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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01T
管理番号 1188917
審判番号 不服2006-23198  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-12 
確定日 2008-12-04 
事件の表示 平成 9年特許願第197283号「ガンマカメラシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 2月12日出願公開,特開平11- 38145〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成9年7月23日の出願であって,平成18年9月8日付けで拒絶査定され(発送日:同年9月12日),これに対し,同年10月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は,平成18年3月13日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項5に係る発明は次のとおりである(以下,請求項5に係る発明を「本願発明」という。)。

【請求項5】
「被検体に投与された放射性同位元素から放射されるガンマ線をフォトンごとに検出し,前記フォトンのエネルギーを表すエネルギー信号と前記ガンマ線の入射位置を表す位置信号とを出力するガンマカメラ本体と,
前記エネルギー信号と前記位置信号とに基づいて,エネルギーがメインウインドウ内にあるフォトンを入射位置ごとに計数し,第1データを生成する手段と,
前記エネルギー信号と前記位置信号とに基づいて,エネルギーが前記メインウインドウに対して低エネルギー側に隣接するサブウインドウ内にあるフォトンを入射位置ごとに計数し,第2データを生成する手段と,
前記エネルギー信号と前記位置信号とに基づいて,エネルギーが前記メインウインドウに対して高エネルギー側に隣接するサブウインドウ内にあるフォトンを入射位置ごとに計数し,第3データを生成する手段と,
前記第2データと前記第3データとに基づいて前記第1データを散乱線補正する手段と,
前記メインウインドウと前記サブウインドウとを設定するウインドウ設定手段とを具備し,
前記ウインドウ設定手段は,前記放射性同位元素としてTl-201を使用する場合のTEW(Triple Energy Window)法による散乱線補正においては,前記低エネルギー側に隣接するサブウインドウの中心を,51keVから56keVの間に設定し,前記高エネルギー側に隣接するサブウインドウの中心を,92keVから97keVの間に設定すること,
を特徴とするガンマカメラシステム。」


第3 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した,本願出願日前に頒布された刊行物である,特開平9-145842号公報(以下,「引用刊行物1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「【特許請求の範囲】
・・・・・・
【請求項9】 ガンマ放射線を検出するための検出手段と,
検出された放射線のエネルギーレベルを決定するための手段と,
放射性核種の光ピークを含む第1のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する第1のカウント値を生成するための手段と,
放射性核種の光ピークより下にある第2のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する第2のカウント値を生成するための手段と,
前記第2のカウント値に基づいて,前記第1のエネルギー範囲内に入る散乱する放射線を表す散乱カウント値を推定するための推定手段と,
前記散乱カウント値に基づいて前記第1のカウント値を補正するための手段とを含み,
前記第2のエネルギー範囲は前記第1のエネルギー範囲からエネルギーが分離されていることを特徴とするガンマカメラ。
【請求項10】 前記第1のエネルギー範囲より上にあり,かつ前記第1のエネルギー範囲からエネルギーが分離されている第3のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を検出するための手段と,
前記第3のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する第3のカウント値を生成するための手段と,
をさらに含み,
前記推定手段は前記第2及び第3のエネルギー範囲内に入る放射線のカウントを使用することを特徴とする請求項9に記載のガンマカメラ。
【請求項11】 前記第1のエネルギー範囲は1つ以上の非常に接近した光ピークの平均エネルギーレベルに関してほぼ対称的であることを特徴とする請求項9又は10に記載のガンマカメラ。
【請求項12】 前記第1のエネルギー範囲の幅は放射性光ピークの10%から35%までの間であることを特徴とする請求項9又は10に記載のガンマカメラ。
【請求項13】 前記第2のエネルギー範囲の上限はガンマカメラのエネルギー分解能に基づいて選択されることを特徴とする請求項9?12のいずれかに記載のガンマカメラ。」
