTディスプレイ3に現在地、道路地図を表示させる表示信号を発生するものを表す。10は地図データ記憶媒体としてのROMパッケージを表わす。」(2ページ左下欄17行?右下欄15行)

ウ 「本実施例においては、地図切替表示(回転表示ともいう。)の際、当該時点の車両進行方向と所定の角度とから基準角度範囲を設定する。例えば進行方向がθA、所定角度がθC(例えば60゜)であるとすると基準角度範囲θとして、θL=θA-θC、θR=θA+θCからθL≦θ≦θRを定める。ここでθLは進行方向左手側の最大角度、θRは進行方向右手側の最大角度である。そして車両の進行に伴い常時、進行方向θAを求めると共に進行方向θAが上記基準角度範囲(θL≦θ≦θR)を逸脱しているか否かを判別し、逸脱した旨判断すると、当該時点における進行方向θAに応じて、現在表示中の地図を現在地又は予測現在地をCRTデイスプレイ3の画面の中心として(-θA)だけ回転させて得られる地図に相当する地図を新たに表示させる処理を行なう。」(3ページ右上欄2行?17行)

エ 「上記座標変換処理のうち、座標点X,Yを-θA回転移動させる座標変換は、第9図に示す如く、特定地点を原点(0,0)とする地図座標系の点X,Yを-θAだけ回転移動させ、変換後の座標X´,Y´は次の行列
X´=Xcos(-θA)-Ysin(-θA)
Y´=Xsin(-θA)+Ycos(-θA)
から求められる。」(5ページ左上欄6行?13行)
なお、行列は、表記の都合上、式に書き直した。

これらの記載及び図面によれば、引用例1には、
「車両の進行方向が表示手段の上方と一致するよう道路地図を回転表示させる車載用地図表示装置であって、
電子制御装置4は、地図データ記憶媒体としてのROMパッケージ10からの地図データを受けて、予め定めた制御プログラムに従った演算処理を実行し、CRTディスプレイ3に現在地、道路地図を表示させる表示信号を発生し、
回転表示の際、進行方向θAに応じて、現在表示中の地図を現在地又は予測現在地をCRTデイスプレイ3の画面の中心として(-θA)だけ回転させて得られる地図に相当する地図を新たに表示させる座標変換処理を行なう、
車載用地図表示装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)同じく引用された、特開平1-124069号公報(以下、「引用例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、以下の引用において、表記の都合上、丸付き数字は、括弧書き数字で代用した。

ア 「本発明はアフィン変換方式、詳しくは画像の回転を処理するアフィン変換方式に関するものである。
[従来の技術]
従来、画像を回転しようとするとき、例えば表示画面中に表示された画像(原画像という)の-部(或いは全部)を表示画面の空きエリアに回転して表示(回転された後の画像を出力画像という)するときには、原画像中の注目画素位置に対応する出力画像中の座標位置を算出し、原画像中の注目画素情報を算出された座標位置に転送するという処理を原画像を構成する全ての画素に対して行っていた。」(2ページ左上欄3行?15行)

イ 「第2図は点P_(1)?P_(4)で規定された矩形領域20内の画像を点P_(1)´?P_(4)´で示される領域21内の如く回転角αでもって回転した状態を示している。尚、領域21は、領域20中の点P_(1)を点P_(l)´にまて並行心動し、点P´を中心角度αだけ回転した様子を示している。」(3ページ左上欄4行?9行)

ウ 「さて第2図の場合、領域21内の任意の点P´(P_(x)´,P_(y)´)とそれに対応する領域20内の点P(P_(x)、P_(y))は以下に示す式で求めることができる。
すなわち、
P_(x)=x_(1)+cosα・(P_(x)´-x_(1)´)
+sinα・(P_(y)´-y_(1)´)…(1)式
P_(y)=y_(1)-sinα・(P_(x)´-x_(1)´)
+cosα・(P_(y)´-y_(1)´)…(2)式
ここで、
x_(2)´-x_(1)´
cosα= ────────────────── …(3)式
√(x_(2)´-x_(1)´)^(2)+(y_(2)´-y_(1)´)^(2)
y_(2)´-y_(1)´
sinα= ────────────────── …(4)式
√(x_(2)´-x_(1)´)^(2)+(y_(2)´-y_(1)´)^(2)
であり、cosα及びsinαは定数としても良いので、最初に(3)及び(4)式を算出すれば、以後は不要となることがわかる。これによって、その都度演算する手間が省け、処理時間を短縮することが可能となる。」(4ページ左上欄1行?右上欄3行)
なお、上記引用において、「乗数としても良い」との記載は、「定数としても良い」の誤記であることは明らかであるので訂正した。