1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はガンマカメラと共に使用するための散乱補正方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】核カメラ又はガンマカメラは,被験体によって放出されるガンマ放射線を測定するためにしばしば使用される。ガンマ線放出のエネルギーレベル及び位置(ロケーション)を測定することによって,被験体から放出されたガンマ放射線を表す像(イメージ)が形成できる。
【0003】核カメラ又はガンマカメラの応用例の1つは医用イメージング(イメージの形成)にあり,1つ以上の放射性核種が患者内の関心のある領域に導入される。これら放射性核種は放射崩壊し,それによって1つ以上の特性エネルギーを有する光子によって特徴付けられたガンマ放射線を放出する。例えば,Tc(テクネチウム)-99mは,約140.5keVの位置に光ピークを有する光子を放出する。
【0004】しかしながら,実際には,1つの放射性核種の放射崩壊から生じる放射線スペクトルはあるエネルギー範囲(レンジ)にわたって広がる。ガンマカメラのシンチレーションクリスタル中及びイメージが形成されている物体中の電子とのコンプトン相互作用がこの広がりの一因となる。コンプトン相互作用を受ける光子はある角度で偏向され,一次(即ち,散乱されない)光子と比較するとエネルギー損失を受けるが,しかし,一次光子と一緒に検出することができ,それによって一次光ピークより低いエネルギーレベルにおいてスプリアス散乱カウントをもたらす。
【0005】検出されたエネルギーレベルの変動がまた,測定装置それ自体のエネルギー分解能によって生じ得る。従って,単色ガンマ放射線にさらされたガンマカメラは,そのエネルギー分解能に依存して,図1に例示されたあるエネルギー範囲にわたる出力カウントをもたらす。ガンマカメラのエネルギー分解能の1つの尺度はその半値幅(FWHM)である。この半値幅は,単色放射線が入力されたと仮定すると,最大振幅のピークの半分の振幅におけるエネルギー分布の全幅と定義される。このエネルギー分解能,従ってFWHMはカメラの製造及び設計のみならず,光ピークエネルギーによって変化する。それ故,有益なイメージに寄与する一次放射線が,実際問題として,光ピークの領域に位置付けられたエネルギー範囲にわたって検出されることになる」
1c)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】コンプトン散乱及び測定装置の変動を補正するための種々のエネルギー基準の技術が提案されている。そのような技術の1つは一次光ピークエネルギー範囲と一次光ピークより低いコンプトン領域に位置付けされた幅の拾い散乱エネルギー範囲とを利用する。光ピークエネルギー範囲内に入る散乱カウントの推定又は評価を散乱エネルギー範囲内に入るカウントに基づいて行うことができる。しかしながら,この方法を使用して散乱カウントを推定(評価)することは困難である。その理由の1つは,光ピークエネルギー範囲内に入る散乱成分は散乱する媒体によって非直線的に変化するからである。散乱エネルギー範囲の相対的な幅,並びに散乱エネルギー範囲内のカウントの一般に非直線的な空間分布が,光ピークエネルギー範囲内の散乱成分を推定又は評価する上でさらに困難をもたらし,かつ付随するエラー(誤差)を生じさせる。
・・・・・・
【0008】さらに他の方法はモトムラ(Motomura)達に対する米国特許第5,371,672号に記載されている。この方法は複数のエネルギー範囲を利用する。第1は光ピーク範囲であり,第2及び第3は比較的狭い,かつ光ピーク範囲の各側と隣接している又は一部分重なっている範囲である。ある場合には,上部又は第3の範囲が除かれる。この方法によれば,別個の事象のカウントが各エネルギー範囲毎に維持され,従って各エネルギー範囲は多数のx-y位置のそれぞれに対する別個の窓として処理され,それによって各エネルギー範囲毎の別個のイメージ表示を作成することができる。所定のx,y位置に対する各窓内に維持されたカウントは,記憶された後,散乱成分を推定するために結合される。この技術はいくつかの欠点を持つ。散乱窓を主窓に隣接して,又は一部分重なった状態で配置することによって,第2及び第3の窓は主光ピークに寄与するカウント(即ち,非散乱又は一次カウント)を含み,それによって散乱補正の精度を低下させる。この問題は,主光ピークのエネルギー範囲の幅が狭くなるに従って一層深刻になる。各エネルギー範囲毎に別個の窓を使用することはまた,大きなコンピュータメモリ及び実時間処理を必要とする。
【0009】よって,正確で,実現するのが簡単であり,かつメモリ要件を低減できる散乱補正技術が必要とされていることが理解できよう。」
1d)「【0019】
【発明の実施の形態】図2を参照すると,ガンマカメラ10は被験体(被検査対象物),例えば放射性核種を注入された患者,から放出される放射線を検出する。ガンマカメラ10は,一般的にはコリメータを含む検出器手段12と,NaI(T1)クリスタルと,複数の光電子増倍管と,処理用電子回路とを備えている。このガンマカメラ10はさらに,アナログ-ディジタル(A/D)変換器手段14を含む。このA/D変換器手段14は,ガンマカメラ10によって検出された光子のx,y位置及びエネルギーレベルzを指示するディジタル出力を発生する。
【0020】検出された光子のエネルギーに対応するエネルギーレベルzは,検出された光子のエネルギーレベルzを複数の窓に分類するために使用される。窓タグメモリ16のような窓検出回路がW1,W2,・・・と指示された複数のエネルギー窓を定める。これらエネルギー窓のそれぞれは1つ以上のエネルギー範囲に対応する。例示のため,図2の窓タグメモリ16に示されたエネルギー範囲の窓は,一般に窓タグメモリ16の頂部から底部へ増大するように観察できる。例えば,窓W1はW1と指示された単一のエネルギー範囲を具備し,一方,窓W2は,図2にW2とそれぞれ指示された2つのエネルギー範囲を具備する。1つの窓が2つ以上のエネルギー範囲を含んでいてもよいことは勿論である。窓タグメモリ16はエネルギーレベルzに基づいてアドレスされるルックアップテーブルを含む。各アドレスは1つのエネルギー窓に対応する値を含む。予め定められた窓の1つに対応しないアドレスは別個の値を含む。
【0021】窓タグメモリ16は種々の他の具体例によって実現できる。例えば,所定のエネルギーレベルzに対応する窓はマイクロプロセッサのファームウエアに存在するルーチンを使用して決定することができ,或いは1つ以上のディジタルコンパレータを使用して決定することができる。同様に,窓は1つ以上のアナログコンパレータを使用して,アナログ基準で決定することができる。
【0022】窓タグスキャナ18は窓タグメモリ16の出力を受信し,検出された光子が予め定められたエネルギー窓のいずれかに入っていたか否かを決定する。入っていた場合には,窓タグWtが関連した窓を指示するために設定される。入っていない場合には,検出された事象は放棄され,それ以上処理されない。
【0023】検出された事象のx,y座標は直線性(リニアリティ)補正手段20によって補正される。この直線性補正手段20はこれら座標を,予め定められた校正ルックアップテーブルに基づいて補正された座標xc,yc に再マップ化する。フラッド補正手段22は,検出器12の特性の推測的な解析に基づいて,検出器12の感度の不均一性に依存した位置を補正する。フラッド補正手段22はある事象を無視しても,その事象を通過させても,或いはその事象を通過させて付加的事象を追加してもよい。ある事象が追加される場合,新しい事象は通過した事象の近傍のランダムな位置に追加される。フラッド補正手段22を通過した各事象毎に,対応する位置座標xc(cnt), yc(cnt)及び事象カウントE(cnt) が発生される。
【0024】位置座標及び対応する窓タグはイメージアドレス発生手段24によって使用される。このイメージアドレス発生手段24は事象の位置及びエネルギーレベルに基づいて独特のメモリアドレスを発生する。ある事象に応答して,メモリインクリメント手段26はデータをイメージメモリ28の対応するアドレスから読み出し,このデータをインクリメント(増分)して新しい事象のカウントに反映させ,このインクリメントされたデータを対応するアドレスに記憶する。
【0025】イメージメモリ28はランダムアクセスメモリ(RAM)のような通常のメモリ手段である。メモリ28はガンマカメラ10のx,y位置のそれぞれに対する複数の事象カウントを含む。それ故,各x,y位置は,それぞれがエネルギー窓を表す複数のメモリ位置(ロケーション)と関連している。複数のエネルギー範囲を1つの窓に結合することによってかなりのメモリの節約が達成される。かくして,例えば,システムが関心のある3つのエネルギー範囲(即ち,1つの主光ピーク範囲と2つの散乱補正エネルギー範囲)を有する場合には,2つの散乱補正範囲に関連したカウントを1つの窓に結合することによって,メモリ要件は33%減ぜられる。
・・・・・・
【0027】マイクロプロセッサ又はCPUのような通常のコンピュータ手段がイメージメモリ28に記憶されたデータを処理し,被験体によって放出されるガンマ放射線を表すイメージを形成する。このイメージは,モニタ又はCRT(陰極線管)のような適当な表示手段に表示される。」
1e)「【0028】図3は,Tc-99mのような,単一の光ピークを有する放射性核種から放出されたガンマ放射線の代表的なエネルギー分布を示す。第1のエネルギー範囲W1は,放射性核種の光ピーク,例えばTc-99mの140.5keV,に関してほぼ対称的であるエネルギー範囲を定める。第1のエネルギー範囲の幅を増大させて光ピークを取り囲む領域をより多く含むようにすると,第1のエネルギー範囲内に入るカウントの数が増加するから,それによってイメージング時間を減少させることができるが,しかし,散乱する放射線に寄与するカウントの数も増大する。第1のエネルギー範囲の幅を減少させると,さもなければイメージに寄与するであろう一次光子を放棄するという犠牲のもとで,カウント値が主として一次光子よりなるという可能性を高めることになる。