これらの記載から、引用例2には、「画像を回転角αでもって回転させる処理において、最初に画像中の任意の点の回転前後の座標位置からcosα及びsinαを算出し、該cosα及びsinαの値を定数として以後の演算に用いる、変換方式。」の発明が記載されていると認められる。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明は「車載用地図表示装置」に係るものであり、本願発明の「地図表示制御装置」に相当する。
また、引用発明における「ROMパッケージ10」は、「地図データ」を記録する記録手段であり、前記「地図データ」が道路地図データを包含することは自明であるから、引用発明と本願発明とは、「道路地図データを記憶する記憶手段」を備える点で一致する。
また、引用発明は、「車両の進行方向が表示手段の上方と一致するよう道路地図を回転表示させる」ものであり、前記道路地図を表示する「CRTディスプレイ3」は、本願発明の「車両の進行方向が画面の上方と一致するように回転移動された道路地図を画面に表示する表示手段」に相当する。
さらに、引用発明の「電子制御装置4」は、「ROMパッケージ10からの地図データを受けて、予め定めた制御プログラムに従った演算処理を実行」し、「進行方向θAに応じて、現在表示中の地図を現在地又は予測現在地をCRTデイスプレイ3の画面の中心として(-θA)だけ回転させて得られる地図に相当する地図を新たに表示させる座標変換処理」を行ない、「CRTディスプレイ3に現在地、道路地図を表示させる表示信号を発生」させる手段であって、「座標変換手段」及び「表示制御手段」に相当する構成を備えるといえるから、引用発明と本願発明とは、「記憶手段に記憶された道路地図データを読み出して画面に対応した座標変換を行う座標変換手段を有し、表示手段に表示する前記道路地図を展開する表示制御」を備える点で一致する。

以上を踏まえると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
【一致点】
「道路地図データを記憶する記憶手段と、
車両の進行方向が画面の上方と一致するように回転移動された道路地図を画面に表示する表示手段と、
前記記憶手段に記憶された道路地図データを読み出して前記画面に対応した座標変換を行う座標変換手段を有し、前記表示手段に表示する前記道路地図を展開する表示制御手段とを備えた、
地図表示制御装置。」
【相違点1】
「道路地図データ」が、本願発明は、「分割された複数のセル」で構成されているのに対し、引用発明は、対応する構成が明示されていない点。
【相違点2】
「座標変換手段」が、本願発明は、「前記セルの左下と右下と左上の前記画面における座標を前記回転移動に応じた回転角度を用いた三角関数による座標変換により求めるとともに、前記セルの下辺と左辺の前記画面における座標に変換したときのXY方向成分を求め、前記セルの左下の画面座標とXY方向成分に基づき前記セルの左下と右下と左上の前記画面における座標以外のセルの各点の座標変換を前記三角関数を用いない整数計算にて行う」ものであるのに対し、引用発明は、座標変換処理の内容が特定されていない点。

4.判断
(1)相違点1について
車載用地図表示装置において、記憶する道路地図データが「分割された複数のセル」で構成されていることは、当審における拒絶の理由に引用された、特開昭63-189884号公報、特開平6-331374号公報の記載からも明らかなように、当該技術分野における技術常識であり、引用発明の「車載用地図表示装置」における地図データも、当然に、「分割された複数のセル」で構成されているといえる。
したがって、相違点1は格別のことではない。
(2)相違点2について
道路地図データ等の画像データを回転させる周知の座標変換において、最初に、回転角度に対応する三角関数の正弦・余弦の値を画像データ中の「任意の点」の回転前後の座標から求め、前記値をその後の各画素の座標変換演算に用いることは、前掲「2.(2)」のとおり、引用例2に記載されている。
ここで、前記「任意の点」を道路地図データから選択することは、単なる設計事項であり、また、演算処理を整数計算で行うことにより演算処理時間を短縮させることは、常套手段である。
後者に関連して、例えば、特開平6-325206号公報には、
「【0002】従来の画像表示装置としては、(中略)このとき、画像信号を回転させるには、次の方法によっていた。変更前のドット座標を(u,v)、変更後のドット座標を(x,y)、回転角度をθとすると、ドット座標(u,v)はアフィン変換により、下記数式(1),(2)であらわされる。
【0003】
u=cosθ・x-sinθ・y (1)
v=sinθ・x+cosθ・y (2)
そして、変更後の座標ドット点一つ一つについて、変換前の座標の近くにある画素の値を使って、補間により値を求めるのが一般的であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上述の従来の画像表示装置では、三角関数演算を含み、更に各点毎の値を求めるために浮動小数点演算による最低4回以上の乗算を行なわねばならないので、全てのドット座標を計算するには長時間を要するとともに、三角関数や浮動小数点演算等の演算機能が必要となる。
【0005】本発明は、表示装置で表示する画面を、整数加減算のみの演算処理で回転表示することができる画像表示装置を提供することを目的とする。」
「【0028】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、表示手段が表示する画像の各画素について加減算のみの演算処理をすることで回転表示することができるので、表示画像の回転についての処理速度を格段に向上させることができる画像表示装置を提供することができる。」
と記載されており、座標変換の演算を三角関数を用いない整数演算で行うことにより、処理速度が短縮されることが明示されている。
以上のことから、引用発明において、地図データを回転させて表示するための座標変換処理において、引用例2に記載された技術手段を採用し、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用例1、2に記載された発明及び常套手段の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別のことではない。

したがって、本願発明は、引用例1、2に記載された発明及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-01 
結審通知日 2008-10-08 
審決日 2008-10-21 
出願番号 特願平11-152954
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋爪 正樹  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 廣川 浩
原 光明
発明の名称 地図表示制御装置  
代理人 青木 健二  
代理人 米澤 明  
代理人 内田 亘彦  
代理人 菅井 英雄  
代理人 韮澤 弘  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 阿部 龍吉  

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