【0029】第2及び第3のエネルギー範囲W2l 及びW2u は光ピークより下に及び上にそれぞれ位置付けされている。第2及び第3のエネルギー範囲を配置することは2つの競争関係にある機能をもたらす。第1は,これらエネルギー範囲を光ピークから十分に離れた距離に配置して一次光子が第2及び第3の範囲内に入る放射線の比較的小さな成分よりなるようにすることが望ましい。別の言い方をすれば,第2及び第3のエネルギー範囲と光ピーク間の距離を増大すれば,第2及び第3の範囲内に入る放射線を表すカウント値が一次放射線と対立する散乱よりなるものである可能性を増大させる。同時に,第2及び第3のエネルギー範囲を光ピークに接近させて配置し,第2及び第3の範囲内のカウントの大きさ及び空間的分布が光ピークの領域におけるものにより密接に近似させるようにすることが望ましい。換言すれば,第2及び第3のエネルギー範囲を光ピークにできるだけ接近させて配置することにより,精度を上げるために補間を行わなければならない距離を最小限にすることができる。」
1f)「【0035】例えば,Tl(タリウム)-201は68.9keV,70.8keV,80.3keV,135.3keV,及び167.4keVに光ピークを有する。最低の3つの光ピークに注意を払うと,第1のエネルギー範囲が約73.0keVに中心を置き,かつ21.9keVから25.55keVまでの幅,或いは平均エネルギーの30%から35%までの幅を有する場合に満足した性能を得ることができる。ガンマカメラが68.9keVにおいて14%の,また,80.3keVにおいて13%の分解能を持つと想定すると,第2のエネルギー範囲の上限は約59.0keVであり,第3のエネルギー範囲の下限は約90.9keVである。第2及び第3の範囲はそれぞれ4keVの幅を持つ。追加の一組のエネルギー範囲及び対応する窓を上述した167.4keVの光ピークに関して配置してもよい。
【0036】第1のエネルギー範囲内に入る散乱放射線を表す散乱カウントは次の関係を使用して各x,y位置毎に推定又は評価される。
C_(scat)(x,y) =(C_(split) (x,y) /W_(split ))*W_(photo) *k (2)
ここで,C_(split) は第2及び第3のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を表すカウント値であり,W_(split) は第2及び第3のエネルギー範囲の結合されたkeVでの幅であり,W_(photo) は第1のエネルギー範囲のkeVでの幅であり,そしてkは実験的に導出されたアイソトープの散乱比例スケールファクターであり,このスケールファクターは第1のエネルギー範囲内の非直線散乱関数を近似するために使用することができる。散乱関数の直線性を想定すると,k=1.0である。
【0037】第1のエネルギー範囲内に入る推定された散乱放射線を補正する,補正されたカウント値は,次の関係に基づいて各x,y位置毎に決定される。
C_(prim)(x,y) =C_(total) (x,y) -C_(scat)(x,y) (3)
ここで,C_(total) は第1のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する合計のカウント値であり,C_(prim)は一次放射線から生じる推定されたカウント値である。
【0038】動作において,放射性核種によって放出される光子はガンマカメラ10によって検出される。この事象のx,y座標及びエネルギーレベルzはアナログ-ディジタル変換器14によってディジタル形式に変換される。事象のエネルギーレベルzに基づいて,窓タグメモリ16は対応するエネルギー窓を指示する出力Wtを発生する。従って,第1の又は一次光ピーク範囲内に入るエネルギーを有する光子は窓W1を指示する窓タグ出力をもたらす。第2の又は第3のエネルギー範囲内に入る光子は窓W2を指示する窓タグ出力を発生する。事象のエネルギーレベルzが窓を具備する予め定められたエネルギー範囲の1つ内に入らない場合には,窓タグメモリは独特の出力を発生する。窓タグスキャナ18は窓タグメモリ16の出力を受信する。事象が予め定められた窓内に入らない場合には,事象のさらにの処理が保留される。
【0039】直線性補正手段20及びフラッド補正メモリ手段22は検出器の非直線性及び不均一性を補償する。イメージアドレス発生手段24は補正された位置xc,yc及び窓タグWt に基づいてメモリアドレスを発生する。イメージメモリ手段28の対応する位置はメモリインクリメント手段26によってインクリメントされる。よって,各x,y位置毎に,複数のカウントが維持され,各カウントはエネルギー窓W1,W2,・・・Wnの1つに対応する。
【0040】単一の光ピークを有する放射性核種の場合には,推定又は評価された散乱カウントC_(scat)(x,y) 及び補正されたカウント値C_(prim)(x,y) は上記式(2) 及び(3)に基づいて計算される。ここで,C_(split) (x,y) は窓W2に対応する事象カウントであり,W_(split) はW2を含むエネルギー範囲の幅であり,W_(photo) はW1の幅であり,そしてC_(total )は窓W1に対応する事象カウントである。かくして,補正されたカウント値C_(prim)(x,y) は,散乱成分が除去された所望のガンマ放射線信号を表す。補正されたカウント値C_(prim)(x,y) は,その後所望のイメージの表示を生じさせるために使用される。計算及び表示発生機能はマイクロプロセッサ又はCPUのような通常のコンピュータ手段によって実行される。
【0041】この発明は,ガンマカメラのエネルギー分解能に比較してエネルギーが広く分離されている複数の光ピークを有する放射線の検出に等しく適用できる。例えば,複数の広く離間された光ピークを有する放射性核種,複数の放射性核種,或いは1つ以上の放射性核種を使用する同時の伝送-放出測定を包含する適用例がある。そのような状態に対するエネルギー分布及び窓の配置が図5に例示されている。第1乃至第3のエネルギー範囲並びに第1及び第2の窓は,第3のエネルギー範囲は削除されないことが好ましいけれど,単一の光ピークの事例の場合として実現されている。窓W3は窓W1と類似しており,第2の光ピークをおおむね取り囲む第4のエネルギー範囲に対応する。同様に,窓W4は窓W2と類似しており,第2の光ピークより下及び上のそれぞれ第5及び第6のエネルギー範囲を具備する。第6のエネルギー範囲が削除されても受け入れられる性能が得られるであろう。別々の推定された散乱カウントC_(scat)(x,y) 並びに補正されたカウントC_(prim)(x,y) の値が窓W1及びW2,並びにW3及びW4に基づいて,それぞれ各光ピーク毎に計算される。別々の補正されたカウント値C_(scat)(x,y) はその後結合され,イメージを生成する。この発明は,別個のアナログエネルギー窓を追加することによって,3つ以上の光ピークを有する放射性核種又は放射性核種の組み合わせと共に使用するように拡張することができる。」

これらの記載によると,引用刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「被験体に注入された放射性核種から放出される光子によって特徴付けられたガンマ放射線を検出するための検出手段と,
検出された放射線の各x,y位置でのエネルギーレベルzを決定するための手段と,
放射性核種の光ピークを含む第1のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する第1のカウント値を各x,y位置毎に生成するための手段と,
前記放射性核種の光ピークより下にあり,かつ前記第1のエネルギー範囲からエネルギーが分離されている第2のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する第2のカウント値を各x,y位置毎に生成するための手段と,
前記第1のエネルギー範囲より上にあり,かつ前記第1のエネルギー範囲からエネルギーが分離されている第3のエネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する第3のカウント値を各x,y位置毎に生成するための手段と,
前記第2及び第3のカウント値に基づいて,前記第1のエネルギー範囲内に入る散乱する放射線を表す散乱カウント値を推定するための推定手段と,
前記散乱カウント値に基づいて前記第1のカウント値を補正するための手段と,
を含むガンマカメラであって,
前記推定手段による散乱カウント値の推定値C_(scat)(x,y)が,第2及び第3のカウント値をC_(split)(x,y),第2及び第3のエネルギー範囲の結合されたkeVでの幅をW_(split),第1のエネルギー範囲のkeVでの幅をW_(photo)とし,第1のエネルギー範囲内の非直線散乱関数の直線性を想定した場合,次の関係式を使用して推定され,
C_(scat)(x,y)=(C_(split)(x,y)/W_(split))*W_(photo)*1.0 (2)
前記第1のカウント値を補正するための手段による補正された第1のカウント値C_(prim)(x,y)が,第1のカウント値をC_(total)(x,y)として,次の関係式を使用して決定され,
C_(prim)(x,y)=C_(total)(x,y)-C_(scat)(x,y) (3)
前記放射線核種がTl-201である時に,前記第2のエネルギー範囲の上限は約59.0keV,前記第3のエネルギー範囲の下限は約90.9keV,前記第2及び第3のエネルギー範囲の幅は4keVとしたガンマカメラ。」


第4 対比・判断
1 対比
本件補正発明と,引用発明とを対比する。
ア)引用発明の(a)「被験体に注入された放射性核種から放出される光子によって特徴付けられたガンマ放射線を検出」すること,(b)「検出された放射線の各x,y位置でのエネルギーレベルzを決定する」ことが,それぞれ本願発明の(a')「被検体に投与された放射性同位元素から放射されるガンマ線をフォトンごとに検出」すること,(b')「前記フォトンのエネルギーを表すエネルギー信号と前記ガンマ線の入射位置を表す位置信号とを出力」することに相当することが明らかであるから,引用発明の(c)「被験体に注入された放射性核種から放出される光子によって特徴付けられたガンマ放射線を検出するための検出手段」と「検出された放射線の各x,y位置でのエネルギーレベルzを決定するための手段」とを合わせた構成が,本願発明の(c')「被検体に投与された放射性同位元素から放射されるガンマ線をフォトンごとに検出し,前記フォトンのエネルギーを表すエネルギー信号と前記ガンマ線の入射位置を表す位置信号とを出力するガンマカメラ本体」に相当することが明らかである。
イ)引用発明の「第1のエネルギー範囲」,「第2のエネルギー範囲」及び「第3のエネルギー範囲」は,(d)各エネルギー範囲内に入るガンマ放射線を指示する第1,第2及び第3の「カウント値を各x,y位置毎に生成」し,(e)該「第2及び第3のカウント値に基づいて」「第1のエネルギー範囲内に入る散乱する放射線を表す散乱カウント値を推定」し,該「散乱カウント値に基づいて」「第1のカウント値を補正する」ためのものであるが,これは,本願発明において,(d')「前記エネルギー信号と前記位置信号とに基づいて」,「エネルギー」がメインウインドウ及び2つのサブウインドウの各ウインドウ内にある「フォトンを入射位置ごとに計数し」,第1乃至第3データを生成し,(e')該「第2データ」と「第3データとに基づいて」「第1データを散乱線補正する」ことと技術的に同じことである。
そして,引用発明の「第1のエネルギー範囲」は,「放射性核種の光ピークを含む」ものであって,「第2のエネルギー範囲」は「前記放射性核種の光ピークより下にあり,かつ前記第1のエネルギー範囲からエネルギーが分離されている」もの,「第3のエネルギー範囲」は「前記第1のエネルギー範囲より上にあり,かつ前記第1のエネルギー範囲からエネルギーが分離されている」ものであるから,引用発明の(f)「第1のエネルギー範囲」,「第2のエネルギー範囲」及び「第3のエネルギー範囲」は,それぞれ本願発明の(f')「メインウインドウ」,「エネルギーが前記メインウインドウに対して低エネルギー側に隣接するサブウインドウ」及び「エネルギーが前記メインウインドウに対して高エネルギー側に隣接するサブウインドウ」に対応付けることができるものである。
ウ)ガンマカメラにおける散乱線補正として周知のTEW(Triple Energy Window)法は,メインウインドウとその両側に隣接する2つのサブウインドウのカウント値をそれぞれC_(total)・C_(left)(低エネルギー側)・_(Crigh)t(高エネルギー側),メインウインドウとサブウインドウの幅をそれぞれWm・Wsとして,メインウインドウに混入している散乱線計数値C_(scat)及び散乱しないガンマ線のメインウインドウ内の計数値C_(prim)を各画素毎,即ち各x,y位置毎に次の(1'),(2')式で推定するものである(市原隆 外2名,Triple-Energy Window (TEW) 法を用いた1核種及び2核種SPECTのためのコンプトン散乱線補正,日本放射線技術学会雑誌,第50巻第12号,1994年,第2007?2012頁参照。以下,この文献を「周知例1」という。)。
C_(scat)=(C_(left)/Ws+C_(right)/Ws)*Wm/2 (1')
C_(prim)=C_(total)-C_(scat) (2')
これに対し,引用発明は,
「前記推定手段による散乱カウント値の推定値C_(scat)(x,y)が,第2及び第3のカウント値をC_(split)(x,y),第2及び第3のエネルギー範囲の結合されたkeVでの幅をW_(split),第1のエネルギー範囲のkeVでの幅をW_(photo)とし,第1のエネルギー範囲内の非直線散乱関数の直線性を想定した場合,次の関係式を使用して推定され,
C_(scat)(x,y)=(C_(split)(x,y)/W_(split))*W_(photo)*1.0 (2)
前記第1のカウント値を補正するための手段による補正された第1のカウント値C_(prim)(x,y)が,第1のカウント値をC_(total)(x,y)として,次の関係式を使用して決定され,
C_(prim)(x,y)=C_(total)(x,y)-C_(scat)(x,y) (3) 」
るものであるが,上記(2)式と(1')式,(3)式と(2')式を比較すると,引用発明の「第2及び第3のカウント値」「C_(split)(x,y)」,「第2及び第3のエネルギー範囲の結合されたkeVでの幅」「W_(split)」,「第1のエネルギー範囲のkeVでの幅」「W_(photo)」,「散乱カウント値の推定値C_(scat)(x,y)」,「第1のカウント値をC_(total)(x,y)」及び「補正された第1のカウント値C_(prim)(x,y)」は,周知のTEW法における,「C_(left)」と「C_(right)」を足し合わせたもの,「Ws」*2(両側のサブウインドウの幅Wsを足したもの),「Wm」,「C_(scat)」,「C_(total)」及び「C_(prim)」に相当し,結局両者において,C_(scat)とC_(prim)を求める式は同じ式になる。
つまり,引用発明における「散乱カウント値の推定値C_(scat)(x,y)」及び「補正された第1のカウント値C_(prim)(x,y)」の導出式は,周知のTEW法における導出式と同じものである。
エ)引用発明において,第1乃至第3のエネルギー範囲が設定されていることは明らかであり,該設定のための手段が本願発明の「メインウインドウ」と「サブウインドウとを設定するウインドウ設定手段」に相当する。
オ)本願発明と引用発明は,放射性同位元素として「Tl-201」を使用する点で一致している。
また,引用発明において「前記第2のエネルギー範囲の上限は約59.0keV,前記第3のエネルギー範囲の下限は約90.9keV,前記第2及び第3のエネルギー範囲の幅は4keV」ということは,「第2のエネルギー範囲」の中心の上限は「約57.0keV」(=約59.0keV-(4keV/2)),「第3のエネルギー範囲」の中心の下限は「約92.9keV」(=約90.9keV+(4keV/2))としたことを意味する。
カ)引用発明の(g)「ガンマカメラ」は,本願発明の(g')「ガンマカメラシステム」に相当するものである。

してみると,本願発明と引用発明とは,
<一致点>
「被検体に投与された放射性同位元素から放射されるガンマ線をフォトンごとに検出し,前記フォトンのエネルギーを表すエネルギー信号と前記ガンマ線の入射位置を表す位置信号とを出力するガンマカメラ本体と,
前記エネルギー信号と前記位置信号とに基づいて,エネルギーがメインウインドウ内にあるフォトンを入射位置ごとに計数し,第1データを生成する手段と,
前記エネルギー信号と前記位置信号とに基づいて,エネルギーが前記メインウインドウに対して低エネルギー側にあるサブウインドウ内にあるフォトンを入射位置ごとに計数し,第2データを生成する手段と,
前記エネルギー信号と前記位置信号とに基づいて,エネルギーが前記メインウインドウに対して高エネルギー側にあるサブウインドウ内にあるフォトンを入射位置ごとに計数し,第3データを生成する手段と,
前記第2データと前記第3データとに基づいて前記第1データを散乱線補正する手段と,
前記メインウインドウと前記サブウインドウとを設定するウインドウ設定手段とを具備し,
前記ウインドウ設定手段は,前記放射性同位元素としてTl-201を使用する場合のTEW(Triple Energy Window)法と同じ導出式を用いた散乱線補正においては,前記低エネルギー側のサブウインドウの中心及び前記高エネルギー側のサブウインドウの中心を所定値に設定した,ガンマカメラシステム。」
である点で一致し,次の相違点で相違する。

<相違点>
散乱線補正が,本願発明は,メインウインドウに対して低エネルギー側にあるサブウインドウ及び高エネルギー側にあるサブウインドウがメインウインドウに隣接したTEW(Triple Energy Window)法であって,低エネルギー側に隣接するサブウインドウの中心を,51keVから56keVの間に設定し,高エネルギー側に隣接するサブウインドウの中心を,92keVから97keVの間に設定しているのに対し,引用発明は,第2のエネルギー範囲及び第3のエネルギー範囲が第1のエネルギー範囲から分離されていて,導出式はTEW法と同じものの,TEW法とはされておらず,第2のエネルギー範囲の中心の上限は約57.0keV,第3のエネルギー範囲の中心の下限は約92.9keVである点。

2 判断
上記相違点について検討する。
ガンマカメラの散乱線補正として,2つのサブウインドウをメインウインドウの両側に隣接して設けることは,TEW(Triple Energy Window)法として周知である(周知例1参照。)。
そして,引用刊行物1には,「第1のエネルギー範囲」の設定に関して,
「【0028】図3は,Tc-99mのような,単一の光ピークを有する放射性核種から放出されたガンマ放射線の代表的なエネルギー分布を示す。第1のエネルギー範囲W1は,放射性核種の光ピーク,例えばTc-99mの140.5keV,に関してほぼ対称的であるエネルギー範囲を定める。第1のエネルギー範囲の幅を増大させて光ピークを取り囲む領域をより多く含むようにすると,第1のエネルギー範囲内に入るカウントの数が増加するから,それによってイメージング時間を減少させることができるが,しかし,散乱する放射線に寄与するカウントの数も増大する。第1のエネルギー範囲の幅を減少させると,さもなければイメージに寄与するであろう一次光子を放棄するという犠牲のもとで,カウント値が主として一次光子よりなるという可能性を高めることになる。 」(下線は,当審にて付した。上記摘記事項1e)参照。)
と記載されており,第1のエネルギー範囲の幅を増大させると,散乱線が寄与するカウント数が増大するものの,第1のエネルギー範囲に入るカウント数が増加するのでイメージング時間が短縮できることが記載されている。
そうすると,引用発明において,イメージング時間の短縮を目的として,その散乱線補正を第1のエネルギー範囲の幅を増大して第2及び第3のエネルギー範囲に隣接させた周知のTEW法とする程度のことは,当業者であれば格別の困難なく想到し得たことである。

次に,本願発明において,低エネルギー側のサブウインドウの中心を,51keVから56keVの間に設定し,高エネルギー側のサブウインドウの中心を,92keVから97keVの間に設定したことの技術的意義について検討するに,本願明細書には両サブウインドウの中心の設定手法に関して,
「【0025】
次に,このメインウインドウやサブウインドウの計算方法について,図2を参して,説明する。まず,当該核種に関するフォトン放出頻度のエネルギー依存性を示す分布,つまり当該核種に関する直接線のエネルギースペクトラムを,被検体に実際に投与した核種に固有のピークエネルギーEpeakとエネルギー分解能FWHMとに基づいて,ガウス分布(正規分布)で近似する。ガウス分布は,平均値(ピークエネルギーEpeak),分散(エネルギー分解能FWHM)から決まるのは周知の通りである。
【0026】
このガウス分布上で,頻度が最大頻度MAXの1/nとなるエネルギーEL ,EU を,ピークエネルギーより低いエネルギー側と高いエネルギー側とでそれぞれ特定する。なお,発明者らの実験では,n=100,又はそれに近い値が好ましいという結果が得られている。
【0027】
この特定したエネルギーを中心として,ピークエネルギーに対して所定のパーセント,例えばガンマカメラ本体1がアンガータイプであれば7パーセント,また半導体タイプであれば3パーセントのエネルギー幅で,サブウインドウを高低それぞれ求める。これら高低それぞれのサブウインドウの間に,それらに隣接した状態でメインウインドウを決定する。
・・・・・・
【0029】
また,Tl-201では,ピークエネルギーが74keV,エネルギー分解能が12.6keVである。この場合も,サブウインドウの幅をピークエネルギーの7パーセントに設定すると,低エネルギー側のサブウインドウは,51.3keV?56.5keV,高エネルギー側のサブウインドウは,91.5keV?96.7keV,メインウインドウは,56.5keV?91.5keVで,そのエネルギー幅は,ピークエネルギーの約47.3パーセントになる。
【0030】
尚,上の例では,低エネルギー側のサブウインドウの中心が53.9keV,高エネルギー側のサブウインドウの中心が94.1keVとなるようにしたが,本発明では,低エネルギー側のサブウインドウの中心が,51keVから56keVの間,高エネルギー側のサブウインドウの中心が,92keVから97keの間に位置するようにすればほぼ同様な効果を得ることができる。」(下線は,当審にて付した。)
と記載されている。
ここには,「n=100,又はそれに近い値が好ましい」こと,「Tl-201」の場合,「低エネルギー側のサブウインドウは,51.3keV?56.5keV,高エネルギー側のサブウインドウは,91.5keV?96.7keV」であり,この例では「低エネルギー側のサブウインドウの中心が53.9keV,高エネルギー側のサブウインドウの中心が94.1keVとなるようにしたが,本発明では,低エネルギー側のサブウインドウの中心が,51keVから56keVの間,高エネルギー側のサブウインドウの中心が,92keVから97keの間に位置するようにすればほぼ同様な効果を得ることができる」ことが記載されているものの,本願明細書には,評価手法,実験データ等については一切記載されておらず,両サブウインドウの中心を本願発明の如く設定したことの技術的意義の裏付けがあるとはいえない。
更に,本願発明における両サブウインドウの中心の設定は,「エネルギー分解能FWHMが12.6keV」(上記記載の段落【0029】参照。)であることを前提としたものと解されるが,ガンマカメラのエネルギー分解能はガンマカメラ自体の特性であり,一般にガンマカメラの機種が異なれば,エネルギー分解能が異なることは技術常識である(引用刊行物1の上記摘記事項1b)の段落【0003】?【0005】参照。)。そして,エネルギー分解能が異なれば,直接線のエネルギースペクトラムの形状も異なるので,上記両サブウインドウの設定手法においては,両サブウインドウの中心が核種の特定のみで一義的に決定されるものでないことは明らかである。ところが,本願発明においては,核種,即ち放射性同位元素が「Tl-201」であることの限定はあるものの,ガンマカメラ本体のエネルギー分解能が幾つであるかについての限定はないのであるから,本願発明の低エネルギー側及び高エネルギー側の両サブウインドウの中心の設定数値範囲に技術的意義があるものとはいえない。
そうすると,「第2のエネルギー範囲の上限は約59.0keV」,「第3のエネルギー範囲の下限は約90.9keV」,「第2及び第3のエネルギー範囲の幅は4keV」,即ち,第2のエネルギー範囲の中心の上限は約57.0keV,第3のエネルギー範囲の中心の下限は約92.9keVとした引用発明(上記「1 エ)」参照。)に接した当業者であれば,第2のエネルギー範囲の中心を51keVから56keVの間に設定し,第3のエネルギー範囲の中心を92keVから97keVの間に設定することは,適宜設定し得たことである。

そして,本願発明の作用効果が,格別顕著なものともいえない。
したがって,本願発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第5 むすび
以上のとおり,本願の請求項5に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,請求項1?4について言及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-29 
結審通知日 2008-10-07 
審決日 2008-10-20 
出願番号 特願平9-197283
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 門田 宏
秋月 美紀子
発明の名称 ガンマカメラシステム  
代理人 河野 哲  
代理人 橋本 良郎  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  
代理人 村松 貞男  

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